オープニング
◆不思議話は突然に
あるハウンドがローレックの街の酒場で一息ついていたところ、傍に席をとっている男ふたりが交わし合う愚痴がふいに耳に入ってきた。
男のひとりは生真面目な学者風。彼は羊皮紙を手にし、眉間に皺を寄せる。
「……高額の仕事だからと引き受けたのが間違いだったよ。一応ルーン文字は読めるんだがね、あの古文書の本質が全く理解できない。時折書き連ねられている不可思議な文言……あれは挿絵から察するに、魔法の専門用語的なものなんだろう。しかし私はルーン文字の研究者に過ぎない。魔法を理解できないことにはあの巻物が本来意図するものはわからないだろうな」
「そいつは運が悪かったなァ。ま、文字を読むこと自体はできるんだろ? 多少片言でも依頼者に素直に訳したものを渡せば十分じゃないのか」
「まぁ、それはそうなんだが……しかし最後まで理解してこその学者だろう。それができないことが情けなく、何とも腹立たしいのだよ」
学者風の男はそう言ってマグを大きく傾け、酒臭い息を吐いた。
……魔法の専門用語? 翻訳がままならない古文書?
それを聞き取ったハウンドは期待に胸を膨らませ、彼らに一杯奢る代わりに話を聞かせてほしいと声をかける。
すると男は酔いの勢いで頷き、事の経緯を話し始めた。
ことの始まりは10日ほど前のこと。
ローレックの街に住む貴族が屋敷にある倉を整理したところ、様々な品が出てきたという。
その中に問題となっている古い巻物があり、それが一体何を記録しているものなのか知りたいと貴族はルーン文字の学者へ声をかけた。
もし本国の成り立ちや自身の一族に纏わる歴史書なら価値はあるだろうからと。
しかしその内容は学者にとって理解しがたいものだった。
魔法や魔力といったわかりやすい言葉はともかく、それ以上に専門的で複雑な言葉が当然のように並んでいたのだから。
「……ハウンドの多くは魔法を心得ていますし、ルーン文字に通じている者もおります。その貴族の方にお目通しいただけますようお願いできますでしょうか。もしかしたら僕らがお役に立てるかもしれません」
一通り話を聞いたハウンドがこう提案すると学者は小首を傾げた後、「先ほど一杯馳走になったことだし……いいだろう。私も最後まであの古文書の真実を追いたいところだしね」と実直に返答。
こうしてハウンドは謎の古文書への期待に胸躍らせ、貴族の家に向かう運びとなるのだった。
◆耽美趣味の貴族
「ふむ……あの古文書は魔法に関するものの可能性が高いと」
「左様でございます」
貴族の屋敷で応対に出た執事は早速応接間に学者とハウンドを案内するも、現状における学者の推論を聞くなり複雑な表情を見せた。
「我が当主は魔法には今ひとつ関心がないようでして。勿論翻訳していただいた分の謝礼はお支払いしますが……」
彼の主人である女性貴族アンヌは話によると美しいものと一族の歴史にしか関心がないらしい。
これでは古文書が見事解読されても倉へすぐ戻されることだろう。
そこでハウンドは口が乾くほどの緊張を覚えながらもまっすぐに提案した。
「あ、あのっ、それではこの古文書、我々ハウンドへ譲っていただけるようアンヌ様にお伝えいただけませんか? ハウンドは新たな力を求めています。もしこの古文書にその手掛かりとなるものが記述されているなら……コモンを守るための力になるかもしれません!」
すると執事は「確かにそうですな。コモンの生活が守られることは我々も望んでいること。主人に早速お伝えしましょう」と応じ、主人のもとへ。
その返答は僅かな時間のうちに出たようで、マグに注がれたハーブティーが冷める前に彼は戻って来た。
「アンヌ様はお譲りすることに異論はないと仰いました。しかしひとつだけ条件がございます。それは『美しいハウンド』をじっくりと鑑賞したいとのこと……ハウンドは街で会うことはあれど、我々のように普段屋敷に詰めているような者では直接交流する機会が少ないですからな」
「ありがとうございます。しかし美しい、鑑賞、とはどのようなものなのでしょうか」
「アンヌ様には男女種族関係なく、お気に召したものを美しい・幸福と感じられる方です。精悍でも耽美でも可憐でも……何でも。今回はハウンドの皆様各々の美を自由に堪能させていただきたいとのことでした」
……それは簡単なようで曖昧、非常に難しい問題だ。
しかし貴族から友好的に譲って貰えるのならそれに越したことはないだろう。
ハウンドは柔らかな微笑みを湛えて執事に感謝した。
「それではこの件はハウンドギルドに伝え、当日にお目見えを希望するハウンドをこちらのお屋敷に案内しましょう。必ずや魔法より価値ある良き時間をご提供いたします」
――こうしてハウンド達は己の美を磨くことになった。
奇妙な古文書に記された新たな力を得るために。
選択肢
a.体で魅せる! | b.芸で魅せる! |
c.仲間のサポート | z.その他・未選択 |
マスターより
いつも大変お世話になっております、三毛野です。
今回は謎の古文書をゲットするために享楽的な貴族の前で
「美しいハウンド」コンテストが開催されることになりました。
会場は貴族の庭園でお茶会をしながらの鑑賞となります。
なお貴族アンヌは「美しいもの」が好きなだけなので種族には偏見がなく、
ただ「あなた達の美に溺れられればそれだけで合格!」といった価値観を持っています。
ちなみに「美しい」の基準は曖昧で、純粋な見た目の良さのみとは限りません。
所作や貴族の前で披露されるものの内容によっても結果が異なる可能性があります。
行動は定番のポージングを極めてもいいでしょうし、得意な芸の披露でもよいでしょう。
また、ハウンドらしく武器や技を用いた舞や魔法を用いた不思議現象を見せるもよし。
ご友人・カップル・ご家族と協力してのご参加も大歓迎です。
(その場合はすれ違いのないよう相手のキャラ名を明記してください)
皆様の素敵なプレイングで享楽に耽る貴族の心を魅了し、
不思議な古文書を見事ゲットしてくださいね!
※【SubEpisode07】新魔法を獲得せよ 関連シナリオ
シナリオの成功等により新魔法が実装されます。
登場キャラ
◆輝きと痛みと
ローレックの街にそびえる瀟洒な館。そこに集まったハウンド達の顔を見るや、館の主人アンヌとその友人たる貴族達は満足そうに頷きあった。
急な提案とはいえ12人ものハウンドが集まったのだ。職務に追われ館で一日を過ごすことの多い彼女達にとっては貴重な出会いと言える。
そこで早速
アリー・アリンガムが艶やかなつくりのローブを揺らし、ハウンド達を紹介していく。
(美しさを愛でる……ですか。何というか貴族様らしい趣味ですねえ。せっかくですからハウンドの実力……というか美しさを紹介しようではないですか。貴族にコネを作るチャンスにも繋がりそうですし)
どうやらアリーの狙いは新たな力のみには収まらないようだ。
彼女は貴族達へ礼節を重んじながらもウィットに富んだ会話を交わし、思わず手を伸ばす男性貴族には「なにとぞ、よしなに」と妖艶に微笑む。
中には羊皮紙に連絡先を記して渡す貴族も現れるほど――彼女の美貌と巧みな話術は他者の心を掴むものだった。
一方、その賑わいを視界の隅に収めながらも忙しく立ち回るのは
パオラ・ビュネル。彼女は貴族達の前に出ることなく、庭園の一部に黙々と花や布を飾り付ける。
(……私は特に芸など持っていませんし、表に出て着飾るような外見ではありませんから……。適材適所、自分のできることで……)
そう心の中で呟くも、ふと作業に励む己の指先を見つめる。かつての主に幾度も虐待を受け、歪んでしまった爪が瞳を潤ませる。
と、その時。衣装と小道具担当の
レティチェラ・サルトリオがパオラの傍に装飾品を飾り始めた。
「パオラさんは舞台に出ぇへんの?」
「は、はい。その……私はその……貴族の方にはきっとお気に召されないと思うのです。指先からしてこの通りですから……」
するとレティチェラは僅かに逡巡した後、布の花飾りにリボンを手早く縫い付け、パオラの手首に巻き付ける。その華やかさにパオラは僅かながら目を輝かせた。
「傷痕はすぐに消せずとも印象に残らないようにするぐらいならわたしにもできるものや。急ごしらえやから今はこれが精一杯やけど、全ては心ひとつ……わたしはその手伝いをするのが仕事やね」
相変わらず人形のように表情のないレティチェラ。
しかしパオラの手を労るように触れると「今度は手袋かな。良いの繕ってみるわ。あと爪も大切に……時間が経てば少しずつ綺麗になっていくかもしれへんもの」とぽつりと呟いた
その言葉にパオラは「あ……ありがとうございます」と涙を一粒零した。こんなにも他者の手は温かいと知ったのだから。
◆貴族達の審美眼
この茶会はアンヌの主催するものなれど、いつの間にかアリーが進行を務める流れとなっていた。
まずは
レオン・ウィリアムズがレティチェラがあつらえたシックな装束を纏い、ハープの弦に指を掛ける。
(……美か。なかなかに難しいな。俺自身、体が傷だらけで美からかけ離れている存在だからな。でもこうして礼装に近い服なら……誰にも気づかれずに済む。ありがとうな、レティチェラ)
こうして彼は穏やかな顔で演奏を始めた。風に舞い上がるように繰り返される優しいメロディはレオンの創作楽曲。
柔らかな花畑にひとり佇み、時折悪戯な風が花弁が舞きあげる中で大空を仰ぐような――そんな切なく優しい音色が庭園に響き渡る。
心温まる音色にほっと溜息を吐くハウンド達。だが貴族達は聴き馴染んだ音楽に心を和ませたかのように目を細め、拍手を送るのみ。
「ありがとう、素敵な曲ね。この楽曲は何を題材に?」
「あ、いや……花畑が綺麗だなと思って、それだけです。その感動を皆様と共有できたらと思いまして」
「そう、そのお気持ちとても嬉しいわ」
この一連の流れでレオンは彼らの耳が肥えていることを肌で感じた。だからこそハウンドを茶会に招き、普段と違う趣向を求めているのだと。
彼は仲間達に急ぎその旨を伝えると、すぐさま茶会を手伝うことにした。貴族達の反応を窺い、仲間達を支えるために。
次に舞台に現れたのは
ソル・ラティアス。
彼はあえて普段通りの芸人衣装で椅子に座り、師の形見である長年の相棒――異国情緒あふれる意匠のリュートを構えてまずは弾き語りを始めた。
「それぞれの美しさ…そいつぁ偏に生き様・在り方ってやつかもしれやせんねぇ。とくりゃ、俺はこの一弦一音、言の葉一枚。俺の芸は紛れもなく生きる術、商売ですがね、それでも魂まで魅入らせようってなら魂を賭けるもんで。……ああ、なに。感じるまま感じてもらえりゃ一番でさぁ」
やや斜に構えた小粋な口調。貴族達が目を瞬かせる中、彼は一つの生き様を辿るように、自由にのびやかに演奏。時には緩急をつけ、想いを一篇の物語のように歌に乗せる。
ひとつひとつの仕草や表情にも心を込めて。悲観に決して溺れず、常に明るく自身の芸に誇りを持ち歩む彼の生き様がここにある。
また、時折歌いながら舞ったり小道具を使った演芸を披露したりと『人を楽しませることを忘れない』芸は貴族達にとって新鮮だったようで次々と絶賛を受けた。
(大衆向けの芸ってのもウケは悪くねぇ、か。まぁ貴族は自分のために芸術家を抱えて高度な技術を学ばせることもあるというし、こういうのは逆に珍しいのかもしんねぇな)
そうしてソルは軽く一礼すると、次の演目に備えて後方に控えた。
「各々の美を堪能したい、ねえ。お貴族様の娯楽らしいな。まあ好意的なのは確かだろうし、要望には応えるか。……それじゃソラ、行ってくる。」
「ああ、リディ兄の身軽さは天下一品だからな。思いっきり楽しませてやってくれよ」
リディオ・アリエクトは義兄弟の
ソレイユ・ソルディアスと拳を握った腕を軽く交わすと、にっと笑った。
リディオは元来容姿が中性的かつ整っている。今日はそれを存分に活かし、にこやかに口上を述べた。
「さて、美しい音色を堪能してもらったところで……俺はハウンドならではの動きを披露するとしよう」
彼はそう告げて様々な軽業を披露。音楽担当のソルと息を合わせ、自由自在な姿勢で宙を何度も跳んだり、椅子や会場設営に利用した梯子の上で器用にバランスをとりながら複雑なポーズを極めたりと一般のコモンでは出来ぬ動きを次々と魅せていく。
そこで貴族の子女が無邪気に手を叩くと、それまで息を呑んでいた周囲の大人達も喝采をリディオへ送る。
そして最後に彼は梯子の最上段から宙返りで舞い降りるとしなやかな体を反らし、胸に「感激の至り」とばかりに手を当てた。ソルはそれにあわせてリュートを掻き鳴らすことで舞曲に終止符を打つ。
その時のアンヌはまるで少女のように目を輝かせていた。昔家族から寝物語に聞いた、風の精霊のような青年がこの世にいることを知ったのだから。
一方、その舞台裏では
レネットが
セヴラン・ランベール作詞の歌をを何度も小声で繰り返していた。
「えっと、セヴランさん。私達のことが綺麗だって思ってもらえたら魔法の巻物をもらえますのねっ?」
「ハウンドギルドとの契約上はたしかに。それを破ればギルドとの信頼関係に関わりますし、貴族としての体面も守れなくなりますゆえ、違えることはないでしょう」
「まぁ、まぁ! それでは頑張りますの! ……それにしてもセヴランさんもご一緒に出演してくだされば……やっぱり駄目ですの?」
「私自身は他者を魅せるような特技は持ち合わせておりません。むしろレネット君に視線を集めさせた方がよりよい結果を結ぶと思っているのですよ」
「……わかりましたの。セヴランさんの素敵なお歌、皆さんに喜んでもらえるように元気に歌って参りますね!」
そう言って気合を入れたレネットは満面の笑みを浮かべ、軽やかなステップで舞台に登場。その姿に「まぁ、可愛らしい」と優しいまなざしが多く投げかけられる。
しかしレネットの芸はこれからだ。セヴランの詞はルーン文字と現代語が交錯する複雑な歌。貴族好みの機知が富んだ問いかけを紡ぐ謎かけ歌である。それにハープの演奏まで交えるのだから並大抵の技巧ではない。
ベースは現代語。しかし時折ルーンの言葉を交えることで貴族達が首を傾げる中、趣味でルーン文字を嗜む貴族はくすくすと笑いながら周りにヒントを与えていく。
その答えは親しみやすく他愛のないものだが、レネットの愛くるしい姿と声がそれに相まって貴族の心を魅了したようだ。
「……それでは謎々のお歌はこれにておしまいでございますの。皆様に喜んでいただけて幸いでしたわ」
くるりとドレスの裾を軽くつまんでくるりと回るレネット。その様は可憐でアンヌはもちろん、多くの貴族から拍手が送られた。
その頃、
ハナ・サルタバルタはソレイユと共に舞台を見つめていた。
「はー……美しいものねぇ。皆、それぞれ色々挑戦してる感じだね。ねえねえソラ、どんなものが美しいと思う? 普段あまり意識したことないからなぁ」
するとソレイユは横笛を握ったまま恥じらうように顔を俯かせる。
(ハウンドの美、と言われて俺が真っ先に考えたのがハナの事なんだ。彼女は可愛い上に、俺よりも色んな事を知っていて、それを鼻にかけない謙虚な女性。薬草の手入れや作業場の整理だって几帳面。だから……そんなハナの凄さを見て欲しいんだ)
そんな彼の想いに気づくことなくハナは移動中に摘んできた野花を不安そうに抱きしめるばかり。
「でも、これをやるしかないだろ。ハナの技術と俺の笛の音……その組み合わせで奇跡を起こすんだ。絶対皆、驚いて喜ぶって!」
そう言ってハナを勇気づけるソレイユ。するとハナはまっすぐに彼へまなざしを返し「うん、ソラを信じる。できるだけのこと、やってみよう!」と笑った。
そしてふたりは舞台上へ。ソレイユが秋らしい感傷的な音色を奏でる中で、ハナは秋の野花について詩的に語る。
貴族は庭園や館に飾るような高価な花は知れど、野に咲く花の名は知らずただ静かに耳を傾けるのみ。
そんな穏やかな空気の中――ハナは秋の花々を『虹の染料』を素材に錬金したアイテムを用いて見事に春の華やかな色彩に変えた。
そこでソレイユは一足早い季節の移り変わりを演出、神秘的な音色を奏でる。
「秋は実り、冬は眠り、そして……これはどこまでも続く花畑。春は目覚めの時。皆さんにも末永く幸せな春が訪れるように!」
ハナは音色の高まりと同時に声高に願い、フレグランスを花束に成就させるや舞台にぱっと散らせた。
それにあわせソレイユも笛の音を陽気な曲調に転じさせ、皆を楽しませる。
長閑で不思議で何とも芳しい魔法の時間。それは貴族にとってまさしく貴重な体験だった。
――そして舞台から降りるその時、ハナはこっそりとソレイユに尋ねる。
「花が持っている魅力を最大限に活かして、ソラの音楽に合わせて見たけど、どうかなぁ?」
彼女にとっては観客の反応よりもソレイユの方が大切なようだ。
「お疲れさん、ハナ。俺のわがままにつき合わせちゃってごめんな。……でも最高のパフォーマンスだったぜ、ありがとな」
すると互いに甘い笑みが零れだす。これが今日のふたりにとって最も幸福な瞬間だったに違いない。
次いで悠々と舞台に登場したのは
ベル・キシニア。
彼女はこれまで「私も美しい物は好きだ」とアンヌと同じテーブルで談笑をしていたのだが、その際にアンヌが未知の地が多きこの島を少し恐れていることに気がついた。
ゆえに彼女はビキニ風の形状をした鎧に着替えると、オフシフトとスカイランニングを身に宿した上で剣舞を披露する。全く無駄のない、しなやかで凛々しい動き。その緊張感に貴族達はたまらず息を呑んだ。
そして彼女は同じヴォルセルクのソレイユに槍を渡し「相手役をお願いする」と依頼。ふたりで息を合わせた即興の演舞を魅せる。
ソレイユが槍を振るえばベルはそれを舞うように軽やかな動作で躱す。その姿は戦場に舞う蝶のよう。
そこで思わず立ち上がったアンヌを目に留めるや、ベルは颯爽と彼女を抱き上げた。
「いいか、もっと美しいものを見せてやる」
「は、はい……」
ふたりは空中――いかに裕福な貴族とて足を運べぬ空間に舞い上がると見つめ合う。
「私はな、戦う相手が最後に見るのが『最高に美しいもの』であった方が良いと思うのだ。だから、私は最高の美の姿で、敵を穿つのさ。この島には確かに危険が多い。でもそれだけに生き甲斐を感じる機も多い。……お前はこの島にどんな感情を抱く?」
その時アンヌは眼下に広がる世界を見て小さく呟いた。
「コモンも屋敷も小さく見える……私が知る世界はこんなにも小さかったのですね、ベル」
「そうだな。外の世界もまた美しいぞ。まだ見ぬ自然や謎が沢山だ。我らハウンドはそれを調べることもある。もし機があれば我々から話を聞くのも一興だろうな」
そう言うベルの顔をアンヌは頬を上気させ、見つめていた。まだ見ぬ世界を教えてくれた彼女に憧れを込めて。
最後の出演者
カシスは数枚の羊皮紙に纏めた資料をミステリアスな眼で見つめていた。
それは今まで執事やメイド達から聞いたアンヌの一族の歴史を纏めたもの。
――かつてとある国に芸術を愛する領主がいた。彼は民が平和に芸術を楽しめる世界をと善政を敷いていたが、魔物が跋扈する国内では強者が権力を握り始めていた。
そのため政敵に領地を奪われ、彼はこの島に生活の拠点を移すも失意の中で病死。娘のアンヌは父を悼み形見の美術品を静かに愛でているという。
(なるほど、アンヌ様が一族の歴史と美に拘る理由が垣間見えました。お父上と故郷を失いながらもその志を想う心と……未知の島への不安のせめぎ合い。このままでは本来の美を感じる心も開けぬのでしょう)
そこで吟遊詩人たる彼女は透き通った声をハープの優しい音色に乗せ、敢えて名は明かさずにアンヌの一族の歴史を歌う。
ただただ民の幸せを願う芸術好きの男と娘。しかしそれだけでは敵わぬ脅威と権力の横暴。夢破れた娘はそれでもなお新たな地で優しき仲間と出会い、父の夢を追って明るく生きていく……そんな願いを込めて。
「アンヌ様、この地にはあたくしどもハウンドがおります。ハウンドは民を見捨てません、そして彼らが織りなす美も蔑ろにはいたしません。この地にアンヌ様がいらしたのは……そういう心の縁に導かれたのではないでしょうか」
カシスの言葉にアンヌは涙を零した。彼女の歌は純粋に美しかった、しかしそれ以上に心の傷を包み込む優しさが美しいと感じたのだ。
「ありがとう……カシス。今日は皆さんに逢えて本当に良き日でした。約定通り古文書は皆様にお渡ししましょう。そして私にも祈らせてください。……皆さんの末永いご健勝を」
その涙で潤んだ声にレオンはさりげなくハンカチを差し出し「どうか心おきなく……嬉しい時に心を開放するのもまた、美しいことですから」と囁いた。
◆渡された古文書
アンヌから渡された巻物は倉に収められていたためか、保存状況がよかった。
そこで古文書に強い関心を示すセヴランは巻物を流し読みするも、その内容はルーン語に精通している彼でさえ僅かに眉間に皺を寄せるほど難解な文章だった。
「この古文書に記された魔法は『ルミナリンク』。地のカムイ魔法のようです。しかし『リンク』とは何と繋がるのか……文体そのものが古いので結論を出すにはギルドで検証を重ねる必要があるでしょうね」
しかしその隣でレネットが声を弾ませる。
「魔法の巻物をいただけて何よりですわ。それにセヴランさんが嬉しそうで私も嬉しいですの」
「レネット君……そう見えますか?」
「ええ、それはもう! お顔がきらきらしてましたもの」
「……そう、かもしれませんね」
セヴランにとって珍しい微かな頬の紅潮。
それがレネットにとって何より嬉しいご褒美だったのかもしれない。
13
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参加者
| | b.なるほどなるほど。んじゃまぁ俺なりの美ってヤツを覗いて魅やすかねぇ。
| | ソル・ラティアス(da0018) ♂ 28歳 人間 パドマ 月 | | |
| | b.俺は軽業で魅せるとするかな。
| | リディオ・アリエクト(da0310) ♂ 26歳 人間 カムイ 風 | | |
| | c.ハナの凄い所、見せてやろうぜ!
| | ソレイユ・ソルディアス(da0740) ♂ 21歳 人間 ヴォルセルク 陽 | | |
| | a.それでは貴族の皆様を接待しながらハウンドを紹介していきましょう。
| | アリー・アリンガム(da1016) ♀ 29歳 人間 パドマ 月 | | |
| | a.我が美しさで魅了してやろう
| | ベル・キシニア(da1364) ♀ 28歳 人間 ヴォルセルク 風 | | |
| | c.私は魅せる様な芸もありませんし、サポートに回りましょう。
| | セヴラン・ランベール(da1424) ♂ 26歳 ライトエルフ マイスター 風 | | |
| | c.はー、美しいものね
| | ハナ・サルタバルタ(da1701) ♀ 23歳 人間 マイスター 地 | | |
| | c.んと、衣装とか作るのお手伝いするんよ。
| | レティチェラ・サルトリオ(da1954) ♀ 19歳 ライトエルフ マイスター 陽 | | |
| | b.ふーむ
| | レオン・ウィリアムズ(da1974) ♂ 26歳 人間 カムイ 風 | | |
| | c.め、目立たないように裏でお着替えとかお手伝いしますね
| | パオラ・ビュネル(da2035) ♀ 23歳 ライトエルフ パドマ 地 | | |