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【PF03】秘密工場
オープニング◆ローゼンナハトが「赤い蠍」が関係していると思しき、警備の厳重な工場を発見した。アンナは集まった学生達に、そう言った。 「この工場、表向きは自動車部品の製造をやっているのだけれど、それにしては運び込まれる荷物が多く、そして自動車部品には明らかに使わないような材料が混ざってる‥‥しかも、そうしたいかにも怪しい材料は、夜間の目立たない時間帯、それか大量に荷物が運ばれるときに紛れ込ませるように運び入れられているの」 勢いよく広げた地図は、ロシアの工業地帯の外れの1つの工場に印がつけられていた。 「ここね。この工場で製造されたと思しき拳銃や自動小銃が多数押収されている‥‥材料の種類から考えても、隠れて製造してるのはそう言った銃火器の類ね。ただ、公開されている資料と航空写真の比較、出荷されている部品の量と従業員の数から考えて、普通に視認できる面積分、自動車部品の製造に回されてるのは間違いない。まぁ、ちょっと少ないけれど‥‥無理せず定時で上がればこんなものかしら、ってくらい。この工場の敷地のどこに武器の製造ラインがあるのかを調べ、出来れば機能不全にする。それが今回の任務よ」 登場キャラ
(壁、機器類に怪しい箇所は無い。敷地面積、見取り図から考えても、武器製造に使えそうな隙間は無い‥‥少なくとも、地上には) これは、先程サラ・ハサンがドロイドの鼠を使って入手した情報と示し合わせても間違いない。リュヌ・アカツキは、自身が先日、仲間たちに共有した情報を思い出しながら、廊下を歩く。この先にあるのは休憩室。新人の工員に扮した彼は、ここ数日、この工場の中を捜索していた。隅々まで見て回る事は出来なかったが、機械の大きさや壁の厚さを確認し、地上には怪しい箇所が無いのは散々確認した。しかし、万年筆を使って周囲の音を拾っていた時に気がついた。どうやら、床が薄い箇所がある。音の反響具合が、わずかに違う。 (地上には無い、そして、場所によって床の音が違う。となれば‥‥地下だ) リュヌは休憩室に差し入れと称し、睡眠薬を混ぜたコーヒーを置いて、誰かに声を掛けられるより早くその場を後にした。 「そろそろ、時間ですね」 呟くのはマクシム・ヴェッカー。マクシムとスティーヴ・カラサワの調査と仕込みによって、あと数分で監視カメラの映像は予め用意していた映像に切り替わる。つまりは、何も異常が無い工場内を、延々と映し続けるのだ。その間に、仲間達は警備員を片付け、武器工場の製造ラインを突き止め、対策班の面々に証拠を提示する。 この作戦に於いて、マクシムが引き受けたのは武器製造工場の認証システムの解析だった。しかし、ドローンで捜索した結果残念ながらその秘密工場へと消える人物を捕捉することは出来なかった。その一方、リュヌの捜査結果を元にある程度範囲を絞りこみ、スティーヴはWiFi監視カメラを仕掛けるが、現場を押さえる事は出来なかった。しかし、彼の操作していたコサージュ型ドローンは、結果として思わぬ仕事をしてくれた。夜間、警備員の目を避けて飛ばし、そして誰か来そうになったら止めるを繰り返して工場内を捜索していたドローンは、捜索時間20分にして、女性工員に見つかり、持ち去られてしまったのだ。その女性工員は10分前に通りすぎた休憩室でコーヒーを飲んでいたのをドローンが撮影しているので、コーヒーを飲み終わって移動してきたのだろう。彼女は落とし物としてどこかへ届けようと思ったのか、片手にコサージュを持って歩いていく。そして辿り着いた先は、不良品置き場の片隅。そこで彼女はコサージュを床に置き、両手で床板を跳ね上げ、床板の下から現れたパネルを操作してから、こう言った。「赤い蠍は凍港を開く」。 音声認証システムであれば、その音声データがあれば問題はない。声紋がキーとなるので単語はなんでも良い筈だが、まぁ気分かなにかだろう。ちなみにそのドローンだが、彼女がパネルを操作している間にスティーヴが慎重に操作して荷物の隙間に逃げ込み、事なきを得た。その次の日、彼女は疑問に思いながら仲間の女性工員に拾った落とし物のコサージュが無くなったという話をしていたが、結局信じて貰え無かった、という場面をリュヌが目撃している。 「さてと、かれこれ予告状が彼の元に届く頃か」 エヴァはトランクPCを操作しつつ、呟く。彼女が予告状を送り付けたのは、ICPOの可児丸ジュスタン警部と親交のある捜査官が所属する数ヵ所の部署。ICPO内部に怪盗がいると知られるのを避けるため、幾つものサーバーを経由し、出所が解らないように細工もしてある。 「怪盗を執拗に追う警部に悪しき犯罪組織! ククク‥‥らしくなってきたじゃないか!」 エヴァは心底楽しそうに笑いながら、予め穴を開けておいた工場の管理システムへとハッキングを開始した。 「あれが輸送トラックですね」 工場へ続く一本道を走るトラックを見て、桜葉千歳がぽつりと呟きながら和弓を構える。見晴らしの良い、そして下からは見え辛い、高い場所を探したら、良い所に林があった。生えている木は冬だからか枯れていたが、何もないよりはマシだろう。道路よりやや高くなっているその林に身を伏せて、矢を番えて弦を引く。 予定では先に仲間達の援護を、と思っていたが、毎日のトラックの到着時間を考えれば、こちらを先に済ませてしまった方が良いと判断した千歳。彼女は一人、仲間達とは別行動をし、この場にやってきた。 数は撃たなくて良い、この一射があのタイヤに中れば。威力の出る銃ではないけれど、要領は同じ。中れば、問題ない。 す、と細く息を吐き、そして。 ヒュン、と空を切る音がしたかと思えば、矢は放物線を描きトラックのタイヤへと突き刺さり、ブレーキ音が辺りに響く。ドリフトしつつ停止するトラックを確認し、千歳は目立たないよう配慮しながら移動する。その間にトラックの中からは二人の作業員が出て来て、タイヤを確認。刺さった矢を発見し、ポケットから何かを取り出す。その様子を千歳は時々振り返りながら移動し、工場が見える方向で準備を始めた時、パトカーのサイレンが聞こえ始めた。工場を見るが、まだ仲間達が行動を開始した気配はない。千歳は少し考えてから、トラックの方へと向き直った。 ◆ 鞘から抜いた白刃が月光を反射する。きらりと光る刃を構えるのは月羽紡。 「さすがに人は斬れませんか‥‥斬らないように、気を付けましょう」 物騒な事を呟きながら、呼吸する自然さで刃を振るう。斬り付けた先は、材料搬入の為のシャッターと、センサー。 「お前‥‥何者だ?!」 振動と衝撃でセンサーが反応してアラート音を発し始めたのと、警備員が駆けてきたのはほぼ同時。 「さぁ、一刀繚乱‥‥参りますよ、なんて」 「な、何を言っている? まぁいい、死ねば終いだ」 そう言いながら滑らかな動作でリボルバー銃を腰元のホルスターから引き抜いたその瞬間。 「取り敢えずナイフはやめておくでありますよ」 ブリジット・サティに後頭部を殴られた警備員は顔面から倒れたが、気絶する迄には至らず、くるりと仰向けに体勢を整えつつリボルバーを構えた。しかしその瞬間、ヒュンと空を切る音と共に紡のファントムブレードが警備員は首元へと振り下ろされる。 「ひぐっ‥‥!」 冷たい刃物の感触による恐怖と衝撃に、警備員はびくりと身を怯ませ、リボルバーを取り落とす。 「峰打ち、ですよ」 そこへ叩き込まれたブリジットの渾身の一撃に、警備員は力なくその場に崩れ落ちる。アラートはその間も絶え間なく鳴り響いていた。 「搬入口のアラートが止まらないな」 呟く警備員は、従業員入り口から真裏に位置するシャッターに視線を向ける。 「どうした、五月蝿いぞ。侵入者か? それともトラックがシャッターを壊したか?」 従業員入り口から顔を出したもう一人の警備員は、恐らく警備員詰め所に待機していたのであろう。彼も先程の警備員と同様に、腰にリボルバーを装備していた。 「何かあったのかもしれないな。見に行こう」 「ここは任せたぞ。一人になるが、大丈夫だな?」 扉から半分顔を出していた警備員は扉の中へ向けて声を掛ける。 「ああ、短時間だろう? 心配ない」 その返事に、外の二人は頷く。そして、警備員二人扉に鍵をかけると搬入口の方へと走り出した。 「警備詰め所に、まだ一人いるみたいですね。仕方ありません」 フロウティア・モリスンは物陰でNMを発動するガブリエラ・ユレに声を掛け、彼女の準備が終わったのを確認してからドアノブに手を掛ける。 「一人でしたら、大丈夫でしょう」 そう頷くサラに、ガブリエラはファントムガンを準備しサプレッサーを装着用すると、小さく頷く。フロウティアはそれを見てから、暗視ゴーグルをかけて足音を殺し、扉の前へと駆けていく。姿勢を低くしてペンダントを外し、ピックを鍵穴に差し込む事数秒、かちゃりという音と共に解錠される。 「猫かな」 扉の向こうから聞こえた微かな声に、フロウティアは身構える。ドアノブが内側から捻られて、扉が外側へと開いていく。 「開いてる?」 僅かに警備員が顔を出したその瞬間、フロウティアがドアを思いっきり引けば警備員バランスを崩し前のめりに倒れ込む。 「少々失礼致します」 サラが握った拳を振り下ろせば、指輪が効果を発揮して、警備員は感電し、動けなくなる。 「眠っててもらおうかしら」 そう言ってガブリエラはT弾を装填したファントムガンで、警備員を撃った。 「なるほど、そういう事でしたか」 千歳の見詰める先では、到着した現地警察二人と作業員二人がトラックの積み荷の段ボール箱をパトカーへと積み込んでいた。この状態を見るに、今作業に当たっている警察官二人組か、それとも組織ぐるみかは判断しかねるが、兎に角警察はこの武器工場を黙認しているのだろう。ならば、警察に武器工場の事を連絡した所で揉み消されて終わりだ。 「この件は皆さんに共有しておきましょう」 千歳はAiフォンを取り出し、仲間たちへ、警察が赤い蠍と癒着しているらしい、という旨の連絡を行う。そんな中、遠くの方からものすごい早さで近づいてくる車のエンジン音。キィッ、とパトカーの横で止まった車から降りてきたのは、可児丸警部と、他数名の捜査官。その後ろにも何台か乗用車が連なっている。彼が口を開くのを見て、千歳は音が聞こえる距離まで近寄り、耳を澄ませた。 「ご苦労。ICPOの可児丸ジュスタンだ。怪盗特別対策班を率いている。君たちはここの現地警察か?」 「え、ええ」 戸惑ったように顔を見合わせる警官に、可児丸警部は小さく頷く。 「我々はこの先にある工場に怪盗が現れるという確かな情報を得ている。このトラックは事故車両か? もしよければ事故処理を手伝わせて貰う代わりに、君たちにも捜査に加わって貰いたい」 「事故処理は、私たちで終わらせます。あと少しなので。えーっと、それで工場‥‥ですか? あそこ、この時間はもう誰もいませんよ」 「いや、怪盗は現れる。予告状が送られてきた。『運命の夜、冷厳なる地にて血染め蠍の毒を暴き出す。神意は我に在り』この勿体振った書き回し、実に気に入らん。しかも続いて送りつけられたのはジャパンのニンジャアニメーション‥‥ティーンズなら喜んだかもしれんが‥‥あの後ここの地図が送付されてきたからな、最後まで観た甲斐があった」 一人顎に手を当て語り出す警部に、警官二人は互いに顔を見合わせ、曖昧な笑みを口許に浮かべる。 「ちょっと私達には解りかねますね‥‥では、失礼」 そう言ってパトカーに荷を詰め込もうとする二人は、無線機に手を伸ばす。 「仕方無い、ですね」 千歳は弓を番え、射る。荷物の底が破け、作業は矢に驚き荷物を取り落とす。散らばるピストルのグリップ部分に、警部は眉をしかめる。 「なんだ、敵襲か?! というより‥‥これは、車の部品では無いな?」 警部はそう言うや否や部下に指示を出し、逃げようとする警官二人と作業員二人を捕縛する。その混乱に乗じ、千歳は全速力でその場を離れた。 「がっ」 警備員二人の内、後方を歩いていた一人が突然倒れる。 「どうした?」 残った一人が振り向いた時、暗闇に煌めいたのはエラ・ウォーカーの持つかんざしの先端だった。 「またつまらぬ物を刺してしまったのデス」 ひゅん、と振るわれるかんざし、それから地面に倒れた警備員。敵であると察した彼は、素早くリボルバー銃を引き抜く。 「残念、もう遅いわ」 言うや否や懐に飛び込んだアリス・クラークは素早く足払いを掛ける。 「ぐあっ!」 倒れた警備員に、エラは手にしたかんざしを再度振るう。麻痺毒を仕込んだその一撃により、警備員はその場に倒れ伏した。 「さて、動力部はどこかしら」 インカムに向かい尋ねるアリス。その向こうにいるエヴァは、答える。 「運が良いな。丁度そこの壁の向こうだ」 僅かに残った二人の痕跡を消すエラの横、アリスは工具を手に、壁を見詰めた。 ◆ 用意していたレコーダーからの音声で声紋認証をクリアし、降り立った地下エリアで、隔壁の罠を解除するため、ガブリエラは壁に埋め込まれたボタンを操作する。元は隠されていたボタンだが、僅かに温度が違ったがためにサラのコンタクトに反応してしまったのだ。 「よし、行きましょう」 ガチャンと罠が解除された音を聞き、フロウティアが足音を殺して先を行く。その後方を、周囲に気を配りながらガブリエラが歩き、サラはドロイドと万年筆を使い、周囲の映像をデータに納めていく。 そして辿り着いたのは工作機械が並ぶエリア。その製造ラインでは居並ぶ工員達が手慣れた様子で部品を組み立て、銃火器を組み立てていく。 「なぁ、人数少なくないか?」 作業をしながら、一人の工員が隣の工員に尋ねる。 「サボりかな」 その様子を三人がそれぞれ撮影していたその時。 ドゴォン、と爆発する音と共に電源が落ちる。暗くなる周囲に、工員達は慌てふためき、混乱が生じる。 「落ち着け、お前ら! どこかの組織にバレたんだ‥‥部品を隠せ、逃げろ!」 叫ぶのはここの工場長だろう男性。彼は工作機械のコンソールを操作して中身を出そうとするが、通電が無いために何も反応はない。 「せめて納品データだけでも‥‥」 そう言ってパソコンの前に立つが、そちらもやはり反応はない。 「くそっ‥‥お前ら、落ち着け! 出来るだけ遠くへ」 そこへ撃ち込まれたのは、ガブリエラのT弾。彼は一瞬で意識を失い、その場に崩れ落ちる。 「こっちだ、こっちに」 部下たちに指示を送っていたリーダー各の男性は、フロウティアの一撃により倒れ伏す。その様子をサラはしっかりと撮影した。 「待てぇえええ!!!」 リュヌ‥‥いや、夜明けを征く者の背を追い、警部は認証システムが解除され、床が上に上げられ丸見えの階段を下りていく。入り口には意味あり気に黒いチェスの駒が落ちていたし、地下に行くこの道はきっとあっているに違いない、と警部は何と無しに確信しながら、走る。ライトは持っているもののあまりに暗く、途中部下と衝突したり壁にぶつかったりしてはいるが、足は止めない。 「あ痛っ! しかし何なんだここは‥‥何も争った形跡がないのに誰も彼も倒れていて、気色が悪い上に、階段の上には黒いチェスの駒‥‥ふざけているのか?!」 ファントム達の証拠は、エラにより丁寧に消されてしまったので形跡を見つけられなかったのだが、その事実に警部は気が付いていなかった。そして、アリスの処置により重傷者が手当てされて居たという事にも、彼はまだ気付いていなかった。 隔壁の仕掛けを解除されたままの通路を爆走する警部とその部下達。そして辿り着いた暗くだだっ広い空間には、煙幕が立ち込めていた。幾多の人間の気配の中、警部は爪先に当たった硬質の物体を手に取る。それは警部達の後をきたブリジットが足元へと飛ばした物だったのだが、兎に角彼はそれを持ち、眉間に皺を寄せた。 「銃‥‥これは最近巷で話題の‥‥赤い蠍のものか? と言うことは先程のトラックの積み荷も‥‥おい、ここにいる全員確保、確保だ!! それからトラックの中身も押収しろ!! 急げぇ!!」 煙幕が薄らいでいく中、警部のその声で捜査官達は一斉に動きだす。逃げようとする工員達と、取り押さえようとする捜査官達の混乱の中、警部はパソコンの方へと歩いていく。そこには倒れままの工場長。 「死んではいないな‥‥ん?」 その時、彼はデスクに刺さったダーツと、一枚の紙片に気が付いた。夜明けを征く者‥‥DawnTreaderの署名と、それから。 「ん‥‥なになに?」 滲む毒を潜ませず、多くの芸術が朽ちること無いように。残されたメッセージを読み、警部が叫び出すまで、あと数秒。その間に目的を果たしたファントム達が工場から撤退したことに、彼は全く気付かなかった。
参加者
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