【SH11】善光寺の戦い

担当 灯弥
出発2017/05/13
タイプ グランド S(Lv350以下) 冒険
結果 普通
MVP 暦紗月(ka01738)
MVS 霧原矢塚(ka00031)





オープニング

◆静寂の終わり
 大勧進の貫主、照元から話を聞きだした来世人達。
 鬼の目的であるらしい三体の御本尊――。
 三つに分けられたその場所を隠し続けるか、一つに纏め、安全な場所に移送させるか、その協議を行う為、ギルドと善光寺で会議が開かれる事となった。
「なるべく早い方がイイネ。明日の朝にでも都合を付けて、早急に動く必要があるネ」
 善光寺の警護を強化しつつ、来る時に向け存分に体力を温存しておくようにとパオロが続ける。

登場キャラ

リプレイ

◆善光寺を守れ
「さーて、おいでなすったな」
 迫る鬼の群れに、にっと口角を上げたのは不知火 焔羅だ。
「真琴っちの仇はとってやっから無理すんなよ! バトルロイヤルならお手のもんだぜ」
「悲願の武田の埋蔵金探しも、ここで負けたら打ち切りになりかねないぜ。みんな、お宝の為に頑張ろう!!」
 私利私欲丸出しのミア・カイザーだったが、その目には好戦的な色がありありと浮かんでいる。
「人の世の生き血を啜り、不埒な悪行三昧の醜い浮世の鬼を、切り捨ててやろうじゃねーか烏合の軍団てね」
「アハハハハ、烏合の軍団て、否定できない立場が哀しい」
 土方 萌田中 カナタらがミアの指揮のもと、戦場へと踊り出た。
「ガアアアッ!」
「あらあら、活きの良い鬼ちゃんねん」
 自らに三蔵念占術を付与したマッスル・オネェは、アサルトライフルを構え、目標を狙う。
「行きます!」
 鈴鹿 恵子々が金剛力士真言を唱えれば、彼女の身体がマッチョになったような幻影を纏う。
 オネェの魔法の加護を受けながら、恵子々は手近な鬼に拳を振るった。
「……良いようにしてやられましたね。照元様の機転が無ければ完全に負けていた所です」
 藤枝 梅花。自他共に認める腹黒――じゃなかった、切れ者の彼女でも、此度の華蓮の策は見抜く事が出来なかった。
 間一髪で首が繋がったのは、来世人らの手柄ではない。
「このままではやらせませんよ!」
 敵は膨大――ならば、攻めるだけでは勝てはしない。
「……鬼に欺かれ今また鬼に襲われるみんなの不安はいかばかりか……」
 潤賀 清十郎は、静かに舞い始める。
 唸り声をあげる鬼達へ向かい、凍て付く吹雪を与える為に。
(そんな人らを少しでも安心させられる様、聞こえる戦の音が恐ろしくないものとできたら――)
 大軍の鬼の中、総大将の姿は未だ見当たらない。
 タイプ的に、真っ先に斬り込んで来そうなものだが。
「……何でこんなに鬼がわらわらと。――これも封印が解けたせいなら早く〆直してほしい……」
 ぶつぶつと呟き、苦い顔をする小冷 煌尚は、土遁ノ術を使い地中へと潜り込む。
「その為にも像は死守……」
「頼もしいわ、煌尚君」
 清十郎の召喚した吹雪が、鬼達へ向かい放たれる。
「グオオオオオオ!!!!」
「……」
 数は減る気配はない。
 戦いは、まだまだ始まったばかりなのだ。
「皆の祈りが込められた場所ですから……必ず守りましょう……!」
 花織 ひとひらが舞うのは、榊樹女ノ舞だ。
 味方に加護を与えるその舞は、戦場へと駆けていく仲間達へ届けられた。
「ひとひらに鬼どもの攻撃が向かないようにするのじゃ! 行くぞえ、ゴンスケ、ぶっさん!」
 鬼からの攻撃の囮に機巧を放つヤームル・アイマーヴィ
「しばわんだふる!」
 お馴染みのゴンスケが、牙を剥く鬼へと襲いかかった。
「ほら、こっちよ!」
 希有亭 波新が分身ノ術を使用し飛び回り、閃光を放つ忍び玉を投げ、鬼の牽制を行う。
「こちらが落とされる訳にはいかんのでな。散々コケにしてくれた報いは奴らの命を以て清算させてもらう。――九郎、行くぞ」
 海動 涼の声に応えたのは、遠前 九郎だった。
「おう、涼兄さん、遅れんなよ!」
(人質は救えなかったし、俺も殺されかけたからこそ、この借りは返さねェと俺の気が済まねェんだよ!)
 この持ち場を守り抜く。それこそが、何よりの『借り』の返礼であると、彼は銃を構える。
「御託はいらねぇ、死にてぇやつからかかってきなァ!」
 次から次へ襲い来る鬼達を拳一つで投げ倒していく焔羅。
 血気盛んな鬼と言えども、己よりか弱いと認識していた人間に関節技をかけられる事は予想外だったようだ。
「いまの俺、鬼キラーだからマジで。この褌もすごいでしょー!」
 しかもそれが不自然に肌をきらめかせた褌男という事実――。
「ゴァ……」
 忘れられない光景を目に焼き付けたまま、叩き込まれる漆黒ノ掌コンボである。
「鬼の屍の中に一人立つ……ラスト・マン・スタンディングってやつだぜ? ――絵になるだろ? 惚れてもいいのよォ?」
「それは全部倒し終えてからな。ほら、次来るぞ」
「あいよっ」
 冷静に引き金を絞る久世 璃音の銃声が響き渡る。
(数が多いな……)
 清十郎は、背後の仲間らを守るように、立ち位置を変えながら戦闘の補助に当たっていた。
「鬼が交わす言葉を人を騙し陥れる事に使う存在だとしても……」
 女鬼将、華蓮――否、直虎だったか。
 彼女の目的が何であれ、自分の役割は何一つ変わらない。
「騙された人の心折らせず、また誰かを信じられるだけの時と心の余裕与えられる様――必ず守り切ってみせる」
 この手勢の先にいる鬼直政は、二度の戦いにおいても倒す事の出来なかった強敵だ。
「負傷した方を癒します! こちらへ!」
 ひとひらは、自身の危険も顧みず前へ出て、地蔵菩薩慈悲真言を唱える。
 誰一人欠けず、鬼の野望を阻止する為に。
 鬼将直政は、ここで何としても倒さなければならない。

◆鬼との攻防
「必要なものがあれば言ってくれ」
 本殿を守る来世人らの元には、負傷して戦えぬ者も運ばれてくる。
 日参 風雅はそんな彼らの手助けにあたっていた。
 傷付いた僧兵や来世人の姿を見て不安な顔をする尼や僧達に、にっと笑顔を向けるのは莱堂 凌駕だった。
 決して楽観視出来る戦況ではない――けれど、その表情にそんな焦りは微塵も滲んでいなかった。
「大丈夫だ。少なくとも今ここには俺達来世人がいる。安心しな!」
 非戦闘員の保護に最も気を払っていたのは、この彼であった。
 華蓮……直虎は、恐らく地下の存在は知らないだろう。
 その一方で、寺の作りは熟知している。
(秘仏を確保しようとしたら誰かを人質に差し出させる手段を取るだろうな……)
 ありきたりな方法ではあるが、そうなってしまえば、自分達は動く事が出来ないだろう。
「スパイが直虎だけだったとは正直思えません」
(……私ならば、他にも部下を潜り込ませ、自分が正体を明かした後も潜り込ませたままにして、油断した敵をたたきますかね)
 敵は邪道。ならば当然そちらも警戒すべきだと、梅花は密やかに仲間らと、照元に策を伝えていた。
 避難させた尼達に、像の隠し場所は囮である事を故意に噂として流し、少数の来世人らだけで像の守りにあたること。
「これで混乱してくれれば御の字です☆」
 次に出し抜かれる事は、即ちこちらの敗北を意味している。
 打てる手は全て打つべきだ。
「こっちはお任せ、だよ」
 善光寺の裏庭――。あえて何もない、この場所の土中に、像を隠した。
 敵の目的であろうこの阿弥陀如来像には、霧ヶ峰 えあ子が結界を張り、遠距離からの術の対策を行っている。
 あまりにも大勢の手勢を割けば、ここに像がある事は明白になってしまう為、つく警備は最低限にせざるを得ない。
「大丈夫や、もしここに鬼が来ても、掘り起こすには時間がかかるし、そもそも埋まってる事も最低限の人間しか知らへん。……その間に、仲間を呼んで来たらいいだけや」
 像を地中に安置する事を提案したのはモーラ・ズメウだった。
 初めは土遁ノ術を使おうと思ったが、地中で装備品を手放す際の危険を案じ、掘って埋める事になった。
「……皆大丈夫かな」
 辺りからは、激しい戦闘の音が聞こえて来る。
 加勢に行きたい気はあるが、今はここを守る事が最優先だ。
 もしもこの場所が露呈した時は、身体を張ってでも像を守らなければいけない。
 ふう、と一度深呼吸をしたえあ子は、気を引き締め、しっかりと武器を握り直したのだった。
「――ここなら、見渡せるかな」
 寺の屋根に登った凌駕は、周囲からの奇襲に備え、視界の確保にあたっていた。
「これ以上の被害は出させねぇ。……絶対、守ってみせる」
「最終防衛線を守るってことよね。 一人でカッコつけないでよね…別に心配とかしてないけど!」
 その肩を叩いたのは、神宮寺 咲夜だった。
「一緒に守り切りましょ。終わったら美味しいあんみつでも奢ってもらうわ」
 軽く言う彼女の言葉に、初めて自分が、気負いすぎていた事に気付く。
 ふっと笑った凌駕は、いつもの調子でふっと笑顔を返したのだった。
「わたし、華蓮さんの為に善光寺を護ります」
 藤枝菫花 は、寺の上空を飛び、四方の警戒にあたっていた。
 言葉を交わした、彼女の知る華蓮という人物は、ただただ優しい女性であった。
(……始めから鬼だったのか、途中で入れ替わったのか解らないけど――わたしの知ってる華蓮さんはいつも御寺を守ろうとしてたから…)
 胸中で彼女を思う菫花の目が、不意に人外の姿を捕え、慌てて顔を上げる。
「あ、あのっ……、鬼が、裏側から……来ます!」
 声を張るのは得意ではないが、そんな事は言ってられない。
 頭がクラクラと揺れるのを感じながら、彼女は仲間らへ警戒を呼びかけた。
「うわぁ、俺、ひょっとして死ぬんじゃねぇか? こんなとこ来て大丈夫か?」
 前線を抜け、真っ直ぐにこちらへ向かう鬼達の姿に、筒井 蔵之介は思わず一歩後ずさる。
 しかし、その背後には戦えぬ者達が多くいる寺がある。
「でもよ、ここ守らねえといけないわけよ。俺も男だからな」
 下がるわけにはいかない。地を踏み締め、アサルトライフルを構え鬼を狙う。
「マゴちゃん、ちょっと隠れててくれ。いたっつあん、頼む協力してくれ」
 蔵之介の言葉に、鎌鼬のいたっつあんが合点と言わんばかりに前へ出た。
「仕掛けておいたトラップが役に立ちそうね」
「はーい、皆、がんばれ☆ がんばれ☆」
 白波 双翼朱凰 魅衣奈も、鬼を迎え撃つべく外へと飛び出した。
「来世人、莱堂凌駕だ! 見知っとけ!」
 猿飛ノ術で急行した凌駕も駆け付け、こちらでも戦闘が始まった。

◆大峰城へ
 時は少し前に遡る。
 以前取り逃がした安見児と残党の鬼達が大峰城に潜伏しているとの報を受けた来世人の一部隊が、そちらへと向かっていた。
 最も警戒すべきは直政の軍勢である事はわかっている。
 けれど、そちらを放っておけば、それが敗北の綻びになりかねない事を、来世人らは知っていた。
「なんで安見児は富士ノ塔砦から大峰城に配置転換したんだろうね。直虎が無傷の大峰城にいた方がいいのに……」
 大峰城を目指す越中 団次郎は、ぽつりと呟いては眉間に皺を寄せる。
(安見児は、浄天眼で善光寺で秘仏の場所を探り、伝心で直虎や直政と連絡を取り合うアンテナの役わりしてるのかもしれないね)
 どちらにせよ、後詰をさせる訳にはいかない。
 背後を鬼に取られた状態で戦う事は、精神面でも恐ろしい負荷になるだろう。
「……危なくなったら皆逃げてくれ」
 ふと、団次郎は並び立つ仲間らへ声をかける。
 自分は、以前あの鬼にとられた人質を救えなかった。
 あの女を倒す理由がある。
「鬼将と比べたら此処に人数も割けない、事情も回復も臨めない。危なくなったら、皆逃げてくれ。皆に渡した爆弾で陽動をしてくれたら、僕が命にかけてもあの女を倒すよ」
「なーに言ってんだよ」
 彼の言葉に苦笑したのは渋川 香だった。
「各方の爆弾で陽動し、こちらが大軍だと錯覚させ混乱させたところを討つ。敵は残党兵ばかりだ。勝算は高いだろう」
 グレン・ギーガーが続け、香は頷く。
「そうそう、万一危なくなったら全員で逃げればいいけど……一番は全員で帰る事を考えないとな」
 力強い仲間らの言葉に、団次郎は素直に頭を下げたのだった。
 大峰城はさほど大きくない城だった。
 羽柴 司真神河 絶斗の手も借りて、団次郎の策である爆弾を多数に渡り仕掛けた。
 一斉に爆発が巻き起こり、場内から混乱した鬼達が飛び出してくる。
「な、なんだ!? 何が起こった!?」
「敵襲だ! 来世人どもに違いない!」
 姿を消した団次郎は、ざわめきたつ彼らの隣を抜け、城の奥へと駆けて行く。
 あの鬼の性質は解っている。必ず、安全地帯にいるはずだ。
「ちょっと! 持ち場を離れるんじゃない! くそっ、役立たずともが!」
 耳を覆うほどの爆発音に、元より烏合の衆であった鬼勢達は、侵入者を探し検討外れの入り口の方に向かっていく。
 苛々と舌を打つ女呪鬼だったが、自分もいつまでもここにいる訳にはいかぬと、戦況の把握に努めていた。
「……あれが安見児か」
 陽動隊とは別行動で侵入していた富士 影百は、神代の蓑を纏い、姿を消した状態で暗躍していた。
 城の天守にいる女鬼を見止めた彼女は、慎重に射程内まで接近を図った。
「――ッ! くっ、来世人か!?」
 角に狙いを定めた弓の一撃は、安見児の角を掠め、逸れてしまう。
 突然の奇襲に焦る安見児は、混乱しながらも状況を理解したようだった。
 月読命ノ舞を舞おうとする女鬼であったが、影百は神楽法の弱点を熟知していた。
 舞う時間と発動までにはタイムラグがある。その間に猿飛ノ術で一気に距離を置き、射程外まで移動する影百。
(近くにいると、舞の効果に巻き込まれる――)
 敵の軍勢に対し、こちらは少数。
 如何に戦況を有利に、こちらがダメージを負わずに戦えるかが肝になるだろう。
 そして、その考えは、遅れて駆け付けた団次郎も持っていた考えだった。
「ぎゃ、あぁっ!」
 神楽法の弱点は、もう一つある。
 強力である反面、舞う間は無防備になってしまうという点だ。
 鬼の姿を見た瞬間に動いた団次郎の鎖鎌によって、安見児の身体を拘束する。
「軍勢対六だと絶望的だけど、――、一対六なら、こちらに分があるかもしれないな」
 忌々しげに見上げられる安見児の元には、潜入していた全ての来世人が集おうとしていた。

◆VS直政
 戦場の、敵の進行ルートに爆発が巻き起こる。
「まっすぐ攻めて来るって聞いてたけど、本当にまっすぐ来るんだなー」
 吉弘 龍重の仕掛けた地雷だった。
 直政の姿を見止めた彼は、魔法を付与し、戦闘準備に入る。
「部下がいますね……」
 様々な鬼の軍勢の中でも、直政の巨体は目を惹くものがある。
 先ずはあの部下から直政を切り離す必要があると判断した藤枝 桜花が、直政の軍勢の前に躍り出た。
「今日は死ぬまで殴りますよ」
「なにっ!?」
 どちらが死ぬとは言ってないのがポイントであるが――、直政は思いの外あっさりと反応を返して来た。
「手下じゃなく、貴方自身と戦いたいのですが。どうでしょう?」
「ふっ、ふはははは! いいだろぉおおう!! 全員皆殺しにしてやるぁあああ!!!」
 こちらの思惑通り、部下を善光寺へと向かわせた直政は、一人来世人らと対峙する。
「いいのかぁ? あっちのお仲間が不利になるんじゃないか?」
「構いません。あちらにはあちらの仕事がありますから」
 淡々と告げる桜花の言葉に、直政がげらげらと笑う。
 それは余裕か見くびりか――何にせよ、言葉通り、死ぬまで殴るだけだ。
「行きます」
 漆黒ノ炎を纏わせた桜花が、直政の巨体に飛びかかる。
「ぬぅん!」
「こんにちは、天下無双予定の吉弘 龍重だ。一つお相手して――貰うぜっ」
 続けて右方向から直政に向け一閃された太刀は、その巨躯を割るほどの威力はない。
 けれど、太刀の主、龍重の口元は楽しげに吊り上がっていた。
「ぐっ」
 蝿を叩くように返された太い腕に、身体は容易く舞い、地に叩き付けられる。
 すぐに起き上がり、また太刀を構える彼の心は弾んでいた。
 死闘であればある程、そう感じてしまうのはきっと己の性だろう。
(時に、ぶらりと命を投げ出すぐらいでちょうどいいのさ、男ってのはな)
 相手にとって不足なし。
 再度踏み込む足に、迷いは一切なかった。
「猩々欲しい人は付与しちゃるけん、しっかりやりぃや!」
 鏑木 奈々の猩々ノ舞によって、仲間らの装備が猩々非色に染まる。
 前線に飛び込む仲間を中心に、援護の魔法を続けて唱える。
「あんのクソ坊主のメンタルズタズタに引き裂いちゃるわい」
 上空に飛んだ小鳥遊 彩霞が、奈々の支援を受け、ライフルを構える。
 見た目通り恐ろしくタフであろう直政の身体は、受けたダメージをすぐさま癒えていってしまう。
(弱点があるとすれば、あの性質――)
 その強靭な身体故にか、それとも本来の性格故か、直政は前線で戦う事を好むようだった。
 来世人を脅威と見做していないのか、防御らしい防御はとらず、肉体一つで戦いに挑んでいる。
「とにかく粘るのみよ! 頼むぞ、紗月!」
「はいよ」
 地上にて、頷いた暦 紗月は、直政に向けとゐ波占術を送り込む。
 精神を削るその魔法を続けていけば、直政の精神的耐久力を削る事もできる筈だ。
「今度もしっかり守ってや」
 彼女の言葉に、毒島 右京と奈々から泰山府を貼って貰った薬師寺 勢司が、紗月の壁になるべく前へ出る。
「無茶は禁物じゃぞ」
 巡 鈴音は、周囲の味方の回復に専念していた。
 彼女の指示に従うコノハズクが、上空からも回復術をとばす。
「さて、地道な嫌がらせをするとするかのう」
 荒戸 美乃は、猿飛ノ術と分身ノ術を併用し、直政の死角からの攻撃を繰り返す。
 致命的なダメージは与えられずとも、四方から与えられるダメージは決して無意味ではないはずだ。
「こざかしぃいいい!!」
「わっ、あぶな……!」
 直政の拳が、美乃の胸元を貫通する――。
 分身であった為、大事には至らなかったものの、あの威力をじかに受けたらと思うとぞっとする。
 だが、それで引きさがるわけにはいかなかった。
「直政様、ママのスカートの陰から出る準備は出来ましたか? どうせ戦うしか能がないのでしょう。自分の思うまま振る舞ったらいかがです」
 直政の狙いを散らす為の根子 ナラの挑発は、思いも寄らず効果を示す事となる。
「な、な、なんだとぉおおおおおお!! 今何つったぁああああ!?」
「ひぇっ! さ、作戦成功です!」
 鋼のような拳が地面を叩く。
 力任せなその攻撃は、ただただ凄まじい破壊力を周囲に見せつけた。
(打たれ弱い自分が行って大丈夫なものかと迷ったけど……バカ高い直政の体力を少しでも多く削れれば、戦いの流れも変わるはず)
 相葉 楡は、状況を冷静に見極めていた。
(幸い手の内は来世人以外では三枝さんに見せただけで、敵で見たやつは皆、殺せてるはず)
 仲間達が、総出で直政の防御を削りにいっている。
 ならば自分は、他方面から攻めるべきだろう。
 じっと戦況を見極める彼の後方では、空木 椋が静かに怒りの炎を猛らせていた。
「前回は随分やられてしまいましたが、直政さん。あなた方が遊びで殺した命のツケ、払って頂きます」
 護る事ができなかった、命の炎。
 大層な理由もなく、ほんの気まぐれ。ただそれだけで。
「絶対に、赦しません」
 椋に出来る事は、仲間が一秒でも長く戦地で戦えるようにサポートするだけだ。
 だが、それこそが、この巨躯の鬼を倒す、一番の戦の要である事も、椋は理解している。
「ヤーッ!」
 山之本 惨斎が、巨大剣を振るい直政に斬りかかる。
 攻撃こそは最大の防御である。こちらの回復手に傷一つ付けぬよう、身体を使い、鬼を止める。
「行くのです!」
 巨大化させた機巧を操作し、藤枝 杏花が直政の動きの妨害に回る。
 アイナ・ルーラ蓮美 イヴらは別方面から飛びかかり、直政の気を逸らしつつも、ダメージを重ねて行く。
「ミスト殿、これを!」
 富栄弩院 頼伝は、ミスト・カイザーに向け流玄の力を送り、彼の支援に回った。
「皆、かたじけない」
 長巻で牽制を行うミストには、直政の角を折るだけの力はない。
 だが、角を狙う仲間らの助けは行える。
「消極的な攻めに始終する気は無い」
 丸太のような片腕を狙い槍を突き上げると、直政が痛みに吼える。
「ちょろちょろちょろちょろうざったいんじゃああ!!」
 直政の一撃は、恐ろしい威力をしていた。
 だが、敵は一体――紗月の攻撃も、確実に直政の精神を削っていた。
「今じゃわ……!」
 奈々の成就した呪禁道術が、直政の鬼ノ体を打ち消す。
 急に回復をやめたその巨体に、紗月は術が効いた事を確信した。
「攻撃を!」
 彼女の声に応じた来世人らは、一斉に巨鬼へ攻撃を放った。
「がっ!? ば、ばかな――」
「効果あり、ですね」
 鬼ノ体を失っている今ならば、それ以外の攻撃も通る筈だ。
 恐らく紗月の術がなければ、この強靭な鬼を倒す事は不可能だっただろう。
「覚悟しな!」
 傷だらけになっていた桜花と龍重の振り翳した刃が、直政の巨体を貫き、追い打ちに矢や槍が突き刺さる。
「ぐ、……ッ、くそ……!」
 それでも、直政は戦う事をやめなかった。
 太い両腕を振るい、来世人らを滅そうと攻撃を繰り返す。
「不覚ゥ……すまぬぅ。オフクロォ……」
 どう、と直政が倒れる時には、大地は真赤な鮮血に染まっていた。

◆富士ノ塔砦
 鬼の砦、富士ノ塔――。
 敵将直虎を討つべく、来世人達は部隊を分け、この砦を目指していた。
「……良いようにしてくれたけどここからは私達のターンね」
 潜入は忍びの十八番だと、クリスタル・カイザーが前へ出る。
 恐らくこの砦にも、鬼の部隊が待ち構えている。
「直虎との戦闘まで、主力部隊の力は温存させたいわ。ここは忍びの本領発揮と行きましょう」
「なるほど、潜入工作というわけですね」
 赤井 狐弥が出した提案も、クリスタルと同じく正面突破は避け、罠を仕掛けるというものだった。
「進軍の方向と……退却方向の門があるなら、そこに地雷を仕掛けたいと思っています」
「なら、進軍の前に潜入で決まりね」
 道が拓けるまでは、戦闘部隊には身を潜めていて欲しいと続けるクリスタルに、霧原 矢塚が協力を申し出る。
「式神飛ばして様子を探ってくるよ。忍び込める場所とか、解るとやりやすいだろ」
「ええ、そうね。心強いわ」
「火薬弾頭持ってきたから、派手にぶっ潰そうぜ?」
 にやりと笑みを深める矢塚とクリスタル、そして狐弥が密やかに散る。
「いやー、全く頼もしっなヤズゥン。俺達も負けてられねぇ」
 仲間らの背を見送る平口 工助は、共に向かうヤズゥン・ディガに向け、好戦的な笑みを浮かべた。
「ただ倒すだけじゃない、こちらの存在に気付かれる前に直虎の居場所を探さないと」
「おうよ。俺らは俺らで、直虎への道、切り拓っか」
 ヤズゥンの式神を利用して鬼との遭遇を避ける作戦を取った工助らは、待機する仲間らへ一度手を振り、砦へと向かう。
「『逆転』……。何かはわからねぇけど、みんなが長い時かけて守ってきたものをめちゃくちゃにするものなんだろう」
 人を欺き、奪い、嘲笑う女鬼、直虎――。
 許す訳にはいかない、と拳を握るのは鈴城 透哉だった。
「そんな事絶対許す訳にはいかねぇ!」
 一刻して、砦の正門が爆発する。潜入犯の合図であるそれに、透哉を初めとする来世人らは一気に飛び出した。
「以前来た時は全然役に立てなかった……。今回は、きっと!」
 水上 澄香は、昆虫を使い、空から砦の配置を仲間らへ伝える。
「皆さんを、守ります! どうかご無事で!」
「サンキュ!」
 正門に飛び込んだ透哉は、動転する鬼の姿を確認し、撹乱が成功した事を確信した。
 どん、どん、と続け様に爆発が起こり、視界の向こうに火の手が上がるのが見える。
「て、てめぇ……! 何してやがる!」
「あら、見付かっちゃった」
 あちこちで火事を起こす特務班の中、クリスタルは悪びれもせず忍者刀を抜き放つ。
 敵が多ければ脱出も考えていたが、目の前にいる鬼は一体。ならば。
「ここで一体でも多く倒しておくのもありよね」
「ガアッ!」
 あちこちで始まる鬼との戦闘の中、工助とヤズゥンは戦闘を避けながら、正確に砦内を進んでいた。
 闇雲に仲間を進ませるだけでは全滅の危険もある。
 目的は直虎の位置――ただ一つだった。
「定石だと高いとこにいっ気がすんだけっなぁ」
 時に隠れ、時に退路となりそうな出入り口を塞ぎながら進む二人は、砦の奥――明らかに鬼の手勢が多く守る扉を発見した。
 この騒ぎにも外に出ないところを見ると、彼らが守るものこそ、この砦の総大将、即ち、自分達の目的だろうことを確信する。
「ヤズゥン、式神で皆に連絡頼っぜ」
 そう告げた工助は、一反木綿を従え、鬼達の元へと飛び出していった。
「おら、来世人はこっちだぜ!」
 溢田 純子の援護を受けた透哉が、鬼の角を狙い太刀を叩き込む。
「グァアアア!!」
「これ以上鬼に人を苦しめる真似させる訳にはいかないわ!」
 終わりなく思える戦いに、純子が苦しげに息を吐いた。
 撹乱させているとはいえ、鬼の数は自分達より多い。
「ここは俺達に任せて、先に行け!」
 囮を引き受けた透哉は、仲間達へと叫ぶ。
 ここはただの通過点だ。
 この先にいる直虎を倒せなければ、この戦いは負けも同然である。
「背中狙わせる真似は絶対させねぇ!」
 騒げば騒ぐほど、鬼達は集まってくるだろう。
 それは即ち、直虎の手勢が減るという事だ。
 襲いかかる鬼の一撃に一瞬だけ顔を顰めた透哉だったが、返しざまに太刀を薙いで、にっと笑った。
「だから、鬼どもも儀式もぶっ潰して帰って来いよ!」

◆直虎との戦い
「もう、……頼りない子たちね」
 砦を突破されたとの報を受けた直虎は、苛立ちに舌を打った。
 そこに、現れる来世人達。
「あらあら、華蓮様――ではありませんでしたわね。直虎様?」
 高杉 蘭子の姿に、直虎が余裕めいた笑みを返す。
「あら、間抜けな来世人様。人のねぐらに大勢で……随分とご無礼ですのね?」
「ごめんあそばせ? 無作法者でございまして……。それより、その履物と鎧素敵ですわね。きっと私に似合うと思います」
「……」
「貴女を倒してひんむきます」
 大太刀を抜き放った蘭子に、直虎が不敵な笑みを浮かべる。
「あの、無茶されるのは承知してますけど、途中で力尽きないでくださいね! 倒れる時は一匹でも多く道連れにですよ!!」
 アステ・カイザーの除傷形代道術の符を受け、蘭子は太刀を交わしながら笑う。
「あら、手厳しいですわね。――承知致しましたわ」
「防御はこっちに任せて、思い切りやりな」
 打刀を構える村正 一刀が、蘭子の背後へと立ち、死角を補う。
「私も微力ながら助太刀を。蘭子さん、お任せ下さいね」
 爆弾鼠に爆弾を構え、爆発する気満々の富島 沙織の支援も受け、蘭子は直虎に向き直った。
「ったく、味方の振りしたり罠にかけたり、散々私たちを翻弄させやがりましたね、エエッ! このファック女鬼が!」
 凄まじい剣幕で直虎に迫るのはシャムロック・ルブランだ。
「おい、前に出過ぎるなよ」
 たしなめながらも、彼女の動きに合わせ、術を成就する剣崎 龍兵
「私も、お役に立ちます~」
 姉の役に立ちたい一心で、チェルシー・ルブランは神楽舞を舞う。
「我々マシュマロ団が貴方の乳が偽物だと暴いて差し上げます! 私の本物の胸に偽乳が敵うわけありません」
 角を狙う蘭子に、忌々しげに直虎が表情を歪める。
「何をわけのわからない事を……!」
「思えば貴女を助けたあの時――見抜けずまんまと善光寺に招き入れた私に責任があるわね」
 一反木綿に跨った升田 千絵代は、蘭子らと対峙する直虎に向け、弓を構える。
「でも直政と闘って貴女の事が解った気がする。……ずっと隠れてたのは直正より耐久に自信がないから。直正の角は壊れなかったけど貴女はどうかしら」
「――ッ!」
 真っ直ぐに向かった矢は、直虎の角を見事砕いた。
 が、通常鬼の弱点の筈のその角は、即座に再生され、千絵代は目を見開いた。
「角が……再生するの!?」
「……く、そ……っ」
 ぎ、と憎々しげに息を吐いた直虎が、じろりと千絵代を睨んだ。
「そんなに怖い顔で睨まないでくれないかな。いつものことかもだけど、千絵ちゃんに何かあったら僕が旦那さんにドヤされちゃうからね」
 八十神 不動が軽い口調ながらも、直虎に向けて大太刀を構える。
「おやおや、人を小姑か何かのように……」
 くすくすと笑う遠野 絃瑞が、大千鳥十文字の槍を振り、手近な鬼へと叩き込む。
「激しい戦いの場に千絵さんを駆りだす鬼を、憎しとは思いますが――戦いの中でより一層輝く彼女を、確りと守護するのも、わたくしの務めでございます」
 突き刺した十字の槍を引き抜けば、鬼の絶叫と血飛沫が散る。
 その静観さを感じさせる眼は、真っ直ぐに直虎へと向けられた。
「彼女の確実な一矢が鬼の角を折ることができるよう、命を張らせていただきます」
「ふん、あなた達ごとき、私が相手をするまでもないわ」
 直虎の身体から、黒いオーラが巻き起こる。
「――陰封殺!」
 ぶわりと広がったオーラは、直虎の眼前にいた来世人らに意思を持ったように襲いかかった。
「……くっ!」
 視界を奪われた来世人らは、虚脱感に膝を付く。
 直虎の手勢は彼女を守るように来世人らの前に立ちはだかり、その牙を剥いた。
「皆直虎に苦汁を舐めさせられてんだ。きっちりとけじめをつけないとな」
 けれど、それを見越していたように後方で舞を終えた池袋 春子の吹雪が手下らに襲いかかる。
「ガアアアアア!!」
「露払いは任せな。あんたらは、親玉だけを目指せばいい」
 面子を見ていると、一撃必殺型ばかりで、範囲攻撃の使い手が少ないように感じる。
 ならばここは自分の持ち場だと、春子はまた、舞うのだった。

「む……、こちらが怪しいのである」
 ト・アミは、海豚ノ術を駆使し、奪われた像の捜索にあたっていた。
(遮蔽の裏や地中等に埋め込まれていないかを主軸に探すのである)
 同じく、本物の華蓮が捕らわれていないか――その捜索も兼ねている。
「像の奪還をしとかんと、もし万一最後の像が奪われてもたら危ないからな」
 同じように考えていたモーラも、単身で砦の探索に乗り出していた。
 戦闘はなるべく回避したいと、鬼の軍勢は全て直虎の元へ向かっているようで、さほど苦労はしなかった。
 恐らくこの砦内のどこかにある筈なのだが――。
「かたっぱしから探すしかあらへんな」
 この人数で、この広さの砦を探索しつくすのは難しい。
 けれど、皆が皆、自分に出来る事をやっている。 
 ここで諦めるわけにはいかないのだ。

◆華蓮の行方
 千絵代の弓が、三度目となる直虎の角を打ち砕く。
「おのれ……ッ!」
「……やっぱり駄目ね」
 されど、矢張りその角は先程までと同じように、即座に再生されてしまう。
(何か、打開策がある筈――)
 手下鬼の数は多く、剣や槍の遣い手達は、中々直虎に近付く事はできず、戦いは長期戦へと持ち込まれた。
「色々やってくれたじゃないの……!」
 藤枝 藤花は、目の前の鬼に拳を叩き込み、後方でにやつく直虎を睨み付ける。
「私達の気持ちもてあそんでくれた報い受けて貰うわよ! ……あと、若作りは私一人で十分よ!」
「本音洩れちゃってるよー藤花さん」
 藤花のサポートに回る沖田 芽衣子が、直虎への道を切り拓こうと槍を振るう。
 春子の吹雪が、仲間らの攻撃が、少しずつとはいえ敵を減らしてはいっている。
 だが、鬼の体力は膨大で、疲弊するのは確実にこちら側だ。
 直虎は、手下に相手をさせ、こちらの消耗を待っているようだった。
「……嫌な女ね」
 吐き捨てる藤花の腕からは、鮮血が滴っていた。
 何分、敵の数が多すぎる。早く頭を叩いてしまわなければ、戦況は不利になる一方だ。
「傷の手当はこちらにお任せを」
 漂う空気を払拭するように、佐藤 長行が傷付いた仲間らの回復を行っていく。
「来世人には、鬼にはない連携があります。皆さんが全力を尽くせるよう、尽力します!」
 長行と共に、近藤 彬も支援魔法を味方に付与し続けていた。
「戦う方々皆さまが万全の働きができればそれが最良のことですね」
「そうですね」
 彼女の言葉に長行も頷き、続けて回復支援の魔法を紡ぐ。
「此が羆の子アイアイだっぺか。この子の面倒はおらがみるから、おめは安心して戦え」
 牧葉 真夏の舞を受け、藤 あきほがにっと笑う。
「回復屋あっきー見参だったりするのだよー」
 各々回復の手段は持っているものの、如何せん此度の戦いは数の不利がある。
 ただただ仲間の回復に徹するあきほの心強さは、前衛の仲間達にとって共通のものだっただろう。
「回復ならまかせろなのだよー。死んだらだめなのだよ、皆で一緒に帰るのだ」
 きっと善光寺に残った仲間達は、無事に寺を守り切っているだろう。
 ならば自分達は、ここで直虎を倒し、奪還された像を取り戻さなければならない。
「直虎さんに突撃インタビュー!」
 手下の隙間を縫うようにして駆け抜ける。
 太刀を振り翳し、直虎に斬りかかったのは、自称マリン成人17歳アイドル、マリン・カイザーだった。
「華蓮さんって最初から直虎さんだったんですか?」
「さあ……、どちらだと思います?」
 一撃を軽く躱し、ふわりと微笑む直虎の口調は、華蓮のものに酷似していた。
 がらんと太刀を転がした直虎に驚愕する一同の中で、彼女は無防備に手を広げてみせる。
「華蓮という尼僧の身体を乗っ取っているだけで――この身体を切り裂いても、私ではなく華蓮が死ぬだけ。……だとすれば、あなた方は可哀相な華蓮を殺しますか?」
「……」
 答えをすぐに出せる者はいない。
 この鬼の虚言と見做すのは簡単だが、もし華蓮が身体を乗っ取られているとすれば――もしくは、捕らわれているだけだとすれば、直虎を殺してしまっていいのかと。
「ならば、こういった趣向はどうでございますか?」
 絃瑞の槍が、直虎の足を払う。
 審議の程は今は解らぬ――されどこの女鬼将を放置するわけにもいかない。
「……くっ!」
 よろめいた直虎の元に、絃瑞の槍の切っ先が突きつけられる。
「生かさず殺さず、……捕えて、情報を頂きましょう」
「ふふ、……甘い考えね、来世人様」
 倒れたままの直虎の手から、漆黒ノ炎が放たれる。
 絃瑞に纏わりつく黒煙に、千絵代が迷い無く弓を放った。
「ふん、人間ごときが――無駄だというのがわからないの?」
 紙一重で弓を避けた直虎が、更に後方へ飛び退き、手下らに迎撃を命じる。
「そうですか……じゃあ、ここからはインタビューは止めて――クビとり☆チャレンジ! カメちゃん、ちゃんと撮って下さいね」
 天使の笑顔でエグイ事を言ってのけるマリンに、随伴のかめらおはこくこくと頷いた。
「何考えているか知らんけど好きなようにはさせへんで!」
 迷いを振り払うように吼える白鳳 桃花に、ヒデコ・ルーラが続く。
「あのお人が鬼だったなんて…すっかりだまされてしまったわけや。この借りは100倍にしてかえしてやらなアカンで!」
 細かい事を考えるのは得意ではない。
 ならば、目の前の敵を倒す事だけを考える――桃花は、そういう人間だった。
「喜ばしいことではないか! 薄幸の美女など最初からいなかったのだよ! 敵をヤるのに理由なんていらねえしな!!」
 好戦的な目をらんらんと光らせる森住 ブナは、ずっと蘭子の支援に回っていた。
 のだが、ここに来て颯爽と前線へと踊り出した。
「ハァーイ、皆のアイドルましまろ団だよーっ★」
 直虎に向かってぶん投げられたハート型の手投げ爆弾は、凄まじいコントロールでその顔を狙う。
「……!」
 手で庇われてはしまったものの、次の瞬間、盛大な爆発音と共に、ハートの幻影が大量に散った。
「ふっ、皆の視線は頂いたな!」
「直虎が偽乳か暴かなきゃいけないよな。おじさんも興味あるよ! うへへ!」
 と、すかさず直虎へ向かうのは九条 鰤々之進だ。
 何で今回皆そんな直虎の乳を暴きたがるんですかね?
「っこの――!」
 コケにされたと感じたのか、激昂する直虎に向けて、再度強烈な矢が飛んだ。
「ぐっ!」
「その角――、無限に再生するわけではないみたいね」
 ふと、角への攻撃のみに徹していた千絵代が洩らした呟きに、直虎の表情が歪む。
 空からじっくりと観察していた千絵代は、折られるたびに再生する角の仕組みをも読み解こうとしていた。
 普通の鬼にとって、角を壊される事が最も脅威なのは間違いない。
 それが再生する直虎は、一見にして無敵にも見えた。
 だが、その表情は、酷く苦痛に満ち、その色は再生のたびに濃くなっていく。
「角の再生に必要なものが、何なのかはわからないけど――」
「角への攻撃は有効という事ですわね」
 桃太郎の大太刀を翻した蘭子が、直虎の背後に飛び込み、角を狙い刃を打ち込む。
「く、そっ」
 手下達はまだいるものの、来世人らは自分の角のみを狙って来る。
 そう判断したらしい直虎は、武器を手放し、降参の意を見せた。
「……来世人様方は、無抵抗な鬼を斬る程無粋な方じゃないでしょう?」
「ふざけやがるなです。もうその手は食いませんよ、ファック女鬼めが!」
 切れそうな程の血管を浮かせたシャムロックが、直虎に剣を突きつける。
「――で、どうせまた奪った秘仏でくだらない儀式でもやらかそうとしてたんでしょう? 何の目的だか一応聞いておきましょうか」
「あら、その後殺してしまうんです? 私には利用価値があると思いませんこと?」
「……」
 来世人らは、誰一人として直虎の言葉を信じてはいなかったが、鬼の目的を知る事には賛同した。
 直虎を仕留める前にその話を聞く事にした来世人らは、語り始める彼女の言葉をじっと聞いた。
「私達、鬼が封印されている事はご存知かしら?」
「封印……?」
「そうよ、より強く、より気高い鬼を封じる憎き結界――善光寺にあるものがそれを強めている。それを破壊すれば、封印は弱まり、より強い鬼の出現が可能となる……。私の秘儀によって、像の法力を逆転させれば、封印自体を崩壊させる事も出来たはずよ」
 その為の目論見は、貴方達に防がれてしまったけれど、と続けた直虎は、まるで今自分の置かれた状況が解っていないかのように、優雅に微笑んだ。
「でも、私達の本来の目的は、像の破壊だったのよ」
 ふと、直虎が勝ち誇ったように笑う。
「――ッ!!」
 来世人らが、咄嗟に身構えたその瞬間だった。
 直虎の姿が、ふっと消え去る。
「!! 転移……!」
 刀を構えたままの藤花が、しまったと言わんばかりに歯を軋ませる。
「転移して、隠している像を壊すつもりか……」
 長行の言葉に、一同にざわめきが広がる。
 すぐに追わなければ、もし先程の直虎の話が本当であれば、大変な事態になってしまう。
「……遅かった、のである」
 そこに現れたのは、潜入捜査に向かっていたトとモーラであった。
「像の破壊が目的やったなんてな‥‥」
 奪われた像を探していた二人は、地中に隠されていた像を見つけ出す事に成功していた。
 けれど、掘り返したその像は――既に破壊されてしまっていた。
「そんな……」
 事実を聞いた来世人らは、呆然と立ち尽くす。
 
 さて、残りわずかな法力で転移し逃げた直虎だったが。
「‥‥ここまで、かしらね」
 砦の外は、工助らが取り囲んでおり、ついに打つ手を失ったまま包囲され。
「秀吉様‥‥」
 討ち取られた女鬼将はしかし、悔しさだけでなく、確かな満足を湛えたままこの世を去った。
 この戦の勝利は鬼か人間、どちらのものか――それは、直虎の複雑な表情が物語っていた。

「‥‥すっかり騙された時点で、ある意味は負けだった、ということなんじゃろうか」
 紗月は苦々しい顔で、信州の空を見上げる。いつもと変わらぬその空。だが、これは『封印の弱まった日本の空』なのだろうか。
 これを境に、あの、強力な鬼達が、さらに出現するようになる――と実際に知るのはもう少し先のことだが、すでに皆、その予感を肌に感じていた。
「ま、大丈夫だろ。だって新しいデカブツも、変な女鬼も、鬼将だって二人もとっちめられたじゃないか」
 矢塚は飄々と煙草をふかす。
 そう。強大で『不死身』とさえいわれた二鬼将を倒せたのは、来世人の聡明な連携ゆえである。今後もそれができるならば‥‥希望は、いつもと変わらぬ空の彼方にある。



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参加者

a.やるしかねぇよなぁ~?ラスト・マン・スタンディングってやつだぜ?
不知火焔羅(ka00012)
Lv315 ♂ 23歳 武僧 来世 異彩
サポート
e.ヤズゥンに式神飛ばしてもらって、俺は様子見て破壊か戦闘?
平口工助(ka00157)
Lv376 ♂ 22歳 武僧 来世 婆娑羅
サポート
e.よろしくお願いします。
赤井狐弥(ka00215)
Lv203 ♂ 20歳 忍僧 来世 影
c.まー、話したときに存分に殴りあうって言った手前、な。
吉弘龍重(ka00291)
Lv225 ♂ 17歳 武忍 来世 大衆
c.回復一本槍です。今回も椿油1、持参します。
空木椋(ka00358)
Lv341 ♂ 20歳 傀僧 来世 大衆
サポート
g.悪い偽乳め、トコトン妨害してくれる!(効果上昇しつつ形代をぺたぺた
森住ブナ(ka00364)
Lv251 ♀ 15歳 神陰 来世 異彩
サポート
e.よろしくお願いします。
鈴城透哉(ka00401)
Lv220 ♂ 15歳 武僧 来世 傾奇
サポート
z.まずは仏像奪還やろ?
モーラ・ズメウ(ka00467)
Lv206 ♀ 23歳 忍傀 来世 異彩
f.我々マシュマロ団が直虎の乳が偽物であると暴いてやりますわ!
高杉蘭子(ka00512)
Lv532 ♀ 20歳 武神 来世 婆娑羅
サポート
b.腹黒として奴の策を見抜けなかったとは…ならば今度こそ奴の思い通りには!
藤枝梅花(ka00566)
Lv280 ♀ 22歳 神陰 来世 麗人
c.さて、今日は死ぬまで殴りますよ
藤枝桜花(ka00569)
Lv297 ♀ 23歳 武忍 来世 大衆
a.よろしくお願いします。
潤賀清十郎(ka00609)
Lv296 ♂ 27歳 神忍 来世 異彩
サポート
b.打って出たいのは山々だが、今回は非戦闘員の守りに就かせてもらうぜ。
莱堂凌駕(ka00613)
Lv324 ♂ 17歳 忍僧 来世 大衆
サポート
c.鬼直政の片腕を切り落とし、奴の戦闘力の半減を試みるでござる。
ミスト・カイザー(ka00645)
Lv271 ♂ 24歳 武忍 来世 質素
サポート
f.交渉事も、時には必要でございましょう。
遠野絃瑞(ka00651)
Lv221 ♂ 28歳 武忍 来世 質素
a.ミアカイザーと烏合の軍団、いざ参る☆ 
ミア・カイザー(ka00679)
Lv242 ♀ 24歳 陰忍 来世 異彩
サポート
f.散々私達を翻弄させてくれやがりましたね、エエッ!このファック女鬼が!
シャムロック・ルブラン(ka00683)
Lv265 ♀ 18歳 武僧 来世 傾奇
サポート
g.治療などを頑張ろうかと。
佐藤長行(ka00775)
Lv249 ♂ 25歳 神僧 来世 大衆
サポート
f.天下無双で角が折れるといいわね
升田千絵代(ka00869)
Lv474 ♀ 25歳 武陰 来世 傾奇
サポート
a.回復にて支援します。
花織ひとひら(ka00978)
Lv248 ♀ 17歳 神僧 来世 異彩
サポート
d.この間は人質を救えずに悔しい思いをしたからね
越中団次郎(ka01138)
Lv330 ♂ 32歳 武僧 来世 婆娑羅
サポート
c.よろしくお願いします。
相葉楡(ka01176)
Lv311 ♂ 27歳 武傀 来世 麗人
サポート
g.回復回復アンド回復だったりするのだよー
藤あきほ(ka01228)
Lv349 ♀ 20歳 陰僧 来世 異彩
サポート
b.避難とか回復とかー
霧ヶ峰えあ子(ka01260)
Lv327 ♀ 16歳 神僧 来世 麗人
c.粉ぁかけちょる間に仕掛けが出来上がってくれる事を祈るだけじゃ。
荒戸美乃(ka01301)
Lv190 ♀ 25歳 忍僧 来世 質素
c.猩々欲しい人は付与しちゃるけん手ぇあげちゃりい。
鏑木奈々(ka01307)
Lv311 ♀ 18歳 神陰 来世 麗人
f.ここは一つ、奴がどれほどのことをしたか、思い知らせてやりましょう。
藤枝藤花(ka01346)
Lv245 ♀ 40歳 武僧 来世 大衆
サポート
g.法力合戦といこうか。(変更可能)
池袋春子(ka01511)
Lv329 ♀ 34歳 神陰 来世 麗人
f.何考えているか知らんけど好きなようにはさせへんで!
白鳳桃花(ka01568)
Lv296 ♀ 17歳 武傀 来世 傾奇
サポート
d.よろしくお願いします。
富士影百(ka01570)
Lv184 ♀ 18歳 武忍 来世 質素
a.よろしくお願いします。
鈴鹿恵子々(ka01589)
Lv167 ♀ 20歳 武僧 来世 異彩
a.よろしくお願いするわよん。
マッスル・オネェ(ka01616)
Lv198 ♂ 20歳 僧流 来世 異彩
c.あんのクソ坊主のメンタルズタズタに引き裂いちゃるわい。
小鳥遊彩霞(ka01619)
Lv238 ♀ 25歳 武流 来世 異彩
e.此処は忍びらしく行きましょう
クリスタル・カイザー(ka01634)
Lv332 ♀ 29歳 忍流 来世 大衆
サポート
g.よろしくお願いするのである。
ト・アミ(ka01685)
Lv327 ♂ 50歳 忍流 来世 大衆
b.わたしの知ってる華蓮さんはいつも御寺やみんなを守ろうとしてたから……
藤枝菫花(ka01701)
Lv281 ♀ 17歳 神流 来世 麗人
f.希望者いれば2時間朱雀伝播。MP使い果たした後能力確認の為特攻
マリン・カイザー(ka01727)
Lv291 ♀ 21歳 陰流 来世 麗人
c.ベガ、とゐ波のつるべ撃ちするけん今度もしっかり守ってや。
暦紗月(ka01738)
Lv308 ♀ 29歳 流誓 来世 麗人
サポート
b.うわぁ、俺、ひょっとして死ぬんじゃねぇか?こんなとこ来て大丈夫か?
筒井蔵之介(ka01755)
Lv227 ♂ 17歳 武誓 来世 異彩