化野に咲いて

担当津軽無色
出発2022/05/16
種類ルーキー 冒険(討伐)
結果成功
MVPシーマ・アルテタ(da2139)
準MVPケイナ・エクレール(da1988)
パメラ・ミストラル(da2002)

オープニング

◆化野にて
 月影も届かぬほど霧けぶる野に、歪な石がいくつも、整然と並んでいた。
 どれもこれもにうっすら見える傷のような痕は、どうやら文字か。
 もっとも、風化が酷く、判読はおろか何語なのかすら分からないのだが。
 それでも、この遺跡らしき一帯が造られた目的は、すぐに見当がついた。
 なぜなら、風は止み、樹木も人気もないのに、ざわざわとうるさいから。

登場キャラ

リプレイ

◆寂寥の野を往かば
「皆さん、はぐれないように。あたしの灯りを目印にしてくださいねー」
 キョン・シーは竜骨の杖を掲げ、前方を真昼の如く照らし出す。
 覚えたばかりのライトの魔法だ。
 更には、すぐ隣でユニコーンのユニを伴うアステ・カイザーもアオサギのような兜の緑眼を点灯させており、夜間ながらハウンドたちの視界を確保すべき光量は十全と言えた。
「……とは言ったものの、こう霧が濃いと何も見せませんね」
 キョンは諦念混じりに息をついて、小さくぼやいた。
 かつて竜巻を起こして霧を晴らそうと試み、結局叶わなかった無念を思い出しているのかもしれない。
 そんな過去を想起させるほど、一帯に立ち込める霧はあまりに濃く、厚い。
 いくら明りを照らせども、視界は開けずただただ白くなるばかり。
「まったくだ。こんな土地、買ってどうするんだろうな」
 ヒポグリフを従え前を行くベル・キシニアが、呆れたように同意する。
 土地の査定など知る由もないが、素人目にも価値が低いのは明らか。だからこそ――
「この依頼、絶対に裏があるわよね」
『私もそう思います』
 恐らく誰もが思うことをアステが口にすれば、パメラ・ミストラルもサッと同感の意を書き文字で示した。
「裏……何かの証拠隠しか?」
「なんともきな臭い。はてさて、どれほど罪深いことをしでかしたのかのう?」
 ベルの当てずっぽうに、ケイナ・エクレールは少し大げさな調子で応える。
「例えば、あの商会の何代か前の跡取りが、どこかの女性と駆け落ちしようとしたとか」
 具体的な一石を投じたのは、シーマ・アルテタだ。
 それは花嫁と商会とを紐付けて筋立てた、何気ない予想に過ぎない。
 だが、直後にエクス・カイザーが眉をひそめたのを、妹のアステは見逃さなかった。
「兄さん?」
「……いや。真相はどうあれ依頼人の言葉を額面通りに受け取ることはできないな、と」
 気遣いげな妹に対し、エクスは先のアステと同様のことを言った。
「ふうん、まあいいけど」
 取り繕う兄の様子は思い詰めているようにも見えたが、アステは追及しないことにした。
「うん、何にしても良い話ではなさそうだね」
 シーマもまだ思うところがあるのか少し間を置いて、とりあえず頷いてみせる。
 以降、取り留めのない考察は、一旦落ち着いた。
「……」
 ところで、先ほどから一言も発していないナナミ・ルーラは、すでに戦いのことを考えていた。
 と言うのも、ハウンドとして本格的に仕事を請け負うのは、今回が初めてなのだ。
 無論彼女とて依頼の背景に思うところもないではないが、それよりも今気がかりなのは、己の役割をこなせるかどうか。
 そんな彼女を気遣ってか、沈黙を持て余してか、あるいはただの気まぐれか。
 パメラはおもむろにナナミの袖をつまんで、『大丈夫?』と記した紙片を掲げる。
「平気よ、ありがとう」
 穏やかに応えたナナミの声音に、どうやらてらいはない。
 憂うこともないならと、パメラは小さく頷き返して、視線を景色に向けた。
 その矢先。
「……今、微かに聞こえたような」
 不意に、エクスがごちた。

◆仇花
 ざわざわと、ざわざわと。
 忍び寄るようでいて、なのに距離を感じさせない、不可思議な物音がする。
(ままならないな。先に亡骸を見つけておきたかったが)
 エクスの小さな無念を他所にユニコーンが嘶けば、ヒポグリフは呼応するように唸る。
「ユニ!?」
「来たか」
 それぞれの主は得物を構え、相棒の野生が捉えた敵意に備える。
 果たして、そこには。
 霧から染み出すように、そしてすぐに溶けるように。
 消えるように、燃えるように。
 薄弱にして、鮮烈な。
 昏く、白い姿の、目を伏せた女が、浮かんでいた。
 ハウンドたちもすでに動き始めている。
 ベル、エクス、シーマは、彼女を正面、そして左右より迎え撃たんと前へ。
 ケイナとパメラ、それにナナミは逆に距離を取りつつ思い思いに射線の確保。
 陣形が整う頃にはアステの祈り――アプサラスが完成し、掲げられたペンダントに淡い光が滲む。
「これで少しはやりやすいでしょ!」
 次の瞬間、女の霊は頭を抱えて苦しみ、宙をのたうち回った。
 そして、聖なる力の賜物か、曖昧だった輪郭は克明となり、さも貴族然とした婚礼衣装を纏う細見の体に生前は見目麗しかっただろう目鼻立ち、見覚えのある胸元のブローチと、その少し上――喉元を貫く短剣が、浮かび上がる。
 やがて落ち着いたのか身を抱くように諸手を交差させ、それを開いて。
 口と喉から夥しく血を吹き出しながら痛ましい悲鳴を上げた。
「なるほど、随分とお怒りのようじゃ」
 茶化すように、けれど真剣な眼差しでケイナは弓を番える。
「強い未練、か」
 シーマが独り言のように言った。
 実は、さっきの予想には続きがある。
 駆け落ちは実を結ぶことなく、その果てに女性は命を落としたのではないか、と。
 目の前で荒ぶる花嫁こそが悲劇の片割れなのではないか、と。
「ユニになら分かるかもって、ちょっとは期待もあったんだけど……」
 獣より獣じみた様相の花嫁に対し、ユニもまたアステのかたえで威嚇するのみ。
「まあまあ。わしらの役目は迷える亡者の救済、即ち天へ還すことでもある」
「違いない、これもひとつの供養だろう」
 宥めるように口を添えるケイナに、エクスも抜剣を以って応ずる。
「なら、一曲お相手願うとしようか」
 そしてベルが、不敵に躍り出た。
 自らの刃とヒポグリフの両爪にルミナを宿し、更に己が身を風たらしめる三重の加護を以って。
「最期のな」

◆なぜ
 シーマの鎮魂歌が響き渡る中。
 黒髪と白影の交差する様が、キョンのライトに照らし出された。
 擦れ違う際を薙いだベルの一閃に花嫁の胴は真っ二つとなり。
 耳障りな悲鳴と共に、また一つとなる。
「そう、ダンスは始まったばかりだ。簡単に斃れてくれるなよ」
 レイスは面を歪めつつ振り向き、その精気を奪わんと目下の怨敵へ腕を滅茶苦茶に振るう。
(そこです)
 だが、ほんのわずか――マルチパーリングの恩恵もあればこそ――最小限退くベルに合わせ、後方からパメラが矢を放てば、一瞬気を取られたレイスの反撃は空しく空を切るのみ。
「ほれ駄目押しじゃッ」
 次いでケイナも、豪弓より牽制交じりの矢を放つ。
 それは正確に花嫁の胸を貫き、血涙さえ流すその双眸は声を持たぬ娘でなく、怠惰な聖職者へと向けられた。――ケイナの思惑通りに。
 好機とみたシーマはなおも唄いながら、花嫁の側面へ銀の刃で斬りかかる。
 御霊をも断つ力を宿し、虚と実の変幻に富む体捌きより繰り出される斬撃は、理性も知性も損なわれた悪霊に見切れるものではない。
 ナ、ゼ。ナゼ!
「……!」
 脇腹の裂ける手応えと、哀しくも恨みがましい呻きに、シーマは眉根を寄せる。
「なぜだろうな」
 エクスもまた間髪を入れずルミナを伴った剣――レーヴァテインを振るい、情けはあれど容赦ない一撃を花嫁に叩き込んだ。
(なぜ『お前たちは』こうなった)
 その言葉を胸に秘めながら。
「……分からない。でも、かけるべき言葉を持たない今の私にできるのは」
 苦悶のあらわれか、明滅するレイスを認め、今度はナナミが水晶の矢を射る。
「あなたを討つことよ」
 確実に依頼を完遂する、ひたすらそのために。
 薄明の渦中を貫く氷のような矢を、更に光の矢と見紛う稲光が追い縋る。
「あたしも一緒です!」
 キョンが放ったパドマ特有の雷である。
 二対の矢は太陽と月のように照らし照らされ、シーマとエクスの間を抜けて正確にレイスを射貫く。
「やりましたか!?」
 期待と不安のないまぜになったキョンの声に応えたのは――飛来する墓石だった。
「ちょっ、え? ええええ!?」
「ユニ!」
「行ってやれ」
 各々主に従い、ユニコーンとヒポグリフが慌てるキョンの元へ駆ける。
 当のキョンはすんでのところで避け、なんとか漬物にされずに済んだ。
「どうやら他にも浮かばれぬ魂がおるようじゃ」
「だったら!」
 ケイナの見解を受け、アステは即座に集中する。
 ほどなく結んだ祈りは清浄な気をもたらす。
 その向こうでは、見えざる何者かが怯んだか、いくつもの石がざわざわと宙を踊っていた。
 二頭の獣はその只中へ突き進み、目に見えない敵との戦いを繰り広げる。
「悪戯が過ぎるのう……――む?」
 溜め息をついて視線を戻したケイナの目の前を、白影が駆け抜けた。
 前衛たちにやり込められたのが相当堪えたのか、花嫁は明滅しながら逃れ、そして。
 宙を舞ってナナミ目掛け襲い掛かった。
「いかん!」
 ケイナは直ちにナナミの前へ立ちはだかる。
 一方でナナミは弓に矢を番えたままレイスを見据え、微動だにしない。
 レイスもまた、ナナミを見据えて腕を振りかぶり――その姿勢のまま、宙で硬直した。
 よく見れば、花嫁の体のあちこちに細い糸が巻き付きいている。
(間に合いましたか)
 強襲の刹那、パメラが放ったヨウコストリングであった。
 ナゼ? ナゼ? ナゼェ?
 獣が吼えるようになぜと繰り返すレイスの背後上空より、長大な薙刀を振りかぶったベルが迫っていた。
「決まってる。見惚れているからそうなるんだ」
 彼女より少し早くシーマとエクスが追いつき、両側面から剣を穿つ。
 そして決して怯まず引いていた弦を、ついにナナミが離す。
 浄化を纏う矢は眉間を貫き、天を翔けるヴォルセルクと擦れ違う。
 そしてベルは大上段から、渾身の一撃を振り下ろした。
 両断された花嫁は、シーマの歌を痛ましい悲鳴で貫き。
 やがて消えてなくなった。
 踊っていた石も次々と地に落ちて、どことなく清々しい静寂が、場を満たした。

◆散って、咲いて
「あった! 見つけましたよ!」
 キョンの元気な声に、皆が足を止める。
 戦いの後、古代の墓所内を巡り、ほどなくのことだ。
 キョンの杖に照らし出されたそこには、白骨化した骸が静かに横たわっていた。
 虫食いと風化でぼろぼろだが、確かにあのレイスと同じ花嫁衣裳のようだ。
「これって……」
 アステの視線が手元――錆び切った短剣で止まる。
 今際の際まで握られていたと思しきそれは、花嫁の喉を貫いていた、あの。
「ともかく依頼を果たしましょう」
 ナナミはブローチを、パメラは大きな包みを手に、眠る花嫁へ歩み寄った。
 ブローチはあるべき胸元に納め、包みは頭蓋のすぐ横に、そっと置いて。
(そういえば)
 ふと、パメラは気がついた。
 包みと頭蓋のサイズ感が近いことに。いや、包みのほうが大きいくらいか。
 妙に重く、しかも重心が偏っていて、気を付けないと転がしてしまいそうで。
 突如、風が吹き抜けた。騒霊のいたずらだろうか。
 はずみで包みが解け、花のように広がり。
 その中心にあるのは。
「ええ!?」
「そんな……」
「ほうほうこれはまた」
(ああ、どうりで)

 人の、頭蓋。

「そういうことか」
 この光景に言葉を失う者もいる中、エクスが溜め息交じりに言った。
「兄さん、何か知ってるの?」
「ああ……」
 
 事前にニヨルドで聞き込みをしたエクスは、年寄りからこんな話を聞いた。
 依頼主のベアーテには、かつて年の離れた兄がいたらしい。
 そして彼は、さる貴族の娘と恋仲だった。
 だが、娘は他の貴族との婚約が決まり、二人の仲は引き裂かれたかに見えた。
 事件が起きたのは婚儀の朝。
 なんと、花嫁が行方知れずとなったのだ。

「やっぱり、そうなんだね」
 やるせない想いに任せ、シーマがぽつりと呟く。

 花嫁の意中の相手を知っていた新郎は商会へ殴り込んだ。
 ところが花嫁の姿はなく、いくら問い詰めてもベアーテの兄は口を割ろうとしない。
 ついに逆上した新郎は、彼を殺害した。
 その後もいろいろあったようだが、花嫁の行方だけは誰にも分からなかった。

「じゃあ、この人は」
「たぶんな」
 エクスの話を受け、アステはパメラが置いた頭蓋――ベアーテの兄たるそれを見遣った。
「でもでも、じゃあ花嫁さんはどうしてこんなところにいるんでしょうか?」
 キョンが小首を傾げる。
 もっともな疑問だが、この場で真相を知るのは物言わぬ骸だけだ。
 ただ、ハウンドたちを雇って『二人を引き合わせた』のは他でもないベアーテである。
 加えて、遺跡の情報提供者でもある彼女の商会が一帯を買い取る話。
 これらのことから導き出せる答えもあるのかも知れない、が。
「分からないならそれはそれで、悪いことではないのかも知れないわ」
 ナナミは思う。
 詳らかにすることが好ましい結末に繋がるとは限らないと。
 それよりも、今はただ。
「……うん。こんな形でだけど、やっと会えたんだ」
 シーマは胸に手を当てる。
 エクスもまた、持ち寄ったワインを手向けに供え、彼女に倣う。
「迷える者の魂が救われんことを」
 ケイナは簡易ながらも厳かに、心からの祈りの言葉を捧げた。
「せめて二人、安らかに」
 そしてシーマの声を最後に、一同は黙祷した。

 去り際、パメラは一度だけ振り向いた。
 すると、それを見計らっていたかのように。
 立てて置いたはずの頭蓋骨がころんと横転し、花嫁とちょうど向かい合った。
「…………」
「どうかしたの?」
 少し歩みの遅い仲間にナナミが声をかければ。
 パメラは手早く『なんでもないです』と意思表示して、足早に仲間たちの元へ戻った。
(ただの偶然です)
 どこにでもある悲恋話の終わりなんて、大抵は劇的なものじゃない。
 だから、パメラはこの顛末を、わざと素っ気なく結んだ。



 6

参加者

c.レイスかー。ピュアリティは通じるかな?
アステ・カイザー(da0211)
♀ 27歳 人間 カムイ 水
a.まぁ、私は戦えればいいさ。悪霊は分かり易くていいな。前衛で斬るぞ
ベル・キシニア(da1364)
♀ 28歳 人間 ヴォルセルク 風
a.では、前衛に立つとしようかだが「花嫁の遺骸」を見つけ出すのが先決か。
エクス・カイザー(da1679)
♂ 30歳 人間 ヴォルセルク 火
b.援護射撃と回復じゃのう。
ケイナ・エクレール(da1988)
♀ 30歳 人間 カムイ 火
b.(カキカキ)『それでは私は射撃メインでいきますね』
パメラ・ミストラル(da2002)
♀ 19歳 人間 カムイ 月
c.霧が濃いですけど、ライトを唱えますね。
キョン・シー(da2057)
♀ 22歳 人間 パドマ 風
a.私も前衛だね。
シーマ・アルテタ(da2139)
♀ ?歳 ヴァンパネーロ ヴォルセルク 月
b.浄化付きの弓矢で援護を行うわね。
ナナミ・ルーラ(da2204)
♀ 22歳 人間 カムイ 陽


どうやら野心でも、探求心でもない

遺跡に巣食うレイスを退治する――ハウンドにとってはよくある飯のタネだが、依頼主の女会頭は奇妙な条件を提示してきた。その真意を語ることなく。