オープニング
◆海賊からの招待
「……おっ、来やがったな?」
その日、海賊諸島でハウンドたちを出迎えたのは熊のような巨漢の海賊だった。
まるでドワーフのような髭面だが人間であるらしい。
「さ、乗んな」
彼は厳(いかめ)しい表情のままで背後に浮かぶ船を指した。そこでは部下の海賊らしき荒くれ者たちが航行の準備を整えている。
事情を知らない者が見れば連行されるようにしか見えない状況だが――どうしてこのような事態になったのか、順を追って説明しよう。
ハウンドギルドが海賊諸島を根城にする『ドルガリ団』からの依頼を受けてから、すでにしばらく。
行き来する回数が増えれば人と人の交流が生まれるのは至極自然のことだ。そして海賊とはいえ、なかには気のいい連中がいることもまた事実。
数日前、暑さの増すなか海賊諸島へと幾度も足を運ぶハウンドを労(ねぎら)いたいと、酒宴の誘いがあったのである。
しかもその場所というのは陸(おか)ではなく、船の上。
「準備はいいか? ……よし。さあ野郎ども! 船を出せ!」
「「「おおーう!」」」
粗野な掛け声とともに船が陸を離れる。
そう――これから始まるのは海賊諸島を巡りつつの船上宴会なのだった。
◆人は見かけに
「……しばらく揺れるが、ちょいと辛抱してくんな」
『ドート』と名乗った巨漢の海賊はハウンドたちにそう告げた。
この海賊諸島は複雑に入り組んだ海流と、点在する暗礁によって迂闊な接近を許さない海の難所だ。
だがドートの的確な指揮と部下たちの操船技術によってか、ハウンドの乗った船は多少の揺れを感じつつも着実に航行していく。
やがて船の揺れが収まるとドートは部下たちに漕ぐことを止めさせた。
「……よし、穏やかな海流に乗ったからしばらくは安全だ。それにほら、ちょうど気持ちいい風も吹いてきたろ?」
言われてみれば確かに心地よい風が海の上を吹き抜けていく。照りつける日差しは相変わらずだが、陸に比べると遥かに過ごしやすく感じられた。
「いい場所だろ? 危ねえ海流に囲まれた、いわば海のオアシスってところだな。近づきにくい所為かもともと魔物もあんまり見ねえしな」
さあ野郎ども酒だ! とドートが部下に用意を命じる。しばらく船は海流に乗ってゆっくりと進むらしい。
「こうやって船に揺られながらの酒もまたいいもんだぜ? それから、泳ぎに絶好の小島があるから後で連れてってやるよ。ただ問題は、その後でちょっくら激しく揺れるポイントを通らなきゃいけないってことだが……ま、お前さんたちなら大丈夫だろ!」
わはは、と相好を崩して笑うドート。どうやら熊のような巨体や厳しい表情とは裏腹にサービス精神の旺盛な男であるらしい。
こうしてハウンドたちは、この気のいい海賊たちの好意によって思わぬ避暑クルージングを楽しむのだった。
選択肢
a.酒宴が楽しみ | b.小島が楽しみ |
c.海流が楽しみ | z.その他・未選択 |
マスターより
ガイゾック午睡丸です。
船は最大20人乗り程度の大きさ。漕ぎ手である海賊たちもいるので、参加キャラが多くなった場合は二艘に分乗します。
また、シチュエーション的な制約でペットやコネは種類によっては機能しない場合があります。あらかじめご了承ください。
出発時は正午ごろで、日暮れまでには戻ってくる予定となっています。天候は一日快晴。
選択肢はどの場面を重視するかであり、他の行動ができないわけではありません。
時系列は概ね選択肢順のままですが、プレイングによっては変更が発生する場合があります。
a
船上での酒宴を楽しみます。
酒類や料理は海賊が用意していますが大雑把なものなので、キャラが持ち込むことも可能です。ただし船上で複雑な調理はほぼできません。
b
整備はされていませんが浜での遊泳や、停泊した船からのダイビングなどが楽しめます。
c
激しい海流を通る際に船がものすごく揺れるので、それを利用してライドアトラクション的に楽しむことができます。
あるいは酔います。
それでは、みなさまのクルージングプレイングをお待ちしています。
※【SubEpisode10】暗き海域、暗きメロウ 関連シナリオ
登場キャラ
◆宴の支度
「わあ、すごく涼しい……連れてきていただいて、ありがとうございます!」
頬を撫でる風を受けて
セース・エイソーアが海賊たちに礼を言った。
「本当だな。それにしても海賊諸島にこんな場所があるとは意外だった」
その傍らで
ベル・キシニアも感心したような表情を浮かべる。海の難所というイメージからは想像できない海域だったのだろう。
「さあ、酒盛りとくれば酒が必要! ……というわけで、私もいろいろと持ってきたぞ」
トウカ・ダエジフは持参したハーフ小樽のビールを海賊たちへと提供する。他には酒の肴にとウラートで買ってきたチーズや燻製肉が少しばかり。
「私からも、これを」
ナイン・ルーラもまた、招待への返礼にとクォート小樽を二本差し出した。スピリットキラーと呼ばれる強烈な錬金酒だ。
「ただこれはガチで酒精の強いお酒ですので、後で皆さんで楽しんでください」
そう言い添えるナイン。なにしろ酒豪のダークドワーフすらKOするという触れ込みの酒だ。いかな海賊といえどもたちまち酔い潰れるだろうし、そうなると陸へ無事に戻れなくなってしまう。
「おっと、こっちから声をかけたってのに気を使わせちまって悪いな」
ハウンドからの思わぬ土産に破顔するドート。そうこうしている間に彼の部下たちが準備を終えていた。
といってもそこは海の荒くれ者たちだ。用意された酒類や料理は良く言えば野趣のある、悪く言えば大雑把なものばかりだった。
「さあ、どうぞ!」
「ドンドンやってくれよ!」
次々と酒を勧めてくる海賊たち。揃いも揃って強面だが、サービス精神が旺盛なのは上司に似たものか。
「せっかくの海賊の皆さんの歓迎ですし、遠慮は無用ですね」
「ああ、こんな風に船に揺られながら酒を飲むなんて、そうそう機会が無いからな……楽しむとしよう!」
ナインとトウカは差し出された酒杯を一口に呷ったのだった。
「せっかくだし、一曲どうかな?」
船縁に腰掛けた
ソレイユ・ソルディアスがリュートを手に演奏を始めた。奏でるのは海の荒くれ者たちとの酒宴に合わせたような賑やかなメロディだ。
「こりゃいいや!」
「ハウンドってのは大道芸までできるのか? たいしたもんだな!」
ソレイユの器用さに感嘆しつつも、海賊たちはその曲に合わせて狭い甲板で歌い、踊る。
「さあ、お前さんも飲みなよ」
「ああ、どうも。いやー、僕は辺鄙な村の生まれなんで、こんな風にのんびりと船が進むとは驚きですね……」
ドートから渡された酒杯を呷りつつ、
コニー・バインが興味深そうに周囲を眺めた。
船は風向きとは無関係な方角へと滑るように進んでいる。これは確かに海流に運ばれていることの証左だろう。
「こうなると、その激しい海流というのも楽しみですね」
「コニー君、こちらの燻製肉など美味しいですよ」
「ああ、どうもナインさん。……あまり酔うとあとで大変かもしれませんよ?」
コニーの為に肴を調達してきたナインだが、もうすでにその頬は幾分か赤い。
「……もしかすると、お前さんたちは良い仲なのかい?」
そんな二人の様子に何か感じ取ったのか尋ねるドート。
コニーはしばらく迷ったような表情を浮かべていたが、
「……実は先日、彼女と結婚したばかりでして。良い記念だと思ってご招待に応じました」
と、照れたような表情でそう言った。
「ちなみに私のフルネームは、『ナイン・バイン』と韻を踏むことになりました……間違っても『ボイン・バイン』じゃありませんよ?」
酔いの所為かナインがよく分からないことを口走った。新婚の高揚ゆえなのか、幾分か飲むペースが早いようだ。
「何だかよく分からねえが、ともかくめでてえじゃねえか……おい野郎ども!」
「「「「へい!」」」
「……え? あわわわわ!」
祝福代わりなのか、なぜかコニーを胴上げする海賊たちだった。
◆四方山話
「そういや、海賊ってからには色んな冒険とか経験してきたんだろ? よかったら聞かせてくれないか?」
海流に乗ってしばらく。宴もたけなわとなったころにソレイユがそう尋ねた。
これは僅かな時間ではあるが彼らの人となりを知り、極悪非道な連中ではないと感じ取ったからでもあった。
「そうだな……これは、このあいだリムランド地方に仕事に行ったときのことなんだが……」
ドートが語るところによれば、目的地の港を目の前にしてヴァイキングの襲撃を受けたという。
彼らはこちらの船に接舷しようとするロングシップを相手に果敢に戦い、どうにかヴァイキングを撃退することに成功したのだった。
「あの時の連中の悔しそうな顔ったらなかったぜ!」
「ああ、一昨日来やがれってんだ!」
その時のことを思い出したのか部下たちが勢いよく酒杯を合わせる。ヴァイキングも海賊という括りでいえば同じだが、その勇猛さにおいてはある意味別種の存在なのだろう。
他にも思いつくままに語るドートだが……。
「……思ったんだけどさ、それって海賊がやることなのか?」
そんな武勇伝の数々にソレイユが素朴な疑問を抱いた。聞く限りでは一般的な海賊が行うような略奪行為からは縁遠いようだったからだ。
「うん? ま、まぁそうだな……ひと口に海賊といっても仕事はいろいろとあるんだよ。それよりほら、飲め飲め!」
それまでの饒舌はどこへやら、ドートは急に口ごもり酒を勧めてくる。
(何か隠してるって感じだけど……ま、こんな席で突っつくのも野暮ってもんか)
海賊たちの態度から何かを察したソレイユだがそれ以上の追求は控える。
一方でそういった細かいことには興味がないのか、トウカはドートの肩を叩いた。
「ほう、海賊というのは粗暴な連中だとばかり思っていたが、なかなかの漢(おとこ)ではないか。それに、他の団員とはずいぶん違うな。あっちはどこかよそよそしくて、雰囲気もずいぶん堅かったたぞ?」
「ま、俺らは『外様』みたいなもんだからな、気楽なもんさ。それより酒だ! さあ遠慮すんな!」
「うむ、酒を勧められて飲まぬとはハウンドの名折れ。ここは一つ大いに楽しもうではないか!」
すでに存分に楽しんでいるトウカだったが注がれた酒杯をさらに呷る。
「いい飲みっぷりだな! さあ、今度はお前さんたちの番だぜ。ハウンドってのはいろいろとすごいらしいじゃないか?」
と、逆にソレイユに尋ねるドート。
「え、俺たちハウンドの冒険譚か? そうだなぁ……いろいろあるけど、じゃあグリフォン相手に空中戦したときの話でもしようか」
ソレイユが弾き語りに冒険譚を語り始めると、やがて海賊たちから歓声の声があがったのだった。
◆二人島
やがて昼下がりとなり、船は海賊諸島の中のとある小島へと着いた。
「よーし、船を停めろ……さあ、ここがさっき言ってた島だ」
ドートの言葉に島を見ると確かに狭いが浜があるようだった。島の大きさは全周数百mといったところで、水源が無いらしく住むのは不可能だが、そのお陰で魔物も住み着かないらしい。
「ここは俺たちが休憩所みたいに使ってる島でな。浜といっても岩だらけだから気をつけろよ?」
「よし、セース、じゃあさっそく浜で泳ぐか?」
「うん! ベルおねえちゃん、思いきり楽しもうね!」
待ってましたとばかりにベルとセースがそう頷き合う。一方で残りのハウンドたちは停泊した船で酒宴を続けるのだった。
セースの魔法の絨毯で上陸すると、二人は適当な岩陰を見つけて水着に着替える。
「……ふむ、よく似合っているぞ。かわいいじゃないか、セース」
準備運動中のセースを褒めるベル。ワンピースの水着は確かに彼女の細身な身体によく似合っていた。
「本当? あ、でも……」
褒められたにもかかわらずセースはベルと自分の身体を見比べて小さくため息をついた。どうやら自身の体型に劣等感のようなものを抱いたらしい。
そんなセースの内心を感じ取ったのかベルは胸を張った。
「ふむ、お前の隣にいるのはミドルヘイムでも最高に美しい女だからな。そりゃ比べれば足りなくも思えるだろう……でも、実際はそんなに恥ずべきような身体ではないぞ?」
まったく謙遜しないあたりがベルのベルたる所以である。
「ライトエルフとはいえ、年齢的にまだまだ伸びしろはあるんだ。食事と運動をキチンととれば……」
「……じゃあ遊んで泳いで、たくさん食べたら……ベルおねえちゃんみたいに綺麗になれるかな?」
上目遣いでそう尋ねられ、ベルが優しげな微笑みを向ける。
「もちろんだ。海賊たちが用意していたのは酒の肴ばかりだったし、あとで夕食用に何か捕まえるとするか」
「やったあ! たくさん泳いで、いっぱい食べようね!」
それからしばらくの間、二人だけの小島に楽しげな声が響いていた。
「それっ! あははっ!」
「ぷはっ……ふふっ、やったな?」
ときに浅瀬で水をかけ合ってはしゃいだと思えば、ときに一緒に潜って海中散策を楽しむ。
「セース、あの岩場に見慣れない生き物がいたぞ。一緒に見に行ってみるか?」
「うん! ふふ、楽しいね!」
「ああ。たのしいな、セース」
二つの人影はまるで姉妹のように寄り添いながら浜を駆け回るのだった。
◆海流を越えて
しばらくして、浜での遊泳を十分に堪能した二人は夕食代わりの魚料理を手に船へと戻った。
島にはドートたちが自作した簡易な竈があり、そこでベルが捕まえた魚介類をセースが調理したのである。
「セース、これも美味いぞ」
「本当……すごく美味しい!」
ハウンドと海賊たちの全員で舌鼓を打つ。もちろん凝った料理とはいかないが、新鮮さはときに何ものにも勝る調味料となるのである。
「……ふう、ごちそうさん。あんな簡単な設備と調味料でこんな美味い料理を作るんだからたいした嬢ちゃんだな」
「ふふ、どういたしまして!」
感心するドートにセースは笑って返した。
「さて、そろそろ戻らないと日が暮れちまうな……さあ野郎ども! 気合い入れろよ!」
「「「おおーう!」」」
粗野な掛け声とともに漕ぎ手たちが慌ただしく動きだすと、再び船が進み始めた。
「……そろそろ揺れだすぞ! しっかり掴まってろよ!」
ドートの警告とともに船が大きく傾き出した。
強い潮の流れに引っ張られて進行方向は目まぐるしく変わり、船首といわず船尾といわず大きく跳ね上がった。
「お! おおお、おおおお……!? こ、これは確かにスゴイですね……!」
こんな状況にもかかわらずコニーは楽しげな声をあげる。農作業で鍛えた腰の強さで船の傾きに対抗しつつ、次々と襲う揺れを克服していく。
「な、なんでそんなに楽しそうなんだ……?」
持ち前の身軽さで揺れに耐えるソレイユではあるが、コニーのように状況を楽しめるかといえばそうでもない。
「いやぁ、これは滅多に体験できない冒険ですからね。どうですかナインさん……ナインさん?」
ふと振り向いたコニーだったがそこに妻の姿はなかった。
「……ボ、ボエエェ!」
「やばい……飲み過ぎた……」
ナインとトウカは二人して船縁に突っ伏し、何かキラキラしたものを海へと撒いている。
「これはすごい海流だな……確かに海の難所だ」
「でも、これならどれだけ揺れても平気だね! ありがとう、ベルおねえちゃん!」
ベルはスカイランニングを成就するとセースを抱きかかえて船と並走していたのだ。
「どうだい? ドルガリ団の中でもこの潮を乗りこなせるようなヤツはそういないぜ!」
得意げなドートの声。もしかしたら、これを自慢することもこの酒宴の目的だったのかもしれない。
「次で最後だ! 派手に揺れるぞ!」
「待ってました!」
こうしてコニーだけが大喜びの声をあげるなか、ハウンドたちの海賊クルージングは無事(?)に帰港とあいなったのだった。
6
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参加者
| | c.宴会も楽しみですが、海流も楽しみなんですよね。
| | コニー・バイン(da0737) ♂ 23歳 人間 マイスター 月 | | |
| | a.よろしくお願いします。
| | ソレイユ・ソルディアス(da0740) ♂ 21歳 人間 ヴォルセルク 陽 | | |
| | b.ベルおねえちゃん、思いきり楽しもうね!
| | セース・エイソーア(da0925) ♀ 20歳 ライトエルフ カムイ 陽 | | |
| | b.よし、セース、泳ぐか。
| | ベル・キシニア(da1364) ♀ 28歳 人間 ヴォルセルク 風 | | |
| | a.船で酒を飲むなんてそうそう機会が無いからな。楽しむとしよう。
| | トウカ・ダエジフ(da1841) ♀ 27歳 ダークエルフ ヴォルセルク 地 | | |
| | a.酒ぇ飲まずにはいられない☆ でも飲み過ぎると海流でマーライオンに…
| | ナイン・ルーラ(da1856) ♀ 29歳 人間 ヴォルセルク 水 | | |
レッツ、クルージング!
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ドルガリ団に所属する海賊たちから届いた思わぬ酒宴への招き。しかしその場所はさらに予想外なもので……?
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