オープニング
◆鍛錬場へご案内します
その鍛錬場は、ウーディア地方の貴族の別宅を中心に、グルリと一周造られているそうだ。
ハウンド達は今、その別宅へ向かうべく、森の中を移動している。
太陽はまだ高い位置にあるはずだが、空を見上げても深く生い茂る木々が光のほとんどを遮っているので、辺りは薄暗い。
さらに、地面のいたるところから木の根や石が飛び出しているので、歩きづらい事この上ない。
躓かないように気を付けながら歩くハウンドのほうに、先導している老年の執事がスッと顔を向けた。
「あ、そこ、お気をつけくだされ。落とし穴をこしらえておりますゆえ‥‥もっとも、この程度の落とし穴に引っかかるような方では、あの恐ろしい鍛錬場からは生きて帰ってこれないので、ここで落ちていただいた方が、私としては安心しますがなぁ。お客人が怪我をされてしまうと思うと、心配でなりませぬ‥‥まぁ、名高いハウンド御一行様ですから、そんな心配は必要ないでしょうかねぇ」
執事は、ほほほ‥‥と、こけた頬をさらに細くして笑った。
しかしそもそも何故、ハウンド達がこの鍛錬場を訪れることになったのか‥‥。
魔法に関する古文書を保管している貴族がいると聞いたハウンド達。その貴族宅へ訪れてみると。
「古文書? あるよ? でも、ただで渡すのはもったいないなぁ‥‥そうだ。ちょっとお願い聞いてくれない? 上級者向けの鍛錬場作ったんだけど、危ないからって誰も使ってくれなかったんだよね。キミ達強そうじゃない? だからあの鍛錬場、お試しで使ってみてくれないかなぁ?」
柔らかい口調で言ったのは、『優男』という言葉がぴったりくる風貌の若い男性。
彼はこの近辺の領主で、領地を守る為の自警団の鍛錬場を、森の一画を利用して造ったのだそうだ。
初級用、中級用と出来上がり、自警団員が利用し慣れていくのを見て、上級者用を造ったのだが、仕掛けを見て自警団員達が尻込みするほどのものが出来上がったらしく、少し改良しようとしていたところだったのだが、折角作ったのに勿体ないと思っていたらしい。
そこに丁度、ハウンド達がやってきた。という訳だ。
「さて、ここからは中級者の鍛錬場です。少し危険度が増しております。とは言え、失敗しても骨が一本折れる程度ですかな」
執事は言いながら、再びほほほと、笑った。
そうして中級者用の鍛錬場を通り過ぎると、執事の足が止まった。
「あちらをご覧くだされ、ここは足元のロープに引っかかると丸太が木の上から落ちてきますゆえ、私の歩く通りに歩を進めてくだされ」
上を見ると、木の上の所々に丸太が数本ずつまとめて括られている。
あんなのに当たったら、普通のコモンだったら大怪我をするだろう。
足元に気を付けながら進んでいくハウンド達、そして‥‥貴族の別宅に到着した。
◆鍛錬場の詳細について
上級者用の鍛錬場は、貴族の別宅を囲んで一周1キロメートルです。かかった時間も計測されるので、走って一周駆け抜ける感じです。
仕掛けは三種類あり、『丸太』『落とし穴』『火矢』です。
『丸太』は、足元に隠されたロープに足が引っかかったり踏んだりすると、木の上から丸太がまとめて降ってきます。当たったらすごく痛いです。沢山あります。
『落とし穴』は、底に槍のような突起物が埋め込まれてある落とし穴です、上手く隠しているので、油断すると落ちてしまいます。刺さるとすごく痛いです。そこそこあります。
『火矢』は、凄腕の弓使いが木の間から火矢を放ってきます。弓使いは何人かいます。刺さったら痛いし、とても熱いです。
選択肢
a.頑張る | b.あえて罠にかかる |
c.救護班 | z.その他・未選択 |
マスターより
この鍛錬場危険すぎでしょ!
槻又ともこです。よろしくお願い致します。
今回のシナリオは、新魔法獲得に関連するシナリオとなっています。
古文書を持つ貴族のお願いを聞いてあげるだけのシナリオですよ。
そのお願い、ハード過ぎるでしょ。とか言いたくもなりますが、そこはハウンドの腕の見せ所。
ハウンドなら、楽勝だけど、一般の人がやっちゃうと、ここら辺が危ないんじゃない? とか助言出来るほど鍛錬場を堪能して、ハウンドの株も上げつつ、古文書も手に入れちゃいましょう。
ちなみに救護班に誰もいない場合は、モブのハウンドが救護しますので、大怪我を恐れず挑んでください。
落とし穴や丸太のしかけは、地面を走らなければ引っかかることはありませんが、それだとお試しの意味がない‥‥ので、選択肢aとbの方は、地面を走った方が良のでは、と思っております。
それでは、ご参加お待ちしております!
※【SubEpisode07】新魔法を獲得せよ 関連シナリオ
シナリオの成功等により新魔法が実装されます。
登場キャラ
◆ハウンドいきまーす!
ハウンド達は、足元に散らばる枝葉を踏み、ポキポキと子気味良い音を立てながら、執事の後ろを歩いている。
暫く行くと、執事が立ち止まった。
目の前には、無造作に突き立てられている木の看板。『ここから鍛錬場(上級者用)』と書かれている。
フラールは、光に透ける翅をちらちらとさせながら、執事の肩の上あたりにホバリング。
「ここからがお試しー?」
「さようです」
「そっかー、よっし、いくよー! やー」
フラールが翅をパタパタして看板を越え、先へ進んでいった。
「話に聞く限り、めっちゃ痛そうなうえに地味なしかけだったよね~。さ、頑張っていこう~」
ショウ・ジョーカーはフラールの後に続く。
トサ・カイザーは、人差し指を天に向け突き上げ。
「では、悉く仕掛けに引っ掛かってくれよう!」
言って腰のダーインスレイヴを揺らし、掛けている黒っぽい半透明な大きめのドラゴングラスっぽいやつの端っこをキラリと光らせると、森へ突撃。
(あの黒いドラゴングラスっぽいやつ、この薄暗い森だと、視界悪くなりそうだけど、外さないんだな)
ディオン・ガヴラスはそんなことを思いながら、首を左右に傾けポキポキと音を立てつつ、看板の向こうへ足を踏み入れた。
執事はハウンド達を見送ると。
「皆さまどうぞご無事で。いってらっしゃいませ」
細い体をポッキリと折って、深々と頭を下げた。
◆蓋を開けてみれば、仕掛けにかかっているのは、一人だけだった件。
フラールの後ろをショウが歩く。
フラールは、相変わらずあっちフラフラこっちフラフラ。
「んー、仕掛けー? ‥‥あっ、綺麗な葉っぱがあるよ!」
90度方向を変えてふよふよ。
地面に降り立つと、綺麗な形の葉っぱを拾った。
「おみやげができたねー」
ほわーと笑顔をたたえたフラールの背後にショウが立つ。彼はフラールの後ろから彼を覗き込んだ。
「ほんとだ、綺麗な葉っぱだね‥‥ねぇ、ところでさ。ここの仕掛けって、踏んだら動き出すんじゃなかったっけ? 飛んでちゃお試しにならないんじゃないかなぁ?」
「あ! そっかー。飛ばない方がいいんだー。分かったー!」
フラールは、葉っぱを摘まんだまま元気に両手を振って歩き出した。
まっすぐ進むかと思いきや、とつぜん進路を変える。
「どうしたの?」
「うん、なんか変な感じしたー」
「へぇー」
ショウはフラールの言葉を信じて、フラールと同じようにその地面を避けた。
向こうからトサが駆けてくる。
もう既にいくつかの仕掛けにかかったのか、かなりやられた感があり、あちこちに血が滲んでいる。
しかし彼は、一向に構う様子はない。
「そこらへんはどうだ? ‥‥うわー!!」
先ほどフラールとショウが避けて通った地面を踏んだとたんに足元が抜けて、トサが見えなくなった。
ドッスン! と、重いものが落ちる音が聞こえた後、太陽光の当たっている木の幹にトサが瞬間移動してきた。ホルスで移動したらしい。
木の幹にしがみつきながら。
「魔法がなかったら、穴から出られないところだ!」
本当は、穴に落ちる寸前! とかにホルスで移動するのがベストなのだが、突然起こるしかけには、成就が間に合わないらしかった。まぁでも、穴から魔法で出て来れるのは良いことだと思う。たぶん。
「騒がしいと思ったら、全員揃っているじゃないか」
木の後ろから声がした。
皆が顔を向けると、ディオンがこちらに向かって来ており。
それを視認するかしないかの僅かな間にトサは、もう先に向かって走り。
彼は途中で一度、こちらを振り向いて、人差し指を天に向けてポーズをとると。
「私は皆の前を行き、盾となろう!」
言って、踵を返して駆けていった。
「元気だな」
「元気というか、何事も全力と言う感じかなぁー?」
「あっ、なんかここも変な感じがするー」
三人はそんな会話をしながら、歩を進める。
(豊かな森だし、このまえ教えてもらった薬草とか探してみようかな‥‥ま、むしっていきなり使えるわけじゃないけど)
ショウがキョロキョロ。
それっぽい薬草が、木の根元に生えているのを見つけた。
「‥‥ねぇ、あっち行きたいけど、落とし穴とかありそう?」
「んー? わからないけど、大丈夫な気がするー」
「おっけー、ありがとねー♪」
「これで、試用していると言って良いのだろうか‥‥」
ディオンの言葉に。
「俺はほら、救護の練習だから。応急処置とか試したいんだよね~」
ショウは薬草らしき雑草のところへテクテクと歩いていくと、それを毟って懐にしまった。
ショウが立ち上がる。
‥‥と同時に、森の中に悲鳴が木霊した。
「あっつー!!! ちょっ、待て、そんな一度に射てくるのは反則だ!」
「‥‥トサくんかなー?」
「ちょっと先に、火矢の部隊が居るみたいだね?」
「なるほど、ではトサにはそのままもう暫く頑張ってもらうとして」
ディオンは、なんかひどい事をさらりと言って、錬金の素材を荷物から取り出し魔法の詠唱をはじめた。
「彼、魔法が成就するまでもつかなぁ?」
「ショウくんも、そう思うー? 僕、ちょっと様子みてくるねー」
フラールは言って、翅を小刻みに揺らしながら飛んでいった。
「んー、俺も先いってみよう、あなたは詠唱が終わったら合流ってことでいいんだよね?」
ディオンは詠唱を続けながら、頷いた。
◆火矢はあつい。
「あっつ! 流石の私の装備でも、これだけ沢山の火矢を射てこられると、熱いぞ」
全て受け止めてみせようという心意気は買うし、装備のおかげで矢のダメージはさほど無いようだが、火はやっぱり熱い。
「‥‥レジストファイアー」
フラールの声。
「おおっ、これは、熱くないぞ。よしよし! どんとかかってきなさい! そして、私はこの鍛錬場の全てを攻略するのだ!」
攻略と言うより、全部の罠にかかるっていう意気込み。
トサが勇んで走り出した。その足元に‥‥くくられた草が。
「仕掛けか!」
草に足を引っかけたトサの頭上から、丸太が降ってきた。
「おおおおお!」
ドンガラドゴンドゴン! ゴンッ!
「うごっ!」
トサは今回も、丸太に埋もれていくのだった。
「うわー‥‥痛そう‥‥大丈夫かな‥‥てか、これは救護班の出番だよね。いつもと違って援護するわけでもないし、変な感じ」
言いつつ、ショウが木の陰から足を踏み出した。めがけて火矢が飛んでくる。
「危なっ!」
目の前を火矢がかすめ、木の幹に矢が突き刺さると、先端の火はシュンと消えて、煙が上がる。木は燃える様子はないから、大丈夫。
そんなこんなしていると、ヒュゥと一筋風が吹き抜けた。そして辺りに白い靄がひろがり。
「‥‥霧? アルケミー終わったのかな?」
ショウの予想通りで、霧を拡げたのはディオン。
ディオンは霧に紛れて、火矢を放った者達が潜むあたりに足を忍ばせる。シークレットスタイルも成就しているので、火矢隊に気づかれることはほぼ無い。
手には導火線のついた黒い球を持っている。
火矢隊は、霧に視界を遮られて的を見失っている。ディオンも視力は普通のコモン並み。なので、霧に紛れると、火矢隊がどこに居るかは視認はできない。しかし、彼には土地勘があった。
この辺りに火矢隊が居る。仲間はもっと向こうだから、これの被害は無いはずだ。ディオンは、頭の中で呟きながら黒い球を目ぼしい場所に置くと、導火線に火をつけた。
そして、静かにその場を後にする。少しすると‥‥。
ドゴオォォォォォン!
凄まじい爆音が轟くと共に、木々に破片が当たる音と、火矢隊の悲鳴が聞こえた。
霧が晴れてきた。
ハウンド達が、悲鳴のしたほうへ行くと、火矢隊が血を流して目を見開いていた。
◆兎にも角にも。
鍛錬場の試用を終え、ハウンド達と、領主、そして執事が一堂に会した。
美しい花や鳥の姿が彫刻された、大きなテーブルを囲んで。
壁際には、火矢隊が壁沿いに並んでかしずいている。
「いや、まさか部隊自体を封じてしまうとは、驚きだよ」
領主が柔和に微笑みながら、言う。
あの後、爆弾で怪我を負った火矢隊達は、全てショウが治療した。
「仲間の治療をするつもりだったんだけど、こうなるとはね。でも良い訓練になったよ」
ショウがハハハと笑う。
「もし、戦う羽目になったら、ショートソードでやる予定だったが」
ディオンの呟きに、壁際の火矢隊達が身震いした。
「ははは! で、鍛錬場はどうだった?」
「はーい!」
領主の言葉に、フラールが手をあげ、口を開く。
「悪戯心が足りない!!」
「‥‥というと?」
「ハラハラだけじゃなくて、笑えるのもあった方が、油断するよ?」
「笑えるもの? なるほど。油断も大敵だものね、ふむふむ。爺、ひかえておいてくれるかな?」
「かしこまりました」
執事が、羊皮紙とペンを取りだし、スラスラとメモをとった。
「あっ、そうだ。俺もメモをとっておいたよ」
ショウが羊皮紙を取り出しテーブルに乗せた。
執事が立ち上がり、羊皮紙を手に取ると、領主に手渡した。彼はしばし目を通し。
「しっかり観察してくれているね、とても参考になるよ、ありがとう」
「私からも一言良いかな?」
手をあげたのはトサ。
「一つの罠を回避すると、本命の罠が発動するような十重二十重の罠を仕込むのもいいかもしれないぞ」
ボロボロになりながら、沢山の仕掛けにかかっただけあって、言葉に重みがあるような、ないような。
「ほうほう‥‥なるほど。それは、この鍛錬場を改良するにあたって、今以上の試練を加えても良い‥‥ということになるね」
領主の目の端がキラリと光るも、執事がコホンと咳払いしてから。
「領主様、今以上の仕掛けを作ると、一層この鍛錬場から利用者が遠のくのではないでしょうか‥‥彼らは特別な方達ですので‥‥」
「確かに、あのままの仕掛けを残すと、大切な自警団に怪我人が続出して、いざという時に機能しなくなるのではという懸念が出るな」
ほとんどの罠を網羅したトサの言う事。とても説得力があったようなないような。
「なるほど、では、仕掛けは軽めにして、油断するような笑いと、十重二十重の罠を入れると良いということだね?」
領主の言葉に、皆は大きく頷いたのだった。
「じゃ、そういうことで、これで帰るね?」
フラールが椅子から立ち上がると。
「あれ? 俺達‥‥あぁ、そうだよ、古文書古文書!」
「あっ、そうだった、忘れてたー!」
フラールとショウのやり取りを見て、領主がクスリと笑ってから、パンパンと手を打った。
メイドが古文書を領主の元へ持ってくると、領主はそれをハウンド達に差し出した。
「良い意見が聞けて、有意義なひと時だったよ、ありがとう。また鍛錬場を試しにきてもらえるかな?」
その言葉に、壁際に並んだ火矢隊は目を見開いて、脂汗を垂らしたのだった。
そうして彼らは2つの魔法の古文書を手に入れることができた。解読も問題なく行えた。
ひとつは、エクスティンクション。火属性のパドマの魔法。
もうひとつは、火創強化。マイスターのGG強化に関わる魔法であった。
6
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参加者
 | | c.めっちゃ痛そうなうえに地味だしな〜。俺は救護班ってことで。頑張れ〜
| | ショウ・ジョーカー(da0595) ♂ 17歳 人間 カムイ 月 | | |
 | | a.火矢の部隊に照準を定めよう。
| | ディオン・ガヴラス(da0724) ♂ 22歳 ダークエルフ マイスター 風 | | |
 | | b.よーし、私はどんな仕掛けにも屈せず!!
| | トサ・カイザー(da1982) ♂ 23歳 人間 ヴォルセルク 陽 | | |
この鍛錬場コワイ。
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造った鍛錬場が危険すぎて、誰も実験台になりたがらない‥‥キミ達、丁度いいところに来たね‥‥と主人が申しております。(執事談)
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