担当MS:恵雨人

惑いの薔薇は手折られて

開始料金タイプ分類舞台難易度オプション状況
14/05/23 24:0010000 Rex・ワ・、・ケ・ノ・鬣゙冒険地上初級お任せプション 8人

◆参加者一覧

エリザ・レッツェル(ta4659)P月
ユニコ・フェザーン(ta4681)P地
ハナ・コッコベル(ta8370)P陽
アシル・レオンハート(tb5534)P火
レイナス・フィゲリック(tb7223)H陽
メイ・マートン(tb9157)P月
ミーナ・メルクーア(td3715)E水
クレア・ジェラート(tf3225)E水

オープニング

◆昔話は語られて
 昔、むかし。
 一人の、お金持ちの男がいました。そして、その男に愛された女がいました。
 しかしその女は、実は男の財産を狙っていました。愛なんて、これっぽっちもなかったのです。
 それを知った男は、「裏切られた!」と思ったのでしょう‥‥心の中のどろどろした思いから、彼は一つの計画を立てました。
 その女は、薔薇の花が好きでした。そしていつも、「夜空の星のように、銀色に輝く薔薇を見てみたい」と言っていました。
 だから、男はその通りの薔薇を作らせました。幾重にも重なる花弁に、一滴の青い石を飾り、茎の先端を鋭く尖らせた一輪を。
 そして男はその薔薇で女を誘い‥‥その凶器で、彼女を貫いたのです。

 ぐさり。一回目は、白い喉へ。
 ぐさり。二回目は、青い瞳へ。
 ぐさり。三回目は、赤い心臓へ。

 女が、まるでぼろきれのようになった後、男はすっかり人を信じられなくなってしまいました。
 男は屋敷の周囲をぐるりと生垣の迷路で囲い込んで、何人たりとも男の元を訪れることのできないようにしてしまいました。
 それでも男を訪ねてくる者は、あの銀色の薔薇で貫きました。 

 男は多くを殺し、彼もまた死を迎えました。
 そして、血をたっぷりと吸った銀色の薔薇は、誰かの手に渡ってはならないからと、どこかに隠されることになりました。
 ですが、花の細工は見事なものでしたから、薔薇は茎の部分と花の部分とに断ち切られ、花の部分は「惑いの薔薇」と名付けられ、今もどこかの誰かの手の中に‥‥。

◆真鍮の鍵は回されて
 ウーディア王国はパリスより西方――かつては有力諸侯と名高かったルヴィエ家も、今では森の奥でひっそりと屋敷を構える「貧乏貴族」となり果てていた。
 だがその転機は、当主であったアロイス・ルヴィエの死に際の遺言によって訪れる。

「ルヴィエ家の富の全ては、我が愛しき一人娘のロザリーに托す」

 そしてアロイスは、十五歳になったばかりのロザリーの手に小さな鍵を握らせて、そのまま息を引き取った。
 既に母を亡くしていたロザリーは、頼るべき親類もなく、使用人たちの手を借りながらアロイスの葬儀を終わらせた。
 それから、ロザリーは小さな鍵に合う鍵穴を探した。部屋のすべては勿論、扉という扉、箱という箱、錠という錠を試しに試して――やがて、母が生前に使っていた宝石入れに辿りついた。
 鍵と同じ、鈍い色をした鍵穴。そこに挿しこまれる切っ先。
 くるりと回転し、開いた箱の中には――。

◆屋敷の扉は閉ざされて
「――銀色の、見事な薔薇の花が入っていたんです」
 屋敷の傍にある村の、小さな家の中。その中年女性は、切々とドラグナーたちに語る。
 彼女は、ルヴィエ家の数少ない使用人である。ロザリーが鍵穴を探す時はいつも傍で彼女を手伝って、当然ながら件の宝石入れの中身も確認したのだという。
「覚えはあります。アロイス様が昔、上機嫌で街からお帰りになって『見事な細工を手に入れたぞ』と仰っていたので‥‥」
 そして、これはロザリーへの贈り物にするから内緒にしておいてくれ、とも言われたのだった。
 実際、薔薇の細工はロザリーの手に渡った。だが、問題はその先にあった――この女性以外にも細工を目にした使用人がいて、その人物が薔薇の見事さを吹聴して回り、「実はルヴィエ家にはまだ見ぬ財宝が眠っているのかもしれない」などと考えだす輩が出、その魔の手がロザリーへと伸び‥‥。
「屋敷を訪れるそうした方々に耐えられなくなったロザリー様は、ご自身のお部屋で薔薇の細工をご覧になりながら泣き出して‥‥わたくしもお傍にいたのですが、その直後から、暫く気を失っていたようなのです」
 太陽が空の一番高い場所に昇る頃から、それが沈みきるまで。
 目覚めた彼女にロザリーのかけたことばは、「出ていって」の一言だけ。
「わたくしは、抗うことができませんでした。お一人になりたいのだと、思っていました‥‥」
 しかし、それどころの騒ぎではなかったのだ。
 ロザリーは使用人すべてを屋敷から追い出した。
 そしてそれからというもの、誰かが屋敷に近づこうとすると、ある一定の所で意識を失ってしまうようになってしまった。
 地を歩み屋敷に踏み込もうとした人々も、空を飛び屋敷の屋根に止まろうとした鳥たちも。屋敷を見ることはできても、近づくことはできない。
「わたくしも、何度も足を踏み入れようとしましたが‥‥っ!」
 彼女は泣き崩れる――嗚咽の響く室内で、ドラグナーたちは視線を交わした。

 「悲しみの水瓶」は、この先の悲劇をも映し出していた。
 心を蝕まれたロザリーは、やがて、完全なる平穏を求めるために、彼女の元へと迷い込んだ者を傷つけ、害し、果てには命も奪ってしまう――どこかの、昔話の男のように。

 これは、歴史の一頁から零れ落ちた、血腥いエピソードの後日談。
 あるいは、雲の上からの勇者たちの、未来を紡ぐ物語。

◆マスターより
何度目かまして、『ボイスリプレイを担当させていただくことになったマスター』恵雨人です。
今回は、薔薇と少女のお話を。以下、補足です。

〇プレイング
音声化されるため、リプレイは「キャラクターの台詞や掛け合い」が多くなります。
そのため「キャラクター口調のプレイング」を推奨いたします。
※プレイングや個人設定を加味した上でアドリブを入れがちなため、NGの場合は明記をお願いします

〇目的
「ロザリーの救出・屋敷の解放」

〇ロザリー
十五歳。普段は大人しく、おっとりとした少女。現在は自室に閉じこもっています。

〇中年女性の使用人
四十代、名前はオルガ。皆さんへの協力は惜しみません。

〇屋敷
広くはない屋敷。構造はオルガが教えてくれます。
現在、多くのものは近づくと気絶してしまうようです。

〇「昔話」
どこのことかもわからない物語。聞いたことのある体で構いません。

それでは、森の奥でお会いしましょう。よろしくお願いいたします。

◆ボイスリプレイとは
 このシナリオは「おでっくす2014特別企画」の一つである、「ボイスリプレイ」です。
 予約・参加を行うには、「おでっくす2014」に来場された方に配布したパスワードを関連付けする必要があります。
 ボイスリプレイは、ショートシナリオのリプレイに加え、STARSボイスアクターによるボイスドラマが作成されます。
 プレイングには、キャラに行わせたい行動内容と共に、第三希望までのSTARSボイスアクター名、声や発音に関する補足などを記入してください。レクシィ株式会社の担当者が希望順に直接打診を行い、担当声優を決定します。希望クリエーターへの打診が承諾されなかった場合、希望クリエーターがいない場合は、担当者が選出します。

リプレイ

全編通して再生




オープニング


◆見えざる迷路は破られて


「あそこらへんで、みなさん気を失うんですか〜?」
 クレア・ジェラート(tf3225)は、オルガに確認した。頷く彼女の傍らには、ハナ・コッコベル(ta8370)の姿もある。
「ロザリーは、作りものの薔薇よりもオルガと一緒のほうが良いに決まってる」
「でも、その薔薇も父親からの最後の贈り物だ。おいそれと、手放したくはないだろう」
 エリザ・レッツェル(ta4659)は振り返り、せっせと腰にロープを巻き付けるメイ・マートン(tb9157)を見た。
「とりあえず何もせずに近づいてみるから、途中で眠っちゃったら、これ、引っ張って貰ってもいいかな?」
「力仕事は任せてYO!」
 己の胸を叩くアシル・レオンハート(tb5534)。逆に、ロープの装着を手伝っていたミーナ・メルクーア(td3715)は頭を垂れる。
「ごめんなさい。私だけでは、引き寄せられなくて」
「謝る必要はありませんよ。皆で、力を合わせましょう」
 レイナス・フィゲリック(tb7223)も縄の端を手にし、準備万端。
「それじゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃい〜」
「気を、つけて」
 見送るクレアとユニコ・フェザーン(ta4681)、足元では愛犬のゴンスケが待機している。
 メイは前へ、前へと進み、オルガが息を呑んだ――それだけで理解したハナは、ぴょんぴょん跳びあがる。
「メイが突破できた! やったぞ、一歩前進だ!」
「それにしても、ずんずん進めるね。スリープの類ではないのかな?」
 分析するエリザ。他方、ユニコも歩き始めた。
「おいで、ゴンスケ」
「前、へ、進んで」
 続く柴犬と、レイナスの命を受けたハニワ。わんっ! はにぃ〜! と賑やかだ。
「なんだか、和んじゃうNE」
「そうだねえ‥‥でも、可愛らしい少女には、こんな不幸より、ああしたものの方がお似合いだよ。本当に、悪い話だ」
 話すアシルもエリザも、誰も彼もが真剣そのもの。
 やがて、ユニコ隊は、誰一人とて脱落者を出すことなくメイと合流した。彼女たちに手を振りつつ、ハナはまとめる。
「瘴気みたいだな。気を失ってしまうのも、それならわかる」
「だったらなんとかなりそうか‥‥NA? 合身しなくても、行けそうだけど」
「これを使ってみる価値はあると思いますよ〜」
 心配するアシルに対し、クレアが示したのは己のCROSSであった。それを見たミーナが、少し辛そうな表情を浮かべる。
「それは‥‥」
「少し、うちは痛いですが〜‥‥やる時はやりますよっ。だから、心配しないで大丈夫ですっ」
 祈るようにそれを手にした彼女は、そっと目を閉じ、念じる。ふらり、と何かの失われていく感覚に意識が揺れる。
「‥‥っ!」
 その、崩れ落ちそうになった細い体を、アシルが支えた。
「回復しないと!」
「薬は用意してます、よ〜‥‥これで瘴気を、少しの間は何とかできるようになりました〜‥‥」
 クレアのCROSSは小さな聖域を作り出せるが、それと引き換えに、かなりの体力を消耗する。エリザは左手で、勇気あるメロウの頭を労うよう撫でた。
「確かに有効な方法だけれども、また、無茶をして‥‥」
「――エンゲル」
 クレアが小瓶の薬を飲んだのとほぼ同時に、治癒の魔法を成就させた。
「ミーナさん‥‥えへへ〜、ありがとうございます〜。楽になりました〜」
「‥‥できることをしたまで、ですから」
 独りきりではない。
 そのことが、彼らを先へ、先へと導く。

◆混沌の棘は歌われて


 オルガと別れた一行は、森の奥へと進む。
「それにしても、昔話にも、銀色の見事な薔薇細工が出てきた記憶があるけど、それによく似た話だNE」
「アシルも、聞いたことがあった、か‥‥銀色の、惑いの、薔薇。本当に呪いの薔薇、だったんだね」
 どこで聞いたのか、思い出そうとするユニコ。その耳に、歌が届く。
「〜♪ ごしゅじん、かんかん、わるい子メリーに、ぎーんのはーなさーかせた♪」
「ハナ殿‥‥その歌は、何でしょうか?」
「ミーナも歌うか? 惑いの薔薇の歌を、聞いたことのあるような気がしたから、思い出して歌ってみたんだ」
 ケットシーたちの会話を聞きながら、なんだか少し悲しい曲調だな、とメイは思う‥‥今回の事件が、やはり悲劇であるからか。
「お父さんの大切な想いが、子どもを悲しい運命に放り込むなんて、悲し過ぎるよね」
「でも‥‥大切な、形見の品だけれど、ロザリーを蝕もうとしているのなら、その手から、取り上げないと」
「ああ。それこそ薔薇に棘はつきものだけどさ、また随分と厄介な棘が生えてたものだしね」
 ユニコとエリザが前方を見据える中、押し黙っていたレイナスが口を開いた。
「カオスアイテム、なのでしょうね。現状も、誰も信じられないという心が薔薇と重なり、共鳴してしまったせいでしょうか」
 そのことが、ミーナにはわかった気がした。
(誰もが、自身ではなく、その財だけを見ていると感じてしまった‥‥自身は必要とされていないのではないか‥‥そんな苦い思いが、増幅されてしまったのだとしたら‥‥)
 一刻も早く、その苦しみを和らげたいから。
「‥‥薔薇が、それを見、触れた者の欲望や願望を剥き出しにし、強め、悲劇を生み出す恐ろしい道具‥‥カオスアイテムだとしたら、回収をメイ殿にお任せしたいです」
「わかったよ。直接触らないで、何とかする。アマテラスつきのCROSSがあればもっといいんだろうけど、しょうがないよね」
「そうですね〜‥‥あ、きっとあの部屋ですよ〜」
 ドラグナーたちへ、箒に跨り望遠鏡を覗いていたクレアが目的地の発見を告げた。

◆銀の悪夢は眠りについて


「開いたYO」
 案の定、鍵のかかっていた扉を、アシルが諸々の道具を使って開ける。
 踏み込んだ屋敷の中は、死んだように静まりかえっていた。透明化しようか迷ったハナであるが、怪しげな気配は今のところ感じられない。
「本当に、ロザリー以外は誰もいないみたいだな」
「部屋まで行ってみましょう」
 レイナスが警戒しつつ、一行はエントランスを抜ける。ミーナもまた耳をあちこちへと向け、周囲の音を探った。
「出歩いてはいないようですね」
「そのようですね〜」
 CROSSを手にしたクレアを中心に、なるべく音を立てないようにしながら‥‥目的の部屋の傍へと到り、ユニコは気づいた。
「ゴンスケ? 何か、臭う‥‥か?」
「んー‥‥ちょっと、腐った臭いがするぞ?」
 ハナが応じる――どうやら、ロザリーの部屋からのようだ。ひとしきり周囲の臭いを嗅いでから、丸まった尾がへちょりと垂れた愛犬を撫で、ユニコは言う。
「声をかけて、扉を開けてみないと、わからない、ね」
「そのようだね。さて、だいぶ参っちゃってるみたいだけれども、話を聞いてくれるかな」
 エリザが呟き、前に進んだのはアシルとミーナであった。
「補佐は任せてください」
「ありがとNE、レイナス」
 振り返り、信頼する友の表情を確認する――大丈夫、きっと上手くいく。
 扉の前にしゃがみ込み、なるべく、優しい声で。
「ロザリー、いるかNA? キミを助けに来たYO」
 ガタリ。
 何かの動く音。それを聞いたミーナの喉から、思いが零れる。
「ロザリー殿‥‥貴女の望む平穏は、静寂ではありません、よね」
「そうだYO。鳥の一羽も近づけない、悪い気に満ちた屋敷に留まることは、キミの幸せじゃない‥‥怪しがっても無理はないけど、力になりたいんだ」
「あなたを、助けにきた、よ」
 ユニコもまた、扉の前に立って続けた。
「心無い大人たちの、心無い振る舞いに、心を痛めている。それは、よくわかる‥‥でも、ロザリーがここに閉じこもって、いて、心を痛めている人も、いるんだ」
 誰のこととは言わなかった。それで通じると思ったから。
 ただ、問題は――その薔薇を回収する、と、告げねばならないこと。
「ロザリー殿」
 ミーナは、ぐっと拳を握った。声が震えないように。
「貴女の薔薇を、私たちに預からせてくださ」
 ――ドン!
 扉へ、何かが叩きつけられる。アシルが乞うように叫ぶ。
「ロザリー、その薔薇が悪いものを溢れさせているんだYO!」
「大事な品であると、重々承知しています! しかし、危険な品でもあるのです‥‥!」
 レイナスも声を届ける、が、ロザリーに事実を理解させるには証拠が足りない――あるいは、ロザリーは既にそれを自覚しているのか。
 どちらにせよ扉は開かず、拒絶するよう、物が叩きつけられる。
「こうなったら、荒っぽいことも多少は止む無しだ。気をつけるんだよ、クレア」
「エリザさんこそ〜‥‥でも、なるべく傷つけないように、ですねっ」
 このまま暴れていては、ロザリー自身が傷ついてしまう可能性もある。二人がCROSSなり何なりを用意すると、アシルは急いで開錠を試み――扉が開くと共に、背丈よりも長い杖を構えたメイが、合身した。
「――スリープ!」
 ロザリーの姿を捉えた瞬間の、短い詠唱。
 全力で抗っていた少女であっても、魔法の眠りには抵抗できなかった‥‥その場に倒れ伏すよりも前に、エリザが彼女を支える。
「これを持ってきて正解だったよ」
「あ、この毛布、羊のだね。これなら十分暖かいはず」
 近づいてきたメイが、少女を包んだそれにそっと触れた。
「今はおやすみだよ、ロザリーさん。目覚めたら、きっと、悪夢は終わってるからね」
「そうであってほしいな‥‥だから、悪さをする薔薇は、さっさと摘んでしまおう」
 眠る少女の顔を覗き込むハナは、まるで母親のよう。
 もうこの世にはいない、ロザリーの本当の母親。彼女の品であったという宝石入れを、アシルがハンカチ越しに開ける――そこに、夜空の星のように、銀色に輝く薔薇の花があった。
 それをメイが、黒猫印のハンカチで持ち上げ、レイナスの和之国の小箱の中へ。蓋の閉じられた音を聞き、ユニコはロザリーに囁いた。
「‥‥ごめん、ね」
 荒れた室内は静けさに包まれ――ゴンスケが一声、鳴く。
「おや、何ですか?」
 懐いているレイナスにも必死にアピールを続けるゴンスケ。怪訝に思い、近づいてみれば。
「‥‥成る程、臭いの原因はこれでしたか」
「ん、なんだなん‥‥うっ」
 ハナの呻き声。そこにあったのは、見紛うことなき生ごみだ。
「確かに、誰もいないのなら、食べものは自分で用意していたのでしょう‥‥」
 ミーナは推測する。部屋に籠っていた関係で、残飯もそのまま放置していたのでは、と。
「たくさん傷ついたんだろう。かわいそうだ‥‥どうしたら、なぐさめてやれるだろう」
 項垂れつつ、残された時間のことを考え始めるハナ。
 だからレイナスは、仲間に声をかけた。
「屋敷中を掃除して、オルガも呼んで‥‥それから、台所に来てくれませんか?」
 ――部屋の窓辺で、小鳥が鳴きはじめる。

◆少女はやがて、目を覚ます


 心身ともに、やつれ果てていたロザリー。
 限りある時の中で、彼女が少しでも元気になれるよう、ドラグナーたちは動き出す。

「あっ、ロザリーさん、目が覚めたのですね〜」
 クレアは、すぐにオルガを呼ぶ。ロザリーを抱きしめ、良かった、と繰り返す彼女を見つつ、次にメイを起こした。
「んー、よく寝た‥‥って、ロザリーさんは?」
「ばっちりお目覚めですよ〜。顔色も、なかなかいい感じです〜」
「良かったあ」
 メイは胸を撫で下ろすと同時に、精霊バクへと感謝する。ロザリーと一緒に眠り、夢を操作したのだ。
「使用人さんと一緒にいて、心休まる夢を見せてあげたんだよ。一人よりも、他の人といるのが安らぐ、穏やかな気持ちになれるって、もう一度思い出してほしいからね」
 元凶の品を回収して、はい終わり、にはしたくない。本当の意味でロザリーを救出したい。
「空に帰るまでは、しっかり看ててあげたいですよね〜。それに、できたら話し相手にもなりたいです〜」
 丁度その時、ノックの音がした。
「ロザリー殿」
 ミーナである。緊張した表情‥‥だったが、すぐにそれもほどけた。
 ゆっくりと近づいて、少女を抱き締める。
(独りは、とても寂しい‥‥でも、もう、そうして苦しまなくていいのです)
 体温は、時に言葉よりも雄弁だから。
 ‥‥と、そこに新たなる訪問者が、はにぃ〜、と平和な声を上げやってきた。

 その頃、台所では。
「そういえば、薔薇の茎はどこに行ったんだろうな。アシルは知ってるか?」
「うーん、そこまでは覚えてないNE。ユニコは?」
「話の通り、なら、どこかに隠されている、のかな‥‥でも、美しくても、人を傷つけるばかりのモノは、悲しい、ね」
「何か、その悪い部分を打ち消すものがあればいいけどね」
 そうすれば、あの薔薇だって、素敵な贈り物であれたのに。エリザは溜息を吐き、でも、とつなぐ。
「こんなことになっても、しっかり心配してくれる人がいるってことは分かってもらいたいね。だからこそ前を見て、自分の足で歩いていってほしいよ」
「そのことばも、ロザリーに伝えたいですね」
 フライパンを火から下ろしたレイナスは、思うのだ。
(ロザリーの「出ていって」は、誰かを傷つけないよう、心のどこかで選択した結果だったのかもしれませんね)
 ならば、彼女は優しい。そして、強い。
「‥‥さて、盛り付け次第、配膳をお願いします」
「うむっ!」
 ハナは、元気よく返事をした。

 部屋に現れたハニワに導かれ、オルガと共に食堂へと現れたロザリーは、並んだ食事に驚いた。
「空腹は、よくないですからね。お茶も用意してありますよ」
 微笑むレイナス。ロザリーが席につけば、花瓶からは優しい香りが漂う。
「外の花を、ゴンスケと摘んできた、よ。ここにはたくさん、綺麗な花が咲いている、ね」
「さ、ゆっくり召し上がれ」
 アシルが無理のないよう、促す。
「この世にはいろんな人がいて、君が敵と思う人も多いけど、オルガのように、本当に君のことを思ってる人もたくさんいるんだYO‥‥俺も、君のこれからの幸せを、願ってる」
「彼女が傍にいてくれれば、大丈夫だと、思う‥‥平穏な日々を過ごせるといい、ね」
「あと何日かは、うちもみんなも、ここにいますよ〜」
 ユニコもクレアも席に着く。メイは少し高めの椅子を運んできた。
「ロザリーさん、私たちも一緒に食べていいかな? その方が、きっと美味しくなるよ‥‥ほら、ミーナさんも!」
「は、はい‥‥お邪魔します」
 愛の名を持つ者は、ちょこんと椅子に腰かけた。
「‥‥この後、エリザと自分は、村の方へ出てきます」
 微笑ましい光景を目にしたレイナスは、義手の女へ視線を遣ると、彼女は無言で頷いた。悪い噂を何とかしつつ、必要な使用人たちを呼び戻すためだ。
「薔薇を自分たちが回収したことで、財宝なり呪いなりの話が消えてくれれば、と」
「なるほどなー。だったら‥‥」
 ハナの唇が、揺れる。
「ぎーんのはーなーきーえーた、たーかいたーかいそらのうえ、ほーしになって、きえてった♪」

 宝石箱の中に、もう、あの花はない。
 代わりに――雲の上からの勇者たちの、心からのことばと願いとが、咲いていた。




◆スタッフ


エリザ・レッツェル(ta4659):黒木
ユニコ・フェザーン(ta4681):鏑木はる
ハナ・コッコベル(ta8370):雨月れん
アシル・レオンハート(tb5534):大和 稟
レイナス・フィゲリック(tb7223):mugikon
ミーナ・メルクーア(td3715):鐘賀なる
メイ・マートン(tb9157):しぐれるぅ。
クレア・ジェラート(tf3225):瀬良ハルカ
ナレーション:胡桃ひな

音楽:魔王魂 他
原作:恵雨人
編集:成瀬 健(REXi)
企画:才川貴也(REXi)