オープニング
「異国のものを集めるのが趣味でねぇ」
そう語る初老の男性は、集ったハウンド達を前ににっこりと笑みを見せる。
「先日、遠路はるばるやってきたという行商人を屋敷へ招いて、品物を見せて貰ったんだ。どれも大変興味深くて、ついつい買いすぎてしまったくらいだよ」
まぁお茶でも飲みながら、と男性は皆へ座るよう促す。朗らかに笑う男性とは対照的に、集ったハウンド達は困惑気味な表情をしていた。彼等がここへ集まったのはこの初老の男性に呼ばれたからだが、彼と優雅に茶を飲む為ではない。
彼の所持する古い石版に、現在ハウンドギルドがあちこち探し回っている新魔法の手掛かりが記されているらしい。男性本人が言うように、彼は町へ訪れる行商人から様々な物を買い付けている。出所の解らない怪しい品々も多数あると言うから、その中にそれらしい石版があっても何ら不思議ではないだろう。
初老の男性はハウンドギルドに協力的だった。ハウンドギルドが意味ありげな女神像だとか古い石版、魔法的な作用の有りそうな品を探していると聞くや「うちにある物を見てくれ」と一報を入れてくれた。
そうして、皆は彼の屋敷を訪れる事になったのだけれど。
「この壷をみてくれ。いい形をしてるだろう? 持ち手は細いが、作りは頑丈だ。ああ、そっちの小鉢も良い色をしてると思わないか? この辺の土じゃ出せない色だと聞いたんだ」
立て板に流水がごとく、男性は皆へ彼自慢のコレクションを披露し始めた。最初は大人しく聞いていた皆だったが、段々めんど、いや鬱陶し、ではなく……えぇと、飽きてはないけれど出来ればそろそろお暇したいなぁ、なんて思い始めていた。
とはいえ、目的の石板は未だ出てこない。それに、彼の趣味で買い集めたお気に入りの品を、無償で、善意で、提供頂けるのだから、なるべく角を立てず穏便にやり過ごしたい。
もう暫く辛抱して自慢話に付き合っていたら、目的の石版も紹介してくれるだろう。早めに出してくれる事を願うばかりだが、さてどうしたものか……。
◆状況補足
・ウラートに住む裕福な初老の男性の屋敷へ招かれています
・男性がコレクションとして所持している古い石版を譲り受けるのが目的です
・男性はハウンドギルドに協力的で、特に条件無く譲る気で居ますが、皆さんの目当ての品が古い石版だとは気付いていません
・男性の機嫌を損ねたり、不信感を抱くような言動をした場合、古い石版を譲り受けることは難しくなるでしょう
選択肢
a.良きです!!!! | b.うんまぁ解るよ |
c.へーそうなん | z.その他・未選択 |
マスターより
お世話になります、空根 漣です。
お喋りしたいオジサンのお話を聞いてあげてください。
以下選択肢補足です
・良きです!!!
この曲線が! ここの細工が! この色が! 最高わかりみ~~~~~!!!!
男性と同じ熱量で語り合います
・うんまぁ解るよ
自分にそこまでの熱量はないけど、貴方に熱量があることは理解出来ます
そこそこの興味とそこそこの探求心で男性の話に相槌を打ちます
・へーそうなん
このお菓子おいしいなぁ、おかわり貰えるの?
男性の話に全く関心がないので他所事をします
※【SubEpisode07】新魔法を獲得せよ 関連シナリオ
シナリオの成功等により新魔法が実装されます。
登場キャラ
◆熱量をもって
「ほぇ~……。よう集めはりましたなぁ!」
次々に出てくる品へ少しばかり大袈裟に驚いて見せたのは
フレグス・カヴィンだった。
「僕は素焼き物の専門やないき、金銭的価値っちゅうんは解らんことも多いかばってん」
これどないやの? と彼は手にした素焼きの平皿を隣の
ビア・ダールへ示す。
ビアはフレグスから渡された平皿を繁々と眺め「ほほぅ」と唸った。
「私も吟遊詩人の端くれとして美術品には目がない方ですが、どれも興味深い」
そういうビアに初老の男性は満足げな表情を顔へ浮かべて語り始める。産地がどうとか、製法がどうとか。
男性の語る言葉に耳を傾け、聞き入るビアは「やはりそうでしたか」と頷いてみせた。
「こちらの皿の色など、産地特有の土を焼かねば出ないもの。いやはや、私のような貧乏詩人では手のでない逸品ばかり。実に眼福ですなぁ」
そういうビアに「そうだね」と同意を示したのは
ドミニク・レノーだった。
「貴方とは関心の方向性が別かもしれないけど、俺もこういう品々に興味はあるよ」
ドミニクは並ぶ調度品そのものへ興味があるわけではなかった。だけれど、こういった作品とも呼べるものを多く集め、一度に鑑賞できる機会というものには心惹かれる。
人が使う道具として物は生み出される。そこには必ず、作り手の想いも反映されるものだ。作られた時、その土地で流行っていた色だとか形だとか、素材。信仰の度合いなんかも時の流れと共に変化する可能性は考えられるし、日進月歩の技術革新や発展があったかもしれない。
作った人が何を想い、何を感じていたのか。この作品を通して、誰に何を感じて欲しかったのか。
「そういうので、作品一つ一つにも色々個性が出る印象なんだよね。変化する時代の一端が、ここから、見えるような気がするんだ」
ドミニクは、そういった見えない声に耳を傾けられる気がして、薄らと表情を和らげた。
「それ僕も解りますわ~。文化とか、作り手の想いに、巡り会い……。それらへ連なるもんは浪漫ちゅうやっちゃ! せやけど、浪漫だけやのうて技術面も解れば一層面白か思うち!」
ドミニクの言葉に合わせるフレグス。初老の男性は意外にも、ドミニクとフレグスの言葉へ大変喜んでいた。そうして、自分が何故異国の品々を集めるに至ったのかを話し始めた。
その土地独自の宗教観があって、信仰心があって、常識や非常識も海や山や川、砂漠に谷に平野を一つ隔てただけでガラリと変わってしまう。成人を祝う儀式だけを見ても、そこに使われる道具だったり偶像だったり、それらが何を素材にしているかもまた変わってくる。そこが面白くて、なんて彼が話している間、新たな品々は運ばれてこない。
「……おっと。眠れる獅子を起こしてしまったかな」
苦笑い気味に、ドミニクはフレグスへ視線を向ける。
「あはは……。いやいや、こっからが腕の見せ所でっしゃろ。前座で暖まってもろたち。ねぇ!」
そう言って、フレグスは男性に解らぬよう皆へと視線を巡らせた。
ふんふん、と男性の言葉へ耳を傾け、メモを取るのは
シルヴァーナだった。彼女は戦場で戦う皆の勇姿を後世に遺したいとの想いから、戦場の語り部として活動している。呼び名は自称だが、活動自体は彼女が本心後世を想って、真剣に取り組んでいた。
今回の、初老の男性が語る言葉は、彼女の本当にやりたいことからは少しばかりズレているのだけれど。
(こういった、ぶんか的な話も嫌いじゃないんだよ。ぶんかだって後世には遺すべきだと思うからね)
世界は戦いばかりで構成されている訳じゃない。そこには人々の日常があって、営みがあって、文化がある。シルヴァーナが真に興味のあることは戦場で垣間見られる勇姿についてだが、そこへ至るまでの文化的背景だって大変に重要な事柄であるはずだ。
書き綴るシルヴァーナの傍らで、
ヴィルヘルム・レオンハートは男性の言葉に深く頷く。
「貴方の鑑定眼には敬服するばかりです。作品そのものへの造詣もさることながら、文化的背景まで愛でていらっしゃるとは」
フレグスからの目配せを受けて喋り出すヴィルヘルム。彼に続いて、
ジョシュア・マクラーレンも大きく首を縦へと振って見せた。
「まさにと言わざるを得ませんね。私も先程から知的好奇心が疼いて仕方ありません。こんな機会はそうないでしょう。大変嬉しい限りです」
彼は、錬金術的に利用価値のある物くらいしか目利き出来ないが、男性の集めたものに対しては彼の興味の琴線に触れる物が多数存在していた。可能であれば個人的に買い付けもしたいと思っているのだけれど、それは今回この場へ訪れた趣旨から逸脱してしまう。まずは目当ての物へ辿り着く算段をつけなければ。
「過日などは、サンドラ地方でピラミッドの発掘作業をお手伝いするという貴重な機会に恵まれましたが、此度はそれに勝るとも劣らないですね」
「せやせや。ありゃ大変でしたなぁ。なんやいっぱい石版とか出てきてんか。旦那さんもああいうの好きそう思うち」
ジョシュアの言葉に頷きながら、調子を合わせてフレグスが言う。
ほぉ、と男性の興味を惹いたところで、ヴィルヘルムが二人の言葉を引き継いだ。
「発掘された石版はどれも古いものでしたよ。芸術品としての価値でいえば、こちらの品々の方が余程立派でしたが」
ええ、と口元に笑みを見せ、ジョシュアが続ける。
「刻まれた文字の解読をして、学術的価値を見いだすものが殆どでした。ああそうだ、ちょっとした解読なら心得がありますので、何か気になる物がありましたら見てみましょうか?」
そう促すジョシュアからの目配せを受け、ヴィルヘルムが男性へ向き直りつつ今回目的としている石版への一手を打った。
「古い時代のものなんかには、難解な文字が刻まれていたりするからね。もし貴方がそう言った物をお持ちであれば、我々の求める物である可能性も高い。どうだろう、心当たりはありませんか?」
ふむ、と唸り、思案する男性は「そういえば……」と思い当たったものを取りに席を立った。
◆未知への道程に慶事あれ
皆の元へ戻ってきた初老の男性は、手元に布包みを一つ持っていた。椅子へ腰を下ろし、テーブルの上で彼はゆっくりと布を解く。
現れたのは古い石版だった。文字のようなものと、絵のようなものが直接彫り込まれている。
「これは……確かに今まで拝見したものとは別種のようですね」
真剣な面持ちで石版を眺めるジョシュア。解りそうかい? と声を掛けたのはヴィルヘルムで、彼の言葉にややあってから「断片的には」とジョシュアが応えた。
「ムーンポータルに関しての記述が見られます。全てを解読するには、些か私では力不足のようですね。何とも口惜しい」
うぅむ、と唸るジョシュアに「ちょお貸してちあ」とフレグスが身を乗り出す。
「……せやね。ムーンポータルと、月のルミナに関係する言葉がならんどぉよ。強化する意味合いの文言もありよるき……。あ、それは月のルミナの方にかかっとぉね」
ふむ、ふむふむ、と古い石版に彫り込まれた文字を解読するフレグスは「うん、わからん!」と顔を上げた。
「えぇー? 結局解らないっていうオチなの?」
登場した石版に目を輝かせ、全てを聞き逃さないようメモしようとしていたシルヴァーナは、フレグスの投げやりとも取れる言葉にがっくりと肩を落とす。
「しゃーなしやんかぁー。僕、グリーヴァ語や竜語の他に古代語も勉強中やけんど、まだまだ完璧やにゃあし。全部は荷が重いばってん」
でも浪漫はあるで! とフレグスがシルヴァーナから皆へ視線を巡らせた。
肩を竦めつつも、ドミニクは件の石版へ視線を向ける。
「どのみち、ココに刻まれていることを俺たちが会得出来るかも解らない訳だし、浪漫を見つけたと思えばそう悪くもないだろう?」
「その通りですな。拝見した品々はどれも素晴らしく、その中でもこれは未知の浪漫溢れる逸品。いやはや、感服致しました」
ドミニクの言葉に頷きつつ、ビアは初老の男性へ笑って見せた。
初老の男性は燻っていた蒐集品への想いを皆へ語って、ついでに大いに褒めて貰えたので、大変気分の良い様子だった。件の石版も恙なく皆の手元へ渡り、無償で譲り受ける事と相成った。
後日、きちんと解読された石版は、ジョシュアやフレグスが読み解いたように、ムーンポータルに関係するパドマ魔法『トラベラー』とマイスターのディレクトガガを強化する魔法『月創強化』の二種類が記述されていた。どちらも月のルミナに深く縁があるという。
多くの土地を旅してきた石版は、これからも数多の場所へ赴くだろう。ハウンドたちが会得する、新たな魔法に姿を変えて。
未知への道程に慶事あれ。其は汝の旅路を祝福せり。
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参加者
| | a.ふーん…これはこれは
| | ヴィルヘルム・レオンハート(da0050) ♂ 25歳 ライトエルフ パドマ 火 | | |
| | b.おー、良くわからないけど何かすごそうだ。ネタになりそうだから教えてー。
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| | a.これはこれは、興味深い品物ばかりです。嬉しいですね。
| | ジョシュア・マクラーレン(da1234) ♂ 29歳 ライトエルフ マイスター 風 | | |
| | b.俺は考古学者じゃなくて吟遊詩人だけど、まぁ興味ないワケじゃないね。
| | ドミニク・レノー(da1716) ♀ 25歳 ライトエルフ パドマ 水 | | |
| | a.ほほう。私も美術品には目が無い方ですので、これは興味深いですな
| | ビア・ダール(da1972) ♂ 54歳 ドワーフ カムイ 陽 | | |
| | a.良きです!!!!
| | フレグス・カヴィン(da1977) ♂ 25歳 人間 マイスター 陽 | | |