オープニング
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ウーディア地方にあるとある町の奥には、精霊の力で恋が叶うと言い伝えられる湖があった。周囲で告白するだとか、恋文を沈めると良いだとか、なんだかんだとやり方の伝承もあるにはあるのだが、昔はその近辺に家があって行き帰りが楽だったものが、町の発展と共に近辺の家が移転してしまい、今や湖周辺は背の高い木々で覆われて足元も悪く、殆ど人の出入りが無くなったのだという。なので、その伝承も数十年前までが全盛期であり、今の世代は『そういえばそんな話もあったかもね』くらいの認識らしい。
が、しかし。この度の愛の日にあたり、新任の町長は考えた。あの湖で告白しよう! というイベントにしたら、盛り上がるのでは無いかと。善は急げ、ということで湖に向かった町長であったが、足元の悪さと見通しの悪さに阻まれた上、なんと魔物に襲われたのだと言う。虫っぽいものに襲われた上に毒に侵されて命からがら帰ってきたら町長ではあるが、彼はメンタルの強い町長であった。
町長の命で町の自警団の面々でその魔物を討伐しようと試みたのだが、本人達があまり乗り気で無かったためか死者は幸いいないものの、怪我人続出の上討伐は失敗。
「と言う訳で、ハウンドの皆さんにご依頼させて頂いた訳です。愛の日を大々的に成功させたいという気持ちもありますが、何より湖も森も外れとはいえ町の一部‥‥住宅地までも距離が近いので、危険です」
どっちが本題かはわからないが、町長の言も一理ある。
「討伐と、湖の安全確認‥‥まぁもしよろしければ試しに湖で告白でも‥‥あ、いえ何でもありません。えと、お願いしてもよろしいでしょうか?」
若干何やら邪念が漏れた依頼を、まぁ住民達の安全も掛かっているし‥‥とハウンド達は受ける事にしたのだった。
◆
「で、湖? ここになんかいんのか?」
辿り着いた湖の湖面を覗き込むラヴィーニ。しんと凪いだ湖面からは、ここに何かしらの害意ある魔物がいるようには思えない。果たして、何がいるのか。
首を傾げる面々の耳に、微かに聞こえた忙しなく羽ばたく様な羽音。ん? と首を傾げ、顔を上げ。
「何の音‥‥」
左右に目を向けて、そして。
「げっ?!」
現れたのは、大きな黄色と黒の縞々の身体を持つ魔物。しかも、その数30は下らないだろうと言うほどで。
「多いけど?!」
ラヴィーニは、慌てて魔法の杖を構えるのだった。
◆選択肢詳細
魔物遭遇時の位置になります。魔物は森から現れます。
a、湖側
魔物が現れた時、ラヴィーニと同じく湖側の警戒を行っていた、という方はこちらを。
b、森側
魔物が現れた時、湖の近くから森の方を警戒していたという方はこちらで。
c、空中
空中から警戒をしていた、という方はこちらを。鬱蒼と木が茂っている為、見通しは良くありません。
選択肢
マスターより
こんにちは、椎名です。
この度は恋が叶う? という湖周辺の魔物討伐依頼になります。魔物は数が多いので、親玉がいる可能性が高くあります。攻撃も通りづらい状況なので、ご注意くださいませ。
なお、魔物の討伐が終わったのち、湖周辺では安全確認という名の自由行動ができます。是非ご活用くださいませ。
それでは、皆様ご参加お待ちしております!
※【SubEpisode16】恋せよ戦士愛せよ勇者 関連シナリオ
登場キャラ
◆
「えーと‥‥これは先に動いたら負ける‥‥じゃないわよねー」
冷や汗を流しながら呟く
カモミール・セリーザ。一方、
ラーラ・ヒューイットは咄嗟に魔法の箒を手に上空へと飛び上がる。
「やりたい事があったのに‥‥さっさと倒すぞ!!」
真っ先に敵に気が付いた
トウカ・ダエジフは、ダークネスパワー、アースアーマー、アースランニングを順番に成就させていく。
その間にぐぉお!!! と身体に見合った咆哮を上げ、竜の鱗を成就した
ラヴィーニ。その後ろで、ざっと周囲を見渡した
アンカ・ダエジフは、敵の数と状況を確認していく。
「この数‥‥普通じゃないですね。となると、近くに巣がある、と‥‥女王蜂もいそうですね」
一方、アンカの連れてきたブラウンベアのクマーはもう既に臨戦態勢である。その奥に薄らとうかがえる食欲に、アンカは小さく溜息を一つ吐いた。
「行くわよぉ〜‥‥プリズマティック! 飛行禁止、威力2倍!!」
ぶぶぶぶ、と翅を小刻みに震わせてホバリングしながら向かってくるラージホーネット達を巻き込むように距離を見計らい、カモミールはプリズマティックを成就する。生成された聖域は、先のカモミールの宣言通りに飛行不可の特殊空間であった。ぼとぼとと地面に落ちていく蜂達に、ダメ押しとばかりにアンカが杖を振り翳し、叫ぶ。
「アイスエイジ!!」
瞬時に聖域内が零下の冷気に飲み込まれていく。ただでさえ翅を震わせて地面に這い蹲るばかりだった蜂達は、限度を超えた冷気に襲われ、文字通り虫の息だ。酷く緩慢にうぞうぞするデカい蜂へと、竜の鱗で冷気耐性を得たラヴィーニは杖を向け、ヴィンドスヴァルを放った。
「寒いのは得意だぜ!!」
元気そうにそう言うラヴィーニに対し、バサラで取り込んだ金色のナックルを展開したトウカは、結構寒そうだった。ウールマントがあるとは言え、あまり長時間居たい温度ではなかった。
「寒〜‥‥これは本気で早めに倒さないとな」
妹の魔法で凍えましたなんて笑い話にもならない。
すぅ、と一つ息を吐き、射線の安全を確認し、そして。
「はぁっ!!」
掛け声と共に前へと突き出した拳から、稲妻が放たれ、数体の蜂を戦闘不能へと追いやっていく。
「いくわよポチ‥‥って、あら?」
それを見て自分もと気合を入れたカモミールは、連れてきたジャイアントリザードのポチへと目を向けようとして、思った場所にいない事に気が付いた。きょろきょろと辺りを見回す事数秒。
「あら〜‥‥そういえば寒いのはダメだったわね‥‥」
寒さにぷるぷる震えながらも頑張って動こうとしているポチに、カモミールはがくりと肩を落とし、少し悪いことをしたかな、と思ったりなどしつつ。
「その分私が頑張れば良いのよね!」
この後まだ出番があるかもしれないし。そう気持ちを切り替えながら、カモミールは地面でうごうご蠢いている蜂達へとソルを放っていくのであった。
一方、カモミールがプリズマティックを成就するより先にラーラ。
「女王蜂がいるかも‥‥でした、ね‥‥」
空中へと飛び上がる途中で聞こえたアンカの声。プリズマティックの外側へ飛び出てしまったのは事故なのだが、それならそうと自分は出来る事をやるのみだ。ぱっ、と魔法の効果が切れては再度プリズマティックが成就されて聖域に他の蜂が吸い込まれて、を繰り返す地上は仲間達に任せて、その間に自分は女王蜂を探そう。そう考えたラーラの全力での飛行は、幸い蜂のそれよりも速かった。
「きっと‥‥そう離れてはいないはず‥‥」
呟きつつ、高度を調整しながら森の上を旋回し、時折遭遇した蜂へとルナで応戦するのを繰り返していくが、女王蜂捜索が最優先。応戦もそこそこに飛び回る事暫し。
「あっ!」
ラーラは蜂の出てくる巣と思われる箇所を見つけ、思わず大きく声を上げた。
◆
「この辺りの蜂はこれで終わりか?」
プリズマティックの効果が切れて、アイスエイジの効果のない通常空間へと戻ったトウカ。大きく吸った空気は、凍てつくようなものではなく、ただそれだけでもかなりほっとするものだな、などと思いつつ、左右へ目を向ける。
「結構な量だったわね〜」
そう言いながら死屍累々の地面を眺めるカモミールと、寒くなくなり元気になったポチ。
「さて‥‥あとは女王蜂、ですか」
クマーを従え、アンカが呟く。魔法の残数は攻撃魔法の分を温存してはいるが、どうしたものか。アンカが呟いた、その時。
(西の方角に女王蜂の巣があります)
ラーラの意識に呼びかける声に、四人と二体はぱっと顔を上げ、誰が言い出すでもなく、誰が先に動き出すでもなく、相前後して走り出したのだった。
「速いですねっ‥‥!!」
箒に跨ったまま風を切るように飛ぶラーラの後ろを、ほぼ同じ速さでラージホーネットマザーが追いかける。その後ろに見えるのは、10体前後のラージホーネット。しかし、それらの全てを確認していくほど、ラーラに余裕は無かった。
巣に女王蜂がいることを確認しようと思ったのが運の尽きだった。中を覗こうと高度を下げ、接近した時に勘づかれてしまったのだ。警戒しながら横を飛んでいたベビィシムルは速度が足らないので肩に乗せ、全速力でその場から遠ざかったは良いが、姿を視認され追いかけられる羽目になった。
働き蜂は然程速くはないので上手くすれば攻撃を加えることは出来るだろうが、その間に女王蜂に追いつかれてしまう。しかも唯一の攻撃魔法であるルナの効果はあまりない。となれば、逃げるの一手に尽きる。
「っ‥‥!!」
箒で飛び続けるラーラが、他に出来ることがないか思考を巡らせる。そんなラーラに呼びかける声が。
「なるべく早く降りてきてください!」
湖に程近い木々の葉の下から聞こえたアンカの声に、ラーラは意を決して歯を食いしばり、葉の真ん中へと飛び込んでいく。ばさばさっ! と枝葉に引っかかりながら、半ば転がり落ちるように降下していくラーラと、それを追いかける蜂達。ラーラが枝葉に苦戦している間に、蜂達は距離を詰めていく。あともう少しで、その毒針がラーラに届くという、その時。
「プリズマティック!!」
先程と同じ条件で、カモミールが聖域を展開する。飲み込まれたラーラと蜂達は、即座に飛行能力を失い、地に落ちていく。
「うっ‥‥!!」
地面への落下を覚悟したラーラだったが、次の瞬間やけに固くもふもふした毛に覆われた逞しい何かに抱き止められて、思わず目を見開く。
「え‥‥?」
そこにいたのは、アンカの連れてきたクマーであった。
「クマー、よくやりました!!」
アンカがそう言う向こう側で、ラヴィーニが上空へ放ったヴィンドスヴァルがぼとぼとと落下してくる蜂を飲み込んでいく。
「お前が女王蜂か‥‥!!」
凍えながら地面に落ちた蜂達、その真ん中に位置する女王蜂へと、トウカは変形させたドラゴンバスターシールドを向け、そして。
「覚悟っ!!!!」
放った槍は、女王蜂へと深々と突き刺さる。びくびくと震える女王蜂と、周囲を固める蜂へとアンカが杖を向け、そして。
「これで最後です‥‥ヴィンドスヴァル!!」
放たれた吹雪の魔法は、瀕死の女王蜂も彼女の周りを囲む蜂も全てを平等に凍えさせたのだった。
女王蜂のトドメを刺し、残りの蜂達をハウンド達、随伴の3体とで見つけ次第丁寧に叩き潰した頃には、もうすでに夕方を越して夜と言っても差し支えない時間帯になっていた。だが、まだ町長から頼まれた仕事が残っている。ということで、湖の周りを安全確認をしながらそれぞれ歩いて周るハウンド達。
「恋‥‥して良いのかな‥‥」
湖面を眺めながら小声で呟くラーラの後ろを、がさがさ下草を掻き分けながらクマーが歩いていく。その後ろを追いかけるのはアンカ。
「あ、クマー! 巣の方に行くんですか? ハチミツは無いと思いますけど」
やる気のクマーに、はぁ、と呆れたように溜息を吐くアンカ。そんな彼女達に、ラーラははっとしながら顔を上げた。
「あ、あのっ‥‥さっき、ありがとうございました‥‥、お礼に、巣の場所‥‥案内しましょうか‥‥?」
問うラーラに、アンカとクマーは数秒顔を見合わせて、それから。
「まぁ、見れば納得しますかね?」
そう言いながらアンカが見上げれば、当然と言わんばかりにクマーは頷く。
「そういうことなので、是非お願いしたいです」
ラーラは頷き、2人と一体は巣の方へと歩いていくのだった。
「刺されなくて良かったわ〜☆」
安堵の声を上げつつ、ポチとお互い労を労い合うカモミール。その近くでは、ラヴィーニが泳ごうかどうしようかと悩みながら湖面を見つめている。
そこから少しだけ、離れた場所で。
「恋が叶う、湖か‥‥‥‥」
呟くトウカに、常の快活さは殆ど見られなかった。真剣な顔で湖面を見つめながら彼女はしゃがみこみ、そして。
「今日はいないけど、告白したい奴がいるんだ。だから‥‥」
少しだけ、勇気をくれ。
湖面へ向けて囁き、一瞬瞼を閉じたトウカの遥か頭上では、黄色い月が美しく輝いていた。
5
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参加者
| | a.プリズマティック! 飛行禁止、威力2倍!! 落ちたところを叩け―!!
| | カモミール・セリーザ(da0676) ♀ 31歳 ライトエルフ パドマ 陽 | | |
| | a.ではでは、アイスエイジでヒンヤリと。
| | アンカ・ダエジフ(da1743) ♀ 26歳 ダークエルフ パドマ 水 | | |
| | b.数の暴力なんてなんぼのもんじゃい!
| | トウカ・ダエジフ(da1841) ♀ 27歳 ダークエルフ ヴォルセルク 地 | | |
| | a.ルナしかないので…。
| | ラーラ・ヒューイット(da2137) ♀ ?歳 ヴァンパネーロ パドマ 月 | | |
| 恋? 俺‥‥腹一杯飯が食えれば、それで良いかなぁ〜?? | | ラヴィーニ(dz0041) ♂ ?歳 キティドラゴン パドマ 水 | | |
恋が叶う?
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恋が叶うと言う湖周辺に出現する魔物退治の依頼! ついでに湖の安全確認もお願いします。
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