オープニング
◆水のダークヒュージドラゴン
いずことも知れぬ、世界のどこかにある『水のシーハリオン』の、その最深部に、すでにハウンドらは2回ほど、威力偵察に出陣していた。
そして2回とも、散々な目に遭って撤退していた。死者こそ出ていないが、敵方に与えたダメージは皆無で、ディスミゼルのヒントも得られていない。
だがもちろん、情報だけはそれなりに持ち帰っている――そして、『試練のお誘い』も。
まずは得られた情報から整理しよう。
転移先は、殺風景な荒野。妙に丸みを帯びた巨石がゴロゴロしている、なんとも不思議な場所だ。植物等は見当たらない。
水のダークヒュージドラゴンは、自らを『アーティックドラゴン』と称した。二本角で、透き通るような青い鱗が美しいが、非常に巨大なヒレ状の腕を持ち、鋭利なトゲを生やした頑丈そうな尻尾は、禍々しささえ感じさせるという。
今のところ、飛行したところは見られていない。翼というよりヒレを持つので、飛行能力はないのかもしれない――だが、それはあまり、関係ないかもしれない。
そいつは、どこでも泳げるようだから。
1回目の偵察時、ドラゴンは非常に広範囲の空間を、おもむろに『水で満たした』。
地上を歩いていると思ったら、いきなり海中に沈められたかのようにされたハウンドらは、その多くが慌てふためき、パニックに陥る者さえいた。言うまでもないが呼吸もできなくなる。溺れる。相手の属性が属性なので、水中活動能力などを準備していたハウンドも一定数いたため、全員が即溺れるということにはならなかったが、唐突な強制水中戦を仕掛けられ、ハウンドはほとんど為す術なし、で敗走した。
なお、逃げ惑うハウンドに対し、巨竜はこう嘲笑ったという。
『あまりにもつまらん。次は手加減してやろう、今度は水で辺りを満たすことはしないでやる』
2回目はたしかに、水の能力を発揮はしなかった――代わりに、辺りを極寒の冷気で埋め尽くしたのだ。
真冬のオーディア島やリムランドよりも、さらに寒いと思われる凄まじい冷え込みは、防寒対策のないハウンドをあっという間に衰弱させ、意識を朦朧とさせた。防寒着を持つ者もいて、その場合は多少マシだったが、『よほどガッツリ対策しないとほとんど効果が無さそう』とのことである。
そういう次第でこの時もまた、まともに戦えずに撤退となるのだが――その際、こんなやりとりがあったという。
『その程度の服装では、我の冷気を防ぐなどとてもできまいて』
「ざけんなよ、ハウンドは裸でナンボのヤツもそこそこいるんだ。そいつらの根性はハンパじゃないからな」
『ほほう? ‥‥面白い、では根性ある裸の連中を連れて来てみろ。我の冷気に耐えられたなら、ディスミゼルのヒントでもくれてやろう』
◆ひょんな事から生まれた試練
「いや、寒いし悔しいしで、なんかテキトーに負け惜しみを言っただけなんだけどね‥‥」
そうぼやくのは、当事者のロロインであった。なお彼は責任者(?)として、この試練(というか賭け?)の同行をすでに命令されている。
今回、ドラゴン側から提示されているのは、こんな勝負である。
・裸に近い姿(半裸か軽装、全裸かは自由)で過ごすべし
・戦闘は行うべからず
・道具の持ち込みや魔法の使用は自由
・ギブアップした場合は、冷気のないエリアへ退避すべし
・より多くの者が、なるべく長く耐えることで、その根性度合いをドラゴン側が判断し、与えるヒントの内容を決める
・長くとも3日3晩で終了とする
・ヒントを持ち帰り、次回にでもしっかり挑めばよろし
――この条件を、ギルド側はそのまま飲むことにした。ドラゴンが真実を言ってるのか、約束を守るのか、確証はもちろんないが、これまでのふるまいを考えても、騙し討ちするような相手とは思いづらい。
また、この試練はうまくいかなくとも、命の危険がほぼない。個別にギブアップできるうえ、戦闘をしない、と明言しているからだ。
「危なくないのはいいけど、俺、寒いのはもちろん、水着とかヤだからね。軽装か‥‥いつものシャツとかでいいよな。で、水属性抵抗かなんかの装備すればいいかな。低温に耐性得られるでしょ?」
ところがどっこい、これまでの偵察の結果、水属性抵抗では、冷気を防げないことが判明している。おそらく、自然現象ではないせいだろう。
「じゃ、じゃあ俺すぐにギブアップするかも‥‥そうだ、火は? 火に当たればいいんじゃない?」
たしかに条件には、火を焚いてはいけない、というのはない。おそらく許容されているのだろう。もっとも、根性を量る試練なのであれば、あまり火に頼らないほうがいいのかもしれないが‥‥
いずれにせよ、現地には可燃物はまったくなかったため、何かを燃やすなら、自分で持っていく必要があった。
「まじかよ‥‥」
◆試練、開始
ドラゴンポータルを抜けたハウンドらの前に、全長50メートルはあろうかという巨竜が姿を現す。そして、美しさと恐ろしさと併せ持つ鳴き声、竜語で、宣言する。
『よく来た。ハウンドの根性とやらを、存分に見せてみよ。では、開始だ!』
キィィィィィン‥‥世界が急に、極寒の世界に落ち込んだかのように、一瞬で冷え込んだ。
ハウンドの、世界の命運を賭けた我慢大会が、始まる!
選択肢
a.気合で乗り切る | b.工夫で耐える |
c.密着ウェルカム! | z.その他・未選択 |
マスターより
北野旅人です。72時間耐久我慢大会会場はこちらです。
ダークヒュージ相手ではありますが、どうやら戦闘はなさそうだし、自信がなくても(早々にギブアップしても)それがマイナス評価にはならないので、ぜひどなたもご遠慮なくご参加ください。
本シナリオでは、どんな能力で何分耐えられるか、みたいな、システマティックな計算はしません。
しかし、天分、スキル等はもちろん参考にします。
自由設定や性格、種族特性なども考慮します。プレイング内容もなるべく好意的に評価します。
神業も役立つでしょう。
けど、やっぱ装備が大事ですよね。
軽装に見えるけど防寒能力高いやつとか大事です。火の維持に大事そうなものとか。
食糧もあったほうがいいでしょう。お酒とかね。
『それがアリなのかどうか』は、ドラゴンがどう判断するか、で考えてください。まあ最悪、「それはアカンだろ」ということをやろうとした場合は、ドラゴンからツッコミが入ってやめたりできます。
あ、「密着ウェルカム!」を選んだ場合、お肌とお肌での温め合いが発生しえます。特定相手とだけ密着したい場合はプレイングで指定してね。
では、皆さんのご参加をお待ちしております。
※RealTimeEvent【HoundHistory09】ダークヒュージを解呪せよ 連動シナリオ
本シナリオは、世界の歴史を動かす可能性を秘めた企画「リアルタイムイベント」に連動した特別シナリオです。
参加することで【HH09】を冠したグランドシナリオに参加する権利を得ることができます。
登場キャラ
◆00:00
世界が、といえば大げさだが、周囲が一瞬で凍てつく冷気に包まれると、誰もが息を呑み込んだ。
「心臓が止まるかと‥‥急激な温度変化は危険というけど、急激にも程があるよ」
ロロイン・パールツァは両腕をかき抱く。
「要は寒冷耐久訓練だな。ドラゴンからこんな要望が来るとは思わなかったが、コレはコレで良い訓練になりそうだ」
ロザリー・シャルンストは『涼しい顔』である。
そしてすかさず
ミーユ・ノエルがホーリーフィールドを、
ノーラ・ロネがアマテラスを成就したが。
「‥‥ホーリーフィールドの結界では防げんね」
「アマテラスもダメです。魔法的な冷気なら防げるかもと思いましたが」
ノーラはジロリとドラゴンを見た。ドラゴンがニヤリとしたように見えて、ちょっと腹立たしい。
『ところで、その馬車はなんだ?』
ドラゴンが指摘するのは、
セリス・エクレールの用意したもので、魔法の大型保冷庫を搭載したものだ。
「これは水や食料を積んであるものです。馬車の中で隠れたり休んだりは絶対しません。そのような事をしたら失格で構いません」
『お前らが防寒に使わぬのなら、よかろう』
これは朗報だ、とセリスは内心喜ぶ。普段は程よく冷やすことで肉類の長期保存などが可能になる代物だが、この状況においては、水や食品が凍りつかずに済むということになる。これらをいちいち解凍するだけでも、余計な体力や燃料を消耗するからだ。
そして庫内にはすでに、セリスの用意した基本的な飲料水や新鮮な肉類野菜類のほか、仲間が持ち寄った食品類も収められていた。
『馬車はいいとして‥‥その異様に暖かそうなテントは何のつもりだ?』
ドラゴンがジロリと睨むのは、
エア・カイザーが仲間に用意させたサウナテントであり。
「アハハハ、これはギブアップした人を温めるためだから‥‥ダメ?」
エアに、聞かれ、ドラゴンはしばし黙り込んだが、ふいにニヤリとして。
『入った者は失格となる。それでいいのだな』
「もちろん!」
エアはホッとしたが、相手の、小馬鹿にしたような表情が、どうにも引っかかるのであった。
◆00:05
それではここで、ハウンドボーイズ&ガールズのファッションチェェェック!
まずはロザリー。一見、普通の軽装だが、中に専用の魔法水着や、タフネス向上の腕輪、フィルボルグスリングなどで豊富な体力をさらに底上げしている。
「ハウンドの底力というモノを見せてあげよう」
続いてセリス。グリーヴァ北方でアットゥシと呼ばれる上着の中でも、特に質のいい(+2)ものは、軽装に見えて、なんと防寒レベル5を誇る!
「皆で最後まで頑張りましょう」
そしてノーラも同じアットゥシで、さらにマフラーで防寒性を高めようとしたが――
「え、マフラーはダメですか? 防寒着に見える? 図体の割に細かいことを言いますね」
しぶしぶ外すしかなかった。残念!
「ストリームフィールドも効かないし‥‥この寒さって絶対にアイスエイジと同じだよねー」
そう言うエアは、サンダルやフェイスガード等で細かく末端組織を覆うも、おへそもふとももも出たかなりの軽装。
「普段から肌率高めの衣装だけど、この参加は無茶だったかなー」
ミーユはというと、素肌にローブというなかなかダイタンな姿――しかしそのホットローブ+2は、防寒レベル50という凄まじい性能! さらにウォームCROSSがカイロのような働きを。
「これがグリーヴァ伝統のロスツ・キョー・スタイルというやつじゃ‥‥たしか」
絶対ちがうぞ!
ベル・キシニアは専用のセクシービキニにパーカーという、ビーチ仕様ないでたちだ! しかしパーカーにはそこそこの防寒性能あり。
「戦わせてくれた方が、私的にはいいのだがな‥‥仕方ない、こうなった以上、美しき私の体を目に焼き付けろ」
そして物議をかもしたのは、
マサカ・ダエジフと
ガイ・アルパ夫婦のバトルコート。厚着ではない、と言い張るマサカであったが、軽装とはとても言えぬ、と没収されてしまった。
「なぜだ、ローブがよくてコートがダメとは!」
そんなマサカはワンピ水着だけになってしまった。
「全身を覆う鎧に近いからな‥‥うう寒い」
ガイはフンドシ一丁である。
「まあ、老いての新人にとって、度胸付けにはこの上ない機会だろう‥‥しかし孫たちはよく参加してるな」
ガイはそうつぶやくと、大きなくしゃみをした。
◆00:15
開始してすぐの時間だが、魔法的な防寒能力を持たぬ者は、すでに肌が痛み歯がガチガチ鳴るような状況であった。
まだ余裕のあるノーラは、馬車の庫内を覗き、うなずく。仲間はちゃんと、野営用の豪華食料を運び込んでくれたようだ。
「食料と水は確保できてますね」
「ええ、ちょっとした料理も作れそうです。キッチンは用意できませんでしたが‥‥」
セリスの馬車では、保冷庫でパンパン、移動式キッチンまでは運搬できなかった。しかし最低限の調理道具はノーラの仲間が、魔法の鍋はノーラとロザリーが持っていたし、刃物だってあるにはある。
「あとは火だな。着火もできるしリムランドトーチもある」
ガイとマサカが複数の切り株型トーチを用意していた。
「いや、まずはこれから使うといいじゃろう」
ミーユのそれは、魔法のリムランドトーチであり、10倍近く燃え続ける。それが2つあるため、先に使うことを申し出てくれた。
「あとはお酒もね‥‥でもお酒を飲む前に、まずは穴掘りでもして身体を温めようかな」
エアがスコップを担ぐ。するとガイが。
「どうせ身体を動かすなら、俺の用意させた木の船を解体してくれないか。薪になるからな」
「おっ、いいね」
エアはしかし、スコップしかない。
「よければこれを使え。疲れたら私が交代で使うよ」
ロザリーがバーサークアックスをエアに手渡す。
「おっサンキュー‥‥って重ッ!」
エアがヒーヒーと、マサカは別の斧で、ガイはマトックで、船をばらしにかかる。
「こっちにも薪にできそうなものがあるんじゃが」
ミーユはコネで、立派なモミの木を用意させていたが、ここまで運ぶのは1本が限度であった。それでも十分な大きさではあるのだが――
「これは‥‥相当な力が要りそうだな」
ロザリーは肩を回して出番を待つ。
「枝葉も使えそうだな。そっちは任せろ」
ベルは日本刀でモミの枝を打ち払っていく。
そしてミーユはファイアグローブを使い、常に松明程度の火を放ち続け、寒そうな者のそばで少しでも暖を提供する。
「うう暖まる‥‥わぢゃぢゃ!?」
近寄りすぎてプチ火傷したのは誰でしょう? A:エア。
◆02:30
リムランドトーチの炎を囲み、前かがみ気味に暖を取るハウンド達。
船の解体や丸太の切断を行なう者もいたが、思った以上に体力が削られるうえ、『身体が火照るより先に汗が凍って冷えていく』ことに気づいたため、当初は「私が私が」と求めあってた斧などは、今はどちらかといえば「どうぞどうぞ」な扱いになっている。まあ、ロザリーはまだ元気に振るってるし、ベルもベビィサラマンダーと一緒にハッスルしているが。
「さすがにちょっと疲れたな。お湯でいいからもらおうか」
ベルは、自身が用意していた魔法の喫茶セットで温められた白湯をごくごく飲んだ。この魔法のケトルは無制限に加熱機能を使えるため、皆もお茶やお湯を飲みに飲んで身体を温めている。
飲料水は十二分にあり、お湯が好きなだけ飲めるのは非常に心強かった。しかし、それだけで極端な低温に対抗するのは難しい。
「ちょっと早いが、食事にするか」
ふいにロザリーが言った。そして魔法の銅鍋(エルドフリームニル)を取り出し、調理人を探す――とりあえずエアがそれなりに料理できそうだったので、任せる。
「やっぱり煮込み料理かなあ」
豚肉に野菜、塩とスパイスを入れ、魔法の加熱機能でコトコト仕上げた、シンプルなスープ。誰もが、美味しそうにそれを食べた。
「意外なほど空腹でしたね。寒さで体力が減っていたのでしょうか‥‥」
「これはお代わり案件ですね」
ノーラとセリスが、空いた器を差し出す。しかしエアは肩をすくめる。もうないよ、と。だが魔法の鍋はもう1つあったので、すぐさま同じものを作り、皆でしっかり腹に収める。
「温かいものをたらふく食べられるのはありがたいな」
「水だけじゃなく食料も十分あるから、遠慮はいらんの」
ロザリーとミーユも、ホッと一息。
実際、寒冷地ではより多くのカロリーを必要とする。体温維持に使うためだ。そんな科学知識は、もちろん持ち合わせていないハウンドであるが、彼らはとにかく、たっぷりの肉とパンを持ち合わせていた。
「そして、お酒もね!」
エアはスットゥングの蜂蜜酒や、スピリットキラー、フィルボルグスキラー、ヒーローキラーといった強烈な酒を大量に持ち込んでいた。ガイはハウンドキラーを、ロザリーもリンゴ酒があり、こちらもよほどガバガバ飲まない限り十分な量といえた。
「つらくなってから一気に飲んだって、逆につらいだけだ。身体を火照らす目的なら、最初からチビチビやったほうがいいだろう」
ガイの提案で、幾人かは早くも酒を口にしだした――その時、セリスはちらとドラゴンを見て、おやっ? と思う。お酒を出したら、よだれを垂らしたような‥‥?
「ふう‥‥温まるな。よし、元気も出たし、もう一度鬼ごっこしてくるか」
ベルはベビィサラマンダーと、アツアツなキャッキャウフフを始める。物理的な加熱を兼ねて、らしい。
「元気だなあ‥‥おばあちゃんは休憩させてもらうぞ」
マサカは強い酒をちびちびとやりながら、ぼんやりと炎を見つめた――でも、寒い。
◆24:00
殺風景な空間だが、だいぶ前から闇が覆っていた。すなわち、夜になったということであり、3日3晩をゴールとするならば3分の1程度は経過したことになる。
ここまで脱落者はいない。しかし、明らかに動きは減り、口数も減っていた。
ロロインがやたらと「寒い、寒い」と繰り返すので、マサカが「寒いは禁句」と宣言し、なおさら静かだ。暗くなったせいもあろう。疲れたせいもあろう。
だが、何よりは、睡魔であった。
「雪山で寝たら死ぬ、と言いますからね‥‥テントも寝袋もない以上、頑張って起きてるしかないでしょうか」
ノーラが目をこする。
「いえ、3日3晩を目指すなら、どこかで一度か二度、眠っておかないと逆にもたないかもしれません」
セリスはそう言ったが、たとえ焚火の間近であっても、横になった際の体温低下は避けられそうになかった。
「うう‥‥あそこに入りたい‥‥」
エアは、離れた場所に設置したサウナテントを恨めしく眺めた。ドラゴンがほくそ笑む理由がわかった――視界にそれがあると、誘惑に負けそうになってしまうということか。
「‥‥ええい、あんなもの燃やしてやる! 焚き付けだ焚き付け!」
エアはやけっぱちな態度でテントを解体すると、焚火の横に並べて燃やし始めた。
「私は頑丈なフィルボルグス、まだまだ根性でいけそうだが‥‥皆はやはり眠らないと冷静さを欠くな」
ロザリーは率先して、身体を横たえてみた。しかし地面に接した部分が非常に冷たく、一気に全身が冷気で覆われる気分になった。
「こうなれば‥‥ガイ、身体を密着するぞ! 今さら恥ずかしがる歳でも無いからな!」
マサカに言われ、ガイは素直に応じる。半裸の二人がぴたりと密着し、温暖のXmasカードを開いて少しでも温かさを得ようとする。
「どうだ、皆もよければくっつけ」
マサカに言われ、エアは、「だが断わ‥‥らない!」と、ピタリくっついて、同じくXmasカードを開封。
「ううう‥‥人様の肌と、誰からも送られてないXmasカードがあったかいよぅ‥‥」
そして、しばし睡眠に挑む――のだが。
「‥‥さぶい!」
3人とも「今寝たら死ぬやつ」というのをハッキリ自覚。
と、跳び起きたマサカは、いつの間にかベルが密着しつつ、ぐっすり眠りこけていることに気づく。
「おい、いつの間に添い寝してたんだ‥‥てか寝てたら死ぬぞ、マジだよ、起きろ!」
ユサユサ、ペシペシ、バシバシ、ゴスゴスゴス‥‥少々(たぶん)荒っぽいやり方でベルを起こしにかかる。
するとベルは、ぶるぶるぶるっと激しく身を震わせるや、ゆっくりと目を開け、震える声で、言った。
「‥‥実は起きていた‥‥」
「嘘つけー!」
「このままじゃジリ貧になる。ここはリソースを惜しまず使うべきじゃろう」
ミーユは、大事に使ってきた薪類を、大胆に使う方法を提案。すなわち、焚火の周りで円になるのではなく、円状に焚火を複数配置して、その中心に皆で集まるのだ。全方位からの暖房である。
「それなら背面だけ寒い外気に当たることもないし、地面も温められるかもしれませんね」
ノーラも賛同し、それを試してみることに――結論から言えば、この方法はこれまでより段違いの暖かさを得られ、無理なく睡眠も可能そうであった。
「ははは、まるで我々が生贄、ドラゴンへの供物として捧げられているようだな」
ベルは、燃え盛る火に囲まれて、そんなこと冗談を言う。ロロインは「笑えないだろ」とボソリ。
「しかし、これだけ使ったら焚き付けがほとんどなくなりますね‥‥これを無駄にしないように、気合を入れて寝ましょう!」
セリスはそう言うと、ごろんとして、早々にクースカ寝始めた。皆もそうした。そして誰言うでもなく、割とみんな密着していた。
◆48:00
二度目の夜が来ていた。
魔法による防寒機能は、高性能のものであっても、ほとんど気休めにしかならなかった。
食料も水(熱湯)も酒もあるが、それがあったところで寒さはどうにもならなかった。
「三度目も夜までは‥‥ムリじゃないかな‥‥」
エアは頭がぼんやりしていた。弱気なことを言うべきでない、と、決めていたはずなのに、そのことが念頭に浮かんだのは数呼吸も後であった。
「眠い、ですね‥‥」
ノーラもまた、弱音を吐きそうになっていた。一夜目と同じように火をガンガン焚けば眠れるだろうが、もうそんな薪はない。しかし一睡もしないで、あと一昼夜耐えられるとは、とても思えない。
「とりあえず、とっておきを出そうぞ」
ミーユは、燻製溶岩竜肉(ヴォルケイドドラゴンの脚肉)を焼いた。いい香りだ。しかし一口かじれば――
「辛ッ!」
エアはヒーヒー言いながら食べる。おかげで――
「‥‥やっぱり寒いよおお!」
思ったほど体が温まらなかった。ミーユは「やはりなあ」と肩をすくめる。
「安心しろ、最後の一日もいい日で過ごせるぞ」
ロザリーがいつの間にか、木材を抱えていた。
「あれ、どこから‥‥あっ!?」
セリスは、自分の馬車がすっかり破壊されていることに気づく。
「解体したらなかなかの焚き付けになったぞ」
手伝っていたガイもそう言う。
「すでにある薪と合わせれば、もう一度熟睡できるだけの火を熾せるぞ。その後は‥‥」
マサカは、地面に無造作に置かれた保冷庫とチラリ。セリスは「あれも‥‥」と頭を抱える(大丈夫ですギルドが新調して補償します)。
あらためて、火の輪が作られる。再び安眠の刻がやってくる。憎たらしいことに、ドラゴンまでが退屈そうにあくびをしていた。
◆62:00
今や焚火は1つだけ、解体した保冷庫の慣れの果てだけであった。
誰もが遠い目をしていた。もはや食料も凍り付き、燃料に回されるだけとなった。
「ウソだろ‥‥こんなに強い酒が凍ってやがる‥‥」
ガイは唖然とする。強い酒は真冬でも凍らないと聞いていたが、ほとんどカチンコチンであった。一番強烈なスピリットキラーだけが無事なので、それをなめるしかないが、これはガチで喉を焼く(96度)。もっとも、今はそれが快楽にさえ感じる。
「ドラゴンよ。戦闘はダメとの事だが、お願いして一方的に攻撃してもらうのはダメか?」
ふいにベルがこう言い出すと、エアは「ついに狂ったかな?」という顔をした。
『いいのだが、死んでも知らんぞ』
ベルが前に出ると、ドラゴンは巨大な両のヒレでベシベシ、いや正確にはドッスンドッスンと凄まじい打撃を与えた。
『‥‥あ、死んだぞ』
ドラゴンが攻撃をやめると、ベルは地面になかば埋まるようにして伏せっていた。
「あああ言わんこっちゃない‥‥ベル? ちょっと!?」
エアが起こしにかかるが、ベルはぴくりともせず、冷たくなっており‥‥と思ったら。
「‥‥実は生きていた‥‥」
「みたいだね!?」
「ふー、気合がバッチリ入ったぞ。やはり寒い時は強敵にボコられるに限るな」
「変態だー!?」
エアがドン引きするも、ベルは本当に元気になってしまったのだから、ハウンドってのはワケわからないものである。
「ウチも無茶苦茶が許されるなら‥‥やってみたいんじゃがな‥‥」
ミーユは最終奇策を提案する。ルミナリンクで瀕死になり、自分自身をパンドラで封印するというのだ。
「これも魔法の力‥‥とは言えぬか?」
『それは逃亡、すなわちギブアップに等しく思える』
ドラゴン、却下。
「そうですか‥‥じゃあ、これもダメですよね‥‥」
セリスも必殺の奇策、ガーゴイルのエメラルダにGG合身を行なった。セリスの身体は、エメラルドでできた女神像型ガーゴイルと同化。寒さは感覚として残るが、『寒さによる体力消耗』がない姿となった。
と、この現象を、ドラゴンはよくわかっていないらしく。
『‥‥何をしたのだ?』
「あ、これはですね、魔法の力でガーゴイルに変身したんですよ」
ノーラはとっさにそうフォローした。まあ、嘘は言ってない。
『魔法の力で変身‥‥むむむ‥‥それはルール違反とは言えぬか‥‥』
という次第で、通ってしまった。これでセリスはMPの続く限り(つまり72時間到達まで)寒さで弱る心配がなくなった。
◆72:00
マサカ、ガイ、エア、ロロインは、ひとかまたりになって虚ろな目をしていた。
ロザリー、ベル、ミーユは輪になり、ファイアグローブの火を睨みながら、お互いを試すように見つめ合っていた。
エメラルダもといセリスは、ノーラが寝ないようゆさゆさしていた。
やがて、ダークアーティックドラゴンは言った。
『驚いたな、全員やり遂げおったか‥‥甘く見ていたぞ。ならば、包み隠さず話してやろう。我に大量の酒を飲ませるのだ。すると尾の先が赤くなる。その尾を切り落とせば、ディスミゼルとなる‥‥ようだ』
「よ、ようだ、てか‥‥」
ミーユが渋い顔をすると。
『だって我、誰かに教わったわけではないでな。しかし、自分のことくらい自分でなんとなくわかるものじゃ、ヒュージドラゴンともなればな』
「しかし、なぜそこまで教えてくれるのだ? ダークサイドだというのに」
ガイの問いには、ドラゴンは。
『殺すにしても、一方的ではつまらぬ。ここまで教えるつもりはなかったが、教えたからとて負けるつもりは微塵もない』
「あのー、想定外に頑張ったということで、もうひとついいですか? 次戦うときは、空間を水で満たすのは、やめてもらえませんか?」
セリスがちょっと図に乗ってみる。
『なんじゃと‥‥?』
「だ、だってホラ、せっかく持ってきたお酒が水に流れ出ちゃうと意味ないですし」
『そ、それは困るが‥‥』
「代わりにこの寒くする能力を使えば十分ハウンドに勝てますよ、ね!?」
『ま、まあ確かに‥‥よかろう』
言質を取ってしまった。
「‥‥飲み終わってから水で満たせばよかっただけなんじゃないですかね‥‥ウッ」
ノーラがぼそりと言ったが、セリスが肘打ちでとめた。
こうして謎の勝負は終わり、ハウンドは再戦時の好条件(?)と、ディスミゼルのヒントを持ち帰った。
そしてベルは、グリーヴァサモンジの効果により、相手の能力の天啓も得ていた。
「水の魔法や水系のブレスに関しては、相当強力なものを持っていそうだ。ま、それは想像通りだがな‥‥たぶんだが、例の、空間を変化させる以上にヤバイ能力は、ないんじゃないか」
さて、どんな再戦が待っているのか‥‥ヒュージドラゴン、再見!
7
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参加者
| | b.戦わせてくれた方が、私的にはいいのだがな……
| | ベル・キシニア(da1364) ♀ 28歳 人間 ヴォルセルク 風 | | |
| | b.アハハハ。サウナを用意したんで、ギブアップした人はそこで温まってねw
| | エア・カイザー(da1849) ♀ 28歳 人間 ヴォルセルク 風 | | |
| | b.食料と水、キッチンを用意します。馬車の中に入らなければ良いかと。
| | セリス・エクレール(da2012) ♀ 19歳 人間 マイスター 風 | | |
| | b.自然現象では無く魔法ならアマテラスで防げますかね?
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| | b.持ち込んだ装備開始前に没収されんのも癪じゃし、少しだけまともにやるかね
| | ミーユ・ノエル(da2134) ♀ ?歳 ヴァンパネーロ カムイ 地 | | |
| | c.ガイ、身体を密着するぞ! 今更恥ずかしがる歳でも無いからな!
| | マサカ・ダエジフ(da2181) ♀ 51歳 ダークエルフ ヴォルセルク 地 | | |
| | a.武人として気合いで乗り切る事に挑戦してみるよ。
| | ロザリー・シャルンスト(da2190) ♀ 28歳 フィルボルグス ヴォルセルク 陽 | | |
| | c.16人乗り手漕ぎボートを用意したんで、これを解体して薪にしよう。
| | ガイ・アルパ(da2251) ♂ 50歳 ダークエルフ パドマ 地 | | |
| 女性になら体温を分け与えたいけど、俺ヴァンパネーロだから体温低いんだ‥ | | ロロイン・パールツァ(dz0051) ♂ ?歳 ヴァンパネーロ ヴォルセルク 月 | | |
vsダークアーティックドラゴン
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と言っても、我慢比べだよなコレ‥‥いや、相手は我慢しないんだから、比べるというのも違うか。そうだ、これはもう人肌で温めるしかないんじゃないか!?
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