オープニング
◆ウラートにて
「覇の書──競り開始! まずはコイン百枚から!」
「百二十!」
「‥‥百五十」
数字がためらいがちに上がっていく。ここはウラートの街、倉庫を改装したオークション会場。
今回ハウンドたちは先日亡くなった好事家が収集していたという、四冊の武術の秘伝書を競り落とさんとしていた。
セットではない、一冊ずつだ。
最初の書、『王の書』は黒ずくめの衣装の者の手に渡る。
黒ずくめは貴族らしく、従者らしい剣士も連れていた。
ともあれハウンドが目指すのは、秘伝書の『一冊』に記されているという、戦技の秘伝だ。
しかし、どの秘伝書にそれが記されているかは分からない。
『閃の書』『智の書』『覇の書』『王の書』の内、『王の書』は競り落とされた。
『王の書』の落札価格はコイン五百枚だ。
なお、このオークションに使えるのは、現金を換金したコインのみである。
どちらにしろ、ハウンドの資産は有限であり、どの秘伝書を競り落とすべきか‥‥それを考えなければならない。
値段が跳ね上がるのは、記された戦技の内容の重大さではなく、表装の見事さが原因だ。
文字通りの芸術品であり、希少な材料を使い、丁寧に職人が仕上げたものなのである(無論内容は筆写)。
◆魂を賭けよう!
「‥‥二百五十」
ベルクート・クレメントが自分だけで動かせる予算ギリギリで攻める。彼はハウンドギルドからの経費だけでなく自腹も切っている。
「‥‥三百だ!」
黒ずくめのひとりが勝ち誇ったように言う。如何にも美術品の価値を価格で計りそうな顔つきだ。
『覇の書』もまた黒ずくめの一行が競り落とすのだろうか?
「三百超えないか!」
オークションの司会が確認する。
あなたはどうするだろうか?
個人に託されている競りの資金はハウンドの経費であるが、秘伝書を競り落として、余った分は打ち上げに使う程度はOKである。
打ち上げ会をする余力を残す? あるいは全額使い余力を残さず──。
──最終手段『自腹を切る』という手もあるが‥‥。
そう、この一冊限定ならばどれでもいいかもしれない。
しかし、最悪の場合、競り落とせなかった秘伝書に戦技が掲載されているかもしれない。
競売終了後、黒ずくめに頼んでも──触ることすら許されない雰囲気だ。
なお、このオークションの近くに金貸しはいる。現金が必要なら質草と引き換えに金を出してくれるだろう。
そこから帰ってきたものもいる。
あなたは『覇の書』を競り落とすべきだろうか?
ハウンドの奇妙な冒険が──始まる。
選択肢
a.『智の書』落とす | b.『閃の書』落とす |
c.『覇の書』落とす | z.その他・未選択 |
マスターより
ご無礼──成瀬丈二です。
今回は一種類の戦技の秘伝です。どの書に掲載されているかは分かりません。
具体的に皆さんの所持金を決めようと思ったのですが、複雑になりそうなのでやめました。
その代わりにおおざっぱに、ハウンドギルドの資金として全体として『コイン七百枚』を動かせます。
レア度Aのアイテムを質に入れればコイン五十枚、レア度Sは百枚、SSなら二百枚、Gなら三百枚の追加資金が得られるものとします。
無論、このシナリオ中に、合法的に質草は使えません。
一応、これらの品はシナリオ終了後に必死に買い戻した、という事になりますので、アイテムが消えることはありませんん。
あと、幾らで競るかを書いて下さい。
選択肢の順番でオークションは進行します。
※【SubEpisode07】新魔法を獲得せよ 関連シナリオ
シナリオの成功等により新魔法が実装されます。
登場キャラ
◆『智の書』
「それでは私はテレパシーで皆さんにアドバイスを送りますね」
と、
アリー・アリンガムが言い出したのに、ハウンド一同は思った。
(素直にメモを回すとかじゃだめなのか?)
もしテレパシーの魔法が、相手の思考を読めるようなものなら話は別だ。
逆にそんな魔法を使えば、相手から進行妨害と言われるだろう。
良くて外に退場、悪くて人生から退場だ。
「メモですか、それは画期的ですね」
そんなアリーの袖を引っ張る、
パメラ・ミストラル
喋れない彼女はテレパシーを使って、自分の代弁者になることを希望する。
あと、質入れも手伝ってほしいそうだ。
アリーはツッコミそうになったが、考え直す。
(これは人のカネで大勝負するチャンスですわ‥‥退屈はしそうにないですから)
アリーがサポートに入って、パメラの質入れを手伝う。
「ほう、中々立派なムチですな。さっするにリムランドのものですが、痛みが(うんちゃらかんちゃら)」
立て板に水とはまさしく、この質屋の言い草だろうか。
コイン一枚でも、いや、銀貨一枚、銅貨一枚分でも削り倒そうとする。
アリーがその心理の虚を突いて、駆け引きに出る。
「では、別の店に行きますわね──さあ、お返しを」
「ま、待った‥‥これは──」
結局、額面通りのコインを得た。
『智の書の落札はお任せください‥‥写本取りたいですし』
そんなパメラの思考をアリーは周囲に知らせる。
(持ち込んだ希少なアイテムを全部コインに変え、競る予算は私の手持ちのコイン五百)
アリーは過不足なく仕事をしてくれた。三百八十まで競り値は上がったものの、残りは余裕がある。
向こうは四百の壁があるのではないか?
アリーはその結論を周囲に送った。もちろんテレパシーで。
残りコイン八百三十。
◆『閃の書』
そして、白熱したオークションは幕を開ける。
脳内でゼニ勘定をする、
パオラ・ビュネル。
(──秘伝書が二冊だから単純計算で四百枚は動かせて、さっきの質草で五十枚──よ、四百五十枚?)
(違う、違うのである)
否定する、
エルマー・メスロン。無論テレパシーでの通話である。
片手を広げる。
(我が輩も質草に九百コインを得てるのだ)
パオラは耳から液体が噴き出しそうな幻覚に襲われた。
というか、聞いていたハウンドたちは思った──返金するの大変だろうなーと。
(つまり、千三百五十コインでございますか)
(しかり)
その間にもオークションは進んでいた。
「──百」
軽いあいさつ程度と思っていたが、向こうは打って出た。
「──二百」
指を二本立てて強調する黒ずくめ。
(作戦通りいきますわ)
パオラが一生懸命立ち上がって、合図を送る。
「二百十」
小刻みにカウントすることで、こちらの残資金を把握させない手だ。
相手も比較的小刻みに出た。
二百三十。
二百四十、二百五十、二百六十‥‥。
「三百」
コールし続けるパオラ。
「三百五十」
相手の貴族風の男は言い放った。勝利を予感しているのだろう。
だがパオラは宣言。
「三百八十」
貴族風の男は殺意に満ちた目でパオラを見る。
微笑み返しのパオラ。
──『閃の書』はハウンドの手に。
ハウンド側‥‥残り九百七十コイン。
◆『覇の書』
「おふくろよぉ、これもう五百コインくらいでコールして『勝った』で良くないか?」
ドワーフの、
セイ・ローガンが、美少年にしか見えない、
オスカル・ローズに言葉を投げる。
「僕はねえ、戦うの好きじゃなくて、負かすのが好きなんだよね」
ドSな発言である。
「それに僕としては大量の質草にいれたから、その物量を味わいたいよ」
「何コインくらいだい? ‥‥三百か! そりゃあ、張り込んだなぁ、だがあたしも負けてはいない。コイン三百五十枚も加えていいよ」
セイの言葉に、オスカルは不敵な笑みを浮かべた。
しかし、その笑みも凍りついた。
「では、百より落札開始です」
進行がそう言うと黒ずくめはこう言った。
「千!」
周囲がざわめく。
「コインの確認いいでしょうか? 値上げ目的で場を荒らされても困りますので」
「その前にこっちのコールも聞いてくれないかい? ──千三百だよ!」
セイが身を乗り出して宣言する。
周囲は思った。これは戦いのレベルが違いすぎる。
アリーが思った。
(質草買い戻すのどうするのかしらね)
「周囲の人に聞いてみましょうか? これ何で急に向こうの競り値が増えたのでしょう? あ、向こうも高価な品を質草に入れた‥‥必死ですねえ」
言われてみると護衛風の黒ずくめの腰に帯びていた剣が無くなっている。
腕前にふさわしい業物だったのだろう。
両者ともにまずコインを千枚入れた袋を前に出す。
その上で貴族は袋を五つ積み上げた。
「千五百だ」
重い音がする。
「じゃあ、刻むよ‥‥一千と六百だよ」
セイは最初のみっつに加えてみっつ、合計六つの袋を積み上げる。
「おっさん、火遊びはほどほどにしてね」
オスカルがとどめを刺す。
こうして四冊の写本は、ことごとくハウンドの手にそろった。
なお、パメラは『智の書』だけでも写本できないか、とハウンドギルドに直訴する気マンマンだ。
もっとも、この当時の本は文字だけではなく、精緻な挿絵なども含まれた上での総合芸術品であり、文字部分だけでも、月単位の写本期間がいるだろう。
「あれ? どうなったの」
今更目を覚ました
ベルクート・クレメントが起き上がろうとすると、後頭部にオスカルが足をのせる。
「おい、寝坊助。クライマックスは終わりだよ」
「この足の裏の感触はオスカルだな」
コイン‥‥残り二十枚。ウラートの安酒屋で管をまくのが精々だ。
それとも、ウラートの街からとっととローレックの街に戻るか。
今回は最高のスポンサーとなったエルマーは、ローレックの街への帰還を選択した。
「ふふふ。如何なる秘術が詰まっているか、それが我が輩のロマンを掻き立てるのだ!」
ロマンがなくても人は生きていられる。しかし、ロマンがない人生ほどつまらないものはない。
パオラは疲れていた。もう、どこか薄暗いところで延々と眠りたい。
「こんなに人に注目されるとは──」
だが、今回選択権を持っているのは自分のサイドだ。それは今までの下僕人生とは、大きく違う。
パメラが思ったのは、本当に自分は何を思って今回の依頼に参加したのだろうか、ということだった。
アリーがいなければ、詰んでいた──彼女がいなければ、自分は滑稽芝居の芸人だったろう。
しかし、テレパシーというのは便利なものだ。カムイに使えないのが残念なくらいである。
(願わくば今回の新魔法がそう言った魔法でありますように)
アリーが思った事。それは個人の腹の探り合いで、魔法には限度があるということだ。
パメラのフォローに回っていなければ、愉快なおねーさんだったろう。
(まあ、これはこれで結構楽しめましたわね)
オスカルが弟子のセイに対して思った事。端的には『このバカ弟子がーッ!』である(多分)。
「人生に大事なものは良き師、良き友。その両方をそなえるとはセイも中々、果報者だね。きっと師匠の教えが良かったんだよな」
自分から、良き師というのはどうだろうか? という意見はあるかもしれない。
だが、これまでのセイの人生でオスカルは大事な人であることは間違いないだろう。
しかし、セイの意見は実際的なものだった。
「あんたが言うな、って言われそうだけど、質草どうする? 商売道具だよな」
その言葉は一同に死んだ魚の目をさせた。
特にエルマー、セイ、オスカルの三人のため息は深かった。
ハウンドたちは奮闘した。
ハウンドギルドは、秘伝書を解析、水の戦技(風のヴォルセルクも一応使える)デッドオアアライブの普及に努めた。
だから、ハウンドの冒険は‥‥終わらない!
7
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参加者
| | z.それでは私はテレパシーで皆さんにアドバイスを送りますね。
| | アリー・アリンガム(da1016) ♀ 29歳 人間 パドマ 月 | | |
| | b.では私はここに全ツッパなのである。
| | エルマー・メスロン(da1576) ♂ 51歳 ダークエルフ パドマ 陽 | | |
| | c.さて、自腹を切ってコインを買うか。宵越しの銭は持たないで行くしかないね
| | セイ・ローガン(da1834) ♀ 41歳 ドワーフ ヴォルセルク 火 | | |
| | a.(続きかきかき)『智の書の落札はお任せください。‥写本取りたいですし』
| | パメラ・ミストラル(da2002) ♀ 19歳 人間 カムイ 月 | | |
| | c.じゃ僕はセイちゃんといっしょー☆ あ、本命なんで、200枚取るねー
| | オスカル・ローズ(da2033) ♀ 53歳 パラ パドマ 火 | | |
| | b.では、こちらを狙ってみますね
| | パオラ・ビュネル(da2035) ♀ 23歳 ライトエルフ パドマ 地 | | |
| (口からタマシイが抜けている) | | ベルクート・クレメント(dz0047) ♂ 26歳 パラ パドマ 火 | | |
この書は素晴らしい‥‥
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くくく、グレコニアで転売すれば‥‥なーに先行投資よゲハハハ。これでバクチの借金も返せるわい。
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