『奇跡』の棲む街

担当ぽんぽこ
出発2020/10/11
種類ショート 冒険(討伐)
結果成功
MVPオズ・ウェンズデイ(da1769)
準MVPリディオ・アリエクト(da0310)
ベル・キシニア(da1364)

オープニング


 動乱の風が吹きすさぶ地──アルピニオ。
 この地において、一部の民の間で「奇跡が起きた」と囁かれる街があった。

 曰く──その街に流れ着いた乙女が、女神に奇跡を乞うて死者を蘇らせたのだと言う。
 乙女はいつしか『聖女』と呼ばれる程に尊敬を集め、ついには民達が本来いた領主を追い出して、彼女をその座へと戴いてしまった。

登場キャラ

リプレイ


 失われたものは戻らない、命であれ、他の何かであれ。
 それが戻るのなら、確かに奇跡と呼ぶに相応しいだろう。

 でも、これは違う気がする。

 だって、彼女は『元の生活』には戻れてない。
 家族の元から奪われて、今も帰れないままだ──。

「──ここの聖女は秘密ばかりだ!」
 リザ・アレクサンデルは佩いていた剣を抜き放つと、吐き捨てる様に呟いた。
 彼の眼前に立ち塞がるゴーレム達こそは正に、かの聖女の『神性』の秘密を覆い隠す分厚いヴェールそのものであろう。
「まったく、おかしな話です。生き返りはしたけれど、家族ですら近くで会う事は叶わないとは──」
 幼馴染みの呟きに、ベドウィール・ブランウェンは静かに応える。
「私には、まるで違う『何か』になった事を知られたくない……その様にも見えてしまいますが」
 ベドウィールの培ってきた知見が、様々な『可能性』を提示する。だがそのどれもが、依頼主の少年にとって受け入れがたいものであった。
「来るぞ!!」
 ──ベル・キシニアの裂帛に、迷わずその場を飛びずさる仲間達。
 刹那の間をおいて、その床石をゴーレム達の爪が抉り取る。
 猫の様なしなやかさで着地したベルは、手にした剣を構えると眉根に力を込めた。
「死者を弄ぶとは悪趣味が過ぎるな」
 死ねばそれまで。
 それはベルにとって、不可侵にして全く平等なる『真実』だった。
 死んだ者が生き返る事など、無い。
「もし私の屍を他人が自由にするような事があれば……到底、許せん」
「仰る通りです。神職として、女神の御業を騙る者は捨て置けません!」
 ゴーレム達が振るう爪をかいくぐり、果敢に接近しながら──ベルの言葉に決然とした表情を返すのは、ナイン・ルーラである。
 彼女とて女神に仕えるシスターの一人。奇跡の存在を信じてみたくもあるが、これは明らかに異様だ。
「女神よ、私に力を──」
 紅玉を思わせるナインの双眸は、燃える様に煌めていた。

「──出来る事なら家族に会わせてやりたいが……」
 リディオ・アリエクトはそう呟きながら、薄ら寒さを感じていた。
 それは彼が、様々な悪人達と対峙してきたせいだろう。
 外道の行いは、隠そうとしても鼻につく。
「ビット達には可哀想な結果になるかもしれんな」
 憂いの表情を浮かべながらも──前衛の皆が敵を引き付けている間に、リディオはシューティングブレスを成就させ次の準備へと移る。
 弓を使って石の体を貫徹するのは容易な事ではない。
 その難事に表情をしかめていたのは、レオン・ウィリアムズだった。
 彼が身の丈を超える大弓から放った銀製の矢は、ゴーレム達の体に浅く突き立ったばかり。見るからに効果的であるとは言えなかった。
「なら、戦い方を変えるまでさ」
 一つ事に固執する様な頑迷さなど、レオンは持ち合わせていない。
 すぐに自身のスキルから、戦法を再構築して実践に移す。
「生憎、奇跡なんて信じない性質だ。そのトリック、暴かせてもらうぜ……!」
 ──月の光を思わせる軌跡が、ゴーレムの一体へと飛翔する。
 その光を受けて、巨体がよろめく様に後ずさった。
 アレッタ・レヴナントが放ったルナの一撃だ。
「さて、白と出るか黒と出るか……賭けてみるとしよう」
 魔杖を構えなおしながら、アレッタは自身の首飾りを外して月の光に翳す。
 月光に濡れたベリルは紅く染まっていた。
 ……そして、微かながらも確かな明滅を繰り返している。
 それを見つめてから、アレッタはその明滅から目を背ける様に石を握り込む。
「オズ、私はこういう賭けに弱いらしい」
「そうであるか。……だが、その優しさは尊敬に値する」
 振り返ったアレッタがアンデッドの存在を告げると、オズ・ウェンズデイはすでに全てを承知しているかのように頷きを返した。
 物事はシンプルに考えるのが良い。
 現在のところ状況は『奇跡』を肯定していない。ならば、あのレティは人ならざるモノと考えるが妥当だ。
「少しでも人の心が残っていれば良いのであるが……」
 それでも、オズとてそう思わずにはいられなかった。


 石造りの巨体に、剣の切っ先が吸い込まれた。
 ──そう錯覚する程の鋭さを帯びたナインの斬撃が、すでに傷ついていたゴーレムへ深々と斬り込む。
 血の通う生物であれば、十分な致命傷。
 しかし、身の内に刀身が食い込んでいる事などお構いなしに。
 ゴーレムはナインを叩き伏せようと体を大きく反らし、その禍々しい爪を振り上げた。
「ナイン!」
 刹那──背後から飛んできた声にナインは直ぐさま剣柄から手を離すと、その場へ伏せる様に身を沈める。
 次の瞬間。
 ナインの頭上を飛び越える様に現れたベルが、ゴーレムの頭頂部から首の根元にかけてを真っ直ぐに斬り割った。
 一瞬の間を置いて、二つに割れたその頭が砕け落ち──損傷が限界を超えたのか、その場にてゴーレムは動けなくなってしまう。
「せめて戦いだけは楽しませてもらわないとな──しかし、以心伝心というやつか?こちらの意図を察してもらえて助かった」
「まぁ……あなたが大胆な事をする方だと言うのは分かりますので」
 ゴーレムの体からナインの剣を引き抜ながらベルが笑いかけると、ナインはその剣を受け取り微笑を返す。
 残るは一体となった。
 片割れが破壊されても、残ったゴーレムに動揺する気配はない。
 それどころか動きに苛烈さが加わった様にすら見える。
 その激しい動きのままに、ゴーレムの爪がリザへと襲い掛かった。
「くぅ……っ!」
「リザ!」
 風を孕む様な爪撃がリザの身を傷つけた。
 幼馴染みを案じる声を上げながら──ゴーレムの爪を剣で打ち払い、ベドウィールがその間へと割って入る。
「俺に任せてくれ!」
 すかさず、レオンのキュアティブがリザの傷を癒す。
 戦線を支えているのは前衛の者達の技量だけではない。レオンの状況を分析した的確な癒しの力が、彼らがそこへ踏みとどまる事を可能にしている。
「しかし……こんなモノまで用意しているなんてな」
 残った一体へと向き直りながら、レオンは思案気な表情で言葉を零した。
 一種の神々しさすら感じるゴーレムの姿は、あるいはイスラフィールの心の具現ではないだろうか。
 そこには人の感情など踏み入る余地はなく、ただ凍える様な冷たさだけがあった。
「……問題ないよ。やがて瓦礫の山さね!」
 そんなレオンの思案すら吹き飛ばす様に──アレッタの放つルナが容赦なくゴーレムを撃つと、その巨体が大きく揺らいだ。
 蓄積していたダメージがルナの一撃によって表面化したのか、ゴーレムの足に大きな亀裂が入る。
「いいぞアレッタ!……こっちも、整ったところだ……!」
 渾身の力をもって弓を引き絞っていたリディオは、その機会を逃さない。
 ゴーレムの体を最大限の威力によって射貫く為に、リディオは己の技と力を結集させた。そして、今──番えている矢はその結実だ。
「細工は流々。あとは仕上げを御覧じろ!」
 リディオが矢を解き放つ。
 弓弦が鳴り、風を斬る音が奔る。
 そして──その一撃は見事にゴーレムの眉間部分を撃ち抜き、頭部を破壊した。
「行くよ!ウィール!」
「合わせてください!」
 この好機をもって戦いを決する為に。
 リザとベドウィールが、ほぼ同時に敵との間合いを詰める。
 二人を追い払おうとする様に、その両腕を振るうゴーレム。しかし、それは逆効果でしかない。
 研ぎ澄まされたベドウィールの流麗なる剣技はそれを受け流し、生み出された無防備の空間にリザが斬り込む。
 リザの剣が逆袈裟に斬り、受け流した勢いを利用したベドウィールの一撃がゴーレムの体を袈裟斬りにする。
 ゴーレムはその胸に交差する二つの太刀疵を深く刻み込まれ、そして──その場にくずおれ、行動不能となったのだった。


「きみがレティかね?」
 戦いの後──。
 オズは声をかけながら、ランタンを掲げた。
 その光に照らされた少女に表情は無く、反応する気配もない。ただ、それだけが存在理由であるかのように、花の世話を続けている。
 事前にビットより聞いていた、レティの外見に一致するが──。
「ふむ、やはり何らかの方法でアンデッドに……」
 残念ながら、アレッタの言葉は事実だったようだ。
 襲い来る気配が無い事を知ると、オズは近付いてレティの頬に触れる。
「ふん、化粧までしてあげて……まるで人形遊びさね」
 オズの後からやって来たアレッタが、レティの顔を覗いて毒づく。
 肌の死色を隠す為か、レティには丁寧に化粧が施されていた。
 しかし、そんな事では覆い隠せない死の冷たさが、オズの手には伝わってくる。
「奇跡の種明かしとしては最低だな。しかし、この娘はなんでこんな事に……」
 トリックを暴いた先に待っているものが、ロクでもない事は承知であったが──それでも、レオンは眉根を潜めて表情を翳らせる。
「レティは数年前の流行り病で亡くなったようである。その頃、イスラフィールは街へと流浪してきたシスターで、細々と布教を行っていたようだが……祈りによって『奇跡』を呼び起こし、流行り病で亡くなった者達を幾名か『生き返らせ』て一気に民衆の関心を得たようであるな」
 事前に地元の洗濯女達から、オズが聞いていた話である。
「それを後押しにして、女神教の布教と共に皆から尊敬を集めて現在へと至る──って感じかな……?」
 オズの言葉に、リザは自身の顎先へと指を添えて首を傾げてみせた。
「もともと争いの絶えないところだ。身近にある『死』に、皆いつも怯えている……そこへそれを退ける事が出来る乙女が現れたとなれば──」
「奇跡を信じてみたくもなるって事か……」
 しかしなあ、と──レオンの言葉に自身で続きを繋いだはずのリディオは、納得のいかない表情で己の髪をかき回す。
「まあ……それだけあの女が上手くやったと言うことだろう──どうだ、何かわかったか?」
 ベルはリディオの言葉にそう返しながら、ベドウィールへと声をかける。
 彼は先程から、花園に咲く花を調べているところだった。
「ええ……花自体は珍しくはありますが、特に変わった特徴は無かった様に記憶しています……」
 しかしイスラフィールならば、この花を利用して何かを成す事ができるのかもしれない──ベドウィールの言葉に、ナインは睫毛を伏せて頭を振る。
「そうだとしても、それが正しい業の筈がありません」
 ナインは悲しみを帯びた表情で、レティの顔を覗く。
「レティ……あなたのお母様がご病気なの。ビットは言っていましたよ?あなたがそれを知れば、きっとすぐに帰ってきてくれるって……」
 しかし、目の前にいる少女の虚ろな表情に変化は無い。
 水桶を傍らに置くと、花籠を手にして花を手折りはじめる。
 やはり、これはレティと言う少女の抜け殻なのだろう。
 冷たい現実に、ナインは唇を噛んで俯いた。
 ──その時。
 花を手折っていた少女の手から、一輪の花が零れて地へと落ちる。
 それを花籠へ戻してやろうと、拾い上げたナインは顔を上げて──ハッと息をのんだ。

 レティが微笑んで、こちらを見つめていた。

 ……否、それは月の光の加減が生んだ錯覚だったのだろう。
 落ちた花を見つめていただけに違いない。
 事実、すぐにレティはあの無表情のままで作業へと戻ってしまう。
 しかし、それでも──ナインはそこに特別な何かを見出した様な気がした。
「……ええ。必ずお母様にお届けいたします」
 一輪の紅い花を胸に、ナインは口元を結ぶ。
 その肩へとオズが手を置き、仲間達を見回した。
「どうであろう……今回の報告、我が輩に任せてもらえないであろうか?」


 陽も高く昇った頃、ビットの家を訪ねたハウンド達。
 オズの提案により、今回は彼に『真実』は語らない事になった。
 レティはやはり、今は帰ってはこられない。
 ただ彼女から預かった物がある、と──。
「これをお姉様から預かってきました……心はいつもあなた達と共にある、と」
 姉が帰って来ない事には落胆したビット。
 しかし、ナインから花を受け取ると、病床にある母親と共に嬉しそうな笑顔を見せていた。

「──この街に『奇跡』とやらは根深く巣食っておる……問題の先送りと言われればそうであるが」

 真実が常に善い結果をもたらすとは限らない。
 そして、おそらく誰もそれを信じないだろう。
 それほど街の住民がイスラフィールに抱く信頼は厚い。
 よしんば、それが皆に通じても。その先に待っているのは無為な混乱だけだ──オズが語った事をアレッタは思い返す。
「……いいかい?あんたが覚えてりゃ、レティもあんたの父さんも心の中で生きるんだ……そこには何も、奇跡なんて必要ないのさ」
 真っ直ぐな眼差しで見つめるアレッタに、ビットは少しだけ戸惑ったあと、真面目な顔で頷いた。
「そういうこった。親父さんの形見は大事に取っておけよ……お前がおふくろさんを守っていかなきゃいけないんだからな」
 そう微笑み、リディオはビットの頭をぐしゃぐしゃと撫でつけた。

 ──その頃。
 街の広場、その片隅にベルの姿があった。
 その視線の先には、優し気な笑顔で人々へ女神の愛を説くイスラフィールがいる。
「……お前のせいでビットは、いずれ再び姉を喪うだろう」
 レティの姿が思い出され、わずかにベルは愁眉を寄せる。
「お前は必ずその報いで滅びる……天が誅さぬなら──」
 踵を返し、呟いた言葉の先──。
 ベルは怒りと共に、それを深く胸に沈めるのだった。



 11

参加者

b.胡散臭ぇなあ……。あ、俺は後衛から弓の予定。
リディオ・アリエクト(da0310)
♂ 22歳 人間 カムイ 風
b.アンデットなら、ある程度近づきゃ首飾で判別できそうだね。
アレッタ・レヴナント(da0637)
♀ 21歳 人間 パドマ 月
a.石像かあ…固そうだよね
リザ・アレクサンデル(da0911)
♂ 20歳 人間 ヴォルセルク 水
z.よろしくお願いします。
ベドウィール・ブランウェン(da1124)
♂ 23歳 人間 ヴォルセルク 月
a.あんまり近づけさせないという事は、腐臭を隠してるのではないかな
ベル・キシニア(da1364)
♀ 25歳 人間 ヴォルセルク 風
c.ふむ。単純に考えるなら生き返ってなどいないから会わせられぬわけであるな
オズ・ウェンズデイ(da1769)
♂ 23歳 ライトエルフ マイスター 月
a.本物のシスターとして見過ごせませんわね。
ナイン・ルーラ(da1856)
♀ 26歳 人間 ヴォルセルク 水
b.俺は後衛で…回復とか、少しならできると思う。
レオン・ウィリアムズ(da1974)
♂ 23歳 人間 カムイ 風