【SH17】佐渡金山攻防戦

担当 K次郎
出発2018/07/28
タイプ グランド G(Lv無制限) 冒険
結果 成功
MVP 藤枝菫花(ka01701)
MVS 根子楤(ka01983)





オープニング

◆決戦、佐渡金山
 佐渡島の結界を破り、そして鬼たちを倒し、ついに鬼将・織田信長を佐渡金山へと追い込んだ。
 だが、この金山こそが信長の最後の要塞ともいえる場所。
「間違いなく奥には信長がいる。鬼はかなり片づけたが、油断は出来ないな」
 なぜか頭にタオルを巻き、Tシャツの肩を捲り上げた現場監督風の日比田 武竜がギルド員を前にブリーフィングをしていた。
「この金山の洞窟に入っていき、囚われの島民を助け出す。玉の持ち主のお信もここにいるって話だな。敵は信長、信玄も生き残ってる。勝てる、と言い切れる相手でもないだろう。まぁ、信長の力はわからねーが、なんてったって信長だからなぁ、強いだろうな」

登場キャラ

リプレイ

◆いざ金山へ
 佐渡金山の手掘り洞窟の入り口の一つに集う来世人ギルドの面々。
 この洞窟の奥に鬼将・織田信長がいるのだ、この佐渡島での戦いに決着をつけるべく、いざ、奥へ!
「カメちゃんはおいてきました。はっきりいってこの戦いについてこられそうにもないですからね!」
 マリン・カイザーはいつも一緒にいるかめらおが今日はお留守番であることを告げる。そう、それだけ危険な戦いだということ‥‥だと思う。
 各々準備を整え‥‥、
「えいえーい!」
 なんとも可愛らしい気合を入れて何かを振っているのはアステ・カイザーである。
「素振りは完璧よ」
 とはアステの弁。
 いざとなったら、その打出ノ小槌で使ってしまった便利なアイテムを増やす算段だ。今はそのための素振りである。
「おう、いざとなったら頼むぜ」
 村正 一刀がそんなアステに向けてニッと笑う。きっと役に立つときがくる、そんな気がするのだ。
 準備といえど人それぞれ。他にはどんなことをしているかというと‥‥。
「では、信長様と戦うのですね、がんばってください」
 これから戦う相手に様をつけるのも何か不思議だが、それが藤枝 菫花ならばあまり違和感はないのかもしれない。
「おう、任せとけ! って、なんでそんなの聞いて回っているんだ?」
 問われた遠前 九郎はそう問い返す。
「は、はい、全力でサポートするつもりなので」
 両手で大きな何かを描くように「全力」を手ぶりで表そうとする菫花。
「頼もしいな。けど、信長以外にも信玄もいるかもしれない」
 九郎は思い出す。あの恐るべき鬼将・武田信玄を。奴がどう出てくるかも気になるところだ。
 しかし、今のところ、鬼たちの動きは不明。この洞窟の中にいるのは確かだが。
「‥‥無理じゃなぁ」
 眼鏡をくぃっとさせ間 朔次郎がため息を吐く。
「このわしの眼をもってしても、この洞窟の中までは覗けなんだ‥‥」
 などと肩を落とす。
 千里眼で先まで見えても、入り組んだ洞窟の中までは容易には見通せないのだ。最大の敵は鬼ではなく洞窟なのかもしれない。
「うーん、暗いし、入り組んでるみたいだけど何とかなるよ☆ それに肝試しみたいだしね♪」
 そう明るく告げる霧ヶ峰 えあ子は輝いている。そう、物理的に。天照大御神ノ舞の効果である。洞窟の中でも明るさは確保できるだろう。もちろん、敵にも見つかり易くなるデメリットもあるわけだが。
 他にもいくつか手持ちの照明器具や暗視ゴーグルなどを装備したものもいて、突入準備は概ね整った、ということか。
「囚われた人たちを連れて出てきたときに迎える準備はしておくよ」
 そう入り口に残るものもいる。越中 団次郎が厚い胸板をドンと叩いた。
「まぁ、正直狭いとこだと大技出せなそうだしな」
「いや、それは社長だけでしょ」
 ぼやく日比田 武竜(tz00033)に団次郎がツッコミチョップ。
「まぁいい、ここを道場とする!」
「じゃあ、皆さんが戻ってくるまでスクワットですね」
 武竜のとぼけた発言に付き合う陸奥 熱士
「少年、気をつけろ。ここは大江戸プロレスではなく戦場だ」
 などと熱士を窘めるアイナ・ルーラだが、彼女自身リングコスチュームの時点で説得力皆無である。
 まぁ、頼もしい面々が待機している、ということで安心して突入出来るというものだ。
 さあ、いざ、出発。
「ミスト君‥‥無事で」
「必ず帰ってくるでござるよ!」
 などと、藤枝 藤花ミスト・カイザーはそんなやりとりを多分5回目くらいやっていたりして‥‥。
「置いてくぞ!」
 置いてけぼりを喰らいかける。
「ま、待つでござるよ!」
 これから待ち受ける困難を前にしてもいつもの来世人ギルド。この戦い‥‥きっと勝つ!!

◆穴は続くよどこまでも
「さて、先の様子は‥‥と」
 深く深く、洞窟は続く。人の手で掘られたものである、限界はあるだろうが、なかなかに先が長い。
「‥‥見えませんね」
 それは藤枝 梅花に式神での調査を諦めさせるほどに。
 とにかく暗いのだ。式神を使うにしても術者が近くにいないと現状を見失う危険に満ちていた。
「やはり先行した皆さんに任せるとしましょう」
 梅花は呟く。落胆などしない、先行調査を行っている仲間がいるのだから。

 闇の中でも灯りも無くクリスタル・カイザーはスイスイと動いていた。
(こっちね‥‥)
 海豚ノ術によるソナーの効果は、この洞窟ではその力を限定されてはしまうが、すぐ近くの地形を把握するには十分な効果は維持されている。暗視ゴーグルと合わせれば闇の中でもしっかりと動けるのだ。
 そして、彼女は斑鳩占術で後方から進攻する仲間へと情報を送り込んでいた。
(‥‥そう、その先を右に来ると比較的通り易い道よ)
 通り易い道‥‥すなわち、鬼でも通れる可能性がある道でもある。
(そっちの道はどうかしら?)
 と、同じく先行する仲間にも通信を送った。

(こちらはやや天井が‥‥)
 小冷 煌尚はクリスタルに返事を仕掛けたところで鳥獣戯画ノ術で強化した聴覚によって何かを捕捉する。
(!)
 何か、来る。
 煌尚は咄嗟に僅かに横堀となった穴に身をひそめる。
「どうしたぁ?」
「あー、なにもいねえな」
 声が聞こえる。
(鬼か‥‥)
 松明を持ったそれは人よりも大柄な輪郭、そう、おそらくは鬼。低い天井を身を縮めながら見回りをしているようだ。
 そして、息をひそめてやり過ごすのであった。

 一方、式神を先行させながら、森住 ブナはその後をしっかりと追っているのである‥‥が。
 いや、姿が見えない?
 えー、現場のブナさーん?
(皆のママの私が、バッチリしっかり偵察するじょ)
 姿もなく音もしない。勾玉と蓑の法力により、隠密行動もばっちりだ。
「そう思っていた時期が、私にもありました」
 のちにブナはそう述懐する。
「お、なんだおまえ!」
「のぉー!」
 式神やら覚束ない足元やらに注意を払う必要があって、透明化の効果時間が切れたのに気付かなかった。
 大した武装を持たぬブナを囲む鬼たち。ブナの運命や如何に!?

◆タイヘン、お尻が大ピンチ
 突入部隊が洞窟に消え、しばらく後。
「さて、やることは山積み‥‥って、おい、地震か!?」
 大地が、揺れる。
 武竜は思わず叫んだ。
 現れたのは‥‥大鬼。恐怖の象徴ともいえる大鬼だ。
「流石は信長。やはり突入部隊のお尻を狙ってきたのです」
 藤枝 杏花はお尻(後方)と言いたいのだ。そうですよね、アンカちゃん?
「ふむ、確かに信長となればそちらの方もいけるとは思うのだが‥‥」
 真面目に応えるご先祖様、藤枝 真沙花だが‥‥そっちてどっち!?
 ツッコミ不在のこの戦場に留まりしは10人強のメンバー。だが、大鬼など恐れるに足らず。百戦錬磨の者たちだ。
「あれは八百貫黒鬼だっぺな。んなら、天照大御神ノ舞を使うっぺよ」
 迷わず神楽法を使えるスペースに移動する牧葉 真夏
 他の者たちもそれぞれ魔法の準備を始める。流れるような動きだ。なんか、攻撃仕掛けるメンバーがいないが? 多分、誰かが攻撃を受けている間に他の大勢が魔法を成就させれば勝ち、ではある。
 いや、何を以って勝ち負けとするか‥‥。
「うがぁー!」
 大鬼が吠え、そして、金棒を振り落とす。哀れ犠牲となったのは‥‥いや、違う。
「だめでーす!」
 振り落とされた金棒に自ら飛び込んだのはマリンのグラマラスボディ。
 だが、次の瞬間、その肢体は鮮血を纏う。
「入り‥口を‥‥壊されたら‥‥意味ないです」
 軽くないダメージを追いながらそう告げるマリン。
 入り口は崩れた。だが、少しがれきを退かせば何とかなりそうだ。マリンが飛び込んで僅かに金棒の狙いがズレたのである。
「おい、やるべきは‥なんだ!」
 武竜が吠える。
 それに呼応し、魔法の準備を中断して飛び出したのは熱士だった。
「やらせはしない、やらせはっ!」
 大鬼の足に刃を振り下ろす。
「がぁぁ!」
 だが、大鬼は止まらない。もう一度入り口に向かって振りかぶり。
「そういうのを見せられると、弱いんだよねぇ」
 と言いながら団次郎が金棒を持った手を狙い一撃を放つ。源義経由来の鎧、その跳躍力は振り下ろされる金棒を迎撃し、攻撃を逸らした。
 大鬼の一撃で入り口横に置かれていた物資の箱がぶっ壊れる。
 入り口が塞がってしまってもギルドメンバーは時間はかかるがどうにか脱出できるだろう。だが、囚われている人々はどうだろうか、弱っていたら救出まで持たないかもしれない。一瞬たりとも気が抜けない。
「お待たせした援護の準備整ったぞ」
 と、富栄弩院 頼伝がまずはアイナに朱雀炎帝占術。空からの攻撃を可能にする。
「お次、参るぞ」
 更に次の対象へ向けて魔法を準備する。
 全員が全員、大鬼を押し留めるわけではない、魔法の援護は必要なのだ。
「いきますよ、先ずは爆弾鼠×2、突貫!!」
 勢いよく機巧を繰り出す茂呂亜亭 萌瑠。狙うは大鬼の口の中。
「‥‥あら?」
 が、大鬼の体を登れない。
 プチ―――。
 自爆する間もなく踏みつぶされてしまう。
 そこへ間髪入れず砲撃音が響き、大鬼の巨体が揺らぐ。
「パンツァー・フォー!」
 杏花の亀甲車が放った砲撃だ。
「ぱ、ぱんつあほう? あ、いや、杏花、足を狙えるか、大きな相手は転ばせてしまうがよいのだ!!」
「了解なのです!」
 杏花は真沙花の言葉に従い砲身の角度を下げる。
 反撃は始まった。なんとしても入り口は守護(まも)らねば。
(CQCQ、みんなのお尻が大ピンチ! だったのですが、なんとか大丈夫そうです。安心して進んでください)
 マリンは斑鳩占術にて突入した仲間に入り口の無事を伝える。そして、大丈夫だ、といった以上‥‥ここは必ず守らねばならないのだ!

◆苦戦、結界戦
 外で大鬼が出た、という報告は突入したメンバーにも伝わった。
「戻った方がええじゃろう」
 外の仲間への援護と状況確認も兼ねて鏑木 奈々底水 霧子らが一旦入口へと戻る、
 しかし、基本的には突入優先だ。敵は何を仕掛けてくるかわからない。ならば一刻も早く囚われた人々を助け出し、信長を倒すのみ。
 すると、そこへ。
(あああ)
 流脈が途切れていたからか、奥に先行していた煌尚からの伝心が回復。つまり‥‥こちらへ戻っているのか?
「あああっ!」
 更に今度は実際の声となって響く。
「!!」
 走ってくる煌尚。そして、その後ろから‥‥鬼。
 男鬼の大きな体がどうにか通れる通路であるため追いつかれることは無さそうだが‥‥狭いため援護らしい援護もできない。
「やっぱり無理そうね」
 肩を落としたのは升田 千絵代だ。弓が長すぎてしっかりとした射撃姿勢を取れないのだ。撃てさえすれば煌尚のわきの下でも通して後ろの鬼を撃ち抜く自信はあるのだが。いや、なまじ撃てたとしてもしっかりと弦を引き絞れず、威力が不十分になる可能性は否めない。
「上等!」
 そこで、気合の言葉とともに銃声が響き、鬼を撃つ。
 梧桐 茶倉の火縄銃から放たれた弾丸が鬼の肌を穿ち怯ませた。そこへ梧桐 彩葉が慣れぬ太刀筋ながら斬り込み、黙らせる。
「よーし、彩葉、ナイスぶっこみだ」
 褒めているのかなんなのかよくわからないが、妹が嬉しそうなので、それはそれでいいのだろう。
 そして、煌尚からもたらされたのはこの先の分かれ道と、鬼が待ち構える場所の情報だ。どちらの道を進んでも敵はいるのだが‥‥。
「敵の数からして、おそらく本命はこっちだわ」
 とは、偵察を終え分かれ道から戻ってきたクリスタルの推測である。
 情報は少ない、だが、実際に見てきた者の言葉を信じるしかないだろう。
 そちらへ進んだ先‥‥そこには。

「お待ちかね、ちゅうことやね」
 潤賀 清十郎がつぶやいた通り、やや開けた空間に鬼たちがひしめいている。
 どちらにせよ、正面突破しかない。
「はぁっ!」
 気迫と共に魔神 極奴は刀を薙ぐ。天井スペースが低く、振り下ろせない分、横薙ぎにするしかないのだ。
「む」
 手ごたえが浅い。横薙ぎだったから、か? にしては、妙だ。
「確かに妙ですわ」
 青龍の力を宿せし剣で斬りつけたミネルバ・マガミも違和感を口にした。
 何かが、おかしい。
「まさかと思うが、格闘攻撃の威力が弱められているのでは?」
 拳銃で鬼の肩を撃ち抜き、グレン・ギーガーは何かを実感する。彼の軍経験が、拳銃の発揮した威力が適正であることを告げていた。
「ならば、接近戦のできる者はなるべく鬼を抑え込んでくれ! 飛び道具と‥‥魔法は効くか?」
 そうグレンが問いかけた時、清十郎の放った吹雪が周囲を包む。
「奥でふんぞり返ってる鬼将にみんなの一撃を届けるんや」
 男の身で巫女装束に身を包んだだけの価値はある。仲間を巻き込まず鬼だけを凍えさせた。
「おのれぇ」
「これでも食うがいいさ」
 恐れる鬼は清十郎に噛みつこうとしてくるが、そこは染屋 流華の刃がガッチリと鬼の口に喰い込んだ。
「やっぱり厳しいわね」
 が、飛び道具の数が足りない。満足に弓を構えられない千絵代は歯噛みする。
「だったら、こいつを使いな。あんたが持ってる方が役に立つだろ」
 と、自分のいくらか短めの弓を千絵代に投げ渡す蓮美 イヴ
「だったら、こいつは予備だ」
 そして、九条 鰤々之進は持ってきた矢を渡し、二人で鬼を押し留めんと突っ込んでいくのだった。
「無駄にはしないわ」
 放たれた矢は、鬼の腹に突き刺さった。本当は角を狙って角度をつけて放てば天井に当たる可能性も高いのである。
 で、狭いのは鬼にとっても同じだった。通路と違い何匹も並んで動けるが、金棒は振るえない。故に爪や牙で攻撃してくる。とはいえ鬼の攻撃力はそのままなのだ。
 ここで、思わぬ伏兵となったのは‥‥小鬼だ。
「ああっ、いた‥っ」
 グレース・マガミが小鬼に噛まれて思わず声を漏らす。
 小鬼は小柄な体を生かして狭い空間の中、ちょこまかと動き回り前衛をすり抜け、後衛のメンバーに襲い掛かってきたのだ。
「グレース様!」
 真神河 絶斗が鉄拳制裁で小鬼を引き離すが、本来ならどうという相手ではない小鬼にすら大きなダメージを与えられないのだ。
「チッ、こっちにもか」
 茶倉が接近する複数の小鬼に舌打ちし銃口を向けるが、間に合わない。
「!」
 そこへ飛んできた光の矢が小鬼を撃ち。
「ハッ!」
 短い気合から放たれた御子柴 識の拳は、なんと小鬼を眠らせてしまう。戸隠流忍術の開祖、戸隠大介が込めた法力から放たれる。
「これぞ、真・朧突きでござる」
 識が拳を突き出してみせた。
「援護はいたしますわ。可愛い妹分だけに任せておくわけにはいかないわよ」
 月読命ノ舞を終えた梧桐 天兎も後衛の最後尾からエールを送る。
「消耗戦になりそうですね‥‥右から小鬼来ます」
 と空木 椋の声が飛べば、仲間が反応し迎撃に入る。
「回復は‥‥」
 回復が必要か、椋が仲間を見れば、それを溢田 純子が手で制した。
「多少の傷なら私がどうにかするわよ」
 純子から放たれる波動。それは三蔵念占術によって放たれる癒しの力。
「ああっ」
 小鬼に噛まれた程度の傷などすぐに元通りである。
 長期戦は否めない、ならば力を温存することも肝要。
 何よりも、温存されているのは後ろに控える対信長隊である。
(この先、大きな空間がありそうよ)
 と、告げたのは戦いのどさくさで先に進んだクリスタルからの伝心だ。
 信長がいる場所の可能性がある。ならば‥‥。
「先へ!」
 それがここで鬼を抑える者たちの意思。
 先へ進むしかない!
「あ、ちょっと待ってください」
 そこでタイムを掛けたのは菫花だった。一体、何をしようというのか?

◆お助け隊参上
 信長を倒す。それは大きな目的である。
 だが、それ以上に大事な仕事があった。囚われた人々の救出である。
「見たのよ、弱っていて、とても辛そうな人たちがいるのを‥‥早くいかないと」
 希有亭 波新は焦っていた。見たのだ、三尸占術によって取られた人々の苦境を。故に、急がねばならない。
 そして、何よりも斑鳩での伝心が聞こえてくるようになった。
(こっちこっち、え、どっちって。ええと、確か右。お箸持つ方!)
 心の中に響く声は、もうどう考えてもみんなのママ(自称)であるブナだ。
 ぶっちゃけ鬼に捕まったら、他の人質がいるところへ連れてこられたらしい。ある意味好都合である。
「いた!」
 そして、突き当りの横穴。鬼、そして、狭い場所に押し込められた人々。こんな状況では確かに具合も悪くなろうというものだ。
「じゃあ、二人とも~、お仕事よ~」
 などと呑気にも見える感じで指示を出すカーモネギー・セリザワに従い、田中 カナタ土方 萌が動きだす。
「よっ!」
 ここでは格闘攻撃の威力減退などはないようだ。襲い掛かってきた敵をカナタは斬り伏せる。
「うわぁぁ!」
 分が悪いと踏んだ鬼は人質の子供を掴み上げギルドメンバーの前に掲げた。
「おとなしくしねぇとこいつを食っちまうぞ!」
「くっ」
 完全なる人質、である。
「‥‥」
 だが、誰も動かない、と思った瞬間、鬼に刃が斬りかかった。
「うが!?」
 それはセリザワが放っていた妖刀エペタムが宙を舞い、敵とみなした鬼を攻撃したのだ。
 鬼が怯んだ時には‥‥もう遅い。
「FreshGUMI! 参上!」
 既に、萌が大太刀の力で鬼の背後へと転移していたのだ。
 脅威は排除した。
「ふっふっふ、囚われてアジトを暴くブナちゃん完璧な作戦だじぇ」
 ふんぞり返るブナだが。完全に偶然である。
「とにかく、辛そうな人は運ばないといけないわね‥‥」
 そうハニーは起き上がれない老人を抱えるが、手が足りない。
「そういうことなら、手伝うわ」
「!」
 合流してきたのは純子だった。
「飛ぶことが出来れば歩くのがキツい人でも外まで出やすいわよね」
 施したるは朱雀炎帝占術。人質だった人々の背に炎の翼が浮かび上がる。
「おお、おお」
「おっかあ、おいら飛んでるよ!」
 お信を救うべく残る面々を残し、今は、一刻も早く外へ‥‥!

◆魔王降臨
 洞窟の奥、そこは手掘りで掘ったとは思えぬほど天井も広く法力的な灯りが満ちた空間だった。何名か朱雀の翼を宿しているが、この空間ならば飛行も可能だろう。
 その中央奥に、奴はいた。
 ギルドメンバーたちにはわかる。その鬼が‥‥鬼将・織田信長であることが。それほどの、雰囲気、イメージを纏っているのだ。
「来たか」
 信長は空間の中央で何やら瞑想のようなことをしていた。だが、来客を知るや声を発してくる。
「織田‥‥信長か?」
 敢えて鈴城 透哉は問いかける。
「いかにも」
 そう応え、信長の‥‥額の眼が開いた。
「いけねっ!」
 透哉は咄嗟に目を逸らそうとするが遅い。
 その眼に映るは何か。恐怖か。混沌か。
 心の奥底からこみ上げてくる何かを抑え込み、透哉は踏みとどまった。
「信長、あんたが魔眼を使うことを教えてくれた人がいた。その人の勇気を無駄にしねぇ為にも‥‥ここは退けねぇんだよ!」
「ほう」
 信長は両目も見開き、そして立ち上がる。戦いが始まることを予感させずにはいられない。
 そして、奴以外にも‥‥いる。鬼将・武田信玄。
「お、いるじゃないか。今度こそ以前のようにはいかないぜ」
 真っ先に信玄を視界に収めた九郎が既に斬りかかっている。
 ガキン―――。
 信玄の軍配斧がそれを受け止め、火花散る。
「小癪な!」
 その挑戦を真っ向から受けようと動く信玄‥‥だが。
「信玄よ、勝手に動くな。俺に従ってもらおうか」
「ぬう‥‥」
 だが、信長はそれを許さない。
 そして‥‥。
「うわぁ」
「なっ!」
 信長が左手にかざしていた鉄扇を振るえば、突如、風が巻き起こりギルドメンバーを切り裂いた。いや、信玄も含めてだ。
「くっ、魔法の類かな? 速いっ!」
 相葉 楡が舌打ちするほど、その流れが読めなかった。
 それを合図にしたのか、信玄が動き出す。明らかに後衛に陣取る者を狙おうと転移してきたのだ。
「下がってください!」
 水上 澄香を守らんと彼女を突き飛ばし、信玄の猛撃に身をさらす湧口 瑞希
「ああっ」
 強烈な一撃に意識が飛びそうになる。
 もはや戦いのゴングは鳴ったのだ。
 信長相手に果敢に飛び込む者がいた。
「好きにはさせぬ!」
 ミストは完全に信長を正面から見据えている。
「ほう、俺を恐れぬか」
「貴殿が作らせた薬でござるよ!」
「で、あるか」
 信長の命によって作られた忍薬の効果で戦意を失わないのだ。
 そして、ミストは仲間が信長の眼を見ぬように常に真正面にポジションを取り攻撃を仕掛ける。
「!?」
 確実に攻撃を当てるが‥‥それはすぐに塞がっていくではないか。以前も同じような力を持った鬼将がいた。
「これは黒田と同じような‥‥」
「御しやすいのう」
 そして、常に信長の真正面にいるということは‥‥動きが予測されるということ」
「ぐあぁぁ!」
 信長が右手に持った火縄銃が火を噴き、丁度目の前についてきたミストの腹を穿つ。
 そんな戦いの最中、先行していたクリスタルより伝心があった。この先、もう少し空間あり、と。人質が集まっているところにお信はいないかった。ならば‥‥。
「よ~し、ここは任せたんで、先に行く~」
 と堂々と戦場のド真ん中を歩き、悶絶する弟と信長の横を恐るべきスルースキルを発揮しすり抜けていくミア・カイザー
「いや、もう少し安全なルートを行ったほうがよろしいのでは?」
 韋駄天仙道真言で天井を駆けるカミラ・ナンゴウはツッコミ気味にぼやいた。
「で、あるか」
 信長はお信の方へ向かう者たちを一瞥もせず行かせる。ここまで踏み込まれた以上、今はお信には構っていられない、といったところだろうか。
「余裕のつもりなのよさね?」
「い、いきます!」
 ミストを救おうとボースン・カイザーのけしかけたアイヌ犬と付喪神のアイヌ刀が信長を襲い、その間隙を縫ってアステの放った霊符が風羽根となって飛翔する。
「小賢しい」
 だが、それは一時的に信長を押し留めるだけに過ぎない。
 信長は再び風を巻き起こせば、アイヌ犬たちも巻き込まれ傷ついていく。
「さ、下がるのよ!」
 それと入れ替わるように間髪を入れぬ攻撃で楡と藤枝 桜花が仕掛ける。
「角は‥‥こっちかな、っと!」
 もしや牙かちょんまげが角では、と考え、蜘蛛鎌式の8連撃で狙う楡だがそれはあっさりと回避される。
 畳みかけるように神威で転移してきた桜花が、刀を突き出す。
 狙いは‥‥額の眼。
「ちぃっ!」
 だが、やはり当たらない。
「くっ、やっぱり視線を外しながらじゃ‥‥」
 と意を決して信長に正対する楡‥‥。何か‥‥黒いものが心を覆う気が‥‥。
 ブオオー!
 だが、心に宿るは戦意。響くは‥‥ほら貝の音!
 根子 楤が吹き鳴らすそれは執金剛神の煩悩打破の加護を宿す。この音は、戦意を簡単には失わせない力があるのだ。
「ほう、あのほら貝、何かあるようだな」
 何かに気付く信長。
 すると、突如として舞を始めだすではないか。両手に鉄扇が掲げられている。
「鬼~道~一千~年~♪」
 その動きは‥‥気付くものは気付く。かの有名な‥‥『敦盛』。
「人のご~と~き~と~く~ら~ぶ~れば~♪」
「あっ」
「うあっ」
 まず、近くにいた桜花と楡が立て続けに鉄扇にて切り裂かれる。
「栄耀~栄華の~ご~と~く~なぁりぃ♪」
 そして、予備動作も無く、扇状にに風の刃が放たれ楤を含む一角がまとめて切り裂かれてしまうではないか。
「‥‥いけません、負傷の大きい方は早くこちらに!」
 だが、その風の刃が吹き荒れる中で澄香だけは無傷だった。
 伊舎那天の加護を宿したる機巧が秘伎・鬼門封界を発生させているからだ。手近な負傷者はその範囲内に転がり込み立て直しを図る。

 一方、信玄との戦いは‥‥。
「でりゃあ!」
 九郎は果敢に仕掛ける。注意を引き付ける為に。
 だが、圧倒的パワーを誇る信玄の迎撃に吹き飛ばされてしまう。
「ぬぉ」
 ぽふん―――。
 だが、幸いにもクッションが‥‥?
「あらやだ九郎ちゃん。オネーさんのクッション(意味深)で助かったわね」
 久保 零の柔らかいクッションがそこにある。
「ふがが」
「もう、暴れちゃダーメ♪」
 戦闘中だがつい気になってしまう。
「ああいうの、あたしもやった方がいいですかー? いや、むしろやってみたい‥‥」
 龍湖 多輝子はそんなことを言い出す始末。これが初陣だというのに大物だ。
 あ、いや、セクシー青龍装束の影響のようである。
「ちょっと、それはダメだよ」
 慌てて止める雫石 露花
 そんなやりとりをしているが仕事をしてないわけじゃない。
「っく!」
 信長の放った銃弾が透哉に命中‥‥だが、何かの力がそれを弾いている。
 青龍雷帝占術によって与えられた龍ノ鱗だ。エロエロになっただけの価値はある。
 と、そんなことをやってる間に。
「またか、しつこい!」
「まだ、折れない‥‥・」
 角を狙う高杉 蘭子の一撃に合わせ、池袋 春子が壺中天道術で特殊空間を作り出し超転移を封じ、攻撃後は即解除、蘭子が一ノ太刀準備という面倒なプロセスで仕掛けている。
「あれ? クッションは?」
 空間の影響でクッションから引き離された場所に戻る九郎。そんなズレが戦場に発生することになっていたが、それはそれ。
 特殊空間が解除され苛立った信玄は、なんと春子の横へ転移。
「!」
 強烈な一撃を浴び、倒れる。
「立ち上がれぬようにしてくれる!」
 更に信玄の馬体の蹄が‥‥春子の頭を踏み砕いた。
 その体はピクリとも動かない‥‥。
「なっ‥‥くっ、なんて、ことを!」
 既に一ノ太刀を成就し次の一撃を狙っていた蘭子はそのまま信玄に突撃。
 その時、ついに天草四郎の名を冠す兜が応えた。
 怒りと気迫を込めた一撃はついに信玄の角を斬り落とす。
「ぐぁぁぁ!」
 鬼毒斬の猛烈な痛みが信玄を襲う。
 戦いは、佳境を迎えようとしていた。

◆お尻の守護者
 入り口での戦いは通常の遭遇戦であればしっかりと魔法で固めたギルド側が勝利するところだろう。だが、現状、入り口を守るために矢継ぎ早の攻撃と大鬼の攻撃を逸らすための行動を強いられていた。
「機巧大仏ノ法で実際におっきくなれれば入り口前を完全カバーできるのですけどね」
「そういうな杏花‥‥来るぞ!」
「対衝撃防御なのです!」
 ご先祖様の言葉に合わせて亀甲車内の適当なところにしがみつく杏花。
「なん‥‥とぉー!」
 入り口めがけて振り下ろされた大鬼の金棒を真沙花は亀甲車の上に乗り、6.5mの大太刀と亀甲車の車体にて受け流し方向をずらす。これでどうにか入り口へのダメージを防いでいるのだ。
「このままじゃ、埒が明かないわね。一時的にでも食い止めるから、その間に倒せる準備をして!」
 と藤花が皆に告げる。
 悠長に打ち合わせている余裕はない。ただ、おのれの為せることを為すのみ。
「いくわよ」
「心得た! まずは拙僧から参る!!」
 応じた頼伝が抜き放った村雨丸が水の刃となって大鬼を斬る。凍結させることは儘ならなくても、怯ませることくらいは出来るはずだ。
「この中には私の娘もいるんだから‥‥これ以上、ハァッ!」
 本当なら阿修羅王真言でも使って何発も叩き込みたいところだが、今はそんな余裕は無い。藤花は渾身の一発を大鬼の脛に叩き込んだ。
「ぐごぉ」
 痛みはある。僅かに呻いた。少しでも、そう少しでも動きを遅らせて。
「―――ここで、うっかりと記憶してきた鳴る神霊迎えノ舞!」
 更に萌瑠の良く響く声が、雷を呼び寄せる。
 やはりタフな大鬼は感電などしない‥‥が、僅かに怯む。
「ここからフィニッシュにもっていかせてもらうよ!」
 そのバトンを受け団次郎が一ノ太刀を乗せた拳を角に叩き込んだ。
「ぐがぁぁ」
 角が‥‥砕ける!
「もう一本!」
 更にアイナが反対側の角を見事破壊する。
 ついに鬼を弱体化させることに成功したのだ。
「あとはこのまま削って‥‥」
 そう、思った時だった。
「グオオオオオオ!」
 大鬼は吠えると、体当たり気味に入り口に突っ込んでくるではないか。
「きゃあ!」
 入り口前に陣取っていた杏花の亀甲車が衝撃で大きく揺れる。
「拙いな、玉砕覚悟で入り口を壊すつもりだよ、奴さん」
 次も攻撃か、それとも他の何かをするべきか、団次郎は考えが定まらない、いや考えている余裕がない。
「ぬう、よほど信長が恐ろしいとみえる」
 頼伝はどうにか大鬼を押し戻そうと足を引っ張るがまるで大木のようだ。
 このままでは入り口に何かしらの被害が出てしまう。
「!?」
 すると、その時、入り口の中から光の矢が飛び、大鬼を撃つ。
「ぐ? あ?」
 だが、大鬼が倒れるわけではなく‥‥入り口から離れるように移動していくではないか。
「間に合ったみたいですね♪」
 と入り口の辺りから土と擦り傷、特に手がボロボロのマリンが出てきた。
「中から戻ってきた人たちに協力してもらいました」
 どうやら、中から奈々や霧子らが戻ってきたのだが、最初の一撃で少しがれきが崩れていて出れなかったようで、状況に気付いたマリンが伝心で話し、外からもがれきを退かしていたようだ。
 そして、大鬼は橘 二十九の潜脈占術によってコントロールされている、というわけだ。
 入り口から引き離しさせすれば後はどうとでもなる。既に角も破壊され、大鬼は来世人ギルドの前に屈することとなった。
 退路は守られたのである。

◆結界、破れたり!
 格闘攻撃の威力が減退する結界の中での戦いは熾烈を極めていた。
「きゃあああ!」
「わぁあああ!」
 ポカポカと小競り合いを繰り広げるのは菫花と小鬼だ。
 なんか緩い感じにも見えるが、やってる本人たちは大真面目。既に菫花の法力は尽きている。先に進むものに託したが故に。
 いや、そうでなくとも来世人ギルド側は消耗していた。
「!? チッ、弾切れかよ!」
 威力を保っていた火縄銃の沈黙に生まれる茶倉の隙。
 そこを突いてくる鬼。危険な爪が降りかかってきた。
「姉さま!」
「あ、おい!」
 だが、姉を突き飛ばし割り込んだのは彩葉。
 姉の前に切り裂かれる妹。
「馬鹿野郎!」
 彩葉はスローモーションのように倒れていく。
「せい!」
 鬼は後ろから識が真・朧突きで眠らせ、それ以上のハッスルを許さない。
「おい、彩葉!」
「う、うーん‥‥大丈夫みたいやわ」
 と懐の身代わり石を取り出し笑顔を見せた。
「ん~回復は‥‥要らなそうかな♪」
 いつもの軽い調子ながら心配そうにえあ子が声を掛けてくる。
「こっちは余裕あるからいつでも声かけるんだぞ☆」
 空間の狭さに、弓もほぼ使えず、敵味方入り乱れ魔法攻撃をぶちかませるタイミングも厳しい。なのでこうして駆けずり回っているわけだ。
 しかし、えあ子のように余力がある方が少なかった。
「あーもう、いやらしい攻撃をしやがるですね」
 そうぼやいたのは根子 ナラだった。丁度苦しそうなイヴを薬師如来真言で癒していたところだ。
 仕掛けられたのは黒厳女鬼による蟲毒での呪いのようなもの‥‥少しずつ被害者の身体を腐敗させていくのだ。こういう攻撃はじわじわと効いてくる。
「うむ、こちらの弾はあと4発といったところか‥‥魔法にしても全体的に消耗が大きいな」
 自分の銃の残弾を把握しながら、グレンは冷静に周囲を確認する。
「武器の威力が下がったからって怯んではダメよ。それ以上の威力で殴ればいいのよ。相手より多く殴れば先に倒せるわ」
 グレースは心配するグレンにそう呟き、笑みを向けた。
 鬼ノ体による回復力は彼女や清十郎が玉の力を発動させたことによりほぼ封じられていた。そういう意味では鬼側も厳しい戦いとなってはいるのだ。
「ええ、威力はイマイチでも‥ガンガンガンガンと行きますわね」
 朱雀の武器である槍を投げながらミネルバは義母の言葉に応える。
 と、義母を見るミネルバの表情が曇る。また、鬼が一斉に仕掛けてきたのだ。ターゲットはグレースら玉の持ち主。おそらくは信長の指示なのだろうか。持ち主もリサーチ済みなのだろう。
「グレース様には近づけません」
 相も変わらず絶斗が彼女の傍で守っているのだが、敵が多い。
「くっ」
 複数の小鬼につかみかかれててしまう。
 ドゴン!
 そこへ放たれし爆音。
「気をつけろ」
 極奴の籠手に仕込んだ大砲が吠え、ビビった小鬼が散っていく。
 清十郎の方も、近づく敵を流華が分身ノ術で翻弄し食い止めていた。
「!」
 鬼に攻撃された分身が爆発する。
 それに合わせて溜めを作って構えた太刀を振り下ろす。
 太刀の能力を以って、鬼を両断する!
「効いている!?」
 手ごたえが十分。これは普段の手ごたえだ。
「え、そうなのかい?」
 それを聞いた鰤々之進はチマチマと投げていた手裏剣を懐に仕舞い、太刀を抜く。
 振り抜いたそれは‥‥。
「確かに、行けるぜ!」
 小鬼をスパッと斬り割いてみせた。
 彼らは知らない。対信長隊が信長と交戦開始したことにより、この空間の結界を維持することが適わなくなったのだということを。
 だが結界の効果が無くなったのは事実。
「さて、少々潮目が変わったようだが、どうする、茶倉?」
「決まってんだろ‥ぶっちめる!」
 天兎の問いに呼応して茶倉が叫ぶ。
「そういうことね、一気に倒してついでに信長戦もサポートするわよ!」
 上がりだす士気。
 千絵代は敵の合間を縫って後方で悪さする女鬼に矢を命中させる。
「うぐ」
「おイタはだめよ。私たち、これから忙しいのですもの」
「そういうことやね」
 更にその動揺を突いて清十郎の放つ吹雪が鬼どもの士気を一気に冷やしていく。
 勝負はあった。
 ほどなくして、鬼どもはその戦力を失ったのである。

 戦いを終え、休む間もなく次の戦場へ。信長と戦う仲間の元へ。
「まだ余力があれば加勢するわ」
 千絵代はまだ使えそうな矢を確認し矢筒に詰める。
「あたしはぜーんぜん☆」
 えあ子のように回復が出来る者が増えるのは心強い。
「どうやら人質の皆さんを運ぶのにもう少し人手が欲しいようです。わたし、お役に立ちそうもないからそちらを手伝いに行きますね」
 伝心を受けた菫花がそう報告すると、何人かもそちらのフォローへ向かうことになる。
「僕は、ここに残るよ」
 そう宣言したのは清十郎だった。
「もし、転移で逃げてくるとしたらここ通るんちゃうかなぁ? そなったら入り口まで逃がす前に叩けるん思うんや」
 確かにいままで信玄にはかなり逃げられている。そういったケースもないとは言えないだろう。何より、守るべき島民たちに遭遇などさせてはいけないのだ。
 ならば、向かおう、各々の戦場へ!

◆信じてお信
 信長とのバトルの隙に奥の空間へと進んだメンバーは‥‥暗がりの奥に発見する、牢のようなものを。
「お信さんがいるのでしょうか?」
「ああ、そうみたいだな」
 梅花の問いに応えたのは先行して様子を窺っていた煌尚だった。暗視ゴーグル越しに、鬼のようなサイズの輪郭が複数と、牢の奥に小さな輪郭が見て取れる。
 となれば、見張りの鬼をどうにかしなければならないが。
「一気に仕掛けて黙らせるしかない、かな。お信ちゃん人質に取られても困るし」
 ミアはウォーミングアップなのか屈伸を始めて、いつでもいける、とアピールしだす。
「なら、やっとこいつの出番じゃなぁ」
 小鳥遊 彩霞は狭い通路でもどうにか持ってきたそれを構えた。
「すごく、おおきいです」
 思わず梅花が感嘆の言葉を漏らす。
 超上級者向けの長さ2.5mを誇る大弓・巨宗滴である。しっかりと扱うことが出来ればその威力たるや岩をも穿つか。この場所も信長の間から続きそれなりの高さの天井が確保されているのだ。
 来世人の膂力をもって引かれた弓のしなりは、次いで放たれる矢の強さをこれでもかと示す。
「‥‥」
 僅かな灯りを頼りに‥‥蠢く鬼のような影に向けて、彩霞は静かに矢を放った。
 ヒュッ――。
 短い風鳴りとともに、それは影に吸い込まれ。
「うぐっ」
「なんだ? どうした?」
 何があったのか、と動揺する鬼。
 そして、同僚が射られた、と気付いた時にはミアの接近を許していた。
「ほんじゃ、影縫いいっとこう!」
「うぉ!」
 動けない。何かに縛られたように。
 蝋燭が落とす僅かな灯りから生まれた影をミアは縫い留めたのだ。
 後は‥‥排除は簡単だった。
「お信さん!」
 牢の戸は簡単に開いた。恐らく、逃げる気すら起きないと判断されたのだろう。
 呼びかける梅花の声に、お信らしき存在はピクリとしただけで、その後何もアクションを起こさない。
「おし‥」
「いや、いや、いや! もう、どうでもいいの、うちのことなんか構わないで‥」
 それは拒絶。
 助けが来た、というのにこの反応。もともとネガティブ思考だが、今回の幽閉でよりネガティブに考え込んでしまったのだろうか。
「私たちは助けに来たんですよ、安心し‥」
「いや、怖い、怖い、怖いのはいや。だから‥うちに構わないで‥」
「お信さん。来世人はあなたを見捨てはしませんよ。何があっても。だってお友達ですし☆」
「‥‥どうせ、うちに優しくするのは‥‥うちが玉の持ち主だから‥‥そうじゃなければ助けになどこないのだわ‥‥」
 だが、お信は妙に手ごわい。どうにか持ち前の社交術をもってして安心させようとする梅花だが手をつけあぐねている。
「囚われたショックがあるのかもしれません。少し落ち着かせましょうね~」
 とセリザワが取り出したのは神仏を模した面だった。
 それを装着すると、お信に近づき。
「では、仏ビーム☆」
 罰が当たりそうなネーミングで仏面から光を放つ。
 それは精神的なショックなどを解消する効果を持つ光であった。
「‥‥」
 やや、落ち着きを取り戻したのだろうか。お信が静かになる。
「はっはっはっ」
 と、お信の足元へ一匹の犬がすり寄ってきた。
 右頬に「信」と読めるアザがある小さな柴犬のシンだ。もしかしたらお信を探せるかも、と萌が連れてきたのである。
「‥‥」
 すると、お信はシンを拾い上げ抱きしめて放さない。
「どうやら落ち着いたみたいですね~」
「しかし、戻るにしても信長との戦いが落ち着いてからじゃな。下手に出ていけばお信が巻き込まれるじゃろ」
 そう、彩霞の言う通り、信長を排除しなければここから出ることも容易ではないのだ。

 故に、決着をつけねばならない。

◆リメンバー本能寺
 信玄は3本目の角も折られ‥‥そして、すぐに4本目も失うこととなる。
「お、おのれ‥‥」
 来世人ギルド必死の攻勢がついに恐るべきタフネスを誇る鬼将を追い詰めたのだ。
 これで、あらゆる能力を使うことも儘ならない。
「これで‥決めてやる!」
 チャンスと見た一刀は村正の恐るべき力を解放させる。己が血を代償とした絶大なる一撃だ。
 それは転移も出来ぬ信玄の胴を裂き、おびただしい血を噴出させる。
「もう、一丁!」
 更に一刀、本来なら瀕死状態の体をモミラ面の能力で動かし‥‥もう一撃。
「舐める‥な!」
「!」
 だが、信玄もまだ死んではいない。軍配斧と村正が交錯する。
 噴出したのは‥‥双方の血だ。
「相討ち!?」
 倒れる二つの身体。
 そこに駆け寄るのはファウラ・クルシューエだ。
「これ以上、誰も死なせたりしまセン!」
 ファウラの魔法が、三途の川に足を突っ込みかけた一刀を引き戻す。
「ぐぉぉ」
 そして、信玄もまた、三途の川に入りかけている‥‥。
「じゃーな。あんたの始末くらいはつけさせてもらえそうだ」
 だが、そこに振り下ろされた九郎の童子切。
 九郎には斬られた瞬間の信玄の顔が笑っているように見えたのを。

「次は、信長ですわ!」
 勢いに乗り、蘭子は信長に正対し、予告ホームランのように太刀を突き付ける。
 その次の瞬間。
「!! え、ああっ‥‥そ、そんな‥‥」
 身体が震えだす。歯ががくがくとなり抑えが効かない。
『恐い』
『怖い』
『コワい』
 蘭子の心を占めるのは『恐怖』。その場にへたり込み、尻もちをついたまま動けない。
「ま、拙いのだよ。こういうのは治せないのだよ~」
 近くにいた藤 あきほは慌てて蘭子を引っ張り信長から遠ざける。
 信玄を倒されてもなお、信長は大きな消耗も無く健在。何よりも、油断など全くないのだ。確実にギルド側の嫌なところを攻めてくる。
「さて」
 今、信長にターゲットにされているのはほら貝を吹き鳴らし続ける楤であった。その効果に目をつけてたようだ。
「ほう」
 また、風の刃を放つ魔法を行使したが、それは楤に届かず阻まれる。
 澄香が展開する鬼門封界の中に保護されているからだ。必要とあれば結界を展開、解除と自在に行える強力な避難場所である。
 ならば、と放たれる信長の火縄銃。
「っ!」
 だが、それは命中と同時に楤の背中で形代が燃え尽きただけだ。
「どうだい、信玄相手にはちょっと足りなかったけど、君の攻撃はガッチリ防がせてもらってるよ!」
 どうだ、といわんばかりに渋谷 冬彦がガッツポーズ。
 これで守りはバッチリ‥‥というわけではなく。
「えっ!」
 澄香が驚きの声を上げる。自身の結界の中へ信長が走り込んできたからだ。
 いけない、このままでは‥‥。そう考えた彼女は信長を抑え込みにかかる。
「逃げてください!」
 狙われている楤を逃がそうと慣れぬ格闘戦を挑む、が。
「っ!」
 あっさり組み伏せられてしまう。
 そしてついに、魔の手は楤に達し。
「ああっ!」
 信長の鉄扇がほら貝を叩き割ったのだ。
 これで更に信長の眼を直視できなくなってしまう。
「それ以上はやらせんでござる!」
 唯一、信長を直視し続ける男、ミストが逃がさないとばかりに突撃。
 だが‥‥積み重なったダメージは徐々に彼を追い込んでいた。
「ああっ、まだ治療前なのよ!」
 ボースンが止めるが、間に合わない。
「!」
 ついにミストも糸が切れるように地に伏していく。
 ミストという壁が無くなり、何名かがうっかり信長の眼と視線を合わせてしまう。
「ら‥らめ‥オネーさん、腰、も、もう、立たな‥‥」
 身体を震わせへたり込む零。
「きゃああああああ!!」
 絶叫を上げ、その場から逃げ出してしまうアステ。
 仲間たちが恐れおののく姿は、味方の士気も下げ。
「鬼~道~一千~年~♪」
 また、あの舞だ。信長はその敵の綻びを逃さない。
 その攻撃の苛烈さに透哉も、楡も次々と倒れていく。
「あ、ああ」
 次々と脱落する主力。回復の手も追いつかず、無力さに苛まれるファウラは膝を折りかける。
 その時だ。
「可愛い義娘に応援されたのだ。ここで倒れるわけにはいかんのでござる!」
 なんと、ミストが立ち上がってくるではないか!
 それは、ここでの戦いの前に菫花から託された力。朱雀炎帝占術が為せる不死鳥のごとき復活の力だ。
 菫花は法力が切れるまで可能な限り信長と戦う味方にそれを付与していたのだ。
 故に‥‥。
「まだだっ!」
「って、ことになるよね」
 透哉も楡も次々と立ち上がってくる。
「是非もない」
 信長は静かに、その有様を見ていた。

「え、誰か来る!?」
 対信長の援護に向かった者たちが遭遇したのは、逃げ出してきたアステだった。
 その様子にナラは薬師如来の加護が必要だと真言を唱えようとするが。
「それはあっちで頼みたいですね。ここはトモに舐めさせておきましょう」
 と声を掛けたのはアステを追ってきた椋だ。
 智のアザを持つ柴犬のトモには舐めると異常を解消する力があるのだ。戦場で犬に舐めさせている余裕は無い。必要なのは魔法の力。
 ナラたちは戦場に合流すると、早速蘭子らに薬師如来真言を施す。被害者たちは恐怖は消え去り、我を取り戻す。
「消耗しすぎなのだよー!」
 あきほは蘭子の口に強引に巫女噛酒をぶち込むと、気合を入れるように背を叩いた。
「落ち着いたところで戦況はどうなの?」
 と千絵代が問いかける。
 今は不死鳥の力で復活した面々がどうにか信長と渡り合っているが、決定的なダメージを与えることは出来ていない。
「あら、あのちょんまげは‥‥」
 気付いた違和感。角ではないかとも目されているが、直視できず狙いが外れたり転移で回避されたりして、確か桜花あたりが一撃当てただけだ。
「結ぶ紐が切れているわね」
 攻撃を当てて紐が切れただけか? それとも。
 その時、露花が決死のアタックを仕掛けていた。
「好き勝手にさせない!」
 隠密鎧で姿を消し、信長を鬼門封界に閉じ込めつつ強引にしがみついたのだ。
 その瞬間を千絵代は逃さず矢を放つ。
 正確無比なそれはちょんまげへ!
「!」
 だが、矢は刺さったように見えて、ポーンと弾かれ‥‥ちょんまげを結ぶ紐が一つ切れただけだ。
(まさか‥‥)
 あくまで可能性の範囲だ。
「みんな、ちょんまげを狙って!」
 可能性に賭けるしか、今は無い!
「信長の眼にビビってチビっちゃったら私が治しますね」
 とナラが言うが、残念ながらチビった部分はチャラには出来ない。だが、状態異常を解消出来るのは大きな違いだ。ウッカリ眼が合ったとしても構わない。確実にちょんまげを狙いに行ける。
 ここから、ギルド側の全力攻勢が始まる。
「一気にいただき!」
「ぬう!」
 楡の連撃は決まれば大きい。だから信長は転移をしてでもそれを確実に避ける。故に、他の者からの攻撃に対してはどうしても注意力が削がれていた。
 消耗していくギルド側。だが、奇跡的な攻撃がひとつ、またひとつと決まる。
 後衛の者たちはそれを全力でサポートし続けた。
 そしてついに‥‥それが顕現する。
「おの~れ~!」
 ちょんまげが解け、髪を振り乱しそれでも戦う信長。
「よーし、壺中に処す? 処す?」
 合流したブナがヤる気満々で壺中天道術で特殊空間を展開。絶対に逃がさぬつもりだ。
 そう、終わりは来る。
「どうですか、本能寺を追体験した気分は」
 耳元で囁く女の声。
 既に、桜花が神威で飛び、その角を鮮やかに‥‥斬り払った。

「ぐうっ‥‥本能寺か‥‥そうやもな、俺が死に、秀吉様が天下を取るのだから‥‥」
 そんな捨て台詞と共に、鬼将・織田信長は佐渡島にて最期を遂げる。
 いや、捨て台詞ではないのかもしれぬ。その死ぬ顔は、なにかを成し遂げたような、憎たらしい愉悦の笑みを感じさせたのだから。

◆平和な島に
 島に還ってきた。そう平和な日々が。
「生きて帰ったでござるよ!」
「おかえりなさい!」
 洞窟から飛び出してきたミストを藤花が迎えようと‥‥と、スルーされ。
「ふぇ」
 抱き着いたのは菫花である。
「いやあ、菫花殿のおかげで命拾いしたでござる」
 これには藤花も怒るに怒れない‥‥。
「これでよし、なのだよ」
 どうにか春子も蘇生させ、負傷者も癒し、あきほらはやっとひと息。最後の最後まで消耗する戦いだった。それだけ、今回の敵が恐ろしい存在だったということなのだ。
 戦いは終わったのだが、お信のネガティブモードには未だ出口は見えない。
「うちのせいで‥‥こんなに迷惑かけて‥‥」
「お信さんのせいじゃありませんよ」
「うう‥‥うちなんか‥‥うちなんか‥‥」
「あなたには自分で気がついていない『いい所』が絶対にありますよ。それを見つけていきましょう」
 梅花らがなんとか宥めようとしているが、お信が落ち着くにはまだしばし時間がかかるだろう。
「僕らが信じるに足る者だと思ってもらえるように、もう少し頑張るしかないですね」
 そう椋が感じたように、その心の扉を開くには、まだ、試練が必要そうだった。
「で、結局信長の狙いというのはアレだったんですかね?」
 戦いの最後で大忙しだったナラはやっと自身が落ち着くと、仲間に疑問を投げかける。
 アレ、とは一体?
「あの壊されていた‥‥金の鳥居のことよね。念の為周囲を探索してみたけど、よくわからなかったわ」
 とはクリスタルの報告だ。
「鳥居といえば、神様の住まう場所と、私たちの住むこの世との境界線でもあり‥‥一種の門でもありますが‥‥」
 と、宮司の娘でもある澄香が鳥居について考えを巡らせる。
「いままでの流れからすると聖徳太子が関係しているのかもしれません‥‥あくまで推測ですが」
 何はともあれ、調査が必要なようだ。
「マリン、タイヘンなミスをしちゃいました!」
 突然、マリンが大声を上げた。
 一体、何事か、とどよめく一同。
「カメちゃんおいてきちゃって‥‥せっかくのマリンの活躍映像が残されてないんです!」
 マリンの言葉に、一同の笑いが巻き起こり。
 佐渡島は平和と笑いに包まれたのである。

◆未来記
 佐渡島も金山も、お信も奪還し、恐るべき鬼将も全滅させた人間達。だが、勝利の余韻に浸る期間は短かった。
 隠し遺跡から見つかっていた、聖徳太子の古文書『未来記』。その分析が進むにつれ、ついに、様々な謎に迫るの直接の背景が浮かび上がったのである。
 未来記。それは聖徳太子が自らの死の直前に書き残した、未来に宛てた申し送り事項のようなものであった。

 第一章は、聖徳太子自身について記されていた。
 自らが卓越した法力者であり、周囲から『導師』と呼ばれ、天皇の頼みを受け、日本のために尽力せんとしたこと等である。

 第二章は、鬼を生み出したこと経緯が記されていた。
 安定的な国家を築いていくため、多くの灌漑や開墾、神社仏閣の建立が急務と考えた聖徳太子は、人間に従順で、善良で頑強、高い生命力を宿した存在『鬼』を生み出したそうだ。それは三種の神器たる草薙剣を用い、人間を基とし造られた、一種の人造人間であると考えられるが、詳しい製法や原理はここには記されていない。
 このとき鬼には、『善良性』がはっきりと埋め込まれていた。つまり、鬼は人や他の鬼を襲わないように造られており、それがために安全で、悪用もできない、はずであった。
 
 第三章は、蘇我馬子による鬼の凶暴化が記されていた。
 天皇家を潰し、そしてそれを守る聖徳太子を潰し、日本国を支配するために、蘇我馬子は呪法を駆使し、『自らに従う、善良さを取り去った鬼』を生み出そうとしたという。いわば鬼の軍事転用か。なお、この時の蘇我馬子の呪法により、草薙剣は全損。その控えのみが後世に伝わることとなった。
 しかし馬子の意図した通りとはならなかったようで、鬼は蘇我家のコントロールを脱し、自分らの意思で行動するようになった。自己の生存と、そのために脅威となりうる人間への攻撃性。これを聖徳太子は『凶なる鬼』と称している。
 凶なる鬼はお互い同士で繁殖し、より凶暴な個体も生み出され、それらは徐々に日本全土へ侵食をはじめ、多くの人間および善なる鬼が犠牲になったという。このまま放置すれば、日本において人間が滅ぼされるのは時間の問題となった。

 第四章は、日本滅亡を防ぐべく取った手段、その準備について記されていた。
 聖徳太子は、凶なる鬼を残らず駆逐することは不可能と考え、まとめて封印することにより危機を回避せんとした。凶なる鬼だけを対象に、日本全土のそれを、長期間異空間へと封印する。そんな大規模な儀式が行なえるのは、まさに聖徳太子しかありえなかった。
 そのために必要だったのは、日本中の聖地や神社仏閣の霊力を集中させること。それだけでは足らないため、日本の離島に新たな霊的拠点を築くこと。そして超強力で瞬間的な法力発動である。
 神社仏閣の中には、強力な絶対秘仏についても言及があった。これは特に重要であるため、聖徳太子が直接、善光寺建立を指示していたという。
 離島とは、伊豆大島と佐渡島であった。それぞれの山体内部に鳥居を建立し、それを日本全土の霊力コントロールに使うのだという。特に佐渡金山には、強い法力を宿す金・妖黄金(あやかしこがね)が産出できるほど流脈の通過点となっており、そこにその妖黄金を用いた鳥居を築くことで、封印の儀を確たるものにしつつ、さらに封印維持に役立つと考えていたようだ。
 なお、聖徳太子はそれぞれの山で秘密の洞窟を作るにあたり、新たに生み出した善なる鬼を使ったそうだ。

 第五章は、封印そのものと、その後について記されていた。
 準備を整えた聖徳太子は、瞬間的に超強力な法力を放つにあたり、唯一無二のものを犠牲にすることにした――自らの命である。彼は西暦622年にこの儀を達成し、命を落とすことになっている。
 封印の儀が成功すれば、凶なる鬼は全員、一千年の間、異空間へ封印されるはずだという。しかし、自分のように優れた者でも、一千年を超えるような封印は不可能であり、日本は一千年後までに、なんらかの手を打たねばならない、と強く訴えている。
 それが、封印を延長するものなのか、鬼を退治するものなのか、それに関しては、聖徳太子も具体的な道を示せないそうだ。なお、太子自身は、ひとまずの対策として、『八つの玉』を造り遺している。それは、もう1つの三種の神器、八尺瓊勾玉を用いた、鬼の体を弱める玉であり、素質のある善人から善人へと引き継がれていくよう造ったそうだ。
 だが、その実際の効果や、一千年もの間の継承性は、彼自身疑問視していた――幸い、継承は成されてきたようだが。
 そして聖徳太子は、きっと一千年あれば、人類の叡智が進んだり、自分を超えるような『導師』が出現するであろう、と期待を
記していた――こちらは、彼の期待通りになったとは、とても言えない状況だが。

 また、書の最後には、聖徳太子自身の鬼への想いも記されていた。
 最後に自らが使役した善なる鬼は、今後、人間から迫害され殺されるしか道がないであろうことを考え、自らの死後は、隠れ里に隠遁し、永久に人と関わらないで生きるよう指示したという。そして、そうするしかないにも関わらず、この封印の儀のために再び生み出してしまったことに、強い申し訳なさを抱いていたという。
 さらに、封印するであろう凶なる鬼たちへも、やるせない思いを隠せずにいた。人間のためを思い生み出した存在が、自分の信じていた人間達(人間全体と同時に、蘇我馬子に対しても、こんな事をするとは考えていなかったようだ)によって恐るべき存在へ変貌させられ、そして人間の都合で封印されてしまうこと。
 自分自身と、人間達のこの過ちが、二度と繰り返されぬよう、強い願いが、そこに遺されていた――

◆そして未来は
 さて、この未来記が正しかったとして、ここまでの出来事を整理しよう。
 まずわかっているのは、この未来記が、正しく後世に伝わってこなかったことだ。これは、天皇家がいずれかの時点で、隠蔽したためだと考えられる。滅びが近づいてくるのに、だが打つ手はない――その情報は政敵に利用されかねない。都合の悪くなった為政者の誰かが燃やしでもしたのだろう。それが人の歴史というものだ。
 もっとも、そうなる可能性を見越したからこそ、聖徳太子も隠し遺跡に写しを遺したのだろうが。

 だが、この『滅びの未来』の回避のために尽力した存在を、来世人は2人知っている。高野山の空海と、安倍晴明である。
 聖徳太子の書には、高野山に関する言及は見つかっていないため、高野山は空海が独自に、鬼封印の強化のために造ったと考えられる。
 安倍晴明は、『彼から見ておよそ千年後の未来』、つまり来世、すなわち現代から、来世人を召喚するよう仕向けた人物だ。また、十人ちゃんが来世人の導師であり(奇しくも聖徳太子と同じ自称だ)、そして晴明の転生者とするならば、玉の継承や活用に一役買っているのだろうか。

 寛永の世に鬼が出現し始めたのは、寛永の初期とされる。西暦でいえば1624年あたりだ。封印の儀が622年に行なわれたとすれば、すでに1000年が経過したことになる。
 しかし、高野山が封印を強化していたと仮定するならば――ひとつの可能性として、『鬼の封印が一挙に解かれることを防いでいた』のかもしれない。
 やがて、最初の鬼将、天草四郎の出現を皮切りに、鬼の出現は激化していく。封印が弱まっていることもあるだろうが、伊豆大島にあった封印の媒体が噴火によって失われたとするならば、これもその原因のひとつといえるだろう。
 そして、鬼将のたび重なる出現により、高野山はダメージを負い、善光寺も大打撃を被った。それらは封印を弱めたと考えたほうがいいだろう。
 そして――聖徳太子が重要視していた、佐渡金山の鳥居もまた、今回破壊された。その後の調査により、金山の人足たちは、鬼の指示に従って隧道(トンネル)を掘らされていたといい、織田信長は、この金の鳥居の発見と破壊を目指していたことが推測される。

 封印は、誰の目にも観測はできない。今、どの程度弱まっているのかなど、測りようもない。解るとしたら、より強力な鬼が大量に出現した際の、その事実においてだけだ。
 さらに備えねばならないのか――徒労感と焦燥感、それが来世人ギルドを包むなか、再び槍玉にあがったのは、もちろん‥‥

◆導師しっかりせい
「そっそうじゃ、これじゃ! これを読んだことあるんじゃわらわ!」
 十人ちゃんは、未来記の写しを前に必死にアピールするが――続く来世人の疑問には、ほとんど答えられなかった。
「い、いやな、前世で読んだのはたしかじゃし、どれも聞いたことある話じゃから‥‥うっ神眼がうずく‥‥わらわは‥‥むかし晴明で‥‥晴明が入ってきて‥‥十房がきて‥‥玉を、来世人を導く‥‥ううー、ダメじゃな、むっずかしいことが全然浮かんでこんわ!」
 うがー、と髪をかきむしる十人ちゃんを見るに、さらなる情報は、あんまり期待できそうになかった。
「えーと、晴明は、そう‥‥法力の強い者に、その魂を送り込んで、転生を繰り返して‥‥そうじゃ、わらわの前にもいたんじゃ、うん、きっと。でも、えーと‥‥そうじゃ、来世人な、あれはより遠い未来から呼ぶほど、強力な存在になるんじゃった! でも、こー、卓越した法力者の間でもな、一千年のカベっちゅうのがあってのう‥‥うーん思いだせぬ! こう、頭の中でグルグルしてるんだけど‥‥うがーうがー!」
 法力は強い、らしい。でもオツムは弱いらしい。そんな十人ちゃんの脳内から、どんなロジックを引き出せるものやら。もちろん、誰にも測りようがなかった。



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参加者

c.回復サポートです
空木椋(ka00358)
Lv341 ♂ 20歳 傀僧 来世 大衆
a.効果上昇+式神で内部を偵察してみるつもりじゃよ 地図眼鏡兼用
森住ブナ(ka00364)
Lv251 ♀ 15歳 神陰 来世 異彩
d.伊遮那天で魔眼を躱す手伝いが出来ればと思います
水上澄香(ka00399)
Lv215 ♀ 17歳 陰傀 来世 異彩
サポート
d.こっちで。少しでもダメージ重ねられたらって思う。
鈴城透哉(ka00401)
Lv220 ♂ 15歳 武僧 来世 傾奇
サポート
d.信玄と信長を倒し、必ずやお信さまをお助けします。
高杉蘭子(ka00512)
Lv532 ♀ 20歳 武神 来世 婆娑羅
サポート
f.さすがは信長、やはり突入部隊のお尻(後方)を狙ってきたのです。
藤枝杏花(ka00565)
Lv228 ♀ 15歳 傀僧 来世 異彩
サポート
e.お信さんを含め皆さんをお助けしますよ☆
藤枝梅花(ka00566)
Lv280 ♀ 22歳 神陰 来世 麗人
d.突入戦闘は不得手になりますのでこちらになりますか
藤枝桜花(ka00569)
Lv297 ♀ 23歳 武忍 来世 大衆
b.とりあえず此方で考えてみるよ。
潤賀清十郎(ka00609)
Lv296 ♂ 27歳 神忍 来世 異彩
サポート
d.忍薬[突貫]の効果で戦意は衰えぬゆえ、魔眼の妨害を引き受けよう。
ミスト・カイザー(ka00645)
Lv271 ♂ 24歳 武忍 来世 質素
サポート
e.一応、こっちですじょ。
ミア・カイザー(ka00679)
Lv242 ♀ 24歳 陰忍 来世 異彩
サポート
b.私たちが道筋をつくるから本体は頑張って!
升田千絵代(ka00869)
Lv474 ♀ 25歳 武陰 来世 傾奇
サポート
f.退路は確保しておくよ
越中団次郎(ka01138)
Lv330 ♂ 32歳 武僧 来世 婆娑羅
サポート
d.童子切の命中効果が発揮されるかどうかで、信長の角の位置を割り出せたらと
相葉楡(ka01176)
Lv311 ♂ 27歳 武傀 来世 麗人
c.明かり点けたり回復したりするよ☆彡
霧ヶ峰えあ子(ka01260)
Lv327 ♀ 16歳 神僧 来世 麗人
f.入り口潰されたらシャレにならないしね。退路を守るとしましょうか。
藤枝藤花(ka01346)
Lv245 ♀ 40歳 武僧 来世 大衆
c.天照使用 地蔵・薬師の回復サポートです
根子ナラ(ka01549)
Lv259 ♀ 22歳 神僧 来世 婆娑羅
e.さあ、信長の裏をかかせてもらおうかの。頼むぞ皆!
小鳥遊彩霞(ka01619)
Lv238 ♀ 25歳 武流 来世 異彩
サポート
c.斑鳩で偵察するみんなと繋いで、三蔵で回復するわね。
溢田純子(ka01629)
Lv211 ♀ 25歳 僧流 来世 異彩
a.偵察頑張ります…。
小冷煌尚(ka01631)
Lv199 ♂ 23歳 陰忍 来世 影
a.忍びとして偵察任務をきっちりこなして見せましょう。
クリスタル・カイザー(ka01634)
Lv332 ♀ 29歳 忍流 来世 大衆
f.アイナ殿、熱士殿、朱雀炎帝占術を付与するので、空から攻めなされ。
富栄弩院頼伝(ka01639)
Lv258 ♂ 36歳 僧流 来世 大衆
サポート
c.みんな、武器の威力が下がったなら、それ以上の威力で殴ればいい理論よ☆
グレース・マガミ(ka01643)
Lv195 ♀ 28歳 神傀 来世 麗人
サポート
d.信長との戦いに向かうよ。両方ぶっ潰してお信を絶対に助ける!
遠前九郎(ka01660)
Lv321 ♂ 19歳 武流 来世 傾奇
サポート
c.よろしくお願いします。
藤枝菫花(ka01701)
Lv281 ♀ 17歳 神流 来世 麗人
f.CQCQ、みんなのお尻(後衛)が大ピンチ! ここはマリンの出番ですね♪
マリン・カイザー(ka01727)
Lv291 ♀ 21歳 陰流 来世 麗人
b.数の多い敵を相手にするならこうするのが一番だろ?やってやるさ!
梧桐茶倉(ka01729)
Lv183 ♀ 19歳 神忍 来世 大衆
サポート
e.それでは~お信ちゃんの救出作戦を開始しま~す。
カーモネギー・セリザワ(ka01912)
Lv248 ♀ 30歳 武傀 来世 傾奇
サポート
 この穴を行けば、どこまでいくか。迷わず行けよ、行けばわかるさ。
日比田武竜(kz00030)
♂ 34歳 武陰 来世人