担当MS:ネェイシ、マ、、ウ

。レTC27。ロナキホオオワ、ホネ狄、ソ、チ

開始料金タイプ分類舞台難易度オプション状況
17/05/19 24:00800 Rex・キ・遑シ・ネ日常竜宮自由お任せプションフレンドプション 12人

◆参加者一覧

セーユ・エイシーア(ta2083)E陽
アリーセ・セレファイス(ta6514)P月
シャロン・サフィール(ta7085)P風
アシル・レオンハート(tb5534)P火
ジル・ヴァサント(tf1251)P水
メリィ・ニコル(ti2413)H月
カーム・ヴァラミエス(ti5288)W風
ハルト・エレイソン(ti5477)W地
ヘルマン・ライネケ(tj8139)P水
アプリコット・ツインリーフ(tk7055)H月
リベラ・ルプス(tk7277)P陽
ギゼル・ファルソ(tk8225)P月
メル(tz0001)??

オープニング

◆『メル』の経緯
 ティルノギア発動直前のこと。
 メル(tz0001)は霊峰デヴァドゥルガを訪れた。
 それは、霊峰に眠るレインボードラゴン‥‥自分の本体と、これからについて話すためだった。
 自分の存在は所詮、幻<アバター>でしかない。もはや世界を救うため、ドラグナーたちにあれこれ言う必要もなくなった。
 何より世界から魔法が消える暁には、仮初たる自分の存在も消えるのだろう‥‥そんな風に、メルは思っていた。

 しかし、目の前にした大きな自分<メリュジーヌ>は、メルにこう言った。
「魔法を世界の片隅に残す、それは摂理や調和を崩しかねない危険なこと」
「それを提案したのは他ならぬ、メル自身ではないか」
「――自分で言ったことの責任は、自分で取るべきではないか?」
 その瞬間、メルは思い出した。
 ここに来る直前、リベラ・ルプス(tk7277)に似たことを言われていた、と。
「オレ様は、魔法を捨てない残留組ドラグナーを万が一の事態に備えて統制し温存すべきだと思ってる」
「そしてそれを指揮して仕切れんのはメル、アンタだけだ」
 その時は、そうは言っても自分は消えるのだから――そんな想いで頭がいっぱいだった。
 だがよくよく考えれば、大きな自分とリベラの言うことは、とても筋が通っていた。
 ドラグナーたちの誰かが立場を得て偉くなるのは、違う気がした。彼らが対等でいるために、いざという時の決定権を持つ者は、ドラグナーとは別に必要だ。
 そしてメルを追って来たハルト・エレイソン(ti5477)の言葉も、彼女の心を促す。
「子が産まれなければ愛し合う意味はないと?」
「別れが来るのなら愛する意味はないと?」
「その存在がたとえ幻でも、遥か遠く彼方の世界に在るとしても、私は全てを超えて君を想い続けよう」
 ――メルは、自身の在り様を決めた。

 天竜宮に住む者、その最後の一人の命が尽きるまで、自分は今までどおり管理人であり続けようと。
 そして。
 その傍には、魔法障壁の維持で手一杯になりシーリーヘイムへ帰るタイミングを失ったエストリア・サモナー(tz0003)の姿もあった。

◆コーデリアの経緯
 ティルノギアの発動後、コーデリア・リトル(tz0002)は元々立っていた場所から大きく吹き飛ばされたらしい。暫くその姿は見つからず――捜索の結果、まるでクリスマスの飾りのように、木にぶらさがった状態で発見された。
 彼女は神性と魔法の力、その全てを失っていた。

 彼女は少しの間ぐったりしていたが、体力が戻ると、今度は身の振り方を大いに悩み‥‥そして最終的に、天竜宮に残ることを決めた。
 彼女もまた、本当ならシーリーヘイムに昇華されるべき存在。ヒューマンとしての身体的要素の大きさと、儀式を手伝ってくれた者たちの力でどうにか身体を残すことができたが、それでもコモンヘイムに降りるのはよくないだろう。‥‥コーデリアは、自分の存在が愛すべき人たちの住む世界の歪みとなるのを恐れたのだ。
 それに、コーデリアは天竜宮でやりたいことがあるのだという。今まで郵便を手伝ってくれたシフールたちの中には、天竜宮に残った者もいた。彼らに対する恩返しをしたい。
 シフールだけではない。残った者たちもまた、コーデリアの愛したドラグナーたち。彼らにとって住みよい暮らしを守る為、尽力したい。日々の雑事や開墾など、やれることは何でもやるつもりでいた。

 魔法を失った元ドラグナーたちがいよいよ地上に降りる、その時。
 コーデリアは七精門の前へとお見送りに立った。
「あのね、これからは空の上であなたを見守って‥‥ううん」
 ぶるぶると動物のように首を振って、それから彼女は素朴に笑った。
「今度はわたしから――空の上から、会いに行くね!」

◆そして
 天竜宮で10日ほど、地上の者たちにとっては1年後経った頃。
 メルとエストリアは天竜宮の暮らしを守るための雑事に追われ。
 コーデリアもまた忙しなく働きながら、地上に遊びに行きたくてうずうずしていた。

◆登場NPC
 メル(tz0001)・♀・?・?・?

◆マスターより
RealTimeEvent[Tirnogear Chronicle27]後日談シナリオ

 最後にメル、コーデリア、エストリアの3NPCと遊びたい方向けのシナリオです。
 漏れなくNPCがちょっかいを掛けにいくため、例えば二人きりの未来を描写して欲しいなどの場合、すみませんがあまり適しません。ご了承の上ご参加ください。
 また、EAのシナリオですが、全イベのように世界を大きく動かしたりなどの特別なことはありません。

 天竜宮に残ったキャラはその日常を描きます。自給自足の生活に向けて準備中。後、出ていった人の家を片づけたりなど。
 シーリーヘイムへ行ったキャラは、錬金装置での通話を。
 地上に降りたキャラには、メルやコーデリアが会いに行く、或いはシーリーヘイムと同様に錬金装置で通話する様子を描写します。エストリアは精霊な為、世界への影響を鑑みて地上には降りません。

 最後まで天竜宮ティルノギアをご利用いただき、ありがとうございました。

リプレイ

◆朝
 眩い朝陽の下、メリィ・ニコル(ti2413)が土を掘り返す音が響く。
「どうかな」
 水桶を抱えたヘルマン・ライネケ(tj8139)が、感触を問うた。
「暫くは様子見だなァ」
 袋の種を数えた後、メリィは髭を撫でながら視線を横へずらす。その先には3日前に種を植えた畝。
 天竜宮は今まで、飲食のほとんどを地上から購入して賄って来た。だが輸送手段が途絶えた今、食糧は自分たちで賄う必要がある。
 幸いコモンズハンドや備蓄があるため、最低限なら困らない。天竜宮での農業を研究していた者たちのノウハウも残っている為、農作の成功は決して叶わぬ夢ではない。
 ただ、すぐに叶う夢でもなくて。
「まァ気長にあいべな」
 メリィが振るう鍬の一振りを、真剣に眺めるヘルマン。
 ヘルマンが天竜宮へ残ったのは、シフールたちが気がかりだったのと、残留者へ娯楽を与える為だ。「まぁ、老いらくの恋もあるがね」――娯楽となる演劇に関しては今はまだ準備段階のため、メリィと共に自給自足へ向けて準備や勉強の日々だ。メルに話したところ大いに賛同し、彼へ森の小劇場を自由に使うよう勧めていた。
「農作業の類は分からなくてね。色々と教えてもらえると助かる」
 謙虚な姿勢を見せるヘルマンへ、メリィはゆったりと笑う。
「なンにしたって勉強勉強。おらぁもヘルマンサマと一緒だよォ」
「おーい! あ、こういう時は‥‥精が出ますね! かな?」
 そこへ新たな人影が加わる。
 朝日を背に駆けて来たのはセーユ・エイシーア(ta2083)。愛らしい笑顔を浮かべる彼女だが、少し疲れも見える。
 彼女は天竜宮のこれからに向けて、診療所兼カフェを立ち上げた。垣間見える疲労は、開業に伴う山積みの仕事で、忙しない夜を過ごしたからだろう。
 カフェの方は食糧事情が解決するまでは控えめ営業だ。制限のある中で、彼女は創意工夫を重ねている。
「ちょうど良かった、新作の味見をして貰おうと誰か探していたんです!」
 バスケットを開けると、そこには薬草クッキー、薬草サンドイッチ、薬草スコーン。
「ふむ」
「美味そうだなァ」
 動物さん型をしたそれらを、口に運ぶ男たち。
「どうですか? 味とかだけじゃなくて、あとどういうお料理があったら良い、とか」
「カフェで出すには手軽なものだね」
 充分美味しいと前置きした上での問い。
 するとセーユは頬を赤らめて。
「あの、カフェもそうなんですけど。夫が、集中すると食事もとらない事が多いので‥‥」
 制限がある中でも、食生活は大事。栄養を考えて身体にいいものを作るのは、セーユからの愛の表れだ。
「何かありましたか」
 惚気の波動を感じて、現れたのはエストリア・サモナー(tz0002)。
「な、何でもないです!」
「今は畑をちょっとなァ」
 メリィが助け船を兼ねて、農業へ話を戻す。早々に芽が出た種もあると語れば、エストリアとセーユは表情を明るくした。
「ふふ、良いですね、変わらないけれど変わる毎日って」
「そうですね。あなたたちは成長していけます。常春の、この地においても」
 ‥‥エストリアはおそらくコモンヘイムに残った最後の精霊だ。
(あんまり寂しく無いといい)
 特異な存在となった彼女に対し、メリィはそう考えたけれども。
「この後は素材探しになァ。地上も変わるし、これからは採れねぐなンのもあんだろなァ」
「天竜宮の特異性を活かした新素材を見つけるという手も――」
 助言をくれるエストリアは楽しそうで、杞憂だろうかとも思うのだ。

 メリィは農具を片づけ素材探しへ。セーユは仕事終わりの休憩へ。
 残ったヘルマンは、ふとエストリアへ問う。
「‥‥メアリを、覚えているかね?」
 カオスゴーレムである自分の身体を、実験に捧げた女性。
 彼女がドラグナーたちと交流を持ったのは、随分前のこと。既に稼働限界を超えたかという不安もあったが‥‥。
 だがエストリアは「慌ただしかった為すっかり忘れていました」と、彼女からの伝言を明かす。
「人に戻してくれてありがとう、と」
「そうか‥‥」
 そうか、と。
 もう一度、反芻するように呟いて。
「そのうち花でも、渡しにいかねばね」

「うーすエスちゃん、相変わらずセクシィだぜ!」
 しんみりとする2人の下へ、リベラ・ルプス(tk7277)が片手を上げつつやってくる。
 彼女はつい先ほど、地上の巡回から帰ってきたようだ。ほんの少し顔を曇らせて、彼女は言う。
「ハグレ被害を見つけたんだ」
 リベラの言う『ハグレ』とは、地上にいる特異な存在のことだ。
 ――ティルノギアはカオスやデュルガーといった闇の存在をデュルヘイムへ堕とした。同時に魔法が失われ、ゴーレムは停止した。
 だがコモンヘイムには1つだけ、半端な存在が残った。古代に錬金術師から生み出された後で自然の動物と交配して増え続け、自然の進化から外れた異種動物だ。これを、リベラは『ハグレ』と呼称している。
 そしてここ1、2日で、リベラは新たな変化に気付いていた。
「ドラグナーやハグレの姿が、地上の一般人に干渉できなくなってきている――」
 見えない、聞こえない、触れられない。
 肉食のハグレたちは、自分たちが干渉できる野生動物を餌に生き残ろうとしている。だがそんな中‥‥。
「まだ『見えた』人も、餌として狙われたのでしょう」
 ‥‥今はきっと、過渡期。
 地上の民が完全にハグレへ干渉できなくなれば、このような被害は起きなくなるのだろうが‥‥魔法の存在を信じる純粋な心を持つ者ほど、悲しいことにその変化は遅れてやってくるだろう。
「ま、暫くは俺らが守ればいいし。何とかなンだろ!」
 大雑把な物言いではあるが。
「‥‥ええ」
 エストリアは知っている。彼女が誠心誠意、使命感を持って地上の安全を願い、動いていることを。

◆午前中
 この日、数名のドラグナーたちが大神殿の掃除の為にエストリアから呼び出されていた。
「あー、ちょっと待ってちょっと待って」
 だが、その内の1人ギゼル・ファルソ(tk8225)は掃除に入ろうとする動きを止めて。
「開墾とか諸々はいいけど、まずは得意分野に分けてチーム作って連携取るのが効率良くない?」
 やる事は山積みなのだから、散発的にあれこれするのではなく統率立ってやればいい。
「えー!」
 だが声を上げたのはアプリコット・ツインリーフ(tk7055)だ。
 至極尤もな意見へ反発したのは‥‥。
(天竜宮に残れば毎日ゴロゴロライフだと思ってたのに)
 きっちり分担されては、サボるにサボれないからだ。
「良いアイデアです。皆さん得意なことを教――アプリコットさん?」
 逃げ出そうとしたアプリコットを、見逃すエストリアではなかった。
「あれーおかしいなー身体が勝手にー」
「昨日の私ではあるまいし」
 呆れ返るエストリア。昨日、彼女は悪戯でコンフュージョンを掛けられ、3分間本心とは真逆のことを口走り続けた。急に頓珍漢なことを言い出す彼女に、みんながぽかんとしたものだ。
「そんなことが頻繁にある訳‥‥」
 言いかけて、エストリアはギゼルを見る。
「まさか昨日の悪戯に引き続き、また何か企んでの提案ですか?」
「あ、あのコンフュージョン、ギゼルちゃんの仕業だったんだ」
 コーデリア・リトル(tz0002)が新事実を知り驚愕する。
「あ、あの部屋掃除しなきゃですねーコーデリア手伝ってー」
「え? いいけど、でも」
 何事か耳打ちしながら、アプリコットはコーデリアを引っ張っていく。
「まだ分担を決めていませんよ」
「まぁまぁ。怒ると良い脚が台無しだよ?」
 エストリアの厳しい物言いを宥めるギゼル。
「脚に何の関係が‥‥はぁ。仕方ありません、ギゼル様」
「僕?」
「ええ。仕方がないので、貴方だけでも分担を決めましょう。何がお得意で‥‥」
「僕はえーっと、広く浅くだから」
「――お待ちください!!」
 結局、エストリアはギゼルまでもを取り逃した。

 アプリコットとコーデリアも、窓から部屋を抜け出していた。
「大神殿でさぼるのは危険だからね。地上行こうよ地上!」
「ああー悪い友だちを持っちゃった気がするぅー」
 とか何とか言いつつ、コーデリアも乗り気なようだ。
「いいからいいから。どこ行きたい? 私はさぼれればどこでもいいや」
「えーっとねー」
 やかましく喋りながら、2人は七精門へと飛び込んだ。

「遅い!」
 掃除に来るはずのドラグナーたちはおろか、エストリアすらも来ない。掃除道具を前に、メル(tz0001)は御立腹だ。
 様子を見に外へ出ると、メルは七精門へ駆けていくアプリコットたちの背中を見つけて。
「あ奴ら、まさかサボ――」
「お待ちになって、メル様!」
 止める前に、シャロン・サフィール(ta7085)に鋭く呼び止められる。
 何かと思えば、シャロンは隣に立つカーム・ヴァラミエス(ti5288)と新居を探しているとのこと。
「やはりメル様は管理者ですから、豪邸の一つや二つ用意する事なんて造作もございませんわよね!」
「他を当たれ」
「もう! 冷たすぎではありませんの!」
 にべもないメルに、シャロンは頬を膨らませ、カームは「まあまあ」と両者を取り成す。
「どこかに広い屋敷を立てても良い場所、もしくは住んでも平気なでかいところとか知らないか?」
「畑や遺跡を潰さぬならどこでも構わんが‥‥そうじゃな」
 既存の建物の1つを挙げると、そこはもう行ったと心外そうなシャロン。
「あの家は狭すぎではありませんの! こう‥‥もっと神秘的と言いますか煌びやかと言いますか!」
「というか、シャロンはどんな豪邸に住みたいんだ‥‥まぁ頑張るけどさ」
 頑張る。そう口にして、ふとカームは思い立つ。
 メルは管理者としてよく働いている。だがきっと、何かしらの苦労や重圧もあるのだろうと。
「メルよ、たまには俺たちに手伝わせろ。俺もどうせ暇だし」
「あぁ、それなら近い内に地上の調査へ行ってもらおうかの」
 するとメルは、あっさりカームの申し出を受け入れる。
 そうだった。殊勝に見えて、この幼女は人使いが荒いのだ。
「今すぐにとは言わん。時間を見つけて行くがよい」
「さ、カーム様。家探しの続きに行きますわよ!」
 ダブル人使い荒い。
 肩を竦めるカームを、シャロンが引っ張っていった。

 さて、すっかりアプリコットたちを取り逃してしまった。
「まったく!」
 憤慨するメルへ、声が掛かる。
「メルが、嫌じゃなければ」
 アリーセ・セレファイス(ta6514)から、共に地上へ行かないかとの誘いだ。
 管理者として、そう簡単に席を空ける訳には行かないとも思ったが‥‥天竜宮にはエストリアもいるし、優秀な‥‥とても優秀な補佐もいる。
 2人がいるなら、問題ないだろう。
 2人へ出掛ける旨を伝えると、メルはアリーセと共に門を潜る。

◆地上
 アルピニオ地方。
 白い花咲く丘の喫茶店に、彼――アシル・レオンハート(tb5534)は暮らしていた。
「本当に嬉しい懐かしいお客さんがきてくれたYO!」
 憮然としたメルを存分にもふもふすると、アシルは2人を店の中へ引っ張り込む。

 人目に付きづらいテーブルで、自慢のお茶とお菓子を並べて。3人は語りだす。
「久しぶり、アシル。‥‥元気に、していた?」
 問いに元気のよい肯定が返され、詳細が添えられる。
 食材集めの大変さ、冬の寒さ‥‥それを超えて花が開いた時の喜び。
「アリーセやメルたんは? なにか変わったことあるかな? いつもと同じように、本を読んでた?」
 アリーセからは‥‥あまり話せることはなかった。彼女の体感では、まだ10日しか経っていないのだから。
「でも」
 そんな中でも、些細な変化は在って。
「‥‥すこし、静かすぎて。本を、読むには、適さなかった」
「やはり大勢がいる時とは違うからの」
 メルが静かにお茶を口にし、同意を重ねる。
「‥‥ちょっとくらい、音が、聞こえたほうが、本は、読みやすい」

「変化といえばさ、聞いたYO」
 ――ドラグナーたちの姿が、地上の一般人には見えなくなってきていることを。
「きっとこれから、どんどん変わってくると、思うんだ」
 英雄のことを覚えている人が、いなくなっていく‥‥それは、寂しいことだけれど。
「きっと平和になった世界に英雄は必要ないから、これでいいのかもしれないね」
「うむ。‥‥わらわは、この現象は世界の自浄作用なのではないかと思っておる」
 英雄の存在を知らない者は、悲劇に見舞われることもない。そして同時に、ドラグナーたちが奇異や欲望の視線を浴びることもなくなるから。
「皆が、幸せな、世界なら。きっと、それで、いいと、おもう」
 アリーセも、お茶を口にする。
「アシルや、皆が、頑張ったから、今の世界が、ある、はずだから。‥‥誇って、良い」

 各々、お茶や菓子を口にして‥‥アリーセが沈黙を割る。
「‥‥私も、本を読むのは、飽きた、から」
 これからはたまにアシルやみんなに会いに行きたいと。そう続けるアリーセに、アシルは心から嬉しそうな笑みを浮かべた。
「そだ、時間はまだあるでしょ? せっかくだから、一緒にお菓子をつくったりしようYO」
 まるで妹にするように、何くれとなくアリーセの世話を焼きたがるアシル。
「‥‥ありがと」
 賑やかで楽しい15日間は、まだ始まったばかり。

◆午後
「お、おまちになって‥‥足が棒のようですわ」
 探し歩く途中で、シャロンは音を上げた。その足をを気づかうカーム。
「ん?」
 その瞳に映ったのは‥‥何だかよさそうな家。前の住人が整えたらしき綺麗な壁と扉。
「あら?」
 シャロンもまた、その家の存在に気付く。中に入ると、内装もなかなか洒落ていて。
「ま、まぁ‥‥仕方がありません! この辺で許して差し上げてもよろしくてよ!」
 お気に召したようで、言葉とは裏腹に口が笑っている。嬉しそうな表情に、カームもまた口元が弛んだ。
「この部屋を寝室にしてこの部屋は衣装部屋に‥‥あら? カーム様のお部屋は‥‥」
 だが彼女の視線が居間のソファーへ滑ると、カームの表情は徐々にぐったりと変化した。

◆傍に
 地上に降りて3日目。今日のコーデリアは、アプリコットとは別行動だった。
「お邪魔しまーす」
 ヴァサント商会の本部、ジル・ヴァサント(tf1251)の私室。
 中にはもちろん、端正な顔で笑うジルの姿。
 駆け寄って、力いっぱい抱きしめ合う。
 ――ジルはティルノギアの後、地上に降りて商売を始めた。1年という僅かな時間で大きく成長、世界を相手に取引をしている。
 彼が地上で才を発揮していることを、コーデリアはとても嬉しく思った。
「愛している、コーデリア。私の愛、私の一生は惜しみなく君に捧げよう」
 今回は、2度目の逢瀬だ。
 1度目の逢瀬でジルは初めて好意を言葉にした。その時は大泣きしたコーデリアを宥めて終わった。
 そして2度目の今日もまた、ジルはたっぷりの熱情を言葉にして‥‥。
「言ってみろ。私にどうして欲しい? 愛を囁いて欲しい? それとも――」
「え、っと」
 照れを滲ませながら、コーデリアは悩み――。
「じゃあ、ちゅ、ちゅー‥‥とか」
 ‥‥少し、間が空いて。
 ジルはそっぽを向いて、肩を震わせた。
「ごごごめん!! あーえっとねー」
 咳払いの後、ぽつりと零れる。
「‥‥ここにいてもいいよって、言って」
 ジルは瞠目すると、少し考えた後に抽斗から指輪を取り出した。
 コーデリアの左手を取り、その薬指へ環を通す。美しい翠玉が、環の天辺で煌めいた。
「太陽の光を浴びて輝く木々の若葉、春風にそよぐ柔らかな草の褥の君の瞳のような色だ」
 ――いかにジルが長寿でも、いつかはコーデリアより先に逝く。
 その時、寂しくないよう。愛されていた記憶を、持っていられるように。
「コーデリア。キミが傍にいてくれて、私は嬉しい」
「――っ」
 指輪の填まった左手を大事そうに右手で包み、コーデリアはジルの胸に額を押し付けた。
「わたし、ジルちゃんが好きだよ」
 顔を上げてそう告げれば、ジルは刹那に口唇を奪う。唇から全身へ、熱が広がる。
(わたしはこの人に、何をしてあげられただろう)
 立つことに必死で、支えてくれたジルに報いることなんて全然できなかった。
 だから、せめて。
「好きって言える今が、凄く幸せ」
 幸せを貰っていると、何度も伝えて。
「愛してる。だいすきだよ、ジルちゃん」
 たくさんのすきを、贈るのだ。

◆夜
 七精門。
 アリーセと共に天竜宮へ帰ったメルを、リベラが出迎える。
「さっきコーデリアが帰って来たから話を聞いたんだ」
 ジルと会ったこと。アプリコットとたっぷり遊んだこと。
 そして遊び歩く中――自分たちが認識されなくなったと、まざまざと感じた経験を。
 それはメルも、アシルの店やそこから足を延ばした行楽先で痛いほど思い知った。
 大きな変化が起きている。これから、課題は多くあるだろう。
 だがここには、リベラのように積極的に地上を守ろうとしてくれている者がいる。
 だから大丈夫だと、メルは信じていた。
「んじゃあな、たまには休めよ?」
「お主もじゃぞ」
 メルが少し気を許した笑顔を向けると、リベラも笑い。そして夜空を見上げながら、自分のねぐらへ帰っていく。
 見送るメルの背中へ、新たな声が掛かる。
「くっくっく‥‥一日お疲れ様、と労っておいた方が良いかね?」
 ハルト・エレイソン(ti5477)。大聖堂の神父であり、今はメルの優秀な補佐役も兼ねている。

 2人は並んで歩き、やがて大神殿最奥――2対4枚の翼を持つ女性像の前を訪れた。
「正直に言えば、今でも君が手の届く場所にいる事が信じられんよ‥‥別れは覚悟していたからな」
 ふと、ハルトは胸の内を零した。
「愛とは信仰に似ていると思わないか。たとえ返されなくとも想い続ける、乗せる願いは人それぞれだがね」
 願いや想いがそれぞれなように、心もまた様々な色や形を持つ。だが、大抵その1人が持つ形や色は、自分を軸とし世界と向き合う事で反射した色となる。
 そして。
「心の色は反射する世界に苦境と苦難があればこそ彩りを増す、私はそれに魅せられた」
 ハルトの心は、高揚していた。
 今まで誰にも晒してこなかった本音を、彼は曝け出して――告白している。
「それでは、今の平和はお主にとってさぞ退屈なことじゃろう」
「いや」
 訝しむメルへ、続ける。
「私は知ってしまった。受け身ではなく、保身ではなく、信仰でもなく、見返りを求める事なく世界と向き合い世界を救わんとする七色の心を持つ者がいると」
「――」
「気がつけば目が離せず、愛していた」
 ハルトは跪く。
「想いを返してくれとは言わない。だがもしこの想いが届いたなら、一度で良い‥‥」
「‥‥お主の愛は、確かに信仰に似ているな」
 メルは微かに笑い、目を閉じた。
「生ある間も、死した後も。わらわの存在は、お主の魂に寄り添うぞよ――ハルト」
 名を最後に閉ざされた唇へ、ハルトのそれが重なった。

 夜は更け、また偽物の朝陽が昇る。
 花々が周囲を彩る中、彼らは生きていく。
 ある者は常春の世界に身を浸し、ある者は懐かしい春の日を心に宿しながら。