オープニング
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流浪の錬金装具師レフシャントがローレックの街にやってきた、という噂がハウンド達の耳に届いたのは、サンディからは、Xmasのプレゼント作成依頼を受けたはいいが当たった職人達に断られ、困り果てていた頃だった。
「レフシャント‥‥って、なんかすげぇ人だっけ?」
首を傾げるラヴィーニに、彼を知る面々はそれぞれに説明を始める。
その話を統合するに、レフシャントは痩身、大型のカーシーで、ひと所に落ち着かず、常に流浪の旅をしている。そして、その旅の途中で自然からインスピレーションを得て、錬金装具を作成している‥‥らしい。というのも、その場の誰一人、彼の作品は知ってはいても彼自身と会った事がある者は誰もいなかったからだ。そんな、噂の中だけに存在するような幻に近い孤高の錬金装具師‥‥‥‥彼にプレゼントの作成を依頼できないだろうか? そう言い出したのは誰だったか──しかし、その場の全員の想いは、同じであった。
◆
「プレゼント、か‥‥」
孤高の錬金装具師と呼ばれている割に、レフシャント自身の物腰は優しく、礼儀正しかった。
「無理、だよな‥‥」
渋る様子のレフシャントに、ラヴィーニは尻尾と羽根をしゅんとさせた。
「ごめんな、無理言って‥‥」
そう言って踵を返そうとしたラヴィーニに、レフシャントは首を横に振った。
「いや、やってみよう。私の流儀でないのは確かだが、ここに立ち寄ったのも、あなた達に会ったのも、全て女神の思し召しに違いない。しかし、私の制作には、自然や精霊のイメージがどうしても必要だ‥‥そうしたイメージを示したりはできないだろうか? そうすれば、きっと何かしらのインスピレーションが浮かぶだろう」
レフシャントのそんな発案に、ハウンド達は互いに顔を見合わせる。自然や、精霊のイメージ。ルミナの力を宿すハウンドとして、精霊賛歌、自然愛を表現する事は出来ないでも無いのではないか? 魔法、歌、踊り、芸術品‥‥。いや、出来なかったとしても、なんとかしてみせる。そんな確固たる決意を胸に、ハウンド達は大きく頷いてみせたのだった。
◆選択肢詳細
a、魔法
自然をイメージさせるように、魔法を工夫して表現を行います。レフシャントに危害が及ばないよう、ご配慮お願いいたします。
b、歌、踊り
歌、踊りで自然を表現します。
c、芸術品
絵を描いたり彫刻を作ったりして、レフシャントのインスピレーションを刺激出来るような自然を表現します。
選択肢
a.魔法 | b.歌、踊り |
c.芸術品 | z.その他・未選択 |
マスターより
こんにちは、椎名です。今回は流浪の錬金装具師レフシャントのインスピレーションを刺激すべく、皆様で色々表現していただきたいというシナリオになります。
ラヴィーニは魔法を使って表現を行う予定ですが、お手伝いできる事がありましたらお声かけくださいませ。
それでは、ご参加お待ちしております。
※【SubEpisode15】聖夜の星は誰が為に 関連シナリオ
シナリオ結果に応じ、新たなアイテム登場に繋がります(イベントページを参照して下さい)。
登場キャラ
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ローレックの街から周りに被害の及ばない郊外の空き地に移動したハウンド達とレフシャント。
お手並み拝見とばかりに微笑む彼は、打ち合わせや準備もあるだろう。そう言って、さっさと見晴らしのいい場所へと移動をし始める。始まる時は合図をして欲しい。ハウンド達に、そう言い残した彼が暫く悩んだ末に移動した先は、音や声が届く距離ではあるものの、魔法で何事かが起きた際の被害は然程ないような、そんな絶妙な高台だった。
大自然や、精霊のイメージ。言葉で言えば簡単だが、いざ表現しろ、となるとなかなか難しいものだ。
アリー・アリンガムは思考を巡らせながら呟く。
「実に難しい依頼ですねぇ。象徴的で」
自然とはなにか。そのイメージは、個人の捉え方によって異なるものだ。つまり、何をもって自然らしいとするかは、人それぞれなのだ。だからこそ、個人の思う自然を表せばいい‥‥とも、言えるが。
「ふむ。では及ばずながら吟遊詩人の端くれとして、歌での表現を試みますかな」
まず一番手として名乗り出たのは、
ビア・ダール。彼の手にしているものは、アイスハープである。
「折角です。私も参加しましょう」
どうせやるなら派手な方が良いだろう、とアリーが提案する。なんせ表すものは自然である。壮大であればあるほどいいに違いない。
「私も音楽を使うつもりなのですが‥‥どうしましょう? 合わせますか?」
そう言う
ローザ・アリンガムに、ビアは少し考えて。
「ソロパートと合奏パートがあっても良いかもしれませんね。お互いソロで一曲ずつ演奏してから、合奏などどうでしょう?」
それぞれの曲の見せ場を作って表現を行い、その後は仲間達の描き出す自然を彩るBGMとして演奏を行う。二人の演奏の相談に、アリーやそれぞれの魔法で自然を表現するつもりの
パオラ・ビュネル、
キョン・シー、
ラヴィーニが参加して、数しばしの打ち合わせの後。
「では、お二人のソロパートが終わったところで、合奏に合わせて私達が順番に魔法を打ち合う‥‥ということで」
パオラが要点を纏めれば、キョンとラヴィーニは大きく頷く。そうと決まれば、あとは実践あるのみ。果たしてそれでレフシャントが自然を感じてくれるかどうかは、彼のみぞ知る。ハウンド達の出来ることは、全力で表現を行い、彼にそのイメージが伝わるようにと祈るのみ。
「じゃあ、頑張りましょうっ!!」
キョンの掛け声で、ハウンド達は出番に備え、それぞれの持ち場へと散っていった。
◆
「じゃあ、始めるぜー!!」
ラヴィーニが合図をすると、小高い丘に腰を下ろして空を見上げていたレフシャントが手を挙げた。
「では、私から」
宣言し、ビアはアイスハープの弦を爪弾く。ぽろん、ぽろん、ぽろん。暖かさを感じる、優しげな旋律。すぅ、と息を吸い歌うのは、木々の隙間から優しく差し込む陽光と、頬を撫でるそよ風。優しい春風のような歌声が耳に心地よい。目を瞑り、心地よい歌声とハープの音色に耳を澄ませるレフシャントはしかし、ぴたりと止んだ音色にゆっくりと瞼を開く。それを待っていたかのようなタイミングで、ビアは叩くような激しさで弦を弾いた。
ばらばらと地面に弾ける豪雨、耳をつんざく雷鳴。しかし、それらはいずれ人々に恵みをもたらす祝福となる。
「ふむ‥‥なるほど」
ビアの奏でる音楽と詩とに喚起されたイメージに、レフシャントは小さく頷く。
悪い反応ではない。それを確認したローザは、ビアの曲が終わり、余韻も引いた丁度いいタイミングを見計らい、一歩前に歩み出る。
「次は私の番ですわ」
夜の女神の加護の宿るハープを構え、ローザは微笑む。戦うだけがハウンドの本分ではないのだ。久しぶりの戦い以外の依頼に、ローザの胸は自然と高鳴る。
そして、ローザは高揚を胸に抱え、その歓喜を指先に乗せて弦を爪弾く。奏でるのは自然の穏やかさ、自然の激しさ、自然の不安定さ、自然の暖かさを表現した曲。ビアとは違う嫋やかさのある曲調に、ローザの歌声が混ざり合う。
穏やかに、時に激しく、時に不安定に。自然はそこに生きるコモン達に時に優しく、時に厳しく、しかし決してなくなりはしない。レフシャントの脳裏に描き出されていく自然が、少しずつ輪郭を明確にしていく。自然に触れている感覚まで感じるような演奏に乗せられていた歌声が止まり、水たまりに一粒ずつ雨が落ちていくような音色に、そよぐ風のようなささやかに奏でられるビアのハープが重なっていく。
「ふむ、次は合奏か‥‥まるで森の中で静かな湖を眺めている気分だ」
呟くレフシャントの目の前で、パオラ、キョン、ラヴィーニが、上から見るとちょうど三角を描くような位置取りで、お互いに向かい合う。首を傾げるレフシャントがその意図を理解するより前に、流れるような音色をバックにパオラがクリスタルアーマーを成就し、キョンが魔法の杖の先から光の刃を伸ばした。
「まずは揺るがない大地の強さを示して見せます」
そう言って、パオラはキョンと頷き合う。そして、キョンは地面を蹴り、パオラへとルミナの刃で斬りかかった。パオラの身へと命中したその一閃は、しかし水晶のような防御膜でその身を傷つける事は叶わない。その間に竜の鱗を成就させたラヴィーニ。
「大自然の猛威‥‥トルネード、行きます!!」
今度はラヴィーニへと刃の先を向けたキョン。
「よし、準備おっけー!」
姿勢を整えたラヴィーニに頷き、キョンはストームの魔法を成就した。吹き飛ばされたラヴィーニだが、竜の鱗の効果でダメージは殆どない。無様ながらも着地したラヴィーニは体勢を立て直し、竜の翼を成就して、上空へと飛び上がった。それとほぼ同時にフライを成就したキョンが、上空へと退避したのを確認してから、パオラは杖を構えた。
「では‥‥大地の怒りと荒々しさ、秘めた強大な力‥‥ご覧ください!!」
宣言し、成就したアースクエイクにより、大地がぐらぐらと揺れ動く。とはいえ、威力は最小。被害が出るようなものではない、のだが。
「おぉ‥‥」
それでもレフシャントとしては、感嘆に値するものだったらしい。漏らされた声は、決して不快を孕んだものではなかった。
こうして被害を最小に収める工夫をしながらの魔法を駆使した模擬戦に対し、レフシャントは賞賛と感嘆とを漏らしつつ、その様子を具に脳へと焼き付けていく。それからも見せ方を考えつつ、使える魔法を使った模擬戦を続ける3人。その様相たるや、小規模な天変地異と言えるようなものではあったが、それを見ているレフシャントの瞳は興味深げに輝いている。
そして暫く後、太陽が斜めに傾いた頃。3人はそれぞれに礼をして武器を収め、その場から捌けていく。ローザは続けて音楽を奏で続け、ビアは楽器を収めて3人の元へ向かっていく。お互い手加減していたからと言って無傷ではないので、それの手当の為だった。
代わってレフシャントの正面に現れたのはアリー。
「では、僭越ながらわたくしが最後のトリを担当させていただきます」
そう言って彼女は杖を取り出し、斜め下方に構えるとライトの魔法を成就する。先端から扇状に放たれる光を、無声劇のように身振り手振りを交えつつ、大きく弧を描くように上空へ。その様子はさながら太陽が西から登って中天へと昇るようだった。そして、彼女は人々の営みを表すような動作を加えつつ、東へとライトの光を移動させていく。
ローザの奏でる音色も、彼女の演技や陽光に見立てたライトの灯りの動きに合わせ、弾むような期待に満ちた音色から明るく弾むようなもの、そしてゆっくりとテンポを落とし、落ち着いたものへと。曲が眠りを誘うような子守唄のようなものへと移行するにつれ、アリーはすっと身体を横へ倒しつつ杖を地面に着け、それと同時にふっとライトの灯りを消した。
◆
ローザの奏でる最後の音色が鳴り止み、透明感のあるハープの余韻がゆっくりと消えていく。いつの間にか夕闇に包まれていた静寂に、ぱち、ぱち、ぱちと拍手が響く。その音の主人は、立ち上がり、ハウンド達へと歩み寄るレフシャントであった。固唾を飲んでその様子を見守るハウンド達に、レフシャントは穏やかな様子で口を開いた。
「素晴らしい表現だった。自然、精霊‥‥ルミナの加護を持つとされるハウンドの実力とはいかなるものかと思っていたが‥‥期待以上だったよ」
彼はふわりと微笑み、小さく頷く。
「私の求める自然‥‥その片鱗は、あの時確かにここに在った。厳しくも優しく、そして生きとし生けるものの営みに欠かせないもの。破壊と恵みを等しくもたらすもの。うむ‥‥イメージが固まってきたよ。今すぐにでも作業に取り掛かりたいくらいだ。これなら‥‥きっと、良いものが出来るだろう」
そして、彼は暫く自然に対する賛美を語った後、心正しき戦士のためにいくつかの防具を作成することを約束してくれたのだった。
5
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参加者
| | a.ではライトで太陽を表現してみましょう。
| | アリー・アリンガム(da1016) ♀ 29歳 人間 パドマ 月 | | |
| | b.では及ばずながら吟遊詩人の端くれとして精霊賛歌を。
| | ビア・ダール(da1972) ♂ 53歳 ドワーフ カムイ 陽 | | |
| | a.大地の二面性を魔法で表してみますね
| | パオラ・ビュネル(da2035) ♀ 23歳 ライトエルフ パドマ 地 | | |
| | b.それでは音楽で大自然を表してみますわ。
| | ローザ・アリンガム(da2138) ♀ ?歳 ヴァンパネーロ ヴォルセルク 風 | | |
| 頑張ろうぜー!! | | ラヴィーニ(dz0041) ♂ ?歳 キティドラゴン パドマ 水 | | |
孤高の男
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流浪の錬金装具師、レフシャントがローレックの街に訪れたという。プレゼント作成を頼めないだろうか‥‥?
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