寛永供養二〇二〇

担当 成瀬丈二
出発2019/02/19
タイプ ショート C(Lv無制限) 日常
結果 成功
MVP ミスト・カイザー(ka00645)
準MVP 魔神 極奴(ka01868)
マティルダ・モロアッチ(ka00124)





オープニング


 溶け、そしてまた凍てついた雪を踏みながら、伊吹風彦が前方を見る。そこにあるのは、寺の社屋だ。
 他のギルド員と同じく、風彦はこの一年で法力を失いつつある。
 かつてのように魔法は使えず、昆虫型や、獣型の機巧を操れない。
 風彦の友となった化身も消えた。


登場キャラ

リプレイ

◆遺児を託す
「儀式のほど、滞りなく済みました。みなさん、どうか──最後まで一緒にいてやってください」
 護摩壇から一歩引き、水上 澄香が一同に頭を下げる。
 供養の儀式を行なった澄香自身が一番、別れに納得がいっていないのだろう。
 今まで彼女を支えてきた『孝』の玉は何も導いてはくれない。
 豆狸の機巧は澄香の法力の喪失にともない、思うように動かせなくなった。
 一方、豆次郎が普通の狸姿に変わった日のことも思い出していた。
(いつもよりべったりで、最後だとわかってしまった、あの日。だから、一日ずっとみんなで遊んで、夜も一緒に寝て‥‥目を覚ましたら、今の姿に変わっていた」
 あの日は泣いてしまった。でも、それまでの日々は感謝している。
「こうして時は進み、寛永での日々は遠のいていく。それでもあの世界で、共に戦ったもの達や、出会いを忘れず、心に刻んでこれからも、進んでいきたい」
 自分でも寂寥感が振り払えない。しかし、それでも前に進もうとする言葉だった。
 機巧に思い入れのあるタイプの伊吹 風彦は、機巧に助けられた人間だ。
 特に風彦がプロポーズし、左手の薬指が若干重みを増した、マティルダ・モロアッチという伴侶を前にすると、余計にそう思える。
「ホー君。今まで‥‥お疲れ様」
『半蔵』の忍者装束も、『射抜ノ久礼光』の片眼鏡も力を失った。特に最初のころから慣れ親しんだ、鷹型機巧の『ホー君』。
 彼(?)空中からの情報収集能力と、空中機動力に助けられた局面は非常に多かった。
 まさにもうひとりのマティルダ自身だ。
 それをかき抱く。とはいうものの言葉にしては『本当にありがとね』の一言に尽きるに違いない。
 風彦も愛用していた昆虫型機巧と、マティルダから送られた獣型機巧を前にし、目じりに涙を浮かべる。
「僕もあれから色々有ったんだよね。一度は本国に帰る事になったけど。家族のおかげでまた日本に留学できた」
「本当にあの時は驚いた──でも、進まざるを得ない道だった」
 マティルダの言葉に風彦はうなずく。
「うん、互いに一緒の道を歩むって約束していたし、ボクも頑張ったから、風彦と同じ学科にいるしね」
 マティルダは嬉しそうに笑みを浮かべる。ふたりが通っているのは、風彦のかつてからの夢だった、獣医学科だ。
 しかし、一度は得た法力、人と言わず化身と言わず癒す力は、それを失ったことの反動は大きいだろう。
 それは万能感の喪失というものだ。
「悲しい別れはあったけどボク達はまた一緒に居られる──だからその分まで、これからもずっと一緒だよ風彦」
 風彦からマティルダへの、二十歳になってすぐのプロポーズ、時代を超え、並行世界を超え、ふたりの愛情はここに結実した。
 十代の幼さから二十代の若さへと、形は変わった。
 とはいえ、死線を超えてつながった愛情は強固であることは間違いない。

◆武器よさらば──平成版
 ふたつの重みを感じて、ミスト・カイザーは供養という場にふさわしい口調で語った。
「さらば、寛永の日々。そして俺の武器達よ――」
 両手の内にあるのは黄金の拳銃だ。佐渡島の妖黄金で作った『妖黄金銃』と呼ばれる。血肉を吸い力へと変じる銃。
 今はその弾倉はカラッポであり、かつてのような怪しさ‥‥いや、異質感は感じない。
 一方、膝の前に置かれている忍者刀。
『KKKノ天下』という真忍刀。法律上は所持を認められている。
 だが、この刀を抜くことはないだろう。
(あの神も、神代から太平の平成を笑ってみているだろうか?)
 そんな埒もないことを考えてしまう。
 ミストの希望で、クモカマさまに作ってもらった光輝を放つ忍者刀。姉が神代で作ってもらった妖黄金銃。
 これらをもって、鬼神秀吉や鬼将といった、世界を脅かす敵と血を流しながら戦い抜いた。
 来世人──正確には、現代へ残ったギルド員の法力は失われた。
 寛永へと強制的に送り込まれ、得たもの失ったもの、ともに多かった。だが、収支は黒字と思いたい。
 特に妻である藤枝 藤花とともに過ごした、控えめに言ってもエキサイティングな日々。
 冒険家としての日々よりきっと充実したと言っても過言ではない。
「何を考えているか‥‥当ててみるわね」
 藤花がミストの手の動きを見ながら、謎めいた──同時に嗜虐心を秘めた笑みを浮かべる。
「寛永での日々と、法力のないこれからの日々を考えて悶々としている」
 藤花は一瞬、目を閉じる。
「さて、否定もしない。そして肯定もしない」
 そんなミストの返答だった。
「少しはオトナになったかもね。でも、久しぶりにこの手甲達を引っ張り出してきたわよ」
 言いながら藤花は、ふたつの手甲を軽く手で撫でる。
「私のお気に入り。カスタマイズしただけ合ってホントに馴染んだわね、この子達」
 そんな世界を自分で作り上げたのだ、という誇りをミストは感じた。そして、そんな女性を伴侶としたのだという静かな誇りを感じる。
「きっと来世人ギルドで皆の武具と一緒にいたほうがこの子達も幸せかしらね」
 藤花の言葉にミストは目を細める。
「そうだな。しかし、俺も澄香殿の供養を受けて納得出来たんだ。だから、こう言わせてくれ」
 言ってミストは妖黄金銃を本堂に置きなおす。
「感謝の気持ちとともに──そう、どんな武具にも別れ時はあるのだ‥‥ゆえに改めて『武器よ、さらば』」

◆戦う道具でなくしてあげたい
「益洲刈刃よ、願わくば二度と引き抜かれない事を」
 魔神 極奴は大太刀『益洲刈刃』の柄に手を置き、静かに念じる。
 こちらの世界でいうところの中二病患者が鍛え上げた刀。実に『馴染んだ』のだ。
 しかし、それは寛永での事。極奴は来世で生きる平成の民となることを選び決意した。
 だから、平成の法に従い生きることを選んだのだ。
「益洲刈刃‥‥この太刀をもって、俺は多くの鬼を倒し、故郷の皆の仇を討った」
 今は法力の無い大太刀に極奴は語りかける。
「そして──今の家族を守り抜いた。だが、もうお前を抜くことはない。願わく宿っていた法力が二度と目覚めぬことを」
 鬼神秀吉にも切りつけた大太刀。歴史という流れのひとつを切り拓いた逸品だ。
 藤枝 真沙花は、あの悪夢のような、鬼に脅かされた十数年。それをふと思い返す。
「確かに、徳川の世になる前は戦乱の世だった──その戦乱が終わっても、太平の時は長くなく、鬼という脅威にさらされた年月だったな」
 真沙花のような、寛永の世を生きた大和人だからこその感想だ。
「人々が法力などに頼らないで済む、日々が続くことを祈ろう」
 真剣なまなざしの極奴。
 そこでふたりは気づいた。
 寛永ならば、ここで酒を飲み交わせるのだった。
 しかし、平成の、少なくとも日本では飲酒は禁じられている。
 そう、ふたりはまだ未成年なのだ。
「お互い先に出来ることはたくさんありそうだな」
 言うと、極奴は白湯を飲む。
「今はこれだな」
 真沙花はうなずいた。
「ところでその大太刀は、確か『超桃太郎』だな」
 極奴の言葉に真沙花は目を細める。
「思い出すな。私はこの大太刀で鬼将の角を折り、討ち取った。この刀の法力で様々な局面を駆け抜けた」
 この平成の世の過去の『私』とは異なる人生を送ることを決意したのだ。
 だから、と真沙花は続けた。
「この世界にとどまり、縁もあって芸の道に携わることになった。新たな人生を生きる」
 強い決意、今を生きる意志。今は平成でも、寛永でも変わらない。
「──この太刀とは別れよう。奉納してもいい、見世物にしてもいい」
 極奴は軽く視線を逸らすと、真沙花に一言だけ告げる。
「お互いに、この時代を楽しもう」

◆終わりという始まり
 風彦はカメラを持ち、めいめいの道具を持った一同に向き合う。
「じゃあ、みんな笑って別れよう」
 タイマーをセットし、皆のもとに走る。
 風彦は一瞬、溶けかけた雪に足を取られるものの、持ち直す。
 皆が若干緊張するなか。最後の写真が雪景色を背景に写された。
 永久の別れではない。だが武器達については、再会を望んではいけない。
 そんな矛盾を内包した別れ。
 西暦二〇二〇年──平成という元号はまだまだ続きそうだった。



 6
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参加者

b.ホー君今まで有り難うね…。
マティルダ・モロアッチ(ka00124)
Lv261 ♀ 16歳 忍傀 来世 質素
c.うまくできるかわかりませんが、進行を務めさせて頂きますね。
水上澄香(ka00399)
Lv215 ♀ 17歳 陰傀 来世 異彩
b.武器よ、さらば。
ミスト・カイザー(ka00645)
Lv271 ♂ 24歳 武忍 来世 質素
b.よろしくお願いします。
藤枝藤花(ka01346)
Lv245 ♀ 40歳 武僧 来世 大衆
b.益洲刈刃よ、願わくば二度と引き抜かれない事を。
魔神極奴(ka01868)
Lv230 ♂ 17歳 武水 大和 異彩
b.大太刀[超桃太郎]よ、私にはお前という、強い味方があったのだな。
藤枝真沙花(ka01870)
Lv230 ♀ 17歳 武火 大和 異彩
 ──これまでありがとう。これからも‥‥。
伊吹風彦(kz00031)
♂ 16歳 傀僧 来世人