人類の脅威、巨大鬼神秀吉が出現してから、もうすぐ二ヶ月が経とうとしていた。
秀吉は東京の大部分を壊滅させたが、その後、被害域はそれほど広がっていなかった。大晦日に起こった大型分身体の大進撃は、ギルド員ら総出の迎撃により殲滅され、危機を回避。その後、本体は分身の生成をピタリとやめ、いままで以上に動こうとせず、廃墟の東京でのんびり構えていたからだ。まるで、分身の大量生成が徒労に終わり、「疲れた」とでもいうふうに。
「小休止状態なのかしら‥‥でも再び活性化しても、再度迎撃できれば、日本や世界が滅ぶことはないのかなあ‥‥なんて」
立花 流々子(kz00022)がポツリと漏らした。が、中村 誠(kz00035)は重たげに首を振った。
「米軍筋から聞いたのですがね。秀吉は『変質』しているそうで」
「えっ‥‥ヘンタイ?」
変質。どういうことかというと、体内の熱量や構造、そして外部体格もまた、つねに変化し続けていることが、長期間のモニターでわかってきたそうだ。
それが自壊なのか、あるいは進化なのか。その答えは、いまだ誰にも出せずにいた――そんな時。
◆四郎やっと来る
現代に天草 四郎(kz00012)がやってきた、というニュースは、またたく間に臨時ギルドを駆け巡った。
「驚いたわね。あなたはこっちに来るようなタイプじゃないと思っていたから」
高峰 ダイアモンド(kz00005)の悪びれない指摘に、四郎は。
「寛永を万事、整えるのに少々時間がかかった」
聞けば、彼はまず、幕府に『善なる鬼』の永久的保護を確約させるべく動いたのだという。もし自分という最大の庇護者がいなくなれば、善なる鬼が脅威に対抗する術は大幅減少するからだ。
そして幕府との約定に合わせ、寛永の来世人ギルドにも、それを守らせるようしっかりと念を押し、後見人を務めることを条件に、現代行きを承諾したのだという。
「義理などではない。たとえ次元の彼方にいようと、秀吉が生き続ける限り、我らに平穏は訪れないと考えている。そして秀吉を倒すには、やはりこの玉が必須だろうと考えたまでのことだ」
四郎の手には『智』の字が浮かぶ――これで、八つの玉が全て揃った。
「どうでもいいけど、いつもいいところで登場するのずるいヨ」
パオロ・ベルカント(kz00007)は四郎の背中を強めに叩いてやった。
さて、四郎参上からほどなくして、十人ちゃん(kz00059)も現代へやってきた。
「もうあらかたのギルド員も送り込んだしの。わらわがあそこに残り続ける理由もなかったし、なにか役に立てないかと思ってな‥‥しかし、こんな事態に何すりゃいいんじゃろね」
結局、役に立つ方策は思いつかないらしい。犬の十房も、へふへふへふというばかり。
「そのうえ、ひょっとして持ってこれるかと思ってた八咫鏡は、寛永に残されてしまったようじゃ。うーんアレさえあれば、あるいは過去への扉を開けたかもしれんのじゃが」
「何しにきたんだよ、マジで」
日比田 武竜(kz00030)は思わず顔を押さえた。
◆8つの玉の効果は
天草四郎が来たことで、対秀吉に関する多方面の進展があった。
まずはなんといっても、玉が全て揃ったことだ。これにより真っ先に行なわれたのはもちろん、『これで秀吉の再生能力を封じ込められるかどうか』のテストであった。
万全の態勢で、玉を持つ者らが秀吉に接近し、そしてそこへ対戦車ミサイルを撃ちこみ、再生速度を録画する。
結論から言えば、実験は無事終了した。ミサイルで肉がえぐられ、その後の経過ははっきりと録画できたからだ。しかし、その解析結果を、良しとするか悪しとするかは微妙なところとなった。
「これって‥‥どういうことなの」
安桜 真琴(kz00002)は頭を抱える。傷は、みるみる再生されてしまったからだ。
たしかに、『玉が6つのとき』よりは、再生能力はさらに低下しているようだ。それは間違いない。しかし寛永の時は、鬼神の鬼ノ体を100%封じ込められたのである。それと比すると、この結果は残念と言わざるをえない。
「完全無欠のバケモノ、とまでは言えへんかもやけど、やっぱりマトモに戦っても勝ち目ないんちゃうん?」
瀧沢 麗瑠(kz00048)のノホホンとした問いに、反論できる者はいなかった。
だがこのテストで、四郎は興味深いことを発見していた。
「秀吉に知性はなさそうだな。だが、意思、あるいは感情というか、本能というか、そういったものはあるようだ」
どういうことか――これまで、秀吉の知的活動は観測されず、『何を考えているか不明』だったというのに。
「俺の持つ伝心の力だ」
伝心――高位の鬼が有する、一種のテレパシー能力だ。それが、巨大秀吉と繋がったと、四郎は語る。
「だが、そこに理論的な言葉はなく、雑念というか、うねりのようなものが届くばかりだ」
これに興味を示したのが、日本における対秀吉の最前線研究所、『巨大生物対策特命係』だ。若き天才生物学者である徳川光照(とくがわみつてる)が率いる異能の研究者の集いである。
その中でも、生物との意思疎通を研究する女性エンジニア、尾形広子が、秀吉との知的接触を図れないかと言い出したのだ。
「話を聞く限り、巨大化した秀吉は一般的な知性を失った可能性が高いでしょう。しかし、感情や本能には、各生物共通のパターンのようなものがあります。四郎さんを通じて、それを解析できると思います」
話はこうだ。伝心といった法的能力は、現代科学でいまだ解析できていないが、少なくとも『秀吉の内面ノイズを受け止めている最中の、四郎の脳を測定』することで、秀吉の内面を解析できるという。
果たして、それは行なわれた。秀吉の内面は、四郎の脳を通じてデータ化され、その言語化されないノイズは、尾形の分析により、こう評価された。
「‥‥秀吉はやはり、論理的思考をしていません。しかし、その機能は残っているようなフシがあります。まるで、自ら、知的行動を放棄しているかのような‥‥そして、1つの感情に、あるいは目的に、全てを傾けているかのようです」
「なになに、もったいぶらずに教えてよ」
夏祭 順子(kz00006)が尾形を揺さぶる。尾形はしかめっ面で答える。
「憎悪。怒り。破壊衝動‥‥そういった類のものです。ともかく秀吉は、その『目的』のために、己の全てを捧げているかのようです」
「破壊が目的‥‥それって、つまり」
順子は四郎を見やった。四郎はその目を見返しながら、言った。
「やはりな。俺の感じたとおりに言うならば、秀吉は、人間を、人間の造った世界を、あるいは自分以外のあらゆる生物を憎悪しているかのようだった」
そして――その憎悪は、あらたな形となって、あらわれた。
◆秀吉、動き出す
秀吉が口を開き、そこが光り、赤き光線が大気を切り裂いた。それは500メートル先の偵察ヘリを一瞬で破壊した。
「バカな、この距離ならば安全のはず‥‥うわあああ!」
再び、赤いビームが飛び、別のヘリが、戦闘機が、戦車が、次々と灼熱し、溶けた。
これまでにない戦闘態勢。これまで何を考えているのかわからなかった存在が、いまや明確に、敵意を周囲に向け始めていた。
「グ‥‥グガガ‥‥ガガ‥‥」
秀吉は両手を握り締め、背を丸め、なにやら震えだした、と思った直後――
「グガアアアアアアッ!」
その背中から、ボコボコと肉が隆起し、まるで翼竜のような、おぞましき翼が生み出されたではないか。
その翼は、ギシギシと音を立てながら、ゆっくりと広がっていく。そして、ゆっくりと前後に振られ始める――言うまでもなく、空に飛ばんとするかのように。
ばさり、ばさり、ばさり、ばさり‥‥その映像を、自衛隊も米軍も、固唾を呑んで見守るしかなかった。
――だが、秀吉は飛ばなかった。すると、翼をたたみ、目を閉じ、体を丸め込むようにして、その場にたたずむのだった。
◆緊急会議を仕切るのは
この事態をうけ、日米代表者およびギルド代表者は緊急会議を開いた。
「奴は飛ぶつもりだ。最初からその準備をしていたに違いない」
「動き出したのは、8つの玉のテストが原因か? それで慌てて動き出したが、まだ完全ではなかったということか」
「どうする、8つの玉があっても殲滅できそうにないじゃないか。このままでは奴はやがて飛行し、世界を壊滅させかねん」
「いやその前に、核が撃ち込まれるかもしれませんよ。世界が怯えているはずですから」
踊る会議。そこへ招かれたのは、巨大生物対策特命係の徳川光照。
「我が研究班のシミュレーション結果によると、あの翼は、もちろん、飛ぶためのものです。しかしそれは、飛行というより、浮遊に近い可能性が高い」
「どういうことかね?」
アメリカ政府の高官が眉を吊り上げる。
「あれだけの巨大質量を、翼のはばたきで浮上させるのは物理的に無理がありすぎます。しかし、いわゆる『化身』の中には‥‥つまり『法力』という、いわば特殊なエンジンを持つ存在の中には、まるで物理法則を無視したかのように自在に重力から解き放たれるものが少なくありません。秀吉に法力が少なからず備わっている以上、翼を法的媒体とし、法力により浮上するのが、あの巨体を移動させるのにもっとも効率的なのかもしれません。これが考えうる一番有力な方向性ですね」
「飛ぶ‥‥飛ばれた場合、どうなるのかな」
安倍総理が聞いた。光照はしばし、黙り込んでから。
「‥‥順を追って説明しましょう。まず、奴は絶えず進化しています。その内部では、巨大なエネルギーが、日に日に違うパターンで渦巻いている。そしてその進化の目的は、おそらく人類の抹殺です。分身体が功を奏さぬことを察した秀吉は、そのエネルギーを浮遊への進化へ集中させたのでしょう。どうやらまだ未完成のようですが、飛ぶのは時間の問題です。
さて飛んだ場合の話ですが、奴は空中から地上へ、エネルギー弾やビームで攻撃すると思われます。あのビームは、きっと無尽蔵に発射可能です。これを防ぐには、地下深くの核シェルターくらいしかないでしょうね。そしてその破壊速度は、その浮遊速度にもよりますが‥‥24時間で日本の2割から5割は焦土化するかもしれません」
「そ‥‥それじゃ2日で日本は滅ぶのか!」
国防相は頭を抱えた。
「飛んでますから、世界が滅ぶのも、何ヵ月後という話ではないでしょうね。シミュレーションでは、核ミサイルを何十発撃ち込んでもやつは滅びません」
「‥‥だが、方法はあるのでしょう?」
総理は訊ねた。光照がひどく冷静なのを見抜いたからだ。
「ええ、対策は検討済で、最低限の準備はすでに整っていますよ」
光照は不敵に笑った。
◆滅鬼カプセル
再び、巨大生物対策特命係。その研究所に集められたギルド員らに、光照は、試験管に入れられた緑色の液体を揺すって見せた。
「これは‥‥いわば癌細胞と、その増殖を促進する酵素のカクテルみたいなもの、だな。これが、唯一用意できた、対秀吉用の秘密兵器だ」
「いつの間にそんなものを‥‥」
加神 銀志(kz00049)は唖然とする。ある程度、日米政府やこの研究所の動きを追っていたはずなのに、完全に初耳だったからだ。
「実はな、これは米軍に持っていかれた秀吉細胞のサンプルから生み出したんだ。連中、ロクな成果を上げられそうになかったから、ツテを頼ってこっそり分けてもらったんだぞ。でもバレると面倒だからな。敵を欺くにはまず味方からだ、悪く思うなっ」
そう言って胸を張る光照に、銀志はやれやれと首を振る。
「ちなみに四郎というサンプルもかなり役立ったぞ。しかし鬼という存在は面白いな。人間から生み出されたと聞いているが、人間のDNAパターンとなんら変わらないのだから。にも関わらず、まったく違った生物ともいえるし‥‥ま、一般人と来世人も同じ塩基配列だし‥‥おっと、そこを突き詰めるのは後日だなっ。ところで、味方を欺く、と言ったが‥‥もう1つ欺いていることがあるんだ。日米の会議で、核ミサイルを何十発撃ち込んでもやつは滅びん、と言っただろ? あれ、ウソだ」
おもむろな告白に、周囲はどよめく。
「完璧なタイミングで同時期に撃ちこめば、その熱量で消滅しない肉体など存在しないはずだ。ただ、可能性があるとしたら、8つの玉の影響下にあることが条件だから、やる場合は玉を持つ8人に核のシャワーを浴びてもらうことになるだろうなっ。
ウソをついたのは、核攻撃論を少しでも封じるためだ。急がないと、世界が核攻撃論を唱え出すのは時間の問題だぞ。それを言えば、秀吉が浮遊しだすのもなっ。そこでこの『滅鬼カプセル』の出番だ」
光照は、電動ドリルめいた形の装置を取り出した。
「この先端のぶっとい針を突き刺し、トリガーを引けば、薬液が秀吉体内に注入される仕組みだ。本来なら、経口摂取の方法とか、遠隔射撃で安全大量に注ぎ込みたいところなんだが、なにせ培養時間も装置開発時間もない。貴重な薬液をなるべく無駄にせず、全身にまんべんなく注入するには、『来世人にやらせる』というアナログな方法に頼るしかなさそうなんだ。
ああ、詳しく説明してなかったな。この薬液は、秀吉の細胞自身から生成した、一種の癌細胞だ。秀吉にはあらゆる毒や、化学的アプローチが意味をなさないことが実験でわかっているんだ‥‥正確には、その影響を瞬時に回復させてしまうからだ。だがこの癌細胞は、再生能力が異常に高いことを逆手にとったアプローチでな、体内で異常に増殖するのと、それを抑え込もうとする作用が、しばらくは拮抗する‥‥はずなんだ。まあ、やってみる価値はあるってことだな!」
「自信満々に言ってっけど、聞いた限りだと、なんかあやしい気がするぞ‥‥?」
巽 遥香(kz00061)の指摘に、光照はけらけら笑い。
「信じろ、これが一番成功率の高い作戦だ! これでダメならきっと全部ダメだ! 日本に核のシャワーを落とさせたくなかったら、しっかり成功させてくるんだぞっ!」
◆決戦開始
翌日、早朝。作戦決行は間もなくだ。光照は通信で、皆に念を押す。
「いいか、射ち込むタイミングがずれたところで、薬液の効果はそう変化ないはずだ。おのおの、摂取後数十分は効果を持続させ、その後徐々に効果が下がると思われるからな。
そして大勢のギルド員が近づけば、おそらく見境いなく分身体を出すはずだ、時間稼ぎのために。奴に意思はなくとも、戦闘本能のようなものは健在だ、知恵の回る存在とみなして動くほうが無難だぞっ。
繰り返すが薬液は、なるべく広範囲に注入してくれ。手足、胴体、首、顔‥‥まんべんないほうが効果が出る。効果が十分に得られれば、玉の効果とあいまって、再生能力は著しく低下するはず。その間に‥‥倒し切るんだぞ」
「よっしゃあああ! いっちょうやったるぜ!」
前田 轟介(kz00021)は大型バイクにまたがった。その唸りが、静かな東京の朝が、廃墟の街が眠りから解き放たれたことを皆に告げた。
化身
二足の影・大きな二足の影・大きな二足の影
選択肢
a.分身の惹きつけ | b.分身を退治 |
c.分身戦の支援 | d.カプセルサポート |
e.巨大秀吉惹きつけ | f.巨大秀吉殲滅攻撃 |
g.巨大秀吉戦の支援 | z.その他・未選択 |
マスターより
本シナリオは、世界の歴史を動かす可能性を秘めた企画『RealTimeEvent【SenkitaHistory19】』のグランドシナリオになります。
最後のグラシナであり、これにより世界の命運は決定するでしょう。
本グラシナは特別に、全てのキャラがメイン参加可能です。ぜひ、最終決戦に加勢してください。
なお得られる化身知識は3種のみですのでご了承ください。
北野旅人です。いよいよ、最終決戦となりました。
この現代日本を救うべく、皆さんの力を結集させてください。
なお、本シナリオでは、NPCが登場する場合があります。
全てのNPCが登場するわけではありませんが、プレイングで呼びかけた場合、登場する確率が高まります。
まず状況補足です。
場所は都内某所。周囲はがれきだらけで、一応、身を隠して移動は可能です。が、本格戦闘が始まればあまり意味はないでしょう。
彼我の距離はおよそ1kmから始まります。特に記述がなければ、秀吉の背後から向かいますが、プレイングで指定すれば、別方向から向かうこともできます。
キャラ1人につき1本ずつ、『滅鬼カプセル』が託されています。どの選択肢を選んでも、適宜、これを射ち込むことを前提に行動します。射ち込む箇所は指定可能ですが、プレイング記載がない場合は、他のキャラとの合理性を考え、適切な箇所を自動的に狙います(たとえば高い位置に射ち込める人とそうでない人がいた場合、射ち込めるが上部を狙います)。
カプセルの注入数、および範囲に応じ、【鬼ノ体】が減衰していきます。理想的な展開となれば、再生能力の一時停止もありえる、との見通しです。
最初で最後のチャンスを、その手で掴み取ってください。
[選択肢解説]
a:分身の惹きつけ
シミュレーションによると、分身体が迎撃のため生み出されるはずです。それを、倒すというより自分へ誘導したりすることで他の選択肢のキャラが行動しやすくなるように動きます。
b:分身を退治
惹きつける時間は必要でしょうが、惹きつけ続けるよりは、倒してしまったほうが最終的な行動がしやすいはずです。そのため殲滅に全力を注ぎます。
c:分身戦の支援
aやbのキャラの支援に動きます。
d:カプセルサポート
自身だけでなく、他の仲間も含めた、滅鬼カプセル注入のサポートを担います。
キャラによっては、近づくまでに自衛できない者や、接近できてもいい場所を狙えない者がいるかもしれません。そうした者を中心に手助けし、効率的な注入達成を目指します。
e:巨大秀吉惹きつけ
巨大秀吉の攻撃は、どれも即死級の破壊力を有します。しかし、一度に攻撃できる範囲には限りがあります。
その危険な攻撃をあえて引き受ける、危険な役を担います。
f:巨大秀吉殲滅攻撃
秀吉本体の再生能力が低下し、機が訪れた際の集中攻撃に全力を注ぎます。言い換えればそれまではある程度戦力を温存します。
g:巨大秀吉戦の支援
eやf、場合によりdのキャラの支援に動きます。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。