或る町の憧憬

担当椎名
タイプショート 事件
舞台ノルウェー(Europa)
難度やや難しい
SLvB(アメリカ程度)
オプ
出発2017/11/23
結果大成功
MDPユウキ・ヴァルトラウテ(pa1243)
準MDP真純清輝(pa0904)
リュヌ・アカツキ(pa0057)

オープニング


「ノルウェーの芸術家っていったら、ムンクが有名だと思うのだけれど」
 集まった学生達に、アンナが説明を始める。
「そのムンクの叫び……有名な絵画だけど、アレの贋作が本物だと偽られ、3日後にこの町のバーで取引されそうになってるのよ」
「どういう事ですか?」
 尋ねる学生に、アンナは本物の叫びと贋作の写真を取り出して、並べる。確かにぱっと見良く似ているが、よくよく見れば絵の具やキャンパスの劣化度、それから僅かな差異に気付く程度。

登場キャラ

リプレイ


「シモンズ・アルマード‥‥ふむ、なるほど」
 ユウキ・ヴァルトラウテはHALCOからAiフォンに送られて来た情報を見て、小さく頷く。シモンズ・アルマードという人物。彼は確かに存在しているが、20年前に実家から独立、今居るのは地球の裏側で、商会とは全く別の仕事をして居るらしい。添付されていた顔写真も、今回のターゲットである詐欺師とは別人に見える。とは言え、インターネットにアップされている画像は20年前が最新で、今の本物の彼の画像は何処にも見当たらなかった。
「これも説得の材料になりそうだね」
 道一本隔てた炉端で仲間達とたむろする若者の体で医師の家を気にしつつ、Aiフォンを確認したゲルト・ダールは呟く。
「そもそも、パステル画版の落札価格は一億円以上よ? 真作を公表せず個人売買なんてありえねーっての」
 ぶつぶつと零す真純清輝は、確認し終えたAiフォンをポケットに戻す。
「今回の詐欺師、他にも何件か同じような手口で詐欺を働いてるんだけど、警察に尻尾を捕まえられる前に逃げてるみたいで‥‥贋作は今回みたいに巻き上げたものだったり、美大生に簡単な仕事って言って描かせたりしてるみたい」
 神崎真比呂は画商から入手した情報をざっと説明する。
「その情報なら警察の方でも入手できた。毎度毎度、あと一歩と言ったところで逃げられるらしい。彼らの親組織であるイタリアの方は、今回のことにはほぼノータッチのようだ。そっちの方向からはこれといった情報は得られなかったな」
 そう言うのはリュヌ・アカツキ。学園の方にも問い合わせたが、大きな動きがあった訳では無いとの回答を得られた。資金難で止むを得ず手を出した詐欺か、それとも下っ端の小金稼ぎのつもりだったのか。その辺りは判然としないが、どちらにせよ額の大きい取引であるならば、あまり良い顔はされないだろう。
「なるほどねぇ」
 頷く清輝は、小さく肩を竦めた。
 その瞬間、診療所から患者が出てくる。今なら診療所には医師一人しか居ない筈。
「じゃあ、行くか」
 ユウキの合図に、四人は診療所へと足を向けた。

「また骨の折れそうな仕事だ‥‥。我々の本分ではあるがね」
 陳華龍がAiフォンを確認しながら呟くそこは、大通りから一本入った細い路地。情報屋からの情報が正しければ、かれこれ姿を現わす筈。骨の折れそうな仕事であれど、アンナ先生にああやって微笑まれては、やらぬとは言えん。
 なんて事を考えながら、壁に凭れて待つ事数分。じゃり、とコンクリートを踏みしめる音が奥から聞こえてくる。人二人程の幅の路地、こちらは一人、あちらは二人。あちらの二人がすれ違う為に身を壁に寄せた瞬間、華龍が顔を上げる。
「叫びを売ると聞いてね‥‥、医師の二倍で買おう」
「‥‥なんだ、君は?」
 す、と細められるシモンズの瞳が冷たく光る。後ろに控えている用心棒が懐に手を入れるが、シモンズは右手でそれを制した。
 こちらの素性を疑われているのか、それとも懐具合を伺っているのか、寧ろその両方か。しかし、まるで交渉の余地が無いとも思えない。あと少し、押してみるか。
 華龍は壁から背を離し、敵意がない事、怪しくない事を示すように、両手を広げる。
「金ならある。欲しいものに関しては、金に糸目をつけぬ主義でな」
 さて、どう出るか。華龍は、すぅっと目を細めた。

「なんだって‥‥?! そ、そんな事‥‥」
 医師は口元を震わせて、首を横に降る。
「何を馬鹿な事をっ!! いい加減なことを言うのは、やめたまえ!!」
 診察室に響くのは、医師の叫び声。怒りを通り越し蒼白、瞳孔は開き興奮に唾を撒き散らす。診療時間ギリギリに滑り込んできた見知らぬ若者が突然、自分たちはICPOの準捜査官である、あなたが手に入れようとしている『叫び』は偽物なのだ、と言われて、冷静でいろという方が無理な話かもしれないが。
「画商の方からの情報でもあるし、騙されたのはあなただけじゃないよ」
 真比呂の発した、画商という単語に、医師の肩がぴくりと反応する。
「シモンズ・アルマード‥‥彼は、偽物だ。本物は、今頃地球の裏側で別の仕事をしている。これが本物のシモンズ・アルマードの写真だ」
 ユウキが示した写真を見て、医師は目を見開く。まさか、と呟く彼へ、清輝は続ける。
「そもそも、その叫びは真作である証明がされていないよね? それに、叫びの盗難事件って、別版、別美術館で発生してるんだよぉ」
「な、なんだって‥‥? シモンズは一言も、そんな事は‥‥」
 彼の瞳に見え隠れしていた怒りが、戸惑いへと置き換わっていく。勢いが目に見えて衰えていく医師へ、ゲルトが続ける。
「美術館の職員なんて、芸術が好きで、大切にしたい人ばかりだと思う。セキュリティに関しても、絶対に盗まれないものを用意するなんて、到底無理だと思うし」
 だから、仕方がない。美術館に預けるのが間違っているという主張は、正しくない。ゲルトの言葉に、医師はがくりと肩を落とし、俯いた。
「そんな‥‥まさか‥‥」
「しかも、今回貴方が売りつけられそうになってる絵は隣町の売れない画家が描いた絵、なんだよねぇ。これってさ、貴方が損するだけじゃなくて、この画家の人にも悪いと思わない?」
 清輝がそう語りかけると、医師はがばりと顔を上げる。
「なんだって‥‥その、画家の彼は、そうと知って描いているのか?」
「彼、趣味で描いた絵を借金のカタに持っていかれただけだからねぇ‥‥でも、今回の事件は、彼が気付いたんだよぉ。自分の絵が、真作だって偽って売られようとしてるって」
 その返答に、医師は眉間に皺を寄せた。その様子を見て、ゲルトは問う。
「このまま貴方がお金を払ってあの絵を買えば、この芸術への侮辱は続けられるよ。どうする?」
 その問いに、医師は大きく首を横に振った。
「冗談じゃない!! 真の芸術を侮辱し、未来ある若者の夢を踏みにじるような事など、私は断じてしない!!」
 ぎゅっと握りしめた拳が、ぶるぶると震えながらデスクの天板を叩く。
「私が諦めた夢を‥‥侮辱するような行為だ!!」
 医師が吐き出すように零した言葉は、何処か切実な色を滲ませる。壁に凭れかかり、事の成り行きを見守っていたリュヌが、そんな彼に一つ、提案をする。
「ご協力頂きたい事があるのです」
「‥‥なんだね」
 そう返す医師に、リュヌは穏やかに微笑んだ。


 取引現場に指定されたのは、路地裏だった。結局、医師の代わりの取引相手、にはなれなかったらしいとは取引場所を指定された時既に気がついては居たが。
 薄暗いそこに取引の相手として現れたのは、用心棒としてシモンズに同行していた男。
「一人か?」
 尋ねる華龍に、彼は小さく頷く。
「あぁ、シモンズは急用でね」
 片手に持つ大きな荷物は、恐らく叫びであろうと推測する。あわよくばシモンズが現れるかもしれないと警察には協力を要請し、この路地裏を囲むように待機していて貰っているが、やはり本命は釣れなかったようだ。
「‥‥まあいい」
 通話状態しているAiフォンは、仲間達と警察へと繋がっている。取引を同じ日の夕方から夜の間に二件、しかも同じ物品に対して行うと分かった時点で、何方かにはシモンズが現れない事は予想できた。だから、何方に彼が来たとしても、そして何方に叫びの贋作を持ってきたとしても、対応出来るようにと準備はしている。警察だって、二手に分かれるよう指示をしてあるのだ。
 会話や連絡の中から、シモンズが医師をメインターゲットにしている事はわかっていた。相手の性格や、身元など、シモンズは金額ではなくリスクの小ささを取ったわけだ。
「ある意味賢明な判断ではあるが」
 ぽつりと呟き、華龍は一歩、二歩と用心棒へと近づいていく。

「ど、どうも」
「こちらにおかけください」
 向かった席に予め着座していたシモンズに向け、挨拶をするのは医師に化けたリュヌ。MNと化粧で見た目を変え、声音を変え。薄暗い灯りの元の、高額の取引。普通に考えれば、両者ともに平常心でいるのは難しい場面。多少の差異は、緊張しているから、と相手も取るだろう。寧ろこういった場面であれば、いつも通りでいる方が怪しい。
 つまづきそうに歩きながら、リュヌは医師に手渡されたアタッシュケースを両手で掻き抱く。ここにシモンズがいるという事は、華龍の方に彼は現れなかったという事だ。そして、彼の横に見える大きな荷物は、恐らく叫びの贋作。ならば、華龍の方には誰が向かい、何を持って行ったのか。出入り口には護衛が一人居たが、室内にはシモンズとリュヌ、マスターしか居ない。シモンズには護衛が同行するという話だったが見当たらないので、彼が華龍の元へと向かったのだろうか。少し気になるところだが、リュヌは今ここでの演技に集中する為、意識を切り替えた。

「では、取引と行こうか。その包み‥‥それが叫びか?」
 両者の距離は数メートル。華龍の歩幅にして、三歩から四歩程度。間合いは十分だ。
「中身を見せてくれ」
「‥‥気が早い男だな」
 肩を竦め、シモンズの護衛の男が荷を解く。中から出て来たのは、額に入った何か。
「暗くて良く見えないな」
「お前の目が悪いんじゃないか。とはいえ、今すぐここでお前にこれを渡すわけにはいかなくてな‥‥俺の仕事はお前から金を受け取る事だ。金さえ貰えれば、後日ボスがこの叫びをベストの状態にしてお前の元へ届けにいくと言っていた」
 く、と男が絵画の向きを変える。叫びに見える額の中身に、華龍は小さく息を吐く。
「ああ、それが叫び‥‥確かに果てしない叫びを聞いた悲痛な面持ちだが‥‥貴方もこんな顔をするのかな?」
「は?」
 両手に額を抱えたまま目を丸くした男に向け、華龍は素早く懐から取り出したベストポケットの照準を合わせる。
「っこの‥‥!!」
 騙されたと気がついた男は懐に手を入れ同じく拳銃を取り出そうと動く。黒光りする銃身が僅かに上着の隙間から覗いた瞬間、路地裏に響く銃声。
「先ずは一人」
 重心が前に乗って居たが為に顔面から地面にぶつかる事になった男に近づき、その額を持ち上げる。そこにあったのは、贋作とは名ばかりの、なんともお粗末なカラーコピー。
「人は事実を捻じ曲げるとは言うが‥‥」
 人の手に渡りそうだった有名絵画を横取りし、しかも元々高額な値段の倍を出すと言う。絵画自体を然程検分する事なくそこまで言う愚かな人間相手なら、その程度で大丈夫という判断だったのだろう。
「こんなもので俺を騙そうとするなど‥‥舐められたものだ」
 待機していた警官たちに手早く拘束されていく男を見下ろしながら、華龍はぽつりと呟いた。

「今だよ」
 Aiフォンを耳に当て、中の音声に耳を澄ませていた清輝の合図で、バーから死角になる角に凭れかかっていたドゥエイン・ハイアットが歩き出す。
「やぁ、寒いのに外で待ち合わせかい?」
 ドゥエインは護衛の男に、軽い調子で声をかける。
「今夜、このバーは貸切だ。お引き取り願おうか」
「なんだよ、連れないな。誰が来てるんだ? 女優か?」
 飄々とした様子で男に近づいていくドゥエイン。寒くて仕方ないとばかりに、両腕を組み肩を竦める。
「なぁ、折角ここまできたんだ。入れてくれよ、あわよくば紹介してくれ。美人なんじゃないのか?」
「お前、しつこいぞ。酔ってるのか?」
 手を伸ばせば届く程に近づいてきたドゥエインに、犬を払うように腕を振る男。その瞬間。
「静かにしていて貰おうか」
 ぐ、とその身体に押し付けるのは素早く取り出した拳銃の銃口。いつでも撃てる、と示す為、安全装置を解除し引き金に指をかける。
「くそがっ‥‥」
 小さく吐き捨てる男の肘を持ち、銃口を押し当てたまま、扉の前から退かせる。護衛の男が退いた瞬間、物陰から飛び出てきたのはMNで顔だけ変えたユウキ。そのまま拳銃を手に、扉を開ける。
「動くな!」
「ひぃっ!!」
 慌てて立ち上がる医師に扮したリュヌは、壁に向けて後退りする。
「なんだ貴様!」
 拳銃を向けられたシモンズは、絵画を手にしたまま中途半端に腰を浮かせた。
「入口の奴はどうした?!」
「よっ、と」
 叫ぶシモンズの前腕を、身を屈め距離を詰めていた真比呂が刀の峰で打つ。
「わっ!!」
 痛みに力が緩んだ隙を突き、真比呂は絵画を奪取、絵画を手放したシモンズへ、銃口を向けたユウキ。
「詐欺は犯罪、逃すわけにはいかないな」
 銃口から放たれたラバー弾は、全弾シモンズに命中。シモンズは、その場に倒れ伏した。

「これ、ジェフのところに返しにいかないとね」
 バーから撤退した真比呂は、額に入った叫びを見つめる。
「医師にも報告にいかないとな」
 最初に席を立ったタイミングでそのまま場を離れたリュヌは、清輝がいる物陰でMNを解除する。警官達がバーへと雪崩れ込んでいくのを尻目に、彼等は手早く後片付けをし、その場を立ち去る。
「芸術を愛する心が本物なら‥‥今度こそ、騙されずに芸術に触れられるよう‥‥」
 そう呟きながら、リュヌは医師の元に万が一の場合の護衛として残ったゲルトへ連絡を取る為、Aiフォンを取り出す。
「あの絵が本当に良いと思ったのなら、もっと他に出来る事もある」
 彼等は夜の闇に紛れるように、歩いていく。芸術を愛する人々の元へと。



 10

参加者

c.突撃班に続いて突入して絵画の奪取とその後の確保のために動くつもりだよー
神崎真比呂(pa0056)
♀ 27歳 刃乗
a.サポートに変えて離れて護衛するつもりです
リュヌ・アカツキ(pa0057)
♂ 30歳 忍魅
a.とりあえず僕はここだね。最低でも、護衛としての同行までは説得したいかな
ゲルト・ダール(pa0208)
♀ 27歳 知魅
b.外の用心棒も一人ならいいのだがな。まぁ、なんとか黙らせてみるさ。
ドゥエイン・ハイアット(pa0275)
♂ 32歳 英弾
a.事前で、詐欺犯やバー周辺地理については調べておくよ。
真純清輝(pa0904)
♀ 26歳 探知
b.逃しはしない、偽りの代償を支払う時だ。
陳華龍(pa1190)
♂ 31歳 弾探
b.僕はシモンズについては調べるつもりだよ。
ユウキ・ヴァルトラウテ(pa1243)
♂ 32歳 英弾
 贋作の取引はダメ、絶対! よろしくね!
アンナ・ヴィドルフ(pz0010)
♀ ?歳