北の海の物語

担当椎名
タイプショート 事件
舞台ノルウェー(Europa)
難度やや難しい
SLvB(アメリカ程度)
オプ
出発2017/09/29
結果成功
MDPヴォルク・ヴァレリィ(pa0952)
準MDPユウキ・ヴァルトラウテ(pa1243)
神崎真比呂(pa0056)

オープニング


「では、また来ますよ」
 高級そうなスーツに身を包んだ男性達が、ぞろぞろと民家の扉から出ていく。残されたのは、椅子に座った年老いた漁師とその横に立つ若い男性。
「な、なぁ‥‥じいちゃん。母さんも父さんも事故で死んじまったし、じいちゃんだってばあちゃん死んでもう1人でじゃねぇか。俺と2人しかいないってのに、命狙われてまであんなモン大切にとっといて良い事あんのかよ。さっさと渡しちまえばいいんじゃねぇのかよ。金も、少しかもしんないけど‥‥払うって言ってるし」
「あんな奴らに渡す訳にはいかん‥‥‥‥クラウスには、わからんだろうがな」
 若い男性、クラウスに低い声で答える老人は、それだけ言うと目を閉じた。

登場キャラ

リプレイ


「初めまして、今日は宜しくお願い致します」
 村長に右手を差し出すのは神崎真比呂
「じいちゃん、さっき話したルポライターさん」
 クラウスに紹介され笑顔を見せる真比呂に、村長は溜息を吐く。その後ろでは、いつの間に仲良くなったのかさっきまで村長とお茶をしていたアンナがにこにこしながら真比呂の様子を伺っていた。
「生憎、今は然程余裕のある状況で無くてな」
 乗り気でない様子にクラウスはぴくりと頬を引攣らせ、真比呂を見る。
「すいません‥‥」
「お気になさらないで下さい。他の村でも耳にしました。ヴァイキングの遺産を狙う富豪が居ると。この村にある遺産も狙われて居るとか」
 真比呂が鎌をかけると、村長は呆れたようにクラウスを睨みつける。
「隠したってすぐにバレちまうよ」
「それはそうだがな。まぁ、あんたは客人で悪い人では無さそうだ。そのくらいわしにも解る。お答え出来る範囲でお答えするが、身の安全の為に直ぐ帰った方が良い」
 漸く右手を握ってくれた村長と握手を交わしながら、真比呂は微笑む。
「私、これでも結構強いんですよ。日本の柔術って知ってますか? 私、柔術を使えるんです。自分より大きな人だって簡単に投げられちゃいますから、いざとなればお守り出来ますよ」
 真比呂はそう言って右手を離し、1人打ち込みの要領で投げの動作をして見せた。

 村の周辺にうろうろとしている、怪しげな黒服の男。それから、金色に輝くヴァイキングの宝である指輪を嵌めた中年の男と、彼の横に立つ用心棒らしき男。
「彼がスヴェン・アールステットですね」
 物陰から連中の様子を見つめつつ、小林三代が呟く。
「縁起を担いでいるものだから、ヘルムは彼らにとっては大切なものだろう。それをあんな奴らに奪われるなんて、僕としても我慢ならないな」
 その横で苛立たしげに呟くのはユウキ・ヴァルトラウテ。馴れ合いは好まないが、その場所の他に身を隠す場所が無く、且つコミュニケーションを拒んだが故に作戦に支障を来してしまうのは不本意だ。ユウキは故郷がこの近くで、村の人々の気持ちも理解出来る。故に、あの富豪は自分の手で断罪したいという気持ちが強かった。
「では、これを使ってある程度戦力を削ぎます。耳を塞いでいて下さい」
 三代が手に持ったヴァイオリンを示しながらユウキに言う。ユウキは小さく頷き、それからコネで呼んだ協力者達にも耳を塞ぐよう合図を送った。

「この村に保管されているヘルムは、我々の先祖が使用していた。我らの誇りそのものに等しい」
「ご先祖様がどんな方だったか、ご存知ですか?」
 真比呂がメモを片手に尋ねると、村長は小さく頷いてから口を開く。
「ああ。仲間達を守る為に戦った誇り高いヴァイキングであったと聞いている。彼のおかげで、我々は今こうして生活を営む事が出来ている」
 この家に来てから聞いた事は、余さずメモに取ってある。
「成る程。なら尚の事、大切にしないと解っている相手に渡すわけにはいきませんね」
 真比呂は仲間達に情報を共有しながら、相槌を打つ。その時、扉を数回ノックする音が響いた。
「取り込み中だぞ」
 村長がクラウスに、相手を帰らせるよう言って扉を開けさせる。
「失礼します」
 そこに居たのは紅嵐斗アルカ・アルジェントアイザック・ブライトンがMNで変じた真夜中の紅茶党。
「君達は何者だ?」
 尋ねる村長に、嵐斗が答える。
「俺達は、あなたの持つヘルムとあなた達を守る為にここに来たんです。あなたとあなたの孫、そして村の人々は必ず守ってみせます。だけど、あなたの元にヘルムがある限り、今回のような事は何度でも起こり得る。だから‥‥そのヘルムを、俺達に渡して欲しいんです」
 真っ正直に村長に訴えかける嵐斗に、村長は黙り込む。
「不本意なのは承知の上です。それでも俺は守りたいんです。あなた達の誇りと命を」
「私達は文化と歴史の守護者よ。ヴァイキングが単なる略奪者ではなく交易者である事を知る者、どこぞの強欲なレイダーとは違う」
 続くアルカの言葉に、村長は瞑目する。
「私達は貴方方の宝を未来永劫に渡り保全し、その歴史を正しく伝えてゆく、それこそが私達の使命‥‥だから、信じて欲しいの」
 アルカの言葉に、村長はゆっくりと瞼を開けて、嵐斗とアルカを順番に見つめる。
「その想いや誇りを未来へ、お孫さんの世代へ、そしてその更に先へと遺す。それが俺達の仕事だから」
 数秒の沈黙の後。
「解った。しかし、わしが納得したとしても、他の者達が何と言うか。わしは村長ではあるが、彼らには彼らの誇りと矜持がある」
 そう言う村長に、黙って成り行きを見守って居た真夜中の紅茶党が口を開いた。
「私にも取り返したい宝があります。あなた方のどうしても守りたい宝の事も、解るつもりです。その上で提案ですが、例えば、私達がこの村とヴァイキング文化に敬意を持っていると解りやすく示せばどうでしょう?」
 そう提案する真夜中の紅茶党に、村長は腕を組んで難しい顔をしていたが、小さく頷いた。

 ヴォルク・ヴァレリィは足音を忍ばせて、村長の家の裏手に身を潜ませる。泳いで村の裏手の海岸まで来るつもりであったが、良く考えたら持参したファントムマリンは一日一回しか使えない。脱出と侵入とで使うとなると回数が足らず、ならばどちらかを選ばなければならない。そんな訳で、ヴォルクは切羽詰まった状況が想定される脱出に、ファントムマリンのを温存しておく事を選んだ。
 徒歩になった為に想定より時間がかかったが、村長宅へ向かった他の仲間達は、まだ村長達との会話や交渉を続けてるらしい。
 ヴォルクは村長の家の壁に身を寄せて、考える。どうも彼らはヘルムを持って今から外に出るようだ。ならば、今踏み込んでいっても無駄足に終わるだろう。
 そう思い、ヴォルクは取り敢えず蹲み込んで身を潜ませ、準備を整える。

「あ? こんな所で、何してんだ」
 ふらふらと近づいてくる三代に、スヴェンの周りにいた下っ端が凄む。
「おい聞いてんのか」
「そいつをとっとと追い払え」
 スヴェンが下っ端にそう命令した瞬間、彼らの元へとコインが飛んで来た。
「うわ?!」
 炸裂したコイン、立ち込める煙幕。咄嗟に用心棒はスヴェンを庇うように動く。そんな中、ヴァイオリンの音色が辺りを包む。三代は音色に合わせ、ラグナロクに纏わるエッダを歌い上げる。
「風の冬、剣の冬、狼の冬が来た、ラグナロクの始まりだ」
 耳に流れ込むヴァイオリンの音色によって、下っ端達は催眠効果で上の空になる。
 周りの様子がおかしいと気付いた用心棒は、スヴェンを煙幕の外へと誘導した。
「行くよ」
 ユウキが合図を送れば、動きの鈍った下っ端共に彼が呼んだマフィアの下っ端達が襲いかかり、辺りは怒号と銃声に包まれる。
「散弾銃、ありがと。僕に拳銃は向けさせるなよ」
 手近にいた仲間の下っ端に謝礼の指輪を渡し、ユウキは散弾銃を手にスヴェンの元へと向かう。その時、スヴェンのモバイルが着信音を鳴らした。
「村長、気が変わったか?」
 此の期に及んでも余裕を崩さないスヴェンだが、通話ボタンを押して耳に当てた瞬間顔色が一変した。
「売る事にしただと?!」
 そう叫ぶや否や、スヴェンは用心棒を連れて村長の家の方へと足を向ける。その時、スヴェンの後ろにいた下っ端の胸元に、ラバー弾が命中する。倒れ込む下っ端が、辺りに目を向けながら苦しげに呻いた。
「狙撃、だと?!」

「次は頭、だ」
 呟きながらソードオフの照準を合わせるのは、混戦の場から離れた高台のに身を伏せたテオ・ギャラックスラー。この後どういう展開になるにしろ、敵の頭数は少ないに越した事は無い。
 そう思いながら、引き金に指をかけた時、インカムに仲間からの連絡が入る。曰く、村長の家にスヴェンを誘き寄せたとの事。
「弾倉が空になったら、僕も移動しよう」
 ヴァイキングのヘルムについて、詳しく知りたい気持ちもあるが、それよりもまず為すべき事がある。


 スヴェンの用心棒と、劉文がNMで変身した姿、皇龍。広場の真ん中で向かい合う2人の周りを囲むのは、村人達と数えられる程度の下っ端達。用心棒の真後ろにはスヴェン、皇龍の後ろにはアイザック、村長とクラウスはその横で不安そうな顔をしていた。
 皇龍はヴァイキングの宝飾品を身につけ、名乗りを上げる。
「俺の名は皇龍! 英雄の兜を戴く証をこの地に示す為に来臨した! 強奪者よ、貴様もヴァイキングを騙るなら俺を倒し証を示すがいい!」
「何を戯言を‥‥こいつを捩じ伏せてやれ」
 スヴェンは鼻を鳴らし、自らの前に立つ用心棒に声をかける。片や屈強な大男、片や長身ながらも細身の美男子。
「大丈夫なのか?」
 心配そうに尋ねるクラウスに、真夜中の紅茶党は微笑む。
「ご安心を」
 彼らの視線の先、スヴェンの合図で決闘が開始される。先に動き出したのは用心棒。
「直ぐ終わらせて貰う」
 侮りもあるのだろう。大振りの右拳に皇龍は自らの左手を添え、左足を右斜め後ろに踏み込み身体を反転、それと同時に左脇に右腕を差し込む。
「なっ?!」
 相手の勢いそのままに華麗に投げた皇龍は、背中から無様に地面に落ちた用心棒を見下ろした。
「遠慮してもらう必要はない。さぁ、この場に恥じぬ決闘を! 招!」
 隙なく構える皇龍。
「このぉっ!!」
 立ち上がった用心棒は力任せに数度拳を繰り出すが、その全てを皇龍は軽く躱していく。
 それを見ていたスヴェンが、俄かに左腕をあげた。
「こんな馬鹿げた事に付き合ってられるか!」
 スヴェンの合図に、下っ端達がピストルを取り出した。
「逃げて!」
「ああ‥‥ありがとう」
 真比呂が礼を口にする村長とクラウスを逃がした瞬間、海賊の格好をした人々が雪崩れ込んできた。アイザックが手配した、エキストラ達だ。
「なんだ?!」
 呆気にとられた下っ端達は側方から突然現れ、雪崩れ込んでくる海賊達に驚き立ち竦み、村人達は村長の方へと逃げてくる。
 スヴェンの退路を確保しようと動いた下っ端は、胸をテオのラバー弾で撃たれ倒れた。
「そっちです!」
 真夜中の紅茶党は自身のシルクハットを投げて、我に返った下っ端を追い払いながら、スヴェンを指差す。
「ッチ‥‥!!」
 皇龍は掌底で用心棒の米神を突くが、尚も縋り付く用心棒を振り解けず、スヴェンの後ろ姿を目で追う事しか出来なかった。

 嵐斗とアルカ、真比呂に護衛され、村長はヘルムを持ったまま、クラウスや逃げてきた村人と共に裏手の海岸の方へと走っていく。そろそろ大丈夫か、と村長が足を止めたその時。
「何だ?!」
 金属の擦れ合う音が海岸の闇の中から聞こえてくる。やがて、村の明かりに照らされて現れたのは、MNでヴォルクが化けた青白い顔でバトルアックスを引き摺るヴァイキングの姿。それはヘルムの持ち主、この村に伝わる彼らの先祖の姿そのもの。
「取り返しに来たのか? 村に厄災を持ち込んでしまった、自分のヘルムを‥‥」
 呟き、村長はヘルムを置き、膝をつく。そんな村長を無視して、ヴァイキングはヘルムを持つや否や、また踵を返して海岸の闇へと消えていった。
 闇を見つめていた村長は、暫くして立ち上がる。
「これで‥‥良かったんだ‥‥」
 波音の中、村長はぽつりと呟いた。

「なんで私がこんな目に合わなければならない?!」
 スヴェンが扉を開けたのは、彼がここまで来るのに使ったオフロード車。倒れ込むように運転席に乗り込むと、扉を閉めようと手を伸ばす。その手首を掴む何かに、スヴェンがハッとして顔を上げる。
「ひぃっ!!」
 そこにいたのはリュヌ・アカツキがMNを使って化けた海賊。
「これは頂くぞ‥‥」
 そう低い声で告げ、スヴェンの年代物らしい指輪を奪い、次いでに手首の腕時計も貰っていく。
「これは‥‥私が昔手に入れた指輪に違いない‥‥どこで手に入れた?」
「とっ‥‥隣の村だ! しかし私は譲って貰っただけで‥‥」
 そうスヴェンが叫んだ瞬間、彼の横を何か鋭いものが飛んでいき、真後ろの助手席の窓ガラスが割れる。
「次は、お前の目玉だ」
「ひ、ひいぃっ!!」
 崩れ落ちるように運転席から滑り落ち、四つん這いで逃げようとするスヴェンの前に立ちはだかったのは、ユウキが化けたヴァイキング。目の前に現れた屈強なヴァイキングに、スヴェンは腰が抜けて地面に座り込む。
「あのヘルムは歴史あるものだ。価値はお前の命と同等のもの‥‥他の宝も同等だ」
 ユウキの言葉に、スヴェンは見上げる姿勢のまま壊れた玩具のようにかくかくと首を縦に振る。
「欲しければ命を寄越せ」
 そう告げ、腕を振り上げればスヴェンは頭を庇うように丸くなり、十字を切る。
「か、神よ‥‥!!」
 その背にユウキは38口径オートマチック拳銃の銃口を向けた。
 数度に渡る銃声、そしてスヴェンは動かなくなる。
「まぁ、殺さないんだけどね」
 そう言ってラバー弾で気絶したスヴェンを車に運び入れ、2人は扉を閉める。
「これで少しは懲りただろう」
 リュヌは運転席で白目を剥くスヴェンを見つめ、呟く。願わくば、スヴェンがこれで改心し、これ以上の悪事を働かないよう、そしてこの一件で興味が捻れ復讐のきっかけにならないよう。リュヌは踵を返す。
「価値あるものを集める以外の楽しみもあるだろう」
 そう言い残し、ユウキはリュヌの後ろを追いかけるように、村の方へと歩いて行った。



 13

参加者

a.む、面白そうな事を…。手が足りているなら少し別へ回るか。
テオ・ギャラックスラー(pa0052)
♂ 27歳 弾乗
b.孫に協力を依頼して村長達の側で守るよ。ヘルムの話なんかも聞けたらいいな
神崎真比呂(pa0056)
♀ 27歳 刃乗
z.富豪寄りだが、亡霊の1人になろう。似た行動では演技を合わせ協力はする
リュヌ・アカツキ(pa0057)
♂ 30歳 忍魅
b.村長さんからご先祖様の話が聞けたら亡霊組にリークするね。芝居の参考に。
紅嵐斗(pa0102)
♂ 25歳 英忍
b.予定を変える、村長達を守るわ。
アルカ・アルジェント(pa0217)
♀ 28歳 弾魅
z.では。…覚悟して下さいませ、スヴェン様。
アイザック・ブライトン(pa0348)
♂ 32歳 探魅
z.皇龍、参る。
劉文(pa0392)
♂ 27歳 英刃
a.富豪の手下の男性を誘って無力化を図ろうと思います。
小林三代(pa0527)
♀ 25歳 英魅
c.――『返して』もらおう――!
ヴォルク・ヴァレリィ(pa0952)
♂ 29歳 英刃
z.さて、やるか。
ユウキ・ヴァルトラウテ(pa1243)
♂ 32歳 英弾
 それじゃあ頼んだわよ
アンナ・ヴィドルフ(pz0010)
♀ ?歳