【SH01】御前試合/妖の盆

担当 北野旅人
出発2015/08/22
タイプ グランド B(Lv150以下) 冒険
結果 成功
MVP 升田千絵代(ka00869)
MVS 結城奏(ka00852)





オープニング

◆御前試合決勝トーナメント発表!
 寛永15年7月7日――厳しい予選を勝ち抜いた8人の猛者が、ついに家光公の下、ナンバーワンを決める戦を繰り広げる。
 御前試合。そのトーナメント表を見やりながら、将軍家光は、口の端を歪める。
「この日の勝者が、事実上の天下無双か‥‥来世人は、どこまでやれるものやら」
 家光はその紙を、そっと置く。そこには――


登場キャラ

リプレイ

◆死合当日
 7月7日。御前試合、その本戦。江戸城内の、御稽古場ではなく広い庭園にて開催。
 審判は、将軍家指南の柳生宗矩と小野忠常。観覧するは、将軍家光と、ほか高位の者、そして選ばれし武芸者と一部の来世人のみ。
 そこに漂う空気に、娯楽性はない――むろん、興味本位で観覧に臨んだ者も多いはずなのにだ。しかしそういった連中は、場に張り詰める猛者の殺気と、家光公の真剣な眼光を前に、浮かれた気持ちをすっかり呑みこまれてしまっていた。

 やがて審判の宗矩が言った。
「第一戦の両者、これへ!」

◆第一戦:高間 無価 対 白絹坂 開祖
 その第一戦が始まる、少し前。
「本戦進出たぁやるじゃねぇか、開祖。こいつは餞別、な」
 結城 奏は、そう言って開祖を送り出していた――除傷形代道術の札を3枚貼り付けて。
「助力、感謝する。では」
「ああ。この際だ、さくっと優勝して来い」

 ――そして今、2人の来世人は向かい合っていた。無価と開祖。

 思考はクレバーに、だが魂は溶けそうに熱く――開祖は、そんな状況に己を置かんとする。二代目和泉守兼定の良業物を武器に、優れた胴丸で挑む彼は‥‥
(己が教理に則り、王威と共に力を振るう)
 その独眼で、対戦者を見据えた。
「宜しく願う」
 言われた無価は、小さく礼をする。忍者装束にボディアーマー、得物は忍者刀だ。
「全力を尽くし、正面から戦うだけですね‥‥何処まで出来るか、やってみましょう」

 始めェい! と声が飛んだ。直後、無価は印を結んで忍術を詠唱しだした。
「やはりね」
 開祖は読んでいた。一気に踏み込み、まず一閃。無価は斬られつつも――
「分身の術!」
 魔法を成就。分身が生み出された。開祖は即座にその両者を、すなわち本体も分身もまとめて薙ぎ払うように刀を振るう。が、どちらもかわされる。
「そう簡単には押されませんよ」
 無価の反撃、忍者刀の突き。まともに食らう開祖。だがその表情に変化なし。変化したのは背中の形代、それが焼けて身代わりとなったのだ。奏の事前支援である。
「押し流す、水流の如く」
 開祖は涼しい顔で距離を詰める。短期決戦。分身が消えるのを待つのではなく、分身を斬ってしまう事も織り込んでの戦法。両者の刃が交錯する。分身が、形代が、ときにそれを肩代わりしながらの斬り合い。奇妙なる来世人流の戦闘術。
(あとは、身体能力で何処まで迫れるか、です)
 押されている無価、退路を断たれ追い詰められた格好、そこでいちかばちかの一ノ太刀成就。
「支援があろうとなかろうと、それごと断ちます!」
 無価、渾身の斬撃! 開祖は肩にそれを受け、うめくも、その手を止めずに斬り返す!
 無価の分身は消滅し、開祖の形代ももはや無い。しかし開祖に退く気はなく、無価もこれ以上退がる気はなかった――あとは、壮絶な殺陣、お互いの防具が、肉体が、血にまみれていき、そして――

「そこまで! 勝者、白絹坂 開祖!」
 審判がそう叫んだ時、血だまりの中にあったのは、かろうじて立つ開祖と、うつぶせ身じろぎもせぬ無価の姿であった。

◆第二戦:赤井 狐弥 対 宮本伊織
「両者、立ち位置へ――む、何事か!?」
 審判の声を無視し、狐弥はつかつかと、伊織のほうへと歩いていく。両者、まだ得物は抜いていない。
「‥‥なにか?」
 伊織が小首をかしげた。狐弥は右手を差し出す。
「シェイクハンド――握手ですよ。来世流の、試合前の正々堂々の挨拶です」
「そうですか。では」
 伊織も右手を差し出し、がっちり握手がかわされた――そのとき狐弥は、そっと身を乗り出し、伊織に耳打ちする。
「や ら な い か」
「はあっ?」
 伊織は目を丸くした(そりゃそうだ)。
「いいケツしてるな、と思いましてね。どうです、今夜も一勝負‥‥ああ、そのカラダでは無理ですかね?」
「な‥‥っ!?」
 愕然とする伊織――狐弥は自分のおなかを意味深にさすりながら、立ち位置へと戻っていく。

 ――そう、全ては狐弥の作戦だ。正々堂々が聞いてあきれる計略だが。
 狐弥は事前に、黒井 華麗に人遁の術を使わせ、伊織の対戦前の様子を探らせていたのだ。伊織が腹痛である事は、その時に掴んでいた。
 そして、『卑猥な言葉』で相手を挑発する事で、平手打ちなどを誘発させ反則負けにさせるか、あるいは動揺を誘って試合を有利に進めようと企んだのだ。
 そう、たしかに伊織は動揺した。逆上もしかけた――だが、武蔵ほどでないにせよ、伊織とて二天一流の達人。安易に手など出さない。
 それでも‥‥かすかに、伊織は揺れていた。来世人というものが、どこまで人を見抜けるのか、心を読めるのか、などの疑念によって‥‥

 始めの合図が飛ぶ前、すなわち立ち位置へと戻る途中、狐弥はしっかりと『猿飛びの術』『分身の術』を成就させていた。
「さきほどの忍術ですか」
 伊織はじりりと下がり、様子を見る構え――さきの戦いで、分身がいずれ消えると踏んだからだ。
 だが2人の狐弥(本物と偽物)は、伊織が距離を取ったと見るや、おもむろに拳銃を抜いた。22ミリのオートマチック。その小ぶりな外見とは裏腹に、凶悪な鉛玉が伊織を襲う。
「くっ‥‥!」
 伊織は距離を詰めざるをえない。だがここまで完全に狐弥の読み通り。どうせ残弾は温存せねばならない、一発当たったのでよしとせねば。
「はっ! ‥‥なに!?」
 伊織は二刀流だ。分身含め、2人の狐弥を同時に斬ろうとしたが、予想外の跳躍力(猿飛びの術だ)で距離を取られ、一瞬、戸惑う。そして高速で距離を詰め直した狐弥に忍者刀で斬られ――
(これは‥‥毒か!)
 伊織の感じた通り――狐弥の影縫刀には、麻痺毒が仕込まれている。気を抜けば即、負けるだろう。
「搦め手の多い事!」
 伊織はしかし、冷静に忍者刀を小太刀でさばき、大太刀で反撃。
「ぐうっ!?」
 決まった。狐弥はよろめく。無理もない、その太刀筋は達人の域。ウェランド・グロスターが事前に貼り付けた形代では、肩代わりできぬほどの威力なのだ。
(これは‥‥もう食らえない)
 2~3回斬られればおしまいだろう。そのくせ太刀筋は鋭く、二刀流は防御も固い。分身は今、消えた。狐弥は急速に追い込まれた。
 だが急に、伊織の体さばきが変化した。キレが悪くなったのだ。顔をしかめる伊織。
(やはり腹痛ですか‥‥チャンスは逃さない)
 狐弥は得物を信じて、踏み込む。鋭い一閃を受けたが、こちらの刃も相手の肩口をえぐる。
 そして、それが決め手となった。
「うっ、ぐ‥‥」
 伊織は、明らかに痺れたようになり、膝をつく。狐弥は即座に背後に回り、その喉元に刀を突き付け、そして審判を見やった。勝負はあった、という意味で。
「そこまでェい!」
 宗矩が試合を止めた。狐弥は立ち上がり、やがて伊織は、ゆっくりとふらつきながら立ち上がった――その立ち姿は、敗残者のそれであった。

 ――しかし、勝者の名が呼ばれない。ざわつく会場。宗矩と忠常は、何やら協議している様子だ。
「何事じゃ? 申せ!」
 家光が審判らを呼んだ。そして、しばし後――

「――この者、赤井、神聖なる御前にて、卑猥な言葉を吐いて場を汚したゆえ、その勝利を認めぬものとする」
「なっ‥‥」
 狐弥は、その報に肩を落とす。あのささやきが聞かれていたのか――そして、そんな理由で失格にされるとは‥‥
「一方の宮本も、勝負においては明確に負けていたため、この試合は勝者なしと決定する」

 まさかの両者失格。御前試合は早くも波乱の展開となった。

◆第三戦:柳生十兵衛 対 鈴城 透哉
 透哉は、まっすぐに十兵衛を見据えていた。
(法力含めて全力で戦う。約束は違えねぇ)
 名うての剣豪。伝説といってもいい存在が今、目の前に立っている。
(本物の武士には経験がある。俺らには足りねぇ力が)
「‥‥ずいぶんとやる気のようだな?」
 十兵衛は軽い口調で言ってきた。まったく気負いが感じられない――透哉とは正反対だ。
(もし武士に法力があったら俺らはいらなかったかもしれねぇ‥‥でも。でも俺らはここにいる。いるだけの力があるって示さなきゃなんねぇだろ!)
「始めェい!」
 始められた――十兵衛は再び小さくお辞儀をすると、ゆっくりと刀を抜いて、正眼に構えた。透哉も頭を下げると、伊賀守金道の良業物を抜いて構えた。

(相手は予選の宗冬と同じ、柳生新陰流‥‥けど)
 透哉には優れた殺気感知能力があるが、対戦者からの殺意は感じられない――相手は微笑みすらたたえそうな気楽さだ。
「来ないなら、こちらからだ――斬鉄ノ太刀! そして、一ノ太刀だ! どりゃあ!」
 透哉は真正面から振り下ろした! まるで、相手の刀ごとヘシ折らんとするかのように。
 だが十兵衛は刀を下ろし、半歩さがって身をひねるだけでこれをかわした。
「まだまだァ!」
 透哉、即座に足を狙った下段! だがそれより早く、十兵衛は後退し間合いにいない!
「俺の経験はまだ鬼との戦いくらいだけど‥‥どんな手を使ってでも勝つ!」
 さらに踏み込むんだ‥‥そしてそうした瞬間、初めて透哉は、ゾクリと危険を感じた――ときにはもう遅い。十兵衛が一瞬早く踏み込みながら、刀を振り下ろしていた。
 完璧な太刀筋。ざしゅっ。熱く、鋭利なものが透哉の胴を駆け巡る。
「ぐああっ! ‥‥くそ」
 よろめき退がる透哉。十兵衛は深追いせず、余裕の表情で八相の構え。
「ほお、まだ立てるのか?」
「当たり前だ‥‥どんな相手でも戦いは、最後まで立ってる奴の勝ちだっ!」
 透哉はサバイバルナイフを抜いた。なりふり構わず闘気をむき出す。
「いい心がけだ。だが付け焼刃の二刀流はどうかな?」
 十兵衛はニヤリとした。その顔を狙って、透哉は斬りかか――るフリで、相手を誘う。
 狙い通り。十兵衛が振り下ろしてきた。透哉はナイフでそれを受け――
「!?」
 ――受けられない! 構えたナイフは強烈な斬撃をいなせず弾かれ、その剣はそのまま直進、再び透哉の胴を裂いた。強烈に。
「か、は‥‥なんて威力だ‥‥」
 立っていなきゃ‥‥倒れたら負けだ‥‥だがしかし、透哉はすでに砂を噛んでいた。気づいたら地面を舐めていたのだ。そして、どこか遠くて、そこまで、という声がした。

◆第四戦:宮本武蔵 対 三枝守全(さいぐさ もりあきら)
「この武蔵と相対してなお、その冷静さ。なかなかやりそうでござるな」
 武蔵は油断なく、守全を見据えた。
「ええ」
 守全はただ、そう返した。謙遜も腕自慢もせずに。

 二刀・無構えの武蔵。対する守全は、刀を抜かぬままじりじりと迫る――抜刀術の構えだ。
 突如、守全が猛烈に踏み込んだ。当然、放たれるは抜刀剣、先の先を狙う電撃の一太刀!
 だが。
「!?」
 守全の刀が、ぎいぃん、と鳴った。武蔵が大太刀で受け流したのだ。守全は刀を抜いたまま即座に退がるや――
「参りました」
 審判があっけにとられるほど、その降参は早かった。初太刀をいなされただけで、即座に構えを解き、頭を下げたのだ。
「諦めが早いな。それほどの実力がありながら、なぜ‥‥」
「抜刀術は、抜いて勝てねば終わりです。引き際を知らぬ者は強くなれません」
 守全は礼をして、きびすを返した。武蔵は憮然とした表情で刀を収めると、去っていく守全の背中を、油断なくねめつけていた。

◆第五戦:白絹坂開祖の不戦勝
「運がいいのか‥‥勝ち上る宿命だったという事か」
 開祖は次の試合を注視する事にした。なにせ、勝った方が、最後の相手なのだから。

◆第六戦:柳生十兵衛 対 宮本武蔵
 試合は凄まじい様相となった。
「何ッ」
 武蔵、十兵衛の初撃によってその小太刀を折られ、二刀流を封じられたのだ。
 だが、それでもなお、武蔵の剣に衰えなし。
「ぬあーっ!」
 十兵衛の強烈な雄叫び、そして大地さえ割りそうな強烈な振り下ろし! 目にも止まらぬ剣筋だが、武蔵はこれをほとんど、その体さばきだけでかわし斬り返していく。
「なるほど‥‥その剣、火の如し、でござるな。だが、燃やす物が傍になくば、炎は衰え消えるもの」
「俺が炎か。なら、熱し尽くすまで!」
 血しぶきをあげてなお烈火の十兵衛。武蔵、壁へと追いやられる! だが!
「ぬあっ‥‥!?」
 十兵衛の隻眼にぶつけられたのは、武蔵の蹴り上げた、己の草履であった。十兵衛は本来、安易な目潰しをまともに食らうほど浅はかではない――ただ、この瞬間、意識が回らぬ絶妙のタイミングを突く、武蔵の熟練の眼力よ!
 刹那、足が止まり視界が塞がる。その一瞬の刻、この両者には永遠にも等しい。十兵衛はざっくりと斬られ、膝をつく。
「勝者、宮本武蔵!」
「草履1つ燃せぬようでは、修行が足らんでござるな」
 武蔵は淡々とそう吐き捨て、去っていった。

◆最終戦:白絹坂開祖 対 宮本武蔵
「来世人代表vsレジェンド剣豪か‥‥すごい事になったのう。よし、試合前にKIAIを入れてやろうぞ!」
 ヤームル・アイマーヴィは、マジックで『必勝祈願』と書いた手拭いを開祖に託す。
「これが気合か。ずいぶん雑な字だが‥‥」
「しかと見届けるゆえ頑張ってくるのじゃぞ!」
 ヤームルは、赤柴黒柴機巧と共にガッツポーズし、エイヤッと開祖を追い立てる。
「見届け、か。宜しく頼む」
 開祖は微笑んでそう言ったが――死を見届けられるのでは、と、本気で考えていた。宮本武蔵。勝ち目はあるのか。

 そして試合直前。
 武蔵と相対した開祖であったが、予想に反し、驚くほど迫力を感じなかった――先ほど、あれだけの試合を見ていたのにだ。
(掴みどころがまるで見えない‥‥が、相手の事が読めぬ以上、本能の赴く儘に天衣無縫に闘うのみ。迷うな。戦え。呵々大笑)
 そして試合が始まったが――武蔵は無構えのまま、一歩も動かず、
「‥‥おぬしらの妙技はどこから来るのだ?」
 ふいに、開祖に質問してきた。
「妙技? 魔法の事かな」
「魔法。然り」
「‥‥あなたがたは使わないのかな。魔法、法力。不思議な力を」
「異な事を申すものよ。己が身より出づる力を、なにゆえ不思議と捉えるでござる?」
 武蔵の言わんとしてる事はなんだろうか――わかるようなわからないような。だが、煙に巻くとか、動揺させるためではない、と開祖は感じた。
「少なくとも、大和人には使えない力。それは不思議な現象では?」
「大勢の者が使えぬ技、大衆の理解の及ばぬ業であれば、それがしも持っているでござる。剣を、いや、道を極めし者には、それは必然‥‥」
 道、か。開祖は考えた。もし魔法とか法力のたぐいが、長い年月を修行して獲得するものなら――俺達は少なくとも、そこをすっ飛ばして会得しているからこそ、不思議と感じるという事か?
「御前であった。無駄話はここまで‥‥参る」
 武蔵が無構えのまま、すたすたと歩み寄ってきた。開祖は一ノ太刀を成就させ、そして太刀を薙ぎ払った――だが気づいた時には、自分の脇腹が斬られていた。
(ばかな、まったく見えなかった‥‥どこへ?)
 思った直後、背中を斬られた。よろり、と振り向こうとしたところをさらに斬られた。
(ああ、やはりここまでか‥‥皆には感謝を‥‥)

「勝者、宮本武蔵!」
 大いなる歓声の中、伝説の剣豪は再び伝説を作り、そして来世人もまた、その歴史の一部となった。


 ――その後、優勝した武蔵が家光公と直に接見した際、こんな会話がかわされたという。
「来世人と手合わせし、どう感じた? その力量をどう見る、武蔵?」
「はっ‥‥その技術、鍛錬、あまりに未熟‥‥しかし、その秘めたる力量、恐るべしもの。この武蔵にも底が知れませぬ」
「つまり、正しく導けば、おぬしにも匹敵しうる、ということか?」
「‥‥そうなる事を、拙者は願っておりまする」


///


◆百鬼夜行というけれど
 時は変わって、7月13日!
 御前試合は江戸っ子の間で大きな話題のタネとなっていたが、それをも吹っ飛ばす事態が「ニーニーニーニーニー」あーうるさい!(きゅん)

「百鬼夜行、楽しみにしとったんやけどなぁ。河童さんも龍さんもおらへんの。ならとっとと帰ったろ思てんけど‥‥」
 いきなりやる気ナッシングの五木田 華だが、その袖を引っ張るのは――
「おおっ、おっさん来世人の先輩だよねだよねっ。やっぱ魔法とかすごいの使えんの? それで衆生ばしっと救っちゃうの? すっごいなあ!」
 山之本 惨華。ボーイッシュな娘が、キラキラした目で見上げており。
「なんやのこの子‥‥しかもおっさんて‥‥はぁ。人目のあるとこでは、妙なことできひんな。僕は慈善事業の担当とちゃうねんけどなぁ‥‥しゃあなしか」
 そう! すねこすりの大軍を前に、来世人は騒ぐしかない! 恒温動物に興味ゼロだからってサボっちゃダメだ!

「ずいぶんとふざけた雰囲気だが騙されねぇぜ、あの前兆と般若面の予言はマジだったからな」
 忍者装束の御剣 恭は早くもいくさの構えを見せる。
「今まで何事も無かったはずなのに、なぜ今年に限ってこんな騒ぎに? 各地に出現したうろの正体は?」
 こちらも忍者な莱堂 凌駕が頭をかかえると、軍ヘルに半頬という物々しい升田 千絵代が、その隙間から考え込むような顔を覗かせ。
「私ね、寛永寺の依頼に行ったんだけど、その時うろから出てきた幽霊は明らかに悪意を持っていたわ。すねこすりは本能的にこすりに来るけど、角ありが本能ではなく悪意を持って知性的に動いているのなら厄介ね」
「もしこのまま被害が広がれば‥‥預言の『阿鼻叫喚の風景』ってのはこれの事なのか? ‥‥って、悩むのはあと! まずはこの騒ぎを終わらせてから!」
 凌駕、パァンと自分の頬をはたき、異常事態へと向き直るのだった。

◆神輿だ山車だァ!
 と、いうワケで――準備していた来世人の皆さん、ついに立つ!

「主役はステージ? いえいえ あのようなところいつでも登れる。ワタクシ達の目的を忘れちゃいけませんわ! 賑やかに御輿と山車を運んで楽しんじゃう事ですわ!」
 でで~んとタンカを切るは、高杉 蘭子! 祭ハッピに呼子笛、肩に載せるはもちろん神輿の担ぎ棒!
「盛り上がらないと祭りになりませんのよ。すねこすりがついて来やすいように皆さんのおみ足お借りします。さあ、すね出していこう!」
 おおーっ! と答える蘭子サポーターの皆さん! すね出し、声出し、寄ってきたすねこすりはべしっと蹴り出す!
「脚線美ですねこすりを悩殺しつつ、賑やかにしてればいいんだよね? いっぱい食べて元気に声を張り上げていくよー! ‥‥でも、お神輿‥‥肩から浮いちゃうんだけどっ!」
 森住 ブナが背伸びしてピョンピョンすれば、蘭子はおほほと高笑いし。
「では、蔵人さまは皆さんの指示お願い」
「おうよっ、祭じゃ祭じゃっ。でっかいのもちびっこも、派手に賑やかになぁ!」
 先頭の神門 蔵人が豪快に言うと、ブナは「ちびっこ~!?」とぶーたれた。

 さーてこちらの山車もやかましい。
「オラオラ宴会だ、太鼓だァ! 飲んで歌って騒いで煽って食うッ!」
 大文字 渚。ゴキゲンな連中とグルになって、山車の上に太鼓をセットし、浮かれ騒いでいた――あ、もちろん、河童の姿で。
「人を叩くな、太鼓を叩け! ノッてきたら狂ったように連打してもいいぞ!」

「こいつは見事な‥‥百鬼夜行っていうか百猫夜行だな。さて、猫に対してこっちは柴犬神輿で盛り上げるぞ」
 由良 悠頼もまた、けっこうハデに改造というか装飾した神輿を担当していた。飼い犬のユオをモデルにしたキャラクター神輿で、来世人流の盛り上げを狙うのだ。
 そして、花織 ひとひらも、また。
「私達は黒柴の山車ですね。飼犬のコノハがモデルなんですよ」
 そう、こちらは山車だ。足元にいるコノハは、知ってか知らずかわんわんと浮かれている。山車のほうのコノハは、花も飾られ、なんとも可愛らしい。
 可愛らしい――といえば、ひとひら自身も、シバーな付け耳と付け尻尾をつけていて。
「そっ、そんなに見ないでもらえますか‥‥!」
「お、おう‥‥」
 悠頼は、照れるひとひらから視線を外しつつ、思った――だったらなぜ付けたし、と。
「それにしても力作だよねえ。柴犬提灯もきまってるし、着物の端切れを利用した造花もカラフルだし」
 相良 玲音の言を受け、悠頼は制作の苦労と、そして楽しさを振り返る――弟とのやりとり、あれこれ工夫したこと、思うようにいったりいかなかったり‥‥
「医療道具とかスピーカーとか、そのへんまでは準備できませんでしたね‥‥」
 ひとひらが残念そうに言う。そう、可愛いだけじゃなく、さまざまな事態に対応できるような、機能的な神輿や山車にしたかったのだが――道具や技術が不足気味で、残念ながら構想で終わってしまっていた。
「ま、仕方ねぇよ。誘導や治療は仲間に任せてさ‥‥ホラ、ぬいぐるみはとっつけられたし」
 悠頼が指さす、てっぺん飾りの柴犬に、ひとひらはふふっと微笑む。
「そうですね‥‥まずは一緒にお祭りを楽しみましょう。柴犬神輿と一緒にわっしょい、わいわいです!」
「そうだ、わっしょおい!」
 悠頼の掛け声に合わせ、でかい柴犬がぴょこんと跳ねた。

 ――そして、特設大ステージの山車では。
「ここを盛り上げておかないと、計画に支障がでるにょろよー!」
 田中 璃来がパンパンパーンと手を叩けば、大太鼓がデンデンデーン! 息を合わせる!
「行くぞ田中! 最初の演目は『阿修羅王エアバンド』だ!」
 その背後では秋月 ダリルが阿修羅王真言を成就させ、璃来の手が何本も増えたように演出しつつ! ‥‥しつつ、といいたいが、これは3秒で消えちゃうのだった。
「だあっ、あたしのハイパーギターベースドラムピアノムーブが‥‥!」
「じゃあここは――分身の術!」
 璃来は即席の3人バンドにすると。
「このまま力の限り伝説(自称)のタンバリン演奏を披露するのだよ! よく見るのだよ、これが未来の楽器演奏・あたしの魂の演奏にょろよー! ふははははー!」
 しゃかしゃかぱんぱんしゃかしゃかぱーん‥‥デンデンデーン! ぱふっ。
「ズコー! 今のぱふ、誰だー!?」
 璃来はうがーと周りを見やったが、渚がニシシと笑っているのには気づかなかった。

◆キング? を探せ!
 そんなふうに盛り上げ役が頑張るなか。
「まずあの中から角つきを探さなくては」
 鉄 亜怜は、神輿の進行方向とは逆――すなわちすねこすり大群の上流を見据えていた。
「すねこすりを誘導出来るって事は命令して攻撃させる事も出来るって事よね。早く見つけて対処しないと」
 千絵代の言に、恭もうなずき、語る。
「あの『うろ』は敵の出入り口か誘導灯と仮定して、角付きは指揮官あるいは暗殺や破壊工作など何らかの実行者か」
「せめて白か茶だけでも判れば絞りこみやすいんですが。手分けすればさらに見つけやすくなるでしょうか」
 亜怜がつぶやくと、遠田 きゆはつぶらなおめめのまま、ぶんぶんと首を振って。
「キングすねこすりはぶさかわデカにゃんこだと信じてる!」
「き、キング? ‥‥キングはさておき、デカければ見つけやすいのでしょうが‥‥強そうですね、それ」
 亜怜、救いを求めるように恭を見やる。
「ハッ、どんなヤバい敵が来ようと、全力で叩っ斬るだけだぜ!」
 恭が威勢よく言えば、きゆも「おー!」と手をあげ――と、そこで、ルジェ・カシスがきゆにキャンディを差し出し。
「先日は世話になった。せめて応援ぐらいはさせてくれ」
「ルジェさん‥‥うんっ、よーし、みんなにハグして出発だー!」
 きゆが仲間らにガンガンタックルしまくるなか、凌駕は早くも猿飛びの術で商家の屋根に飛び乗り、上からすねこすりの流れを凝視しつつ、仲間と並走するのだった。

◆野次馬やばいど
 そして町人達の被害も見過ごせない。
「すねこすりちゃんの可愛さに惹かれて自分から寄っていっちゃう人達がいるかも知れないですよね? 注意してあげないと!」
 服部 帆奈。清らかな瞳でそう言うが、後藤 閃也は、んんん? と首をひねり。
「この騒ぎの中でそんなの、よほどおめでたい人のような気も‥‥って、今の来世人もそうとうおめでたいっけ」
「はーいすねこすりはんに近づいたらあきまへんよ、ほら、みな向かう場所ありますえ邪魔したらかわいそうですよー」
 が、梅沢 瑠璃は聞いちゃいないし、
「あんまり近寄ると生気を吸われちゃいますから離れて下さいねー。可愛いけど。ぎゅーってしたいくらい可愛いですけど! 我慢、我慢ですよ!」
 帆奈も結局、聞いちゃいなかった。閃也、ポツーン。
「ま、助けて回るんならなんでもええやろ。僕も倒れとる人ぉを助け行こ。生命力奪ういうことは、元々の持病が悪化しとる可能性もあるし、こけた時にどこか打ってるかもわからん。離れたとこに引っ張ってって軽く診たらな」
 華、あれだけやる気ナッシングだった割には、困ってる人はほっとけないらしい。
「うん、僕も頑張るよ。さあみんな! 肩貸してあげて! どこか安全な神社仏閣にでも! お祭り中だけど急患です! あとギルドにも連絡し‥‥かはっ!?」
 いきなり吐血した閃也――病弱なので、無理できないのであった。
「大丈夫です? すね、こすこすされました? 可愛くても我慢ですよ!」
「こすられてないから、ノーこすこすだから、帆奈さん!」

 さて、神輿の隊列に視線を戻すと――ちょっと異様な一団が混じっている。
 鬼? 妖怪? その、ちょっと禍々しい一団を率いるのは――全身を赤くペイントした、源 太だ。
「神輿の誘導から漏れたすねこすりは、妖怪仮装行列で導く。うまくいくといいが」
 妙にストイックに語る赤鬼である。
「どう、だろう‥‥」
 答えたのは狐面をかぶった浴衣っ子、佐和山 珠季。仮装に参加しつつも、昆虫機巧を飛ばして空から『はぐれすねこすり』を見回していたが。
「あんまり‥‥よくない‥‥」
 そう、状況はかんばしいとは言えなかった。神輿らの機動は問題なく、すねこすりの群れに来世人が呑まれる事はなさそうだったが、はぐれすねこすりはチラホラ発生し、その対応に追いついているとはいえず。
「仕方ない。やれるだけやる。それだけだ」
 太は鬼のような顔で言って、羅刹のように拳を振り上げた。だがその内には、仏が宿っているのだ。

 その頃ひとひらは、柴犬神輿の上で旗を振っていたが――
「‥‥もうダメです、追いつきません!」
 旗振りは、はぐれすねこすり発生の合図であった。しかし、こうも頻繁に発生していては、もはや合図も不要なレベル。
「あひゃあああぁぁ‥‥」
 そらまた若い男がこすられて倒れた!
「チッ、だらしねえな――地蔵菩薩慈悲真言!」
 田中 愛鈴は被害者の体力を回復させつつ、必死にアッチ行けと誘導。ひとひらも神輿の上から拡声器で「離れてくださ~い!」と警告せざるをえない。
「こりゃ多少の実力行使は必要か‥‥柴犬じゃなく柴猫神輿じゃなきゃダメだったか?」
 悠頼の言に、ひとひらは「柴猫?」と首をかしげたがそれはさておき。
「とにかく総出で、はぐれ者の駆除と、町人の誘導そして治療しかないね」
 銀 煌人も必死に駆ける。まだ大参事とはいえないが、気を抜けばそうなりかねない――!

◆来世人もビックリのボス
 きゆはてってけ走っていた――バイクの後部搭乗者の背中にしがみついて行く、というムチャな方法でぶっ飛ばしたかったが、さすがにムチャすぎて止められたのだ(実行していれば早々に振り落とされていただろう)。
「仕方ない、ここは第六の猫センサーを頼りに‥‥あっち!」
 指差すきゆに、オイオイと恭が止める。
「闇雲に探してもダメだろ」
「えー?」
「祭り妨害・暗殺・何らかの破壊あるいは強奪を敵の作戦と仮定、その場合は指揮官が何処へ向かうかを予測して探すんだ‥‥普通なら隊列のケツだろうがよ」
「お尻が弱点かあ‥‥じゃーやっぱりあっちだね♪」
「いやさっきは真逆の方向指してたろアンタ」

 ――といった具合で、すねこすり隊列は刺激せぬよう、駆けながらも流れを凝視する来世人一行。
「すねコーン(有角すねこすり)は‥‥あれかな!」
 発見したのは黄金 來翠だった。猿飛びの術で屋根の上から、ナイスな視力で発見したのだ。仲間も來翠の指差す先を見、次々視認していく――ひたいにゴリッパな角を生やした、真っ黒なすねこすりを。ただし体長は50センチほどか。
「うわ~、思ってたよりかわいくな~い‥‥キングっぽさはあるけど。じゃとりあえず、道を開け~い!」
 きゆ、水龍神霊迎えノ舞を踊り、水流でドバシャーと強引に列を割る! ‥‥が、続々行進するすねこすりがすぐに隙間を埋めてしまい、モーセのようにはいかぬようで。
「なら、ここから一気に仕留めるのみよ。6枚の霊符をまとめてぶつけてくれるわ」
 テレーゼ・バルテュスがこう言って太上神仙秘法道術の印を結びだすや、
「荒っぽいですね。あまり刺激は強すぎない方がいいとは思いますが」
 鳴神 九龍も、そう言いながらも同じく攻撃用霊符を造り出し始める――しかし。
「ひええええっ!?」
 民衆からあがるすっとんきょうな悲鳴に、ふと2人が顔をあげれば‥‥2人とも、ぽかん。

「こりャまた‥‥すんげェのが出てきたモンだな」
 賀上 巴は変な苦笑いを浮かべるしかなかった。なにせそいつ、一角すねこすりは、なぜかみるみる――3メートルくらいの高さまで成長(?)したのだから。
「ウソだろ‥‥あれだけの群れを誘導するんだから複数いるかと予想してたのに‥‥まさかビッグだなんてよ」
 凌駕は屋根の上で、投網をかかえたままフリーズ中。足元の柴犬『壱』も、飼い主と一緒にフリージング。
「待て待て、冷静に考えろ‥‥一ノ太刀で横薙ぎし転倒‥‥倒れないよな‥‥角を狙って‥‥まあ届くか‥‥」
 恭でさえ、斬馬の大太刀を構えたまま、ちょっと動揺していた。無理もない。
「おいおい、歳なんだからあまり働かせるなよ。しぼんでくんないかな、スネちゃんよ」
 望月 栄一郎が肩をすくめると、田中 希架も「むりかなー‥‥」と肩をすくめ。
「うーん、そうだね‥‥狼煙(のろし)代わりに、水龍か吹雪か頭上に打ち上げとく‥‥? どかーんって‥‥」
「あげるまでもなくわかるわよ、あんだけデカければ」
 千絵代はすでに、キリキリと弓を絞っていた。そう、デカくなったならば群れから突出したということ。これなら逆に頭部を狙えいやすい。
 ――だが、その矢は外してしまう。キングすねこすりが、予想外の機動を見せたために。
 ぶわり。浮いたのだ。
「冗談でしょう‥‥ってこっち来ます!」
 亜怜は、一挙に迫る黒い巨塊に、思わず脇差を抜いて受けようとするが!
『ニーニーニーニー♪』
 デカブツ、なんと強引にモフモフ、こすってきた! これには亜怜も思わずズッコける――いや。
「こ、こいつ転ばせてきます! くそっ」
 脇差で反撃、ざくっ! するとどうだ、キングは‥‥怒った!
『ニ”~~ッ!』

◆みんなで振り絞って
 盛り上げが今ひとつ弱いのだろうか――山車ステージ上の璃来は、そんな不安を覚えるも。
「‥‥それでも、精一杯やるしかないっ! さあ、休まずいくよ、準備に手間取ると、ほら、しらけるしな!」
 合図を送る。音楽が鳴る。喋って喋って場を繋ぐ。
 そうして登場、水上 澄香。見せるは、人形チャンバラ!
「御前試合を思い出すくらい激しく。でも可愛く楽しく!」
 ぬいぐるみの機巧と、武士っぽい機巧がエイヤエイヤと打ち合い開始! 彼女は2体同時に操れるのだ。
「人手が足りないなら‥‥奥の手よ! 皆で歌って踊って、楽しくやりましょ」
 神宮寺 咲夜は町人の手を引いて、ステージに引き上げてしまう。で、ソイツがたまたまけっこー調子いいヤツで、さっそくヤンヤと踊り出す!
「豆次郎さんもお腹太鼓でリズム取って、みんなを楽しませてあげようね」
 澄香の豆狸も、ぽこぽん、ぽこぽんと頑張っているのだ――むろん、他の来世人も!

「さあ、もっと威勢よく、わっしょい!」
 蘭子は頼もしい仲間に囲まれ、いいカンジに神輿の列をさばいていた。
 すねこすり軍の先頭から、つかず離れず。それでも突出するヤツや、列を離れるはぐれ者は、太がすたこら向かっていって抱え上げてポーイと列へ投げ戻す。
「いい子でついてこい。はぐれたら蹴っ飛ばすぞ」
 そう毒づく太も、息があがってきている。
「あー忙しっな!」
 平口 工助も大鍋にすねこすりを押しこんで、運んでってポーイ。
「盛り上げが足りねえ? んじゃもっと気合入れるぜ! 祭だもんな! さ、全力で!」
 由良 紫苑も柴犬神輿の棒を肩に当てワッショイショイ。それでもついてこぬ不届きなすねこすりは、暁月 歌凛がせっせと町人の手を引いて助け。
「みなさんまとめて‥‥お元気で!」
 そこへひとひらが地蔵菩薩慈悲真言。ぐってりしてた人たちがふぃーと立ち上がる。しかし、夜はまだまだこれからだ。

「目指すは神社、百鬼夜行パレードの先導者は河童だァ!」
 渚は終始このテンション、仲間とつるんで、呑めや歌えやの大騒ぎ。
「よーしみんな出来上がってきたな? んじゃハンドマイクでカラオケ大会やるぜ! ハウリングなんざ気にするな! すねこすりに届け! 俺達の誠意! 一番、大文字渚! 行きまーす!」
 ピガガーっとノイジーな演歌が流れるのも、考えてみればお祭りっぽい。
「よーっしゃ桶1つ空けたぜ、いくぜケツ踊り、イェーイ!」
 不知火 焔羅はすでに野球拳の末に赤フン一丁なのだ! それを見たプリティ 松崎、やだーと大興奮!
「イイ男だらけじゃない。プリティハッピー! カラオケも漢らしくイっちゃうわ、贅沢言わずアカペラよ!」
 もう見苦しい聞き苦しい事このうえないドンチャン騒ぎ、篠倉 和馬も消火器ブシュパーとやりたい放題! それでもいいんだ、すねこすりはなんとかついてきてるぞ!

「さあ、お子さまは山車を引っ張って疲れたら休んでね‥‥え? ワタクシ輿に乗るの? 運ぶつもりでいましたので参ったな‥‥よござんす、ワタクシの美脚をすねこすりに見せつけてあげますわ。いきますわよ! いざ日枝神社へ!」
 蘭子が文字通り担ぎ上げられると、シリル・エヴェレットはますます必死に棒を支える。
「蘭子おねーちゃん、がんばって‥‥! 僕も膝だしていくよ!」

◆被害は収まらず
 巨大化した一角すねこすりの姿は、華にも見えていた。
「なんやのん、あれ。河童も巨大化したりなんか‥‥っとと、まぁだ流れてくるかいな」
 一時期、『はぐれ』の数は減ったものの、まだポロポロとあぶれて町人へとすり寄るヤツがいる。
「吹き飛ばしたらぁな、近寄らせへんで。氷付きゃ群れもよう進めんやろ」
 迎え撃つ、素戔嗚息吹迎えノ舞――吹雪をモロに浴びせる華、なりふり構ってはいられないし、恒温動物(?)に慈悲はない!
「発生する被害は最小限に、それが基本です。フォローしましょう」
 無価もその身で人々をかばい、忍者刀で牽制する。
「ええ、怪我をしないのが一番です。とはいえ、この状況では無理をするしかありませんが」
 佐藤 一郞も地蔵菩薩慈悲真言と医療知識でひた走る!
「いいですかーっ、あんなに可愛いからって、自分から近寄るような人は優先的に教育的指導をしますよーっ」
「帆奈、この状況ではあまりそういう人はでないでござろう‥‥」
 父の服部 ハンス正成は、娘を教育指導しつつも、大八車をガラガラ引いて怪我人をわっしょいわっしょい!
「よーし、力仕事はおじさんズにお願いして‥‥はぐれちゃんはこっちへおいで!」
 帆奈、楽しそうにブブゼラぶーぶー、するとはぐれたすねこすりが戻ってきた! やった!
「おー、帆奈さんやるねえ。じゃあ僕も‥‥あ、るるさんそっち持って」
 閃也はぜーはー言いながらも、永原 るると一緒に怪我人を運ぶのだった。

◆大ボスをやっつけろ!
「ぐわっ」
 どーん、と亜怜がふっとんだ。無理もない、あの巨体をぶつけられたのだから。
「角はかわせましたが‥‥気をつけてください!」
「望むところ。さーて、暴れるか!」
 服部 黎菜が手斧を振るう! 一ノ太刀と阿修羅王真言は、お互い時間が短すぎるせいで両立できなかったが、その手斧がズバズバっと刻まれる! 他の仲間も刀を、魔法を、矢を注ぐ!
 するとどうだ‥‥ボスの角が、ギラリと光った!
『ニ”~~!』
 なにか不思議な力が、周辺を駆け抜けた――直後、来世人に、いや人々に異変が!
「眠‥‥」
「Zzz‥‥」
 なんたることか、周囲の大勢の者が、続々と強烈な睡魔に冒される!
「こ、この‥‥倒されたって‥‥戦い続け‥‥ます‥‥」
 霧島 月詠は、身体を薙刀で支えようとしたが――かなわず、倒れこむ。
「ふあぁ‥‥Zzz」
 きゆも、ふら~と倒れ――かけて、山之本 惨斎に抱きとめられた。
「子守は何年ぶり、か‥‥ほれ、起きぃ」
 そう、来世人は一人じゃない。数人でもない。三十人近い仲間が巨大すねこすりと対峙しており、そのうち十名ほどが睡魔に襲われても、そばの者がすぐに揺すって起こさんとする!
「むにゃっ!? ‥‥う、すまん、俺としたことが‥‥」
 よろり、と立ち上がる凌駕。しかし巨大すねこすりは、再び――
『ニ~~‥‥ニ”ッ!?』
 と、その背に刺さる2本の矢!
「そうよ、こちらを向いて」
「千絵代さまがご挨拶なさりたいそうですから」
 藤 あきほ遠野 絃瑞は、発射後の弓を構えたまま、ボスを見据える。
『ニ”ニ”ニ”ッ!』
 ぶわ、と巨体が浮いた! 爛々と光る赤い眼――だが千絵代が狙うはそこではない!
「当たって‥‥!」
 しゅっ。与一ノ弓を成就させ、重籐弓の大業物を引き絞り、狙い、放たれた矢は――見事にすねコーンに命中!
『ニ”ギャッ!』
 ぱっきーん。角が折れた! しかし突進は止まらず、千絵代はその身体にはじかれる――が。
「平気よ、こんなの」
 その顔は、けっこうドヤ顔!
「今です!」
 獅堂 聖時が皆を見やる! 沖田 芽衣子はすでに薙刀を手に高速突進!
「覚悟しなさいキング。みんなの力見せてあげるんだから!」
 ざしゅっ。巨体が斬られ、悶える!
「ありがとう惨斎さん。きゆはきゆのできることを‥‥ユウくん、いくよ」
 きゆのクマー機巧が、火ノ秘伎法によって火を吹いた! 巨体が焼かれ、悶える!
 凌駕の大手斧が、千絵代の矢が、亜怜の妖刀が巨体をえぐる! 悶えさせる!
 恭も長大な刀をがっしり振りかぶり――思い切り叩きつける!
「いい加減倒れな、デカブツ!」
『ニ”~~~ッ!』
 ぶしゅう。血しぶきが出たかと思ったその直後、なんと巨大すねこすりがしゅうううんと縮みだし――
「‥‥ちっちゃくなっちゃった」
 きゆは、普通のすねこすりと同じ大きさまでしぼんだ真っ黒なすねこすりを、ぼーぜんと見下ろしていた。もはやそいつは‥‥動くことはなさそうだった。

◆目指せゴール
 混乱が続いていた百鬼夜行街道――それでも透哉はステージ上で、声を張り上げていた。
「俺は御前試合に出た! 武士も来世人もすげぇ強かった‥‥そうさ、強ぇ奴らが一杯いるから安心だ。心配ねぇから俺らに任せときな!」
 そうして木刀を振り上げると、潤賀 清十郎と向き合った。演武で強さを見せようというのだ。
 が、そこでかすかに、風向きの変化を感じる。透哉は皆を見る。
「‥‥どうかしたか?」
「はぐれが‥‥戻ってくるにょろ」
 璃来は、徐々に混乱が収まりつつある、というか、すねこすりの隊列が正常(?)になっていくのを見ていた。
「おうおう、なんでもボスを倒したみたいだぜーっ」
 渚がヒャッハーと叫びながら、受け取った式神(の手紙)を掲げた。
「それは吉報。でもお祭りは止めませんわよ、おっほほ。さあゴールまでもう少し、わっしょいわっしょい!」
 蘭子の掛け声で、神輿の列はスピードアップ――そんな皆と、律儀についてくる妖怪たちを見やりながら、清十郎は微笑んで言った。
「別の世界から来て祭楽しんで帰る。少し、羨ましいなぁ」
「おいおい、演武の途中だぜ!」
 透哉の木刀が、清十郎の頭をコツンとぶつと、沿道の人々が、あははと笑った。
 そして太は、鬼の格好のまま、きりりと顔をあげた。
「見えたぞ。日枝神社だ」

◆大山鳴動してすねこすりたっぷり
「ごるごるごるごるごる‥‥ごおおおおおおおおんるゥ!」
 渚が空の桶をぐんるぐんる回して宣言した通り、来世神輿衆は日枝神社境内へ到着! ゴール!
「見ろよ! みんな‥‥帰ってく‥‥のか?」
 透哉は、あぜんとした顔ですねこすりらを眺めた――境内に入るや、いくつかのうろを目指して散開し、ニーニーニーニーとそこへ飛び込んでいくではないか。
「これでおしまい‥‥でしょうか。はあ、疲れました」
 亜怜はぺたんと座りこむ。閃也も、今にもぶっ倒れそうな顔で、へたりこむと。
「はあ‥‥なんとかなったか‥‥大変だったけど‥‥死人は出てないらしいし‥‥」
「ええ、もう少し見て回らなきゃですけど‥‥やっぱりお祭りは楽しく、安全に、がいいですね‥‥!」
 ひとひらが閃也に水をやり、そして悠頼にもやり、悠頼はごくりと飲んで「よっしゃー!」と動き出す。
「私も、これ以上なにか起きてないか見てきましょう。朝を迎えるまで、気は抜けません」
 無価は大真面目に見回りにいった。きゆはその背中を見やると、仲間たちの方を向いて、言った。
「きゆはみんなのお陰でココに居られて、とっても幸せだよ」
「ええ‥‥みなさんのおかげですよね!」
 帆奈もにっこり笑うと、きゆとハイタッチした。そこで蘭子が一首献上。
「我らには 日傘はいらぬ 心意気 脛だし目指す 日枝の杜へ ‐蘭子‐」

 ――やがて大量のすねこすり達は、すっかりうろへと吸い込まれて消えた。怪我人等の被害状況もほぼ全容が掴めたが、あとは幕府に任せれば問題なさそうだという。
 それでも――うろはまだ、そこにあった。凌駕はじっくりと、油断なくそれを睨む。
「もう何も出ないといいけどよ‥‥角付き達を差し向けた黒幕がいるかもしれないからな」
「黒幕、か。結局、敵の作戦目的が見えねぇままだが‥‥人間の祭りを破壊ないし乗っ取るって線だったのか?」
 恭も憮然と腕を組む。太はそこで、しばし黙考すると。
「黒幕がいたかいないか。それさえはっきりしない。いたとして、デカブツが黒幕なのか、そうさせたのが黒幕なのか」
「‥‥何者かの法力とか? いやね、そんなのがいるとしたら」
 千絵代は愛用の弓を、ぎゅっと握り締めた。

 ‥‥やがて、夜が明けた。日枝神社や寛永寺、日本橋周辺では、被害を負ったり、その救助をしたり、夜通し家屋を直したり、あるいは単に浮かれ騒いでいた連中の多くが、ぐったりと倒れこんで、なかには死んだように眠っている者もいたという。

『次の戌の日に百鬼夜行が起こるであろう、誰にも止められはしない、私には見える、数千の人々が倒れこんでいる阿鼻叫喚の風景が、ふふふふふっ。お前らも皆、みんな、死ぬだけだ!』

「‥‥って予言ってコレかよ!?」
 凌駕はウオオと頭を抱えた。

◆謎は解決‥‥?
 それはさておき、結局のところ、あいつはなんだったのか。
 それについては後日、例の医王寺の和尚や、伝承の専門家の続報などにより、1つの推論が立てられた。
「――話によると、妖怪はもともと霊的な存在に近いもので、怪異の影響を受けやすいんだそうです。そもそも妖怪の存在自体が怪異ともいえますけど」
 狐弥は聞いた話を整理し、語る。
「つまり、お盆・百鬼夜行といった、まさに『地獄の釜の蓋が開く』かのような時節には、このような事が起こりうる、と。過去にそのような事もあった、という伝承もあるそうで」
「と、いう事は‥‥今後も起こるって事にょろ?」
 璃来の疑問に、狐弥は「当然」とうなずいたので、璃来はうへっと舌を出す。
「おかしな時節といえば、昨今の妖怪の活発化や、鬼の出現、そして俺達来世人の出現さえも考えれば、何が起こっても不思議ではないのやもしれないな」
 開祖の言に、さらに太が、
「これは今後の百鬼夜行も苦労しそうだな」
 などと真顔で言ったので、皆は笑っていいのかどうなのか、思わず顔を見合わせた――が、華だけは、宙空を眺めて、ぼそり。
「ほな、やっぱ河童も巨大化‥‥ワンチャンあるで」
「それ、チャンスなのかよ‥‥ってオイこっち見んな」
 渚は、きゆにキラ☆キラした目で見られてしまった。

 ‥‥なお、しぼんだ一角すねこすりの亡骸は、寛永寺にて供養され、境内のはずれに塚が立てられたという。そしてその頃には、あのうろは、姿を消していた。



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参加者

f.どんな敵が来ようと、叩っ斬るだけだぜ
御剣恭(ka00001)
Lv246 ♂ 30歳 武忍 来世 大衆
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d.鬼に扮する。神輿誘導から漏れたすねこすりを妖怪仮装行列で導くぞ。
源太(ka00049)
Lv172 ♂ 29歳 忍僧 来世 大衆
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c.酒だ女だ祭だワッショイ!山車で宴会開きながら神社目指すぜ!
大文字渚(ka00052)
Lv219 ♂ 19歳 武僧 来世 婆娑羅
サポート
e.避けたくても避けられない人や可愛さに目が眩んだ人達の対応をします。
服部帆奈(ka00058)
Lv238 ♀ 16歳 武忍 来世 質素
サポート
b.大ステージ出場者・お手伝いさんは、集合こっちらしいぞー。一緒にやろう!
田中璃来(ka00065)
Lv189 ♀ 21歳 武忍 来世 質素
サポート
f.いざキングすねこすり!カフェオレ海をふたつに割るべく、一緒に行こーっ☆
遠田きゆ(ka00206)
Lv329 ♀ 15歳 神傀 来世 異彩
サポート
z.誰も使わないなら、来世人的には飛び道具を見せるのもありかもなぁ…。
赤井狐弥(ka00215)
Lv203 ♂ 20歳 忍僧 来世 影
サポート
e.全力は尽くしましょう。私が言えるのはそれだけです。
高間無価(ka00336)
Lv276 ♂ 34歳 武忍 来世 質素
サポート
b.御前試合もだが、ステージでも盛り上げがっていこうぜ!
鈴城透哉(ka00401)
Lv220 ♂ 15歳 武僧 来世 傾奇
サポート
e.…しゃあないわ。転かされた民衆の、治療と護衛やな。
五木田華(ka00440)
Lv258 ♂ 21歳 神陰 来世 異彩
サポート
f.角つきを探して退治します。…と言うだけなら簡単なんですが、頑張ります。
鉄亜怜(ka00466)
Lv267 ♂ 21歳 武僧 来世 大衆
サポート
a.主役は皆さん!ワタクシは脇役!ホラみんな脛出して誘導しましょ!
高杉蘭子(ka00512)
Lv532 ♀ 20歳 武神 来世 婆娑羅
サポート
f.わっかんねー事だらけだが、最悪の事態を止める為に力を貸してくれ。
莱堂凌駕(ka00613)
Lv324 ♂ 17歳 忍僧 来世 大衆
サポート
e.僕は、すねこすりに触れられてしまった町の人を安全な場所に移動させよう。
後藤閃也(ka00825)
Lv184 ♂ 17歳 神陰 来世 異彩
サポート
f.ボスを狙うわ!手伝って頂けますか?
升田千絵代(ka00869)
Lv474 ♀ 25歳 武陰 来世 傾奇
サポート
z.仕合が始まるか……。さあ戦おうぞ。
白絹坂開祖(ka00935)
Lv231 ♂ 20歳 武傀 来世 婆娑羅
サポート
a.戌の日だしな、柴犬神輿で盛り上げるぞ。来世人流の神輿の披露といくか!
由良悠頼(ka00943)
Lv227 ♂ 17歳 陰忍 来世 大衆
サポート
c.皆さんよろしくお願いします!お祭りは楽しく、怪我はなく、がいいですね!
花織ひとひら(ka00978)
Lv248 ♀ 17歳 神僧 来世 異彩
サポート