クローズアップ「来世人」

担当 九里原十三里
出発2019/02/11
タイプ イベント C(Lv無制限) 日常
結果 成功
MVP 溢田純子(ka01629)
準MVP 富栄弩院 頼伝(ka01639)
白鳳 栗花(ka01993)





オープニング

◆海外ドキュメンタリー「RAISEBITO」
 秀吉との戦いから約1ヶ月――。
 あの怪物「HIDEYOSHI TOYOTOMI」を倒した来世人のドキュメンタリー番組を撮りたい。
 来世人達にそうオファーをかけてきたのは、イギリスのとあるテレビ局だった。
 警備員として現場復帰した倉賀野好一にも、TVカメラとスタッフが3人ついて回っていた。


登場キャラ

リプレイ

◆「RAISEBITO」の今を追う
 イギリスのドキュメンタリー番組「RAISEBITO」の撮影クルーが沖田 芽衣子の姿を追う。
 ロケ地からスタジオへ、さらにインタビュー会場へと移動する芽衣子は移動する車内で食事をしたり、メイクを済ませるなどかなり忙しい様子であった。
「やっぱり、折角現代に戻ってこられたじゃない? だからこうやってまた、アイドル活動を始めたんだけど」
 ロケバスに揺られながら芽衣子はスケジュールをチェックする。
「取材多くて困っちゃうわね♪ 海外の人にインタビューを受けるのは、これでいくつ目だったかしら?」
 そう言って笑う芽衣子。
 高速道路を降りたロケバスは市街地を抜け、「FreshGUMI!!」のライブが行われる予定のスタジアムへと入っていった。
 リハーサルが始まる前の楽屋では、先に到着した土方 萌が待っていた。
「お疲れ様です! 今日はよろしくお願いします!」
 既にステージ衣装に着替えた萌は、芽衣子が着替えるのを待ちながら、先にインタビューに答えることになった。
 豊臣秀吉を倒した今、どんな心境か――その事について、萌はこんな風に答えた。
「まずは、安堵感ですね」
 戦いの日々を振り返りながら、萌はそう口にする。
「これで長かった戦いから解放されるという、そんな安堵感があります」
 そこへ、着替えを終えた芽衣子が戻ってきた。
 ステージ用のメイクを施されながら、芽衣子は倒された秀吉についてこう話した。
「今考えると、あのお猿さんも哀れよね」
 哀れとは? とインタビュアーが訊ねる。
 芽衣子は倒された秀吉の事を思い出しながら、鏡の中自分を見つめている。
「だって、倒されるまで結局、『憎しみ』しか知らなかったんだから」
 そうでしょ? と芽衣子は言った。
 
 場面が切り替わり、カメラは富栄弩院 頼伝の姿を映した。
 頼伝は自らが建立した「鬼神鎮魂」の碑の前にいた。
「あやつを倒した時、勝利の感慨はもちろんあった」
 だが、と頼伝は続ける。
「邪悪にしかなれなかった秀吉への哀れみ……それもやはり、感じざるを得なかった」
 くゆる線香の煙、そして供えられた菊の花が風に揺れる。
 灰色の空からは小雪がちらつき、そこに念仏を唱える頼伝の声が静かに響いた。
 死んだ秀吉の菩提を弔うことが、日本国内では行われている。
 そして、大被害を引き起こした怪物に対する「憎しみ」だけではないものが来世人の心にはあるのだというナレーションが続いた。

 まずインタビューに答える前に訂正しなければならないことがあると溢田 純子は言った。
 自分たちが倒したのはあくまで、「鬼秀吉」であって「豊臣秀吉」ではない。
 そこを番組内で強調して欲しいというのが純子の主張だった。
「あの人は、日本人にとっての歴史上の大切な偉人だもの。その秀吉に、海外の視聴者の方から嫌なイメージが付くのは悲しいじゃない?」
 そう言って笑い、純子は自宅内での家事仕事に戻る。
 カメラは普段どおりの純子の姿を映し、続いて「豊臣秀吉」の人物像を海外の視聴者に分かりやすく解説した。
 人間としての彼は、今も日本人の尊敬を集める偉人であること。
 そして、あの「鬼秀吉」がいかにしてこの現代に現れることとなったのかを伝え、純子の主張通り「両者はあくまで別物なのだ」という事を繰り返した。
「私の心境は、とにかく戦いを終える事ができて嬉しいわ。こうやって安心して外へ出られるし、家へ帰れるもの」
 こんなところ撮って楽しいかしら? とおどけながら、純子は近所のスーパーへと向かう。
 レジに「復興支援金」と書かれた募金箱があるのを見ながら、「もちろん、大変だけどね」と純子は呟いた。
「復興は大変だわ。でも、今は……自分にとっての『当たり前』がある事が嬉しい」
 そう言いながら、純子は夕飯用の食材を選ぶ。
 カメラが映す純子の姿は、来世人達が取り戻した「平和」そのものであった。

「寛永時代とこの現代を比べて……そうね、やっぱり情報よね。それが一番違うと思うわ」
 見て、と言って芽衣子がカメラにタブレット画面を向けた。
 芽衣子が投稿したライブ情報についてのSNSの書き込みにファンからの反応があり、拡散数を示す数字があっという間に増えていく。
 さらに、応援の投稿や「ライブに行きます!」などの書き込みがタイムラインを埋め尽くしていった。
「ほらね。こんなのは寛永時代じゃ絶対にあり得ないでしょ? 本当にこういうのを見ると、この時代に戻ってきたなって実感するわね!」
 番組は「FreshGUMI!!」のライブ情報が拡散される様子を映し、さらに日本の寛永時代の情報の扱いがどうだったかを、同時代のイギリスの状況と比較しながら紹介した。
 さらにそこへ、萌の「暮らしの利便性の違い」というコメントが加わる。
「そういう情報関連もそうですし、全体的な暮らしの利便性は本当に違います。あとは、食生活ですかね。本当に、あの時代の食生活は質素でした」
 食事が全く違う――。
 この事について、純子はさらに具体的に語った。
「乳製品がね、あの時代は全然ないのよ」
 そう言いながら、純子も食生活の違いを強調した。
 カメラは純子と共にスーパーの乳製品売り場を映していた。
「牛乳も手に入りにくいでしょう? だから、バターとか生クリームとか、もちろんヨーグルトもね。だから、料理は本当に違うのよね」 
 イギリス人だったらきっと私達よりもっと大変だったわね。
 そう言って純子は笑う。
「電気もガスもないし、食材も違う。だからこっちに戻ってきて作れる料理がガラッと変わったわ」
 寛永の時代にどんなものを食べていたか、という萌や純子への質問に交え、番組は寛永当時の食事を再現するVTRを流す。
 日本料理の専門家に詳しく取材するなど、この点に関しては番組内で深く扱われ、「寛永の食事」として視聴者の興味を大いに惹きつけたようだ。

「文明の差はやはり大きな違いだったがの」
 寛永と現代の違いについて頼伝はそう、インタビューに答えた。
「そこに暮らす人々に違いは無いの。やはり、同じ人であるというのが拙僧の実感だ」
 カメラは、僧衣を纏い日本各地を移動する頼伝の姿を追う。
 被災地では1日でも早く復興を進めようという努力が見られ、人々の生活が優先されている。
 頼伝はそこで働く人々と言葉を交わしながら、現場の片隅に設けられた死者を弔うための簡易の仏壇に手を合わせていた。
「慰霊碑が建つのは、1年後か2年後か……ここはもう、予定地が決まったようだの」
 自治体の担当者も取材に応じ、頼伝に犠牲者の名簿を作成している事などを話す。
 人々の生活が落ち着き次第、そのような事も少しずつ進んでくるだろうということであった。

 カメラは再び、「FreshGUMI!!」のライブが行われる予定のスタジアムへと戻った。
 芽衣子と萌がステージに立ち、入念に本番に向けたチェックをしている。
「曲の入り、ちょっと変更になるみたいです。もう1回、最初からやり直してカメラチェックですね」
 そう言って休憩に入る萌の額には汗が光っている。
 隣では、芽衣子が明日初めて披露される歌を口ずさんでいた。
「今の目標は、年末の『あの歌番組』に出る事よ、もちろん! 歌でトップを取るわ、必ずね!」
「ええ。私も、寛永でも歌手活動は続けて来ましたが、やっぱりファンの前でこうやって思い切り歌を歌い続けたいですね」
 萌もそう言って頷く。
 スタッフに呼ばれ、2人は気合を入れ直して再びステージに向かう。
 明日の本番ではきっと、多くのファンが2人の歌で盛り上がることだろう。

「今はこうして、秀吉の犠牲となった人々の弔いと、鬼神秀吉の鎮魂を行う事をせねばと思う。拙僧はその為に現代に留まったゆえ」
 頼伝はたくさんの花束、供えられた飲み物や縫いぐるみなどの死者への手向けの品々が積み上がった祭壇の脇に跪く。
 多くが犠牲になったこの場所には慰霊に訪れる人々が多く、花が絶えることはないのだと頼伝はいう。
「まだああして、瓦礫が片付かぬままなのが痛々しい。亡くなった人々の魂……そして鬼神秀吉の魂が安らかなることを」
 線香に火をつけ、頼伝は数珠を手にする。
 念仏を唱える頼伝を中心に映しながら、映像は引きの画に変わっていく。
 そこには、被災の痛々しさを今だ残しながら、徐々に元の姿を取り戻していくこの時代の姿があった。

「私の今したいことは、忘れないうちに寛永での事を書き留める事かしらね」
 そう言いながら、純子は書きかけのノートを広げてみせた。
「あちらでは大変な事もあったわ。でも、それでもあの時代に残る人も居る程大切な事もあったの。それを伝えたいから」
 本を出す予定があるのか――。
 インタビュアーが質問すると、純子は分からないと答えた。
「文才はないから、人に見せられる日は遠いかもしれないわね」
 そうしているうちに、窓の外は夕焼けに染まる。
 純子は息子を迎えに行く準備を始めた。
「後は……せっかく平和になったんだもの。のんびりした生活したいわね。じゃあ、行ってくるわ」
 カメラに向かって笑顔を浮かべ、出かけていく純子の姿を映し映像は終了した。
 来世人は今、それぞれの生き方で新たな一歩を踏み出している。
 番組は彼らの姿をそんな風に伝えた。

◆「時を超えた人々」に聞く
「魔神さんは、寛永の方でしたね? この時代に戻られたというか……来られたという言い方が正しいと思うのですが、この平成の時代に来られて、いかがでしたでしょうか?」
 番組の女性司会者が魔神 極奴に質問する。
 極奴は何だか落ち着かない様子で、隣のグレース・マガミの方を見ながら「なんというか」と言葉を発した。
「ここに来た直後はただ、秀吉を必ず倒す、その決意のみだったな」
「確かに、状況が状況ですものね」
 女性司会者の言葉に、極奴が頷く。
 続いて、司会者はグレースに質問する。
「グレースさんはいかがでしょうか? 魔神さんや他の方々と一緒にこの時代に戻られた形になりますが」
「まずやはり……極奴君と同じ思いですね。この命と引き換えにしても、秀吉の脅威を払わねばならないという使命感がありました」
「それは、来世人としての使命感、という事でしょうか?」
「ええ。ですが同時に、現代での戦いへの恐怖心もありました」
 複雑な心境の中で、秀吉との一戦を迎えた。
 そう、グレースが答え、司会者は次の質問に移る。
「初めてあの寛永という時代で、鬼や化身と戦った時はいかがでしたでしょうか? まずは、魔神さん」
「村の皆の仇を討つ時が来たと意気込んだが、実際は無我夢中で余裕が無かったな」
 極奴はそう当時を振り返る。
 視聴者への補足をするため、司会者は一旦インタビューを中断し、フリップでの説明と再現映像を挟んだ。
改めて来世人や大和人が戦った「化身」や「鬼」という存在がどのようなものであったかが紹介するためである。
「例えば、昔話で登場する赤鬼や青鬼……さらに、魔法やより強力な力を持った『鬼武者』などがいたということですが、魔神さんもこういった鬼たちと戦ってきたという事なのですよね?」
「そうだな……実際にはこれよりもっと種類が多い」
 極奴はそう言って、説明を補足する。
 人に害を与える化身や鬼は時に、村を一つ壊滅状態にするほどの猛威を振るうこともあり、様々な魔法や能力を使う存在だった。
 それもまた、あの時代での戦いを知らぬ視聴者にとっては初めて聞く話である。
「初めてこいつらと戦った時は、倒す事をただひたすら考えていた。全部終わってから、仕留めた鬼の屍を前にして腰が抜けたな」
「なるほど。それが、魔神さんにとっての鬼との初めての戦いだったわけですね。グレースさんはいかがでしょうか?」
「私は……そうですね、あの時代に一緒に到着した部下や、先に寛永に来ていた親戚もいましたので、鬼との戦いにあまり怖さは感じませんでした」
 どこかゲームのような感覚があったのだ。
 グレースはそう話す。
「別世界の戦いと割り切っていましたしね。初めて怖さを感じたのは、現代に戻ってからです」
「先ほどもおっしゃっていましたが、グレースさんはこの時代に戻ってあの秀吉と戦う……という状況になって恐怖を覚えた、という事でしょうか?」
「ええ。そうですね」
 生きてきた時代の違う2人には、それぞれの感じ方や考え方があったのかもしれないと司会者は見解を述べ、次の質問に移る。
 あの時代で一番印象に残っている出来事は何か。
 これに対し、まず極奴が答えた。
「やはり、まずは俺の子孫の家族だと名乗ってきたグレースたちとの出会い……だろうな」
 未来からやって来た人々――遠い時代での自分との繋がりを持った「来世人」との遭遇。
 それはやはり、寛永で生きる大和人にとっては衝撃だったに違いない。
 しかし、極奴が感じているのはそれ以上に、彼らとより人間的な関わりを持てた事への思いであった。
「グレースだけじゃないな。彼女らに会えなければ……俺はきっと、仲間を殺した鬼への憎しみに囚われて、俺自身が『復讐の鬼』になり果てていたと思う」
「魔神さんは、あの大変な時代において、グレースさんたちとの出会いがあったおかけでそうなってしまわずに生きられた、ということですね。出会いがあったことにより救われた……といいますか」
「ああ。不思議な運命の引き合わせに感謝だな」
「グレースさん、魔神さんはこうおっしゃってますがいかがでしょう?」
 司会者はグレースに笑みを向ける。
 グレースは「そうですね」と微笑み返した。
「私からみて、極奴君は亡き夫の先祖に当たります。彼との出会いはもちろん強く印象に残っています。それからこの、『礼の玉』を授かった事ですわね」
「では、改めてグレースさん、視聴者の皆様に見せていただいてもよろしいでしょうか? こちら、青い玉の中に『礼』という文字がハッキリ浮かんでいます。既に多くのメディアでも紹介されていますが、こちらは普段グレースさんの体内に収められていて、戦いの際にはこうして出現して力を発揮する、というものになります」
 司会者がカメラを促し、画面の中に青く輝く玉が大きく映し出される。
 番組の中では、これが秀吉との一戦において勝利を収める決め手になったのだと紹介された。
「では、本日は秀吉との戦いに望んだ来世人・大和人の皆さんに来ていただき、生放送にてお話を伺いました。改めて皆さん、本日はありがとうございました」
 放送時間の終わりに、司会者はそう言って極奴、グレースらに頭を下げ、2人もそれに応じた。
 この番組には視聴者からの反響が大きくあり、その後も「時を超えた人々」は何度か続編として来世人・大和人を追う特集を続けることとなった。

◆さぁ、みんなで言ってみよう! 「ちょっと教えてスゴイ人!!」
 タイトルコールの声が響き、スタジオ観覧の一般参加者が番組に出演するお笑い芸人たちの鼓舞で沸き返る。
 スタジオには戦いの装束に身を包み、武器や機巧などを手にした来世人・大和人が揃っていた。
 彼らの対戦相手として呼ばれたのは、元世界チャンピオンの格闘家や元オリンピックのメダリスト、古武術の有段者、さらに格闘技の心得のあるバラエティタレントなどであった。
「えーでは、早速今回のゲストの皆さんを紹介していきたいと思いますが……すみません、その前にちょっとこの方の正体だけよろしいです?」
 番組司会者がミスト・カイザーの側に寄る。
 ミストは、顔全体を覆う甲冑師明光(みょうこう)の総面(フルフェイスマスク)を付け、正体不明のヒーローのような出で立ちで馳せ参じていた。
「拙者の名は明光仮面(ぷひー)」
 どーん、とミストの顔面がテレビに大写しになった。
「訳あって素顔を見せられんが、拙者は忍者だ。寛永では宮本武蔵、服部半蔵と手合わせした経験もある」
「えー……そういうことだそうです。これ以上ツッコまれへんので次行かさしてもらいます」
 
 司会者は続いて、ミストの儀娘である藤枝 杏花を紹介する。
 この2人の関係に関しては視聴者に向けた説明がさらに必要だった。
「明光仮面はわたしのお義父さんなのです。訳あって顔出しNGなのです」
 杏花はカメラの前でそんな風に話した。
 ミストは番組で顔が世間に知れ渡ると、諜報機関への就活が難しくなる。
 実はそういうことなのだが、詳しくは内緒で大丈夫だろう。
「そしてこちらは現代に残ったわたしのご先祖様なのです。寛永の武芸者なのです」
 続いて杏花は藤枝 真沙花を紹介する。
 藤枝家の先祖が平成に残ってしまって、杏花たち子孫はいろいろ大丈夫なのか……そんな話題で若干スタジオもざわつきつつ……。
 真沙花はモミラの木刀を手に参加し、フェンシング選手と対戦する事になった。
「ふむ。来世の武芸者の力、確かめさせて貰おうか。針のような剣を使う武士なのだな。なかなか興味深い」
「えっとあの……プラストロン(プロテクター)とかなくて良いんですかね? あと、木刀って……えーと」
 対戦相手のフェンシング選手はエペ(競技用の剣)を手にそう言って頭を掻いた。
 彼は、名だたる大会で優勝した経験のある実力者だった。
 うっかり大事なゲストを傷つけてしまっては困ると思ったようだ。
 しかし、真沙花は遠慮なく向かってきて構わないと言った。
「単なる手合わせだ。それに、私も弱くはない」
「じゃ、じゃあ試合と同じ感じでいっちゃいますよ?」
 真沙花と対戦相手は「ピスト」と呼ばれるフェンシングの試合用の台の上に立った。
 そして、互いに武器を構えて向かい合う。
「Rassemblez! Saluez!(ラッサンブレ・サリューエ)」
 互いに敬礼を。
 主審がそう声をかける。
「Prets?(よろしいか?) Allez!(はじめ!)」
 試合開始の合図と共に、まず仕掛けたのはフェンシング選手だった。
 エペを真沙花に向けて踏み出し、剣先で牽制しながら出方を探る。
 真沙花はそれを木刀でガードしながら相手の動きを見ていた。
(確か……剣の先が私の体に触れると相手の得点になるのだったな)
 事前に聞いていたルールを思い出しつつ、真沙花はどう立ち回るべきかと考えていた。
 周囲では解説のアナウンサーや番組ゲスト、スタジオ観覧者達が「さぁどうなるか」と騒いでいる。
『彼はフェンシング界に彗星の如く現れた貴公子! 次期オリンピックでは当然メダルが期待される選手であります。一方、対戦者の藤枝真沙花は戦国時代を生き抜いてきた女武者! あの鬼秀吉との戦いにおいても大いにその実力を見せつけた大和人であります!』
 解説者はマイクを手に、額に汗しながら早口にまくしたてる。
 カメラは2人の姿を様々な角度から映し、今だ動かぬ勝負の行方を追う。
『さぁ、藤枝真沙花! 恐らく、フェンシングのエペを目にするのもこれが初めてありましょう! しかし、真沙花が手にしているのはこの木刀一本! この異色の対戦、真沙花はどう出るのか! そして、果たして勝利を修めるのはどちらなのか!』
 単なる手合わせ……いや、これは「見世物」要素がやはり強いのだと真沙花は感じた。
 バラエティ番組的な笑いや驚きの場面が繰り広げられることが存分に期待されているような雰囲気である。
(なら、いっそこの木刀の『わけの分からん効果』を見せつければ派手に盛り上がるかもしれんな)
 真沙花はそう考え、対戦相手からやや距離をおいて木刀を構え直す。
 すると、真沙花の体の周りには黒炎混じりの幻影がゆらゆらと浮かび上がった。
『おーっと! これはどうしたことでしょうか??! 藤枝真沙花、黒く黒く燃え上がっております! ついに出ました! 視聴者の皆様! これが大和人の不思議な力です! まさに、地獄の火炎! 漆黒の炎! 燃える寛永の女武芸者・藤枝真沙花! これはついに本気になったということかー?!』
 解説者が大興奮でマイクを握りしめ、スタジオが沸き返る。
 そして、完全に怯みきっているフェンシング選手に向けて、真沙花が踏み込んだ。
(木刀のこれは『ハッタリ効果』だが……少々この時代の者には刺激が強すぎたかもしれんな)
 真沙花が相手のエペを払い、その手元を突いた瞬間――発動したのは「八相発破ノ氣」であった。
 エペの剣身は根本で折れ砕け、使い手の「うわっ」という悲鳴とともに宙を舞った。
 驚いたフェンシング選手は尻もちをつき、スタジオが歓声に包まれる。
 試合終了の声が響き、勝負はついた。
「やはり、寛永の武芸者の方が殺気があったな。来世人ではないとこんなものなのかな?」
 大丈夫か? と声をかけ、真沙花は相手を助け起こした。
 フェンシング選手はのちに「(フェンシングの試合で)どんな対戦相手が出てきても多分もう、あれより怖い思いはしない気がする」と語ったという。

「まだまだこんなものではないのです。次は、わたしが傀儡師の力を披露するのです」
 杏花は真沙花に続き、そう言ってカメラの前に立った。
「わたしたち来世人の魔法は、1年も経たずに消えてしまうのです。だから今が、それを披露するチャンスなのです」
 来世人の力を映像に収められるのは今だけ――杏花のその言葉に、スタジオの撮影者たちにも気合が入る。
 カメラは宮本武蔵をモデルにした精巧な武士型ドールをスタジオ収録の前から何度も撮影し、番組内にて杏花のパートナーとして大きく扱った。
「わたしはこの『機巧』というからくり人形を操作して戦います。ごらんのとおり、彼の剣豪、宮本武蔵をモデルにした人形ですが、ご本人の監修のもとに製作された逸品です」
 そう言って機巧を動かしてみせる杏花の周りに番組ゲストも集まる。
 平成の時代には肖像画と逸話しか残っていない、あの宮本武蔵の姿を写したもの――これには、歴史マニアも大注目であろう。
「人間対人形の異種格闘技戦ということで、剣道のルール『3本勝負』で戦います。挑みたい方はいますか?」
 挑戦者を募る杏花――名乗りを上げたのは、武蔵をリスペクトし、自らも二刀流で戦うとある流派の師範レベルの人物だった。
 剣道八段の腕前にして、「先生」と呼ばれる実力者である。
 番組は「宮本武蔵」との対戦にふさわしいカードを選んできたのである。
(対戦相手に花を持たせるために手加減するのもありかと思いましたが……これは思い切りやってもよさそうですね)
 杏花は機巧を操り、対戦相手と対峙した。
 互いに礼し、竹刀を構えて向かい合う。
「はじめ!!」
 主審の合図で、試合は始まった。
 対戦相手は気合十分に武蔵と向かい合う。
 そして、怯むことなくまず大胆にも「突き」の1本を狙った。
「突きあり!」
 主審・副審とも赤い旗が上がり、まず武蔵が1本となった。
 スタジオが沸き返り、両者が再び向かい合う。
(むむ……油断ならない相手なのです。次は取らせてもらうのです!)
 再び合図があり、今度は序盤から杏花が仕掛けた。
 機巧を操り、相手の隙から籠手を狙う。
 しかし、相手もなかなか抜かせようとはしない。
(なら、ここです!)
 勢いを付け、踏み込む武蔵。
 パァンという音が響き、鮮やかに決まった「刺し面」に赤い旗が上がった。
『さぁ、剣道の3本ルールは先に2本を決めた方が勝者となります! さぁ、勝つのはどちらか!!』
 解説者の声が響く。
 人形と剣道師範――2人は激しくぶつかりあった。
 杏花のテクニックが勝つか、それとも相手の実力が勝るのか。
 鍔迫り合いの末に、その時は来た。
「面あり!!」
 剣道師範が武蔵の額に「引き面」を決め、あちら側が勝者となった。
 面を外し、「強い相手だった」と苦しげに話す彼に対し、杏花は「お疲れ様でした」と声をかけた。
(最後は少し、譲らせてもらいましたが……油断していい相手ではありませんでしたね)
 いい試合だった。
 互いにとって、この一戦はそんな風に終わったようである。

「盛り上がってきたね! 次は僕が、まずこの金棒の威力を披露させてもらうよ!」
 白鳳 栗花はそう言うと、妖黄金の金砕棒を手にした。
 スタジオは雰囲気を変え、栗花のために用意されたセットには番組出演者のお笑い芸人たちによく似た鬼のマネキンが十数体並んだ。
「良く見ててね! 今からこの金棒で、ここにいる鬼を全部一気に倒します! じゃあ、僕と勝負する格闘家さん達!これが僕の実力だよ!」
 女の子だからって甘く見ないでね?
 栗花はそう言うと、金砕棒を構え、マネキンの鬼たちを一薙ぎした。
 鬼たちは1体残らず粉砕され、モデルとなったお笑い芸人たちの顔は一気に青ざめた。
「皆さん、これが来世人・白鳳 栗花の実力です! 今の映像をスーパースロー再生で確認しましょう!」
 番組は収録した栗花の映像をもう一度再生する。
 トリックも何もなく、栗花の金砕棒はマネキンの鬼たちを全て粉々に砕いていた。
 これはかなり、「TVウケ」する映像になったようだ。
「えー……番組出演者、かーなーりビビっておりますが。栗花さん、どうしましょう? 先程の皆さんと同じように、直接対決ということで宜しいのでしょうか?」
「うーん、正直言って魔法を使えば僕が圧勝できるだろうと思うんだよね」
 栗花は番組司会者に対し、そう答えた。
「だけどそれじゃ面白くないしね。此処は一つ純粋に体力で勝負するよ!」
「対戦者の皆様、ご安心ください! 粉砕される危険はどうやらないようです! ということでございまして、次の勝負はこちらでございます!」
 スタジオに登場したのは、2台の2トントラックであった。
 これにロープを付け、栗花と対戦相手が制限時間内にどこまでの距離を引っ張れるかという勝負をすることになったのである。
「栗花さんと対戦しますのは、レスリングの125kg級の国際大会優勝者であります! さぁ、この重いトラックを10分以内にどこまで引っ張れるか! コースは全長50m! もちろんゴールしてしまっても何も問題はありません!」
 両者がロープを担いでスタンバイし、スタートの合図が響く。
 踏ん張って力を入れると、トラックはタイヤが回り少しずつ動き始めた。
「さぁ、両者ちょっと苦しい表情だ! しかし?! 栗花さんの勢いがついてきた! 挑戦者も少しずつ追い上げます! このコースは、タイヤが回り始めれば一気に勢いが付きます! さぁ、どうか! おーっと! 栗花が走る! 鬼の力を持った永遠の16歳! トラックを引いて一気にゴールを目指していくーー!!」
 足を踏ん張りながら、栗花はそのままゴールラインまでトラックを引き込んで勝負に勝利した。
 今回はどうだったか。
 番組出演者にそう聞かれた栗花は、後でこう答えていた。
「バラエティ番組はよく見ていたけど、まさか自分が出られるとは思わなかったよ。番組も盛り上がったし、1日楽しかったな!」

 最後の勝負には、ミスト、そしてアイナ・ルーラが登場した。
『寛永でもプロレスラーを貫いてきたこの私の実力を見たい奴は誰だ! 纏めてかかってきなさい!!』
 アイナは司会者のマイクを奪うと、金属バットを片手に吠える。
 スタジオには鉄条網を張ったおどろおどろしいリングが登場し、アイナとミストの前には「デスマッチ」を得意とする現役プロレスラー達が並んだ。
 スキンヘッドに入れ墨、そして派手なメイクと不気味なカラーコンタクト……どこからどう見ても「悪役レスラー」である。
『さぁ、物々しい雰囲気になってまいりましたが、今回この番組は放送できるのでしょうか?! 勝負はアイナ、ミストそして挑戦者のタッグマッチとなります! 今回最大のデンジャラスゲーム! この危険な試合の勝者は果たしてどちらか!!』
 マイクをアイナから奪い返した司会者が叫び、強面のレスラーたちがリングの上で咆哮する。
 そしてゴングが鳴り響いた。
(うーむ……アイナもアイナだが、挑戦者もなかなかいい根性でござるな)
 ミストはリング上に立ち、思わずそんな事を思った。
 対戦相手は一斗缶を手に、それをリングの柱にガンガン打ち付けながら挑発してくるのである。
(しかし、魔法は使わぬと決めたのだ。ここは大江戸プロレスで培った『場の盛り上げ』を重視すべきでござろう! 派手に勝利させてもらうぞ!)
 相手はミストの頭に一発当てたいのだろう。
 一斗缶を振り回しながら、白のカラーコンタクトを入れた目を剥き、こちらに向かってきた。
 ミストはそのスキをつき、相手の胸元へとタックルで飛び込んだ。
「ヤロウ!!」
 対戦相手は一斗缶を振り上げ、それをミストの頭上へと叩き落とす。
 周囲に響く派手な金属音――しかし、空のスチール缶にそこまでの威力はない。
 ミストはそのまま相手をリングへと叩き落とした。
「そら、どうした! これで終わりでござるか!」
「くっ、その仮面引っ剥がしてやる!!」
 相手は立ち上がり、ボコボコになった一斗缶をリング外に投げ捨ててミストを追い回す。
 しかし、ミストはそれをひらりとかわして柱の上へ。
 勢い余った相手は鉄条網を突き破り、リング外へと落下していった。
「ふはははは! 次は私が相手だ! 来い!」
 ミストに代わってアイナがリング中央へと飛び出し、相手を挑発する。
 すると今度は、相手はもっと過激な手段に打って出た。
 解説者のもとにあった折りたたみ長机を奪い、それをいきなりリング上に持ち込んだのである。
「そっちも大概だな……序盤からコレはけっこうめちゃくちゃだぞ?」
 相手は来世人だから思い切りやっても大丈夫――恐らく、今までの対戦を見てきて、レスラーたちもそう思っているのだろう。
 長机を担いだ相手は、リング上を逃げ回るアイナを叩き潰さんとばかりに、その「会議室仕様の凶器」を容赦なく振り回した。
(せっかくこちらが魔法を封じて張り手と投げ技で応戦しようというのに……そういう態度か、そうかそうか)
 アイナは相手の攻撃をかわしながら、スタジオの雰囲気や番組の盛り上がりを確認していた。
 机を振り回す相手に対し、アイナは素手である。
 このままではアイナがなぶり殺しにされるとでも思っているのか、番組の出演者である若いアイドルなどは半泣き状態になってしまっている。
 しかし――。
「そっちがそういう態度で逆に助かったよ。私も、『そっち側』のレスラーだからな!」
 アイナはリングの上に立ち、ニヤリと笑う。
 そして魔法――「弁慶ノ伎」で自分の上での中から取り出したのは、リングの外に置いてきたかと思われた金属バットであった。
「言い忘れていたが、私はヒール(悪役)だったのさ! こうして凶器を使うのはお手の物なんだな、これが!」
 柱の上から飛び降りたアイナは、相手に向かって金属バットを振りかざす。
 相手も長机を振り回してこれを受ける。
 しかし、アイナの威力のほうが上だった。
「こんなもので私を潰せると思うな! 喰らえ!!」
 アイナの金属バットがうなり、長机は真っ二つに叩き割られた。
 木製の机面はバキバキに割れ砕け、脚や金属部はぐにゃぐにゃに折れ曲がる。
 それをアイナに向かって投げつけ、往生際悪く逃げ回ろうとする相手を今度はアイナがリング上で追い回した。
「そう怖がることはないだろうが! 軽く叩くだけだ! そう――『軽く』な!!」
 鉄条網へと追いやられた相手を、ついにアイナが追い詰める。
 ごーん、という痛々しい音とともに、悪役レスラーはそのままリングアウトしていった。
「見たか! これが寛永のプロレスラーの実力だぁ!!」
 ゴングが鳴り響き、リングの上のアイナが吠える。
 ミストとアイナ――果敢に来世人2人へ挑んだ悪役レスラーはその後、「よくやった」として何故か人気が出たということである。

 3つの番組を通し、来世人・大和人への注目はさらに高まったようだ。
 彼らはこれからも「英雄」として忙しい日々を送る事だろう。



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参加者

a.海外の番組の取材ですので、ここは愛想よく☆
土方萌(ka00069)
Lv206 ♀ 18歳 武神 来世 異彩
a.よろしくお願いします。
沖田芽衣子(ka00120)
Lv269 ♀ 22歳 武忍 来世 大衆
c.ではでは、人間対人形の異種格闘技戦を。
藤枝杏花(ka00565)
Lv228 ♀ 15歳 傀僧 来世 異彩
c.うーむ。世間に顔が知れ渡るのは、今後の就活に響くのだが…(ぷひー)
ミスト・カイザー(ka00645)
Lv271 ♂ 24歳 武忍 来世 質素
c.よぉーし! 纏めてかかってきなさい!!
アイナ・ルーラ(ka00830)
Lv214 ♀ 24歳 武僧 来世 婆娑羅
a.普通の主婦の生活だから見てて面白いかわからないけど、いいのかしらね。
溢田純子(ka01629)
Lv211 ♀ 25歳 僧流 来世 異彩
a.では犠牲者の慰霊と秀吉の鎮魂を行いつつ、質問にお答えいたそう。
富栄弩院頼伝(ka01639)
Lv258 ♂ 36歳 僧流 来世 大衆
b.さて、どう答えようかしらね。
グレース・マガミ(ka01643)
Lv195 ♀ 28歳 神傀 来世 麗人
b.なんか落ち着かないんだが…。
魔神極奴(ka01868)
Lv230 ♂ 17歳 武水 大和 異彩
c.ふーむ。来世の武芸者の力、試させて貰うか。
藤枝真沙花(ka01870)
Lv230 ♀ 17歳 武火 大和 異彩
c.僕も誰の挑戦も受けるよー!
白鳳栗花(ka01993)
Lv359 ♀ 16歳 忍鬼 来世 傾奇
 まぁ、あんなデカイことしたんだしな……これくらいはしょうがねえかもな?
倉賀野好一(kz00058)
♂ 37歳 武僧 来世人