【HH04】王と神の狭間で

担当午睡丸
出発2020/09/28
種類グランド 冒険(討伐)
結果大成功
MVPエリアル・ウィンフィールド(da1357)
MVSティファル・クラウディア(da1913)

オープニング

◆最深部へ
 ――王家の鍵。

 それは砂漠に突如として現れた第三の遺跡『ミフタピラミッド』において、困難を極めた発掘調査の末に発見した遺物だった。
 そして鍵があれば錠があるのが世の常である。王家の鍵が用いられるべき場所は他でもない、第二の遺跡『ブリーゲピラミッド』の最深部に存在した。


登場キャラ

リプレイ

◆防衛開始
 王の間では、なおも迫りくるアヌビスゴーレムとの防衛戦が繰り広げられていた。

「次から次に……どこから湧いてくるんだ、こいつらは?」
 シューティングブレスを成就したキース・ペンドラゴンはアヌビスゴーレムをロングボウで射ると王の間の隅へと視線をやった。
 篝火の光はそこまでは届かない。それに押し寄せる敵をかき分けて向かうのは危険すぎるだろう。
「何かしらカラクリがあるのは間違いないだろうが……いまはここを食い止めることに集中するべきか」
「うん。なんか、このままだとヤバい感じすんねー……」
 ショウ・ジョーカーも同じくグリーヴァヒゴユミで敵を狙う。
 アヌビスゴーレムは単体でも侮れない魔物だ。それが何度も補充される状況では分の悪さは言うまでもない。
 せめてもの救いは同時に出現する数には限りがあるらしいということだった。篝火で確認できるかぎり、およそ十体といったところか。
「こっちが全員揃ってたさっきとは形勢が逆転しちゃったね……もしかして、さんざんボコボコにしたから怒っちゃったのかな?」
「さぁてね。少なくとも『お手柔らかに頼むよ』なんて悠長にお願いできないのは間違いないな。それとも……一応試してみるかい?」
「やめとくよ、なんかおっかない顔してるし」
 ショウと軽口を叩きあいつつ、ギュンター・ニコラシカはハウンドたちの置かれている状況を整理する。
 いまのハウンドたちは王の間の入り口を背にしている。これはアヌビスゴーレムの発生源が不明な以上、囲まれるリスクを少しでも軽減させることと、万が一の当走路を確保することが目的だ。
 王の間のすぐ外にはサンドラの兵士の小隊が控えてはいるが、彼らはあくまで篝火を設営するなどの補佐役である。
「回廊に行った連中が呪術を解くまで耐えられればまずは良し、追い出されれば負け……シンプルな状況だな。ま、戦力外通告されないようにせいぜい務めさせてもらうさ」

「長期戦になりそうッスけど、望むところッス!!」
 アースアーマーを成就し、文字通り仲間の盾となってフェルス・ディアマントが最前線で奮戦する。
 魔法で強化されたフェルスの重装備はアヌビスゴーレムの振るうハルバード風の槍の威力を完全に阻んでいた。
 とはいえ、それだけで一方的に打ち倒せるアヌビスゴーレムではない。
「なかなか面白い身体をしてるッスね! 筋肉の素晴らしさには敵わないッスけど!」
 武器と一体化したフェルスの腕、すなわちバサラフォームで繰り出されるインパルスハンマーの打撃力を、その奇妙な手応えの身体が大幅に低減させているようなのだ。
 さらに魔法に対する抵抗力、すなわち魔力も高いのか、心なしか魔法の効き目も低いように感じられた。
「まずは時間稼ぎというわけだ……うむ、我が輩は生来急ぐのは苦手であるので一向に構わぬがの」
 長い錬金魔法を終えたオズ・ウェンズデイがクロスボウで援護した。
 彼はエネミーグラスを成就しており、そのドラゴングラス越しの視界は敵対心の表れである青白い光で満たされていた。望むと望まざると長期戦を強いられるだろう。
「やっかいな連中であるな……とはいえ、もっとやっかいそうなのが襲ってこないのは僥倖であるかな」
「自分は、ヤツは犬派と猫派どっちなのかが気になるところッスけどね」
 オズとフェルスが王の間の中央に視線を向ける。
 黄金の棺より蘇ったもの――ブリーゲ王にはいまだ目立った動きがない。両腕から伸びた包帯が第二の腕のように武器を構えてはいるものの、いまのところそれ以上の敵対行動をとることはないようだ。
 ハウンドの誰かが試しに矢を射てみるとそれは命中する前に空中で静止した。棺を開放したときと同じく呪術によって不可侵の力で妨げられているのだ。
「ど、どうやらブリーゲ王自身も呪術によって行動を制限されているようですね……」
 ピラミッドマンが絞り出すような声で推測する。その総身から流れ落ちる冷や汗はこの状況を招いてしまったという自責の念によるものか。
「なるほどな。しかし……あれではまともな会話はできまいな。我が輩、残虐王の行ったという禁じられた儀式などには大いに興味があるのだがな」
「あれは、いわば邪悪なピラミッドパワーそのものと化しています。いまはそれ以上のことは分かりませんが……」
 オズにそう答えるとピラミッドマンは再び流れ落ちる汗を拭った。

◆それぞれの戦術
「しかし、よもや『王』を討つ戦いに我が身を置くことになろうとはな……まるで昔語りの一幕じゃな」
 エイル・グラシアは嵐竜の魔法の杖を手にブリーゲ王を、そして王の間全体を観察する。
 いままた新たなアヌビスゴーレムが近づいてくるのが見えた。
「やっと倒したと思えばもう次のがくるのか。絶対絶命な状況だが……上等だ! 燃 え て き た ぜ !!」
 ソルム・タタルが気炎をあげ、新たなアヌビスゴーレムにレーヴァティンで斬りつけた。
「戦い終わってもこの命が残っているかどうかは分からないが……それこそ俺の望んでいたこと! この戦いを乗り越えて、俺はさらに強くなってみせる!」
「その通り。それに強い相手と聞いては逃げる訳にはいかないね。気合い入れていこうじゃないか……!」
 ユミル・エクレールがミドルシールドを手に続いた。彼女もまた重装備に身を包んでおり、最前線で盾役となるつもりなのだ。
「その意気じゃ! その為にもここは正念場じゃな……どれ、三十路女のパワーを見せてやるのじゃ!」
 前衛の仲間を援護するべくエイルがゼウスを成就し、複数の敵を稲妻で撃った。

(我はブリーゲ王なり……!)

「……たとえ古の王であろうと跪くのはそっちよ。私たちは、いま、この時代の女王さまからのご寵愛を賜っているのだから」
 繰り返し発せられる思念の声に対してアザリー・アリアンロッドはそう独りごちた。
「とはいえ、そう簡単にはいかないようだけど……」
 アザリーは得物をグリーヴァタチからパリーイングダガーに持ち替えた。数度斬りつけた結果、この刀ではアヌビスゴーレムの肉体を傷つけられないことを知ったのだ。
 どうやらその斬れ味が通じない身体であるらしい。ダガーにルミナパワーを付与すると、自身にもマルチパーリングを成就して回避能力を高める。
「この戦いが呪いの書の発見に直結するのか疑わしいけれど……こうなった以上、誰も死なせるわけにはいかないわ」
 押し迫るアヌビスゴーレムに向かって、アザリーはまるで舞うが如き華麗さで立ち向かっていった。

 こうして奮戦するハウンドたちだが、数に物を言わせた相手から手傷を負うことは避けられない。
「……さて、これはどなたはんかに渡しましょうか」
 ウォーターアルケミーの長い詠唱を終えたエリアル・ウィンフィールドの手には、仮初のマジックアイテムであるクローバーの冠があった。
 三種の素材を用いて込めたのは傷の回復と木の如き硬さを得る効果。はたして思惑通りに機能するかどうかは未知数だが、首尾よくいけば防衛戦を有利に導くだろう。
「さあ、わらわが限界まで支えるよって、皆はんあんじょうお気張りやす」
 仲間に冠を託したエリアルは周囲を鼓舞すると、連れていた聖獣ユニコーンにいつでも指示できるよう身構える。
「……これでよし。お守り代わりにでもなったらええんやけど……シムルさん、気をつけてな」
 同じように長い詠唱を終えたレティチェラ・サルトリオは、生成した粉をベビィシムルに振りかけると前衛の仲間を援護させるべく送り出した。
 こちらはサンアルケミーで錬金生成したものだ。込めた効果は闇に属する魔法や能力に抗うものだが、それがこの場において有効か否かはまだ分からない。
 送り出したベビィシムルは比較的安全な空中からその爪で前衛のハウンドを援護する。回数こそ少ないがキュアティブも使用できるこの聖獣は、防衛戦においては頼もしい味方となるだろう。

「……よし、できた。皆、注意してくれ! 巧くいけば風が起こるぞ!」
 ディオン・ガヴラスがアヌビスゴーレムの一角に向けて緑水晶を投げつけた。これもまた錬金魔法によって生成したものだ。
 落下点を中心に突風が巻き起こってアヌビスゴーレムを激しく揺さぶり、その体勢を崩して転倒させる。
 だが、いかに広いとはいえこの王の間はピラミッドの内部、密閉空間である。当然ハウンドも突風の影響を免れないが――その多くは警告によって身構えていたので大事には至らない。
「さすがにあの大きな身体を吹き飛ばすのは無理か……それなら」
 ディオンは突風を起こした周辺へ向けてライトニングトラップを成就した。すでに手傷を負っていた個体が感電空間に抵抗できず、その場に倒れ込む。
「何度でも追加されるなら、力任せに戦ってはこちらの体力が先に尽きてしまう。これでどの程度の時間が稼げるかだな……」
 仲間を巻き込む可能性がある以上は感電空間は無闇に増やせないが、こうして敵の接近ルートの一角を封じるだけでも効果があるだろう。
 ディオンはグリーヴァヒゴユミに矢をつがえると、感電したアヌビスゴーレムへ目掛けて弦を引き絞ったのだった。

◆槍衾の上で
 一方その頃、左方の回廊へと向かったハウンドたちは……。

「リザ、それに皆さんも、足元には十分気を付けてください」
 ベドウィール・ブランウェンが警告の声をあげた。
 回廊の床――もはや床と呼んでいいものかどうかも怪しいが――は、たった数歩進むことにも多大な労力を強いられる場所となっていたからだ。
 自然と、進む速度も普段のそれより大幅に遅くなる。
「ぎゃあああああ! こっ、怖いよっ!」
 エルネスト・アステールが眼下の罠に悲鳴をあげる。進むにも、そして戻るにも落下の恐怖が付き纏うようなこんな状況では無理もないだろう。
「うわー……。これは落ちるとタダじゃすまないよね……」
 ローレライの成就を終えたリザ・アレクサンデルは魔法のランタンを翳して床下を視た。
 床からは2mほどの高さがあるだろうか、そこには槍衾による剣呑な景色が広がっていたのである。
 犠牲者らしき白骨死体だ。
「なるほど、最悪あんな風に『ぷすっ』っていっちゃうのかー」
 おそらく本来はダミーの床だけを踏み抜くような仕掛けだったのだろう。だがこのピラミッドが造られてより悠久の時を経て内部が劣化し、このように回廊としての機能も果たせないような場所と成り果てたのである。
「落ちているのは大昔の盗掘者か、あるいは復活を目論んで侵入したブリーゲ王の信奉者とか、ですかね……? なんにしても、ここを設計した人はよほど先に進ませたくないようです」
「そ、それならさっさと塞いじゃえばいいのに……どうしてっ、こんな事にっ!」
 冷静に観察するベドウィールと、理不尽な世間に憤るエルネストの図である。
 身体の丈夫さには自信のあるエルネストだがバランス感覚となると少々心もとない。進む速度のみならず弓矢の狙いにも支障が出るだろう。
「でも私たちは飛べるから足場が崩れてもだいじょーぶですのっ!」
「そのとーりですわ!」
 えっへん、と胸を張るのはレネットラファロのお嬢様(口調)コンビだ。片やシフール自慢の羽根で、片や竜の翼の成就によってこの回廊を克服することができた。
 一方、身の軽さに長けたリザとベドウィールは早くもこの状況に慣れつつある。
「……よっと! よし、僕もウィールもなんとか普通に進めそうだし、みんなで補い合いながら行こう! その為にも……まずはアレをなんとかしないとね!」
「ええ。さっさと片付けてしまえば手を貸し合って進むこともできるでしょうね」
 こうして五人が体勢を整える中、暗闇をリビングガーゴイルが迫ってきていた。

◆リビングガーゴイル
 現在視認できるリビングガーゴイルは二体。
「もう! 邪魔するのは良くないですのっ! 私たちは何だかものすごーく大事な物を取りにきたですのよっ!」
 迫るリビングガーゴイルに対してまず先制したのはレネットだった。
 アイスリュートの調べが響き渡ったかと思えば、回廊に吹雪が吹き荒れる。この楽器の秘めた魔物法によるものである。
 吹雪の範囲は回廊の幅をゆうに超え、さらにここには遮蔽物もない。さすがに凍結させるまでには至らないが先制攻撃としては十分だろう。
「ばっちりですわ! こうせまいとよけられませんわね!」
 ラファロが快哉を叫ぶ。彼女はホバーリングしつつ魔法のランタンで回廊を照らし、仲間への補助に専念する心つもりだった。
「こ、こっちくるなー!」
 そこへエルネストがプロメテウスを成就し、聖なる力を集約して迎撃する。
「確かあいつらって接近戦を仕掛けてくるよね? なら、近づく前にできるだけ……!」
 さらにリザの水の剣が伸びて追い打った。ルミナパワーの付与による威力の底上げも忘れず行うと、接近を許す前にできるだけ手傷を負わせておこうと攻撃を続ける。
 だがこの状況下で飛行が有効なのは魔物とて同じこと。二体のリビングガーゴイルは牽制を浴びつつもハウンドたちへと肉薄してきた。
「わっ、もう来ちゃった?」
「リザ、一度下がってください」
 ベドウィールが両者の間に割って入り、空中から振り下ろされた爪をミドルシールドで受け流した。マルチパーリングの付与によって会得した技術だ。
 石が擦るような音が回廊に反響する。もしまともに喰らっていればその衝撃で槍衾への落下もあり得るだろう。
「……はっ!」
 ベドウィールのシノビブレードが返礼の斬撃を浴びせた。こちらもリザのルミナパワーによって威力の底上げが成されている。
 彼とホバーリングしたリビングガーゴイルはそのままの位置でしばし攻防を続けた。身軽さに自信があるとはいえ、足を踏み外す危険は最小限に留めようという判断である。
 一方、もう一体は最奥のエルネストに迫っていた。
「わーこわいよー!」
 半ば錯乱しつつもミドルボウを射るエルネスト。
「んー、もう! これいじょうじゃまなさらないでくださいませ! おじゃまむしのおじゃまをしますわ!」
 ハンマーを手にしたラファロが空中ですれ違いざまに殴りつけた。それでもなおリビングガーゴイルの狙いはエルネストへと向かう。
「……やっぱりこいつら、侵入者を落とすように命令されてるんじゃない? 殴られて転落しないように気をつけて!」
 敵の動きから推測したリザが警告する。
 真実のところは不明だが、あるいは最も動きのない――つまり、『落下する可能性の高い対象』から優先して狙っている可能性はあった。
「……あり得ますね。それにリビングガーゴイルを床に落とすと新たな崩壊を促す危険性もあります。私が引きつけますから仕留めてください」
 ベドウィールはすでに大きく崩落した床に陣取ると動きを止めた。囮になって各個撃破を狙おうというのだ。
 ゆっくりではあるがエルネストが移動を始めると、はたして二体のリビングガーゴイルはベドウィールを優先したような動きを見せた。
「ホ、ホントに向こうにいったよ!」
「りょーかいですのっ! 角度を調整して吹雪を当てちゃいますのっ!」
「あたしはどーん! ってなぐっちゃいますわ!」
「ウィールの尊い犠牲は無駄にはしないよ……!」
「まだ死んでませんよ」
 不安定な足場にも関わらず攻撃を受け切ったベドウィールの健闘もあり、二体のリビングガーゴイルはやがて槍衾へと落下していった。

 妨害する魔物を排除すると、残る問題はいかに安全なルートを見出すかであった。
「ここはもうおちちゃいそうですわ! ……あっ、こっちはまだだいじょうぶそうですの!」
 ホバーリングしたラファロが魔法のランタンを手に床を見定め、安全(と思われる)ルートを指示する。
「た、確かにヒビとか入ってないみたいだけど……ホントに大丈夫?」
「だいじょうぶですの!」
 不安を拭えないエルネストだが自信たっぷりのラファロを信じて歩みを進めていった。
「よかった、完全に崩れてる場所とかはないみたいだね。壁は大丈夫かな……罠とかない?」
「どうでしょうね。確認できる範囲では仕掛けの類はないようですが……しかし、見えているものだけが全てとは限りませんからね」
「怖いこと言わないでよ……」
 先行するリザとベドウィールは壁や天井を確認するが、どうやらこれ以上の罠や仕掛けは施されていないようだった。
 こうしてハウンドたちが回廊を進んでいくと……。
「みなさん、扉があったですのっ! きっとあれが従者の間ですのっ!」
 先行して偵察していたレネットが興奮気味に引き返してきた。

 その言葉通り、崩壊寸前の回廊の終点にはハウンドたちの目指す扉が静かに待っていたのだった。

◆罠
 同じく、右方の回廊では……。

「なるほど、そう来ましたか……用意周到なことですね」
 感心したような声でジョシュア・マクラーレンが見上げる天井。
 それは侵入者――ハウンドたちを押し潰さんと迫ってきていた。
「悠久の年月を経てもこのように作動する仕掛けとは、実に興味深い遺跡です。できることなら詳しく研究したいですね……生きて還ることができれば、ですが」
「い、いやいや、そんな呑気なこと……! こんなん呪いの解除どころか、人を誘導して新しい死体にする仕掛けですやんか!」
 と、慌てた様子なのはフレグス・カヴィンである。
「罠、怖いねー……急がないと、ぺっしゃんこになっちゃうよ……!!」
 フラールは徐々に下がる天井に注意しつつ高度を下げて飛んでいた。
「フラールさんの言う通りですわ! 一刻もはよう……」
「慌てるな、フレグス。よく観てみるといい」
 ジャアファル・ジルフェが天井を指してそう言った。
「音は派手だが思いのほか遅い。侵入者の排除だけが目的ならもう落ちているはずで、そうなってないということは……」
「ここはあくまで回廊、つまり『通路としての機能を残している』ということですね。おそらく天井の解除もどこかでできるはずです」
 ジョシュアの言葉にジャアファルが頷いた。
「うーん? それってつまり……どういうことなの?」
 フラールが盛大に首を傾げる。
「簡単に言えば『解除することを想定して罠が仕掛けられている』ということですよ。ピラミッドが何らかの意図や法則に基づいて建てられていることはミフタピラミッドで経験しました。ならばそれはここにも当てはまるはずです」
「意図は解らないがな。呪術の継続にメンテナンスのようなものが必要だったのか、それともいつか解除する想定だったのか。もちろん侵入者対策の役割もあるだろう」
「精神的な圧迫をかけるにはもってこいですからね。さぞかし慌てたことでしょう」
 二人は罠の餌食となったらしき白骨を指差した。
「なんちゅう趣味の悪いこっちゃ……なんか僕、だんだんハラたってきましたわ!」
 状況を理解すると同時に憤りを感じたのか、フレグスが拳を握る。
「いままでも発掘で散々っぱら罠に遭ってきたんや、やからこんなもんまで作ってきましたしな!」
 フレグスが取り出したのは一枚のコインだった。王の間への突入前に錬金生成しておいたものであり、それに込めた効果は『良いことがありそうな方角を示す』というものだった。
「宝探しのヒント程度にはなるち思いまして。逆を見れば罠の場所ぐらいはわかりそうやし、時間の短縮程度にはなるでしょ。これを活かしてやったるで!」
「その意気ですよ、私たちハウンドは鍵を手に入れた者として責任を果たさねばなりません!」
 意気投合するのはシェール・エクレールである。
「ここを早急に突破してその呪術の源とやらを破壊しましょう! 王の間に残った方々は、私たちが必ず成功すると信じてくれているはずですから!」
「その通りですわぁ!」
「意気込みは大事だけど、あまり力みすぎないようにねぇ」
 そんな二人にパライソ・レヴナントがやんわりと釘を刺す。
「僕は遺跡や罠の専門家じゃないので探索の役には立てないけど、傷の回復や解毒はできるからね。もちろん、何事もないのが一番だけど」
「そうだねー、僕も罠を探したりとか、いろいろお手伝いするよ~。あと、ねんのために……」
 フラールがレジストファイアを成就し、全員に火への耐性を付与した。
「遺跡だし、どんな罠があるか分からないからねー。じゃ、あわてずにいそごう!」
 そんな声に全員が頷くと、天井が迫る中の探索が始まった。

◆発見と解除と
 ハウンドたちは分担して持ち場を決め、罠の発見と解除を交互に行いながら進んでいた。
 無論、見落としがあれば誰かが被害を受けるかもしれない。だが少しでも前進する速度を上げる為にはこれが最も効率の良い方法だった。

「どないやろ……ここからは特に何も見つけられませんなぁ」
 クレアボヤンスグラスを成就したフレグスが回廊の先へ視線を向けるが、そこに罠らしきものは発見できなかった。
「どうかな、視認しにくく加工した糸を張り巡らせているような可能性もある。もしくは魔法的に隠蔽しているとか」
「ふむ……あり得ますね。では、まずは『ラプター』を斥候代わりに飛ばしてみますか」
 ジャアファルの意見に賛成したジョシュアがディレクトガガを成就し、半鷲半人のガーゴイルを具現化させた。与えた命令は、高度を変えて飛行しつつの往復だ。
 知性から鑑みて繊細な判断は期待できないが、あえて罠を作動させるには有効だろう。
 果たしてその読みは当たり、暗闇から罠の作動音が聞こえてきた。

「んー……その壁を調べるのはなんかダメなきがするー。別のとこを探してみて?」
「え、そうなんですか? ……ああ、確かに。ここ、この手前の床が踏みスイッチになってます!」
 魔法のヘッドライトで床を照らすフラール。シェールが足元をよく調べると、そこには巧妙に隠された罠があった。
 罠そのものは至極シンプルな構造で、床のスイッチに体重をかけると壁から槍が突き出されるのである。だが問題は、『発射口自体が罠の解除スイッチを模している』ということにあった。
 つまり、罠の解除を急ごうとダミーに近寄った者が本命のスイッチを踏むように仕向けられているのだ。
 用意周到というべきか、陰湿であるというべきか。
「……よし、これでこの罠は殺せたと思います。フラールさんのおかげで怪我をせずにすみましたよ」
「よかったー! なんだか危ない気がしたんだよねー!」
 これはフラールの危険の予感とシェールの捜査能力が噛み合った好例と呼べるだろう。

「ちょ、先輩! そんなズンズン進んで大丈夫ですのん?」
 フレグスが無造作に先を行くジャアファルに声をかけた。
 掌大の石にトラップライトを成就して照明代わりとしたジャアファルはグリーヴァドッグの『ブロンテ』を伴い一見無造作に歩を進めていた。
「射出系の罠はセットされたものが尽きればそれまでだからな。補充されたのならともかく、そんな様子は無い。すでに作動した罠は無視しても構わないぞ」
「ああ、なるほど……この罠はもう使用済みってことですか」
 言われてみれば確かにその通りだが、白骨死体といった視覚的な刺激はそうした判断も狂わせる。
「それに機械的な罠は壁の中にある程度の空間を必要とするから……」
「隣接する部分に別の罠がある可能性は低い……ちゅうことですな!」
 短いやり取りだけでフレグスの思考は軌道修正された。剣呑を極めたようなこの回廊も、造り手の心理や物理的な制約を念頭に置けばまた違って見えてくる。
「よし、ここらで錬金したコインの出番じゃ。えーと、こっちの方向に良いことがあるっちゅうことは……」
「そのコイン、位置がアバウトなのが少々難点だな。ほら、たぶんそこに毒の罠があるぞ」
「ひえっ!」
 ジャアファルはしゃがみ込むとブロンテが反応した場所の探索を始めたのだった。

 こうして順調に歩を進めるものの、ついに天井は頭の高さまで迫っていた。
「……あった! 把手みたいなのがありましたわ!」
「こっちにもです!」
 フレグスとシェールは床に這うようにして穴に手を入れていた。
「やっぱりー!? きっとそれが天井の解除用だよー!」
 フラールが喜び飛び回る。『重心部分に仕掛けを施すのが最も効率的だ』という推測のもと、フラールとジャアファルが建築設計の見地から導き出したのがこの周辺だったのである。
「ちょうど天井の中心点だからな。それを引けば解除されるだろう」
「さすがですね! じゃあフレグスさん、いっせーのでいきますよ!」
「了解ですわ!」
 息を合わせて二人が穴の中の把手を引いた。
「「お、重……!」」
 穴が低く、姿勢の悪さも相まって仕掛けは重かった。残りのハウンドたちも二人の腕を引くなどして協力すると……。
 やがて『ゴゴゴ』という低い音とともに天井が戻り始める。
「やった! やりましたよー!」
「ホンマや~、これで潰される心配ものぉなって……ん? なんかイヤーな予感が……みなさん離れてください! うおっ!」
 フレグスの警告で彼以外がそこを離れた瞬間、穴から毒らしき気体が噴き出してきた。

「ホンマどこまで陰険なんや……!」
「まぁまぁ、僕の魔法で解毒できて良かったよ。それにフレグス君のおかげで皆逃げられたんだしねぇ」
 唯一毒を浴びてしまったフレグスをパライソがアンチドートで回復させる。警告したがゆえに逃げ遅れた名誉の負傷(?)であった。
「解除したと安心させたところに難易度の高い別の罠を置く、か……」
「ええ、参考になりますよ」
「油断した所を狙うって、悪戯と一緒だねー」
 その一方で罠に盛り上がるハウンドたちである。
「みんな好奇心旺盛だねぇ。それじゃあ潰される心配もなくなったことだし、ここらで傷も見ておこうかねぇ」
 やはり精神的なプレッシャーを受けていたのだろう。ハウンドたちは皆大なり小なり手傷を負っており、フレグスはそれらに応急手当を施して次に備える。
「ではみなさん先を急ぎましょう! 目指すは従者の間、ですよ!」
 シェールの号令で一行は再び回廊を進む。
 この後も複数のスイッチを矢で射抜いたり転がる大岩に追われたりしたのだが、それはさておき……。

 やがてハウンドたちは数多の罠を潜り抜け、回廊の終点に待つ扉へと到達したのだった。

◆従者の間
「こ、ここはいったいなんですの!?」
「何だか包帯グルグルがいっぱいありますのっ!」
 その異様な光景にラファロとレネットが思わず抱き合った。
 左方の回廊の果てにあった扉の先にハウンドたちが見たのは、所狭しと並ぶ包帯に包まれた物体――つまりは、埋葬されたコモンの遺体だったのだ。
「わああっ、また魔物?」
 苦労して辿り着いたのに、と弓を構えるエルネストをベドウィールが止める。
「……大丈夫、どうやら襲いかかってくることはないようです」
「ほ、本当だ……」
 それでも警戒していたエルネストだが、遺体が一向に動かないことに安心したのか弓を下ろした。
 目にする限り雑多な埋葬だった。個々の遺体に棺などはなく、無造作に並べられた中には損傷しているものさえあった。
「これが、従者なの……? でも、どうしてこんなところに……」
 リザの疑問に答えられる者はいない。
 やがてハウンドたちの視線は部屋の中央に安置された大ぶりの壺へと注がれた。

「これなんだろー? おっきいツボだよねー」
「最後にまたイヤな感じの部屋が出てきましたなぁ……」
 フラールが好奇心を、フレグスが警戒心をあらわにした。
 右方の回廊の先、もう一つの従者の間でも同じような光景がハウンドたちを待っていたのだ。
「……『殉葬』と呼ばれる風習を聞いたことがある。王侯が死去した際につき従う者たちが殉死し、主とともに葬るのだと。なるほどな……それで『従者の間』か」
 ジャアファルが説明するような、あるいは納得するような声でそう言った。
 ならば、二つの従者の間はブリーゲ王に殉じた者たちの墓室、すなわち玄室なのだろうか?
「……奇妙ですね。確か王の間の石碑には『邪悪な王を目覚めさせぬよう、我ら従者の間にて永遠の番につくものなり』と。王の死に殉じたというよりは、まるで復活を阻止する為の措置のような……」
 ジョシュアの視線が壺に注がれる。
 ハウンドたちは呪術の源がこの壺であることを直感していた。――否、直感以前にそれほどまでに禍々しい気配がその壺から漂っているのだ。
「……遺体を乾燥処理するとき、摘出した内臓を保存する壺があると聞いたことがある」
「ああ、確かに。死後はまず内臓から腐ってしまうからねぇ」
 ジャアファルの言葉を受けてパライソが頷く。医学的な見地からもそうした処理は理に適っているからだ。
 だが、それはつまり。
「まさか、この部屋の遺体の全ての内臓が……?」
 自身の仮説にパライソの目が見開かれた。

 玄室を埋め尽くさんとする遺体。その全ての内臓が詰め込まれた壺を媒体として施された呪術。

 古のサンドラの人々がそうまでして封じたのは――いったい『何か』。

「……壊しましょう。それしかありません」
 皆の逡巡を振り払うようにシェールが告げ、得物を構えた。
 こうしている間にも王の間では仲間が危険に晒されている。黄金の棺を開いた時から――いや、もしかすればブリーゲピラミッドがこの時代に再び姿を現したその瞬間から、こうなることは仕組まれていたのかもしれない。
「仲間が私たちを信じたように、いまは私たちが信じましょう!」
 ハウンドたちは無言で頷き、シェールとともに各々の得物を振り下ろす。

 やがて、二つの従者の間に乾いた音が鳴り響いた。

◆波状攻撃
 一方、王の間では波のように襲い来るアヌビスゴーレムとの防衛が続いていた。

「さあ、頼むのである」
 オズはディレクトガガを成就して狐の尻尾のような姿をした『フォテール』を具現化させると、アヌビスゴーレムの足元へと忍ばせた。
 フォテールが咥える紐の先には先ほど錬金生成した小瓶。それを敵が踏み割ると中に満たされていた液体が床に滲み広がった。
 込めたのは影に粘着性をもたせる効果だ。完全に動きを封じるまでは至らないが、液体の範囲にいるアヌビスゴーレムの動きが目に見えて遅くなる。
「完璧とは言い難いが……狙うにはこれで十分なのである」
 オズはクロスボウで狙いをつける。
「やるじゃないか。それじゃあ、こっちも試してみるかね」
 ギュンターは最後尾に見える新たなアヌビスゴーレムへと目掛けてストーンを成就する。
 幸いなことに魔法抵抗できなかったのか近づくにつれて足が石化していき、やがてその個体は進めなくなった。
「おっ、やってみるもんだな……じゃ、あとは頼んだよ?」
「任せろ! いくぞみんな!」
「了解! そのゴーレムから狙うわよ!」
 マジックアイテムとストーンによって足並みの乱れた一角をユミルが狙いを定めると、まずはティファル・クラウディアがゼウスを成就し、稲妻を放った。
 後列の個体も合わせてゼウスが貫通すると、続いてセリス・エクレールの放ったドラゴン立像型ガーゴイル『ヴォルド』とスカラベ型のゴーレムが牙をたてる。
「もらったよ!」
 連携の最後を飾るのはユミルのスピアオブセトによる渾身の突きだ。穂先が敵の身体に刺さると同時に、魔力の消費と引き換えに得た能力でアヌビスゴーレムを感電させ、行動不能に陥らせる。
「よし! ……くっ!」
 だが新手のハルバードがユミルを襲う。その一撃はユミルの装備をもっても防ぎきれず、その肌を斬り裂いた。
「ユミルさん!」
「まだ大丈夫……もう一度仕掛けるよ!」
 セリスの声にそう答えるとユミルは次の標的を定め、指差した。
「わかりました! 集中攻撃で仕留めていきましょう!」
 ティファルが魔法の杖をその標的に向ける。こうして三人は連携により粘り強く前線を支えるのだった。

「残虐王! ソルム・タタル、御前にて狼藉つかまつるぜ!」
 ソルムはそう叫ぶと、ブリーゲ王の間近に位置したアヌビスゴーレムへと戦鎖形態としたレーヴァティンを投じ、その身体を絡め取った。
「……よし! やってくれ!」
「ええ」
 数体の間を縫ってアザリーが肉薄し、パリーイングダガーによる鋭い刺突を繰り出した。ダガーの切っ先から弾力のような手触りが伝わってくる。
「後ろッス!」
 フェルスの警告の声が終わるより先にアザリーは振り返り、弧を描いて襲い来るハルバードの刃にダガーを合わせ、軌道を逸らした。
 即座にフェルスのハンマーがその個体を殴打して衝撃で体勢を崩し、アザリーの離脱を助ける。
「ありがとう、助かったわ」
「いやあ、余計なお世話だったッスね」
 二人は背中合わせになりながら次の手を模索する。
「しかし、目の前でこれだけやってるのに無視とは張り合いがないぜ!」
 戦鎖を手元に戻してソルムがボヤく。挑発ともいえる彼の言動にもブリーゲ王は何の反応も示さなかったのだ。
「アンデッドだから……? でも、これだけ復活を恐れられたような存在が……?」
「まぁ伝説には尾ヒレが付き物っていうし、そんな可能性もあるッスね。何にしてもとりあえず倒してから……他の皆が頑張ってるんだし、自分もとことん踏ん張るだけッス!!」
「その通りだな! 俺も、いまはこの場の確保に全力を尽くすだけだ!」
「……そうね」
 なおも続く波状攻撃に三人は身を躍らせていった。

◆神聖なるもの
「そろそろ怪我が増えてきてるね……」
 ショウがキュアティブを成就して前衛を支える。戦況を見極め、手遅れになる前に前衛に回復を施すのが癒し手の役目だ。
 彼や、エリアルに随伴するユニコーンやガーゴイル『アメシストス』の回復もあり、前衛は脱落者もなく敵を退けているが、その魔力にも限りはある。
「俺もそろそろ魔力がヤバイかな……でも、ただでさえみんな身体張ってるんだから出し惜しみはできないか。安心して戦ってもらわなきゃ」
 キュアティブの射程のおかげで直接狙われる危険は少ないが、こんな押し引きの激しい状況ではそれもどうなるか分からない。
 無意識に前に出たショウは側面の死角から新たなアヌビスゴーレムが接近していることにようやく気づいた。
「しまっ……!」
 刹那、死を意識するショウ。
(こんなことならいっぱい励ましてもらっとくんだった……。必ず帰る、なんて俺の台詞じゃないのにな……)
 彼の脳内が混乱するなかハルバードが振り降ろされる。だが。
「なー」
 その時、ショウの背負った荷の中から鳴き声とともに猫がひょっこりと顔を出したのだ。それを見たアヌビスゴーレムは何かに恐れたような仕草をとり、後ずさった。
 九死に一生を得たショウはその場を退く。
「あ、あぶなかった……そういえば念の為に『チョビ』を連れてきてたんだった」
「おお……どうりで先ほどからゴーレムが近寄ってこないと思いました!」
「なー」
 ピラミッドマンの頭上、大きな帽子の中でも猫が呑気な声で鳴いた。古代の呪術にも以外な弱点が在ったというべきか。
「持つべきものは猫ですね……むっ、これは……またもピラミッドパワーに変化が……?」
 そこでピラミッドマンが不思議そうに周囲を見回した。確かに、ハウンドたちにも王の間の空気が再度変わったことが感じられた。

 呪術が解除されたのだ。

「やってくれました……! これであとはブリーゲ王を……おおっ! キ、キテます! 邪悪なピラミッドパワーが、さらに……!」
 呪術の解除と入れ替わるように王の間の禍々しさが増していた。と、同時にブリーゲ王の腕から伸びる包帯が周囲のアヌビスゴーレムを攻撃し始める。

(控えよ……!)

「呪術の束縛が解けたか。だが、それはこれ以上は敵の増加がないということだ……一気に崩すぞ!」
 キースがロングボウにカブラアローをつがえる。魔物の特殊な身体を封じる矢だが、その効果の時間は短く、数も少ない。使うならこのタイミングしかなかった。
 ショウも同じくグリーヴァヒゴユミにカブラアローをつがえ、ブリーゲ王の周囲にいるアヌビスゴーレムへと狙いを定める。
「了解じゃ! かの王へと至る道、我らで切り拓いてやろうではないか……!」
「ここまできたんだ、できる限りのことはするぜ」
 エイルとギュンターが魔法の杖を構えゼウスの予備動作に入ると、合図を聞いた前衛たちが位置取りを変え、射線を通した。
 二本のカブラアローが音を立てて命中すると、二本の稲妻がそれに続いて空を走る。

 これは防衛戦の終わりを告げ、決戦の始まりを知らせる文字通りの嚆矢(こうし)だった。

「行くよ! 王までの道のりを、みんなでこじ開ける!」
 ユミルを先頭に、守りを捨てた前衛たちが突入した。

◆ブリーゲ王1
「あとは頼んだ! 俺の分も王様の横っ面をひっぱたいてきてくれ!」
「わかった! 任せてくれ!」
 ソルムが戦鎖でアヌビスゴーレムを抑える横をエクス・カイザーが駆け抜けていく。ルミナパワーを付与したグリーヴァタチを握る手には普段以上に力が籠もっていた。
 ここまで戦力の温存に務めたハウンドたちにとっては、これはもどかしさを晴らす時間の到来でもあったからだ。
「ここまで踏ん張ってくれた仲間に報いるため……死せる邪悪の王を討つ!」
「その通りなのです。乾物くんなど乾物ランドに去ればいいのですよ」
「なんだいそりゃ……ま、同感さね。死んだ王様に用は無いんだ、墓場に籠ってないで地獄に逝きな!!」
 まずは小手調べにとアンカ・ダエジフがヴィンドスヴァルを、セイ・ローガンがルミナショットを成就した。
 吹雪と炎がほぼ同時に襲う。だがブリーゲ王には凍えるような様子も、また、その身を覆う包帯に火が付くようなこともなかった。
「さすが乾物、効いてるかどうか見た目では分からないのですよ」
「どっちみち次は味方を巻き込んじまう……行くよアンカ!」
 包囲戦となれば範囲魔法は憚られ、二人は接近戦に切り替えた。
「乾物の王様だがなんだか知らないが、立ち塞がるなら叩き潰す。それがハウンドだ!」
 トウカ・ダエジフが肉薄し、ハート型の意匠が施されたナックルで激しく殴打する。
 事前にダークネスパワーで闇の力を付与しておいたのは攻撃力の底上げと、ブリーゲ王が魔力によって守られた特殊な身体を持っていると予想してのことだ。
(王の前である、控えよ……!)
 ショーテルを巻き取った包帯が独立した生き物のように動き、斬りつけてきた。
 それをエウロ・シェーアが真っ向から受け止める。ガードの付与によって高めた防御力によるものだ。
「噂の残虐王の力、こんなものですか?」
 至近距離を保ったままトルネード形状のレイピア、トルネイダーで刺突を繰り出すエウロ。ルミナパワーを付与されたその切っ先は包帯の間を縫ってブリーゲ王の腕を貫いた。
 同時に咆哮とドラミング音があがる。マリカ・ピエリーニがキングゴリラグローブの能力によって行ったものだ。
「やっぱり動じないか……よし、行くわよ!」
 マリカが側面から攻め立て、ルミナパワーを付与したグリーヴァファングによる四連続の打撃を浴びせた。ストライクの付与によって得た技術だ。
 回避する素振りもなく、それらを全て浴びるブリーゲ王。
「……避ける気はないようね」
 マリカがそう結論づけた。手応えがあるのは間違いないが、ブリーゲ王からは確固たる意思のようなものが感じられない。
「それならそれで構わないわ。悠久の時を経て蘇った邪悪の王。さっそくで悪いけど、再び眠りについていただくわよ」
 挑発の言葉にも反応せず、またもブリーゲ王の包帯が伸びて新たな得物を巻き取った。

◆違和感
 ハウンドたちは相対した相手が特異な存在であることを理解していた。
 その動きは緩慢であり、こちらの攻撃を意に介しているような素振りすらなかった。
 知識ある者が見れば、それはアンデッドの一種であるマミーの特徴と類似していることに気付いたかもしれない。

「んん……こう素早いと武器の方は狙えねェか。しかし妙だなァ……なんてーかこう……覇気みたいなのを感じねェぞ」
 扉近く、ミドルボウを構えたゴンスケ・アステールが首を傾げる。
 棺から復活してからずっと注意深く観察してきての彼なりの所感だったが、その言葉にピラミッドマンが反応を示した。
「……と、いいますと?」
「ん? ああ、だって大昔に随分と無茶苦茶やった王さまだったんだろ? それが満を持して蘇ったにしちゃあ、なんだが『普通』だと思ってなァ……」
 この普通が何を基準にしているのかはゴンスケにも説明ができない。あえて挙げるなら、一般的なアンデットと比較してのことか。
「それは、確かに……」
「ま、あんなに頑丈なのは普通じゃないだろうけどな」
「そうですね。あのタフさは、何か特殊な身体だからかもしれませんわね……カブラアローを打ち込みますわ!」
 おなじく後衛のエフィ・カールステッドがライジョウドウにカブラアローをつがえ、ブリーゲ王の近辺へと射た。
「残り二本……効くかどうかはともかく、とりあえず撃ちきってしまいますわ!」
「そうだな、考えててもしょうがねえか。寝てるとこ起こしちまって悪ィが、好きにはさせねーぞ! 『ルー』、みんなを援護してくれ!」
 ゴンスケは魔法の隼のルーを援護に飛ばすと、ミドルボウで狙いを定めた。

 そんな様々な思惑が交錯する王の間だが、ここにあくまでマイペースな者がいた。
「うーん……干物が動き出したのはいいけど美味しそうじゃないなぁ。しばらくショコラ食べてよーっと」
 シフール用の開放二輪馬車、すなわち猫戦車を駆るチャウである。
 アヌビスゴーレムが猫に手出ししないと分かった途端、待つのに飽きた彼女は猫戦車を爆走させ、王の間狭しとブイブイいわせているのだ。
 回復魔法や道具を使っての援護もこなしつつも、そこら中で猫戦車を蛇行させるチャウ。
「さあ進めー、これが私の戦車道だー!」
 まさに傍若無人。だが。
「……って、わあっ!」
 いくら攻撃されないといっても不慮の事故は起きるものである。戦闘中の近くを爆走していた彼女と猫戦車はアヌビスゴーレムの足蹴をまともに受け、王の間の隅に飛ばされたのであった。

◆攻防
 ブリーゲ王の攻撃は徐々に苛烈さを増していった。
 正確にいえば彼の身を覆う包帯による攻撃が、だ。腕から伸びた二本の包帯が武器を掴み、遠近自在に斬りつけてくる。
 例えるならそれはローレライで生成した水の剣の挙動に似ていた。だがこちらは『複数の刃が別の標的へと同時に襲いかかる』という点で異なっている。
 まるで、包帯そのものが強力な呪物のように。

「うおおっ!」
「セイさん、大丈夫ですか!?」
 斬撃を背中に浴びたセイにアンカが近寄る。武器を扱う包帯を狙ったセイだがその軌道は不規則で予測がつきにくく、逆に反撃を許してしまったのだ。
 しかも包帯には布とは思えないほどの強度があった。この状況での切断は困難だろう。
「アンカ、後ろ!」
 トウカが割って入り、身代わりに斬撃を受ける。緩慢な本体とは違って包帯の鋭い挙動は回避するのも難しい。
「つっ……こうなったらちょっとばかり距離をとっても意味がないな……」
「そういうことですわね。ユニコーンを近づけなくて正解でしたわ」
 エウロは扉近くに残したユニコーンによる魔物法による治癒や、アルティアーロによる薬の補給を受けつつ戦闘を継続する。
 ガードによる防御力と回復支援を頼みにした愚直ともいえる戦法である。
「まったく、とんだ隠し玉ってワケね!」
 近接状態を維持するマリカは特に被害が大きかった。ガードによって防御能力を高めているとはいえ、斬撃の威力はそれ以上のものだからだ。
「これはさっさと潰さないと保たないわ!」
「ああ、こうなればやられる前に倒しきるしかない!」
「援護しますぞ!」
 エクスがグリーヴァタチで攻め立て、ビア・ダールがクロスボウで援護する。そこに後方からゴンスケのアプサラスが加わった。
 さらにエクスは時おりスマッシュによる鋭い斬撃も織り込むが、ブリーゲ王はそれを受けてもなお怯むこともなく、包帯が武器を振るい続ける。

 ついに三本目の包帯が武器を取ると、決戦は持久戦の様相を呈してきた。

「こないなった以上は、もう出し惜しみはなしどすえ」
 扉近くでエリアルがアメシストスとユニコーンに仲間の回復を指示する。長射程の魔物法ならば包帯による斬撃の心配もなく援護が可能だ。
「こら、落ち着けって! 戦うんじゃなくて回復させるんだっての!」
 パルティ・フォルトゥナも同じく随伴させていたユニコーンに魔物法を指示するが、こちらはどちらかといえば最前で協力して戦いたいらしく宥めるのに必死だ。聖獣にも個性があるといったところか。
「ほら、遠慮せずグイーっとやりな……いい飲みっぷりだ」
 ギュンターがヒュギエイアの聖杯に注いだ回復薬を仲間に与え、また送り出した。
 一方で、レティチェラは援護に出していたベビィシムルへ安全な場所に戻るように指示していた。
「シムルさん、しばらくはこっちにおってな」
 援護に飛び回ってくれたベビィシムルだが魔力も尽きたらしく、十分に役目を果たしたといえるだろう。
 なによりブリーゲ王の攻撃は飛行する相手も容易く捉える。これ以上の援護は危険だと判断したのか、他のハウンドたちも同じようにペットやガーゴイルを呼び戻していた。
 また、レティチェラはガーゴイルの『スフィンクス』による謎掛けをブリーゲ王に試していたが、こちらは目立った効果が無いようだった。
「あとは、みんなを信じて見守るしかできへんね……」
 彼女の眼前ではそろそろアヌビスゴーレムが掃討されようとしている。
「……よし、次はそいつを仕留めるぞ!」
 ディオンが一体のアヌビスゴーレムを標的に定めて弓の弦を引き絞る。
 呪術が解けたことによる戦闘範囲の広がりを受けて感電空間はすでに終了させてある。あとは残ったものを各個撃破していく状況だ。
「了解ッス!」
 フェルスの筋肉、もとい装備がハルバードの一撃を受けきったところへディオンの銀の矢が穿たれ、続けて打ち込まれたインパルスハンマーがその個体の活動を停めた。
 あれほどまでに押し寄せてきていたアヌビスゴーレムだが、呪術の解除とともに増援はピタリと止まっている。
 ――と、薄暗い向こうから猫戦車が爆走してきた。
「ねーねー、なんか部屋の端っこの方にドロドロしたのがあったよー」
 チャウの報告よれば壁には何かドロドロしたものが流れ落ちており、周囲には小石のようなものが幾つも転がっていたが、暗くてそれ以上は判別できなかったという。
 とはいえ、これらがアヌビスゴーレムの増加とどのように関係するのかは不明である。
「やはり何かしらのカラクリがあったか。もっとも、すでに停止したのなら捨て置いてもかまわないだろう……残りを駆逐するまでだ」
 キースはロングボウに矢をつがえ、残り少なくなった番人へと狙いを定めた。

◆刃の嵐
(控えよ……!)
 ブリーゲ王の武器はついに四つめを数えていた。
 嵐のごとく刃が舞い踊る。ハウンドたちはその間隙を縫うようにして最後の攻勢に撃って出る。
 ハウンドたちの魔力もそろそろ心もとなくなっており、これ以上の持久戦に付き合う余力はないだろう。

「……ウォーターワールド! ……ふふん、どうですか? この水筒の水を目潰しに使うという発想は」
 自信満々のアンカ。しかし、ブリーゲ王は気にもとめなかった。
「なにィ、効いていない!  ……って、分かってやったのですけどね」
「この大事なときに遊んでるんじゃないよ! まったく……さて、ドワーフの本気、そろそろ見せてやろうじゃないか!!」
 セイは相棒を尻目にドワーブンアックスを叩き込む。
「セイさんはわかっていませんね、こういう時こそ余裕を見せつけるのが釣り師の嗜みなのですよ」
「あたしゃ釣り師じゃないよ! それにどこ狙ってんだい!」
 ゲイボルグでブリーゲ王の尻を狙うアンカにセイのツッコミが炸裂する。
「邪悪の王……せっかく蘇ったところ申し訳ないですが、そろそろさようならですわ」
 後衛。エフィはライジョウドウに二本のクリスタルアローをつがえて弦を限界まで引き絞った。これが、いまの彼女にできる最大の攻撃である。
「さあ、現在のハウンドの実力……存分に味わってくださいな」
 ライジョウドウから放たれた矢の飛翔に合わせてトウカが疾走った。バサラによって取り込んでいた切り札のシュヴァルツシュペーアをその腕に顕現させ、狙うは空を舞う包帯の一つ。
「邪悪の王だろうがなんだろうが……この剣に、斬れぬものなどない!」
 突き出された切っ先が包帯を捉え――ついに斬り裂いた。
 武器が王の間を飛び去り、刃の嵐が弱まる。
「……いまだよ!」
「わかりましたわ! 有象無象の区別なく、全ての邪悪に鉄槌を!」
 ここが正念場と踏んだエウロがスサノオーを成就して最後の攻勢に出た。
 アルティアーロが空中から光線の息で援護するなか炎の幻影を纏い、スマッシュによって上乗せされた刺突を時間の限り放ち続ける。

(控え……よ……!)

「もう聞き飽きたわね。そろそろお休み……今度は目を覚ますんじゃないわよ!」
「死せる邪悪の王よ……乾かず、飢えず……無に還れ!!」
 マリカとエクスが左右から同時に拳撃を叩き込む。そして。

 次の刹那、ブリーゲ王の内でルミナの力が爆ぜた。

(おお……おおお……)

 空虚な思念が王の間に満ちる。
 それは自らの敗北を信じられないゆえの戸惑いか。
 それとも、死という悪夢へと還ることへの嘆きか。

(王たる、我が……このような……おお……)

 あるいは、縋るべき神の名か。

(我が神よ……この魂を……その御下へ……)

 そして、彼は最後にその名を呟いた。

(我が神……ライネックよ……)

 ――と。

◆ライネック
「……思いのほか、手間取ったな」
 ハウンドたちの耳にそんな声が届いた。

 黄金の棺のさらに奥、王の間の最奥の闇の中から声の主が姿を見せる。
 地面まで届こうかという濃緑の髪。一見すれば眉目秀麗な人間のように見えるが、その頭部から伸びる一対の角がその人ならざる正体を知らしめる。
 ――デュルガー。

 ハウンドたちがコモンの本能でそう直感した。

「ブリーゲを屠ったのはお前たちか? つまりムィラートッホは失敗したということだが……この程度、予想しうる揺らぎの範囲でしかない」
「ま、まさか……ウセルフラが暗躍を始めたのは……いえ、このピラミッドの出現そのものが……?」
 驚愕するピラミッドマンを見てデュルガー――いや、ライネックは冷ややかな視線を向けた。
「賢しいコモンよ、お前の考える通りだ。私の封印を解くために働いてもらった……お前たち、全員にな」
「……お……おお!」
 ピラミッドマンが崩れ落ち、両の手で床を叩いた。
 自分がこれまでしたことは全て、このデュルガーの復活への布石に過ぎなかったのだと。
「お前たちが屠ったブリーゲはいわば魔力の貯蔵庫だ。幾年月をかけて私の魔力を注ぎ込み、この強固な封印を破壊する最後の鍵とした。あとは愚かなコモンがここへと辿り着けさえすればよかったのだ。この『書』を餌としてな」

 ライネックは懐の巻物を示してそう言った。
 仮にハウンドたちが、あるいはウセルフラがブリーゲ王を倒せずとも問題はなかったのだろう。
 復活したブリーゲ王は彼の『神』の言葉に従ってその身を捧げたのだろうから。

「……さて、私を解放したコモンたちよ。礼代わりにいまは見逃してやろう。大人しく下がるがいい」
「世迷い言を! デュルガーと知ってこのまま逃すわけにはいかない!」
 そこにエクスが立ち塞がった。
「力量も見極めず死に急ぐか。やはり、いつの世もコモンは愚かで憐れだな」
「問答無用です!」
「ここで倒してあげるわ!」
 エウロとマリカも続き、三人がライネックに踊りかかった。だが。
 ライネックはハウンドたちを圧倒する。三人はその鎧のような漆黒の身体に触れることも叶わず翻弄され、やがて床に倒れる。

 ――いまは、勝てない。

 ハウンドの多くはそう直感した。それほどまでにこのデュルガーは強力な存在なのだと。
「はああッ!」
 しかしアザリーがライネックに飛び掛かった。懐に飛び込み、果敢に攻め立てる。
 ソルムとフェルスもそれに続いた。
「お、おい止めろ! 無闇に戦って勝てる相手じゃねえぞ!」
「……何か様子がおかしいぞ」
 ゴンスケとディオンが仲間の様子に戸惑う。いずれも相手の力量を見極められない者ではないからだ。
 無論、この場でデュルガーを倒すべきだという思いは全員が同じはずなのだが。
「これがコモンの本質だ。これよりそのさらなる証拠をお前たちに見せてやろう」
 立ち回りつつライネックは王の間の外を指差した。
「聞こえるだろう、コモンの愚かさが」

 次の瞬間、兵士たちが王の間へと雪崩込んできた。

「た、大変です! 魔物が突然に!」
 兵士の一人が魔物の襲来を告げた。見れば、王の間の扉を突破する勢いで魔物が押し寄せている。
「臆するな、戦え!」
「そうだ! 我らが女王の為に!」
 対する兵士たちからはそんな怒号が飛び交う。訓練を積み、統率された兵士にしてはそぐわないようにも思えた。

(さらばだ。私を解放せしコモンたちよ)

 突然の念話でハウンドたちが気付いた時、王の間からライネックの姿は消えていた。

 魔物を片付けたハウンドたちがピラミッドの外に急ぐと、そこではさらなる混乱が待ち受けていた。
 ピラミッド近くに駐屯している兵士の一団と魔物の群れが戦っていたのである。
 そしてまたも飛び交う怒号。兵士たちの一部が統率を乱し、結果として乱戦が繰り広げられている。
 やがて、ハウンドたちの協力もあって魔物の群れは一掃され、時間が経つにつれて一部の兵士も落ち着きを取り戻していった。

◆伝説の先に
 かつて、古代サンドラの王であったブリーゲにひとりのデュルガーが取り憑き、暴虐の限りを尽くした。

 それがライネックである。

 結果、残虐王という悪名を欲しいままとしたブリーゲだが、やがて立ち上がった勇者に誅されこの墓所――ブリーゲピラミッドへと葬られることとなったのだという。
 残虐王の生前より建設されたこのピラミッドは彼の悪意を体現する終の棲家であり、同時に彼の信奉する神を祀る神殿でもあった。
 これを利用してブリーゲ、いや、ライネックの永遠の封印を願う者たちはこのピラミッドの心臓部に二つの邪悪な存在を封印した。
 『王の間』にブリーゲを。そして『神の間』にライネックを。
 もっともそれは、ブリーゲ以外の者にとっては『悪魔の間』だったのだが。
 そしてそこに連なる『従者の間』にその時代の呪術者たちを殉葬することで強力な呪術を完成させた。
 すべては、ブリーゲ王復活を目論む信奉者に対抗する為に。
 やがて秘術によってピラミッドは砂漠の底へと秘匿された。

 だが、悠久の年月の前に変化しない存在はない。

 秘術が弱まったのか、あるいはデュルガーの抵抗によるものか。
 ブリーゲピラミッドは、この時代に再びその姿を現したのである。

「……あのデュルガー、ライネックは『呪いの書』と呼ばれるものを管理するほどの高位な存在であるそうです。先ほど見せた巻物がそうなのでしょう」
 兵士のテントの一つでピラミッドマンはハウンドたちにそう語った。
 これらはいずれも王の間の副葬品のなかにあった石版に古代ルーン語で刻まれていたものだ。おそらくサンドラ王家でも失われた『伝説の真実』なのだろう。
「呪いの書には、邪神の呪いを解く秘密が記されているということです。そして、彼のように限られたデュルガーらがそれらを所持している、とも」
 ならば、それはハウンドの使命を果たす為に必要不可欠な書物ということになるが――その呪いの書とともにライネックは去った。
 ハウンドや兵士の一部に起こった異変が何だったのかは不明だが、再び相まみえることがあればまた起こりうる。
 ハウンドたちは鍛え、それに備えなければならないだろう。

「……ご覧になった通り、ピラミッドとは墓所であり神殿であり、そして強力な魔法装置でもあります。一説にはシーハリオンを模して造られた『力』ともいわれますが……もはや、こうした古代のピラミッドと同等のものを建設することは現代では不可能なのですよ」
 夕暮れの砂漠を背にしてピラミッドマンが続ける。少しでも気を紛らわせたいのか……いや、ピラミッドに関して饒舌なのはいつものことか。
「建築技術の問題ではありませんぞ。つまりはその、ピラミッドパワーの核心部分の再現ができぬのです。いわゆるロストテクノロジーですな。そんなピラミッドの力の秘密を探るのが私のライフワークなわけですが……その、少し気掛かりなことがありましてな」
 口調から喜色が消え、神妙な表情が浮かぶ。
「いまの私でも、このブリーゲピラミッドがとても強力な存在であることはわかります。しかし、それはこんな恐ろしい形で姿を現してしまった……」
 置かれた帽子の中で眠る猫を撫でつつ彼は続けた。
「サンドラで、これが起きた。ではミドルヘイムの他の地域では? どこかにピラミッドに準じるような遺跡があるのかもしれない。そしてそこには恐るべきものが封印されているかもしれない。そして……」
 少し疲れたような表情で彼はハウンドたちを視た。
「それがいま、まさに目覚めようとしているのかもしれない。あるいは、すでに……」
 どこかで――そう続けようとしてピラミッドマンは言葉を切った。
「失礼。これは単なる可能性……いや、予感です。ですが……どうぞ十分にお気をつけなされ、ハウンドの皆さま方。この愚かな学者の失敗に学び、活かしてください」
 と、沈んだ声のピラミッドマンだったが、そこでハッと顔を上げた。
「おっと、何やら暗い話になってしまいましたな。皆さまは残虐王を相手に見事に勝利を収め、サンドラに吹き荒れる嵐を鎮めてくださったのです! サンドラの者として、私もここにお礼を申し上げます。女王陛下もきっとお喜びでしょう……さあ! まもなく日も暮れます。兵士たちがささやかな夕食を用意してくれておりますぞ!」
 ピラミッドマンに誘われてハウンドたちが食事用のテントに向かうとき、すでに日は暮れていた。
 誰ともなくブリーゲピラミッドを見上げる。

 王と神の狭間で戦い得たもの、あるいは逃したもの。
 ハウンドたちはそれを胸に秘めると、新たな冒険に備えて暫し休息の時を過ごすのだった。



 18

参加者

d.飛べるから足場崩れそうでもだいじょーぶですのっ!
レネット(da0035)
♀ ?歳 シフール パドマ 陽
d.んと…
エルネスト・アステール(da0381)
♂ 21歳 カーシー(大型) カムイ 火
c.邪悪の王様。現在のハウンドの実力存分に味わってくださいな。
エフィ・カールステッド(da0439)
♀ 23歳 人間 カムイ 月
c.寝てるとこ起こしちまって悪ィが、好きにはさせねーぞ!
ゴンスケ・アステール(da0465)
♂ 25歳 カーシー(小型) カムイ 水
e.罠って怖いねー。解除とルート探索のお手伝いするよ~
フラール(da0547)
♂ ?歳 シフール パドマ 水
a.跪くのはそっちよ。私たちだって、女王様からのご寵愛を賜っているの。
アザリー・アリアンロッド(da0594)
♀ 29歳 人間 ヴォルセルク 月
b.ヤバい感じすんねー……いっぱい励ましてもらってからくるんだった〜
ショウ・ジョーカー(da0595)
♂ 20歳 人間 カムイ 月
a.長期戦になりそうッスけど、望むところッス‼
フェルス・ディアマント(da0629)
♂ 22歳 カーシー(大型) ヴォルセルク 地
a.どこまで時間が稼げるかだな。
ディオン・ガヴラス(da0724)
♂ 25歳 ダークエルフ マイスター 風
d.んーこれかなあー?(えいっ!)
リザ・アレクサンデル(da0911)
♂ 23歳 人間 ヴォルセルク 水
d.あれを片付けないと厄介ですね…?
ベドウィール・ブランウェン(da1124)
♂ 27歳 人間 ヴォルセルク 月
c.邪悪の王ね。…面白いじゃない、全力で粉砕してあげるわ!
マリカ・ピエリーニ(da1228)
♀ 29歳 人間 ヴォルセルク 火
e.実に興味深い遺跡です。もっと研究したいですね…生きて帰れればですが。
ジョシュア・マクラーレン(da1234)
♂ 29歳 ライトエルフ マイスター 風
b.さあ、限界まで支えるよって皆はんお気張りやす。
エリアル・ウィンフィールド(da1357)
♀ 49歳 ダークエルフ マイスター 水
サポート
c.有象無象の区別なく、全ての邪悪に鉄槌を!
エウロ・シェーア(da1568)
♀ 38歳 カーシー(大型) ヴォルセルク 火
サポート
a.部屋の隅から続々と…どこから湧いてくるんだ、こいつらは?
キース・ペンドラゴン(da1618)
♂ 32歳 カーシー(大型) カムイ 月
e.できる限りやってみよう。
ジャアファル・ジルフェ(da1631)
♂ 19歳 人間 マイスター 陽
c.死せる邪悪の王よ、乾かず飢えず無に還れ!!
エクス・カイザー(da1679)
♂ 30歳 人間 ヴォルセルク 火
サポート
c.ユカイツーカイ乾物くんなど、乾物ランドに去ればいいのですよ。
アンカ・ダエジフ(da1743)
♀ 26歳 ダークエルフ パドマ 水
b.ふむ。まずは時間稼ぎ、と考えてよいのかの? うむ、急ぐのは苦手である。
オズ・ウェンズデイ(da1769)
♂ 25歳 ライトエルフ マイスター 月
e.探索の役には立てないけど、毒に遭ったら解毒はするからね。
パライソ・レヴナント(da1777)
♂ 53歳 カーシー(小型) カムイ 火
c.さて、ドワーフの本気、見せてやろうじゃないか!!
セイ・ローガン(da1834)
♀ 41歳 ドワーフ ヴォルセルク 火
c.人手が足りないから、こっちに回るねー。 美味しそうな干物じゃないけど―
チャウ(da1836)
♀ ?歳 シフール カムイ 月
c.よろしくお願いします。
トウカ・ダエジフ(da1841)
♀ 27歳 ダークエルフ ヴォルセルク 地
b.さぁて、お手柔らかに頼むよ…とは言ってられない状況かい。やれやれ。
ギュンター・ニコラシカ(da1868)
♂ 42歳 人間 パドマ 地
a.正念場じゃな。三十路女のパワーを見せてやるのじゃ!
エイル・グラシア(da1892)
♀ 34歳 人間 パドマ 風
e.こちらで探索します。
シェール・エクレール(da1900)
♀ 19歳 人間 カムイ 風
a.気合い入れていこうじゃないか。
ユミル・エクレール(da1912)
♀ 24歳 人間 ヴォルセルク 陽
サポート
d.とんで、おじゃまむしのじゃましますわ! みなさんのじゃまはさせません!
ラファロ(da1940)
♀ ?歳 キティドラゴン ヴォルセルク 火
b.とりあえず、こっちでシムルさんに手伝ってもらえへんかお願いするんよ。
レティチェラ・サルトリオ(da1954)
♀ 19歳 ライトエルフ マイスター 陽
e.…僕に使えるんは頭だけやなぁ。よぉ見てきますわ。
フレグス・カヴィン(da1977)
♂ 25歳 人間 マイスター 陽
a.絶対絶命だな!燃 え て き た ぜ !!
ソルム・タタル(da1979)
♂ 25歳 ダークエルフ ヴォルセルク 地
 この邪悪なピラミッドパワー……! ビンビンにキテます……!!
ザ・ピラミッドマン(dz0046)
♂ 51歳 人間 無


伝説の深部へ

ついにブリーゲピラミッドの最深部へと到達したハウンドたち。そこに眠るのは伝説の残虐王か、それとも……?