星の降る夜に

担当椎名
出発2023/01/27
種類イベント 日常
結果成功
MVPナイン・ルーラ(da1856)
準MVPアルトゥール・マグナス(da2136)
パメラ・ミストラル(da2002)

オープニング


 リムランドの北部の山間は、辺り一面雪景色、吐き出す息も白く凍てつくほど寒かった。そんな中、依頼をこなしたハウンド達は、小高い丘を越えた先で休憩のため通りかかりの村に立ち寄る。そこはやたらと活気付いており、なにやら慌ただしく準備らしき作業をしていた。
「私達は通りすがりのハウンドなのだが‥‥何か忙しい時期だっただろうか。もし迷惑なら」
 このまま帰るが。言いかけたベリルに、広場に机を運んでいた男性はぶんぶんと首を横に振った。
「いえいえとんでもない! 折角です、皆さんも今日の星祭りに参加ください!!」
 星祭り? 首を傾げるハウンド達に、男性は目を輝かせて笑う。

登場キャラ

リプレイ


 ちらちらと雪の降る夜。さぁ、っと帯を引くように、星が流れた。
「お嬢様、見えましたか?」
 丘へと歩きながらちらりと視界を過ぎった流れ星に気付いたアルトゥール・マグナスの問いに、シュゼット・ティトルーズは目を瞬く。
「あら‥‥見逃してしまいましたわ」
 見ていた方向が違ったのかしら。首を傾げるシュゼットの肩にケープを掛けた。
「お嬢さん、見逃しちまったのかい?」
 そこへすれ違った村の男性が、エールを片手にシュゼットに笑いかける。方向から言って恐らく広場へ行くのだろうが、赤らんだ顔から多少なりとももう既に酔っている様子がうかがえた。
「そうなんですの。私、こうやって皆様で星を眺めるお祭りがあるなんて、初めて知りましたわ」
 ふわりと微笑み返すシュゼットは、コップを傾けながら夜空を見上げる。その瞳に映る星々の煌めきと、村を照らすほのかな灯り。
「うちの村は星が綺麗に見れるって自負してるんだぜ。こういう祭りが他所に無いかどうかってのは、俺にはちょっとわからんが」
 他愛もない話は、初対面同士で交わす世間話以上にはきっとなり得ない。余程の事がなければ、シュゼットが困る事はないだろう。少しだけ肩の力を抜き、アルトゥールはシュゼットの横に立ち、同じように夜空を眺める。
 命の危機を救ってくれた恩人。ヴァンパネーロの閉じられた世界でなく、外の世界を見せてあげたいと思った相手。長い時を生きているから、もしかしたら流れ星なんて珍しくともなんともないかも知れないと、思っていたが。
「あ、アルト! あれ、今流れましたか?」
「え、ほんとですか? 気付かなかったな‥‥」
 物思いに耽って、見逃してしまっただろうか。うっかりしていた、と内心反省しつつ、目を擦る。擦った所で見逃したものを探せる訳ではないのだが。
「じゃあお二人さん、祭り楽しんでくれよ!」
 そう言って背を向けた男性は、広場の方へと歩いていく。2人はその背中を少しだけ見送ってから、再度夜空へと目を向け、丘へと向かう。数分後、辿り着いた丘の上。2人一緒に見上げた先で、今度こそ揃って流れ星を視認し、同時に、あっ! と声を上げる。歳幼い子どものような反応に、シュゼットとアルトゥールは互いに顔を見合わせる。どちらともなくくすくすと笑い合い、そして。
「ところでお嬢様、願い事はありますか?」
 ひとしきり笑い合った後、アルトゥールはシュゼットに問いかける。シュゼットはというと、肩のケープを前で合わせるように端を握りながら、ふわりと微笑む。
「ふふ、一応は。アルトにも教えませんけれど」
 そんなシュゼットに、アルトゥールは手際よくローズエキスを用意して、ローズティを作りつつ、微笑む。
「あれ、教えてはくれないんですね。じゃあ、僕のも教えません」
 そう言って笑いながら、アルトゥールはシュゼットへとコップに注いだローズティを手渡した。礼を述べつつ、コップを受け取ったシュゼットは、夜空を見上げながら呟く。
「願いは自力で叶えるものとは思いますけれど、降る星に願うのも趣がありますもの」
 静かな丘に、その呟きは思ったよりも大きく響く。夜空を見上げつつコップを傾けるシュゼットの横顔を眺めつつ、アルトゥールは願う。
 お嬢様が、幸せでありますように。彼女の世界が、多彩な色で彩られていくようにと、想いつつ。
「今、流れましたわね」
 きらりと煌めきながら横に流れた星が一つ。ローズティを口にするシュゼットに、アルトゥールは問う。
「願い事、出来ました?」
 願いの内容を問うてこない従者に、シュゼットは微笑む。お互いに言わないとは言ったが、それにしても諦めのいい事この上ない。
「勿論」
 彼女が願うのは、そんな彼が死なないように。失うのは、もうたくさんだから。それから、もう一つ。
 コップを下ろして見上げた先で、また一つ星が流れる。シュゼットは、吸血鬼の殲滅というもう一つの願いを、胸の中で唱えたのだった。


「あっ、ナインさん! 今星が」
 夜空を指さすコニー・バインに、隣の席に座るナイン・ルーラは指し示された方向へと目を向ける。が、一瞬で落ちた星は、その頃にはもう跡形もなかった。
「この速さで流れる星に願い事‥‥ですか」
 なかなか難しい話だ。しかし、完全に不可能ではない。注意して眺めていれば。
「そういえば、ナインさんは何を願うんですか? さっきから僕も考えてるんですけど、これと言って‥‥」
 うーん、と唸るコニーに、ナインは首を傾げた。
「願い事、無いんですか?」
 その問いに、コニーはゆるゆると首を横に振る。
「無いって訳じゃ無いんですけど、叶えたい願いは殆ど叶ってるんですよね。田舎から出てきて、ナインさんと結婚して幸せな家庭を持てて、十分におつりがくるほどなんですけど」
 そんな謙虚な姿勢と言って過言でない事をなんて事ない風に言ってのけるコニーに、ナインは内心ぐっと来たような気がしたが、ここは広場だ。あまり大袈裟にはしゃぐには、恥ずかしすぎた。代わりに、ナインはわずかに目元を綻ばせ、頷く。
「私も‥‥結婚する前でしたら、コニー君と結ばれますようにと願っていましたけど、その願いはすでに実現してますしね」
 他に誰か一緒にいれば惚気るなと言われるところであるが、幸か不幸かこの席は二人掛けだ。他の村人達はそれぞれの話に夢中で二人の会話は聞こえていないので、誰一人それを指摘する者はいなかった。
「他に願い事と言ったら、自分の畑の豊作か、ハウンドとして世界平和か‥‥」
「そうですね、私も女神に仕える者としては世界平和を願うべきでしょうか‥‥」
 ああでもない、こうでもないと2人してしばらく悩んだ後。
「これからも夫婦仲良く円満に暮らせますように、とか‥‥どうでしょう」
 コニーの一言に頷きかけたナインは、ちらりと脳裏を過った記憶にはっとする。
「ナインさん?」
 僅かに肩を震わせた妻に、首を傾げたコニーへと、ナインはぽんと手を叩き。
「そういえば」
 一つだけ、切なる願いが。脳裏を掠めた願いに、ナインは少しだけ表情を和らげ、席を立った。
「どこに行くんですか?」
「暖かい飲み物でも貰いに行こうかと」
 そう言って踵を返すナインに、コニーも立ち上がる。
「それなら一緒に行きますよ」
 そんなコニーにちらりと視線を向けたナインの一瞬ふわりと微笑んだ頬は、仄かに赤くなっていた。
「あ、ナインさん! また星が」
 そう言ってコニーが指差した夜空に一本、白く帯が伸びる。それを見上げ、ナインは一瞬目を閉じて、願う。
 以前、バクが私たちに見せてくれた夢では、私たちは10人の子供の親だった。早くあの子たちと会えますようにと。


 宿のテーブル席に腰掛けたパメラ・ミストラルと、机の上で丸くなるリムランドブルーのノナ。パメラの手元には羽ペンを始めとする筆記用具と、羊皮紙。ノナはというと、夜空を見上げ時折羊皮紙に字を記していく羽ペンの先端を興味深げに見つめていた。
(星降夜に星祭り‥‥恋愛小説のシチュエーションにぴったりです)
 目の前を通り過ぎていく村人の横顔は、楽しそうな笑みで彩られている。そんな人々と、つうっと夜空を切り裂くように流れていく星。その上、唱えれば願い事が叶うのだと言う。
 大変興味深い。高鳴る鼓動と上がる口角を誤魔化すように、パメラは魔法のグリューワインを一口啜る。スパイスの香りと湯気のたつくらちに暖かなワインは、冷え切った身体を温めてくれる。
 普段会えない恋人同士‥‥いや、親に反対された恋愛なんかも良い。それか、旅人と村人のひとときの恋。叶わぬ恋、例えば‥‥そう、病に罹っている、とか。願うのは、恋人との未来。何の変哲もない、だけれども幸せな未来を願う2人。それを流れる星が聞き届けるか、聞き届けないか。星の奇跡でハッピーエンドを迎える物語も良いし、努力で掴む幸せも良い。
 パメラは脳裏に目まぐるしく浮かんでは消える物語の一つ一つを吟味しながら、羊皮紙へと物語を綴っていく。そんな彼女の手元を、衝動を耐えきれなくなったノナがつつく。
(ノナちゃん、暇になっちゃったんでしょうか。う〜ん‥‥あったかい‥‥)
 宥めるようにツヤツヤの毛並みを撫でる指先は、猫の温もりを確かに感じていた。
 シャーロット・ショルメは、ドーベルマンのモランと遊びつつ、そんなパメラの様子を楽しげに眺めていた。
 無言で側にいても苦痛じゃない関係というのは、何者にも変え難い素晴らしいものである。パメラのその自然体は、シャーロットへの信頼と親しみに裏付けられたものだ。そんなリラックスした様子で羊皮紙に色々書き込んでたり、お酒を飲んでいたり、ペットのノナを構っていたりするパメラの姿は、シャーロットにとって好ましいものだった。
 そんな2人の頭上を、星が幾つも続けて流れ落ちていく。
「お〜‥‥綺麗だわ‥‥ねぇ、モランちゃん」
 澄んだ冬の空に煌めく流れ星に、シャーロットはモランを撫でながら呟く。それから、ちらりとパメラを見遣ってから、もう一度夜空を見上げた。
「願い事、決めてる?」
 独り言のようなそれは、しかしパメラに向けたものであった。答えを待たないで視線を逸らしたシャーロットのその問いに、パメラは小さく頷いた。
 小説のネタが困らない位欲しい。事件系以外で。
 パメラが心の中で流れる星に願った頃、共に夜空を見上げるシャーロットはというと。
「私も、願い事は決めてるわ」
 口にはしないその願いは、私が解決できる事件が起きますように。

 こうして、雪の降る中星祭りの夜は更けていく。寒い中にあっても、人々の表情は温かく、楽しげだった。
 果たして星は、誰の願いを聞き届けるのか、それとも聞き届ける事はないのか‥‥その答えは、女神のみぞ知る。



 6

参加者

b.ナインさん、何を願いましょうか?
コニー・バイン(da0737)
♂ 23歳 人間 マイスター 月
a.願いですか。私の願いは…。
ナイン・ルーラ(da1856)
♀ 29歳 人間 ヴォルセルク 水
a.(カキカキ)『星降夜‥話の良い題材になりそうですね。』
パメラ・ミストラル(da2002)
♀ 19歳 人間 カムイ 月
a.そうですわね、アルト。折角ですし見ていきましょう。
シュゼット・ティトルーズ(da2115)
♀ ?歳 ヴァンパネーロ カムイ 火
a.いいタイミングで通りかかりましたね、お嬢様。
アルトゥール・マグナス(da2136)
♂ 20歳 人間 ヴォルセルク 地
a.んー、今回はただパ‥星を眺めてるだけというのも良いわね
シャーロット・ショルメ(da2142)
♀ ?歳 ヴァンパネーロ パドマ 地
 寒い分、星が綺麗に見えるな。
ベリル・ボールドウィン(dz0037)
♀ 28歳 人間 ヴォルセルク 火


星祭り

星祭り、か‥‥特にこれといった願いはないが、美味しいものを食べて夜空を見るのは楽しいかもな。