嵐の前に

担当午睡丸
出発2023/05/17
種類ショート 日常
結果大成功
MVPエクス・カイザー(da1679)
準MVPアリー・アリンガム(da1016)
プレセイル・プラフタ(da2197)

オープニング

◆招待
「……あら、みなさんもお出かけですか?」
 初夏の午後。
 ローレックの街、高級住宅地を通りかかったハウンドたちは、そこでマーニ・パールツァと思わず邂逅をした。

「それとも、私と同じで『お茶会』の招きに応じて、でしょうか……そうでしたら、よろしければご一緒しませんか?」

登場キャラ

リプレイ

◆出逢い
「わあぁ……いい風ですぅ」
 吹き抜ける風が頬を撫で、プレセイル・プラフタはその心地よさに思わず目を細めた。
 ノエルの森、その外周付近である。プレセイルはいつも行動をともにするブラウンベアを連れ立ち、風に誘われるままこの場所へと足を運んでいた。
「ブラウンベア様、ここは私の大切な人と初めて出会った森にどこか似ているですぅ……」
 切り株に腰掛けると、目の前の光景がプレセイルにその日の出来事を想起させる。
 やがて彼女の心は過去へと飛んでいた。

 夕暮れの森でプレセイルはうずくまっていた。
 周囲からは唸り声と足音がゆっくりと近づいてくる。
(あの日、私は森で魔物に襲われていたですぅ……)
 帰路を急ぎ、ほんの少しだけ近道をしようとしたことがこの状況を招いていた。
 その時のプレセイルはまだ抗う術をもたず、朽ちた木の洞に身を隠していることしかできなかった。
(怖くて怖くて、ただ震えていることしかできなかったですぅ……でも)
 ついに魔物がプレセイルを見つけ出し、飛びかかってきたその刹那。
 何者かがプレセイルと魔物の間に割って入ってきたのだった。

「追い詰められて絶体絶命の私を、あの方が助けてくれたですぅ……」
 プレセイルの心は再び現在へと舞い戻っていた。ノエルの森は先ほどから変わらず穏やかで、傍らにいるブラウンベアはただ彼女を見つめている。
「そうして私に、こうやってそっと手を差し伸べてくれたですぅ」
 記憶を真似て手を伸ばすとブラウンベアも不思議そうに掌をそっと伸ばしてきた。その様子が可愛らしくてプレセイルから思わず笑みがこぼれる。
「その時、あの方のことを好きになったですぅ。ずっと傍にいたいですぅ……」
 プレセイルはそんな想いをハープの音色に乗せて、風とともに飛ばしたのだった。

◆気分転換
「ああ、良いお天気ですねえ……」
 職人街を行くアリー・アリンガムは、密集した屋根の間から覗く青空を見上げてそう独りごちた。
「ダークヒュージドラゴンのディスミゼルも進んでいますし、最終決戦も近いでしょうね……」
 吉報が続くのはもちろん良いことだが、ここで気を緩めては元も子もない。とはいえ。
「緊張しすぎるのも良くないですか……。せっかく空いた時間ですし、今日はゆっくりしましょう」
 定まらない気分を半ば無理に押し込め、アリーは路上販売に賑わう通りを進んでいく。すると。
「おっ? そこを行くお前さん……確かハウンドじゃねえか?」
 そんな声に見れば、カーンらしき男がテーブルに肘をついたままこちらを見上げていた。
「ああ、あなたは確か……」
 アリーには見覚えがあった。『タズラン』という、この界隈では有名な靴職人だ。
 となれば当然、並んでいるのは。
「靴、ですか。……ふむ。いいかもしれませんね」
「おっ? お目が高えじゃねえか!」
 なぜか大げさに声をあげるタズランに首を傾げつつも、アリーは並んだ靴に惹かれて品定めを始める。職人の粗野な態度とは裏腹にその仕事は丁寧なものだった。幸いにして気に入った物のサイズは合うし、調整にも応じてくれるという。
「では、これとこれと……」
「まいど! へへっ、さすがはハウンドだな!」
「ぐぐぐ……うるさいぞ、タズラン!」
 聞こえよがしの声に、隣で武器防具を並べているドワーフの職人から文句が飛んだ。どうやらこの二人、この路上販売で何か勝負をしているらしい。
「あと……これも。これだけ買うので勉強してくださいね」
「……へっ?」
 にっこり笑いながら値切り交渉を始めたアリーにタズランは困惑の表情を浮かべた。

「ええい、しょうがねえな……この額で持っていきやがれ!」
「ふふ……ありがとうございます♪」
 数分後、そこには大分お得に靴を購入したアリーの姿があった。ライバルへの対抗心を煽った交渉術の成果である。
「その代わりってわけじゃねえが、頑張ってくれよ!」
「うむ! 装備のことなら職人街に任せるがいい!」
 職人たちからのエールに手を振って応えつつ、アリーはその場を後にする。
「もちろんですよ。来るべき戦い……『あの人』の為に、全力で戦うのみです……!」
 そう呟くアリーの足取りは、先ほどよりも軽やかなものだった。

◆お茶会
「まあ、ようこそおいでくださいました……!」
 商人の邸宅へと到着したハウンドたちを身なりのいい女性が満面の笑みで迎えた。どうやら彼女がここの令嬢であるらしい。
「突然のお誘いにも関わらず、感謝いたしますわ」
「こちらこそ、丁寧なお招きをありがとうございます」
「あ、ありがとうございま……す?」
 エクス・カイザーが慇懃に一礼してこれに応えるが、妹のアステ・カイザーは慣れない状況にしどろもどろだ。
(うう……こんなことなら少しは礼儀作法の勉強もしておくんだったかなぁ……)
 思わぬところで兄との差を実感させられてほぞを噛むアステ。
「こんにちは! 僕は突撃系語り部のシルヴァーナだよ!」
 一方で、状況に飲まれることもなく自己紹介するシルヴァーナ
「あら、元気なシフールさんですね……語り部、でいらっしゃるの?」
「そのとーり! 今回はハウンドをねぎらうというお茶会に突入だよ!」
「と、突入はともかく……お招き、ありがとうございます」
 あくまでマイペースなシルヴァーナに動揺しつつも、マーニがうやうやしく頭を下げる。
「ふふ、今日のお茶会は堅苦しいものではありませんから気楽になさってください。みなさんお待ちですよ」

 令嬢の案内のもとハウンドたちが庭へと通されるとテーブルの用意がされていた。彼女以外にも同年代と思しき男女が数名。皆、この高級住宅地に住む貴族や商人の令嬢や子息のようだ。
 再びそれぞれに挨拶を交わし、席につく。
「まだ修繕が済んでいない場所もあるのでお見苦しいかもしれませんが、ご容赦くださいね」
 言われてみれば屋敷のところどころが修繕中である。昨年のドラゴン襲来事件の際にこの屋敷は多大な被害を被っており、いまだ完全に元通りではないという。
「あれ? でもあれから1年近く経つけど、まだ直ってないんだ?」
 シルヴァーナが疑問を率直に問うた。豪商人であれば金銭面で問題があるはずもなく、屋敷がいまだに修繕中というのはさすがに解せない。
「父の方針なのです。街のみなさまを差し置いて、金銭にあかせて自分たちだけが元通りの生活に戻ったのでは信用を失う、と。これはわたくしも同じ気持ちです」
 集まっている令嬢や子息たちの親も似たような考えだという。
 聞けば、ドラゴンの襲来以降のデュルガーの活発化を受けて身の危険を感じ、オーディア島を捨て大陸に舞い戻った貴族や商人も多いらしい。
 それでもこの街に残っているということは、何かしらの覚悟の現れなのかもしれない。
「……なるほどね。何でお姉さんたちがハウンドのことを聞きたがるのか興味があったけど、そういうことなんだね」
 つまりこのお茶会は単なる不安の解消だけではなく、ある意味で志を同じく戦う者たち――つまりハウンドの現状を確認しておく意味もある。
 シルヴァーナはそんな思惑を感じとっていた。
「そういうつもりがないと言えば嘘になりますが……ハウンドのみなさまをねぎらいたいという気持ちも偽りではありませんわ」
「じゃあ、ハウンドのことを教える代わりにお姉さんたちのことも教えてね。約束だよ!」
「それはもちろんです」
 頷き、握手を交わす二人。
「オッケー! さてさて、じゃあ何から話そうか? ダークヒュージドラゴンのディスミゼルの様子? それとも襲い来る敵から人々を守るハウンドの勇姿? 何でも聞いてね!」
 シルヴァーナは愛用の巻物を取り出し、嬉しそうにそう尋ねた。

◆それぞれの決意
 お茶会は賑やかに始まった。
 しばらくは宣言通りにシルヴァーナの独壇場となり、令嬢たちはシフールの語り部の声に耳を楽しませている。

「ちょ、ちょっと兄さん……私、こういうお茶会の作法は知らないんだけど?」
 すっかり雰囲気に飲まれてしまったアステが小声で兄に問いかける。
「そうだな……あまり音を立てたりしなければいいんじゃないか?」
「そりゃそれぐらいは分かるけど……」
 どうにも過剰に意識してしまうアステ。実際のところ、この時代に厳密なテーブルマナーというものは有って無いようなものだ。不文律として、同席した者を不快にしないというぐらいのものだが――経験不足のアステにはその加減すら難しい。
(何気に兄さんが礼儀作法をしっかりしてるのが悔しいわね……ま、ハウンドの話を聞きたい御令嬢の相手だし、多少の不作法には目を瞑ってもらいましょう)
 もうなるようになれと、どこかぎこちない動きでハーブティを呷るアステだった。

 そうこうしている間にシルヴァーナが語りを終えていた。
「こんなところかな? ご拝聴どうもだよ!」
「シルヴァーナさまは本当に博識ですわね」
「ええ。それにしても、ハウンドというお仕事は本当に大変なものですね……」
 他の客人たちも感心の声を漏らした。同じオーディア島に住むとはいえ、やはり危険と隣り合わせのハウンドの経験はまるで別世界の出来事なのだろう。
「エクス様のお話もぜひお聞かせください」
「そうですね……では」
 令嬢に請われてエクスが口を開いた。直近であるダークヒュージドラゴンの解呪や、ミドルヘイムを脅かすデュルガーとの死闘。
 あるいはコモン社会を影から侵食するバーヴァンとの攻防など。
 こうしたハウンドの主要な活躍を挙げるだけでも相当なものだ。エクスは自慢話にならないように注意しつつ、それらをかいつまんで語って聞かせてみせる。
 やがて。
「……と、こんなところですね。お耳汚しを失礼いたしました」
「いいえ、とんでもありませんわ。なかなか体験できない世界のお話ですもの」
 令嬢とその仲間たちが感服したように頷いた。確かに、ある意味で富や権力で守られた彼女たちの日常には縁遠いものだろう。
「ハウンドのみなさまの存在に安心し……そして同時に恥じ入りました。世界の終末を無闇に恐れるだけではなく、私たちにもできることをしなければ、と」
 たとえドラゴンやデュルガーと直接相対しなくとも、戦う手段はいくらでもある。
 ハウンドたちの体験談に背を押されたのか、令嬢たちはそんな結論に達したようだった。
「ご立派です。しかし……それでももし不安や恐れを抱いたなら、その時は我々のことを思い出してください。ハウンド……いや、ドラゴハウンドはこれからもみなさんを守り続けるでしょう」
 エクスの言葉に皆は頷き、苦難への決意を新たにする。
「むむむ、このままでは兄さんにいいところを持っていかれるわね……はい! じゃあ次は私がサンドラの女王様と王子様に会ったときの話をしましょう!」
 謎の対抗心を燃やしてアステが挙手する。

 嵐を目前にしたハウンドたちの時間は、こうして和やかに過ぎていくのだった。



 4

参加者

a.ではせっかくだし、お茶会へ。
アステ・カイザー(da0211)
♀ 27歳 人間 カムイ 水
c.ではぶらりと一人旅してみましょう♪
アリー・アリンガム(da1016)
♀ 29歳 人間 パドマ 月
a.ではお茶会に潜入取材だよ!
シルヴァーナ(da1215)
♀ ?歳 シフール カムイ 月
a.ふむ。ではお茶会に顔を出すとしようか。
エクス・カイザー(da1679)
♂ 30歳 人間 ヴォルセルク 火
b.ノエルの森でのんびりするですぅ。
プレセイル・プラフタ(da2197)
♀ 17歳 ライトエルフ パドマ 水
 せっかくのお招きですし、明るくて前向きなお話をして差しあげたいですね。
マーニ・パールツァ(dz0052)
♀ ?歳 ヴァンパネーロ パドマ 陽


当たり前の、風景

初夏のローレックの街。お茶会に招かれてもいいし、森や職人街を散策するのも悪くない。平穏な初夏の午後を心ゆくまで楽しもう。