オープニング
◆
黒々とした夜の帳の内。
その冷気の淀んだ闇の底に、彼女の身は横たえられていた。
──ぽたり、と。
落ちてきた水滴が娘の頬で弾け、その感触が彼女の五感を呼び起こしていく。
「…………」
ようやく目を開いた娘は、のそりと身を起こす。
揺れる蝋燭の火。
それが映し出すのは、苔むした石壁に囲まれた一室であった。
「あれ……うちの部屋、いつ改装したんすかね……?」
「──おはよう、パルフェ君」
不意に向けられる声。
寝ぼけ眼をこすっていた娘──パルフェは、ハッとしてそちらを見やる。
崩れかかった部屋の入口。
そこから顔を覗かせていたのは、黒い全身鎧に身を包んだ獣面兜の人物であった。
◆
──パルフェがさらわれた。
その一報を受けたギルドは敵と彼女の行方を追う為、幾人もの人員を動員していた。
ギルドの一室。
この件を担当する事になった貴方達もそこに参集し、それぞれが集めた情報を精査する作業を行っていた。
すでに事件発生から丸一日。
しかし、消息につながる手掛かりは見つからない。
手詰まりの様相に、重々しい空気が充満する。
──その時。
慌ただしい数人の足音が聞こえ、突然、貴方達のいる部屋のドアが開かれた。
必死の形相で飛び込んできたのは、パルフェの元相棒──フリーデである。
彼女は今回の事件直前にデュルガーと共謀していた事が発覚し、諸事情の末にハウンド達によって『保護』されていた。
ようやく獣化が解けたのだろう。
人間の姿を取り戻した途端、ここへ駆けつけた様である。
監視の者達を振り払いながら、フリーデは縋る様に貴方達を見つめた。
「リベルダースを追っているんでしょう!?私、アイツのいる場所に心当たりがあるわ……だから……パルフェを助けてあげて!!」
そこにあったのは、親友の無事を願う無力な娘の姿であった。
◆
「パルフェを獣に変えるつもりっすね……!」
獣面兜の人物──リベルダースを前にして、パルフェは双眸を鋭くする。
そんなデュルガーがいることを、パルフェも知っていたのだ。
「でも、パルフェじゃ無理っす!先輩達は強いんすから!」
ふふん、と。
慣れない意地悪な笑みを精一杯に、パルフェは胸を張った。
彼女にとって、それは揺るがぬ真実である。
「ふむ……少し話をしよう」
そんな彼女の言を受けて。
リベルダースは沈思すると、近くにあった瓦礫へと腰かけた。
「パルフェ君にとって『強さ』とは何かな?──岩を砕く筋力?それとも、風の様に動けるスピード?」
「え、えっと……?」
その穏やかな問いかけに、パルフェはすっかり意気を乱される。
そんな彼女を見つめ、リベルダースは「そうではない」と指を振ってみせる。
「それは表出した『強さ』の一側面に過ぎない。そんなものだけが真に『強さ』であるのなら、我々がコモンに敗れる事など無い筈だ」
しかし、現実はどうだ?
これまで数え切れぬデュルガーが、コモンに敗北してきたではないか。
「我々に無く、君達にあるもの……それは『心』だ。心こそが、君達の『強さ』なのだ……私はそれに打ち勝ちたい!」
力説するデュルガーを前に、思わずパルフェは首を傾げていた。
「まるで……コモンに強くあってほしいと願っているみたいっす」
「はっはっは。それはそうだ」
リベルダースは愉快気に笑うと、ゆっくり立ち上がる。
「言っただろう?──私は君達のファンなのさ」
◆
ローレックの街、その近傍にある森の一つ。
そこには古い時代の聖堂が残っていると言う。
それがリベルダースの本拠であった。
「──まさかここを嗅ぎつけるとは……フリーデ君か」
聖堂へと突入してきた貴方達に、リベルダースは一瞬だけ驚いたが──すぐにその理由へ思い至る。
「もっと趣向を凝らしたかったのだが……仕方がない、私とパルフェ君だけでお相手しよう」
リベルダースが指し示す先。
聖堂の奥で、真っ白な魔獣が丸くなって眠っている。
しかし、それ以上に貴方達の注意を惹いたのは、その獣から発せられる異様な煌めきであった。
それは獣が抱く丸い宝玉から放たれていて、いよいよ眩いばかりの輝きを放ち始める。
そして、その光の中から。
一つの人影が姿を現した。
「…………」
どうやら人間の様だが、その顔立ちからは男か女かも判然としない。
しかし不思議なのは、全員がその顔をどこかで見た様な気がすることだ。
それは隣にいる者の顔に、あるいはこの場にいないハウンドに……いやさ、自分にも似ている気がする!
「パルフェ君にとって君達はただの羨望の対象ではない。彼女にとって君達は『希望』だ……明日を繋いでくれる『希望』なのだ」
リベルダースの手の内に夜の闇よりも濃い漆黒が集まり、禍々しい槍を形成する。
それを構え、リベルダースが吼える。
「その『希望』をもって、君達を討ち取ろう!!」
襲い来る二つの脅威。
ここに決戦の幕が開かれるのだった──。
選択肢
a.デュルガーと戦う | b.『先輩王』と戦う |
c.パルフェを倒す | z.その他・未選択 |
マスターより
◆登場魔物
・リベルダース
漆黒の全身鎧を纏い、狼を模した獣面兜で顔を覆う魔人。
散々と人心を利用する策を弄してきたが、彼自身は槍だけを得物とする、小細工を一切持たないデュルガーの戦士。
これまでの戦いからハウンド達の戦い方について熟知している。
それに加えて、長い時をかけてコモンを研究した結果、彼らを効率的に撃殺する技を完成させている。
・魔獣パルフェ
全身を穢れの無い白毛に覆われた美しい巨獣。
その姿は犬科の獣とドラゴンが融合したかの様な見た目をしている。
現状、聖堂の奥で深い眠りについている。
(特殊な魔物の為、魔物知識を得る事はできません)
・絶対無敵先輩王
獣化した事でタガが吹っ飛び、際限なく溢れ出す様になったパルフェの先輩に対する熱い想いが、リベルダースの用意した希少かつ特殊な宝玉によって具現化された存在。
その顔や動きは自分達によく似ている気がする……超美化されている事を気にしなければ。
どこかで見たような武器と魔法を使いこなし、実体があって傷つく事や状態異常を受ける事はあっても、絶対に倒れない。
パルフェを中継して、リベルダースの指示に従っている様子。
(特殊な魔物の為、魔物知識を得る事はできません)
登場キャラ
◆
「貴様の悪行、これまでだ!」
襲い来る脅威あれば、それに立ち向かう者あり。
先陣を切るのは、直剣を構えた
エクス・カイザーだ。
「そう上手くいくかな、勇者君……!」
魔人の槍とエクスの剣。
黒と銀が激しく交錯する。
──しかし、次の瞬間。
円を描く槍が巧みにその剣を弾き。
体勢の揺らいだエクスの体へ、その穂先が深々と突き込まれる。
「ぐううっ!!」
その威力に堪らず、たたらを踏むエクス。
「兄さん!?」
夥しく血を流す兄の姿に、
アステ・カイザーは驚愕する。
ただの一撃であれほどの深手をもたらす威力。
これ以上の攻撃を受ければ命に関わるだろう。
「この腐れ外道!うちの家族になんてことしてくれるのよ!!」
アステの放った矢が魔人の首を射貫き、その瞬間、付与されていたピュアリティが効果を発現する。
「おらが前に出る!」
浄化の威力を受けて僅かに怯む魔人。
その隙を見逃さず、
エルシー・カルがエクスを庇いに入る。
「真っ正面からぶん殴ってやるべさ!」
気炎を上げる彼女は、すでに鉄壁の防御を完成させている。
しかし、それは魔人が良く知る彼女の戦法だ。
「ガチガチの君と殴り合うのは勘弁したいね」
首の矢を引き抜いたリベルダースが片手を掲げた──刹那。
ハウンド達の似姿、絶対無敵先輩王がエルシーへと襲い掛かる。
◆
「お前の相手は──」
「私達だ!!」
先輩王の鋭い剣撃を鎧で受け止めるエルシー。
そんな彼女から敵を引きはがすべく飛び出したのは、
ベル・キシニアと
トウカ・ダエジフである。
二人は力尽くで先輩王をエルシーから引き剝がし、リベルダースから離れた位置へと押して行く。
「話は聞いていたが……かなり厄介な事になっているな!」
間合いを取りなおした先輩王が繰り出す斬撃。
バサラで取り込んだナックルでそれを弾いたものの、トウカの額には冷や汗が滲む。
「なんにしても、相手にとって不足無しだ!」
咆哮と共に行うドラミングによって、装備の効果を発揮させるトウカ。
その隙をカバーする様に、今度はベルが攻勢に出る。
素早く間合いを詰めつつ──突如、下段に構えた槍の柄を思い切り蹴り上げる。
跳ね上げられた槍の穂先が、天に昇る雷『雷樹』の如く閃く。
しかし、先輩王はそれを半身を開くだけで回避し、逆に嵐の様な攻めへと転じてくる。
「これは……過去一番、楽しめるかもしれないな」
その対手の厳しさに激闘を予感し、ベルの口元には笑みが浮かんでいた。
「──姉さん、大変なのは重々承知なんですけれど」
敵と激しく干戈を打ち合わせるトウカ。
そこへ声をかけるのは彼女の妹、
アンカ・ダエジフである。
「ソレの一部分の採取、お願いしますね?」
今まさに、トウカのアッパーカットが炸裂している先輩王を指さすアンカ。
「わかった。腕一本でいいか?」
「いえ、そんなにはいらないです」
笑みすら浮かぶ、いつもと変わらぬ二人のやり取り。
そこにはダエジフ姉妹の豪胆さが垣間見える。
「さあ、私もいきましょうか……ヴィンドスヴァル!」
前衛達が飛び離れた事を確認すると。
アンカの構えた杖の先から吹雪が吹き荒れ、先輩王の姿を飲み込んでいく。
◆
その一方、リベルダース側では。
「後衛の皆さんは、アマテラスの内側へ」
ノーラ・ロネが成就させた魔法によって、仲間達を覆う結界が形成される。
これで敵の接近を防ぎつつ、一種の『遮蔽物』として前衛に利用してもらう事もできるだろう。
「とは言え……アレが相手では絶対安心とも言えませんが」
もし、あの魔人が結界に激しい攻撃を加えれば、それは魔法の付与されたCROSSに対して衝撃となって伝わってしまう。
そうなれば最悪、CROSSが破壊されてしまうかもしれない。
そのアマテラスの内側から。
「よもや、あれ程の傷を負うとは……キュアティブ!」
ケイナ・エクレールが成就させた魔法が、エクスの傷をたちどころに回復していく。
極めに極めた彼女のキュアティブならば、死人ですら目を覚ます。
「助かる……!」
剣柄を握る手に力を込めて、再び魔人へと挑みかかるエクス。
そんな勇者の背をサムズアップで見送ったケイナは、小さく息を吐いて眉根を寄せた。
「デュルガーは滅す、嬢ちゃんは救う……それだけじゃが油断はならぬようじゃ」
◆
緩急自在、虚実を巧みに入れ混ぜたリベルダースの槍術。
その暴威の前には
ローザ・アリンガムなど、いかにも可憐で儚げだ。
しかし、ローザの瞳には、激しい光が強く煌めいている。
「人心を利用し、私達の仲間を化け物に変え嗾けるとは……!」
ローザの振るう漆黒の大鎌が、魔人の涅色の槍を打ち弾く。
「正直言いましょう、ぶち切れました!」
「それは結構。だが、不十分だ……!」
哄笑と共に、魔人が再び槍を構えなおす。
しかし、今度はローザが笑みを浮かべる番であった。
「一人分ではありませんわ。これは私達──」
「姉妹の怒りです……!!」
ローザをかわす様に、その背後より奔り出でた閃光が魔人の頭部を激しく撃つ。
それはローザの義妹である
アリー・アリンガムの成就した魔法だ。
「ルナかっ!?」
「はあああっ!!」
不意を突かれた魔人の胴体へ、さらにローザの大鎌が追撃を果たす。
テレパシーを利用した見事な連携であった。
アリーは義姉の身を案じつつも、杖を握る手に力を込める。
「──策を練るのは戦いの中では当然。私も策謀を練るのは好きな方ですし……ですが、あなたは越えてはいけない一線を越えたのです」
そして、その先に待つのは破滅という名の無明だけである。
アリンガム姉妹は決して、邪悪を許しはしないのだ。
◆
「パルフェ……あの変なヤツは、お前が理想とする『先輩達』の塊なんだな」
縦横無尽に暴れまわる先輩王。
パルフェを良く理解する
ライオット・シンは、その正体に気づいていた。
だからこそ、彼は悔し気に奥歯を噛みしめる。
「美形すぎて、オレの要素が全く感じられん!」
……実際、そんな事はないのだが。
パルフェの目に自分がどう映ってきたのか、とんと自覚がないらしい。
「いや、そんな事はどうだっていいんだ!」
エクスにルミナパワーを付与してもらった剣。
それを握る手が震える。
「オレは……かわいい後輩を助けたいだけじゃい!」
「──よく言った!それでこそ男だ!」
心の声を駄々洩れさせるライオットへ、背後から力強い声が飛んでくる。
思わず目を丸くして振り返る彼の前に立っていたのは、自称美人軍師──
ソランジュ・スピースであった。
「貴公、あの娘を好いておるのだろう?いや、皆まで言うな野暮になる」
なんて強引なヤツだ……!
饒舌なソランジュは、目の前で半眼になっている青年がそんな事を考えているとは露とも知らぬ顔をしている。
「実は私にも考えていた事があってな。その為にも無謀な……もとい、勇敢な者の助けが必要だったのだ」
満面の笑みを浮かべたソランジュが、ライオットの肩を叩く。
「貴公、やってくれるな?」
◆
「──うおおおお!」
自らの気勢を上げる様に、雄叫びと共に駆け出すライオット。
そんな彼の道を照らす様に、突如、聖堂の天井から眩い陽光が差し込んでくる。
「ちょ、ちょっとどうしたの!?」
目まぐるしく変化する事態に、アステが目を丸くする。
そんな彼女の隣に並ぶのは、今しがたプリズマティックを成就させ、後方腕組みお姉さんと化したソランジュである。
「愛だ!」
「……はい?」
丸くしたものを今度は三分の一まで怪訝に細めるアステ。
しかし、ソランジュは得意気に指を振って見せる。
「あの小娘が持っている玉が、彼奴の策の要である事は明白!彼にはその玉を外せと頼んである!」
確かに先輩王が現れる直前、あの宝玉が輝いていた事をアステは思い出す。
「上手くいけば……あのハウンドモドキをどうにかできるってことだべ?」
前衛を受け持つエルシーは、荒く息を吐きながらも、その話を背中で聞いて口元に笑みを浮かべる。
彼女はその鉄壁で傷こそ受けていないものの、仲間の盾となる立ち回りは体力を消耗させていた。
「そうと分かれば、あのデュルガーは絶対に引きつけておかないといけないべさ!!」
腕と一体化したアイアンフラッシュを構えたエルシーは、リベルダースに猛進する。
今こそが攻勢の時だ。
「よく分からないけど……とにかく、そういう事なら!」
エルシーの動きへ合わせて、アステは一つの魔法を成就させる。
途端、リベルダースの動きが大きく鈍った。
「これは……使い続けていたピュアリティは目くらましか!」
忌々し気なリベルダースに、アステが笑みを見せる。
「そうよ!このアプサラスの為の伏線だったってわけ!」
収束した聖なる力が魔人の戦力を大きく減退させる。
それは、間違いなく勝機だった。
◆
「こいつ、本当に手強いじゃないか!」
傷だらけとなったトウカは両拳を構えながら、なおも闘志を剥き出しに笑う。
アンカの為に腕一本と思っていたが、とてもそんな余裕はない。
なにせ相手はどんなに殴ろうと突き刺そうと、微笑みながら向かってくる化け物なのだ。
そんな彼女の傍らを、雄叫びを上げるライオットが走り抜けていく。
「二人とも!あの人を援護して上げてください!」
念の為にレジストファイアを彼へ成就させながら。
青年の意図に気づいたアンカが、トウカとベルへ向けて鋭く声を飛ばす。
それが合図だった様に。
二人と同時に先輩王までもが、ライオットを追いかけ走り出した。
「アレが私達の似姿だと言うのなら、パルフェの想像を超えねばならない──」
いち早く、ベルが先輩王の前に立ち塞がる。
そして突然、彼女は手にしていた得物を投げ捨て敵へと突進した。
その『想定外』の動きに先輩王の繰り出す剣閃は鈍るが、それでもベルの体を剣が貫く。
「ぐっ……!私はなぁ全能力発揮して勝つのが好きなんだ!」
口の端から漏れ出る、一筋の鮮血。
しかし、ベルは手にしていた矢を相手の首筋に深々と突き刺した。
「離れろおおおお!」
そこへ間髪入れず。
叫ぶトウカのナックルから溢れ出した雷の奔流が敵を飲み込み、それをアンカの杖から放たれた雷撃が追撃する。
先輩王はそれでも倒れない──が、感電したその体はしばらく動く事はないだろう。
「執念が生死を分ける……まぁ、これも勝利の希望ゆえ、か」
その光景を眺めながら、ベルは傷を押さえ微笑んでいた。
◆
「オレだけじゃなくフリーデも他の先輩も、お前のために命張ってんやからな!」
全力で走りながらライオットは叫ぶ。
安らかに眠る獣の顔に、少女の顔が重なる。
「いくら強かろうが綺麗やろうが!いつものお前じゃなきゃ意味ないやろ!」
──いや、そうじゃない。
「オレがイヤなんじゃ!」
パルフェの抱く宝玉へと向けて、ライオットは跳躍する。
「パルフェ!好きだ!!だから……だから、さっさと戻ってこい!!!」
万感の想いを込めて、剣は振り下ろされた──。
◆
「──姉様……こんなに傷ついて」
エクス達と共に死闘の渦中にいたローザは、すでに満身創痍。
一旦、結界の中で治癒を待つ身となっていた。
そんな彼女の前で膝を折ったアリーは、傷つき苦悶に歪む義姉の美しい顔を撫で。
「どうか私の想いと共に、私達の敵を思う存分ぶん殴ってくださいな……」
ローザの唇に、そっと自身の唇を重ねる。
「…………」
──糸の切れた人形の様に、気を失うアリー。
そんな彼女を抱きかかえ、ローザ・アリンガムは再び気高く立ち上がるのだった。
◆
砕け散った宝玉の破片が、陽の光に煌めながら周囲に降り注ぐ。
それと同時に先輩王も輪郭を失って消えていく。
「ば、バカな!!人がアレを破壊するだと!?」
周囲の光景を見回しながら、リベルダースは明らかに動揺していた。
そんな彼の足元を静謐なる矢の一閃が貫く。
それはノーラの放った、スターライトの付与された矢であった。
「これが愛……愛?まあ、そんなものの力です」
「愛!愛だと!?心の力が、こんな奇跡まで起こすと言うのか!!」
信じ難いとばかりに、魔人は己の獣面に爪を立てる。
そこへ黒刃が襲い掛かった。
「起こしますとも!愛ならば、奇跡の一つや二つだって!」
「宵闇に追いやられていた種族が愛を口にするのか!」
ローザの振り下ろした大鎌を打ち払いながら、リベルダースは彼女の先祖返りした姿を見て吼える。
「宵闇の中でこそ、見える星の煌めきもありますわ!!」
そんな言葉にローザは惑わない。
彼女の中には確かに、アリーの愛が輝いているのだから。
「貴方の敗因はただ一つ!私達を怒らせすぎですわ!この──腐れ外道ッッ!!」
邪悪を斬り裂く漆黒の一閃。
その一撃に、魔人の鎧に大きな亀裂が走る。
「悪党!!この一撃も持って消えるべさ!!!」
一気に間合いを詰めていたエルシーの渾身の一撃が、さらにそこへ叩き込まれ──魔人の体が大きく吹っ飛ばされる。
「──うーむ、奪うだけのつもりが、まさか破壊するとは……」
「ソランジュ!一気呵成!追撃じゃ!!」
想定を超える事態に唸り声をあげる美人軍師へ、仲間達の回復に八面六臂の活躍を見せていたケイナが声を上げる。
背中合わせに二人が成就させたプロメテウスとソルが、転がった魔人を容赦なく撃つ。
「ふ、ふふ……!」
それでも尚、邪悪は笑声と共に立ち上がる。
そんな魔人の前へ──。
「今こそ無に還る時だ……リベルダース!」
勇者、エクス・カイザーが立ちはだかった。
この戦いで、常に斬り結んでいた二人──その決着の時だ。
「こちらを見切ったつもりだろうが……私も全ての手札を見せた覚えはない!!」
「……そうか、ならば試してみよう」
一瞬の静寂。
そして、刹那。
魔獣の瞬発力で踏み込んだリベルダースの槍が、エクスの体を深々と貫く。
しかし──。
「なっ!?」
驚愕の声を上げていたのは魔人の方であった。
エクスはあえて自身の体を貫かせ、その槍ごと使い手を抑え込んだのだ!
「これが……ハウンドの、コモンの力だああああ!!」
窮地を勝機へと転ずる秘策、スサノオーを成就させたエクスは、その拳を敵の獣面へと繰り出す。
リベルダースもまた槍を手放し、カウンターで拳を握るが──。
一瞬だけ速く、エクスの拳が獣面を貫く!
魔人の凄惨な悲鳴。
そして、解き放たれたエクスプロージョンが──全てを終わらせたのだった。
◆
「──色々やった末の結果が、何故かバカップルの誕生……ねえ、どんな気持ち?」
「やれやれ……アンカ君は手厳しいなあ」
敗れた魔人を見下ろして、アンカは煽る様に声をかける。
しかし、ひしゃげた獣面兜から返ってきた言葉は、意外にも穏やかなものであった。
リベルダースの体は砂の様に崩れて消え去り、今や兜しか残っていない。
そんな魔人の目に映っていたのは、白い魔獣に無邪気にじゃれつかれる青年の姿と、それを笑って見つめるハウンド達の姿だ。
「これで大団円と言ったところかのう」
「ほんとに、みんなの前で激しいんですから」
カラカラと笑うケイナ。
ノーラも冷やかす様に、ライオットへ微笑みかける。
「言うとらんで助けろ!」
当の本人はもみくちゃにされて悲鳴を上げていたが。
「──やれやれ、君達はデュルガーよりも怖ろしい……デュルガーの私が言うんだから間違いないよ」
リベルダースが、くつくつと笑声を零す。
「まあ……パルフェ君は獣になっている間の事は覚えてないんだけどね」
「なに!?それじゃあオレの叫びとか無駄だった……?」
「いや、希望はあるさ──」
もう半分しか残っていない獣面が笑いかける。
「愛は……奇跡を起こすんだろう?」
その言葉を最後にして。
獣面兜は跡形もなく崩れ去る。
こうして、リベルダースは滅びた。
ただ、一つ──。
不可思議な書物だけをその場に残して。
5
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参加者
| | a.あの腐れ外道め、今日こそ決着をつけるわよ!!
| | アステ・カイザー(da0211) ♀ 27歳 人間 カムイ 水 | | |
| | a.厄介な相手ですね。姉も激怒していますしこれはアレする必要がありますか。
| | アリー・アリンガム(da1016) ♀ 29歳 人間 パドマ 月 | | |
| | b.これは、もしかしたらこれまでで一番楽しめるかもしれないな
| | ベル・キシニア(da1364) ♀ 28歳 人間 ヴォルセルク 風 | | |
| | a.こちらを見切ったつもりだろうが、私も全ての手札を見せた覚えはない!!
| | エクス・カイザー(da1679) ♂ 30歳 人間 ヴォルセルク 火 | | |
| | c.魔人もアホな妄想も知らん!大事なんはアホなお前だけじゃ!
| | ライオット・シン(da1728) ♂ 21歳 人間 ヴォルセルク 風 | | |
| | b.パルフェさんは若い人に任せて、年寄りはこちらに。アイスエイジ行きます。
| | アンカ・ダエジフ(da1743) ♀ 26歳 ダークエルフ パドマ 水 | | |
| | b.なかなかやっかいな相手だ。相手にとって不足はない!
| | トウカ・ダエジフ(da1841) ♀ 27歳 ダークエルフ ヴォルセルク 地 | | |
| | a.基本は回復じゃが、牽制もするのじゃ。
| | ケイナ・エクレール(da1988) ♀ 30歳 人間 カムイ 火 | | |
| | a.真っ正面から勝負だべさ。
| | エルシー・カル(da2004) ♀ 21歳 カーシー(大型) ヴォルセルク 地 | | |
| | a.良いか、プリズマティックを使っているうちに玉を外させるのだぞ。
| | ソランジュ・スピース(da2063) ♀ 23歳 ライトエルフ パドマ 陽 | | |
| | a.ぶち切れましたわ。イザという時はアリーと共に切り札を切ります
| | ローザ・アリンガム(da2138) ♀ ?歳 ヴァンパネーロ ヴォルセルク 風 | | |