図書館>
イベント>
East End【AS08】関連情報>
◆
企画イベント「vs酒池肉林!」
●ついにやってまいりました
「‥‥こ、ここがあの魔王のハウスね」
ついにやってきてしまったカフェビル「酒池肉林」。
秋葉原のど真ん中に佇むそれを見上げて、マリア・アンジェリーニ(sz0003)が呟いた。
彼女と共にこの場を訪れたSINN達は、揃って戸惑いの表情を浮かべている。
この最上階にあるVIPカフェなる場所に、かの魔王アスモデウスがいるという。
「‥‥どうしてこうなった」
思うのは、呟いたSINNだけではないはずだ。
「みんな、行きましょう」
「あ、ああ‥‥」
戸惑いを持ちながらも、マリアに促されて、彼らはビルに入っていく。
SINN達から見れば、マリアがやる気になっているのが奇異に映った。
しかし、マリアにとってはこれは好機でもあったのだ。
或いはこれまで人類と深く敵対していない相手だからこそ、聞き出せる話があるのかもしれない、と。
マリアと共に、SINN達はアスモデウスが待ち受けるビル最上階へと向かうのだった。
|
|
■企画イベント「vs酒池肉林」とは
特設チャットで行われる無料参加のチャットイベントです。
このイベントでは、NPC同士の対話が行なわれ、イベント中の必要情報を幾つか開示します。
また、チャットでのイベントであるためPCも自由に参加することができます。
■スケジュール
01月20日19:00 特設チャット開放
01月20日20:00 チャットイベント開始(1日目)
01月21日20:00 チャットイベント開始(2日目)
■会場
特設チャット:カフェ「酒池肉林」(本日19:00開放)
企画イベント「vs酒池肉林!」関連を記述するカテゴリー。
●1日目:魔王アスモデウスと私達
SINN達は、マリア・アンジェリーニ(
sz0003)と共にカフェビル「酒池肉林」へやってきた。
用向きを告げれば、接客態度満点のメイドさんに最上階まで案内される。
そこには、「すたっふおんりぃ」の文字。
この先に、VIPカフェなるものがあるらしく、そこに魔王アスモデウス(
sz0014)が待っているとのこと。
「‥‥よし、行きましょう」
マリアは、緊張の面持ち。
メモの準備をする烏丸 文(
sd4043)を筆頭に真面目を宣言するアントーニオ・インザーギ(
sa5938)がいたりする。
「気楽に行けよ」
圧倒されているアメリア・ロックハート(
sh1732)の隣にいたアーサー・ラヴレス(
sa4830)がマリアに声をかけると、マリアはこくりと頷き、ドアを開けた。
「超すたっふおんりぃ」。
目の前にあったのは、両開きのドア。
ドアを開けたマリアの顔が戸惑っている。
「‥‥うん、行きましょう」
気を取り直し、またドアをガチャ。
「はいぱぁすたっふおんりぃ」
今度は墨文字でそう書かれたふすま。
マリアが硬直していると───
バシィン!
勢いよくふすまが両側から開かれた。
まぁ、言うまでもなく、アスモデウス登場パターンですが。
「ついに来ちゃったなおまえらちゃん!」
挨拶を始める文とアーサー、どえらいサービスに笑うアントーニオ、勢いにビックリしているアメリアを他所に、「来ちゃった」とか何か照れるフィル・トランソー(
sz0054)とか反応様々だが、アスモデウスはダブルピース。
「あー!」
写真撮影許可していたアスモデウスは、動揺をアーサーとアントーニオに宥められるマリアを指差した。
「おまえあれだろ、神の子だろ!?」
ビックリしているマリアを他所にアスモデウスがいきなり核心衝いた大声を出す。
「スゲー、マジで生まれてやんの、何これ? 世界の破滅? スゲー、ってことはこの場にいるのあれか、ルークスとかの仲間?」
任務を思い出して顔を引き締めるマリアに気づかないアスモデウスは、何かはしゃいでる。
「‥‥だったら、どうだっていうの?」
神の子を聞かれて、擬音オンパレードで表現するアスモデウスにマリアが身構えるも。
「え? いや? 別に?」
「‥‥‥‥え?」
「‥‥‥‥え?」
アスモデウスの言葉にキョトンとしたマリア、それを見たアスモデウスもキョトン。
「何やら思いのほか重要そうな情報も得られそうですし、この方他の悪魔と大きく毛色が違うんですよ。まずは身構えずにリラックスしてあたるほうがよろしいかと」
「そ、そうなの? で、でも、そうね、ペースに気をつけつつ頑張るわ」
文の耳打ちに頷いたマリア、精神を立て直して会話続行。
「私たち、SINN、なんだけれど?」
「え? SINN? え?」
マリアの言葉に不思議そうなアスモデウス。
「だーかーらー、なんだっつーの!?」
「ええええええええええ‥‥!?」
アスモデウス初心者のマリア、その回答は予想してなかった!
※初心者ではないSINNはこの限りではない可能性が高い。
「俺達はSINNで、そっちのお招きに応じて来たわけだ。何か話、あるんだろ? あと、ちゃんとしたVIPサービスもあるんだろ?」
真面目に言うアントーニオ。
さっきまでよく分からない兄弟説やフィルとお店(意味深)の話をしていた人の言葉とは思えない!
「バーッカ、おまえちゃん、今は「酒池肉林」のお客様だろう! 知らねーの? 紀元前からよく言うだろ、「お客様は神様です」って!」
エラソーなアスモデウスは、皆のオーダーを聞いていく。
ビール頼んでるけど、このカフェ、酒の取り扱い許可取ってたんだ。
「それだとお客さん全員がルークス・クライストになってしまうわ」
マリア、必死に会話の軌道修正。
「やおよろずって素敵じゃね? みすてりあすじゃっぽーね!」
「‥‥ジャパンの神様観は色々流行ってるけど、ここでは置いておくとして。えっと――」
聞いちゃいないアスモデウスは、レイメイ・ウィンスレット(
so0759)の歓声に応えたり、「ラジオルークス」でクレミアたんの写真が当たったお礼を言いに来たニア・ルーラ(
sa1439)の会話したり大忙し。
「じゃー、でっかいパフェ! くださーい!」
マリアが言うのを躊躇ってる間に、ハルキュオネ・バジレア(
sh3934)なんかもオーダーしてたり。
「おう、なんでぇ! ここにお呼びしたからにはおまえらちゃんはご主人ちゃん! この俺ちゃんのおもてなしをくらいやがれェェェ!」
躊躇ってたら、何か熱く押し切られた。
「な、なら、私達、あなたと話したい、から、勿論聞いてくれるわよね? 私達がご主人様なら!」
「話し合い? トォォォォォォォォク! もちろんオフコォォォォォォォォォス! なんでもこいやぁ!」
あっさり、了承。
そんな訳で、マリアも憧れのクリームソーダを注文。
「‥‥ここ(酒池肉林)のオススメってなんですか?」
勢いに気圧されるもアメリアは、文の通常運行っぷりで腹を括ってオススメを確認。
「当店のオススメは俺ちゃんになっております!」
まさかの本人オススメ。
色々SINNが頼んでいくと、これ1人で運べなくね? という量になった。
「ヘイおまえら、出番だぜ!」
まさかのファルスアスモデウス、メイド服で大量投入。
クリームソーダがいつ来るかというワクワクを悟られまいとするマリアは、真面目そうな顔で聞く。
「聖櫃は返してもらえないの?」
何でもいいなら、とマリアは直球。
尚、鷺沼 妙子(
sp1602)が、端っこで爪を噛んでいるが、アスモデウスは気づいてないようだ。
「せいひつ? あーあー、エジプトの金ピカボックス? さすがにあれ俺ちゃんのまいふぇーばりっといんてりあだしなー! なー!」
「あれは私達に必要なものなの、だから‥‥!」
クリームソーダが目の前に置かれて顔が輝いたのをすぐに打ち消したマリア、でも、もう遅い。
「あ、必要なん? んー、どーしよっかなー! すぐ決められねーわ! チョイ考えるけど!」
アスモデウスは多分あんまり考えてないけど、即断はしなかった。
「アスモちゃんって、昔は何をしてた人なのー?中国とか、いろんなところに色んなお友達いるみたいだけどー」
「昔何してたか? 2000年くらい封じられてたね! エジプトの次はハゲと一緒にですよ、勘弁しろよな全くー!」
レイメイに答えるアスモデウスは、好みの下僕のタイプと尋ねたニアに世の中の平等を唱えたり、日本の漫画について質問したアントーニオへ日本の漫画の良さを話したりしている。
その間、アメリアが妙子を心配していたりしたが、アスモデウスは気にしてないようだ。
「あ、そういえば誰が今世界で変な事起きてる原因がルークス教だっていってたんですか?」
レイメイがハゲと一緒の経歴に同情を寄せている横で文も注文したオムライスを食べている。
アメリアやアリス・フリュクレフ(
sq1159)も驚いていたけど、沢山のファルスが来て、運んで来てくれた関係でオムライスにケチャップで描かれる文字もファルスアスモデウスだ!
「ヘルメスが言ってたね! 今世界がやっべーのはルークス教のせいだって! そーだったらいくないよおまえらちゃん!」
何かツルッと爆弾発言。
待て、ヘルメスって。
ヘルメスに関する質問が一斉にアスモデウスへ向く。
「ヘルメスは俺ちゃんのダチだね! ちょーいーヤツだよ! あ、でもちょっとスカしてるかな!」
そう言った後、顔をぱっと輝かせた。
「呼ぶか! ここに! ヘルメス!」
聞き出そうと質問をしていたSINNもこの申し出には停止する。
ビックリしているSINN達を他所にアスモデウスはスマホでどこかへ連絡。
「もしもしー、ヘルメスー? 今どこー? え、中国ー? じゃー、明日こっち来れる? え? 無理? うるせー来い。来ないとおまえの黒歴史ばらすぞコラァ!」
そんな訳で明日は、ヘルメスが来てくれることになった模様。
まさかの展開に驚きつつ、マリアは質問した。
「あと、あとね、あなたが魔王だったら、教えてほしいの。「大いなるバビロン」について‥‥。封じられてた、なら、理由あるだろうし、何か知ってるかなって思うんだけど」
「えー? バビロンー? あいつとっくに死んでね?」
マリアの問いにアスモデウスが即答。
「し、死んでいないわ‥‥! アリアは‥‥、まだ生きてる! 失礼なこと言わないで!」
思わず感情的になるマリアへアーサーが落ち着くよう指示。
アーサーは、アスモデウスから聞き出す為に質問を重ねた方がいいと判断したようだ。
「えー、でもバビロンとか死んだのすっごい前じゃね? 数千年くらい?」
「数千年前のバビロンさんってどんな感じだったの?」
アーサーが絶句するマリアに代わって質問。
もしかしたら、アスモデウスの言うバビロンと自分達が認識しているバビロンは違うかもしれないと思ったからだ。
「数千年前のバビロン? あれ? おまえらちゃん達知らねーの? え。ルークス教だよね? なんでルークス・クライストの妹のことも知らんの? 俺ちゃんちんぷんかんぷーん」
ルークス・クライストに妹がいたのか、と記憶するレイメイを他所にアスモデウスは本気で分からない様子。
「しっつもーん☆ 頂の6人のうちで、いちばんノリが合う人と、ダメダメな人をそれぞれ聞いてみたいわ」
バビロン関連も落ち着いた頃合いを見計らってアリスも質問。
「頂の5人とか言うけどちょーじょーは常に一人だろー! ヒゲとかハゲとかノッポ女とかがりがりちゃんとかもーね!」
アスモデウスは、やっぱり自分が1番らしい。
「さっきからすごく疑問なんだけど。‥‥あなたはディアボルス、なのよね?」
「え? 俺ちゃん? 俺ちゃんがディアボルス以外の何に見えるってー!!?」
ピンク(ハルキュオネ)
アイドル‥‥でしょうか?(文)
ノリのよいキュートな魔王様ねー(レイメイ)
そんな評価を聞きつつ、マリアは。
「ハイテンションを通り越した新たなテンションを手に入れてる人にしか見えないわ」
「おめー、やーめーろーよー、そんな可愛いとかよー」
※キュートと言ったのはレイメイであって、マリアではない。
「あなたは、SINNのことをなんとも思わないの?」
「思わんね! っつーかしゅーきょーとかよく分からんしね! え、神様? 俺ちゃん以外に必要? 必要なくね? ほら、俺ちゃんってば世界愛してるし?」
「な‥‥、主を愚弄するのは許さないわ! それに、ディアボルスだったらホスティアが必要なはずよ!」
マリアがアスモデウスにそう言うが、当のアスモデウスは話題に出始めたヘルメスの素性について話すSINN(主にアーサー)へ「個人のプライベート詮索とかいくない、いくないよ!」と憤慨し、現実の総帥は普通に総帥しているだけの総帥と常識的な意見をぶちかましていた。
「まあ、逆に言えばホスティアなしでも悪魔が平気なら別に敵対する必要もなくなるわけだけど、それが難しいみたいよねー」
レイメイは、アスモデウスを観察しつつそう呟く。
「ホスティアうめーよな!」
「やっぱり‥‥、ディアボルス‥‥! 皆、騙されちゃダメ!!」
いい笑顔のアスモデウスを見て、危機感を覚えたマリアが皆に注意するが、クリームソーダは攻略中。
でも、アントーニオは「野球楽しーよな!」とホスティアとはあんまり関係なさそうなことを笑顔で言ってて平常運行。
「でも俺ちゃん愛し愛されあすも★ラバーズからのラァァァァァブがマジサイコー!」
ホスティアが美味なのかという疑問を打ち消す言葉は、アメリアの戸惑いを呼ぶには十分だろう。
「まさか。おもてなしする→お客さんが気持ちよくホスティア発散→アスモちゃん‥‥うまー! とかそういう」
そのまさか。
アスモデウスは、人々が発散する強い感情を吸収して力に変換できる能力の持ち主。秋葉原とかはマジで最高の住み家な魔王なのだ!
※ただし魔王以外は普通にホスティア摂取。それは放任。
「アスモ様が完全にいい奴とはまったく思ってないけど、今は仲良くすべきだと俺は思うなあ」
フィルは、一時でも敵対しない方がいいのではないかとぼそぼそ。
「そういえば、ルシファーさんが悪魔も、神様と一緒にこの世界を作ったものって言ってたし、悪魔も実は世界に必要なもの、だったりして。神様と一緒に世界を作りましたっていってたルシファーさん、人間を滅ぼして世界ゲット☆とか言ってたけど、アスモちゃん的にはどうなのかしら」
「ルシファーほっとくとアキバ滅んじゃうんじゃないの? こっちはそれとめようとしてんだけど」
レイメイの考察に便乗する形でアーサー、上手い所を衝く。
アスモデウスの動きが停止、何か真面目な顔になった。
「俺ちゃんってばちょっとよーじ出来たかもしんねーわ! 質問まだあるならちょっとだけ受け付けちゃうぜー!」
遅刻した狼牙 隼人(
sa8584)が、ぷるるん美女がいないと騒いでいるが、平常運行だし、レイメイが恋人へ連絡したから、何とかなるだろう。
アスモデウスの申し出もあったから、とレイメイは改めて考察を質問としてアスモデウスへ伝えた。
「え、世界? そーそー、神ちゃんと俺ちゃんとヒゲハゲノッポガリガリちゃんで作ったね! こー、パーっとしてシュバーって感じのズドドンで! 人間滅ぼすとかけしからんね! でも滅ぼされる人間もけしからんね! なんでそこで諦めんだよ! 頑張れんべ! イケるイケるもっとイケるって!」
何か都市伝説にもなってそうな人のノリだ。
「あらー神様と一緒に世界を作ったってことは昔は仲良しだったのかしら。何でいま喧嘩しちゃってるのー? 仲良くしたほうが楽しいわよー」
「世界? へーわになるんじゃね? なんせパーフェクトぷりちーあすもたんの前に統一されっしー!」
レイメイの問いに対する答えは、答えになっていないような気もするが、さておき。
「俺達SINNと何らかの方法で決着をつけるつもりはあるのか?」
最後は真面目に、とアントーニオ。
でも、もうイタリア男をよく見させていただきましたからね?
「え、何、決着とか? お客様と決着? 王様ゲーム?」
「王様ゲームか。まぁ、それもいいかな。敵意が無いなら‥‥野球でもしようぜ」
分かってない様子のアスモデウスにアントーニオが野球対決を提案。
王様ゲームで隼人を王様にしない仕込みよりも野球のルールをSINN達に把握させることの方がずっと難しいと思うのだが、どうだろうか。
「最後に1つだけ、先着1名様まで質問OKだぜー!」
「アスモデウスーは柴犬は好き?」
隼人に続いて遅刻してきた柴神 壱子(
sa5546)は、流石ブレない。
クレミアたんのどっきゅんらぶはーとショコラパフェを注文する壱子へブレねぇという彼女への賞賛が集まる中、アスモデウスの返答は。
「この世界に! 俺ちゃんが嫌うものなど! ありゃしねぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ! 柴わんこちゃんらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぶ!」
こっちもブレてねぇ。
その意味においては、仲良く出来そうと壱子は思った模様。
しかし、そろそろ閉店時間、パフェを急いで食べる壱子だけでなく、皆も帰り支度。
「お代は、えーっと、フィル・トランsアフロ? こいつの口座から引き落としですねー、ありがとうございましたご主人様!」
フィル自腹決定。
「それなら、私、お土産に、このクッキーお願いします。えと、フィルが払ってくれるのよね。おじ様の分、法王様の分、アリアの分、衛兵さんの分、ハヤトにお説教する職員(最年長)さんの分、それから‥‥」
ワッフルケーキも地味に追加注文していたマリア、遠慮なくお土産(別料金)も購入を決める。
「おぃ!?何で俺がお説教される事になってんだよ?!!」
「だって、ハヤト、この前最年長職員さんにすごくお説教されてたし、支部できっと衛兵さんが待ってると思うの。彼女が抜かりあるとは思えないわ」
その一言に怯えた隼人は、一足早くバックレた。
「フィル ごちになりましたーーー」
アーサーの笑顔の横でフィルがカード決済。
せっかくカードの限度額が回復したのに、また限度額オーバーになった模様。
可哀想なフィル、きっといいことあるよ(棒読み)
「まあいいか。世界が滅ぶか滅ばないかって時に借金したってどうという事はないだろう」
ダメ発言をしているフィルの横では、便乗してお土産購入したレイメイもいたりする。
そんな会話をしていると、どうやら外は雨。
「雨降ってきたなら、帰りましょ! 傘持ってないし、急ぎましょう」
「酒池肉林」の生え抜き精鋭メイド(格闘[万能]仙級)の見送りも受けつつ、マリアに促され、皆店を後にする。
明日もあるから、徹カラしない方がいいぞ☆
●2日目:魔王ベリアル、その言の葉
SINN達は、昨日と同じようにこの場へ来ていた。
「‥‥なんか、空気が違うような」
マリアは、昨日とは違う何かを感じ取っている模様。
昨日は派手で賑やかだったが、今日は静まり返っている。
「扉の前に佇んでいても、何も変わることはないよ。気を楽にして、入ってくるといい」
ふすまの向こうから、穏やかな男性の声がする。
「‥‥‥‥わかったわ」
決意を固めたマリアがふすまを開けた。
「やぁ」
そこにいたのは、きちんとした身なり(半裸ではない)をした男性がいる。
艶やかな銀髪を持つ彼は、入ってきたSINNを見て、くすりと笑った。
「直接まみえるのは初めてかな、小さな神の子さん。何度目かになるかもしれない人もいるだろうか。もしそうであれば、久しぶり、としておくよ」
彼の言葉通り、彼と初対面のSINNもいたが、そうではないSINNもいる。
「‥‥‥‥本当にお出ましになるとは。‥‥‥‥本人かどうかはさておいて」
声に驚いていた玖月 水織(
sh0007)もその1人。
彼女はその声が姿と一致した、つまり本物か偽物かはさておき、彼がここにいることに少なからず動揺しているようだ。
それでも、その動揺を表に出さないのは、彼女が今まで陽炎の軍勢に関連する任務に携わり、辛酸を舐めることもあった経験によるものだろう。
「‥‥マリア・アンジェリーニよ。私は、神の子じゃない」
「これは失礼。では、マリアと呼ばせてもらおう。そして、君達も、名を聞かせてもらっていいかな?」
気分を害した様子のマリアに微笑む彼は、SINN達を見回す。
SINN達の中からも、彼がアスモデウスが紹介したヘルメスかと問う声が出ているが、それらに対し、大きな反応は見せていない。
SINN達が名乗る中、マリアは名乗ろうとしない彼に問う。
「あなたのことは、どう呼べばいいのかしら?」
「おや、私のことはすでに見知っているとばかり。既に幾度か、名を呼んでもいる方もおられるようだが」
先入観は良くない、とでも言いたげな彼は、くすくす笑った、
彼の名は、実際、幾つもある。
紅 玄暁(ホン シュエンシャオ)‥‥現在、彼が人間社会で名乗る名。
ヘルメス‥‥アスモデウスがそう呼ぶ、彼のかつての名。
そして───
「紅 玄暁‥‥、聞き慣れた名だ。ヘルメス‥‥、すでに耳に懐かしい名だ。しかし、今の私を表す名としては、どちらも適切ではないね」
名を挙げていくと、彼はそう笑う。
「今、この場では、ベリアルと呼ぶのが正しいのだろうね。君達がいて、私がここにいるのだから」
水織が挙げた名のひとつを指した彼、ベリアル(
sz0016)は、肉体構成を解除した。
真紅の翼と天使の環を持つその姿は、彼の本性、悪魔としての正しい姿だ。
「SINNの諸君。君達が、命を賭して、全てを投げ打ってでも滅ぼさなければならない数多の悪魔の頂。その一体が、この私だ」
「真の姿を見せるとは‥‥やってやるぞの宣告ですか?」
ベリアルの言葉に身構えるマリアを庇うように須経 蘭華(
sb0118)が、睨みつける。
けれど、ベリアルに戦う意思はないのか、穏やかな笑みが向けられた。
「やめてくれると嬉しいね。私も、旧友に強引に誘われて強行軍でやってきた身だ。しかも呼んだ当人は収録があるからとスタジオ入りしてしまったよ」
だから、アスモデウスはここにいないのか。
呼ぶだけ呼んでいなくなったことには、同情するが。
「そういうわけで、留守番を任されてしまってね。私も仕事がたまっているのだが、全く、勘弁してほしいものだ」
身構えるSINN達を水織が嗜める中、ベリアルは軽く肩を竦める。
蘭華が全てを投げ打って滅ぼすのはケツ顎であり、ベリアルは障害物のひとつに過ぎない(つまりお呼びではない)と笑顔を向けても、彼の微笑が崩れることはない。
アスモデウスがアイドルとして春の歌番組の収録に行ったという情報を明かすベリアルは、神代 翼(
sb3007)とマリアから来日の理由を尋ねられると、こう返した。
「ここに来た理由か‥‥。過去の所業を暴露されて平気な者が、どれだけの数いるのだろうね。そういうことだよ」
その答えに関し、その過去の追及の目が向けられる。
彼は、過去の所業を暴露されて平気ではないということか。
その過去は───?
「まぁ、ジョークだがね。私の過去など、暴かれたところで栄光しかない」
「今の貴方に至る過程の果てにあるのが、人を人ならざる者に作り替える理想ということですか!?」
どの過去も今の自分へ至った過程であり、それを誇りに思っている。
そう付け加えるベリアルは、SINN達を前に揺らぎひとつ見せることはない。
感情的になった水織さえも面白そうに見ているだけだ。
「そーいや、あれか。てめぇは星一族を焚きつけて来やがった王 壱紅(ワン イーホン)のボスだったな‥‥」
そのことを思い出した隼人は、瞳を鋭くする。
彼は、自分の仕事の為に実の娘であった貪狼に対する壱紅の対応を許してはいない。
「隼人さん、押さえてください、ここじゃまずいです。‥‥私だって押さえているんですから」
水織の指摘もあったが、蘭華もここでベリアルと戦うのは得策ではないことは分かっている。
だから、堪えているのだ。
そんな2人の反応を見つつ、ベリアルは何も変わらない微笑をSINN達へ向けた。
「さて、私に許されている時間も限られている。何も、喧嘩をしに来たわけじゃないんだ。話をしようじゃないか。簡単な、質問会だよ」
「自信たっぷりだこと。さすが魔王といったところかしらね」
レティシア・モローアッチ(
sa0070)が皮肉を言うも、時間が限られているなら、限られた時間内で聞けることを聞かなければ。
「君達の問いに、私が答えよう。私の問いに、君達が答えてくれ。それだけだよ、単純だろう? 会話というものは、それだけで十分に楽しめるエンターテインメントさ。複雑さはいらない。私は、そう思うね」
聞くだけ聞いてみろということかと呟く文に応えるかのようなその言葉は、優雅な自信に満ちている。
「さぁ、まずは君達のターンからで構わない。見せてほしい。君達の意志を」
「あなたはその果てに、どんな世界を目指してるの?」
翼は、水織の発言も踏まえた上で真っ先に質問をした。
「どんな世界を目指しているの、か‥‥。そうだね、どんな世界を目指そうか、それを今考えているところだよ」
ベリアルの回答に翼の顔が怒りに歪む。
「つくづく、人を怒らせるのが巧いね」
何とか怒りをやり過ごす翼。
続いて、文が質問。
「昨日のアスモデウスさんの話で気になったのですが‥‥貴方が悪魔になる前は5人の頂とルークス・クライストが世界を運営していた‥‥という状態だったのでしょうか?」
「世界のはじまりについて知ろうとするその蛮勇を、私は心から尊敬するね。しかし、神が直接世界の運営を行なっているわけではない、そして5体の魔王、いや、5体の天使は神と共に世界を作った。それは間違いない」
ベリアルの答えは、明瞭なものだ。
質問を考えていたマリアは、そもそもの質問を投げた。
「ベリアル、あなたは何者なの?」
「そう、世に錬金術と呼ばれる技術をもたらした、はじまりのハンドラー、ヘルメス・トリスメギストス。それは、かつての私を呼ぶ名であったね。私の残した道を、多くの人々が追ってきていることが、実に喜ばしい」
実際、今この場にいるSINNの中にもハンドラーの数は少なくない。
ベリアルはそのことに気づいているらしく、微笑を深めた。
「ただ、どうやらルークス教は私のことが気に入らなかったようでね、後の世で裏切り者の烙印を押されてしまったが」
不穏な響きを持ったその言葉に、SINN達も眉を顰める。
けれど、次から次へと質問が来ており、ベリアルはそちらへの質問を答え始めた。
「人であったから理想はかわった。‥‥そう言っていた貴方の人であった頃の理想を変えるに至った出来事は。‥‥‥‥知識の探求を至上命題としていた貴方が、悪魔となって実現しようとしている理想とは」
レティシアの質問は、マリアの質問の回答に内包していると判断されたのか、そう投げかけた水織の質問をベリアルはこう答えた。
「私の理想は今も昔も、何も変わってなどいないよ。そう、ずっと同じだ。錬金術も、人であることを捨てたことも、その理想、その目的のための過程でしかない」
水織が、怪訝そうな顔をする。
先日、ファルスではあったが、ベリアルに問うた際、人であったから理想は変わり、悪魔であったから理想は不変となったと回答された彼女は、回答が変容しているのではと考えたのだ。
ただ、ベリアルにその回答自体に思惑があるのかもしれない。
そう考えた水織は、ひとまず追及を押さえる。
「魔王が元は天使だったという事ですが、何故ルークスと袂を分かつことになったのかわかりますか? 何か大きな事件があったとか」
「天使が悪魔に堕ちた理由? さて、知らないね。知っていても、単なる雑学以上の価値はないよ、私にとってはね。ただ、一言、「神は人を愛した」。それが全ての始まりだったとだけ、伝えておこうか」
裏切りの言葉に動揺するマリアの肩を抱く蘭華は、文の質問に対する回答を聞く。
「そろそろ、私のターンに移らせてもらってよいかな?」
一旦区切る必要を感じたらしいベリアルは、多く出ている質問の回答を後程とし、こう尋ねてきた。
「君達は、神話の成り立ち、というものを考えたことがあるかい? 或いは、民話、もしくは宗教学における信仰対象というものの成り立ちでもいい」
微笑を浮かべるベリアルの意図は読めない。
「神と呼ばれる超常の存在。英雄と呼ばれる人でありながら人を超える存在。それらに打倒される悪。怪物。邪悪なるもの。私はかつて、ルークスに協力していた。ルークス教にではない、ルークス・クライスト本人に、だ。そして、今、こうして人ならざるものとして、君達と言葉を交えている」
それ故の問いなのだろうか。
疑問はある が、問いに答えなくてはならない。
「歴史は苦手だけど、「一つの真実と思われるものが幾多の口を経る毎にそれぞれの主観によって分岐した」‥‥‥‥そんな感じ?」
「何だ。考古学‥‥民俗学か? そういうものの始まりは基本的に『未知』だ。理由を考えても、分からないもの。理論の空白。それを埋めるために、たとえば神、たとえば精霊‥‥そういうものが引き合いに出される」
翼の思考の後、幾つも回答が出、続いたのは、態度のでかさは魔王を凌駕すると翼とマリアから太鼓判を押されたジェネレイド・キング(
se9786)。
「概ね事実を見た人・聞いた人がそれを自分の都合のいいように解釈・改変を行ってできたものだと考えていますが」
「従姉妹は、神話における善と悪の位置づけは人に対するスタンスで人が判断するだけ、両者は同列の存在事象と言いますが」
文、水織もそれぞれの見解を示す。
「今信じているものは真実出ないのかもしれません。でもそんなのどうでも良いのですよ。信仰が人の助けとなり支えとなれば。過去は過去です。利用できれば其れで良いんです」
蘭華は、微笑さえ浮かべてそう言う。
それら意見をベリアルは、興味深く聞いているようだ。
そして、言った。
「そう、神話とは結局、事実が人の意によって歪められたものでしかない。例えば、ルークス教に入っていなかった私が、ルークス教の人間として聖書に登場している、とかね」
事も無げにそう言った後、蘭華へ顔を向ける。
「利用できればよいというその回答に私は賛同しよう。実際に利用された身として、その効果は実感しているのでね」
SINN達は、その言葉の先を暗に促す。
この口振りは、まるで───
「紅 玄暁、ヘルメス・トリスメギストス、それ以外にもう一つ、君達は私の名を知っている。信者であれば、当然のように。‥‥ルークス・クライストは素晴らしい男だった。世界の趨勢になど興味のなかった私が、その意志を曲げて、心から協力したいと思える。私の理想すら捻じ曲げた、高潔な男だったよ」
それこそが、水織が回答に感じた違和感の正体。
理想が変わらないと先程発言していた彼は、ルークス・クライストの為に理想を変えたと今、言った。
その表情の変化を楽しむかのように、彼は最後の名を口にする。
「はじめまして、イスカリオテのユダだよ」
●2日目:最初の異端者、彼が求めるものとは
意外性がないというアーサーの評価はさておき、ユダでもあったベリアルの言葉に、SINN達の顔は嫌悪に歪む。
「‥‥ルークス教に裏切り者に「された」というのが真実であれば、‥‥ユダは、ルークスを裏切ってなどいなかった‥‥?」
「いいや、裏切ったさ。今この身を見れば、分かるだろう。私は最終的に彼を裏切った。結果だけを見れば、そこに間違いはない。歪められたのは、私はあくまで協力者、信者とは違う立場にあったが、信者ということにされた。その一点さ。そしてその一点によって、私は世界最大の裏切り者としての烙印を押された」
水織の問いにベリアルは明瞭な否定を返す。
ジェネレイドは、ベリアルの話が事実ならユダのニュアンスも変わるだろうと冷静な見解を示したが、他の者はベリアルの話を俄かに信じられない様子。
「さぁ、信じるかどうかは君達に任せよう。私のターンは終わりだ。まだ答えていない質問に答えようじゃないか」
ベリアルは、どの質問から再開か把握していた。
烏ツ木 保介(
sd0147)からの質問に対し、ベリアルは答えた。
「ルークス・クライストとルークス教をそれぞれどう考えていますか? だったね。ルークス・クライストは素晴らしい男だった。彼のためならば命を投げ出しても惜しくないと、私ですらそう思える男だった。この言葉に、嘘偽りはない」
「裏切ったとぬかした後に言葉に嘘偽りは無いですか、紅グループらしいですね、結構」
呟く保介に、ご丁寧に人は大切なものを複数持てるだけの話とベリアルは返す。
ルークス・クライスト自身をそう評した彼は、ルークス教について言葉を続けた。
「ルークス教については、ビジネスパートナーとしては旨味があるが、個人的に感じるところはないな」
義理はないようだが、利害が一致すれば協力もありうる。
蘭華と文が推測する中、ベリアルはこう言った。
「ビジネスは、間もなく終わるだろうがね」
「ビジネス‥‥それは、プロジェクト・アークのことかしら。エルネストが持ち帰った情報にあったわ。それは、一体どういうプロジェクトなのかしら?」
年末、エルネスト・ブノワ(
sz0035)らSINNが中国福建省福州にあった秘密研究所に潜入し、奪取した情報の中にあった単語。
シンの追撃もあり、エルネスト以外のSINNが全滅、遺体回収も出来なかったその任務で得た情報をマリアは無駄にするつもりはなかった。
「‥‥ああ、アークの情報をそちらに奪われていたのだったね。見事な手腕だよ。こちらの想定を超えてくることがあるから、面白い」
飛び交う思惑や彼に対する挑発を全て受け流し、ベリアルは情報を奪取した手腕をまず、褒めた。
続いて、その内容を。
「簡単な話だよ。ただの水遊びさ。「ノアの箱舟の逸話を完全に再現する」。それだけの企画だよ」
「企画倒れで終わってくれる事を願いたいね」
驚愕するSINNが多い中、翼が感想を漏らす。
ジェネレイドなどは、東南アジアで発生した大雨が現在台湾で猛威を振るっている事実を思い出し、思考に移っていたが。
怒りさえ覚えるSINNもいるが、ベリアルは特に感慨を覚えている様子はなく。
「何事もやってみるまでは結果は分からないものさ。上手くいけば、そうだね、人も悪魔もほぼ押し流される。というだけさ」
「押し流すなんて、そんな水洗トイレじゃあるまいし」
ニア同様泳げないという自己申告の九門 蓮華(
sa0014)はそう返すが、実際に押し流されれば蘭華の言う通り、億単位の命が奪われるだろう。
「ハッ、人を語るなよ、悪魔が」
ベリアルに言われたその言葉を嘲笑した保介は、マリアの質問に質問を重ねた。
「あんたの言うビジネスとは、マリアさんが言ったプロジェクトとやらで相違ないんですかね、一応聞いときます」
仕事と遊びはさほど変わらない、と発言するベリアルに対し、蘭華が怒りを覚えている中での質問。
蘭華の手をぎゅっとマリアが握った、その瞬間。
「人を語るなら語れるほどの人となってから語れよ、悪魔にもなれない脆弱が。と、でも返しておこうか」
微笑のまま繰り出されたその言葉の矢は、痛烈さを伴っていた。
その痛烈さに対する反応を観察したベリアルは、質問に答える。
「私のビジネスはそのプロジェクトで間違いないね」
遊びとも称するそのプロジェクトに対する怒りは、ナタク・ルシフェラーゼ(
sa2677)のように顕著なものもいる。
が、ニアのように、最後に自分達が勝つから言わせておけと蘭華を嗜める余裕を持っている者もおり、様々だ。
「仕事も遊びも、生きるという行為の二側面。二つが同一ならさぞ人生は楽しく、お前のように綽々と笑ってられるのだろう。‥‥だが分別の利かない遊びというのは、過ぎれば当然、叱りを受けるものだ」
「私を叱るような存在がいなければ、それも受けずに済むだろうね」
崩れぬジェネレイドにベリアルも微笑で応じる。
やはり態度のでかさは安定している。
「べリアルさんはルシファー等の他の頂も押し流してしまおうと?」
「そういうことだよ。まぁ、魔王まで流せるかどうかは分からないがね」
文は情報を引き出す為の質問を重ねる。
ベリアルは、あっさり答えた。
そんな彼だが、文や隼人が聞いた、魔王と神の仲違えについては、こう答えるに留めている。
「答えられない質問には答えられないな。何せ、答えようがない。私は他の魔王が地に落ちた理由は知っていても、それを現場で見ていたわけではないのでね」
蓮華の質問の回答も内包したその答えは、彼もまた、それ自体は伝聞の域に過ぎないと示すものである。
が、彼がかつてハンドラーの祖であったのは事実であり、ジェネレイドは彼が目的の為に悪魔となった方が都合がいいと判断したことやその観点からパペットがさほど高いレベルではなくとも『魔的な身体』を得るのではないかと見解を示した。
「‥‥貴方が悪魔になってまで目指そうとしている世界は、「貴方の知るルークス」の願いに、沿うのですか? ‥‥理想を変える程の影響を与えたルークスが見た世界と、私達が信じるものは、違う‥‥?」
「答えさせてもらうが、私にとって、「世界」などあまり大きな意味は持っていないよ。それに、そう、きっと理想という言葉が悪いのだろう。理想ではなく目的という方が正しい。その目的のために、私はこの身に到った」
何様と発言する蘭華、抵抗すればいいしおバカ様で十分と笑うナタク、死亡フラグを詰み上げていると評価するアーサー達の発言をどう捉えているか分からないが、文が言うように流す妨害をすれば敵対する意思があると感じ取るには、十分だ。
「貴方にとって他の悪魔…ケツ顎魔やアスモさん達とはナンなのですか?」
「他の魔王は、間違いなく私にとっての脅威だよ。その面で、海魔の王を墜とした君達もまた、私にとっては脅威だね」
蘭華の問いに事も無げにベリアルが答えると、隼人はその回答で疑問を覚えた。
「脅威ってこたぁ、アスモデウスの事も利用しようとしてるだけってこったな?」
「神さまのこと怖くないのかな?」
続いたのは、妙子。
ただし、妙子は質問というより、独り言のようだが。
「神が怖いかと問われれば、怖いのかもしれないね。だからこそ、私はこの目的のために進むのさ、お嬢さん」
隼人の質問に対する回答を避けたベリアルは、独り言に対する答えを行う。
「あの吸血鬼のボスとか言うガルバはお知り合いですか?」
「吸血鬼の王か。彼が出張ってくるのはきっと最後になるだろうね。ああ、しかしこれくらいは教えておこう。そろそろ、『王』は動き出すのではないかな?」
蘭華に答えるベリアルの耳に、蓮華が提示した不滅の存在が何故人を殺しホスティアを得る必要性に関してのそれぞれの答えは、どう届いているだろうか。
楽しいから。
不完全だから。
それらは真実なのだろうか。
「そうそう、『裏切り者の烙印とはどういうことですか。さしずめ大規模な人体実験でも行ったんで?』という質問をしたのは、蘭華だったね」
答えていない質問に答える、とベリアル。
「私を利用したのはルークス本人ではない。ルークス教さ。私が裏切り者の烙印を押されたのは、彼が世を去ったのちのことだ。彼は関係ないな」
確実な明言を真実と受け取るならば、彼はルークス教によって最後の名を得たことになる。
「今のルークス教は、ルークスの意に沿っていますか‥‥?」
そろそろ時間だ、と呟くベリアルに水織が問う。
「今のルークス教がルークス・クライストの意に沿っているかどうか? 沿っているわけがないだろう? 2000年近く続いている組織が、初代の理念をそのまま純粋に受け継げると思っているのかい? ルークス教に限らず、全ての組織が変質する。変容する。それは人にとって、当たり前のことだよ」
それは、事実である。
誰もが認める所であるが、ナタクの言う通り、許容範囲であってほしいと願う者は多いだろう。
「つまり、あなたのルークスさん個人への想いをルークス教は売名の為に利用し、その結果あなたは「裏切り者」となった。‥‥そんなところ?」
「ルークス教は二度と裏切り者を出さないために、私を信者ということとして、「異端」という概念を生んだ。それは正しいことなのだろう。私は確かに、「異端」であったのだから」
翼の質問にベリアルは微笑を深めた。
「では、ルークス・クライストの意とは?」
「ルークス・クライストの願いは純粋だった。世に救いを、人に光を。ただ、頭はよくなかったのかもしれないな。その想いに身を捧げ、殉じてしまったのだから」
蓮華の質問に対するベリアルの答えを聞き、マリアはアリア・アンジェリーニ(
sz0004)を思い浮かべ、顔を歪めた。
マリアだけではない、蘭華もどの口が言うのだと怒りに震えている。
が、ジェネレイドは、その発言に対し、
「ハハハ! 確かな評だ。それを聞けただけでも今日来た甲斐はあったというものだ」
と言っているので、この辺りの解釈は、それぞれの立場による所が大きい。
結果として裏切っている、と先に発言したからか、蘭華の実は裏切っていないということかという質問を微笑みで流したベリアルは、顔を歪めていたマリアが意を決したように自分を見たことに気づいた。
「あなたもメフィストフェレスもかつて人だったのよね? なら、サマエルもそうなのかしら。それともサマエルは最初から悪魔なの?」
「サマエルは元から悪魔さ。あれは私を悪魔に到る道へといざなった、赤い蛇だよ」
メフィストフェレスやベリアルとは違い、異形であった幹部魔将は、彼らとは違うようだ。
ジェネレイドが記憶に留めるようにそのことを呟く。
全ての無辜の民の為に戦うとする彼は、己の永劫と欲望で魔王となったのだから、次元の違いで圧倒的勝利らしい。
「‥‥悪魔となったから不変と以前貴方はいいました。‥‥‥‥貴方が、悪魔となったのは、‥‥不変となろうとしたからですか‥‥?」
「私は不変を得た。そう、私は私であるために、人であることを捨てた。ルークスへの想いを捨てた。そうしてでも、私は、「知りたかった」」
水織の問いは、マリアの回答の続きであるようなその言葉で返される。
自分である為に追うことを改めて決意する水織、救うべき者は異端かもしれないが、聞く耳を持たぬ者には単なる雑音と評する蓮華、結局何が知りたかったのかと言うアーサー‥‥暇を告げるベリアルに対する反応は様々だ。
けれど、ベリアルは、知りたいことを問うかのような翼の言葉にこう言った。
「何もかもさ。私が知らないことがある。私にできないことがある。それが我慢ならなくてね。学び、知り、理解すればするほどに、なお次なる疑問が、私の前に立ちふさがった。そう、最後の答えを私に示してくれるなら、示してほしい。でなければ、まずはこの極東の地が、私の水遊びで押し流されることだろう」
知識の追求者たる彼は、隼人に顔を向ける。
隼人が、射殺す目で睨んでいることに気づいていた。
「王 壱紅とシンになった残りの星一族に伝えとけ! ルークスの狼が喉笛食いちぎってやるってな!!」
「君は随分と、星一族にご執心だね。分かった、伝えておこう。失笑くらいしか返されないだろうがね」
いや、彼位しか反応してくれないかな、と口の中で呟く。
隼人の続く怒りの言葉も正確に伝えられるだろうが、彼らがどう受け取るかは彼ら次第、といった所か。
最初の異端者でもある彼は、何故信者とする必要があるのか分からない様子の妙子の疑問もきちんと答えた。
「権威付けさ。ルークス・クライストに関わる者は全て信者となるしかない。と、した方が、ルークスが偉大な存在になるだろう?」
さて、とベリアルは、時間の区切りを告げた。
「有意義な時間だった。では、またいずれまみえよう。そう遠くないうちに」
ベリアルを倒すことで彼に最後の知識を与えると言うマリア、言葉以外の方法でそれを分からせると言う翼、そして、ルークス・クライストの願いが生きているが故に次に会う日が命日と言い放つ蘭華は、彼の目にどう映っているのかは不明だが、ベリアルにとっては有意義だったようだ。
「もし、私のこれまでを君達が否定してみせたなら――」
誘蛾灯であるとベリアルの言葉を称した水織に蛾の美しさを説いたベリアルは、こう言った。
「私はそれを受け入れよう。この永き探究の果ての結論を、君達がもたらしてくれることを、私は願ってやまないよ」
彼への最後の救いを自分達が叶えると言う翼は、水織や蘭華の決意の言葉の直後、見た。
マリアが、ビニール袋に入った薄い本を出したのを。
「塩を送るわ」
「‥‥‥‥」
その正体が分かってない様子のマリア、黙ってそれを見ているベリアル。
手袋叩きつけてるとツッコミする翼を他所にナイスと蘭華は喜んでいるが。
「ありがとう。この国の文化の一端に触れることができる少ない機会だ。感謝するよ」
複雑そうな顔をするナタクや水織の困惑を他所に微笑を崩さずベリアルは、受け取った。
尚、審議される内容は、マリア曰く、メフィストフェレスとのものらしいが、詳細は不明である。
が、それをこの国の文化全てと思われるのも、と水織は心配したが、最後の答えを与えたいと思わせた魔王は、こう言った。
「知識に貴賎はないさ。優劣をつけるのは、その時々の文化や社会常識だからね。‥‥では、これで失礼しよう。‥‥まぁ、背中から撃たれてもかなわないので、無礼であるとは思うが、こちらを使わせてもらうよ」
一瞬にして消えたその場には、錬金の品と思われる金属プレートが残されていた。
カリス(
sz0009)を思い出す者もいたが、退路について、万全を期していたのだろう。
「‥‥帰りましょう。私達は、やることがある。あの魔王に最後の知識を刻む為に何をすべきか。皆で考えないと」
思い思いの反応をするSINNがいる中、マリアがそう言う。
マリアはふと思い出す、文が、こんなことを問うていた。
「そういえばルークスの妹さんとも面識がおありなので? 確かバビロンさんでしたっけ」
問われて、ベリアルはクスリと小さな笑みをこぼしていた。
「バビロンというのは確かに、そう、ルークスの妹を指す言葉だが、同時に『罪の女』、『原罪負う者』との意味合いもある。SINNである君達がそうした名を用いることを、さて、ルークス自身はどう考えるかな」
「‥‥じゃあ、なんて呼べばいいのかしら」
マリアがさらに問いを重ねると、ベリアルは曖昧に笑うのみだった。
「雑談の中で話題にするには、少し似合わない話でね――」
そう語るのみで、ベリアルはあとはもう何も言わなかった。
魔王となった最初の異端者。
知識を求める果て、サマエルにいざなわれた彼に、最後の知識を。
|