担当MS:あつし

【TC22】シェナイ

開始料金タイプ分類舞台難易度オプション状況
16/11/29 24:00600 Rexチエツホ・、・ル・・ネ・キ・ハ・・ェ冒険地上仙級お任せプション 89人

オープニング

◆シェナイとフロリンドの街
 パルージャ帝国のシェナイが、フェンリルの復活を目論んでいる可能性は高いと思われた。

 現在シェナイは、ゼスアレオ王国南西部にあるフロリンドに滞在中だ。ウニオンへの対応とか通商条約の更新といった外交目的だという。少数の護衛と子供達を連れている。
「フロリンドの街? ですか?」
 エストリアは、不吉な予感に眉をしかめた。
 フロリンドの街。
 街には、かつて起きたアンデッド化事件を防ぐ為の、魔法がかけられていると言われている。
 ここでは、タイコの作り出した魔法のベルが唯一作用する。
 タイコにはまだ、戻っていない記憶が存在するようだが、ここに何らかの関わりを持っていたのではないか――。

 そんな考察が形になる前に、シェナイの行動がはじまっていた。

◆占領
「頼むでおじゃる」
 指示を出すシェナイに、灰色をしたサンドラ風のジャッカルのような犬が、やれやれといった表情で彼女を見返ている。
 妙に人間臭い表情をした犬が先行し、街にある『月の塔』と呼ばれる古代の灯台へ。そしてシェナイ達は突如、警備兵に襲い掛かかる。

 警戒は薄かった。
 シェナイに随行する兵はそう多くはなく、そのほとんどが子供で、中には5歳に満たない者もいる。ゆえに、シェナイが軍事行動を起こすとは、誰も予想していなかった。
 油断していた守備兵を蹴散らし、シェナイは瞬く間に『月の塔』と呼ばれる古代の灯台を占拠してしまった。

 すぐに街は奪還に動き、兵達は塔を包囲。
 だがシェナイ達は思いのほか強い。
 ジャッカルは強力で、子供たちは高度な魔法を使う兵であり、魔法兵力の殆どないフロリンド兵では攻めきれない。
 塔の破壊も考慮されたが、準備を進めていた大砲が、小さなナーガ族による空からの攻撃で破壊されてしまう。それに、塔はかつて起こったアンデッド化事件を防いでいるとの説があり完全破壊が戸惑われる。
 兵糧攻めに切り替え、他の都市へ援軍を要請。対するシェナイ側はラゴン島から援軍を呼び寄せているらしい。
 シェナイの軍事行動は明らかに独断専行で、パルージャ帝国が止めに来る可能性があるが、現在サンドラ地方で反乱の気配があり、パルージャ帝国が動けるか、動いているかは不明。

 現地にいたドラグナーは、不穏なものを感じながらも、対処を迷っていた。
 何か意味がありそうな行動。けれど、ゼスアレオ兵の死者は「ゼロ」。派手な行動に移せない。
 『実はシェナイはいい人』などの可能性もないわけではない。真意を探る行動にとどめ、話し合いの呼びかけを行うくらいしか手は無い。――あとで思えば、死者を出さなかったのは、わざとだったのだろうけれど。

 そうこうしているうちに、事件は最悪の方向へと進んで行ってしまう。

◆タイコ
 シェナイの月の塔占拠から数日後。
 開かずの間に設置された魔法装置を使用して、フロリンドの事件を思わせながらタイコの記憶を呼び覚ます。
 シェナイという恐怖と戦ったタイコ。
 かなりの疲弊が伴いながら、フェンリルの封印につながる最後記憶が呼び覚まされる。

「わ、わかった。思い出した」

 タイコはどうにか思い出した。恐怖と自身に受けたダメージから、眠ってしまっていた、最後の記憶を。
 フロリンドの街の話を。
 ――それは、かつてフロリンドの街に起こった事件。アンデッド化事件とは、フェンリルの呪いによるものだったという記憶だ。

「一体なぜそんな事が起きたのですか?」
「フェンリルって封印されてるにも関わらず、コモンヘイムに呪いの力を及ぼしているらしいんだよ。で、なぜか、フロリンドの街ではその力が強く働いていたみたい」
 それを知った大昔の魔法使いが、あろう事か、フェンリルの力を利用するため封印に干渉しようとした。
 その時作り出したのが、『月の塔』と呼ばれる塔である。今ではデートスポットのようになってしまっているが、れっきとした魔法の建物なのだ。
「けど、完成当時は上手く動かなかったらしいね」
 主である魔法使いが没し、塔が建てられた目的を知る者がいなくなって長い月日が流れたある日、不幸にも、月の塔が作動した。
 突如、開かれた魔法のゲート。
 フェンリルの呪いが漏れ出て、コモンを半獣半死体へ変えるという恐ろしい現象が起きた。これが、フロリンドのアンデッド化事件の真相だ。
 紆余曲折を省くが、街の名前にもなっているフロリンドという名の貴族がゲートを閉じる事に成功する。
 歌の力を集める結界を作り、輝きの広場が歌と踊りに包まれている限り、以後、月の塔が作動することはなくなった。

 フェンリルの封印を守っていたラゴン島のドラゴンは、この「封印の裏口」とでも言うべき月の塔の存在に気づいたが、対策を練る前に、シェナイに敗北。
 酷く傷ついたドラゴンは、記憶と人格をもつ分身体であるタイコを作って、スカイドラグーンへ向かわせた。 
 その一方で、ドラゴン本体は最後の力を振り絞ってフロリンドに行き、結界と同化したらしい。
 それからずっと、結界となったドラゴンは幸せの力を集めて結界を維持している。
 「幸せの水晶」は、結界を維持する以上に幸せが集まった時にドラゴンが作り出す副産物であるようだ。

「では、シェナイがフロリンドで月の塔を占領したというのは――」
「うん。月の塔を作動させて、フェンリルの封印への扉を開く。そのつもりだと思う」
「何か対策は?」
「対策はふたつ。ひとつは、シェナイを倒して、月の塔を止めること! もうひとつは、弱まっているフェンリルの封印を、もう一度やりなおすこと!」

◆幸せの水晶
 事件は、シェナイが先手を取る事に成功してしまう。
 月の塔が、その力を発動させたのだ。
 フロリンドの輝きの広場からは、呪いの煙が噴き出し、呪いの怪物が街に出現し、人々が獣と化してしまう。
 広場ではバザーを中断し、フラメンコを奏でていた音楽家達は楽器を手に右往左往している。争いが起こり、円形闘技場から逃げ出したデペドロ牛がなだれ込んで来ている。
「音楽どころじゃないな。ジュニアル団のみんな、ひとまず避難だ!」
「こっちだ! カルラ母さん、はやく! ひとまずあそこの‥‥宿屋エスタシオンに」
「落ち着いて、ユリアウス三世‥‥」
 人々は、大聖堂や宿屋など、比較的安全そうな建物に避難する。しかし喧嘩の起こった飲食店などでは、内部でウォーグが発生したりもしているらしい。
「くそっ、どうすりゃいいんだ」
「まずは、落ち着くしかないかな」
「そうは言うがジュニアルばあさん‥‥奇跡でも起こらない限り、これは」
「起こるかも、しれない。この街では、不思議な事が良く起こるんだ。親切なひとたちが、良く表れて、去って行くんだ。わたしが今あるのだって――」

 そんな会話に割り込むように、月道がレストランに開かれた。登場先行したのは、先行してやって来たドラグナーとタイコ達。

「あ、皆さんどうも」
 タイコがぺこりとご挨拶。
「うぇ!? 誰?!」
「詳しく説明している時間は無いけど! あたし達はドラグナー! みんなを‥‥助けに来たよ!!」
「マジで?」
「‥‥ほらね。ここは、そういう街なのさ!」

 ドラグナー達は呪いを弱める為に、すぐに輝きの広場に向かう。
 使うのは、幸せの水晶だ。こんな時の為に、みんながコツコツ集めてきた、魔法の宝石。それをおもいっきり、輝きの広場にぶちまける。

「もう出し惜しみ出来ないから、全部使っちゃうよ!」

 フェンリルへの転送の扉は閉まらない。けれどばらまかれた幸せの水晶は、呪いが湧き出てくるのを防いでいく。
 これによって、ひとまず強力な眷属はこちらにやって来る事は無い。
 呪いは断続的に拡散し、人々をウォーグに変えていくだろうが、緩和した事によってゾンビ化して朽ちて行くような事態は減ると思われる。
 あとはシェナイとフェンリルを何とかするしかない。

◆前哨戦
 時間は夜。
 フェンリルの封印をやり直す部隊は、輝きの広場からラゴン島に転送されていった。

 ここに残る者達で、シェナイと戦う事となる。

 塔は今も、ゼスアレオ兵達に包囲されている。
 ドラグナーとタイコが月の塔に接近する。すると月の塔から出て来たシェナイが、ひょっこりと顔を出した。
「どうやら、何かに気づいたでおじゃるな」
「お前が‥‥」
 ドラグナーの後ろからタイコが声をかけると、にやにやとした表情をシェナイは見せた。
 
「グェヘ‥‥そう、犯人はわらわでおじゃるよ」

「うてー!」
 その言葉を聞いてか否か、ゼスアレオ兵達はシェナイに向けて矢を放った。放物線を描いた矢の何本かが、シェナイの頭に突き刺ささった。
 ‥‥かに見えた。
 だが、無傷。
 矢は地面に突き刺さり、シェナイに何の効果も与える事が出来ない。
「!?」
「ほーれ」
 シェナイが右手に持った扇を投げつけた。くるくる回転した扇が、指揮官の足を切り飛ばした。
「うわああああ!!」
「た、隊長!!」
「構うな! うて、うてぇー!」
 再び矢がシェナイを襲うが、やはり効果が無い。
 ならば魔法だと、ドラグナー達が魔法攻撃をかけるが、これも効果が無いようだ。
「な、こんな‥‥無敵なのか?」
「いや、矢が一本だけかすってるみたいだけど」
 タイコが厳しい視線を向ける。とても低確率で無効化されない事もあるようだが、100回に1、2回のレベル。
「なかなか面白い能力でおじゃろう?」
「外部から力を受けてるのかな、詳しい理屈はわからないけど」
 見ると、時折シェナイから光の糸のようなものが見える。
 力を外部から受けている。その外部の力を排除してしまえば、この力も無力化されるかもしれない。

 ただ敵は彼女一人ではない。その上、厄介な事に、ゼスアレオ兵達は足でまといにしかならない。ウォーグと化す可能性もある。
 さらにシェナイの背後からは、サンドラチックな灰色ジャッカルが勢いよく飛び出してくる。

 配下の数名の兵が人狼の姿に変貌すると、シェナイの脇を固めに入る。ウォーグ兵と呼ばれる者達。近接攻撃に長ける。
 そしてその後ろにいるのは、子供たち。
 魔法少年兵。小さい者は3歳くらい。大きくても14歳くらいか。
 そんな彼らがシェナイの後ろや、月の塔の上に配備されている。この展開について来れていないのか、何処かおびえた表情をしている者も多い。

 だがその魔法の威力は折り紙付きだ。
 今も、シェナイを巻き込むようにして、ゼウスの魔法が飛んできている。‥‥範囲魔法も無力化するようで、シェナイは無傷で魔法だけが突っ込んで来ていた。

 魔法少年兵の種族は様々だ。
 ケットシー。ドワーフ。ナーガ族の子も一人いる。

 シェナイから伸びる光の糸は、少年兵たちとつながって、無敵能力を得ているようだ。
 ひとつはそのナーガ族の子から力が供給されている。他の魔法少年兵達から力を受けているし、月の塔の上にいる者ともつながっている。

「光の糸がつながっている子をなんとかすれば、シェナイの無敵が解除されるかも」
「グヘ、いい気づきでおじゃるなぁ? ではひとつサービスでおじゃるゥ。わらわと光の糸でつながっている者をすべて殺せば、この力が、解除される。それに月の塔を止めるのにも、効果的でおじゃる。おっとー、これは盛大なネタばらし!」
 グエェヘヘヘと、シェナイの笑いが響きわたる。
「な、なにをはったりを」
「確かにハッタリかもしれんでおじゃるなぁ? んん〜っ?」
「‥‥ぐっ」

 では隔離してしまえと、プリズマティクフィールドやルナティックフィールドを行使するが効果は無い。

 そうこうしていると、月の塔の屋上が、水の塊につつまれて、壁面の無い不思議な水の水槽のようになっていた。
 ウォーターワールドか何かなのだろう。
 水によって防御しつつ、杖やクロスボウだけを突き出して攻撃して来ると思われる。中はメロウや水中呼吸の出来るものばかりなのだろう。ちなみに少年と呼称されているが、少女もいる。

 タイコは言う。
「わかってるの? フェンリルが出てきたら、世界は滅茶苦茶になるし、シェナイも無事ですむとは思えない」
「まぁ、一応、幾つか対策も考えているでおじゃる。そのひとつがウォーグ兵であり、その魔犬に間を取り持ってもらうつもりでもある。フェンリル殿も、罪深き者たちを罰した後は、全部を消し去るような事は行わないと考えられるし」
「な、なにを、そんな悠長な‥‥」
「それでダメなら、もう見守ろうと思うでおじゃる。仕方無いのでおじゃるよ、この感情は‥‥愛ゆえ、なのでおじゃる。他の案も考慮したでおじゃるが‥‥今はこの展開が気にいっているでおじゃるよ。‥‥気にいらんかえ?」
「あ、あたりまえだよ!!」
「そうでおじゃるか? ‥‥ドラグナーは、案外、形の見えぬ世界の平和の為の戦いよりも、わらわの気持ちをわかってくれると思ったでおじゃるがなぁ? ほれほれ、わかる人? 手を挙げてみろでおじゃる」
 危機感を覚えたタイコが悲鳴のような声をあげた。
「き、気をつけて! シェナイは、仲間割れしたり困惑したり迷ったりしていると、こっちの心をおかしくして来るから!」
「そんなに怖がる必要は無いでおじゃるよ? さて、そろそろ始めようでおじゃるかぁ!」
 戦いが始まろうとしている。

◆その他状況
・ドラグナー達は、シェナイの撃破が目標です。シェナイを倒せば、月の塔は機能を停止します。
・シェナイ達は、シェナイとジャッカルを先頭に、月の塔から出て、向かってきます。ドラグナーを蹴散らしてフェンリルの元へ行かせないのが目的です。
・月の塔は海岸沿いに立っており、ドラグナー達を挟んで塔の向こう側(南側)は海となります。
・ドラグナー達は主に、輝きの広場と月の塔の間に布陣しています。市街地ですが、ここから月の塔までの住民は避難が済んでいます。ドラグナー達の後方、輝きの広場のほうからは、ウォーグ化した住民が出没する事があります。
・ドラグナー達の絆が弱まる事で幸せの水晶の力が弱まります。これにより、後方やお店等で事件が発生する可能性があります。
・月の塔の意図的な破壊は様々なリスクがある為、実施できません。

「。ナミセ」ホ」ミ」テ
。。・ソ・、・ウ(tz0022)。ヲ0。ヲ。ゥ。ヲキ。ヲ。ゥ

◆マスターより
1.このシナリオはTirnogear Chronicle【TC22】復活の魔狼 のメインシナリオです。フロリンドの街でシェナイと戦います。
2.全体イベントシナリオは、ボツ有りプレイングとして処理され、特にMVPを中心に物語が展開します。
3.選択肢をプレイング第1行目で【ア】【イ】のように記入し、次行より本文を続けてください。今回、複数選択は不可とします。
4.選択肢未記入、白紙者は原則居ないものとして扱います。但し、他の参加者のプレイングや状況によって、居なければ多大なマイナスが生じるケースでは登場する事があり得ます。

◆選択肢
ア:シェナイら敵前衛との闘い中心
 シェナイと、護衛のウォーグ兵などと戦います。但し魔法少年兵の攻撃も普通に受けるし、魔法少年兵が前衛に回る場合もあります。
 上手く混乱しないように戦えると良い判定となります。

イ:魔法少年兵、子供兵ら、敵後衛の対処を中心
 敵後衛を狙い、シェナイの無敵を解除したりします。
 但し後衛狙いを、敵の前衛は邪魔をして来る為、シェナイらと戦う羽目になる事もあります。
 上手く戦うと良い判定になります。

ウ:他の対象との戦闘中心
 輝きの広場から呪いが湧き出た場合の対処、住民がウォーグ化した場合の対処など、ア、イに当てはまらない状況を想定した戦闘。この選択にあまり人が集まらなくても、攻略は可能です。
 何も書かなければ、ドラグナーの後で、シェナイ達と戦う仲間を守る形になりますが、積極的に輝きの広場まで戻ったり、移動したりする事も可能です

エ:その他
 その他行動です。全体的に連携を高めたりする、何か話したりする等。

リプレイ

◆輝きの広場
 月は明るい。
 街の中心的な場所ゆえ、かがり火が多く揺らめいている。それでも広場は、陰鬱だった。
 黒く歪みが見え、空気も淀み、匂いまでもが暗鬱に香る。

 シフールのシャインアイ(tj3923)の声が、いつもより静かに聞こえた。
「けっこう、くらいね〜?」
「そうですね。ここが輝きの広場――」
 スィエル・アーベント(tc0760)が、広場の名を口にする。その名から想像出来る場所とこの広場は、かけ離れた物に感じる。
 妻テテュス・アーベント(tc0850)が振りまく表情が、広場に相応しいのが救いか。
「踊りにくそうな雰囲気だけど、頑張るよ、スィエル!」
「ええ。もちろん、頼りにしています」
 すり寄るテテュスの頬に、スィエルが手のひらを当てる。

 ここには、タイコのかつての姿である、ドラゴンの力が働いている。
 悪い力は竜の力に由来して作られた幸せの水晶をばらまいて対処している。最悪の事態には陥っていない。
 スィエルやテテュス、シャインアイ達は、水晶の力を強めようと動く。
 かつて街の名になった貴族フロリンドが、歌の力で幸せを集め、邪を祓ったように。
「よ〜し、たのしいおんがくでいっぱいにするんだ〜!」
 張り切るシャインアイ。
「あたしもサポートしちゃおうかしら」
 と、人狼ディアナ・エルスタール(tk7469)も協力しに来てくれる。

 他に、守護する者が数名。
 フィロメナ・アーベント(tj8905)が、この場を守る決意を固めると、神父ハルト・エレイソン(ti5477)と目があった。
「準備はいいようだね。私も微力ながら力になれるだろう」
「は、はいっ。ただ、わたし、全然魔法、上手じゃなくて‥‥」
「不安があるかね?」
「なくはない、けど‥‥大丈夫。やってみるよ」
 きっとやれると彼女は思う。兄エッダ・アーベント(tj8699)がいるのだ。まずは彼を守ればいい。

 ハルトは頷くと、CROSSを握りX字を描いた。
「主よ。賢しき狐と暴虐の狼から、憐れな子羊を護り給え」
 祈りをささげると、ハルトは周囲の探索を開始。同時に、アリスフィア・メルス(ti8412)も街を巡る。

 今より彼らは、歌に乗せ、幸せを呼ぶ絆を紡ぎはじめる。

 南から、戦いの始まる音が聞こえ伝わって来た。


◆戦場
 フロリンド指揮官の負傷は、場に困惑をもたらしている。

 シェナイを狙うべき? 安全策で下がるべきか?

 バラバラになる兵の思惑。
 このままではいけない。エリシオン・クリスタロス(tf2825)が、負傷した指揮官の横に並び立つ。
「助力します。私はドラグナーのエリシオン」
「おお、その精霊合身体。まさしく」
「ええ、情報も戦力も提供します。一旦、お下がりください」
 エリシオンの話はうまく、指揮官は言う事を聞いてくれた。

「シェナイの暴走の証拠探しと証人などもお願いします」
 と、サラ・アセンダント(tk7194)が声をかけると、彼は素直に同意してくれる。
 二人と協力して、指揮官は兵達に後退を指示。
 回復の出来るセーユ・エイシーア(ta2083)らが、前線に出てきている。負傷の激しい彼は、回復魔法を受ける事になる。

 バンリ・ソレイユ(tk7854)がタイコに声をかけた。
「タイコさん、フェンリルについて何か思い出しませんか? 伴侶や想い人がいたとか!」
「うーん、おそらく、いないと思うけど」
 サクヤ・クリスタル(tf5262)がふむ、と首を傾げた。
「シェナイのルーツは、神話までは遡らぬ?」
「それはどうかなぁ。600年前あたりからの前の歴史は、色々ごっちゃになってるし」
 なんかアテにならなそう。

 シーキ・シュンラン(tk5529)が語る。
「これが愛、ですか。まるで誰一人観に来る事がない馬鹿馬鹿しい舞台の台本みたいですね」
 自作自演じみており、第三者から見れば、痛痒い事この上ない。
 ただ、カナタ・ミツルギ(tb6087)は、胸騒ぎを覚えていた。
 あのシェナイは本物? ‥‥単に幻影を投影しているだけのようにも見える。
 そして先程の言葉は真実?

 考えていると、ソディア・ブレイブ(tj3138)がカナタに肩にポンと手を置いた。
「何か気になるかい?」
「そうですね、シェナイの行動は、陽動か、あるいは時間稼ぎ。またはその両方の可能性があると思います」
 カナタは月の塔を見上げる。
 シェナイから時折見える糸は、地上のシェナイの背後の魔法兵と、月の塔の上へ伸びている。
 そして普通に考えれば、月の塔から引き離す事が目的なのだろうが、何か、嫌な予感がする。

 ゼスアレオ兵が下がり、ドラグナー達が前へ。
 シェナイ達も前進。間も無く交戦する。

「さあ、ドラグナーよ。これより、悲劇のはじまりでおじゃる」

 シェナイの声が聞こえる。おかしな事を言っているわけではない。なのに、人によっては不愉快な気持ちにさせられる。

 サクヤが話しかける。
「おぬし、なにゆえフェンリルを愛しい人と申すのか? 伝承に曰く、フェンリルは黄昏を齎すもの。天地を飲み込み世を破滅させるもの。まさかおぬしは、黄昏の終わりを見届け、破壊からの再生を願う者か?」
「グェヘ、ちゃんちゃらおかしいでおじゃる」
 シャムロック・パストラーナ(ta5458)が言った。
「では、フェンリルの力で世界征服とかやらかそうってんですか?」
「ノー、ノー」
「ではなにゆえか」
「素直に受け取っておくれ。惚れてしまったのでおじゃるよ。わらわは。フェンリル殿にな」

 一瞬、誤魔化されたのかとサクヤは思う。だがシェナイの目は真剣に見える。
「正気か?」
「世界と、恋心。釣り合うには、丁度良かろうでおじゃろう!」

 シナト・シュンラン(tk1860)は大きく首を横に振る。
「待て、何が愛だよ! その子供たちはなんだ」
 突き刺すように、シェナイの背後を指さした。
「愛ってのは自分も他人も幸せになれるもののはず! 自分だけの為の愛なんて認められるか!」
「知った事かでおじゃる」
 シェナイは、グヘヘといやらしい笑みを返してくる。
「賢い権力者の暴走程、恐ろしい物はありませんね」
 サラが、ため息混じりにぼやく。

 スパイダーマジュを展開したシューリア・シーリア(tc0457)が魔法の銃を抜いた。
「そんな個人的な理由で、子供まで‥‥――そんなのって!」
「ふん、どちらにせよ、世界は何かしらの滅びを迎えるでおじゃろうよ」
 思わせぶりな言葉に、マウリが問いかけた。
「シェナイさんは何か知ってそうだね? ヴォルベルグになることで、コモンに迫る窮地を乗り越えられる、という事でもあるのかな」
「そちこそ、何か感づいているでおじゃるな? コモンに、新たな主が必要なのは確かでおじゃろう。が、それも副次的な事。わらわの目的は、ただフェンリル殿に会うことのみでおじゃるよ」

 ナヴィ・アルティシア(tj5711)は苦しそうに尋ねる。
「魔狼の何かを知っているのですか? 何故そんな結論に‥‥」
「ドラグナーは、シーリーは好ましいと思うでおじゃろう。が、シーリーの何かを知っているか?」
「一緒に活動していますので、わかる事もあります」
「うむ。で、ヴォルベルグどもは、フェンリル殿の力を用いる。それが誇らしいと思う者もいるでおじゃろう」
「‥‥」
「そして、わらわの身体には、フェンリル殿の力が宿っている。おかげで通常のコモンと違ってちと長寿でな」

 好ましく、誇らしいその力。
 それが長い長い月日の間、唯一彼女と共に存在していた。身に宿ったフェンリルの力だけが、彼女と一番強い絆を持っていた。
 それだけが、自分との繋がりで、拠り所だった。
「だから憧れた。‥‥そして焦がれた」

 そして愚かしく、暴走した。
 それが事の顛末。
 狂気にも思えるそれだが、ナヴィは頭ごなしに否定はしない。誰の感性も、我儘も、否定なんてできないから。
「このままでは、多くの犠牲が出るでしょうが、譲れないのでしょうね」
「さよう」
「なら、迷いません。戦います。私の大事なものを、守る為に」


 クレティアン・リベール(tj5834)が、すらりと剣を抜く。
「認めよう。その執念。その愛も。だが、犠牲をいとわぬと言うのであれば、止めねばなるまい」
 戦う理由は十分だ。
 カレス・カンパニーレ(tk5628)は、楽しそうに語り始めた。オルペウスを奏でながら。
「己に忠実で実にコモンらしく宜しいかと。然し乍ら、あたくしの愛する人は貴女様の絶望をご覧になりたいそうで御座います」
「悲劇のヒロインでおじゃるな。悪くは無い」
「実にお似合いかと。でも、そのつもりはないのでございましょう? ‥‥愛に生きる女の道は修羅で御座いますね。貴女様の行く先を見届けたい所ではございますが。うふふ、残念ですわ」

 この間に、ウリエン・エレクトラム(tc2839)のグッドラックら、補助魔法の行使は完了している。
 また、ジンガ・グライグ(tk0324)がルミナパワーを仲間に付与。
 サラとリュード・カーライル(tk7218)。それにウル・フレイン(tc2676)やアルフェリア・ルベライト(tk6928)といった、ルミナパワーを使えない仲間にも付与して強化だ。

 カレスやアリシア・アンヘル(tk6251)は、さりげなく霊魂共鳴を発揮させた。
 だがシェナイ達もハウリングマインを行使した。
 逆にドラグナーにも悪影響が出るが、ギルベルト・グライナー(tb8487)が同じくハウリングマインで相殺する。

 一番最初に動いたのは、シューリアだった。
「さあ、いくわよ!」
 気迫と共に発動する魔法銃。それが開戦の狼煙となった。

 射撃戦。

 シェーン・オズワルド(ti5753)が、銃の火ぶたを切る。
 ここは家屋の上。
 200メートル近くあるが、シェーンには狙える。
 発射。
 弾は正確に飛翔する。しかし、当たった様子はない。ただ地面がえぐれるのみ。同じく狙うマウリの銃も、シューリアの銃も、当たった様子はない。

 一体何の能力なんだ?

 考えつつリベルト・クレパルディ(ta6844)は、バリアピアッシングを成就。
「守りたいものが違うなら。俺は俺にとって大事なものを守る為に戦う」
 そのままシグナルフェザーを撃ち込んだ。
 これも効果が無い。
 というより、そもそもシグナルフェザーが発動しない。
「なんだ、これは?」
「不可侵のようなものかな? 対象を選ばず使える範囲魔法を使ってみよう」
 シーザー・クイーン(ti5526)は、ファイアボム発動させる。
 やはりシェナイには焦げ目もつかない。カレスもマジュで拘束にかかるが、同様だ。
 さらにクレティアンのソニックブーム。――当たらないというより、透き通っているようだ。
「ほれ、効かぬよ。さくっと子供をやれでおじゃる」
 パルージャの女狐は笑う。楽しそうに。
 いやな気分になって、ウルが叫んだ。
「シェナイ君のバカァ!」
「ウル君のばかぁーでおじゃる」
「んなっ! 真面目に言ってるんだよ!」
「こちらも真面目でおじゃるよ。さあ、英雄らしく戦うでおじゃる! 本気を出さねば、わらわを倒すことは厳しいでおじゃるぞ」
「見損なうな。俺たちはドラグナーだ」
 ラキュエル・ガラード(tb2724)はうろたえない。彼が前に出ると、ウォーグ兵の一人がシェナイを守るように動く。
 ラキュエルは、担ぐように構えた曲刀で、広範囲に薙ぎ払う。
 ウォーグもひるない。反撃の牙が唸る。ラキュエルは、サイドステップで回避。ジン・マキリ(tj6129)が開いたスペースに踏み込む。
「使い捨てのケダモノ達よ。絶望を感じながら地に伏せろ!」
 ソードボンバー。
 効いている。広範囲の斬撃に、相手はジグザグの布陣を取る。

 ウリエンは、一歩離れてCROSSを構えて待機する。
「ウォーグ兵にも、リムーブカースが効くかもしれませんが‥‥」
「なら、引き寄せます」
 サラがダイアゴナルな動きで、中央からサイドへ動く。装備の力で敵の注意を引く。
 一瞬自由になったウリエンが、魔法を発動させる余裕が出る。
「‥‥さすがと言うべきでしょうか。今なら」
 心願発動。
 リムーブカース。
 ウォーグ兵の一人が解呪され、兵の姿に戻った。
 それでも普通のヒューマンのままで攻撃を仕掛けて来るが、これなら対処も楽だ。
「悪くねぇ。こっちも、やらせてもらおうか」
 と、中央を突き住むのはグレイ・フォスター(tk2122)だ。
「紛いモノがイキるんじゃねぇ。ババアに飼い慣らされた阿保共がッ!」
 半狼型の低姿勢から、しなやかに踏み込む。
 中段への回し蹴り。
 力任せの一撃。
 難攻不落と怪力の力の伴った衝撃。ウォーグ兵の身体が横によろめく。
 そこを、キャサリン・ステイシア(tk5804)の、尖貫槍インペイラが貫いた。
「ごちゃごちゃしてるけど、大丈夫。やれる」
 ホバーブーツの機動性は高く、乱戦だろうが、動ける。
「地道に削っていくしかないかしら。フェンリル側に行った同輩さん達もいるし。気負う必要はないし」
 キャサリンが押し返すと、何処からかマナ・リアンノ(tk5914)の射撃が飛んでくる。
「悲しき人狼よ、せめて安らかに逝って頂戴」
 対人狼効果のある矢が、ウォーグを打倒していく。
「技術の産物に駆逐されなさい」
 さらにマグノリア・バイブル(ti8081)が進む。
「魔法も人狼の牙も僕に傷を付ける事は叶いません」
 魔法で強固に固めた彼女の守備力は硬い。

 アイン・バーレイグ(tk6291)の右腕がグリーヴァブレードと化している。
 彼の後ろには、アリセア・リンドヴルム(tk5624)がついた。
「行きましょう、アインさん。気になる点はありますが、今は邪魔なモノを蹴散らします!」
「無論。所詮は獣よ。人を超えた俺達の前に獣は消え去るのみ」
 リベルトにエンレラを付与してもらったシュウ・カチヅキ(tj2357)が、浮遊して、低空飛行状態で戦場を駆ける。
 敵を引き寄せ、かつ、囲まれないように――。
 動きに釣られたウォーグ兵。ジンが見逃さない。
「ククク‥‥さぁ絶望の唄を囀ってみせろ! 私の為に無様な屍を晒せ!」
 すかさずシュライク。会心の一撃が決まり、ウォーグの右腕を吹き飛ばした。
 ウォーグ達も攻めてくるが、サラのカウンターアタックが炸裂。さらにリュードの攻撃が襲い掛かる。
「呪いよ、消え去れ!」
 面打ちがウォーグの肩を切り裂くと、呪いが消えてコモンの兵に戻す事に成功する。

 戦いの序盤は、ドラグナー達が優勢に進んでいく。


◆戦場2
「今です、前へ!」
 シュウの声。
 ウォーグ兵が崩れた隙に、仲間達を進ませる。

 エドガー・ロンバルド(ta4959)が強引に前進。キョウ・ミツルギ(ta0035)、フリード・ゲオルギウス(tk6828)、ファム・シャハル(td1602)のマジュスパイダー、らが続く。
「まぁまぁでおじゃるな」
「行くぞ。しばし私と踊ってもらう」
 キョウが斬り込んだ。全く手ごたえが無い。続いてマジュスパイダーも糸を放つが、地面にむなしく落ちるのみ。
「バーカバーカでおじゃる」
 イラっとするが、ドラグナー達は耐えた。

「ふーむ、バッドですねぇ。並の策では届かないようです」
 ファムが呟く。射線を見つけて銃を撃ち込んでみたが、これも効果が無い。
「何度でも、攻撃あるのみだ!」
 クレティアンがソニックブームを打ち込んでいく。バリアピアッシングのかかった一撃。効果は無い。
 マウリもペガサスに乗って銃撃するが、当たらない。
「魔法と関係無く効果は無いか。結界でも、不可侵でもない」
 幾つか試してみたリベルトが言う。ギルベルトが道具を取り出した。
「これを使ってみよう。錬金経典。空即是色」
 非物質化した存在などを把握できるというアイテムだ。
 発動する。
「ん、これは――」
 反応した。
「実体がないのか?」
 リベルトが首を傾げる。
「霊体化のような能力なのかな」
「それなら魔法は効くはずだが‥‥」

 魔法少年兵の攻撃。

 塔の上から飛来したのは、矢にゼウス。
 エドガーは、デュラン・ヴァーデロス(ti8447)の行使した、アマテラスのCROSSを持っている。さらにセーユらもアマテラスで防御。
 そして射撃には、レア・ナチュール(ta1113)のストームだ。
 風の魔法が、空の矢をはじき返す。
 レアは軽く息を吐くと、軽口をたたいた。
「シェナイ様は愛故と申されておりましたけれど、狼フェチなのでございますかしらね?」
「ケットシーとヒューマンのカップルとかいるでおじゃろう」
「‥‥そうですね。いえ、どんな理由でございましても、全力全壊でございますけれど」

 近接攻撃にはフリードが強い。
 空からナーガ族の子供が突っ込んで来ていたが、フリードは慌てない。
 尾による打ち下ろしを、悠々と盾で受け止める。
「なかなかですな。随分と若そうに見えるが、いやはや」
 返す刃で破壊剣を振るうと、敵は再び空へ下がっていった。

 さらにフリードはシェナイに話しかけている。注意を引くつもりだ。

「アマテラスで遮断しても意味は無いのか?」
 デュランが呟くが、エドガーは首を横に振る
「いや。嫌がっているようだが」
 シェナイが、大きく後ろに下がっている。追撃すべく、キョウが踏み込んだ。
 ウォーグ兵も、この事態を危機と察し、シェナイを守りに左右から挟んで来る。
 エドガーが動く。
 即座にエリザ・フローレス(tf4185)から預かっていたフレイムマジュを右手に持って、壁にするように投げつけた。――爆裂。

「オォオオオ!!!」

 ウォーグ兵が叫ぶ。移動の勢いが弱まり、キョウが左側から来た敵を見事に避け、エドガーは不思議な力ではじき返す。
「やはりこうなるか。止まってくれ」
 鈍ったウォーグ兵にラキュエルがネットを放ち、グレイが追撃。
 さらにバンリがウルフホイッスルを吹き鳴らし、敵の陣形を引き裂いた。
「わたしはバンリ! 全人狼を統べる部族、スカイファングのバンリであります! 己が相手でありますよ!」
 ヴォルベルグスレイヤーによる一撃が決まる。

 エドガー達が再びシェナイに肉薄していく。
「近寄っても無駄でおじゃる。無駄無駄ァ」
 煽るシェナイを無視してエドガーが蛇腹剣を突き解けた。これも当たっていない。
「ぬ、愛想が無いでおじゃるなぁ」
「‥‥言葉はいるまい?」
「ふーん」

 悪くない状態に思えた。
 しかし――。

 アインは寒気を覚えた。
 それほど感知能力に長けたわけではない彼。それでも感じる強い殺気。

 次の瞬間、肩が大きく引き裂かれる。
 さらに逆の肩にもう一撃。
「なんだと?」
 その敵の動きは、あまりに鋭かった。
 ドラグナーの間を縫うようにして動き、今度はリベルトを抑えにかかった。
「これは‥‥ジャッカル?」

 影の正体は、シェナイと共に行動していた巨犬だった。

「グェッヘッヘ」
「変なペット飼っとるなぁ」
 シモンの眉間に皺がよる。
「趣があるでおじゃろう」

 ジャッカルは、ゆっくりと身体を起こす。
 めきめきと身体が変化すると、二本の足で立ち上り、人の形へ変化していく。その姿は、かつてドラグナーが打倒したアヌビスに酷似している。
「そいつはウプウアウト。ウォーグ兵なんてもんではないでおじゃるよ」

 カナタが苦し気に呻く。
「‥‥なるほど、陽動するような動きと言動は、ジャッカルの存在を、ドラグナーの意識から遠ざける為‥‥?」
 ウプウアウトが駆けた。
 アインを飛び越えアリセアに迫ると、横合いから切り裂きにかかった。
 単独ではとても対処出来ないような強敵に奇襲され、連携がほころんでいく。

 レイラ・バルテュス(ti4498)が眉を顰めた。
「流石は戦巧者のシェナイ様ですね。魔法兵の処遇も、お優しいドラグナーにはやり難い戦いでしょうし‥‥」
 セイ・ミツルギ(tj4453)が、息を吐いた。
「強敵か。‥‥でも」
 セイは思う。かつて出会ったあの人の事を。
 相容れなかったけれど、世界を守りたい思いは貴方も同じだった。
 決意が彼の動きを高める。
「こんな時こそ、なんとかするんだ!!」
 Xの意匠を持つライトシールドを構え、二足で飛びかかって来たウプウアウトに向け構える。
 膝蹴りをちょんと当てるヒット・フェイントからの、地面をけり込んでの肘撃ち。セイに当たる。しかしふんばる。
「‥‥後を託されたこの世界、フェンリル復活なんかで終わらせません!」
 反撃の天空剣。ブライドアタックが見事に肩を捕らえた。

「グヌ‥‥」

 わずかに呻いたウプウアウトは、バックステップして間合いを取った。
 この間にドラグナーは態勢を整えるが、通常のウォーグ兵も来ている。
「させるかってんだよッ!!」
 グレイが背後から噛みついて兵を抑え込めば、アインが横から切りかかる。さらにギルベルトが絡めにかかる。
「適切な位置取りさえできれば、いけるわ」
 キャサリンがホバーブーツでやや下がり、態勢を立て直している。

 ただ気づくと、エドガー達が囲まれている。ウォーグ兵と戦っていた者らも上手く陣形が取れない。
「うぐっ」
 サラが噛みつかれ、酷い傷を負う。危険を感じ、暗闇のペンダントの力で脱出する。
 ラキュエルも、同じく暗闇を作り出すペンダントを使い闇を作る。シェナイから出る光を遮断しても意味はなさそうだが‥‥。
 危機を感じて、バンリがもう一度ウルフホイッスルを使う。
「まだまだ戦えるであります! さぁ、どんどん来るでありますよ!」

 ナーガ族のルタ・バクティ(tk8199)が前に出て来た。
「乱戦になる前に、焼かせてもらう」
 やや前へ。噛みついて来るウォーグ兵の攻撃をモロに受けるが、ラキュエルがネットを絡めて動きを止める。
「大丈夫か?」
 コクリと頷くルタが魔法を成就させた。
 赤い鱗を持つ竜の姿へ変貌したルタ。次はブレスの魔法だ。

「ええい、面倒でおじゃるな」
 エドガーに向けてシェナイは扇を投げつける。高速で飛んで来た扇は、エドガーに直撃する。
 が、エドガーに傷ついた様子はない。
「なぬ?」
「‥‥攻撃が効かないのが、自分だけの専売特許だとでも?」
 その時、シーザーの操る炎がシェナイに向かって振り下ろされていた。
 シェナイが叫ぶ。
「あっつぅ」
「シェナイ様!」
 魔法少年兵が接近して来る。

 ルタの詠唱が終わる。
 その身に宿るは、炎のブレス。接近する少年達に吐き出した。
 アマテラスにより、おかしな効果範囲になったが、敵も足を止めた。

 マウリはペガサスの使うアマテラスの中から、シェナイを観察している。
 しかし、いまいちよくわからない。

◆戦場3
 敵魔法兵を中心に対応するドラグナー達も、行動を開始している。
 多くのドラグナーは、回り込む形。

 現在、子供も攻撃を開始している。

 移動力の高いライトニング・ブガッティ(ta1827)がパルリザードで移動。射撃で狙う。
「いやー、結局俺たち、あの女宰相に利用されまくっちゃったもんな。で、その結果がこれ? インガオホーってやつ? ま、仕方無いな」
「フン、『仕方無い』は真理だな。では少年達を昏倒させるなり、始末するなりしようか」
 デューク・レイクウッド(ta8358)はクレセントムーンを使って回り込む作戦。
 ラプトゥーン・アベスト(tc6518)と、ルクスリア・モール(tj1016)、アリシア、シネラリア(tj2817)などは、隠密行動で回り込んだ。
「警戒網。抜けるわ」
 ラプトゥーンは家屋を使って接近。距離は案外近い。
「きっとケミにゃんや他に面倒見た赤ちゃんだった子があそこにおるんや‥‥」
 アルフェリア・ルベライト(tk6928)が呟く。
 時折上空に見える、小さなナーガの子は、以前に会ったナーガ族のナームなのだろう。
 だとしたら、他の子たちも、ここにいるはず。

 遠距離からアルマ・タロマティ(tf9220)が様子をうかがう。魔法の効果で闇の中でも狙えるだろう。

 不安そうな子供も多いように見える。

 シェナイに接近しているフリードが、レイヴンの鉄壁の防御でウォーグ兵の攻撃を防ぎつつ、シェナイに執拗に話しかけていた。
「驚きましたぞシェナイ殿、貴女がこのような行動に出るとは。愛がどうとか。やはり貴女も宰相である前に女であったという事かな?」
「もう惚れても無駄でおじゃるよ?」
「おや、振られてしまいましたな」
 フリードの話を、シェナイは無視せず付き合わされている。
 追撃するのは、シモン・ヤクザイル(tc8786)。
「シェナイちゃんえろうしばらくぶりやないか」
「変わらんでおじゃるなぁ、おぬし」
 声をかけて注意を引く。

 これは意外と成功としている。

 この間に、ウルは子供たちに声を届けた。
「君達は、育ての親の我儘で世界が滅んでもいいの?!」
 拡声器で呼びかけ、邪魔されぬようシモンが注意を引く。
「シェナイちゃん! 、あんときの赤ん坊になれる薬まだないんかいな? あれがありゃおっちゃんもモテモテなれるさかい」
「お? 使うでおじゃる? ここで」
「‥‥うまくいくかしらね」
 ベラニーチェ・アザロ(tk6730)が疑問を呈しながら様子をうかがっている。
 ぽかーんと話を聞いている者もいる。

 様子を見ていたエターナ・クロウカシス(tc7434)は、攻撃の遅れた子供たちを見つけていた。
(やはりあの魔法兵ら、年少ゆえの練度の低さや脆さがありそうです)

 エターナは狂気の魔法の杖を構え、ルナの魔法を撃ち返す。
 逃走を即す魔法の矢が、子供魔法兵にぶちあたる。続けて二発の矢を放つと、一人の子供が恐怖に駆られ、塔の中に逃げ出す。

 これに釣られて逃げる子供が二名ほど。
 この時シェナイがダメージを負い、残りは前進して来ている。

「シェナイさま!」

 ルタのブレスで足が止まり、他のドラグナー達の攻撃も始まる。
「ふふ‥‥ゾクゾクするわね」
 自らの身体を抱く姿で震えているアルマが、嬉しそうにマジュを使った。
 爆発のマジュ。
 目前と爆発したその火力が、恐ろしく見える。

 すると煙幕も発生した。

「いいわ、私のラプ。いいリズムで動く」
 アルマが見守る中、ラプトゥーンは煙幕の中を透明化したまま突っ込んだ。
 隠密からの奇襲攻撃。
 魔法兵の一人が、意識を失い地に落ちる。

 これにはたまらない。数名の子供が逃げてしまった。
 完全瓦解まではしなかったが、大きな戦果だ。

「逃げるならこっちに!」
 シューセイ・アイーサワ(tk1824)が声をかけるが、なかなか届かない。
「無理矢理運んで来るしかない? あー、誰かの犠牲の上でその上、血に汚れた愛なんて。本当に汚くて安い、くだらない愛」
 シース・アイーサワ(tk1851)も同調する。
「馬鹿ですね。それが愛ではないとは言いませんが」

「とにかく戦いましょう。そこのガキどもを前面に押し出せば、私たちが手出しできなくなるとか考えてるんだったら甘いです」
 シャムロックが仲間を鼓舞する。
 迷えば、シェナイがつけ込んで来るという。
 躊躇しては、危険だ。シェナイが対話を重視している事や、その言葉が心に響く事を考えると、何か魔法が働いていると考えられる。
 一方で、絆が弱まれば、呪いが強まるという。
 要するに、迷った上に悲劇が起こったり喧嘩したりすれば、呪いは強まっていくだろう。

 しかしドラグナー達はこの対策を、自然に完了していた。
 覚悟を決める者。迷わない者。工夫する者。それぞれの方法で、迷いを飛ばす。

 そして絆も崩さない。
「ここはドラグナーっぽく、華麗に無力化だよ!」
 シズネ・カークランド(tk1515)は、ミコトの魔法に、ミタマギリ等を使用。
「考える事は、同じというわけですね。やってやりましょう」
 グリーヴァブレードでミタマギリを使うのはサフィヤ・バルタザール(tb5749)。ケイズ・グラッセ(tc6589)も、感電ダーツにミタマギリを使う。
 同じくミタマギリなジルヴァ・ヴェールズ(tj8140)が大きく頷いた。このあたりは黒々している。
「うん。子供を守りたいってのは多分僕らみんなの望みだと思うから」
 アーシェ・フォルクロア(tj5365)も同調する。
「殺さずにすむなら、それがいい」
「ああ。殺したくはないな」
 ケイズが素直にそう述べた。
 シルヴァも似たような事を考えて、少し不安な表情をしていた。
「‥‥三歳や四歳くらいの子もいますが、彼らは何処まで彼らは兵としての自覚があるでしょうかね」
「脅かすだけで逃げた子供もいる。‥‥戦わないでくれたらいいのだが」
 と、アーシェ。
「きっと大丈夫! がんばっていこうよ!」
 緊迫した空気を、シズネが持ち前の明るさで吹き飛ばした。
 ケイズとジルヴァの表情がわずかに軽くなった。
 今だとばかりにサフィヤが一言。
「悪い子はビネガー」

「‥‥。さあ、行こう!」

 そんな彼らを、ベラニーチェが覚めた目で見守っていた。
「失敗したら容赦はしないわ。首を飛ばして終わりよ」

 ティラミス・ノーレッジ(td1157)は、子供とシェナイの間に飛び込んだ。
「止まるにゃー!!」
 ジャックの魔法で敵陣を横切って、子供の一人に膝蹴りを放った。子供たちはティラミスを無視出来ない。
 メギドの炎がティラミスを襲ったが、バリアの杖の効果で、一発目が無効化される。
「思うようにはさせないにゃ!」
 矢が飛んでくるが回避。さらに魔法攻撃がティラミスを狙う。――が‥‥。
「フェッフェッフェ。小童共よ、妾と魔法比べでもするかぇ?」
 建物の影にいたシネラリアの好手。
 カウンタースペルが魔法少年兵の詠唱成就を消し飛ばした。
「助かるにゃ!!」
「なに、妾も英雄の一員じゃからな」
 シネラリアはそう言って不敵な表情を見せた。

 英雄。

 その意識は、ドラグナー達に活力を与えているように思える。


◆戦場4
 子供兵に対する序盤の対応は成功。
 動きの鈍った子供兵の数名をドラグナー達が無力化する事に成功。これを担いで後ろに下げる。
「大人しくなっとけ」
 ライトニングの精密な射撃が、少年兵の魔法の杖を弾き飛ばした。

 シェナイらも下がっており、ドラグナー達も入り乱れつつある。

 シェナイが何か指示を出すと、上空からナーガ族の火球が降った。アマテラスの結界が押され、硬直した術者のCROSSをウプウアウトの攻撃が破壊しに向かっている。
「世界が終わるかもしれない事に加担なんてさせへん!」
 ホバースカートを発動させて、アルフェリアが行く。守りに入ったウォーグ兵に、ロゼッタハンドの力を利用した灼熱の剣を突きこむ。
「邪魔やぁ!」
 まずは守備を排除する。

 デュークは塔と敵の間に回り込んだ。
 塔を背にする形。
 これでは危険だった。塔上からのクロスボウ攻撃が不運な直撃。大きな傷を負ってしまう。
「がはっ‥‥!」
 リーゼロッテ・マグヌス(tg1669)が叫んだ。
「はやく助けるにゃ! でも人狼も魔法兵もジャッカルもビミョーに殺しちゃいけにゃい感じだし面倒にゃ!」
 歯ぎしりするリズ。ポーレット・ドゥリトル(tj5975)がなだめるように言う。
「冷静に。シェナイの言葉は嘘の可能性もあります」

 そしてポーレットは思う。
 仮に真実だとして、大人しく従うのは癪だな、と。

「別に良いのでおじゃるよ、無理せんでも」
「いいや、リズ様の秘策でスマートに終わらせてやるにゃ!」
 クリスタルアーマーを成就。
 狙って来るウォーグ兵の攻撃を受けながらも、ストーンの魔法で子供を狙う。効かない。
「だめ、だめかにゃーー!?」
「ふん」
 鼻で笑うシェナイだが、表情が険しい。

「消耗させていかなくてはジリ貧だね」
 シーザーのファイアダンシング。
 火がウォーグ兵を焼く。ルクスリアは隠れてドラグウッドを狙う。
「回り込んでは危険ね。ここから血祭にあげてあげるわ。お優しいドラグナーと私はね、違うから」
 成就されたドラグウッドが、子供の一人を大きく負傷させれば、ポーレットのスタンアタックが子供の意識を刈った。

 シェーン、シーザーは再びシェナイを狙うが、これも透き通る。一度炎が当たったのは偶然か――。

 子供兵に向かう者、ウォーグ兵に対処する者の区別が曖昧になっていく。
 セーユが辛そうにつぶやいている。
「‥‥こんな事までして手に入れようなんて‥‥『あい』じゃなくてただの『よく』だよ」
 こんな血で汚れた愛は欲ですらない。
 『毒』だ。
 表面に現れるセーユの声と、心の中から生まれ出る声の意見が一致する。迷いはない。
 スムーズな動きで、彼女は仲間を助けていた。

 しかしウプウアウトの腕による打撃が広がって、フィザル・モニカ(tc1038)とシルトを弾き飛ばした。
「いたいのいたいのとんでけー!」
 セーユがすぐにエンゲル。ここに攻撃が来る。
「セーユ、危ない!」
 シューリアがマジュを向かわせた。フィザルも走る。
「愛と欲の区別もつけられなくて、しかも自分の行動に確証も持ててないなんて。いても迷惑なだけですからとっとと倒してしまいましょう」
 フィザルは険しい顔をしながら、セーユを守って戦う。

「オオオ!!」

 叫びながら、ウプウアウトがもう一撃。
「きゃあああ!!」
「こ、こいつ‥‥!!」
 今度はセーユも巻き込まれてしまう。

 乱戦ゆえ役割分担が厳しく、シャムロックも、位置取りに苦労する。
「ええい、とにかくあしらっていきますよ」
 シャムロックにむらがろうとする魔法兵。アーシェが援護に動くが、今度はウォーグ兵に横合いから殴られる。
「くっ」
 すぐにサフィヤが回復薬を運ぶ。
「鎮魂祭には遅く、クリスマスのプレゼントには早すぎるこの時期を選ぶとはシェナイ、侮れないですね。‥‥要するに回復薬のプレゼントです」
「サフィヤ、恩に着る」
「問題ありません。迅速に鎮圧しましょう。そっち、いきましたよ、ポーレット」
「承りました」
 ミナマギリが魔法の力を削りとり、ポーレットがスタンアタックに挑戦する。

 ヴィンドスヴァルの反撃。ドラグナー達が巻き込まれる。
 大きい傷を受ければ、エンゲルの使えるシーキらの場所まで下がらねばならない。
「なかなかの連携だね」
 ジルヴァは思う。
 本当に自分の意思で、彼らが戦っているのかは、怪しいところがあるが、十分な教育を受けているのだろうと。
 ただドラグナー達のアマテラスと、前衛率の高さゆえ、その連携力は十分発揮出来ていない部分はあった。
 ヴィンドスヴァルの使い手にジルヴァが踏み込む。反撃を受けるが、それでも強引に一撃。
 ミタマギリもスタンアタックも有効らしく、数度の交戦後、一人の少年が意識を失い、地に倒れた。

 この間に、シャムロックが敵の攻撃を受けて倒れる。
「もうだめだ〜〜‥‥なんて事は無いのですよ」
 と、おもいきやシャムロック復活。精霊合身による効果だ。
「無茶するのう‥‥。妾がいてよかったな」
 シネラリアが言う。シャムロックが十分耐えていたのは、カウンタースペルでの援護が効果的だったのもある。
「妾の前で魔法を使おうなど、千年は早いぞよ」
「ありがとうです。そうだ、あっち二名。見てください。随分長い詠唱をしています」
 ライトニングが声をかけた。
「あー。片方はなんとかやっとく。もう一個は頼む」
 シネラリアが頷いた。


◆後方
 タイコはそのソディアの提案を聞いてへんな声をあげた。
「はいぃ? シェナイをひたすら罵倒するって?」
「そう。防御を固めたこの場所で。やってくれないかな?」
 ソディアは真剣な表情でタイコに訴える。

 一見、ふざけた行動に見えた。しかし、意味があると考える根拠があった。
 子供たちを戦わせる為に、シェナイは何かを施している、と考えられる。そして実際過去に、シェナイを悪く言うものに対し少年達が暴走し、攻撃を加えたという事実があるのだ。

「悪く言い続ければ、こちらに少年兵の意識を引き付ける事が出来る、かもしれない」
「わかったやってみるよ!」
「ありがとう。タイコ、体調悪そうだね。大丈夫?」
「まぁ、なんとか。よーし」
 タイコはスゥと息を吸い込むと、少年兵達に聞こえるように悪口を言い始めた。
「シェナイってよく見ると不細工だよね」


◆月の塔
 上から来る攻撃は厄介だ。クロスボウは威力が高く、地上に専念していると致命の一撃を食う恐れがある。

 ヘルマン・ライネケ(tj8139)は、サーペントと交渉。スウェンの魔法で意識を入れ替わっている。
 今は海中を移動して、塔の後ろに回り込んでいた。
 さらにココ・ルルノン(tj1611)の姿もあった。彼女も海から回り込んでいる。
「ココ、私が注意を引き付けよう」
「うん、タイミング合わせるね。やっちゃおう!」

 ヘルマン(サーペントの姿)が海面に出現。計画どおり、塔の上のクロスボウが狙って来た。
 反撃のヴィンドスヴァル。氷の魔法は、覆われた水によって軽減されるが、敵の意識を完全に引く事に成功する。

 これをカナタ、ウルが察知した。二人は透明化になり、箒に跨った。
 さらにコダマ(tk0947)も羽ばたく。
「ガイアース。使っていく」
 ルパート・シラドラ(tb5966)が続く。
「ああ、いこう。シェナイに利用されている子供達が可哀想だよ」

 ゲタや箒などで、カナタやルパートたちは塔の屋上に向けて浮遊する。
 何らかの魔法を使って来たようだが、まずはコダマのガイアースが遮断する。

 ストームの風が来る。ガイアースごと押されるも、コダマ達は水に触れる位置まで接近に成功。
「水を押しのけてみる」
 コダマはガイアースの結界効果で水をはじいてみる。しかし浮力は発生するのか、妙な力が働いて上手く突入出来ない。
 中にはメロウの子供が四名。うち一名が、シェナイに力を与えている。
「くらえ」
 メロウの子が冷静に、ガイアースの中にクロスボウを差し込む。
 放たれる矢がルパートの脇腹を貫いた。
「つっ‥‥。僕達は君を助けに来たんだ、いじめたりしないし怖くないよ」
 ルパートの言葉に、無表情だった顔がぴくりと動いたようにも見える。
 以前ラゴン分校の生徒を引率した事があった。大きくなっていたら、これくらいだろうか。

 しかし、戦いが止まらない。クロスボウが、もう一撃。戦いは止められない。

 ルパートたちとは反対から、ココが超高速で飛び込んで来た。ジャックによる浮遊だ。
「ココ自身が、かき乱す風になっちゃうんだから!」
 速度をゆるめ、水に入り込む。
 一瞬こっちに向いたメロウ子たちに、スカートの力で閃光を放つ。
「どうだー!」
 そのままココは水を通り抜ける。追うように突き出された魔法の杖とクロスボウ。
 今度はココのトルネード。

「いっけーー!!」

 杖をと、クロスボウを、竜巻によって吹き飛す。
「まずっ」
 子供の声。焦る彼らの側面に、今度はカナタが入り込む。
「賢しい策など!」
 一瞬抵抗があり、勢いが弱まったが、子供たちは、避ける事が出来ない。
 エクスプロ―ジョンを解放。大きなダメージ。
「‥‥ぐぐ‥‥」
「制圧させてもらいます!」
 カナタに対し、三名が銛を取った。
 囲まれる。
 と、今度はウルがアクアの箒で水の中へ。感電エエンレラの伴った一撃で斬り込んだ。
「がはっ」
 子供の意識が一瞬飛び、ウルは箒の勢いのまま、水の外へ。

 その瞬間を、狙われる。
 上から舞い降りて来たのは、ナーガの子だ。叩きつけるような尾の一撃。ウルはバランスを崩す。
 なんとか立て直して、再び剣を向ける。
「あっ! こらっ! 君は! 前、会ったよね」
「‥‥‥う‥‥う?」
 ウルが話しかけるが、反応がおかしい。何かされているのだろう。

◆輝きの広場
 基本的に、広場から住民は避難しているが、一部でウォーグと化した市民や、興奮したデペドロ牛が暴れている。
 木造家屋が崩れる音がする。
 ハルトは暴走に陥らぬよう、民家を回って声をかけ続けている。
「家からは出ないほうがいい。魔の跋扈している。今は屋内が安全だろう」
「ああ、救ってください神父様」
「主はいつでも迷える子羊を導かれよう」

 ディアナは、魔狼の嗅覚を使って、人の匂いをかぎ分けた。
 いた。
 ウォーグだ。
「シャインアイ、そっちよ、そっち」
 動きまわっているシャインアイに、ディアナがちょちょっと合図をする。
「わかった〜!」
 シャインアイが透明化。回り込むと、両手に抱えていたホイッスルを口にくわえた。
(これだ〜〜。いいのもってきた〜〜!)
 ウルフホイッスル。その効果で、ウォーグ達を誘導していく。

 ハルトやシャインアイが広場を安全に保つ中、スィエル達の演奏が始まった。
「うにゃ! 僕ーもいっぱいいっぱい踊るーするーんだー!!」
 幸せと絆を呼ぶその歌に、チェロ・テンペスタ(ta2036)が加わった。

 それは静かに始まった。にも関わらず、スィエルの奏でる音が良く聞こえる。
 魔法の楽器は、愛の力で音を遠くへ運んでいく。
 演奏に音が加わった。
 小さい笛を手にしたララハト・ルクイア(tj9989)の奏でるしらべだ。豪華さを増した演奏は、まるで仲間が増えたような心強さを感じさせる。
 そこにテテュスの踊りが交じる。
 スィエルの音からは、妻への愛が感じられる。その愛を受けたテテュスの踊りが、一際優雅に見えた。
 そしてチェロの踊りは、楽しく、元気に。

 ドスドスと何かが走って来た。
「きた」
 フィロメナが唾を飲みこむ。
「問題ない。ただの牛だ」
 淡々と語る兄のエッダはルミナリィを成就している。デペドロ牛だと察知すると、ダーツを放って先手を取った
 正面。
 頭部やや横から鮮血が噴き出し、突進速度が弱まる牛。
 フィロメナも心に力を入れて、弓をとる。
 アンカー・ポイントまで弦を引き、矢を放つ。
 命中。
 牛の動きがほぼ止まると、漆黒の剣に持ち替えたエッダの剣撃が疾走する。
 再びフィロメナの矢。牛がずぅんと地に倒れる。死んではいないが、もう戦えないだろう。
「ごめんねだよ」
「見事。集中は切らすな。まだ来るはず」
 ツンと言いながらも、妹を守るようにエッダが移動する。
 彼の視線の先、広場に続く道のひとつでディアナが合図を出している。
「コモンみたいな匂いがするわ。ウォーグかもしれない!」
「よし。‥‥手を広げすぎずに対応する」
「うん。わかったよ、お兄ちゃん」

 前線で、子供にも死者が出ているようだ。
 それに連動してか、宿屋のひとつでウォーグが現れて、外に逃げる市民がでてきている。
「たいへんだ。エトたちが、まもってあげなきゃいけない」
 シフールのエト(tk8210)が、飛んだ。
 ガードナーを使い、追いかけられている住民の間に入り込む。
「にげて! もうすこしのしんぼうだ。ドラグナー――かっこいいえいゆうが、みんなをまもってくれるぞ!」
 シフール自体が珍しいおかげで、エトの言葉に耳を傾ける者が多い。
 少し落ち着いた。

「こっちだ」
 ハルトが駆けつけて、人々の避難を引き継ぐと、ルナの魔法が飛んで来た。
 月の光がウォーグを抉れば、人狼の注意はルナの来たほうへと向く。
 ルナを放ったのは、アリスフィアだ。駆けて来ている。
「囮になります。こちらと逆方向に、人々を」
 ウォーグホイッスルを持って、敵を誘導していく。
「たのんだぞ! けがしたらくすりもあるからなー!」
 エトやハルト達は目につく者を助けていき、シャインアイやアリスフィアが援護する。

 ただ、街全体をカバーするのは不可能だ。
 スィエル達の成果に期待がかかる。


◆月の塔2
 塔の上は、ココとカナタの見事な連携によって制圧した。重傷を負った子供には、コダマが魔法を詠唱する。
「試してみよう」
 パンドラだ。意識を失った上に、その時間も停止してしまうという魔法。
 ルミナが集まって、子供を不思議なクリスタルへと変貌させる事に成功する。

 これで遮断出来たかは不明だが、ひとまずそれを回収。
 シェナイと繋がりのない子供は塔の中で拘束した。

 ウルと子ナーガの戦いは、ウルに軍配が上がる。
 二人はゆっくりと落下。
 地面に降りたつと同時にウルが子ナーガを組み敷いた。

 仲間は苦戦しているようだ。これはシェナイに専属で対応した者が多いから。
 だが早く無敵を解除してしまえば優位に変わる。
 だから、ここでトドメを刺すのは筋が通っている気がした。

 ウルは剣を振り上げる。エンゲルで回復出来るはず。それでも歪む表情を、正視する事が出来ない。
 目をつむって振り下ろしたその腕を、誰かに止められた。
 振り向くと、アーシェが腕を掴んでいた。
「軽々しく手を、汚すべきじゃない。必要な時は、自分がやろう」
「で、でもっ!」
「‥‥必要な時はだ。ポーレット達が手を考えている」
 アーシェは、わけのわからない内から盗賊として生活していた。
 おそらく兵の子供らも、同じ――アーシェはその境遇を思いながら、ナーガの子を仲間の元へ運んでいく。


◆後方2
 ゼスアレオ兵が狂乱しても、エリシオンが下がらせたおかげで対処が容易だ。
 また、呪いの発生自体が少ない。
 これはドラグナー達が悲劇の主にならなかったからか。

 その上、呪いの煙には、アスク・ウォレス(tb9862)たちが対処している。
「あまりに呪いの影響を受けてしまえば、フロリンドの兵の方たちも危険です。ここで食い止めます」
 ティティ・ガラード(td5352)がコクリと頷き、スリングを構えた。
 月の塔で、スィエル達の歌を共鳴させようとしていたティティだが、塔まで抜ける隙が無く、ここで足止めを喰らっていた。
 もう一人、ナヴィがこの場にいる。
「ええ。私も手伝わせてもらいます」
 アスクとナヴィのアプラサス。
 呪いの煙、カースドスモッグが無力化される。
「うん。能力封じれば、僕でもいけるか」
 ティティのスリングショット。敵の少なさゆえに、比較的容易に対処出来ていた。
 エリシオンは安堵した表情を見せながら、ゼスアレオ兵に提案している。
「シェナイはさらに、後続の援軍を用意しています。何かしらパルージャの者と連絡を取っておいたほうがいいと思います」
「ああ。魔法をつないでみよう」


◆戦場5
 エターナが脅すようににらみつける。
 しかし今も戦い続ける子供たちは動じない。冷静な――見ようによっては、死んだような目で戦い続けている。
「残った少年たちは、強い心ですね」
 戦線に戻って来たソディアが眉間に皺を寄せながら首を横に振る。
「たぶん、魔法か薬か何かで、戦えるメンタルを維持している気がする。上手くいけば、そこを利用できると思うけど」
 ソディアはちらりと後方を振り返る。タイコはまだグチグチとシェナイ罵倒を継続中。

 アーシェ達の戦いざまも英雄らしく、通常ではありえないくらいの成果をあげていた。
 ドラグナー達の連携は見事だったといえる。けれど、それが少しずつほころびが増していく。

「バラバラになってしまえ――ドラグウッド」
「メギドのひを、うけてみるんだぁー」

 魔法少年兵の幼い声が戦場に響く。

 子供はもともと、ルミナの力が強い。その強いルミナを引き出した子供たちの魔法力は高い。
 また、ウプウアウトに攪乱され、アマテラスも幾つか破壊されており、戦いがドラグナーの劣勢に傾いていく。

 厳しい。
 サフィヤの表情にも曇りが見える。
 シューリアがスパイダージュエルを向かわせる。
「いって、スパイダージュエル!」
「うおおお!!」
 ウォーグ兵がスパイダーを阻害しに向かうが、そこはグレイが抑えに入る。
「てめえはこっちに来とけ!」
 パワーチャージ。耐える力の強いウォーグ兵だが、この乱戦でいきなり撃ち込まれてはたまらない。
 吹っ飛んだ後ろで、グレイに向けて魔法の杖を構える魔法兵が見える。
 グレイはそのまなざしを、真正面から受け止める。そして気迫を込めて、一喝した。
「クォラァ! 邪魔してんじゃねぇぞガキがッ! 喰われてェのか!」
「う、あっ、うわあああん」
 効いた。少年たちも厳しいのだろう。シェナイの施した魔法はあやういバランスで成り立っている。
 戦意を失った少年には、スパイダーマジュが向かう。 

「壊れとけ!」
 ライトニングの銃撃。ドラゴングラスのひとつ破壊する。何らかのアルケミーを使おうとしていたようだ。放っておけばまずかったかもしれない。
 ファムが歓声をあげた。
「エクレセント! 皆さんやりますねぇ。スパイダー! 乗り遅れずにいってください!」
 スパイダーマジュが少年達に向かう。数に劣るドラグナーに対してこれはありがたい。
 横合いから、アリシアのクロスボウ。これもライトニングとは別のドラゴングラスを破壊する事に成功する。

「クッソ! アイツら、クソ強いじゃんか!」
 リベラ・ルプス(tk7277)はたじろいでいた。
 だが何か出来る事があるはずだ。
 考えろ。
 考えろ。
 ぴこーん。
「へっへっへ、閃いたぜェェェ!」
 リベラは笑うと、乱戦の中に飛び込んでいった。
 そして手近な少年兵に向けて、お尻を振った。
「ようガキ共ォ、そんなトコで魔法なんかぶっ放して遊んでないでオレ様とイイコトしようぜぇ?」
 魔法のホットパンツを見せつける、名付けてお色気作戦だ。
 魔法少年兵はぽかんとした表情のまま、リベラに手を伸ばした。

「ルミナショット」

「あちちちち!!」
「何やってるんですか」
 ひとまず危険そうなので、サフィヤが後ろに引っ張っていった。
「いやビネガーに言われたくは‥‥あちち」

 アリシアは、インビジブルで接近してきた子供兵を察知して、射撃を行った。
「なかなか‥‥厄介ですね」
「このままではダメよ。容赦をするべきではないわ!」
「そう、女神の敵に慈悲はない、魔の賊徒滅ぶべし! 全ての魔法兵と子供兵を討ち果たしシェナイの無敵を解除するのだ!」
 ベラニーチェが主張すれば、イズルード・ドレッセル(tf8752)も言う。
 イズルードがジャックにて飛翔し、ゼウスの魔法を撃ち放つと、反撃のフェザージュエルが飛んできている。
「‥‥わかっています。けど」
 アリシアが厳しい表情をみせている。他の者も同様。
 覚悟が出来ていないのか?
 そうではない。殆どのドラグナーは、すでに何らかの覚悟を決めていた。
 手を汚す覚悟。殺さない覚悟。汚名を浴びる覚悟――。
 シモン達が話し相手になっているせいもあるが、おかげでシェナイの精神攻撃が防げている。

 それでも押し込まれる。
 容赦しない。そう思っていれば圧倒出来るような状況ではない。

 猛攻を耐えていたシャムロックが、ついに昏倒する。
「まずいな。こっちだ!」
 あまりにも敵が固まっている為、シルトが前に出て敵の分散を図った。
 シャムロックを狙っていた敵がシルトに向かい、左腕に噛みつかれた。
「こいつ!」
 振りほどくが、左腕が動かない。
「ちっ」
「待って、下がっ‥‥あっ!」
 フィザルが強烈なチャージングを受けて吹っ飛ばされる。
「下がれない。支える!」
 シルトが強引にその場に踏みとどまり、フィザルも壁になる。
「リムーブカース!」
 ウリエンが、また一人のウォーグを解呪した。
 成果は上がっているのだが、解呪後に今度は普通のウォーグになるケースもあった。

 このままでは、まずい。
 焦燥感が限界に近づく。

 そんな中、ドラグナー達に不思議な力が降り注いで来た――。


◆輝きの広場3
 広場でのスィエルの歌が盛り上がり強めていく。
 
 仲間のサポートで周囲に敵はおらず、演奏や踊りに集中出来ている。
 戦いの、哀しい喧噪が聞こえ伝わる。
 その中で行われる歌と踊りは、ささやかにも聞こえたが、強く凛々しい曲調は、聞く者に勇気をもたらした。
 そこにテテュスが、場に楽しさと、幸せを溢れさせ、ララハトが小ぶりな妖精の横笛で、色を添え、チェロは元気に盛り立てる。
 三人は、歌を守る最後の砦にもなる。

 ルミナリィの魔法で闇を見るララハト。東にあらわれたデペドロ牛をいち早く察知した。
(戦いになるか? しかし準備は出来ている)
 ララハトは、意識を向けつつ、仲間にそれとなく伝えると、二人もすぐに牛に気づく。

 来る。
 
 射程に入った暴れ牛に、テテュスのマジカルショックが放たれた。
 スィエルは絶対死守!
 そう念じつつ、踊りながらの職人芸。牛は状況が理解できず、近くにいたウォーグのほうに体当たり。そのまま何処かに走っていった。
 スィエルと一瞬、目があって、テテュスはにまりと笑む。

 ララハトは、煙のようなものが集まって来ている事に気づく。
 呪いの煙の化け物だ。ひとつ、ふたつと増えていく。
(この場の邪魔は、させない)
 笛が小さいのは、臨機応変に戦う為。ララハトは槍を取った。

 仲間達の尽力により、スィエルの歌は続く。チェロは踊りをやめない。やめたくなかった。近くに落ちている結晶化した幸せが、より輝いているように見えるから。
 水晶の輝きが、さらに増す。チェロは感じた。
「うにゃ!」
 輝きが空に広がり、キラキラと街に伝播しはじめている。

♪獣の声は遠くに聞き去り
 己の鼓動に熱を重ねる

 愛しい声よ熱い心よ
 貴方に届く君に届ける――

 スィエルの歌は、輝きの広場から広がっていく。
 輝きをまとったララハトの一撃は、カースドスモッグをあっさりと打倒した。
 広場から、呪いの煙が確認できなくなっている。

 ※

 不安のためギスギスしていた雰囲気になっていた飲食店の中で、歌声に気づく者がいた。
「歌が聞こえる」
 不思議と落ち着く。
「‥‥誰かが、何か‥‥戦ってくれてるんだろうか」
「そんな都合のいい事が?」
「‥‥でも、この店が今あるのも、都合がいい事が起こったおかげなんだよな」
「私も、不思議な親切な人が現れて、助けてもらった事があります。なんて言いましたか。彼らは――」

「ドラグナーだよ〜!」

 叫んだのはシフールのシャインアイ。
 手には、フィロメナが作り出した幸福を具現化した塊を持っている。

「もうこわいのいないから、いっしょにうたっておどろう〜! あたしたち、まちをまもるためにうたってるんだよ〜!」
 言葉だけ聞けば、突拍子もないもの。
 けど、伝わる。スィエル達が、絆を紡ぐ歌を奏でているから。
 それに――。
 フロリンドの街で、ドラグナーはたくさん行動している。ここにはもうすでに、多くの絆が生まれているのだ。

「わかった。信じて手伝おうドラグナー!!」
「わ、わたしも!」
「俺もだ!」

「うん〜!」

 シャインアイは飛び回り、ヴァイオリンを弾き奏でた。
 伝わるように。広まるように。

 避難に困って右往左往していた人々は、ディアナが広場に誘導している。
 そして言う。
「歌い踊って、悲しみを吹き飛ばすわよ。楽器が弾ける人は楽器をとって、周りの人といっしょに歌って踊ってね!」
 ディアナが示す先で、愛のドレスに身を包んだテテュスが踊っている。
 人々は、馬鹿な事だとは感じなかった。
 人々は踊る。歌う。一体になっていく。

♪貴方に届く君に届ける
 結ぶ紡ぐ友の縁――
 背に傍らに生涯の絆♪

 スィエルの紡ぐ歌詞に乗り、力が広まっていく。
 幸せの水晶や、フィロメナの作った結晶から、輝く粉のようなものが溢れている。
 それは空に舞い上がり、拡散していく。

 タイコの元のドラゴンさんも、安心できますように――。
 そうフィロメナが祈ると、輝きは巨大な細身のドラゴンの姿を形作ったように見える。

 それは、人々の絆を集めていった。
 いつかドラグナーと、一緒に歌った事のある芸人たちが。
 一緒に猫を探した、貴族の侍女。
 酒場で出会った誰か。一緒に食事したあの人。お土産を買った露店の商人。
 そしてその家族。友達――‥‥。彼らが広場に、導かれていく。

「ドラグナー、一緒に!」
「一緒に踊ろう!」
「一緒に歌おう!」

 小さな事、大きな事、いろんな事件や日常的な事で、ドラグナー達が作り出して来た幸せ――それを大きくする、絆の力。
 それが街に、ドラグナーに、力を与えていく。


◆後方3
「よし」
 ティティが空を見上げてつぶやいた。
 ここはシェナイ達と戦っている後方。呪いの煙はもう見当たらない。
「おお、力が沸いて来るよ!」
 具合悪そうだったタイコも、元気を取り戻している。
 いや、そればかりか、光っているように見えるくらいだ。何かティティに向けてパワーを与えている。

 スィエル達の歌が広まっていく中で、ティティは、共鳴のアルケミーを発動させた。

 錬金魔法で作り出したリュートが、スィエル達の歌を広げ、ティティ本人も歌い始める。
 幸せの力が、戦場までも広まっていく。

 シェナイはすぐに異変に気付いた。
「なんでおじゃるか、これは‥‥」
「おっと、気になりますかな?」
 フリードが言うと、シェナイ嫌そうな顔をした。
「何もおきていないでおじゃろうが」
「そうでございましょうか。ほら、聞こえませんか?」

 確かに聞こえる。
 人々の声。幸せを呼ぶような歌声だ。
「さあ、シェナイ殿。ここからが本番ですな?」
「‥‥ええい、全力でやっているでおじゃるか!」
 シェナイが一人の兵に指示を与えた。
 その子供が詠唱していた魔法。それは、エドラダワーだったのだろう。だが、シネラリアは、それに集中して対応していた。
「けっこう、危なかったがの」
 悠々と髪をかきあげている。
 カウンタースペルの魔法が、見事に強悪な魔法を防ぎきっていた。ライトニングやアリスフィアもCROSSを破壊しに向かう。

 ならば一斉攻撃だと、こどもたちが武器や杖を構え直す。
 しかしここでずっと行っていた策が実を結ぶ。

 突然、魔法少年兵の多くが、眉を吊り上げて不快な表情を、ドラグナーではなく遠くへ向けていた。
 その先には、タイコがいる。

「わあああ!!! てきは、あいつだ!!」
「あいつだ!! あいつだああ!!!」

 魔法少年兵達の攻撃が、あらぬほうへと飛んでいく。

◆戦場6
 ソディアが安堵の息を吐いた。
「上手くいった」
 シェナイを守り、忠誠を誓うような魔法が、魔法少年兵には施されていた。
 だが、この制御は不完全。
 シェナイを悪く言うものに過剰反応してしまう時がある。
 ソディアの試みと、スィエル達の生み出した力が絡み合って、魔法少年兵の力が適格に働かなくなってしまう。

 統率が崩れる。
 ドラグナーに対するプレッシャーが格段に減る。‥‥兵は無防備といっていい。
 遠距離魔法がタイコに向かっていくが、アマテラスが寄せ付けない。その上、前線に移動して来てしまう者もいる始末。
「やりますね」
 サフィヤの声にソディアは笑顔で返した。
「でも、これからだよ。子供たちを無力化していこう。‥‥対魔騎士、それが本来の私さ」
 俊足のソディアが、おかしな動きをする子供兵に追いすがっていく。

「シェナイと糸でつながった子、残りはどの子は正確にわかりますか?」
 ポーレットが訪ねると、ギルベルトが答える。先程から、彼はその確認に専念していたのだ。
「あそこにいるケットシーだね。ナーガ族とパンドラになった子は、すでに後方に運んでいる。」

「あの子や」
 ギルベルトが示したケットシーの子を、アルフェリアが見定める。以前会った事のある子なのだろう、面影がある。
 ホバーによるスムーズな移動。
 少年兵達の狙いがタイコに向いている今、容易な接近が可能だった。
「何やってるん。なぁ、もうやめよう。こんな事、あんたらも、誰も、幸せになれへんよ! 世界を敵に回してその世界すら壊れてもうたらなんもなくなるやんか」
 感情が止められない。
 けれど、声は届かない。逆に、近くのウォーグの牙がアルフェリアを襲った。
「うああああっ!」
「ちっ‥‥離れろ! 貫け、シュトルムンド!」
 イズルードがウォーグ兵を槍で穿ち、鮮血が舞う。そこをウリエンが解呪していく。

「‥‥好機だな」
 ポーレットが呟くと、ソディアが意見を口にした。
「スタンアタックなんかは、普通に狙っていくより負傷させてから狙うほうがよさそうだ。全力でやっても、そう死なないはず」
「うにゃ!! ストーンもそれで効くかにゃー!!」
「そうだね、たぶん」
 すごく隙をつくか、重傷を負ってしまえば、無力化する技も十分に通用する。
 シナトがパンと手を打った。
「わかった。援護する! 傷つけたくはない。けど、やるしかないんだ!」
 魔法を詠唱する。ゼウスの魔法だ。
 電撃がターゲットを指定するかのように飛んでいった。
 直線範囲のゼウスは安定して敵を狙い撃ちしやすい。
 さらにシースの弓が飛んでいく。
「はぁっ!!」
 イズルードが手近な少年兵に突きこむと、リズのストーンが発動する。
 今度は成功だ。
「どんどんいくにゃー!!」

「よし。そのケットシーの子を」
 ラプトゥーンが接近する。再び発動するシナトのゼウスで傷つけると、ミタマギリの一撃。
 これは耐えられた。
 ドラグナー達の動きが軽快だ。気絶攻撃で一致した英雄達の心が一つになって、力を与えているのかもしれない。
「左! 援護して。私が行く!」
 ソディアが前に出ようとする。ウォーグ兵が邪魔に入って来るが、それをバンリが上手くいなした。
「ぜぇ、ぜぇ‥‥負けるものかぁー!!」
「よし」
 サフィヤのミタマギリ。気絶はしなかったが、アルフェリアがケットシーの手を掴んだ。

「やるね。これで決める」
 ソディアのスタンアタック。それにファムのスパイダーマジュが同時に襲い掛かった。
 少年の意識が、途切れる。
「ケミにゃん」
 すぐにアルフェリアが子供を担ぎ上げた。さすがに軽い。

「よし、こっちまで来な。完全な安全地帯ってわけじゃないけどね」
 モーリッツ・キルドルフ(ta9247)が呼びかけた。回復する為に後ろで待っているのだ。
 ウォーグ兵が狙っていたが、適格な狙撃がその足を止めた。
「ヤボはダメよ?」
 援護の為、アルマが狙っている。
「無敵の解除は頼んだ。さあ、今のうちに他の子を無力化するよ!」
 ソディアが悠然と、剣を中段に構える。

 ドラグナーとウォーグ兵、ウプウアウトとの闘いも、互角の様相に盛り返す。
 シーキが、ウォーグ兵に攻撃を受けているが、すぐにマグノリアが押し返す。
「今こそ力押しで進むまでです」
 高い防御力で耐えて、ウォーグ兵にカマで刈る。
「助かります。傷つけば回復を」
 シーキのエンゲルはまだある。
「回復! 頼むッ」
 グレイが下がってくると、シーキがエンゲルで回復。またすぐに前に飛び出していく。


◆後方4
 アルフェリアが、シェナイとつながった子を運んでくる。アーシェもナーガの子を運んでいる。
 モーリッツがエンゲルを施して回復し、ポーレットが様子を見ている。
「結界で糸を遮断してみるか」
 ファンシェンの旗の結界で遮断してみる。
「これだけでも効果はありそうだな。あとは‥‥体内に埋め込まれているか? なんだこれは」
 ポーレットが身体を探る。何か跡があった為、慎重に見ていくと、身体に何か埋め込まれている。
「何か細工されているのか」
 何か仕掛けられている。その上で、シェナイと心がつながる事で、魔法の力を発揮しているのだろうか。
「変な力、消えるとええなぁ」
 アルフェリアが子供の手を握って、声をかけている。

 モーリッツは、パドマの杖を回収した後、ジュソをかける。こどもは服従する事となる。
「気づいたね?」
「ママ?」
「ママじゃないよ。教えておくれ。シェナイの能力はなんなんだい?」
「‥‥すごいアストラルフォーム、みたいな感じの‥‥」
「なるほど」
 モーリッツは頷く。
 効果時間の長いアストラルフォーム。
 その上、瞬間的に解除して攻撃をする事が出来るのだろうが、その瞬間は無防備になると考えられる。

 モーリッツはこの情報を、仲間達に伝えていく。
 しかしモーリッツのジュソとシェナイの魔法が干渉しあっているのか、なんだか反応が苦しそうだ。
 ポーレットは、埋め込まれている何かをガイアースで押し戻せないかと思ったが、衝撃があるわけでもない為困難だった。
 そこに、ジル・ヴァサント(tf1251)がやって来る。
「待ってくれ、スウェンを使ってみよう」
「? なるほど、面白くかもしれない」
 モーリッツが媒体を戻すと同時に、ジルはスウェンの魔法で少年との意識を入れ替えてしまう。

 何気ないその策が、効果を発揮する。
 シェナイと繋がってる糸のようなもの。そのあるべき繋がりが、意識の入れ替わったジルとケットシーの子供の間でぼやけている。
「‥‥どうした、これは?」
 驚くポーレット。入れ替わったジルが考えを述べる。
「おそらく、シェナイと体と繋がろうとする力が、意識を入れ替えた事で混乱したのだろう。この身体、おかしな気分になる」
 身体には、心に悪い影響を与えているものを施して、その上で心を無理矢理シェナイとつなげる。

 これは絆を使った魔法。

 スィエル達が絆を使って魔法としたように、シェナイも似たような事を考えていたのだろう。但し、魔法や薬などで、無理矢理従わせ、無理矢理作り出した魔法。
 だからそれを壊せば、解除される。
 スィエル達の力によって、絆の高まった今の状況であれば、ジルのように少しの工夫でそれは可能であった。
「そっちの子も出来るだろうか。‥‥身体に埋め込んであるものもとれそうだ。ウルもこちらに」
 次はナーガの子。
 ポーレットが身体に埋め込まれた錬金アイテムをえぐり出している。
 ‥‥幸せを呼び、絆を育んで来た、今のドラグナーならば、おかしな魔法もきっと解けるはず。

◆戦場7 
 モーリッツの情報により、シェナイが攻撃する瞬間は、ダメージが入る事がわかった。その間にリベルトがシグナルフェザーを成功させている。
 前線にいるエドガーは、数々の攻撃を跳ね返し続け、今も持っているスノージュエルで体力を戻す。
 その前にいるキョウは負傷が大きい。
 彼らは下がって戦うシェナイに対して立ち向かい、攻撃の瞬間を狙って攻撃。
 結果、シェナイは攻撃を諦めざるをえない。威力の大きいシェナイの扇が無くなったのは助かった。
 だがそれは分断されているという事でもあった。
「キョウの旦那。横、危ないですぜ」
 ジンガが後方から声をかける。キョウは横からウォーグ兵の一撃。これは回避するも、傷が多い。しかしキョウには協力なサポートがついている。レアのストームが無ければ、射撃にてやられていたかもしれない。
 そして息子もここにいる。
「セイ」
「はい、父上」
 キョウがやや下がると、セイが追うように接近。エンゲルを施す。

 ――ウォーグ兵が減って来ている。
 ウプウアウトに苦しみながらも、ウリエンや、アイン達の戦闘は少しずつ意味を成していく。
 スィエル達の生み出した絆は、わずかにドラグナー達の連携を高めている。

 もともと取れていたアインとアセリアの連携が強化された。
 アインが前。
 アセリアが後ろ。
 アインが素早く斬り込めば、アセリアがソニックブームで合わせる作戦。
 ここにグレイが合わせていく。しなやかに踏み込んでの、下段蹴り。ウォーグ兵はたまらず膝をつく。
「ハッ、横も見とけ、まがい物がッ!」
 当たりにくかったグレイの攻撃も、連携力が上がった事で神がかった命中率を見せている。

 ウォーグ兵を引き付けていたサラとシュウ、バンリは、そのまま役割を担う。おかげでウプウアウト攻撃に専念できた事が大きい。
 翻弄されていた戦線が、立て直されていく。
「こちらは大丈夫です! ジャッカルとシェナイ宰相を!」
 シュウが叫んだ。セーユのエンゲルを受け、まだ戦える。サラも健在をアピールするように斧を大きく振る。
「私もまだまだやれますよ。さあ、きなさい!」
 カウンターアタックに専念するサラが、また一人、ウォーグ兵を打ち倒す。
 
 囲まれたシュウがホルスを発動し脱出。そのままサラに引かれた敵を一撃。
 ここまで効果を見せていなかった、リベルトから付与してもらった凍結の力が兵たちを襲う。
 射線が確保される。
 よって、マナが射撃で狙いやすい。
「技術の産物に駆逐されなさい」
 加速装置を使った高速射撃が、ウォーグ兵を倒す。
「給弾装置起動。次!」
 解消されつつある乱戦に、マナの射撃の腕が光る。
「泣き声を上げろッ!!」
 サラを狙う敵に、ジンが斜め後ろからの一撃。
「押します。その美貌と肢体こそ正義、僕の前に道を開けない者はいないのですよ」
 敵が減れば、そこをマグノリアが制するように進んでいく。
 単なる力押し。
 しかし戦いが上手く回っているドラグナー達にとって、これほど力強いものはない。

 戦場を動きまわっていたレイラは、ジュソによるウォーグ兵の下僕化に成功していた。
 その数三体。
「ジャッカルをやってください」
 自由に動きまわっていたウプウアウトの動きが制限されていく。
 さらに、グレイとアインで囲いかかる。

「グシュル‥‥グシュルシュル‥‥」

 ウプウアウトの呻き声。
 苦し気だ。しかし回復能力があるようで、ここで決めてしまいたい。
「世界を乱す獣よ。終わりを迎えろ!」
 アインの四連攻撃と、ウプウアウトの四連攻撃がぶつかりあう。互いに二発ずつ受ける。
「アインさん。踏みとどまってください。当てます!」
「いい声だ、俺の鞘よ。‥‥やってみせろ!」
 大きなダメージを受けながらアインがとどまっていられるのは、アリスが後ろにいるからなのかもしれない。
 狙っていたアセリアのダブルソニックブームも、普通ではありえない威力を発揮しているように見える。
 そこに強力な攻撃力を持つグレイが加わる。
 鎖を絡めると、その怪力で思いっきり引っ張った。
「こいつで崩れろ!!」
 傷の多いウプウアウトに、グレイはこの押し合いを制する事に成功する。

 そして硬直した人獣に、マナの矢が飛来して、その胴を貫いた。獣はゆっくりと、倒れていった。


◆戦場8
 ウプウアウトの撃破は、シェナイは大きな衝撃受けていたようだった。
 しかし、すぐにいつもの笑みに戻る。いやらしい笑み。そのまま上空を見上げている。
「強いでおじゃるなぁ。まだ、最後の手があるのでおじゃる」
 エドガーが冷静に一言返した。
「それを喋る必要があるのか?」
「ふん。ほら」
 上空からライトの明かりが、戦場に降り注いできていた。
 見上げると、そこにあるのはフロートシップだった。パルージャ帝国の、シェナイ専属艦である。
「援軍? こんなところで来るなんてどうかしてるよ」
 ソディアがやれやれと肩をすくめる。
 冷静にふるまうが、ここで新手は、まずい。

 だが、攻撃して来る気配がない。それに良く思い返してみると、結構前から、近くで様子をうかがっていたように思える。
「何をしているでおじゃるか」
 シェナイがフロートシップに向かって叫んだ。
 するとフロートシップから魔法で拡大された声が返ってくる。
「あー、シェナイ様。実は先にフロリンドの兵に発見され、連絡を受けましてね‥‥」
 エリシオンと、フロリンド指揮官が頷きあっている。
 先にパルージャ帝国の援軍に連絡をつける事に専念していたフロリンドの者達は、援軍のフロートシップを発見し、その連絡に成功していた。
「戦っているのはドラグナーでありましょう? この船にも、彼らに助けられた者は多いのです。それに‥‥ドラグナーに命を救われた、シャー・スレイも、彼らと戦えとは言いますまい。ララ殿も戦えぬと申しておりますし」
 フロートシップには、かつてドラグナーの助けた、ララという者が融合しているようだ。
「そういう事だ、シェナイ」
「ララ? お前、サンドラに残して来たはず」
「サンドラの件は終わった。元サンドラの王子達が協力してくれてな。そういえば、彼らもドラグナーに助けられたらしいな」

 思いかえせば――。
 地上には、ドラグナーの仲間がたくさんいる。
 そこにも、ここにも。いろんなところに。

「なんで術が効いておらんのでおじゃるかなぁ」
「シェナイー シェナイー」
 シフールのネー(tj2543)がジャックの移動力で飛来して来た。
「ネーちゃん てがみーシェナイー おしえてー」
 ネーは強引にシェナイに肉薄する。トルネードで、残るウォーグ兵を足止めするパワフルさを発揮しながら、手紙らしきものをシェナイに渡しに接近。
「シェナイー、おてがみー」
 シェナイはネーを振り払う仕草を見せた。
 この時、シェナイは別に、能力を解除したわけではなかった。にも関わらず、ネーの身体が手に当たる。

 驚きに目が見開かれる。

 ドラグナー達は、全ての子供のつながりを除去し、無敵化に解除に成功したのだ。
 シェナイを狙っていた者達が、これを見逃すはずもない。
 セイが温存していた精霊合身し、ブラインドアタックで狙う。これが当たり、クレティアンのソニックブームがシェナイの腕を切り落とした。
「っ‥‥」
 シェーンの射撃。シーザーの火炎が、シェナイを追い詰め、地に膝をつかせた。
 キョウが剣を突き付ける。
「独断で軍事行動を起こし帝国へ外交的損害を与えた罪、看過する事は出来ん。奸臣シェナイ、百年に及ぶ計略の幕引きだ!」
 シェナイが扇をキョウに向ける。

 銃の音が響く。
 シェーンの銃撃は、シェナイの首の下に当たる。
 ファムの銃はシェナイの腰を砕き、シューリアらの魔法銃がシェナイの身体を傷つけ、マウリの銃は、空から肩を砕いた。
 よろめくシェナイ。
 キョウのバトルファンが、シェナイの扇を吹き飛ばした。

「途中までは、良かった。なのに、絆? 幸せ? 驚きでおじゃるなぁ。そんな力で、強くなるとは‥‥」
「あなたも、心の中では理解しておられたのではないかな」
 フリードが言うと、シェナイは眉を吊り上げた。
「なに?」
「あなたが利用した力、まさに子供との絆の力。ここまで話相手になってくれているという事は、何か、話し相手をないがしろに出来ない誓約すらあるのではないですかな。そして根本的に、あなたが求めたもの。それも、絆から由来するもの」
 ソディアが、前に出て来て、話を続ける。
「けど、その力をゆがんだ形で補い、利用していけば上手くいくはずもない。普通に慕ってた子だって、いるだろうに‥‥」
「普通にしてりゃ、おもろい事もあったんやけど」
 ヤレヤレとシモンが言う。

「‥‥ふん、ここまで、おじゃるかなぁ」

「残念です、閣下」
 フリードが礼を取る。
 ふぅと息を吐き、真剣な表情をしたシモンの手にも、いつのまにか銃が構えられている。
 躊躇なく引き金が引かれ、シェナイの身体から、さらに鮮血がしたたり落ちる。
 シェナイが退く。一歩、二歩。
「終わりだ。私は貴様を貫く」
 クレティアンが剣を向け、エドガーが迫る。
「終わりにしよう。覚悟はいいか?」
 シェナイはにやりと笑って返す。
「言葉はいるまい? で、おじゃる」
「‥‥違いない」

 セイが一歩踏み込んだ。
「これで、終わりです」
「‥‥そうでおじゃるな。長かったなぁ」
 シェナイはにやりと笑うと、背を伸ばした。

「グェッヘッヘ‥‥さらば、ドラグナー。わらわの事は、月夜になったら懐かしめでおじゃる」

 シェナイが浮遊した。そのまま海のほうに飛んでいく。
 再びドラグナーの一斉射撃を受けると、シェナイは頭から海の中に落ちていく。
 ただ、落ちていく。
 そして沈む。暗い海の中へ。
 シェナイの身体が見えなくなると、爆発が起こり、大きな大きな水柱が上がった。

 リベルトが、大きく息を吐いて、呟いた。
「シグナルフェザーの反応が、消えた」
「さようなら。‥‥綺麗でしたよ」
 そう言って、ファムは静かに目をつむる。
 
 子供たちは戦いをやめ、ウォーグ兵も動きを止めているようだ。

 戦いは終わった。

 輝きの広場の歌声が、美しく響いてくるのが聞こえる。
 ドラグナー達が、一人、また一人と、伝わってくる歌を、口ずさみはじめている。

 輝きの広場。
 そこでは広場の名に相応しい、輝くような笑顔が、広がっている。

参加者

◆MVP

スィエル・アーベント
(tc0760) パドマ月
ソディア・ブレイブ
(tj3138) エンダール陽

◆参加者一覧

キョウ・ミツルギ(ta0035)W月
レア・ナチュール(ta1113)P風
ライトニング・ブガッティ(ta1827)H風
チェロ・テンペスタ(ta2036)E風
セーユ・エイシーア(ta2083)E陽
マウリ・オズワルド(ta4409)H水
エドガー・ロンバルド(ta4959)W水
シャムロック・パストラーナ(ta5458)E火
リベルト・クレパルディ(ta6844)E風
デューク・レイクウッド(ta8358)W月
モーリッツ・キルドルフ(ta9247)E月
ラキュエル・ガラード(tb2724)W陽
サフィヤ・バルタザール(tb5749)W月
ルパート・シラドラ(tb5966)W陽
カナタ・ミツルギ(tb6087)W火
ギルベルト・グライナー(tb8487)E月
アスク・ウォレス(tb9862)E水
シューリア・シーリア(tc0457)H月
スィエル・アーベント(tc0760)P月
テテュス・アーベント(tc0850)P陽
シルト・グレンツェン(tc1016)W火
フィザル・モニカ(tc1038)H水
ウル・フレイン(tc2676)E風
ウリエン・エレクトラム(tc2839)E陽
ラプトゥーン・アベスト(tc6518)W月
ケイズ・グラッセ(tc6589)W月
エターナ・クロウカシス(tc7434)P月
シモン・ヤクザイル(tc8786)H地
ティラミス・ノーレッジ(td1157)P風
ファム・シャハル(td1602)H月
ティティ・ガラード(td5352)H月
ジル・ヴァサント(tf1251)P水
エリシオン・クリスタロス(tf2825)P火
エリザ・フローレス(tf4185)H水
サクヤ・クリスタル(tf5262)P地
イズルード・ドレッセル(tf8752)P風
アルマ・タロマティ(tf9220)H火
リーゼロッテ・マグヌス(tg1669)P地
レイラ・バルテュス(ti4498)E月
ハルト・エレイソン(ti5477)W地
シーザー・クイーン(ti5526)P火
シェーン・オズワルド(ti5753)H水
マグノリア・バイブル(ti8081)W地
アリスフィア・メルス(ti8412)P月
デュラン・ヴァーデロス(ti8447)E陽
ルクスリア・モール(tj1016)E火
ココ・ルルノン(tj1611)P風
グレン・エイスリオス(tj2212)H火
シュウ・カチヅキ(tj2357)W陽
ネー(tj2543)P風
シネラリア(tj2817)P水
ソディア・ブレイブ(tj3138)E陽
シャインアイ(tj3923)P陽
セイ・ミツルギ(tj4453)E陽
アーシェ・フォルクロア(tj5365)H風
ナヴィ・アルティシア(tj5711)E水
クレティアン・リベール(tj5834)E風
ポーレット・ドゥリトル(tj5975)E地
ジン・マキリ(tj6129)W陽
ヘルマン・ライネケ(tj8139)P水
ジルヴァ・ヴェールズ(tj8140)W月
エッダ・アーベント(tj8699)W陽
フィロメナ・アーベント(tj8905)H月
ララハト・ルクイア(tj9989)W陽
ジンガ・グライグ(tk0324)W月
コダマ(tk0947)E地
シズネ・カークランド(tk1515)W月
シューセイ・アイーサワ(tk1824)E月
シース・アイーサワ(tk1851)H陽
シナト・シュンラン(tk1860)P風
グレイ・フォスター(tk2122)W火
シェーリア・カロー(tk5515)H風
シーキ・シュンラン(tk5529)E月
アリセア・リンドヴルム(tk5624)W風
カレス・カンパニーレ(tk5628)H月
キャサリン・ステイシア(tk5804)W水
マナ・リアンノ(tk5914)H水
アリシア・アンヘル(tk6251)H火
アイン・バーレイグ(tk6291)W陽
ベラニーチェ・アザロ(tk6730)W水
フリード・ゲオルギウス(tk6828)W地
アルフェリア・ルベライト(tk6928)H火
サラ・アセンダント(tk7194)W地
リュード・カーライル(tk7218)W火
リベラ・ルプス(tk7277)P陽
ディアナ・エルスタール(tk7469)P月
バンリ・ソレイユ(tk7854)W陽
ルタ・バクティ(tk8199)W火
エト(tk8210)P地
タイコ(tz0022)?月