【HH06】砕け、その偏見

担当K次郎
出発2021/04/29
種類ショート 日常
結果普通
MVPナイン・ルーラ(da1856)
準MVPリディオ・アリエクト(da0310)

オープニング

◆ヴァンパネーロとは
「あいつら、闇の住人なんだろ?」
 ぷはーっ、と酒を飲み干しベテラン感を漂わせるゼラスという名の年配ハウンドが呟く。まぁ、ドワーフなので髭をたくわえているから年配なのか分かりにくいが。
 ここはギルドの休憩スペース、ハウンドたちが酒を持ち寄って駄弁っていることもある。
 その場にいたハウンドたちにピリッとした空気が流れる。
「闇の住人、ってことは、だ。つまりデュルガーやアンデッドの仲間ってわけだ」

登場キャラ

リプレイ

◆危うさの上に立つ
 にわかに休憩所内での注目を集める形になってしまったゼラス。
 それをどこか冷めた目で横目に見るのはレクリーン・シモンヌだった。
(人も寝首を掻きましょう? まあ、一括りにして敵視するのは楽ですわね)
 そうするのは楽だからだ。深く考え込まずに済む。敵と味方、選別に要する手間など無いのだから。
 などと考えながら休憩室の隅で声には出さぬレクリーン。
 空気は重い。沈黙がその場を支配する。
 すると、ドン、という音が沈黙を切り裂く。
「ん?」
 ゼラスのテーブルの上に置かれたのは小さな酒樽だ。
「私からの奢りです」
 そう語りかけたのはナイン・ルーラだった。
「なんだ嬢ちゃん?」
「ハウンドの勇者たるもの、偏見と決めつけはいかがなものかと。神職としても見過ごせませんので」
「けっ」
「まぁ、しかし、先ずはお酒をどうぞ」
 そう勧められれば飲んでしまうのがドワーフ‥‥というわけでもないが、酒が好きな者も多い。ゼラスは勢いよく酒を流し込む。
「おや、いける口ですか」
(少し気分よく飲ませてからの方がよさそうですね)
 簡単に酔いそうも無いし、先ずは彼を落ち着かせるのが得策かもしれないと感じるナインだった。

 その間に、この状況に危うさを感じるハウンドたちは静かに動き出す。
「確かに『闇の住人』ってのは間違いないんだろうけどよ、そこんとこどうなんだ? 俺も良く知らなけりゃあんな風に不安になるのもわかるんだよ」
 とリディオ・アリエクトが問いかけたのはヴァンパネーロであるシュゼット・ティトルーズだった。
「まあ、私に質問でしょうか‥‥。そうですわね、確かに『闇の住人』と呼ばれる範疇にいるのは確かですが‥‥」
「む、お嬢様に対し、少々不躾な質問なのでは?」
 シュゼットの言葉を遮るように彼女とリディオの間に割って入るのはアルトゥール・マグナスだ。彼は人間である。だが、シュゼットを主として仕えているのだ。
「よいのです。あちらのゼラス様のように完全に遠ざけるのではなく、私たちに興味を持っていただける方がいるのはありがたいことですわ」
「はい」
 シュゼットの言葉で大人しく下がるアルトゥール。
「では、ヴァンパネーロがどんなものか、簡単にお話しいたしますわね」
 とシュゼットは語り出す。
 生気を摂取するなどのヴァンパネーロの性質、瘴気などの闇の力にも対応できる能力のこと、吸血鬼でありながら吸血鬼と一線を画す立ち位置など。その語り口の中にあるのは品性と穏やかさであり、『闇の住人』はともかく『危険な敵』というのはピンとこない。
「なるほどな」
 ギルドで事前に説明があったはあったのだが、当のヴァンパネーロから直接聞くのとでは大違いだ。
(まぁ、このお嬢様は比較的コモン寄りの立ち位置だ、ってのもあるんだろうが‥‥)
 と視線を移せば、別のヴァンパネーロと睨めっこしているセース・エイソーアの姿が目に入った。

「私はセースです。これからよろしくお願いしますね!」
 馬鹿正直なほど正攻法でエドマンドに喰いつくセース。
「そうか」
 抑揚のない声で応じるエドマンド。
「あ、はじめましての方だから、出来る範囲でお話をしてみたいと思って。お話を好まなかったらそれでも良いですよ!」
 よりによってとっつきにくそうなこの男に話をしにいくセースの胆力は時々凄い。
「エドマンドさんはどこから来たんですか!」
「‥‥」
 ズバっと斬り込んでくる。本人にはそこまでの意図は無いのだろうが。
 だが、明確な返事は無い。
「あ、ごめんなさい! 私から話すべきですよね!」
 とセースは自分の話からしていく。彼女にも口に出したくはないこともあるのではあるが。
 その様子を見るレクリーンの目はゼラスを見る時と違いどこか穏やかだ。
(偏見で固めて決めつけてしまえば自分は傷つかずに済ませることができるかもしれませんわ‥‥ですが、自分から、新たな縁の可能性を狭めるのは‥‥なんとも勿体ないことですわね)
 セースのように自ら縁を繋いでいこうという姿勢こそがハウンドらしいのかもしれない。などと、新米ハウンドとして感じるレクリーンであった。

◆前を向いて
「大体、だな、あいつらは普段は巧妙に正体を隠しているんだろ? 俺たちを騙すのなんてお手の物じゃねぇか」
 酒を飲みながらゼラスは誰かに語り掛けるわけでもなく愚痴る。
 その場にいるハウンドの中には諸手を上げて賛成はせずとも静かに頷く者もいる。
「なるほど、それで」
 ナインは特に止めるでもなくそれを聞いている。
 先ずは彼の意見もしっかり聞かねばなるまい。女神は公正なのだ。
「お嬢様、少々席を離れますがよろしいでしょうか」
 しかし、黙って聞いていられない者もいる。主が小さく頷くのを見届けるとアルトゥールはゼラスのとこまでやってくる。
「失礼。どうしてもひと言、物申し上げたく」
 一礼するアルトゥール。
「なんでぇ」
「デュルガーにお仲間をやられたというあなたの不幸には同情しますし、ヴァンパネーロを信用できないという気持ちもわかります」
「そうだろぉ」
 うんうん、と頷くゼラスだが、アルトゥールは首を振る。
「しかし、僕はヴァンパネーロに命を救われ、接する機会があったからこそ、彼らを信じています」
「あん?」
「ですが、もしあなたのような立場だったらまた考えも違ったかもしれません」
「もしかしてあんたもヴァンパネーロなのかぁ? 最近ギルドに来たんだよなぁ。俺たちを騙してるのか?」
「そうではありませんが‥‥」
 不信感がアルトゥールを突き刺す。
「おっと、そっちの兄さんはれっきとした人間だぜ」
 割って入ったのはリディオだ。
「まぁそうカリカリするなよ。酒は、あるか。んじゃ、こっちのツマミでもどうだい?」
「お、おう。わるいな」
 大人しく受け取るゼラス。リディオは以前からギルドで見る顔だ、ヴァンパネーロかどうか疑っては見てこないのだろう。

「うわぁ、私もあんな風にヴァンパネーロさんかも、って思われちゃうのかな?」
 様子を見ていたセースが呟く。
「疑われるのは不服だろうな」
 セースの呟きを拾いエドマンドは短くぼやく。
「ううん、ヴァンパネーロさんたち上品で素敵だから私もそうみられているのかも、って」
 そう言ってのけるセース。
「‥‥疑われることはなさそうだな」
「えっ、なんていったんですか?」
 エドマンドの小さなぼやきは聞こえなかった。

 それはさておき。
 リディオはゼラスにいろいろ語り掛ける。
「確かに『闇の住人』ってのは間違いないみたいだな。だけどな、ここだけの話、だからこそ役立つんだぜ。なんたってデュルガーの瘴気にかからないらしい。知ってたかい?」
 彼自身もそういう噂は聞いていたが、実査にシュゼットに確認をとったばかりの話を、さもとっておきの情報、とばかりに取り上げる。
「そいつは凄いが、同じようなもんだから効かないんじゃないのか?」
「そこんとこの理由はわからないが、デュルガーと戦う、ってんなら仲間にしといたって悪くないだろ?」
 メリットの提示。ゼラスのような連中もヴァンパネーロを全否定しているわけではない、不信感を上回るメリットがあれば手を組む理由にはなる。
「確かに、デュルガーを相手にするにはいいかもしれねぇな」
「だろ?」
「それで途中で裏切られさえしなきゃな」
 だが、やはり不信感は消えない。
「それでも、種族の垣根を超えて協力し合う事でより多くの悲劇を止められる筈です」
 アルトゥールは融和を説く。
(あんな風に熱心に擁護してくださる方もいるのですわね)
 そうレクリーンの瞳には眩しく映る。
 ただ、アルトゥールはヴァンパネーロに近すぎる者でもある。仮に主であるシュゼットに裏切られたとしても、最期までヴァンパネーロを信じてしまいそうなタイプだ。
「俺だって協力してやらぁ、あいつらが信じられるならな」
 と言い切るゼラス。
 そこへ黙って聞いていたナインが口を挟む。
「信じられる、信じられない、といいますが‥‥例えばあなたはドワーフですが、ダークドワーフの被害に遭った人もいるでしょう。そんな人の中にはドワーフも同じように見えて信じられない人もいるんじゃないでしょうか?」
 ダークドワーフが解呪されたのは近年のことだ、そういった被害の記憶が新しい人も多いだろう。
「うぐ、ああ、まぁ」
 ゼラス的にも心当たりが無いわけでもないらしい。ナインの問い掛けに、目を逸らす。
「ほら見なさい、あなたは既にデュルガーの術中に嵌ってますよ」
 畳みかけるナイン。
 そしてアルトゥールにもアイコンタクト。
「今すぐ信じろとは言いません。せめて、見届けてあげてください」
 察したアルトゥールはここぞとばかりに頭を下げる。
「だな、先ずは一緒にやってみるのがいいんじゃねぇか? なぁみんな?」
 ならば、とリディオはわざとその場の皆に問い掛けるように声を上げた。
「まぁ、そうだなぁ」
「おう」
 全面的に賛成、というわけでもないが、とりあえず最初から疑って掛かるものでもないんじゃないか、という空気になってくる。
「そういうんなら信用させてみるんだな」
 何か空気を察したのかゼラスはそう言い残してその場から出て行った。どうにかこの場は収まった、といったところだろう。

◆ヴァンパローネの夜明けは
「これからの、私たちの行動次第、ということでしょうか?」
 ゼラスの退室を見届け、シュゼットは同じヴァンパネーロであるエドマンドに問い掛ける。
「奴らが我らを信じないのは構わないが、それで我らが危機に陥るのだけは避けたいものだな」
 そういってエドマンドは肩を竦める。
「私は‥‥こちらの誠意をこれからの行動で示すのみですわ。エドマンド様もそうではなくて?」
「誠意、といわれてもな。いずれにしても、今は多くの同胞がこのギルドの力を当てにしているのだ、ここ方針には従おう」
「そうですか」
 ヴァンパネーロ側にしても自分のような者だけではないことをひしひしと感じるシュゼットだった。
「あー、そんなに喋れるんだ! 私ももっとお話ししたいです!」
 同胞相手には警戒無く語るエドマンドを見てセースは自己主張。
「‥‥」
 だが、エドマンドはまただんまりだ。
 ハウンドとなってもヴァンパネーロとの溝は簡単に埋まりそうもない。
 だが、きっとこれからの活動がハウンドにとっても、ヴァンパネーロにとっても、新たな夜明けとなるのだろう。



 8

参加者

a.雰囲気悪いのは俺もイヤだし説得くらいはしてみるか。
リディオ・アリエクト(da0310)
♂ 26歳 人間 カムイ 風
c.まずはお話を聞いてみたいと思うよ!
セース・エイソーア(da0925)
♀ 20歳 ライトエルフ カムイ 陽
a.ハウンドの勇者たる者、偏見と決め付けはいけません。女神は公正です。
ナイン・ルーラ(da1856)
♀ 29歳 人間 ヴォルセルク 水
c.誠意をこれからの行動で示すつもりではありますけれど……。
シュゼット・ティトルーズ(da2115)
♀ ?歳 ヴァンパネーロ カムイ 火
a.色々と思うところはあるけどまずは偏見を解かないと、だね。
アルトゥール・マグナス(da2136)
♂ 20歳 人間 ヴォルセルク 地
z.人も寝首を掻きましょう? まあ、一括りにして敵視するのは楽ですわね
レクリーン・シモンヌ(da2140)
♀ ?歳 ヴァンパネーロ パドマ 火
 ここはハウンドが休憩する場所だろう?
エドマンド・シルバー(dz0053)
♂ ?歳 ヴァンパネーロ ヴォルセルク 地


いつものことだろう

そう呟く男の声にはどこか諦めに似た感情が混じっていた。