◆速報!ドラグヘイムの脅威
とうとう準備が整い、スカイドラグーンはシーリーヘイムに突入する事になった。
その間、ドラグナー達はコモンヘイムから姿を消す事になる。
だが、全員がいなくなっては、その間に地上で何かあっても対応できない。
想定される大きな脅威だけでも、いくつも危惧されている。
これらに対応すべく、いくらかのドラグナーは地上に残り、そちらの案件に取り掛かる事になったのだ。
先日、地上の後顧の憂いを断つべく、ドラグナー達は再びドラグヘイムの地を訪れた。
そこで相対したのは、変異恐竜達とそれらの頂点に立つ恐竜王「超変異ティラノサウルス」。
また、新たなる脅威となっていた「カオスサウルス」と彼等の生み出す「カオスサウルストークン」。
地下にまで攻め込もうとしていたカオスサウルスの脅威は遠ざける事が出来た。
だが、恐竜王を仕留める事はできず、むしろ反対に、一蹴されてしまったと言っても良い。
初対決では2本折れた角が、この対決では1本。見逃された回復・支援役以外、傷の軽い者はいない。
そんな強大な力を持ち、コモンを餌としか見ていないような者を放置する事はできない。
「ええと、なになに‥‥『恐竜王「超変異ティラノサウルス」』は‥‥」
エル・バーニング(tz0044)が集会所の一室に籠り、報告書の束をいくつも見比べて、分かっている事を纏めていた。
「巨大な頭と長い尾を持つ、後ろ足を支点に振子状に立つ恐竜‥‥頭に筋や血管が浮き出た異様な角が四本生えている。判明している能力は、金属が一瞬で錆びて朽ちる、魔的な体がある。人間に擬態‥‥変身する事ができる、魔法の影響を打ち消す。周囲で飛ぶことができない。何か妙な息を吐く攻撃が出来る」
他の変異恐竜達同様に、角を折る事で弱体化を図れる。
「角は、一本失うと金属を錆びさせる能力が消えて、二本失うと魔法が効く様になるわけね」
残り2本の変化は、誰もなしえていない為不明だ。恐竜王の方もドラグナー達に散々狙われ知恵を付けてくる頃だろう。
ただでさえ、今までも変異恐竜の角を折ろうとしても上手く行かなかった者も多い。
「成功したのは、上手く物を壊せる人や、敵の弱点をピンポイントで狙える技術がある人が多いみたいだわ」
力任せに叩くだけでは、硬い角を落とせない。
力による真向勝負では、どうしてもコモンのサイズでは力負けする。
コモンであるのなら、それ以外のところも混ぜて勝負しなければ。
「それでこっちの資料は‥‥歪で醜悪な恐竜に似たモンスター、カオスサウルス‥‥新種の方ね」
カオスサウルスの方が、ドラグナーが相対した事がある回数が少ないので、情報も少ない。
巨大な頭になお不釣り合いな程の大きな口があり、前脚の先端が強靭な爪の代わりに鋏状になっている。
更に、体のあちこちから触手が生えており、それが切り離されると大きな口と二本の肢を持つ小振りなトークンとなる。
はっきり分かる程度の強い再生力がある。
知性は一応あるが、食欲が強い。変異恐竜も恐れず、襲って食べようとする。
魔的な体を持ち、硬い皮膚以外にも、敵からの攻撃の威力を削ぐ何かがある。
「変異恐竜もまだまだたくさんいるけど、カオスサウルスの方も同じくらいの頻度で見つかっているのよね」
前回の探索結果をまとめた資料に目を通すと、それらが共に出現し、争いあっている光景もしばしば見られる。
さて、これらの情報をどうコモンの勝利へと繋げるか。
「‥‥‥‥よし」
報告書の束を纏めて鞄にしまうと、エルはいそいそと部屋から出て行った。
◆オペレーション・X
「ユーロから離れてるからって、いつまでも見捨てておくことはできないわよね」
エルは、コモンヘイムに残ってドラグヘイムへの対応をする事を選んだドラグナー達へ問いかけた。
恐竜王は強い。
今まで、ドラグナー達に全コモンの敵だと目を付けられて戦い、倒されなかった者はこの恐竜王の他にはいなかったのだから。
ドラグナー達から逃げ出し、逃げおおせた者ならいたが、逆にドラグナー達が逃げ出したのも、災害や外交的な理由を除けば、他に例はない。
巨体に見合った生命力と、いくつもの特殊能力。
王を自ら名乗るだけの実力を持っているのは確かだ。
「そんな王様を、今回は少人数で倒さなければならないのよね」
うげぇとした顔で、エルはぼやく様に言う。今回の大作戦のメイン作戦は、何と言ってもシーリーヘイムへ乗り込む側だ。
シーリーヘイムから帰って来たら、コモンヘイムが滅亡してました。という笑えない事態にならないように尽力するのが留守番組の本分であるが――
「‥‥サブの作戦のくせに、やる事多すぎるのよ」
ぶっちゃけすぎるエルの言い方に、監督役して同席していたスカイタートルが睨む。
しかし、普段の事件ならともかく、こんなドラグナー全体で動く大作戦にまでエルが説明役として使われる時点で、手が足りていないのはあるかもしれない。
あちらもこちらも手を伸ばす必要がある今回、一か所ずつの人数が少なくなるのも自然なことだ。
「とにかく、少人数になってしまうのは仕方がないわ。でも、少人数でも恐竜王を倒す方法を考えて来たわよ!」
エルが自信満々に言い、他のドラグナー達がざわつく。エルにそんなすごい作戦が思いつくのかと。
「何よ、私だって少しは作戦考えるわよ。『ワガグンはいいぞ』って戦闘のシミュレーションするサークルに入って勉強したりも(ちょっとだけ)したもの」
だが、構わずエルは持っていた大きな紙を広げて発表した。
「題して『バーバリーとシュライクバニー作戦』!」
ドヤーッとしたエルだったが、場が完全に白けている事に段々と気付き、怪訝な顔をした。
「変ね。こういう感じで作戦名をドンって出すと、盛り上がるって聞いたのに」
「お前はそこで何を学んできたんだ」
誰かのツッコミに、エルは「昔話からもらった名前なのに、誰も知らなかったのかしら?」とブツブツ言いながら考え込んでいた。
「ほんと、大丈夫か?」
「大丈夫よ、中身はちゃんとしてるはずよ」
と答えて続ける。
「強大な恐竜王相手に少人数で向かっても、倒すのが大変なのは前回で十分わかったわ。かといって大人数は派遣できない。なら、戦力は現地で確保すればいいのよ」
現地で確保すると言っても、現地のコモン――地下都市に隠れ住む円匙族――に戦いの場に出て来てもらう訳ではない。
戦えるのであれば、とっくに自分らで戦っている。彼等はただの臆病者達ではないのだから。
参考にしたのは過去の作戦。
「ムーの欠片の目覚めの儀式のとき、少しでも幸せの気持ちが増える様に、恐竜も巻き込んで躍らせたのよね。直前の作戦でも、配下の変異恐竜達とまで戦ってられないからって、それに相手してもらっていたみたいなのよ」
直前の作戦の報告書に目を通していた者達は、まさかと息を飲んだ。
「そう、カオスサウルスを集めて戦ってもらうのよ」
つまり、作戦を纏めるとこうだ。
まずは、再び恐竜王の所在を掴む。前回発見地点から大きく動いていないと思われるが、巣の様な物が見つかったわけではないので、移動している可能性もある。
次に、周辺からカオスサウルスを集める。素直に交渉に応じる相手でもないので、引き付けながら逃げるのが主な方法になりそうではある。
更に、集めたカオスサウルスを、恐竜王の元へ送り込む。そうすれば、あとは勝手に戦ってくれるだろう。変異恐竜達を消耗させられ、あわよくばそのまま倒してくれるかもしれない。
最後に、疲弊した残った方の勢力を殲滅する。戦闘終了直後に仕掛けられる様に準備しておく必要がある。
「でも、そんなにうまく行くのか?」
作戦を聞いて考え込む誰かの言葉に、エルは即答する。
「どうかしらね。かなりご都合任せで、全部上手くいって初めて成功する作戦だけど、それでも一番勝ち目があると思ってるわ」
他に何か質問があるか尋ねると、幾つかの手が挙がった。
「カオスサウルスはどこから湧いて来たんだ?」
「そんな専門的な事知らないわよ。ただ、やっぱりカオスの影響受けていると言われてるみたいよ。なにせ、カオスサウルスって呼ばれるくらいだもの。ただ、今回はカオススポットの浄化は諦めるわ」
カオスの影響を受けているとすると、どこかにありそうなものだが、今回は恐竜王の討伐を第一目標とし、カオスサウルスへの対処は、今いる者を変異恐竜達と共倒れさせるので精一杯だ。
荷物として、幸せの水晶を持って行く事もないという。
「ただでさえ綱渡りな作戦だもの、あれもこれもと欲張れないわ」
エルは残念そうに言う。
「それじゃ、街の防衛は?」
「ローレックの先生と学生達に任せられるみたいよ。ローレックでも色々急がしくて、調査団の何人かだけらしいわね」
ただ、それで十分だ。
「調査団といやぁさぁ、今回も着なきゃならんの?あの制服」
「緊急だから、いらないわ。もちろん、着たければ着てもいいわよ。あの場所に適応させた高性能な制服もあるらしいわよね」
服装の縛りがあったのは、礼儀や建前もあったが、ジャングルに適さぬ恰好で行かぬ様にという意味もわずかながらにあった。
もっと適した格好も多く、緊急時な事もあって、その縛りは取れているのだが‥‥ユーロとは違う環境だという事は忘れないようにしなければならない。
「水や食料は」
「街にいるうちは調査団に分けて貰えると思うわ。遠征する時の分は、自分達で用意する必要があるわね」
街から一歩出れば、衣食住の責任は自分達にあるということだ。
「こんなところかしら?まだあれば、後は現地で聞くわ」
こうして、ドラグナー達は天竜宮を発ち、ローレックへ向かった。そこから、今度は月道を通りドラグヘイムのロックウェルへと渡るのだ。
恐竜王の城下へと。
◆登場NPC
エル・バーニング(
tz0044)・♀・ホーキポーキ・地・パラ
◆マスターより
1.このシナリオはTirnogear Chronicle【TC25】希望を探して のメインシナリオです。地上のドラグヘイムでの戦いを扱います。
2.全体イベントシナリオは、ボツ有りプレイングとして処理され、特にMVPを中心に物語が展開します。
3.選択肢をプレイング第1行目で【ア】【イ】のように記入し、次行より本文を続けてください。複数の選択肢を選択できます。但し、1つに集中している場合に比べ、個々の選択肢に注がれる意欲・労力・時間が少ないものとして処理されます。
4.選択肢未記入、白紙者は原則居ないものとして扱います。但し、他の参加者のプレイングや状況によって、居なければ多大なマイナスが生じるケースでは登場する事があり得ます。
5.ドラグヘイムでのシナリオですが、装備制限はありません。
◆選択肢
ア:恐竜王を捜索・足止めします。
イ:カオスサウルスを捜索・誘導します。
ウ:恐竜王・配下の恐竜・カオスサウルスやトークンらと戦います。
エ:その他の行動をします。行き先と行動詳細記入必須です。
◆恐竜王捜索
ロックウェルを発ったドラグナー達の前途は多難であった。
決戦の為に戦力を温存した結果、恐竜王の捜索に本腰を入れたのは4人。
そのうちの二人、シフールのレズリー(
tk0952)とストック(
tk7069)は、恐竜達に追われ枝葉の中へと逃げ込む。隙間から覗けば、アロサウルスの感情の読めない眼がギョロリと二人の方を向く。
だが、二人を見つけられなかったようで、そのまま立ち去った。
緊張が解けてほっと息を吐いた二人は顔を見合わせた。
「いっぱいいっぱい嫌な感じがする方にいってもなかなか見つけられないね」
「‥そのうち、きっと、見つかる」
本能が告げる危険に向かって進む事で王を探していたレズリーであったが、危険の種類までは察せられない。
そのうち当たると飛び込んでみるが、普通の恐竜や変異恐竜、カオスサウルスに一々牙を剥けられては逃げ出すのに精一杯で、捜索は進まなかった。
けれどもレズリーは諦めない。
「つぎはあっちかなー?」
再び嫌な感じのする方へ指を差した。ストックも、レズリーの行動が王の発見に繋がると信じて、手を重ねた。
「‥まよっても助けてやれる。いこう」
思い切った行動をとるシフール達に対して、此方の二人は慎重に動いていた。
狩った獲物を食んでいるティラノの様子を茂みの影から観察するジルヴァ(
tj8140)。
(ただの恐竜でこれなのに、やー‥恐竜王、まったく厄介な相手だね)
自信にのりすぎて自爆とかしてくれればいいのに。と思っていると、彼が潜んでいる反対側の茂みから触手だらけの恐竜っぽい何かが飛び出し、ティラノに噛みついた。
反撃で自身よりも大きな体にのしかかられてもびくともしないCサウルスが、夢中で噛みついているうちにジルヴァはその場を離れた。
クレセントムーンでモンスターから発見される要素は減らしているが、それでも慎重に動くに越したことはない。
王が人間の姿なら、移動速度はコモンとそんなに変わらないだろうし、恐竜姿ならば目立つだろう。と目星をつけていたが、広大なドラグヘイムの中で探すには、恐竜王サイズであっても、十分小さい。
それでも、妖精達に比べれば無駄な足止めを喰らうことなく、効率良く広範囲を探せていた。
エターナ(
tc7434)もそうだ。
彼女は箒で空からの捜索を行っていた。
地上の様子は分かり難いし、翼竜達に追いかけられる時もあったが、箒のスピードで飛び回り、ライアンで遠距離を一気に戻る事で、広範囲の捜索を可能にしていた。
人間サイズになられていては見つけ難いだろうが、恐竜姿であれば、空から見渡した方が早いだろう。
そうして、途中でキャンプを張りながら、恐竜王の捜索は数日に渡り続けられた。
「この辺りが、前回王と戦った場所です」
エターナがシフールの二人に教えると、二人はなんだか感嘆していた。
地上では既に年月が経っているが、今もこの辺りを拠点にしているのなら。と、レズリーが適当な日付を指定してパーストを成就した。
「‥王なんてなのってるんだから、にげてはないだろうが」
ストックの言葉に、レズリーは頷いた。幸運の妖精の名は伊達ではないようで、運は彼に味方した。
過去視の視界の隅っこに、ただの恐竜とは思えぬ巨大な影が映っているという。
「角3本のが、あっちの方からそっちの方にむかって歩いてるんだよー」
高度を上げて追う彼女を追いかけて残りの3人も進んだ。
「おっと、その前に、連絡しておかないとね」
「では、私から伝えておきます」
「‥前おれたの、そのまんまか」
◆Cサウルス誘導
恐竜王捜索隊から少し離れて陣を築いていたドラグナー達。
「カオスサウルスと恐竜王を戦わせるたぁでけぇこと考えたなオイ!」
「エルさんの作戦だもの‥私が成功させなきゃ」
グラナート(
tb0129)が決行はまだかと武者震いし、パートナーが考えた作戦にセツナ(
ta7726)はやる気十分。
「恐竜王との恐竜大決戦をコーディネートして、叙事詩に残るような戦い‥と言いますか、その為のお膳立てを整える役割を果たします」
アイオライト(
ta6724)も、全力を尽くす所存であった。
「よっしゃ、カオスあるところドラグナーありってな。狩りで一番有効なのは、囮だ!」
「成程、精霊力にあふれるドラグナーなら――」
グラナートのkiaiに真面目に頷くアイオライトであった。
「んー、恐竜の肉を食べてみたいけど、やっぱりカオスに汚染されるとおいしくなくなりそう」
「普通食べないと思うの〜」
「だよねー」
ショコラ(
tb7879)とクルト(
tj0327)は、和やかにおしゃべりしていた。
そんな彼等の背後に忍び寄る小さな影。
気付かれる事なく背後に付いた影は、二人の耳元に近づき――
「わっ!」
「うわぁっ!」
「びっくりなの〜」
大きな声に驚いた二人を見て、声の主、ライラ(
tj5364)は悪戯成功とニコッとした。
大声を聞きつけて残りの3人も寄って来た。
注目される中、ライラがこほん、と可愛く咳払いして伝えた。
「みなさま、おしごとです。きょうりゅうおうさまがみつかりました」
5人はそれぞれCサウルスを探すべく散開した。
アイオライトは黒毛の戦闘馬で駆けて行き、セツナは白毛の一角獣に乗り、神話所縁の槍を構えて駆けて行く。ショコラは魔法で浮遊し、制服をはためかせて密林を縫う様に飛ぶ。
クルトもゴーレムチャリオットを操り、密林を進む。
グラナートも相乗りさせてもらった。長距離高速移動手段がなかった為で、触手らしきものを見つけると颯爽と飛び降りた。
「さあ狩りの始まりだぜ!」
「がんばるの〜」
走り去るチャリオットからの応援の声を耳にしつつ、グラナートは拳を構えた。
そして、さほど労する事なく他の者達も目標を発見したのだった。
「いました。駆り立てます」
1頭で歩いていたCサウルスへ向かって、アイオライトは馬を走らせた。
羊飼いや遊牧民の様に対象を操り、戦場をかける騎士の様に勇敢に挑もうと。
だが、相手は大人しい草食獣の家畜ではなく、変異恐竜すら捕食する肉食獣。
彼のチャージに全く怯む事なく、逆に襲い掛かって来た。
図らずも騎士の決闘の様に一合二合と突き合うが、渾身の騎乗槍は敵の触手を掠めるだけで、敵の鋏に深々と脇腹や肩口を切り裂かれた。
敵の戦意、実力共に想定以上で劣勢に立たされた彼はそれでも任務遂行を諦めなかった。
だが三合目で、馬が正面から斬り裂かれると、訓練された戦闘馬といえども命の危険を感じて逃げ出した。
アイオライトが痛む腕で手綱を握っても、もはやコントロール出来ず、アイオライトは悔しさを噛みしめて作戦から離脱するしかなかった。
一方、追ってくるCサウルス3体を引き連れて、セツナはエラで密林を駆ける。
目の前に飛び出して来た新手がセツナに飛びかかるが、効果上昇でより硬くなったガイアースの結界には歯が立たずに振り払われる。エラに噛みつこうとしたCサウルスはグングニルで牽制して追い払い、一瞬加速して距離を開ける。
(誘導には――絶体絶命を生き延びる速さと硬さが必要なのよ)
別の場所ではクルトが奮闘していた。
こちらの護りは黒曜石の盾。ガードナーの盾がクルトとチャリオットを守る。
Cサウルスからの酸の息を複数の盾が重なって防ぎ、崩れた分の盾を追加する。
逃げ回りながらも、次の獲物を探して蛇行する。
なるべく多くのCサウルスを引き付けて連れて行くべく、広範囲を目立つ様に走り回った。引き付けられたCサウルスが集ってくるが、彼は制御球にのせた手に力を込めて、冷静に走り抜ける。
ショコラは、何やら自分でも予想していなかった事態になっていた。
「はいはい、みんなこっちだよ。こっちこっち」
沢山のCサウルスが彼女目掛けて駆けていた。それ自体は狙い通りだが、攻撃して誘い出す予定は、彼女の制約によって破綻した。
空腹に啼くCサウルス達を助けざるを得ず、食料を提供すべく、テレパシーで呼びかけついて来て貰っていた。
と言っても、相手は納得せず、ショコラを食べようと追ってきているわけだが。
一番カオスな事になっていたのは、予想通りグラナートの所だ。
「ほーら熱烈な精霊力だぞー」
地上でトークン達がわらわらしている上を文字通り舞い飛ぶグラナード。いつの間にか褌一丁で飛び回っていた。
精霊合身によって得た炎の翼で羽ばたき、尻を振ってトークンやCサウルスを引き付ける。
触手に脚と大きな口が生えたようなトークンはCサウルスの体の一部、切れ端とは言っても体長はグラナートと同じくらいある。
「不死鳥のように舞い〜一角獣のように刺す!」
ジャンプして噛みついて来たトークンの咢を躱して、右手の炎の槍を突き刺す。
焼かれて動きが鈍ったトークンと入れ替わりに迫ってくる多数のトークン達を紙一重で躱し続け、避けきれず噛まれても構わずに囮として振る舞った。
フェニックスと合身している彼にとって、一度の死亡くらいはリスクにはならない。
だが、股間の角でトークンを貫いた直後、精霊合身が切れ、翼を失った彼は地に堕ちた。
「ちょ、ちょっとタンマ!」
と叫んでも誰も聞きやしない。迷わず薬を取り出し(どこからかは伏せさせていただく)飲み干せば、後はジニールの速薬が切れる前に逃げるだけだ。
ちょうどその時だった、ライラからのテレパシーが来たのは。
『――まできてください。そこできょうりゅうおうさまをあしどめしてるそうです』
◆恐竜王足止め
そいつは、悠然と歩いていた。
ただ歩くだけでジャングルを切り裂いている様に見えるその巨体ぶり、周囲に変異恐竜達を伴う様は、正に恐竜の王。
超変異ティラノサウルスとお付きの恐竜達を現実の時間軸で見つけた恐竜王捜索班は、すぐにエターナのライアンで本隊を呼び寄せ、Cサウルスの到着を待つ。
だが、巨体な分だけ、変異恐竜達の移動スピードは速い。足止めできた方が作戦は遂行しやすいか。
その役目を受けたのも、エターナであった。
王ともかつて対峙した彼女の心には、他の者よりも期するものがあった。
配下の変異恐竜達が騒ぎ立てるのを、王は身振り一つで納めた。
変異恐竜達が見下ろす先にいたのは、エターナ一人。
両手を挙げて戦意がない事を示している者を一方的に攻撃するほど、この王は野性的ではなかった。
久しぶりの上等な獲物に気を昂らせる配下をなだめ、王はコモンの言葉に耳を傾けるべく、同様のサイズへと擬態した。
その瞬間であった。
「一瞬の刹那、獲るのは私だ!」
擬態直後に王が振り向くのと、ホルスで転移したジン(
tj6129)が斬鋭剣を振り抜くのは同時であった。
コモンサイズになった瞬間を狙った不意打ち。敵の驕りと油断に付け込んだ、仕留めにかかった最期の一刀。
そのつもりだった。
王の背中を袈裟懸けにした一刀は、相手の肌の上を綺麗に滑り、服と薄皮一枚を割いただけ。
あまりに想像と乖離していた手ごたえに、ジンの思考が止まり、王が擬態を解いたのに気づく事もできずに巨大な脚に蹴飛ばされた。
地面を転がるジンに変異ティラノや変異アロサウルスが追い打ちをかけようとするが、その前に再び転移しジンは姿を消した。
襲撃者が姿を消し、代わりに訪れたのは沈黙。
交渉を始める前に決裂してしまったかと、エターナが固唾を飲むが、王はまたもコモンの姿をとった。
「まだ彼我の実力差がわからぬか、愚かな‥貴様もまさか、こんな事の為に我の前に戻ったというのか?」
まだ向こうが聞く耳を持ってくれるのなら、やるしかあるまい。
エターナは、今までの仲間の攻撃を詫びると、改めて攻撃の意思がない事を示し、交渉するべく質問を投げかけた。
「世界がカオスに沈む昨今、貴方様はなぜ孤高にてこの地に君臨しようとなさるのです?なぜ贄を求めコモンを害するのです?ドラグヘイムからコモンが消えれば、我々が争う理由は無くなりますか?」
彼女の問いは、時間稼ぎの為のものだ。だが、その質問自体は彼女が実際に感じたもの。
本気の問いに対し、王は沈黙の末に頭を振った。
「この地に生まれた王なれば、この地を納めるは当然の事。貴様らコモンも、家畜を飼うのであろう?もし家畜にそう尋ねられたならば、どう答える。聞くまでもなかろう。最後の問いは猶更、争う両者の片方が消えたのなら、理由が無くなるのは当然であろう」
尊大な口調による傲慢な回答。微かな希望を踏みにじられてもエターナは次の言の葉を紡ごうとするが、王は拒否して擬態を解いた。
交渉は決裂した。
足止めとしても多少物足りないが、脚の早い者達であれば、もうすぐ着くか‥?
ならば、先にやっておかなきゃならねぇ、とこの男は判断した。
「蜥蜴野郎が上から目線で吠えやがる‥阿保はどっちか教えてやるよ!」
王の頭上に忽然と姿を現したのは、銀髪鬼グレイ(
tk2122)。
被った金の冠で転移した彼は、王の角を狙って破壊の一撃を振り下した。
だが、鼻を鳴らした王は、その一撃を余裕で避けた。更に、右に続けて繰り出された左をも。
右を避けられた時点で、左も届かねぇかとヨガマスターで腕を伸ばした変則的な連撃も、振り落とすつもりで大きく振られた頭には届かず。宙に取り残された体はそのまま落下した。
先に折っておかなければ、Cサウルスも王には太刀打ちできないだろう、と勇んだ結果だったが、一度受けた不意打ちのパターンは、警戒していたようだ。
魔的な体のおかげでダメージなく着地したものの、取り巻きの変異種達に集られ、グレイは王から引き離されていく。再度転移しようにも、恐竜達に囲まれた状態で3秒念じる隙はなかった。
茶色いトリケラトプスの突進を受け流しながら、どう態勢を立て直すか考えていると、段々と地響きが聞こえて来た。
誘導されたCサウルス達が押し寄せて来たのだ。
「みんなやっつけたなら、大丈夫そうな恐竜の肉を料理して、町の住人も誘って食べよう」
ショコラの提案に乗るかの様にCサウルスが嘶き、
「そのぐらいの攻撃で、私の守りを崩せると思わないで」
早速始まった乱戦の最中にセツナが駆け込み、恐竜達の攻撃を防ぎ切ってCサウルスを残して離脱し、
「姉様たちをお助けするの〜」
クルトも、姉達の作戦を助ける為に、姉達の役に立つように、その一心でCサウルス達を引き連れ、王へ立ち向かっていった。
それからは、Cサウルス達と変異恐竜達の怪獣大決戦の様相を呈していた。
トリケラが3本の角をCサウルスに突き立てれば、無防備な後ろから別のCサウルスが飛びつき噛みちぎる。
新鮮な肉に喜ぶCサウルスをパキケファロが頭突きで弾き飛ばし、纏まった所を赤いアロサウルスが炎の息でこんがりと焼く。
配下よりも巨大な王にもCサウルスの牙はむけられるが、数は多くなく、王が軽く爪を薙いで蹴飛ばす。
乱戦に紛れて銃弾も飛んでいるが、遠距離から王の角を正確に捉える程の技は足りず。
怪獣大決戦に巻き込まれて抜け出せずにいたグレイはその様子を視界の隅に捉えて舌打ちした。
配下はともかく、現状で王に傷をつけるのは、難しく感じられた。
戦いの趨勢に関して、グレイと同様の感想を持ち、動き出した者がもう一人いた。
「なれば、少しは力を貸してやるとするかのう」
巨大な影同士が激しくぶつかり合う戦場に、彼等に対してはあまりにも小さな影が舞い降りた。
彼女は以前の戦闘の経験から、Cサウルスにその魔法が通じる事を知っていた。
なれば、変異恐竜にも効くのではないかと、優勢な勢力の邪魔をするべく、介入した。
巨大な敵と戦っているときに小さな存在は、目に留まらない事もあるだろう。どさくさ紛れに変異パキケファロに触れると、
「シルドラの変身術じゃ」
次の瞬間、ごつい頭骨を持った変異恐竜は、一体のアザラシへと変異した。そう、どんなに巨大で凶暴なモンスターであろうとも、アザラシにしてしまえば関係なくなる。
大した抵抗も出来ずにCサウルスの胃に収まるアザラシを横目に、シネラリア(
tj2817)が高度を上げようとした時にはすでに頭を巨大な顎に押さえられていた。
アロサウルスの強靭な牙が彼女の小さな体に食い込み、羽根がちぎれ飛ぶ。
変身術は効果が絶大な分、射程が接触。悪戯で済まない相手に使う時のリスクは甚だしい。
アロサウルスにも変身術を試すが、抵抗されたのか変化しない。
噛みちぎらんと顎に力を入れたアロにCサウルスが飛びついたおかげで口から零れたシネラリアを、ライアンの月道を通ったゲオルク(
tk7770)が抱き止め、すぐに引っ込んだ。
「治療頼んだ」
シネラリアを他の者に託すと、ゲオルクはすぐに直刀を抜いて戦闘に加わった。
少し離れた場所で待機していた本隊だが、誘導中にはぐれたCサウルスやトークンの襲撃がちょくちょくあったのだ。
ゲオルクは、力を温存している本隊をそんな危険から守る護衛的な役割だった。
「でかいのはキツいけど、せめて露払いくらいは――」
と考えていた彼だったが、予想外に動きが良いトークン相手にも苦戦していた。
そんな彼が取りこぼした敵は、ダーヴィト(
te5488)が纏めてソードボンバーで吹き飛ばす。
「ここで下手に体力削るワケにゃいかないだろ?」
本隊に代わり全力で敵に対処するダーヴィトの活躍で確りと護れていたが、ゲオルクにとっては、両親が戦って来た場所の苦労や責任の大きさを再度痛感させられることになった。
◆恐竜王戦
Cサウルス誘導組が、何度か誘導を繰り返し、波状攻撃によって周囲のCサウルスを使い果たした頃、地上で残った変異恐竜勢は、変異ティラノと王の2体。
空に目を向ければ、王から離れた所を、プテラノドンやケツァルコアトルらの翼竜が飛び交っていた。
そんな翼竜達のターゲットになっていたのは、ペガサスを繰るアーク(
ta0476)、箒に共に乗るデューク(
ta8358)とアーシャ(
tb5897)のレイクウッド兄弟。
Cサウルスがおらず、変異恐竜達の不得手な空からの接近を目論んだのだが、王はこちらにも兵を配置していたようだ。
一体一体は彼等の脅威足り得なくとも、四方八方から妙に良い連携で攻められると、一筋縄ではいかず、足止めを喰らわされていた。
そうして、彼等が到着する前に、地上では最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
二つの巨体の前に踊り出たドラグナーは10にも満たない数だった。
「サンキュー!ダーヴィト!」
「頼りにしてるぜー」
「ああ!いくぞ!恐竜王。今度こそ決着をつけてやる!」
その一番槍となったのはリュード(
tk7218)。
リャマ(
td7895)が変異ティラノにメギドを放ち牽制する脇を、リュードが精霊合身で得たスピードを活かして全力で駆け抜け、王の古傷を抉る。
チャージングで足が止まってしまった所を王が反撃し、頭からかぶりつくが、そこは他の者が攻撃するチャンスにもなった。
アスク(
tb9862)も、CROSSが取り付けられた聖なる銀剣で最大限力を込めるが、王の硬い鱗には傷すらつかない。
「気を逸らせれば‥」
リュードと反対の肢をジルヴァがミスティストーン製の槍で突けば、何とか刺さった。だが、莫大な生命力からすればかすり傷もいいところで、
(それすらできないかもしれないけど)
と心配になる気持ちも分かる。
されど、弱気になっている場合ではない。
「絶対、決着つけるわよっ!」
アビゲイル(
tk0485)のように、元気に叫んで戦うしかない。いや、叫ばなくてもいいかもしれないが、希望はあった方が良いだろう。
チャージングで勢いをつけたサメの歯の騎乗槍ですれ違いざまに胴体を叩っきれば、それと分かる引っ掻き傷が生まれた。
炎の攻撃魔法の効きが今一つだったために、ブランナイフで戦うリャマが変異ティラノ相手に苦戦する。苦戦を感じさせる中、戦況は早くも大きな変化を迎えようとしていた。
爆音を伴い撃たれた銃弾が王の頭を掠めた。
惜しくも外したアリシア(
tk6251)が、混沌合身で融合した火縄銃に給弾しながら照準を覗いて誤差を修正する。
「うちは役にたつ人形です。残弾には限りありません。この身の合身続く限り角を狙い撃ちつづけます」
前線から離れた樹の上から狙った角が、先に弾けた。
「その角、もう一度折って差し上げます」
小さく呟くと共に破壊弓から放たれた石造りの鏃の矢が、計算通りの軌道を描いてピンポイントに王の角を捉えて砕いたのだ。
目標の破壊を確認すると、父の作った指輪を意識し、自ら作った弓に次の矢を番える。
アリシアと別の樹の上に潜んだシェーン(
ti5753)は、静かに次のターゲットに弓を向けた。
「よし、ここだYO――ファイアサモン」
2本目の角が折られたことで魔法が効くようになったはず。これまた二人と別の場所に控えていたアシル(
tb5534)が図鑑を媒介にフェニックスを召喚すると、傍で待っていた本物の同種と共に、王へと差し向けた。
王の周囲では飛べず、二羽が歩いて距離を詰めていく姿はなんだか珍しい。
「うにゃ、目のー前方にー苦手ーあるーするーんだー」
シグナルフェザーで得たチェロ(
ta2036)の発言に王がギョロリと彼女を睨みつける。だが、チェロも狩りの心得を持つ者として獲物に怯みはしない。
王がチェロに向かって大きく踏み込み咢を伸ばすが、ワイバーンが代わりに体で受け止め、主がエエンレラで冷気を纏ったダガーを顔面に振り下ろせば、オーバーな位に激しく避けた。
やはり狙い目だ。
2体の火の鳥から2つの火球が放たれ、空中で弾けた爆風が王の頭部を襲う。
焼けた空気を払う様に巨体を大きくくねらすのは、効いている証拠か。
「こちらもいきます」
ライラのルナティックアローも恐竜達を襲う。変異ティラノは平然と、王は尊厳をかけて全て抵抗した様だが、魔法での援護に、前戦で戦う者達が大きく勇気づけられた。
だが、王の方もすぐに次の手を打つ。
今まで空中で戦っていた翼竜達の一部を、今度は狙撃手達にけしかけたのだ。
押し寄せる翼竜達を、狙撃手は降りかかる火の粉を払う様に撃ち落とすしかなくなった。
距離によっては、撃ち落とす以前に墜ちて来て、地上戦にもなったが。
援護が薄くなれば、再び前衛で戦う者達の負担が重くなる。
攻撃の手を緩めない様にはするが、一撃一撃が重い王のプレッシャーに肉体も精神も一気に疲弊していく。
リュードが王の爪に薙ぎ払われ、リャマが変異ティラノに噛みつかれ顔を歪ませた。チェロがダガーで変異ティラノを追い払い、その間にアスクがエンゲルで回復するが、その一拍の間に王が思い切り息を吸い込み、ドラグナー達に全力でブレスが吐かれた。
この世のものとは思えない禍々しい息が前線のドラグナー達を巻き込み、苦しめる。
更に、ジルヴァが思わず怯んだ隙に噛みつかれると、そのまま飲み込まれてしまった。
こうなると早く倒して救うしかないが、チェロに送られてくる信号から読み取れる王の生命力は、まだまだ尽きそうになかった。
次いで勢い任せに突っかかったアビゲイルのチャージが避けられ、無防備に見せてしまった背中に王の牙が迫る。咄嗟に差し出したランスも間に合わずにまともに牙が食い込んだ。
瞬間、王が巨体を一瞬で一回転させ、背骨やアバラ骨ごと肉をごっそりと噛みちぎった。
密林に響く悲鳴。
その数は、すぐにもう一つ増える事になった。
仲間が混沌のブレスに飲み込まれた際も、仲間が王に飲み込まれてしまった際も、チャンスを待ち歯を食いしばって耐えて潜み続けた者は何人かいた。
トスカ(
tk1650)もその一人だ。
(チャンスは必ず来るわ‥!)
最初の狙撃タイミングでも我慢した彼女の元には翼竜も仕向けられず、まだじっくり狙いを付けられた。
ミスティンアローを番え、ミドルボウを引き絞ったまま撃ち出す機を伺い続けた。
そして、王が大技を繰り出し、動きが止まった瞬間、放った。
小さな種族のプライドを懸けた渾身の一射。
気持ちが込められた矢は仲間の悲鳴を切り裂いて一直線に森の中を抜け、王の3本目の角を貫いた。
(――これが小さな小さなパラの大物相手の狩り方よ!コモンへの横暴と慢心、後悔しなさいッ!)
トスカが込めた想いの大きさに応える様に、矢は奇跡的に貫いた角を折り、王が大きな悲鳴を上げた。
3本目の角を失うと、王自身の変化は読み取れなかったが、周囲が変じた。
翼竜達も変異ティラノも、突然動きを乱し、背中を向けて逃げ出したのだ。
残された王は配下に頼れず、トスカの潜んでいた方へと出鱈目にブレスを吐く。
余波が他に潜んでいた者達にも及び、もはや潜むのはこれまでと、残りのドラグナー達が飛び出した。
「さあ、お行きなさい。全てを引き裂く、わたしの闇を裂く紅蓮の狼爪!」
「ああ!この闇を裂く紅蓮の狼爪に引き裂けないものはない!」
妻のシグルーン(
tk5329)から受けた飛び切りのルミナパワーをその爪に宿し、ヴォルフラム(
tk2108)が力強く吠えた。
「三度目の正直だ‥今度こそぶっ倒してやんぜ!」
ハヤト(
tk2627)も爪に宿すは仲間のルミナパワー。託された意志を体に宿して王へと挑む。
狙撃班が頭部を狙い、弾丸が通過した直後、跳躍したハヤトが目を狙う。
噛みつきが得意な敵の真ん前に跳びつくのは自殺行為にも思えたが、弱点付近を殺意を持って狙われれば、流石の王とはいえ身を引いて防御に徹した。
狼の尾をイタチのそれに変え、黄金色の光を纏うハヤトの連爪撃が顔面に無数の引っ掻き傷を作っていき、王の意識を完全に頭部に引き付ける。
そうすれば、今度は足元狙いがより効果的になる。
ヴォルフラムが自慢の剛腕を振るって、強堅な後肢を挽肉にするつもりで全力で引き裂いた。
「その巨体‥地に沈めてやる!」
リュードの全力の恐竜特攻も重なり、受けた痛みに思わず王の膝が崩れた。
すかさず上に下にとドラグナー達の攻撃がたたみかけられる。
王も、されるがままにはされずに、集る蠅を払う様に尻尾や前肢を振るう。が、完全に意識は地上に引き付けられていた。
恐竜王最後の角は、唐突に、あっけなく折られた。
王が、悔しさを顔に滲ませて見上げた先にいたのは、白鳥の翼もつ白馬と並び、黄金色に輝く体で次の攻撃を放とうとしているアークだった。
翼竜達がいなくなったことで接近できたアークが、上からソニックブームで斬り飛ばしたのだ。
巨大化した体で続けて繰り出される二振りの剣と蹴りの連撃を王が甘んじて受けながら、垂直に飛び上がる。
50mの巨体にとって、30m弱の距離などひとっ跳び出来る距離だ。
小賢しい蠅を銜えて地面に落とすべく大口を開けた恐竜王、アークも巨大化の影響で回避行動が遅れた。
たが、王は大口を閉じる前に、目を閉じさせられた。
フレディ(
tf2252)のCROSSを首から下げたデュークの投擲したグングニルの槍が王の目元を襲い、ジャックで飛び回るアーシャがゼウスの稲妻で王を焼いた。
「うにゃー。もうーとべるーできるーするーんだー」
チェロがワイバーンに羽ばたかせると、いつもの様に空へと舞いあがった。
成果なく着地した王へ尾の針を突き刺したワイバーン。王から爪で殴り返されるが、堪えた様子はない。
「オラァ!今度こそ狩ってやんぜ!!」
なおも目を潰しに来るハヤトに今度は噛みつく王だが、噛まれたハヤトも痛がらない。飲み込まれると厄介なので適当に抜け出したが、これはそういうことだろう。
「飛行禁止も魔的な体も失ったか」
ヴォルフラムがまた脚を切り裂きながらニヤリとした。
元々全く恐れていないが、これで狼達にとっては魔法が切れるまで一方的に狩れる獲物になったわけだ。
他に、精霊達もいる。
時間が切れて戦力ダウンする者がドラグナー達にもいたが、それを差し引いてもドラグナー側が優位に立った瞬間であった。
王も、今まで通り恐竜達を従える王で在れたなら、体制を整える為に一度引く事も出来たかもしれない。
だが、ひとり劣勢に立たされた裸の王に、その選択肢はなかった。
勝ち目を失ったと悟った王が沈黙する中、勢いづいたドラグナー達が一斉に攻め立てる。
喉元に銃弾が当たると嘔吐き、意識を失ったままのジルヴァが吐き出され回収された。
王が苦しみ出すと更に体が膨張し、生命力の感じられない肌が溶け出し始めた。
そして、断末魔の如く叫んだ後に、一条のブレスが遠方に放たれた。
今までのものとは一線を画した、禍々しい混沌とした光線は薙いだ範囲を密林ごと焼き払った。
森が炎上し、地形すら変わる光線に、ドラグナー達は固唾を飲んだ。
恐竜王の最期の足掻き。
ドラグナー達を道連れにするべく吐き出される光線は、ガードナーの盾を何枚重ねても、全て貫いてくるかもしれない。
アマテラスの結界に籠っても、周りを焼き払われれば、激しい炎の熱に晒される。
されど、自壊し死する運命が定まった者に付き合わなければならない謂れはない。
エターナがライアンを唱えると、怪我人や意識不明者を運ぶ者から順に月道へと逃げ込んだ。
全員が月道を通った事を確認すると、エターナは最後に振り返った。
力の暴走のまま暴れて自壊していく最期のドラグヘイムの王の姿に、なぜかコモンヘイムの行く末が重なったような気がした。