Around a Hound

担当午睡丸
出発2023/06/30
種類ショート 日常
結果大成功
MVPベル・キシニア(da1364)
準MVPキョン・シー(da2057)
ヴァイス・ベルヴァルド(da0016)

オープニング

◆選択
「これで、この街ともお別れね」
 シルヴィ・エインセルはローレックの街を眺めてそう呟いた。

 神聖暦943年。
 かつての最終決戦よりすでに20年もの時間が経過し、このローレックの街は――いや、ミドルヘイムは少しずつではあるが着実に変化を続けていた。

登場キャラ

リプレイ

◆島外にて
「……あれからもう20年か。早いものだ」
 その夜、ヴァイス・ベルヴァルドは月明かりを浴びてほのかに光る残雪に自らの過去を重ね見ていた。
 妻を亡くし、寡夫の身となりオーディア島へと渡ったのはいつのことだったか。
 島で過ごした年月も、このアルピニオ地方の領地へ戻ってからの暮らしも、いまとなってはあの溶けて消えゆく春の雪のようにどこか不確かな記憶でしかなかった。
「過ぎた時間とは、まるで花を散らす春の嵐のようだな……」
 手にした酒杯を置き、書きかけの手記に手を伸ばして――止める。少なくとも、今夜は。
「過去を残す行為も大事だが、未来へと繋ぐ努力はもっと必要だ。せめて、いま手の届く範囲ぐらいは、な……」
 屋敷の別の部屋の方へと視線を向ける。父様と呼ぶ声が脳裏に蘇ってくると、彼は再び酒杯を手にして亡き妻に詫びた。
「すまない。君に逢いにいくのは、もう少しだけ先になりそうだ」
 残雪のような生き方も悪くはない。
 未来を託した者の成長を、この目で見届けられるのならば。

 タフィー・ブラウンヌガーの眼前には荒涼とした大地が広がっていた。
 20年前、スパイという正体を露見させてまで実行した作戦が失敗に終わったタフィーは捕らえられ、背任者としてハウンドギルドより血の報復が与えられた。
 だが誰一人傷つけられなかったことから生命までは奪われず、オーディア島より放逐される。
 その後は占い師となって流浪の民の集団に潜り込み、ミドルヘイムを放浪する日々を過ごしていた。
「ふふ、見つけられるものなら見つけ出してみなさい……」
 荷馬車のうえでほくそ笑む。
 街から街へ、村から村へ。
 流浪の民とともにする旅はひどく緩慢なものであり、時折り魔物の襲撃によって生命を落とす者が出るような過酷なものだった。
「次の街でまた情報を集めて、いつかオーディア島に戻ってやるわよ……」
 荒涼とした大地に響く風の音が、そんな言葉を掻き消していった。

「さて、今日も記録者として頑張りましょうか!」
 パモウナ・ボストが朝一番に気合を入れる。
 彼女はオーディア島を出て生家へと戻り、家業である神職に付随する記録者としての日々を送っていた。
 冠婚葬祭や神事、祭りなどに際して何があったのかを書き残すという役割である。
 ミドルヘイム全体で考えれば読み書きできる者の方が少ないというのが現実ではあるが、こうして記録を取って残しておくことがいつか後世の為になるとパモウナは信じている。
「パモウナさん、また占ってもらっても……」
「ええ、構いませんよ」
 そして、時にこうして頼まれて占星術を行うこともあった。
 いずれにしても、パモウナはこうした無辜の民による日々の営みの記録を残し伝えることに大きな意義と、そして喜びを感じている。
 それこそが、自分がいまこの時代に生まれた理由なのだと。
「いまの世を生きた人たちの記録が、いつの世にか重大な発見になるかもしれないわね」
 記録を書き連ねた大量の羊皮紙を前に、パモウナは満足そうに微笑ったのだった。

◆衰え知らず
 オーディア島、そのとある街道で一つの集団が魔物の群れと対峙していた。
「油断するな、右から別のがくるぞ!」
 ベル・キシニアの指示が飛ぶ。周囲で戦っているのはハウンドになってまだ日の浅い者たちばかりだった。
 街道を脅かす邪鬼の討伐が目的だ。ベルにしてみれば明らかに物足りない相手だが、若手を育成するという観点から指揮に徹する。
「……よし、そのまま押し切れ!」
「うおお!」
 やがて地の利を活かしてハウンドたちが邪鬼どもを蹴散らし、雄叫びをあげた。
「……どうしたら戦い方が巧くなるか、か?」
 後始末の最中に若手たちからそんな質問が飛んだ。
「広い視野をもつことを心がけるといい。例えばチェスは戦場全体に意識を向ける訓練になる。極めれば戦略や戦術に幅がでて楽しいぞ?」
 戦いを楽しいと言ってのける胆力に若手たちが感嘆する。
 と、そこで警告の声があがった。戦いの音を聞きつけたのか、大型の邪鬼の群れがこちらに向かってきていた。
「そして、なにより実戦を楽しむことが一番重要だ。そういうわけだから、あれは私がいただくぞ?」
 浮足立つ皆を制してベルが前に出る。そして。
「さあ、せいぜい楽しませてくれよ?」
 変わらぬ笑みを浮かべてその身を躍らせたのだった。

「じゃあ、これで依頼は終了だね」
 その日、シーマ・アルテタはとある開拓村にてハウンドとして請け負った依頼を完了していた。
「……え? いつまでも現役だなって? そりゃあ私はヴァンパネーロだからね」
 不思議そうな村人たちにそう答える。聞けば十数年前にも魔物退治の依頼に応じてシーマが来ており、その外見の変化のなさに驚いているようだった。
「狩猟団の……他の仲間たちは、もう次代に先を譲って悠々自適にのんびりと生活しているよ。私はまだまだ衰えることもないから、こうして現役のハウンドというわけさ。まだまだ辞められないね」
 ヴァンパネーロの実態をよく識らないらしい村人たちは驚きをみせた。もっと恐ろしい存在だと想像していたらしい。
 それを聞いてシーマは嬉しそうに微笑う。
「少しでもヴァンパネーロのイメージアップになったのなら嬉しいよ。オックス湖の畔に同胞が暮らす里もあるから、よければ立ち寄ってくれ」
 そう言い残しシーマは村をあとにした。里も含めた積極的な交流がヴァンパネーロの未来を変えるだろう。
 そしていつかは他のコモンのように歳をとり、子を成せるようになるのかもしれない。
「……そのときは、恋愛ってやつも楽しんでみたいものだね」
 シーマはそんな希望を独りごちながら、『華麗なる薔薇の剣士』の名を広めるべく歩き出すのだった。

◆日々是好日
「先生、さよーならー!」
「はい、今日もお疲れさまでした……それでは、また明日」
 その日の午後、スーロー・サーソワは自宅から帰る生徒たちを見送っていた。
 彼女はハウンドを続ける傍ら自宅で私塾のようなことを行っている。この時代のミドルヘイムに公的な教育機関は無いに等しく、読み書きすらできない者が大半を占める。
 ローレックの街に住む貴族や商人には子息に教育を望む者が多くあり、ハウンド兼教育者という肩書はそうした需要に対して信用に足るものだった。
「そろそろね……さあ『カロ』、『ソラーレ』、お父さんを迎えに行きましょう」
「「はーい!」」
 スーローは子供たちに声をかけ、ハウンドギルドへと向かう。すると。
「ただいま! 午後も綺麗だね、レディ♪ もちろん我が子たちも♪」
 依頼を終えて街に戻ったばかりのソーレ・スクードが、家族を見つけるや両腕を広げた。
「お帰りなさい、ソーレさん。本当にちょうどいい時間でしたね」
「言っただろ、愛する家族と過ごす為なら魔物ぐらいさっさと倒してくるさ」
 そう笑ってスーローを抱き寄せ、キスを交わす。
 ハウンドには勤め人のように定時があるわけではない。だからソーレは家族と過ごす時間の為に、街の近隣での依頼に限定して受けるよう心がけていた。
 そんな新婚かと見紛う両親の様子に子供たちは照れを通り越して呆れ顔だが、ソーレは一向に気にしない。
「では、美しき我が家へ!」
「ええ、みんなで一緒に帰りましょう」
 あいだに子供たちを挟み、夫婦はこっそり手を繋いで帰路についた。

 夕食を終え、子供たちを寝かしつけたあと。
「では、予定通りということでいいね?」
「ええ、そのつもりで生徒さんたちにも告げてあります」
 夫婦で今後の予定を確認する。折につけ、一家でソーレの生家があるグレコニア地方へと里帰りをするのが通例となっていた。
「ありがとうございます、ソーレさん……私が欲しいものをすべて与えてくれて」
「お礼を言うのはこっちの方だよ」
 愛し、愛してくれる夫にキスをしながらスーローは、
(私は、やっと私として生きられそうです。これからは、ずっと……)
 そう、心のなかで呟いたのだった。

◆彼女の願い
「……ハウンドに?」
「うん。私、ハウンドになりたいの!」
 とある夜、シース・エイソーアは娘の『イリス』の口から出たそんな言葉に、驚きと納得が綯い交ぜになったような気分を覚えた。
「……そうか」
 夫であるエクス・カイザーはそう短く答え、ただ頷いた。
 その頃、シースはハウンドを続けつつギルドの事務手伝いをするという日々を過ごしていた。
 一方のエクスはすでにハウンドを引退し、いまは政(まつりごと)に参加している。
 自然とギルドで過ごさせる日も多く、娘がハウンドに親しみと憧れを抱いているだろうことは日頃から感じていた。
「……ダメ?」
 恐る恐る尋ねる娘にシースは首を振った。
「ううん。イリスは何になっても良いし、何にでもなれるから、好きに生きるといいよ」
「そうだな。でも、いまのままハウンドになったとしても厳しいだろう……鍛え、備えないとな。覚悟はあるかい?」
「もちろん、あるわ!」
 迷いのない返事に二人は頷き合う。
「じゃあ、頑張って。私たちはイリスを応援しているわ……」
「ありがとう! やったー!」
 喜び、モルモットたちに駆け寄る娘をシースは慈愛に満ちた眼差しで見つめた。

「……とはいえ少し心配だね。あの子、私と似て素直じゃないから」
 その夜、シースは寝室でそんな本音を漏らした。
「そうだね、すっかりシースちゃんにそっくりだ」
「も、もう! 私だって、すこしは素直になったんだからね!」
 二人にきりになると、夫婦ではなく恋人の頃のようなやり取りに戻る。
「心配ないさ、私たちの自慢の子なんだから」
「うん、ありがとう……エクスさん、愛してる」
 エクスに感謝の口づけを贈り、シースは娘の成長を心から願ったのだった

◆逆風に備えて
「あれから20年か。長いようで短いものだな……」
「まさしく、その通りだな!」
 妻トウカがこぼした呟きに、夫であるトサ・カイザーは思わず頷いた。
 季節は春。麗らかな日差しを浴びるローレックの街での出来事である。
「……しかしまた、どうして?」
「いや、あの子が今年で成人だと思うと急に昔のことが甦ってきてな」
 『あの子』とは二人の間に生まれた女の子のことだ。まもなく15歳、成人と認められる年齢となる。
「私たちもいろいろと言われたが、それはどうでもいい。だがあの子がこれから一人で直面することを考えると、な」
 このローレックの街でさえ当時はまだ異種婚への風当たりが強かった。ローレック王の掲げる政策などもあって偏見の目は徐々に少なくなっているが、これがハーフエルフの扱いとなるとまったく未知数だ。
 なにしろミドルヘイム全体を見回しても存在が希少すぎるのである。
 そんな妻の心配にトサは大きく笑った。
「ま、心配しなくても大丈夫であーる! 女神からの報酬か、レインボードラゴンからの期待かは知らんが、あの子は運に恵まれて生まれてきたのだからな! 逆境など打ち壊すのである!」
「……そうだな。その為に小さいうちからハウンドの仕事に同行させたのだしな」
 十分に鍛えてはある。親としては、あとは信じるだけだ。
 やがて分かれ道にさしかかる。
「では、私はギルドに顔を出してくるのであーる!」
「ああ、エクスによろしくな……飲むのはほどほどにしろよ?」
 そうトサを見送って、トウカは晴れ渡った空を見上げる。
「そうだな……このまま愛する者たちに囲まれて、頑張って元気にやっていくさ。もしそれを邪魔する奴がいたなら、ぶっ飛ばす!」
 なぜなら。
「私は無敵のトサの嫁、トウカなんだからな!」

◆育てるもの、見守るもの
「さあ、今日もビシビシ鍛えていきますよ!」
 ハウンドギルドの鍛錬場で、キョン・シーはこの日もやる気に満ちていた。
 いまではすっかりベテランとなった彼女はこうして新人の育成に力を入れている。本来ハウンド同士には明確な上下関係は存在しないが、この平和な時代には実戦の経験が不足している者も珍しくはなく、そうした新人の教育役を買って出ているのである。
 もっとも、出来る人妻教官という評価とは裏腹に相変わらず残念な部分も健在なのだが。
「はいそこ! 魔物はこっちの魔法の成就を待ってはくれませんよ!」
 こうして年若いハウンドに戦いの心構えを教え、のみならず勇者としての心得も説き、ミドルヘイムの平和に貢献する。
 あるいはそれは、自分を導いてくれた師に対する返礼かもしれなかった。
「……キョン」
 呼ぶ声に振り向けば、折しもその師が新たな生徒をつれて姿を見せていた。
「あっ! エクス師匠!」
 そう叫んで走り出したキョンの表情はすっかり昔に戻っていたのだった。

「……では、魔物との戦いの基礎からですね!」
「お、お願いします!」
 エクスは弟子が娘に教える姿を感慨深く見つめている。
「おう、待ったか?」
「いや、いま来たところだ」
 そこにトサが現れ、しばし二人でその様子を眺める。
「筋がいいな。さすがは勇者の子であーる」
「幸いルミナの才能はあったからな。あとは成人までにどこまでやれるか、か……そういえば、相談とは?」
 エクスに問われトサが笑みを浮かべる。
「うむ、いろいろあるぞ。妻より先に老いる宿命だとか、子供の将来に関してとか、あとは……私の現役引退についてとかな!」
「常勝無敗のハウンドもついにか。では、今日はゆっくり話を聞くとするよ」
 二人は笑いあい、新たな世代が育つハウンドギルドをあとにしたのだった。

◆再会を誓って
「……変わらないわね、この森も」
 陽光に照らされた樹々を見回して、シルヴィ・エインセルはこみあげてくる懐かしさに独り笑みをこぼした。
 いまは、王族としての激務に追われる彼女にとって貴重な息抜きの時間だ。そして、ここは幼少の頃に狩りの練習をした場所でもあった。
「あの子、元気でやっているかしら……」
 姉妹のように育った小さな竜の姿を思い浮かべる。

 ――アタシ、もっと姫さまのお役に立ちたいの!

 彼女はそう言って島に残ることを決意した。
 いつの日にかの、再会を約束して。
「……ふふ。私も、負けていられないわね」
 そして彼女は、遠くオーディア島にこだまする竜の咆哮を確かに聞いた。


 始まりがあれば終わりがある。
 邂逅があれば別離がある。

 だからこそ。

 その先には、また新たな世界が広がっているのだと――シルヴィはそんな想いを強く、確かにしたのだった。



 8

参加者

c.………
ヴァイス・ベルヴァルド(da0016)
♂ 43歳 人間 カムイ 月
b.ギルドで書類仕事…エクスさんもお疲れ様。
シース・エイソーア(da0926)
♀ 20歳 ダークエルフ マイスター 月
a.家族も増えてのハウンド暮らしだ
ソーレ・スクード(da1213)
♂ 25歳 人間 ヴォルセルク 火
a.さて、今日も満足する戦いができるとよいのだがな
ベル・キシニア(da1364)
♀ 28歳 人間 ヴォルセルク 風
b.私は引退して政に参加している。シースちゃんとも今も一緒だがな。
エクス・カイザー(da1679)
♂ 30歳 人間 ヴォルセルク 火
a.私が無敵のトサの嫁トウカである!
トウカ・ダエジフ(da1841)
♀ 27歳 ダークエルフ ヴォルセルク 地
a.私は常勝無敗の偉大なるハウンドOBである!!
トサ・カイザー(da1982)
♂ 26歳 人間 ヴォルセルク 陽
a.新人の育成に力を入れています。若い頃と違い、今は落ち着きました。
キョン・シー(da2057)
♀ 22歳 人間 パドマ 風
a.まだまだ辞められないね。
シーマ・アルテタ(da2139)
♀ ?歳 ヴァンパネーロ ヴォルセルク 月
c.淡々と速記者と生きるわ!
パモウナ・ボスト(da2145)
♀ 17歳 人間 マイスター 月
b.先生をしながら家族で生活、ですかね。
スーロー・サーソワ(da2147)
♀ 23歳 ダークエルフ マイスター 月
b.数万人はいるジプシーのキャラバンに紛れて変装してるし見つからないわよ。
タフィー・ブラウンヌガー(da2256)
♀ 24歳 ダークエルフ マイスター 風
 あなたの思うように生きなさい、ヴィッシュ。
シルヴィ・エインセル(dz0003)
♀ 23歳 ライトエルフ カムイ 地


さよならだけが、人生だ

最終決戦よりすでに20年。かつてのハウンドたちは人生をどのように選択し、そして現在をどのように生きているのだろうか――。