オープニング
◆
ブリーゲピラミッドでの事の顛末は、ハウンドギルドに大きな衝撃をもたらした。
──強大なデュルガーであるライネックの復活。
この恐るべき敵の出現に、ハウンドギルドでは昼夜を賭してその対策法が模索されていた。
そして、一方。
ハウンドそれぞれにとっても、それは大きな懸案事項である。
なにせ常に前線に立ち続ける彼らにとっては、いつどこで再び、ライネックと対峙する事になるかも分からないのだ。
今日も今日とてギルドのラウンジでは、貴方達が顔を寄せ合って「あーでもない、こーでもない」とライネック対策に頭を悩ませていた。
しかし、良案と言えるものは出てくる気配もない。
……否、皆もすでに気づいているのだ。
新しい『可能性』へと至る──そんな扉を開かなければいけない時が来ているのだ、と。
そんなところへ──。
「せんぱあああああい!」
バタバタとラウンジへ駈け込んで来た者がある。
貴方達を『先輩』と呼び慕ってつきまとう、後輩の新米ハウンドであるパルフェだった。
「パルフェ、話は全部聞かせてもらったっすよ!」
パルフェは鼻息荒く、貴方達がついていた円卓の天板をバンバンと両手で叩く。
どうやらライネックの件を聞きつけて、居ても立ってもいられず駆けつけて来たらしい。
「頭で考えてもダメな時は、外に出て体を動かすっす!パルフェはいつもそうしてるっす!」
いつもより5割増しの大きな身振りを交えながら熱弁するパルフェ。
そして、その瞳が──はなはだ貴方達の不安を煽る様に──きらりんと輝いた。
「……というわけで。先輩達、修行に行くっす!!」
◆
──ごくごく一部の新米ハウンド達の間には、口伝によって脈々と受け継がれる一つの言い伝えがあった。
かつてギルドに、独力で全く新しい『技術』を開眼した伝説の新米ハウンドがいたと言う。
惜しくもその新米ハウンドはゴブリン退治の最中に致命の深手を負い命を落とす事になったのだが──彼は万が一に備え、己の『技術』を後世に託す為に全てを記した羊皮紙を『ある場所』に隠したと言うのだ。
「──それがここ、ごくごく一部の新米ハウンドにのみ伝えられし聖地……ノービスノービスの木、通称ノビノビの木っす!」
街の外へとパルフェに追い立てられ。
そうして辿り着いた森の中で、貴方達は厭世とした表情でそれを眺めていた。
驚くほどの威容を誇る大樹である。
いったい樹齢は幾つを数えるのか。
その木のてっぺんまで、地面からは優に20メートルはあるだろう。
……しかし、これほど大きな木がこんな所にあるとは知らなかった。これだけ背の高い木があるなら、自分達とて多少なりとその存在を知っていてもおかしくない気がするが──そんな思いに、貴方達は首をひねる。
「でも、ここまで案内しといてなんなんすけど……まさか本当に存在するとはパルフェも思わなかったっす。あはは──いだだだだだ!」
あっけらかんと笑う後輩のほっぺをつねりあげると、貴方達は話の続きを促した。
「うう……この木のてっぺんに、その羊皮紙があるっている話っす」
しかし、ノビノビの木は自らの手足で己を登る者以外はことごとく跳ね返すと言う。空を飛んだりするなんて言語道断、らしい──真っ赤になった両の頬をさすりながら、パルフェはそう語った。
「まあ、伝説の真偽は定かじゃないっすけど……この木を登りきったら、きっと良い修行になるっすよ!」
──そうだといいんだが。
頬を真っ赤にしたままにっこりと笑う後輩を尻目に、貴方達はじっくりと大樹を観察する。
樹皮はゴツゴツとして足を置くには丁度良いだろうし、ヒビ割れた様なところには指をかける事も出来るだろう。また所々に張り出した枝は休憩にも使える。
それらを鑑みると、登るだけならそう難しくはなさそうだ。
正直なところ伝説云々は眉唾でしかないが……確かに、登れば良い鍛錬にはなるだろう。
そんな鍛錬の中にこそ、自分達が求めるものがあるかもしれない。
貴方達は一縷の希望を見出そうとする様に、ばきぼきと組み合わせた指を鳴らした──。
◆
ところ変わって、ここはハウンドギルド。
受付嬢が新しい依頼書を掲示板へ張り出すと、仕事を求めるハウンド達がわいわいとその前に集まった。
「へぇ、大きな木のバケモノかぁ」
若いハウンドの声に、受付嬢が笑顔で頷く。
「はい。最近、島の奥から彷徨ってきたらしいんです。暴れ出すとなかなか手がつけられないそうなので、迂闊には近寄れないんですが──」
「いやいや、こんな巨大な魔物にホイホイ近づく奴らもいないだろうよ」
中年ハウンドの冗談めかした言葉に、皆がドッと笑い声をあげる。
彼等は考えもつかなかっただろう。
まさか、それに近づくどころか登ろうとしている──そんな者達がいる事など。
選択肢
a.真面目に登る | b.飛んで行こう |
c.下で見学 | z.その他・未選択 |
マスターより
◆
いつもお世話になっております。
今回はこの様なお話を持ってまいりました!
後輩に連れ出された先にあったのは、あやしい伝説に語られる大樹!?
ともかく登ってみよう、そうしよう!
でも……なんかこの木、おかしくね?
──おおよそ、その様な内容となっております。
今回も皆様の素敵な冒険の一幕となれますよう、精一杯に頑張らせていただきます!
◆
※【SubEpisode07】新魔法を獲得せよ 関連シナリオ
シナリオの成功等により新魔法が実装されます。
登場キャラ
◆
この伝説の樹の下で告白した恋人達は永遠に結ばれる。
……そんな可憐な言い伝えなど、ここには一切ない。
あるとするなら、それも疑わしい『羊皮紙』の存在だけだ。
しかし──そちらの方が、彼らは心ときめくらしい。
「パルフェ先輩!ステキな試練ありがとうございます☆」
明るい笑顔と共に、パルフェの手を握るのは
エルディだ。
新人らしい溌剌さが目に眩しい。
「いやあ、それほどでもないっすよ」
先輩と呼ばれれば悪い気はしないのか。
パルフェは言葉と裏腹にその胸をぽよんと反らす。
「それにしても……従妹のエルちゃんまでハウンドになってたとは」
「えへへ。びっくりですか?」
そりゃそうだよ、とでも言いたげに。
エルの悪戯っぽい笑みに、
アステは肩を竦めてみせた。
「うむ……情けない姿は見せられないな」
妹達の姿を眺めながら人知れず気を引き締めるのは、彼女達のお兄様である
エクスである。
妹達の手前、無様はできない──それは兄たる男の責務だ。
「ふふっ……『お兄ちゃん』もなかなか気苦労だな、エクス」
そんな彼を見て、
ベルは愉快そうに笑みを浮かべる。
そして、その視線を目の前の大樹へと移した。
「さて……己を登る者以外は跳ね返す、か」
目の前の大樹を見上げながら、パルフェの言葉を思い出す。
それが事実であれば、素直に樹を登る方が良かろうが──。
「それでは面白くないな」
ベルは腰に手を当てると、ニヤリと挑戦的に天辺を見据える。
「さすが、逆張りッスね」
ダブルバイセップスを極めながら、
フェルスがベルの言葉に頷く。
「でも分かるッスよ!筋肉は虐める事が大事ッス!」
「うん……それしないと喋れないのか?」
サイドチェストを極めながら熱弁するフェルスに、さしものベルもツッコミを禁じ得ない。
さて、そのフェルスは筋肉を温めながらも登攀の準備も怠らない。
バサラでハンマーを腕に取り込み、アースアーマーを成就させ、ついでに登頂した暁に呷るポーションまで用意をしている。
いざという時の備えまで万全のマッチョであった。
◆
「──エクス従兄さま!どっちが早く登れるか勝負、ですっ!」
「よし、エル!その勝負、受けて立つぞ!!」
登攀開始の口火を切ったのはエルとエクスの二人だった。
お互いに笑みを交わすと、我先にと大樹の幹に手をかけ登り始める。
その一方。
「ファイトォォ!ハツラァーツ!ッス!」
そんな雄叫びを上げて、フェルスも筋肉を盛り上がらせながら大樹への挑戦を開始していた。
「はつらーーつ!!」
それに倣う様にして。
パルフェも皆の後をよじよじと追っていく。
「エルちゃん……張り切ってる姿は、頼もしくも甚だ不安ね。パルフェちゃんも張り切ってるけど、兄さんも含めて甚だ不安というか…」
総論すると不安しかない。
兄妹と後輩と筋肉の姿を見上げながら、アステはちょっぴり眉を寄せた。彼女は不測の事態に備え、地上へ居残りである。
そんなアステの隣に、スカイランニングを成就させたベルが並んだ。
「あいつらの心配はいらないさ」
「ベルさんは飛んでいくんですか?」
アステが首を傾げると、ベルは口の端を笑みに歪めた。
「ああ。何事かが跳ね返してくるのなら、逆にそれを跳ね返す方が楽しそうだ」
そう言い残すと、ベルは上空へと向けて飛翔して行く。
「……何事も起きない方がいいんだけどなぁ」
そんな彼女を見送りながら、アステは微苦笑を零すのだった。
◆
マトックの鋭い切っ先が、樹皮に突き刺さる。
「よいしょ、っと」
それを手掛かりにして、エルは一生懸命に大樹を登っていた。
登攀開始から幾らかの時間が経ち、彼女の姿も随分と上の方へやって来ていた。
ちらりと横へ目をやれば、そこにはエクスの姿もある。
どうやら勝負はなかなかの接戦らしい。
(むっ!もっと頑張らないと!)
気合を入れ直し、エルはマトックを握る手に力をこめた。
一方、エクスの方はと言えば、さすが手練れと言うべき身のこなしである。その所作は静かなものだが、力強く着実に上へと登って行く。
しかも──。
「……足を滑らせたりしなければいいんだが」
少しだけリードをとったエルの事を気づかう余裕さえあった。
いくら勝負とは言え、従妹の安全が最優先。
それがエルと彼の勝負を接戦としている要因でもあっただろう。
──そんなカイザー家から下に位置すること、少し。
そこにはフェルスとパルフェの姿があった。
「マッチョの道は一日にしてならずッス!ゆっくり筋肉を使って己の身体を練り上げるッス!」
フェルスにとってはこの登攀も立派な筋肉訓練だ。
自身の筋肉を総動員しながら、後輩への筋肉指南も欠かさない。
「あの、マッチョになりたいわけじゃ──」
「なるほど……スーパーマッチョになりたいと言うわけッスか!」
「マッチョしか道が無いんすか!?」
……その会話はいまいち噛み合っていなかったけれども。
「うう、めちゃくちゃっす」
パルフェは筋肉との対話の難しさに唇を噛む。
めちゃくちゃと言えば──もう一人の先輩も相変わらず随分とめちゃくちゃだ。
「──ハッ!!」
銀槍から繰り出される鋭い刺突が、ラージバットの頭を貫通した。
この鋭利極まる武器の前には、魔物の骨肉など紙に等しい。
登攀する仲間達をよそに──ベルはラージバットの群れと先程から大格闘を演じていた。
「これが『何事か』の正体か?だとすれば、期待外れだな!」
飛翔を開始したベルは、すぐにこの魔物達の襲撃を受けていた。
おそらく大樹の枝葉の陰にいたもの達を呼び寄せてしまったのだろう。
とは言え彼女にとっては、大した相手ではない。
「さすがベル先輩。皆の為に囮に……よーーし!」
何か勘違いを交えつつ、その姿にエルが感動の声を上げた。
そして、彼女はその奮闘に応える為に。
一際力強く、マトックを大樹へとぶっ刺した──。
「──……ん?」
地上から皆の頑張りを眺めていたアステは、怪訝に眉をひそめた。
エルが力強くマトックを打ち込んだ──その途端。
大樹全体が鳴動し始めたのである。
見間違いではない。
確かに大樹が震えて……いや、動いている!
「み、みんなーー!その樹!おかしいよ!!」
アステの大声が飛ぶ頃には、無論、皆も異変に気づいていた。
各々、しっかりと樹を掴んで身構えている。
「なあ、パルフェ──」
浮遊するベルは必死に踏ん張る後輩へ近づくと。
「これ……魔物じゃないか?」
そう言いながら、その後頭部を槍の石突でコツコツと突っついた。
「…………」
パルフェは樹に顔を向けたまま、黙秘を貫く。
しかし、ベルの言葉通り──。
その枝葉を蠢かせながら、大樹はすでにその魔物の本性を露わにしていたのである。
そこでハッとした様にエルが声を上げた。
「これ、もしかして『伝説の樹』じゃなく──『スッゴい伝説の樹』なんですねっ☆」
にっこりと笑う彼女に、全員がその場でズッコケそうになった。
「前向きな従妹さんッスね」
「……それですませていいものかどうか」
フェルスの言葉に、エクスは半眼で従妹を見やる。
しかし、怯え竦むよりはずっと良いと思い直し──エクスは片手で体を支持したまま身構えていた。
◆
「──ファイトォォ!!ハツラァァツ!!」
フェルスが咆哮と共に、ハンマーが一体化した腕を振るう。
その一撃は大樹の表皮を破壊し、痛々しい傷跡を残していた。
打撃が有効な敵ではなさそうだが、それでもかなりの威力を発揮しているのは、その筋肉がもたらすパワーゆえだろう。
「えい!えい!──倒してしまった方が登りやすいですものね☆」
脳みその筋肉具合ならば、エルも負けず劣らずか。
アースアーマーを成就させて守りを固めながら、ガツンガツンとマトックを振るう。
魔物が戦闘態勢になったせいか、先程まで刺さっていた筈のマトックが弾かれる。
しかし、とにかくエルはめげないし諦めない。
笑顔でマトックを振るい続けていた。
「エルちゃん……あんなにニコニコして」
地上からその姿を見上げるアステは、そんな従妹のある種の底知れなさにちょっぴり表情を引きつらせていた。
が、すぐに頭を振ると仲間の援護に集中する。
特にパルフェは、彼女のキュアティブがなければとっくの昔にやられていただろう。
「パルフェちゃん!頑張って!」
「了解っすぅぅぅ!!」
伸びて来た枝の一本と必死に格闘するパルフェへ、アステは応援の言葉も投げていた。
その頃、上空では。
ベルが狙いを定めて、大樹の天辺付近──枝葉の中へと突撃しようとしていた。
そんなベルを嫌ってか、大樹から伸びる枝々が鞭か槍の様にして彼女へと襲いかかる。
だが、しかし。
「枝にも可動する範囲があるはず──」
加速したベルはそれを鳥の様に躱し、あるいは手にしたアイアスシールドの力で跳ねのけて。
「それが分かれば、突破は簡単だ」
見事に枝葉の中へと突っ込んだベルは、何かを探してその合間を飛翔していく。
「──ここはやはりアレを使うしかないか」
ここまでの戦況を見極めて。
エクスは覚悟と共に拳を握った。
この巨大な敵を沈黙させるには、あの魔法しかない。
だが、一撃では倒せまい。
相手が沈黙するのが先か、自分が倒れるのが先か──。
「構わん!何回でも撃ち込んでやる!」
そうして道を切り拓くのが──勇者なのだ!
「エクス──」
魔法を成就させ、力の宿った拳をエクスは魔物へと叩きつける。
「プロォォォジョン!!!」
その叫びが引き金となり。
凄まじいエネルギーの奔流が、爆発的に解放されていく──。
………
……
…
◆
「──……兄さん、大丈夫?」
長く続いた戦いは終わった。
沈黙した魔物を前に、アステは地面に倒れたエクスの肩を揺さぶる。
「せ……せいぎは……かつ……」
そんな彼はすっかり力を使い果たして出涸らし状態。
「さすが勇者さまです☆」
「は……はは……」
エルの歓声に応える力も残っていない様子である。
「でも、本当に羊皮紙があったなんて驚きッスね」
そんなエクスは彼の妹達へ任せて。
ベルの手にした羊皮紙をまじまじと見つめ、フェルスは唸る。
彼女もまた、信じられないといった表情で小さく頷く。
「ああ。天辺付近の枝の股に箱が差し込んであってな……パルフェの言葉もたまには役に立つんだな」
「……サラッとひどいっす」
先輩の心ない言葉に頬を膨らますパルフェ。
そんな彼女の手をエルが握る。
「今回の事、スッゴく糧になりました♪パルフェ先輩また誘ってくださいね☆」
「うわ、タフ……!」
笑顔で吐き出されるその言葉に。
パルフェは思わず表情を引き攣らせるのだった。
──かくして。
持ち帰った羊皮紙には確かに、特殊な技術についての極意が記されていた。
それは奇しくも、巨大な魔物の背を乗りこなす為の技術。
後にそれを基にした『マウントアタック』と呼ばれる戦技魔法が、月属性と陽属性のハウンド達へ齎されるのは、それからもう間もなくしての事であった。
8
|
|
参加者
| | c.この木なんの木気になる木なんで、治療要員も兼ねて下で見てます。
| | アステ・カイザー(da0211) ♀ 27歳 人間 カムイ 水 | | |
| | a.ファイトォォー!ハツラァーツ!ッス(木登りの際の掛け声)
| | フェルス・ディアマント(da0629) ♂ 22歳 カーシー(大型) ヴォルセルク 地 | | |
| | b.跳ね返してくれるなら、それを潜り抜ける努力の方が面白そうだ
| | ベル・キシニア(da1364) ♀ 28歳 人間 ヴォルセルク 風 | | |
| | a.よし、エル、その勝負、受けて立つぞ!!(笑)
| | エクス・カイザー(da1679) ♂ 30歳 人間 ヴォルセルク 火 | | |
| | a.エクス従兄さま、エルと呼んでほしい、です。
| | エルディ・カイザー(da2015) ♀ 18歳 人間 ヴォルセルク 地 | | |