黙示録の向こうへ

担当マスター:真名木風由
開始15/03/08 22:00 タイプイベント オプションお任せオプションEXオプション
状況 SLvS 参加/募集23/― 人
料金1100 分類日常
舞台国・。シ・ッ・ケ 難易度易しい

◆周辺地図
参加者一覧
志島 陽平(sa0038)K地 メイリア・フォーサイス(sa1823)A風 柴神 壱子(sa5546)H風 御剣 龍兵(sa8659)P風
三輪山 珠里(sb3536)A風 アドリアン・メルクーシン(sb5618)P火 郡上 浅葱(sd2624)A風 鷹羽 叶望(sd3665)E地
デミル・ウルゴスティア(sd9633)E地 メイベリン・クリニーク(se6484)H水 カミーユ・ランベール(sf0920)A地 十文字 翔子(sf7297)A風
リン・ブレイズ(sf8868)P火 玖月 水織(sh0007)H水 アメリア・ロックハート(sh1732)A水 ミラベル・ロロット(si6100)H風
スィニエーク・マリートヴァ(sj4641)P風 レイメイ・ウィンスレット(so0759)A地 リーリヤ・パルフョーノフ(so2515)H地 アシル・スノーウェイ(so8117)P地
アキ・オドネル(sp5637)E風 鷹宮 奏一朗(sp8529)K火 ヒメコ・フェリーチェ(sq1409)K風
オープニング
●到達は、明日
 『あなた』は、夜空を見上げた。
 3月12日───明日は、魔王ベルゼブブの到達が予想される日だ。
 『生命の樹』が立ち昇った以上、ベルゼブブ以外が黙っている訳がない。
 最後の戦いを意識する1日となる───SINNであれば大なり小なり抱いている想いを、改めて実感する。
 1日先の未来を誰もが見通せないものであるが、明日という日がどんな日になるか‥‥誰もが全く想像が出来ない。
 自分は、死ぬかもしれない。
 蘇生も出来ず、想いを遺して逝ってしまうかもしれない。
 怖いのかそうでないのか───それを言い切ることが出来ない。
 怖いだろう、とは思う‥‥けれど、本当にその怖さを理解しているのかという意味において、自分は怖いと思っているだろうか。
 解らない‥‥。
 でも、と『あなた』は、心の中で呟く。
 明日がどんな日になろうと、今日という日を悔いなく過ごしたい。
 日付が変わるまであと2時間しかないが、悔いなく過ごす為に『あなた』は、明日まで何をして過ごそうか考えを巡らせた。 

●出来ること
・ルークス市国内で、日付が変わるまで過ごす

※ルークス市国内、下記場所へ行くことが可能です。
・大聖堂前広場
・光輝門
・バベルス・モール
・ガーデン
・作戦室

行き先指定の数に制限は設けませんが、プレイング内容によって描写量が変化しますので、プレイング文字数と相談した上で本当にやりたいことを吟味するのをお勧めします。

●NPC情報
・エルネスト・ブノワ
お誘い可能。
指定あればその方と合わせた行動を取り、そうでなければ各所でチョイ役として登場します。

※下記NPCは、プレイングで指定があれば登場可能。
・聖 望美
・アーシア 琴
・アーシア 凛
・春崎 ライア
・ランディ・ヴェンツェル

●注意・補足事項
・年齢制限行動・合意なき恋愛行動・アイテムプレゼントはご遠慮ください。
・参加者以外のPC及びリストにないNPCの登場は出来ません。
・自由設定・プラリプの範囲を超えた設定をプレイングに書いても反映出来ません。
・シナリオの性質上、『こちらに全ておまかせ』はご遠慮ください。自分の意思でこの場に立っていましょう。
・強行してプレイングを作成されても、不本意な描写となる場合もありますので、ご了承ください。

???о?ΣУ?

 エルネスト・ブノワ(sz0035)・♂・37歳・パラディン・火・信者

◆マスターより

※このシナリオは、3月12日22時?24時の間の出来事を扱います。心情を書く際はご注意ください。

こんにちは、真名木風由です。
今回は、決戦前夜を扱うシナリオを担当させていただきます。
時間軸と注意・補足事項を確認した上でプレイングを作成してください。
決戦の夜、予想出来ない明日の前日、悔いがないよう日付が変わるまでお過ごしくださいますよう。

それでは、お待ちしております。
リプレイ

 玖月 水織(sh0007)は、物思いに耽っていた。
 常に淡い輝きを放つ、透き通った赤き結晶は、まるで生きているかのように脈動し続けている。
 硬質な心臓のようだ、と水織は思った。
 明日、ここは戦場になるだろう。
 『生命の樹』がここに立ち昇っている今、それぞれが最後の戦いを仕掛けるべく牙を研いでいることだろう。
(明日、どのような形であれ決着がつくでしょう)
 水織は、光輝門を見上げた。
 全ての始まりでもあるかのようなこの門は、明日全ての終わりを見届けるかもしれない。
 明日の今頃がどうなっているか、誰にも分からない。
(私はきっと───遠くない将来、自らの想いに殉じる)
 けれど、それは『明日』ではない。
 『明日』を生き抜いた先───全てが終わり、全てが始まる。
 世界がどうなるか分からないが、命を救う戦いは終わらない。
 いつか、その戦場で、自分は逝くだろう。
 明日のことすら分からないのに、それを確信しているのは───水織は、そこまで考えて首を横に振った。
 今は、必ず生き抜くことを強く願わなければ。
(私は、どれが欠けても私ではない)
 人間、医師、SINN、女───全て意味があること。 
 自分が生きた意味を、証を‥‥明日の向こうに遺そう。
 『生命の樹』に脈動する結晶を透かす。
 最期まで魔王に従わなかった男の言葉が『彼』の顔と共に蘇る。
「馬鹿魔王ですよ、『あなた』は」
 呟いたその言葉の先に、何が見える。


 大聖堂前広場は、いつもと違う気がする。
 デミル・ウルゴスティア(sd9633)は、何となくそう思った。
 『生命の樹』が立ち昇り、明日は何が起こるかさえ予想も出来ない戦いが待っているからそう思うのかもしれない。
「デミル様」
 メイベリン・クリニーク(se6484)の声が、静寂に響いた。
 伝えておきたいことを伝えたくて、デミルがメイベリンを呼んだのだ。
「この前は、ごめんね」
 まず、デミルはそのことを謝り、メイベリンの頬にキスをした。
 イタリア南部の都市テルニでの出来事と察するには十分である。
 あの時は、逃げたけれど───明日どうなるか分からないなら、言っておかなければならない。
 そう思って、呼んだのだ。
「僕は、ずっと前からメイベおねーちゃんの気持ちは知ってたよ」
 デミルは、ちゃんとメイベリンの想いに気づいていた。
 時として、メイベリンの愛は違う方向へ突っ走ったこともあるけれど(主に覗き関連で)、でも、心から寄せてくれるものであるだろう、と。
 けれど───デミルは、目を背けた。いや、認めてはいけないと思ったのかもしれない。
「‥‥僕が、僕なんかが愛されていいのかどうか、分からなかったから」
 そんな資格なんて、ないのに。
 自嘲気味に呟くデミルの横顔は、陽気で年よりも幼い印象の振る舞いの普段とは逆で、年よりも大人びて見えた。
 それでも、メイベリンはデミルの話を黙って聞いていた。
 デミルが明かそうとしない自身の事情が、今彼にその表情でその言葉を語らせるにしろ、ひとつも聞き漏らしたりするつもりもないから。
「でも、明日の今頃、僕もメイベおねーちゃんもどうなってるか分からない。世界そのものが滅んじゃうかもしれないから、言っておこうと思って」
 デミルは、空を見上げた。
 『生命の樹』を見据えるような彼に続いて、メイベリンも見上げる。
「生きて帰ったら‥‥ちゃんと、言わせて? 僕の、本音。僕の心を」
 くすり、と笑みが零れる声が聞こえ、デミルがメイベリンを見た。
 微笑するメイベリンが、デミルの額にそっと口づける。
「デミル様のお話しを聞く為にも、絶対に生き残りますですの♪」
「ありがとう、メイベおねーちゃん」
 デミルが、笑う。
 今まで見てきた笑顔よりもずっと不器用なものだったけど、メイベリンは今まで見てきた笑顔よりもずっと嬉しかった。
(‥‥あなただけは、絶対に守りますですの)
 例え、自分の命を使い潰してでも。
 きっと、デミルはそんなことを望んでいない。
 気づけば、確実に怒るだろう。
 ズルイかもしれないが、口に出さない決意。
「メイベおねーちゃん?」
 デミルが、メイベリンの顔を覗き込む。
 もしかしたら、デミルは何かを感じ取ったかもしれない。
「一緒にお茶でも飲みに行きましょうですの」
 メイベリンは、そう微笑んだ。
 彼の不安がお茶に溶けて消えるように。
 彼が明日の今頃も生きていることが出来るように。


「いよいよ明日だね」
「うん」
 十文字 翔子(sf7297)の言葉にアーシア 琴(sz0074)が小さく頷く。
 生き残るつもりでいるとは言え、何が起こるか分からない。
 明日の今頃が自分がどうなっているか分からないからこそ、今日を悔いなく過ごしたかった。
 2人が今いるのは、作戦室だ。
 この作戦室には、2人以外の姿はない。
 もしかしたら、他の作戦室には誰かいるかもしれないが───
「明日以降、お掃除以外で誰かが入ることがなくなればいいのにね」
「そうだね。それには、明日を生きないとダメだよね」
 作戦室を見渡す琴の手を、翔子がそっと握る。
 大事な友達、明日以降も失いたくない。
「頑張ろう、琴ちゃん。また会えるように」
「うん」
 琴が、翔子の言葉に笑った。
 その時だ。
「どなたかいらっしゃるのですか?」
 アドリアン・メルクーシン(sb5618)が、作戦室のドアから顔を覗かせていた。
 話し声に気づいて、様子を見に来たのだろう。
「あ、僕はそろそろ待ち合わせの時間だから、またね」
 翔子が笑って、部屋を出て行く。
 琴が笑って手を振る様を見ながら、アドリアンは作戦室に入った。
「アドリアンさんもこっちにいたんだ」
「ええ。愛銃の調整をしていました」
 アドリアンが示すのは、二挺の愛銃。
 念入りに調整したと思われるそれを見れば、明日の戦いに関する意気込みが見て取れる。
「珈琲でもいかがですか?」
「ミルクと砂糖が入ってるなら」
 アドリアンが誘いを向けると、琴はちょっと目を泳がせつつそう返答。
 ブラックは飲めないとのことで、アドリアンは琴らしいと思いながらも廊下を並んで歩く。
(愛銃は、明日何を奏でるでしょうか)
 自分の死出の旅路だろうか、それとも───
「アドリアンさん、今良くないこと考えた?」
「いえ。ですが、ひとつお伝えしておきたいことが」
 思考中の自分から何かを悟ったらしい琴が見上げると、アドリアンは苦笑した。
「もし、私の身に何かあったら、私の財産は全てあなたに───」
 言い終わる前に、琴の猛獣パペットがアドリアンに頭突きした。
「もし、とかそういう話はダメ。言葉が呼ぶことがあるから」
「必ず生きて帰るつもりですよ?」
 身寄りもない自分の独り善がりも許さないばかりに琴は怒っている。
 きっと、明日という日を迎えることは琴も不安なのだろう。
「祈ってくれますか?」
「アドリアンさんも最大限の努力をしてくれないと、ダメ」
 琴は、アドリアンにそう答えた。
 最初出会った小さな少女は、強くなったと思う。
 視線に気づいた琴が、笑う。
「最近、凛さんを参考にしているの」
「それは絶対止めてください」
 アドリアンにも、譲れないものがある。


 御剣 龍兵(sa8659)は、1人しかいない作戦室をぐるっと見回した。
 今まで、何度作戦室に入ったことだろう。
 そう思うと、感慨深い。
(思えば、SINNになってから今日まで、色々な出来事があったなー‥‥)
 初任務の時、自分は何を思っていただろう。
 明日の今頃、自分は何を思っているだろう。
 そこまで考え、龍兵は小さく頭(かぶり)を振った。
「あまり深刻なことを考えるのもなんだな」
 もう、最後の戦いに向けて時は動いている。
 考えても始まることではなく、明日やるべきことをやる、それだけだ。
「腹が減ってるといいことないしな、腹ごしらえでもするか」
 手荷物を漁れば、買い込んでいたカップラーメンの姿が。
「これ、最後の食事になるのかな」
 お湯を注ぎつつ、龍兵は呟く。
 明日、いつ戦いが始まるかは分からない。
 朝食を食べる暇なんかないかもしれない。
 明日を生き抜くことが前提だから、最後の食事にならなければいいだけの話だが、やはり、明日の戦いは意識するものがあった。
「味わいながら、食べるか」
 熱湯を注いで待つ間、龍兵はそう決める。
 明日、何が起こるかわからない。
 もしかしたら、自分は蘇生すらなされず死んでしまうかもしれない。
 カルマ魔法で起きる奇跡に自分が含まれるとは限らない。
 だからこそ、悔いがないように。
「いただきます」
 龍兵は割り箸を割り、最後の可能性がある食事を開始した。
 いつもより、味わって。


「どうして、一緒に行っちゃいけないの?」
 アメリア・ロックハート(sh1732)の瞳からは、今にも涙が零れ落ちそうだった。
 彼女は今しがた、カミーユ・ランベール(sf0920)より決戦の場に立たないよう言われたばかりだ。
 カミーユも譲るつもりはないらしく、けれど想定していた言葉に対し、こう返す。
「明日は、決戦‥‥それは、分かるな?」
 問いに対し、アメリアは頷く。
 だからこそ、一緒にいたいという色が彼女の瞳から見て取れる。
「俺としちゃボスの命令で協力してるだけで、とんだ大事に巻き込まれた感覚だが‥‥死ぬつもりは全くねぇ」
 だが、とカミーユは続けた。
「お前を守りきることが出来るかって言われると、ちょっと自信がねぇ」
 アメリアは、その言葉に顔を俯かせる。
 戦うことが出来るよう拳銃の腕や魔法の鍛錬をしてきたが、まだカミーユの域には達していない。
 それ以上に戦うということに対し、その精神が慣れていない。
 スクブスが背後にいたマフィアとの抗争に関連する任務の際の自分が脳裏に過ぎる。
 もう、臆病なだけの自分ではない。
 最後の戦いも一緒に行きたい、戦いたい。
 戦えるようになった、そう思っているけど───明日はきっとあの戦いの比ではない。
 まだ、発展途上の自分が降り立つ、その意味をカミーユは解っているのだ。
 残酷でも、それが一番アメリアの為になるとカミーユは知っている。
「だから、俺の帰る場所‥‥その留守を任せたい。‥‥出来るか?」
 帰る場所は、もうそこしかない。
 その場所を守ってほしい。
 そこをアメリアが守り、自分の帰りを待っててくれる‥‥それが生き抜く何よりもの力となるだろう。
「分かった」
 アメリアが、小さく頷いた。
 その瞳は、もう涙が零れ落ちそうな色はない。
 諦めた訳ではなく、自分がすべきことを知り、受け入れた迷いない色だ。
「あなたが、私達の場所を守ってほしいと言うなら、私が必ず守る。そこで、あなたの帰りを待ってる。あなたは約束を破る人じゃないから、私が待っているなら、あなたはきっと生きて帰ってくる‥‥そうでしょう?」
「あぁ、その通りだ」
 アメリアの背を抱きしめ、カミーユがそう笑う。
「俺は死なない。お前が待っててくれる限り。約束は守る」
「怪我しないでね‥‥は、無茶振りかな」
「無茶振りだな。だが、努力はするつもりだぜ?」
 アメリアがそう笑うと、カミーユがアメリアの額に自らの額を押し当て、静かに笑った。
 無茶振りでも、帰りを待つアメリアが心配で涙を流したりしないよう‥‥自分に出来る全ての力で努力しよう。
 何が何でも生き残ってやる。
「死んじゃったりしたら、許さないから」
「その時は、お前が天国まで俺を奪いに来い」
「‥‥うん、そうする」
 頬を染めたアメリアが、嬉しそうに笑った。
 顔を近づけ、想いを確かめ合う。
 戦いに赴く前、きっとお守り代わりに交わす未来を見、2人は笑い合った。


 鷹羽 叶望(sd3665)が広げたお弁当にスィニエーク・マリートヴァ(sj4641)は、目を輝かせた。
「知り合ってそれなりに経つのに、スィニエークに俺の料理を食べてもらったことがない気がしてな」
 叶望は、スィニエークにお手拭を差し出しながらそう言う。
 勿論、お弁当も全て火を通したもの。
 安全には気をつけているが、明日が決戦である以上万全を期す為、叶望は生物を避け、食中毒になったりしないよう配慮し、尚且つ手でつまむことが出来るようにとお弁当の中身を構成していた。
「すごいですね。私は作れないですけど‥‥手間がかかっているのは分かります」
 料理には心得がないスィニエークから見ても、手が込んだ料理だ。
 食べやすさも考慮されていて、目移りしてしまう。
 思い切って、おにぎりを食べてみた。
「美味しいですね。中に何が入ってるのでしょうか?」
「それは、鮭だな」 
 顔を綻ばせると、叶望が嬉しそうに笑う。
 唐揚げに手を伸ばしてみれば、下味がしっかりしており、レストランで出されるものすら色褪せる味が広がる。
「本当にお上手なんですね」
「ああ。好きだからな」
 スィニエークの賛辞が、叶望には心地良い。
「私は‥‥」
 ぽつり、とスィニエークが漏らす。
「少し前まで、いつか戦いの中で死ぬと思っていました」
 仕方がないことと受け入れていた、とスィニエークは漏らす。
 でも、今はそれを仕方ないこととして受け入れたいと思っていない。
 理由は、ひとつ。
「私は、今生きたいと思っています。もっと、あなたと話したいですし、一緒に色々な場所に行ってみたい」
「君を振り回すかもしれないぞ?」
「‥‥そういうあなたを、もっと見たいです」
 妹や幼馴染ですら散々な物言いをする自分の料理研究に叶望は言及してみると、スィニエークはそう微笑んだ。
「君は、不思議な人だな」
 叶望は小さく微笑を漏らし、水筒からお茶を注いで彼女へ渡す。
「明日は決戦だろうな。こうやって顔を合わせ、こんな風に話すのも最後の機会になるかもしれない。そうならない為に、お互いベストを尽くそう‥‥そう言おうと思ってた」
 なのに、今、違うことを考えている。
 叶望は、そう苦笑した。
「明日を生き抜いた後、君に振舞うご馳走の内容を考えてしまった」
「なら、明日はお互いおかえりなさいを言う約束をしなくてはいけませんね」
 スィニエークが微笑んだ。
「いってらっしゃいを交わし、おかえりなさいを交わしましょう。それから、私にご馳走してください。楽しみにしていますから」
「最高の料理を振舞うよ」
 そう答えた叶望は、何故か特別賞を貰った料理コンテストのことを思い出した。
 今の自分なら、どんな結果になるだろう、と。
(いや、結果はいい)
 叶望は、心の中で呟く。
 あの時の優勝者が言った言葉の意味が、分かったような気がした。
 だから───
「いってらっしゃい」
 揃う声が、明日も欠けることがないよう2人は願う。


「明日は決戦なンだとよ。‥‥実感ねェけど」
 鷹宮 奏一朗(sp8529)がそう、呟く。
 その腕の中には、誰よりも愛しい女がいる。
「クク‥‥俺からすりゃ告白すると決めてッたダンスパーティの方がよッぽど決戦だッたンだがなァ」
「ふふ、ある種私も決戦でしたが」
 アーシア 凛(sz0079)は、奏一朗の腕の中でそう笑う。
 斬新な出会いから始まったが、奏一朗は凛の外見に似合わないエグさが気に入った。
 何かあれば力になると約束した通り、多くの任務を共にし、同時に、その手料理で多くの地獄(ただし奏一朗には天国)にも逝った。
 最高にイイ女へ告げるべき言葉を。
 そう思い、誘った大舞踏会、凛は二つ返事で了承してくれた。
 自分の瞳の色のようなドレス姿の凛は、自分が贈った指輪を身に着けていて。
 色々吹き飛んだものの、告白‥‥その返答の仕方も衝撃的で。
 誓い合った末、プロポーズをすれば、当然のイエス。
 ラグナロク的ガトーショコラ等々の破壊力抜群の最高料理(奏一朗の認識)を繰り出す最高の女と思っている。
 その凛も、あの時は決戦と思っていてくれたようだ。
「奏一朗さんとの時間を邪魔したナンパに苛立ったので、好きだと気づいたのですが‥‥タイミングが中々でしたからね」
「日本語で聞きたかッたぜ」
 アミューズメントパークでの休暇の最中に遭遇したナンパ集団を「束になっても敵わない男と一緒だからさっさと消えろ」という趣旨の英語で蹴散らした話を凛が零すと、奏一朗はそう笑う。
「明日はヤられる気なンてさらさらねェ、せいぜいまた盛大に暴れて来てやンぜ。その言葉を日本語で聞けるようにな?」
 今までの会話は、強ち冗談でもない話。
 それが共通の認識であっても、明日の今頃がどのようなものかは分からない。
 奏一朗が、腕の力を強くする。
「‥‥が、その為にちょいと充電が欲しいのも事実でね‥‥今夜はずッとこのまま凛を感じ───」
 最後まで言えなかった。
 凛が、封じたから。
 長い間の後、少し唇を離した凛が、にっこり笑った。
「私も充電させていただきますので」
 自分を感じさせるかのように、深く口づけてくる。
 最高の女が、決戦の予兆さえ脳裏から奪っていく。


 アシル・スノーウェイ(so8117)の隣を、レイメイ・ウィンスレット(so0759)は歩いていた。
「俺がSINNになってから、あっという間だな」
 アシルが、小さく零す。
 元々は格闘技の世界に生きていた自分が、パラディン正装を身に纏っている。
 試合とは異なる戦いの場は、命懸けのもの。
 まして、明日は決戦になるであろう大きな戦いが待ち受けている。
 生きていられるのか、それとも───
「私は‥‥嫌よ。アシルさんがいなくなるのも、私がいなくなるのも」
 レイメイが、アシルを見上げる。
 明日、決戦になる実感がある訳ではない。
 けれど、明日、自分は魔王との戦いに身を投じるだろう。
 何があってもおかしくはない。
(私は、知ったことがあるの)
 レイメイが、心の中で小さく呟く。
 自分の中に、こんな自分が存在していたことを。
 書物だけでは得られなかったかもしれない知識を、この人は私にくれた。
 明日、自分は恐らく求めるだろう。
 知識の先にある真実の名を掴む為に。
 成功するかどうかは分からないが───可能性があるなら、諦めるつもりはない。
 諦めないその想いこそが、道を作る。
 その道の先に、明日も生きられるという真実があると思うから。
 恐怖───それが、全くないとは思っていない。
 死んでも、死なせても‥‥もう、こうして隣を歩くことが出来なくなるから。
(そんなのは、嫌なのよ)
 そう思うレイメイの手を、アシルが握った。
 さり気なく握られたその手から、アシルの温もりが伝わってくる。
「2人共、明日は必ず生き残ろう。俺も、例え世界が平和になったとしても、お前がいなかったら、嫌だからな? お前がいないと意味がない」
 静かで、優しい言葉は、それだけでレイメイを強くしてくれる。
 恐怖も明日を生き抜こうと思う強さに変えてくれる。
 この想いがそうさせる、ということをこの人は教えてくれた。
 それを知っていると自分では思っていたけれど‥‥知っていただけで、解っていなかったのかもしれない。
「そう思うなら、死なないで」
「俺? 俺は大丈夫だ。寧ろ、お前の方が無理をしそうで危なっかしいからな」
「そう言って、花嫁になれなくなったら、怒るわよ」
 笑うアシルに睨んだ後、レイメイは自分の発言に気づいた。
 今、何て発現をしたんだ、自分は。
「顔見ないで」
 レイメイが、アシルから顔を背けようとするが、アシルは逃さない。
 隠そうとしているのに、その腕が全てを暴く。
 耳まで熱が広がって、今、自分は顔なんて見られたくないのに。
「それなら、これで約束だな」
 アシルの顔が背けようとする顔に近づき、そして───約束を重ね合わせた。
 呆然とするレイメイの間近に、青い瞳がある。
 落ち着きを与える筈の青の向こうにあるものを見て、レイメイは動けなくなる。
「続きは‥‥帰ってきてから、だな」
 子供ではない約束をした彼の言葉が、遠く響く。
 あなたの青が、私を強くする。


「おばあちゃん? まだ起きてましたか?」
 ヒメコ・フェリーチェ(sq1409)の声が、夜のガーデンに響く。
 祖母へ連絡するヒメコは、明日の戦いを前に祖母を案じて電話しているのだ。
「‥‥はい。ヒメコは、とっても元気なのです! おばあちゃんは、どうですか? ‥‥良かったのです」
 見守る志島 陽平(sa0038)は、ヒメコが安堵しているのを見て、自分も安堵する。
「用事が終わったらすぐ帰りますから、心配しないで待ってて、なのです‥‥!」
 やがて、通話が終わる。
 お待たせしました、とヒメコが陽平に笑顔を向けた。
「いよいよ、ですね‥‥」
 ヒメコが『生命の樹』を見つめるように空を仰ぐと、陽平も空を仰いだ。
「明日の為に、お勉強も訓練も出来ることはやってきたつもりなのです、けど‥‥」
 やっぱり、少し、怖い。
 そう呟くヒメコの狐の耳は、彼女の内心を表すように震えていた。
 大丈夫、と安易に言うことは出来ない。
 明日がどうなるかを予想出来ないから。
 ふと、陽平は足元を見た。
「ヒメコさん、足元を見てくださいッス」
 空を見ていたヒメコが、陽平の言葉に気づき、足元を見た。
「あ‥‥」
 足元に咲いていたのは、スミレだ。
 植えられたものではなく、ガーデンに自生しているものだが、世界の破滅を迎えるかもしれない明日を前にして尚、懸命に生きようとしている。
「スミレには、小さな幸せという意味もあるッス。懸命に生きている皆の小さな幸せを、明日護る為頑張るのと‥‥」
 陽平は、ヒメコの手を取った。
 サンダーソニアとライラックをモチーフにした指輪は、アメトリンとルチルクォーツをそれぞれ抱いている。
 未来を掴みたい想いは、この温もりをくれる人のように優しく光っていると思う。
「自分達の手で、生きる未来を掴めたらと思っているッス」
「やっぱり、陽平は魔法使いなのです」
 陽平にヒメコはそう笑うが、陽平にとってはそれこそ魔法だ。
 明日が分からないのに‥‥明日を掴めると思える。
 自分に落ち着きをくれ、温かい気持ちで満たしてくれる。
 1人だったら堂々巡りしていたかもしれないのに、一緒にいて、同じものを見て、話している、ただそれだけでヒメコは世界を塗り替えてくれると思う。
「陽平のお顔を見るだけで‥‥ヒメコは、何だか安心したのです」
 ヒメコも、自分と同じ。
 それが、嬉しい。
 今日眠った先‥‥明日は不安なく立ち向かえる気がする。
「おばあちゃんに、ヒメコの元気な姿を見せることが出来ると思うのです」
 それで、とヒメコが陽平を見た。
 ちょっとだけ、そわそわした表情で。
「そうしたら、陽平と一緒にお庭にお花を植えることが出来るのですよ。陽平のお家と同じお花を、お庭に植えるのです」
「戦いが終わったら、まずは何の花を植えるか相談しないといけないッスね」
「はいなのです!」
 会話を交わし、2人は笑い合う。
 放課後じゃなくても、過ごす時間は特別‥‥そうだよね?


「乾杯、かな?」
「乾杯でいいんじゃない?」
 郡上 浅葱(sd2624)の言葉にミラベル・ロロット(si6100)は、笑みを零した。
 ここは、バベルス・モール内にあるバーだ。
 持ち込みも可能であるこのバーでまず、開けたのが浅葱持参のヴィンテージシャンパンだ。
 ミラベルから贈られたこのシャンパンは、特別な時に彼女と呑みたいと思って取っておいたものである。
 呑みに行きたいと前から話していたが、今日やっと実現したのだ。
 その理由は───
「とりあえず、仕事お疲れ様?。やっと息つけた?」
「そうね。大体って所かしら。受験に卒業とこの時期は暇なんてなかったけど、休めたと思ったら、また4月からスタートよ?」
 ミラベルも浅葱も同じ職場と言えば職場だが、その立場は大きく違う。
 言語のスペシャリスト(この点については浅葱も一緒だが)であり、その教育手腕も卓越しているミラベルは、非常勤であっても重宝され、教壇に立つ身だ。
 この為、生徒の受験指導も行う立場にあり、ここの所忙しい身だった。
 浅葱は合唱指導の立場にあり、教壇に立つ立場ではない。
 次に何を歌おうか生徒達と探そうと思っている位なので、ミラベルに比べれば大変ではない。
「でも、合唱コンクールの前は、大変そうね? 合唱部なんかはソロで歌う子もいるだろうし」
「そうやねぇ。技術云々よりも感情をどう込めるかって所もあるし、生徒には色々経験してほしいなって思ってる所」
 その詞ひとつひとつに込められている感情を心で理解し、歌に乗せるには経験が大事だろう、と浅葱。
「なるほど。私も、生徒達が多くのことを経験してほしいと思っているわ。年を重ねてからは出来ないことだってあるしね」
 ミラベルは納得の声を上げ、グラスを傾ける。
「そう言う割に、私はご縁なかったりで見聞きしただけのこともあったりしますけど」
「あら、そうなの? 浅葱さんを放って置くなんて、世の男には見る目がないわね」
 ミラベルは浅葱の苦笑にそう言って、クスクス笑う。
 浅葱なら、彼女を心から愛してくれる人がきっと現れる。
 そう思うからこその言葉だ。
「そう言うミラベルさんは、ええ感じの人がおられるって聞きましたけど、どんな感じなんです?」
「そう、ね‥‥一応、SINNとしての戦いに一区切りついたら、変化がある予定なの」
 彼は彼の事情で身動きが取れなかったようだが、ミラベルは迷ったこともあると言う。
 それでも、待った。
 待って今があるなら、待っていて良かったと思う。
「だから、明日で決着をつけなくちゃって所なのよ」
 今まで話題にしていないのは、明日の向こうを疑っていないから。
 確信しているからこそ、ミラベルはそう笑い、聞き手の浅葱も笑う。
 クッキーを食べつつ、明日の先を話す2人は、その明日、ミラベルが戦いの最中に彼から爆弾を落とされることを知らない。
 明日の今頃、さて、爆弾を落とされたミラベルを浅葱はどう見る?


 メイリア・フォーサイス(sa1823)は、エルネスト・ブノワ(sz0035)と共に広場へ腰を下ろしていた。
「はい、メイ。まだ夜は寒いからね」
「ありがとうございまーす!」
 エルネストがカフェで買ってきたロイヤルミルクティーを差し出せば、メイリアは嬉しそうに笑う。
 先程まで、2人はショッピングをしていた。
 明日が決戦を考慮したからか、ルークス市国サイドの配慮により、店の多くが営業していたのだ。
 焼き立てではないが、スコーンとクロテッドクリームも購入しており、ちょっとしたお茶会の始まり。
「エル、良かったのですかー?」
「何が?」
「エルに、買ってもらったりしましたけどー」
 全て、エルネストの出費だ。
 服や雑貨は見ているだけ、とメイリアが言ったからで、その理由は「明日の戦いで無くしてしまったらそのことが気がかりになってしまうから」というもの。
 それを聞いたエルネストが、どういう訳か「クールダウン」を繰り返したが、メイリアはその意味がよく分からない(知らないとは、罪である)
「幸せそうなメイが見られるから、私はいいけど」
 エルネストからそう微笑まれると、メイリアは照れてしまう。
「メイ、気づいてる?」
「‥‥あ!」
 エルネストに言われ、メイリアは気づいた。
 この広場は───
「そう、初めてキスした場所」
 あの時は、クリスマスだった。
 イベントに参加して、ハプニングもあったりしたけど‥‥あの時は、今も鮮やかに思い出せる。
 あれから、多くの時を過ごしたと思う。
 でも、足りない。
「もう少ししたら夏物の服を見たいですし、エルと一緒に海も見たいですし‥‥クリスマスも誕生日も‥‥ううん、毎日一緒にいたいです‥‥」
 欲張りだけど、一緒にしたいことが沢山あり過ぎて。
 今まで過ごした時間だけでは足りないのだ。
 だから、明日は必ず生き残る。
 平和になった世界で、先日見た夢を現実としたい。
「夢で終わらせるつもりはないよ、私も。‥‥私の夢もあるしね」
「エルの夢ですかー?」
「メイにしか叶えられないと思うけど、今は内緒」
 首を傾げるメイリアがエルネストの夢を知るのは‥‥彼が健康的な男だったと知る時。
 つまりそういうことである。


「日本には‥‥験担ぎっていうのが、あるんだ‥‥」
「ゲンカツギ?」
 三輪山 珠里(sb3536)の言葉にアキ・オドネル(sp5637)が首を傾げた。
 ラムベースのカクテルを傾け、珠里の言葉に耳を傾けるアキは、会話がスムーズに出来ればとベネディクタを成就していたりする。
 今ここであれこれ思っても仕方ないと思うからか、拭えない不安や気がかりよりも最後の晩餐にしない為に食事会を開こうと言ってくれた珠里の話が聞きたかった。
「例えば、日本にはトンカツっていう豚肉の揚げ物があって‥‥それを使った料理に‥‥カツ丼というのがあるんだけど‥‥」
「トンカツ美味しいよね」
 運ばれてくる料理をもぐもぐさせている柴神 壱子(sa5546)が、トンカツの説明をちゃんと耳に拾って、コメントしてきた。
 食べるの大好き壱子、そこは言わねばなるまい。
 その壱子に笑みを零しつつ、珠里は先を続けた。
「日本語の勝つとトンカツを結びつけたり‥‥他にも、色々あるよ‥‥」
「勉強になりますね。言葉遊びみたいなものを感じます」
「単にちゃんと食べて‥‥備えろってことかもしれないけど‥‥」
 でも、明日が明日なら、そうした言葉遊びも話題になる。
「ま、明日で世界の終わりにするつもりは毛頭ありませんけどね」
「当たり前じゃん! こうして皆で食べたり飲んだり出来るように頑張るしかないじゃん!」
 リーリヤ・パルフョーノフ(so2515)がそう笑むと、リン・ブレイズ(sf8868)が壱子以上のペースで料理を平らげている。
(よく食べますね‥‥)
 リーリヤは、リンと言い、壱子と言い、よく食べると感心する。
 流石に少しばかり不安を感じると思っていたのだが、その不安さえ平らげてくれそうな勢いだ。
「手が止まってるじゃん!」
「あまりにも素晴らしい食べっぷりで‥‥素敵な晩餐を開いてくださった珠里さんに感謝していた所です」
 最後にしない為の晩餐、なんて、悪くない‥‥いや、寧ろいい。
 そうリーリヤが笑うと、珠里は嬉しそうにはにかんだ。
 この時間を、『皆』で楽しみ、『皆』の心を繋げたい。
 そう思っていたからこそ。
「本当にありがとうございます」
「わ‥‥っ」
 リーリヤが手を伸ばして珠里の頭を撫でると、その瞬間を翔子が写真に閉じ込め、笑う。
「この時間の一瞬一瞬、全て閉じ込めたい位愛しいからね」
「なら、閉じ込める一瞬を増やさないといけないですね。飛びっきりのいいお酒を私は呑みましょうか」
「賛成ー! 気前良く行こう! 明日の今頃も気前良く行くつもりだけど!」
 無理に勧めるつもりはないが、皆もどうかと言うリーリヤの言葉に壱子が笑う。
 壱子は、何も疑ってない。
 独りではないと知っていたから、戦いで消え逝くことはない、明日を掴み取れるという自信がある。
 『可能性』が、あるから。
 珠里がいて、翔子がいて、リンがいて、リーリヤがいて、アキがいて‥‥皆がいる。
 明日の先がないなんて思う余地なんてない。
 だから、沢山食べて楽しい時間を過ごして、明日頑張るのだ。
「んー! 美味しいじゃん! 皆も沢山食べるじゃん! 皆で楽しく食べられるのが一番いいんだぜ!」
「そうですね、楽しく美味しく食べる‥‥それが一番大事でしょう。大事なのは、美味しいと感じる心とのことですが」
 料理を味わうリンに笑いながら、アキが運ばれてきた料理を珠里と手分けして取り皿に取る。
 料理を美味しいと感じられなくなったら、それはひとつの危険信号。
 飲食業を営み、自身も扱うからこそ、食べるという行為が、実は重要なことであるとアキは話す。
 アイルランドにいる家族に、ルークス市国で今夜過ごすと伝えた。
 その覚悟と決意が揺らがないよう、ここにいるが、来て良かったと思う。
 美味しいと思う心が、失われていないのを実感したから。
「おいらは、あんま考えたことなかったけど‥‥美味しそうに食べることが出来るってのは幸せだと思うんだぜ!」
 だから、今日は食べるペースにも注意している、とリン。
 今は私服姿の彼女も、明日はパラディン正装を身に纏い前に出る。
 だからこそ、最後にしない晩餐で英気を養いたいのだろう。
「だね。こうして皆と過ごすことが、何よりの力だよね。明日を戦った先に何があるのか、私達がどんな世界を掴むかも分からない、けど‥‥絶対に負けたりしないし」
「勿論、最後にするつもりなどありませんよ」
 壱子が力強く言うと、リーリヤもグラスを傾けながらそう語る。
「そうだね‥‥まだ食べてない料理、食べられなかった料理‥‥沢山、あるし‥‥一段落したら、また皆で、食べたいね‥‥」
「いいアイディアじゃん! バベルス・モールのレストランを全て制覇する位の気持ちが必要じゃん!」
「リンさんだと、出来そうな辺りが‥‥」
 珠里の提案にリンが笑うと、アキが彼女なら出来そうとくすくす笑う。
 すると、壱子が「食い倒れなら負けない」と言い出して、話の輪が輝き出す。
 明日を生き抜けば、それらは確実な未来となるだろう。
 皆で食べに行く‥‥またこんな風に過ごしたいと思う想いこそが明日を生き抜く力になるのだ。
 私達は、負けない。
 人の力は、悪魔や吸血鬼に負けたりしないから。
(だからね、イーファちゃん‥‥空の向こうから、見てて)
 壱子は、空の向こうにいる友達へ語りかけた。
 あなたが、ううん、あなた達がいつか生まれ変わった時、幸せに暮らすことが出来る世界を、それが許される未来を、必ず掴んでくるから。
 それには───
「やっぱり、食べなきゃね」
「本当に美味しそうな顔で食べるよね」
 壱子の食べている姿を、翔子が一枚一枚に閉じ込める。
 そんな翔子を壱子がスマートフォンで撮り返そう、翔子が慌てたり。
 リンが追加で注文して、アキがテーブルにお皿が乗り切れないと慌てて皆の取り皿に料理を分配したり。
 リーリヤに頭をまた撫でられながら、珠里はそんな賑やかな時間を愛しく思った。
 きっと、この時間は、明日の向こうにも存在している。
 明日の向こうがどんな世界なのか分からないけど、この時間が存在しているなら、それはきっと悪い未来にはならないだろう。
 弾ける笑い声の時間も、日付変更の少し前に終わりを告げる。
「また、明日」
 そう言って、別れていく。
 また、明日‥‥その向こうにある未来の為に一緒に戦おう。
 だから、今日はありがとう。
 繋がった絆は、何よりも強く明日を見据える。


 間もなく、今日という日が終わる。
 明日は、決戦の日。
 SINN達は、人であるが故に小さな力を束ね、大きな力とするだろう。
 その束ねる強さこそ、彼らの絆の証。
 黙示録の向こうへ、彼ら自身を導くもの。
 全ての想いを抱き、明日を掴め。
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