オープニング
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活動を活発化してきたデュルガーを討伐してきた帰り道、たまたま立ち寄った、ウーディア地方ののどかな田舎の村にて。
「なんだろ‥‥やけに酒臭いけど」
漂う異様な濃さの酒の匂いに、ラヴィーニは鼻をひくつかせる。食べ物の匂いも混じっているように思うが、それを覆い隠すくらいに濃い酒臭さ。樽が幾つも壊れたとか、そういうくらいの匂いだ。
まさかわざわざ村人が樽を割って回っているとは思えないが、だからと言ってそれ以外の原因となると魔物に襲われたとか、物騒な話になってしまう。
ハウンド達は眉間に皺を寄せてお互いに顔を見合わせて、それから意を決して村の中心部の方、酒の匂いが強くなっていく方へと向かっていく。
果たして、村の中心部であり酒の匂いの発生源でもあるそこは元は広場であるようだったが、今や村人達の宴会場になっていた。子ども達の声は、広場のほど近くにある大きな家──村長の家だろうか──から、聞こえてきていた。
「なんだよこれ‥‥?」
疑問に思うものの、すっかり出来上がっている村人に聞いてもマトモな答えは多分帰ってこないし、この幾多の酔っ払いの中から素面を探し出して話を聞くのも難しい話だ。子ども達の所には少なくとも素面がいるに違いない。そう思ったハウンド達は、大きな家へと急いだのだった。
◆
「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません。この村はブドウが名産でして、ブドウ酒の製造が盛んなのです。外から行商人が買い付けに来るくらい、良いブドウ酒が出来るのですが、この終末の噂のある時期に来年のブドウ酒なんかいらんだろうと、村人達で飲む事に決めたのですよ」
大きな家は予想通り村長の家だった。そこにいた村長とその妻は、ハウンド達にそう説明をした。村長の息子らしき青年、数人の老人達は、村の子ども達と遊ぶのに忙しく、ハウンド達に構う様子はなかった。
「と言うのは建前でして‥‥皆不安でこの村も辛気臭くなってしまって、どうにかしてこの鬱憤や不安を解消出来ないかと妻と相談して、ならば村を上げての酒盛りをしようということにしたのですよ。ここにいる面々と、村の外周を巡回しながら掲示している数人の自警団達は村の運営に関わる者達で、今回の催しの賛同者です。他の村人達には、ただの酒盛りとしか言ってませんし、それで良いのです」
そう言って、村長は妻と顔を見合わせてイタズラっぽく笑う。
「そっちの方が、楽しいでしょう? どんな情勢の時にだって、楽しみはあるべきなんですよ。そんな訳なので、皆さんも是非、宴会に参加してください。村の皆も喜びますよ。なんせ、我々を守ってくれるハウンドの皆さんだ。きっと、話せて嬉しくないものなどいません」
そうは言うものの、果たして素直に好意に甘えさせてもらって良いものだろうか。こういう時だからこそ、出来ることもあるのではないか。酒を飲むにしろ、相談に乗ったりとか、盛り上げたりとか。愚痴を聞いたりというのも良いかも知れないし、自警団の巡回の手伝いや、子守の手伝いも必要だろう。
そう考えたハウンド達は、何をすべきかはひとまず保留にし、村の催しに参加する旨のみ、村長に伝えたのだった。
◆選択肢詳細
a、村人達と話す
酒を飲んだり食べ物を食べたりしながら、村人達を励ませるよう動きます。悩み、愚痴を聞いたり、不安を打ち明けてもらえると、村人達の気も晴れるかもしれません。
b、とにかく楽しむ
一緒に楽しみ、場を盛り上げます。歌を歌う、踊りを踊る、など村人達に危害が出ない程度に特技を見せる事も可能です。
c、運営手伝い
外周を巡回している自警団の見回りを手伝い、もしくは村長達が受け持っている子守を手伝います。
外周警備は野生動物に遭遇する可能性があります。子ども達は3歳くらいから10歳くらいまでで、元気ですが聞き分けは良いようで、村長の家の中で本を読んだり手遊びをしたりして遊んでいます。
選択肢
a.村人達と話す | b.とにかく楽しむ |
c.運営手伝い | z.その他・未選択 |
マスターより
こんにちは、椎名です。
この度は偶々寄った村で催されたイベントに参加したり、お手伝いなどを行っていただくシナリオになります。ラヴィーニは警備に回る予定でおりますが、何かお手伝いがありましたらお声かけください。
なお、もっと浴びるように飲みたい方は酒の持参を、子守のためにアイテムを持って来たい方は持参をお願いいたします。
皆様のご参加、お待ちしております!!
登場キャラ
◆
「ハウンドさん! いらっしゃい、折角ですから‥‥どうぞどうぞ!!」
広場に向かった
ラヴィーニを、村人達は村長が言ったように歓迎してくれた。
「酒の方はいける口ですか?」
コップにブドウ酒をたっぷり注ぎ、持ってきた男性は首を傾げる。
「行ける口だ!! もらうぜっ!! ありがとなー!!」
笑顔で頷き、コップを受け取るラヴィーニに、彼も笑顔を返した。
同じく、広場へとやってきた
エクス・カイザーも、村人からブドウ酒の入ったコップを受け取った。
「ありがとうございます」
人々の相談に乗り、それとなく安心感を与える‥‥それもまた、立派なドラゴハウンドの使命である。頼り甲斐があるように見えるように、且つ相談に乗りやすく柔らかに。そう意識したエクスの纏う雰囲気は、まさしく狙い通りのものであった。
「こんな田舎の村にまで来てるくれて、ありがてぇなぁ!! さぁ、飲んで飲んで!!」
コップに口をつけブドウ酒を呷ると、周囲の人々が減った分をじゃんじゃん注いでくる。明るく、気さくな人々だ。しかし、村長が言うには彼らはそれぞれに不安を抱えているのだという。だとすれば、きっと大なり小なり無理をしているのだろう。
「しかし美味いブドウ酒ですね。これだけ美味いブドウ酒が作られるのなら、来年以降のブドウ酒も楽しみです」
敢えてそう言うエクスに、ブドウ酒を注いでいた男性の手が一瞬止まった。
「来年、ですか。まぁ、そうですね‥‥勿論、そうなれば良いとは‥‥思いますが」
とくとくとコップの縁いっぱい近くまでブドウ酒を注いでから、彼はエクスの前の席に腰を下ろす。それから、周囲の人々と視線を交わせ、肩を竦める。
「ハウンドの皆さんの努力は風の噂で聞いとるんですがね。世界の終末、ですか。終わっちまうって事ですよね。毎日、頼まなくてもやってくる明日が、来なくなるって。それが、近づいてきてるって‥‥明日すらもわからんのに、来年なんて、あるんですかねぇ‥‥。いや、頑張ってるハウンドの方を前にそんな事言っちゃあ悪いんですが」
なぁ、と彼が言えば、周囲の人々も同じように頷きながら、口々に不安を口にする。必死に堪えていたのであろうが、酒が入っている事もあり、呼水さえあれば不安はいくらでも溢れてくる。それだけ、彼らは不安だったのだ。自身の未来が。来年が、あるのかどうか。
きっと、近い未来にすら、希望が抱けずにいたのであろう。今や彼らの表情は、まるで寂しげで、全てを諦めたかのような色合いをしていた。
それを薄らと見て取ったエクスは、ブドウ酒を飲み干して笑う。
「来年もこのブドウ酒を楽しむ為と思えば‥‥世界の終末を軽く覆す甲斐があるというものですよ」
なんでもない風にそう言うエクスに、村人達は目を見開き、数秒後。
「‥‥ええ、ええ! 勿論、来年も来て下さい‥‥!!」
涙目になった彼らは、さっきまでよりもさらに熱烈に、ブドウ酒をエクスに勧め始めるのだった。
◆
村長の家に集まった子ども達と、彼らを囲み、順番に一緒に遊んだりしている大人達。
「どんな本を読んでいるの?」
おやつにと用意したストロベリーパイを配り終えた
リュドミラ・ビセットの問いに、絵本を覗き込む少女はゆっくりと顔を上げる。ページの大部分を占めるのはイラストだが、少しだけ、字もある。
「これね、勇者様が悪いドラゴンを倒して、世界を平和にするお話なんだって、村長さんが教えてくれたの」
識字率の高くないこの村にあって、村長はきっと勉学の普及にも力を入れていたのだろう。元よりブドウ酒を仕入れにくる商人もいる村なのだ。村人達を慮る村長だ。村人達が損をしないように、との配慮であったのかもしれない。
「おねぇちゃん、ハウンドさんだから、強いんでしょ?」
横から顔を出した少年がリュドミラに問うと、同じような事を言いながら、他の遊びをしていた子ども達もリュドミラの周りに集まってきた。
「こら! みんな‥‥ハウンドさんを困らせるんじゃありませんよ!!」
焦る村長の妻に、リュドミラは微笑んで首を横に振る。
「大丈夫ですよ」
きっと、不安なのだ。自身が頼りにする大人達が不安な様子を見ているのは、彼ら子ども達の心の負担になっていたのだろう。大人達の語る、強いハウンド達というものに、きっと憧れと夢を持っている。そして、自分達を救ってもらえるのではないかと、希望を見出しているのだ。
「今日はリュートを持って来たから‥‥ハウンドの冒険譚や他の地方や国の事、気になる子」
いる? と聞き終わるより早く、周囲の子ども達はすっかり興味津々といった様子で目を輝かせ、聞く姿勢になっていた。そんな素直な子ども達にリュドミラはくすくすと微笑みながら、リュートを爪弾く。
子ども達と、それからここにいる大人達に、ハウンド達のこれまでの冒険と、活躍とが届くように。そして、彼らが少しでも明日への希望が持てるようにと、願いながら。
◆
宴会の喧騒に身を任せ、自身もブドウ酒を飲み、周囲の人々と言葉を交わす
ローザ・アリンガム。
「ふふ‥‥」
それにしても、世界の終末をダシにした酒盛りだなんて。コモンはやはり、そのくらいふてぶてしくないと。
くすくすと笑みを漏らすローザに、共に飲んでいた数人が不思議そうに首を傾げる。
「どうしました?」
「いえ‥‥楽しいんですよ」
実際、楽しいのだ。絶望的な噂の流れる中、それを乗り越えるべく酒盛りをして、こんなに笑って騒げるという事実が。この気持ちこそが、終末を乗り切るのに必要なものなのかもしれない。
その近くでは、暖かくなって元気になってきた
パメラ・ミストラがぐいーっと景気良く一気にブドウ酒を飲み干し、そして。
「ほんと、冬が終わって暖かくなって元気ハツラツ☆ お酒も美味しいし、ここは一つお礼を兼ねて!!」
ばっ! とパーカーを脱ぎ捨てると、周囲の騒めきも気にせず、パメラはすっと背筋を伸ばし、にこりと笑う。
「サンドラ仕込みの踊りを御披露するわ!!」
酔っ払っているとはいえ、骨身に染み付いた姿勢も踊りもまるで鈍る事はない。すう、と手を伸ばし、指先まで神経を通わせたその姿勢。パメラ同様酔っ払った村の人々も、その仕草だけで期待が高まり、すっかり居住まいを正している。
じゃり、と地面を蹴り、軽快なステップを踏み、情熱的に踊るパメラ。それに気付いたローザは、持参したアイスリュートを構える。
「では、折角なので私も」
ぽろん、と軽く弦をつまびくと、ちらりもパメラと視線を交わす。そして数拍の後、弦を爪弾く速さを上げて、サンドラ風の曲を即興で奏で始める。その刻むようなリズミカルな音楽に合わせ、時に大胆に、時に繊細に舞うパメラに、人々は目を見開き、手拍子をして身体を揺する。
そんな村の人々の様子に、パメラはにこりと笑い、そして。
「さぁ! 皆さんも、ご一緒に!!」
一曲が終わり、二曲目との間に、パメラは周囲を見渡しながらそう声を張る。元々広い村ではないのも相まって、その頃にはもう既に広場全体がパメラとローザの舞台のような雰囲気になっていた。
「え‥‥でも、踊りなんて‥‥」
本格的な踊りを見たのも今日は初めての者が多い村人達は、すっかり及び腰である。だが、ここで引くパメラではなかった。
「良いの良いの!! 身体を揺らすだけでも良いし、さっきみたいに手拍子でも良いのよ。皆で踊ると、きっと楽しいから!!」
笑顔で、とても楽しそうにそう言われると、そういうものかな‥‥と思えて来てしまうのは、彼らが酔っ払いだからか、それともパメラがやけに楽しそうだったからか。正確な理由はわからないが、とにかく、彼らが乗り気になってきたのは表情から見て恐らく間違いない。
「では、皆様ご準備を」
そう一言入れてから、ローザは皆で踊れるような、リズムが一定でかつ軽快な曲を奏で始める。最初は躊躇いがちだった村人達も、やがて笑顔で踊り始める。
その楽しそうな様子に、少しでも不安が解消出来たならと胸を撫で下ろしていたエクスだったが、結局共に飲んでいた面々に腕を引かれ、踊りの輪にほぼ強制的に加えられ。
「仕方ない‥‥!!」
踊りの心得はないが、と内心歯噛みしつつ、踊りに参加するエクス。そうこうしている内に子ども達も外の楽しそうな賑やかさに引かれて村長の村から出て来て踊りに参加し始め、リュドミラはローザと交代で、時に2人で曲を奏で、子守の大人達は子ども達と笑い合いながら身体を揺すり、歌を歌う。
歌と踊りと、美味しいブドウ酒に彩られた宴会は、明るく笑顔に満ちて、やがて月が夜空のてっぺんを通り越す頃、終わりを告げる。途中眠くなって村長の家に帰って行った子ども達の様子を見に行った後、眠い目を擦るハウンド達の元へやってきた村長は、殆ど寝こけている村人達に気付かれぬよう、声を顰めて囁く。
「もうすっかり、みんな元気ですよ。きっと来年も、美味しいブドウ酒が作れるに違いありません。皆さん、その時には‥‥是非、遊びに来てくださいね」
そう言う村長の表情には、達成感と満足感とが満ちていた。それぞれに挨拶を交わし、村長が手配してくれた宿へと向かって歩いていくハウンド達。
宿の前で別れた村長は涙目だったが、涙を堪えているのであろう村長の為、彼らはその事実に気付かなかった事にして、宿の門を潜っていく。
きっと、来年もここに来よう。そして、ブドウ酒でまた乾杯して、歌を歌い、踊りを思って笑い合おう。
そう胸に誓いながら。
5
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参加者
| | c.ごめんなさい。やっぱり、子供たちのところに行こうと思います。
| | リュドミラ・ビセット(da1372) ♀ 23歳 ライトエルフ カムイ 火 | | |
| | a.人々の不安を晴らすのも勇者の務めだ。村の人の話を聞こうか。
| | エクス・カイザー(da1679) ♂ 30歳 人間 ヴォルセルク 火 | | |
| | b.よろしかったら、踊りやすいように音楽を流しましょうか?>パメラ
| | ローザ・アリンガム(da2138) ♀ ?歳 ヴァンパネーロ ヴォルセルク 風 | | |
| | b.サンドラの踊りを御覧じよってね☆
| | パメラ・ミストラ(da2242) ♀ 25歳 人間 ヴォルセルク 水 | | |
| みんな楽しそうに飲んでるように思えるけどなぁ‥‥? | | ラヴィーニ(dz0041) ♂ ?歳 キティドラゴン パドマ 水 | | |
とある村の宴会
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通りがかりの村では、宴会真っ最中だった。
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