【SE05】逢瀬の日920

担当北野旅人
出発2020/07/10
種類イベント 日常
結果成功
MVPフレグス・カヴィン(da1977)
準MVPスエワ・スイースソ(da1898)
ドミニク・レノー(da1716)

オープニング

◆新たなお祭り
 オーディア島に移住した者は、たとえそれまでそうでなかったとしても、多くの者は、こうなるだろう。
 すなわち、夏が大好きになる。
 そして、その短い夏を味わい尽くすべく、イベントやお祭りに熱中する。
 逢瀬の日という、なじみのなかった行事が急速に広まったのも、当然の帰結だったのだろう。


登場キャラ

リプレイ

◆逢瀬の日と、男と女
 日が暮れてなお、街は疲れを見せなかった。
「俺とハナなら、やる事いっぱいだよな。ご飯食べたり珍しいもの見て回ったり。たぶん絶対一日じゃ終わらないぜ?」
 ソレイユ・ソルディアスにニヤリと言われ、ハナ・サルタバルタも楽しげに笑みを返す。
「全部やるよ、夜はまだまだこれからだもん」
 そう、お楽しみは、これから。

 街には、コニー・バインナイン・ルーラの姿も。2人は出来立てのカップルだ。
「いやはや田舎者の自分が、ナインさんみたいな都会の神殿のシスターさんとお付き合いできるなんて、夢みたいな話だなや」
 コニーが照れくさげにそう言うと、ナインはその腕に手を回しつつ。
「でも、付き合いのきっかけがフンドラゴラなのは解せぬですが」
「いや~フンドラゴラさまさまだなぁ」
「それはない」

 ルーク・ガルティエリーズ・ブランシェは、のんびり喧噪を楽しんでいた。
「リズとこうして一緒に過ごすのも久しぶりだもんな。せっかくだし、ゆっくり過ごそうか。ルナ池のあたりで、季節限定のご飯を食べて」
 ルークはそっと手を差し出した。リーズは、静かにうなずいて、その手を取った。

 エクス・カイザーシース・エイソーアは、どちらも紗という生地のユカタを着ていた。
「シースちゃんにもらったこれ、着るの初めてなんだが、おかしくは無いかな?」
「え、エクスさんは似合っているんじゃない!? わ、私のほうは、どうかな‥‥」
「ばっちり、完全に似合っているよ。とても涼しげで‥‥あれ、暑い? 顔が赤いけど」
「も、もうちょっと手加減してよ‥‥!」

 そしてこちらのカップルは、今、贈り物をしていた。
「ベル、手出して。フライングだけど、いいよね。せっかく恋人たちの夜なんだから」
 ショウ・ジョーカーの指が、ベル・キシニアの指に、琥珀の指輪を差し込んだ。
「誕生日か。すっかり忘れてたな」
「魔法の指輪なら、お守りにも最適でしょ?」
「確かにこれなら、生還できる可能性があがるな」
 ベルは指輪を灯りに当てて、眺める。その赤い輝きは、ベルの胸に、熱い渦と温かい渦の対流を呼び起こした――烈しさと平穏と。戦いも恋も、似たような面がある。
「‥‥大事にするぞ」

「うおおお大事にするですよー! ありがとうですよー!」
 アリアドネ・ウィステリアも、ちょっと違った意味で苛烈に感動していた。
「うん、似合ってるよ。アリアドネの瞳と同じ色だしNE」
 ヴィルヘルム・レオンハートが贈ったのは、水晶のイヤリング。
「じゃ、じゃ‥‥ど、どーじょ」
 アリアドネがお返ししたのは、ヤドリギデザインの腕輪。
「お、素敵だ。ありがとう、大切にするね」
「ぷ、ぷ、ぷ、プレゼント交換‥‥! エモい‥‥!」
 アリアドネは完全に舞い上がり、そのテンションのまま、ヴィルヘルムの持つ串焼き肉にかぶりついて失敬した。
「た、食べ物交換は抵抗なくできるんだね‥‥」
「交換? 私のぶんはあげねーですよ」
「そうなの!? (人として)それでいいの!?」

 アイン・クロービスドール・ジョーカーもまた、ユカタで過ごす男女だった。
「いや、しかし思った以上というか雰囲気がまた違って‥‥綺麗だな、似合うよ」
 アインがそう言うと、ドールは繋いだ手をぐいっと引き寄せて。
「似合ってて綺麗? 可愛い? 色っぽい? ドキドキしちゃう?」
「あ、ああ‥‥もちろん」
「アインも素敵よ。ドキドキしちゃう。ほんとよ、触ってみる?」
「お、おい、人が見てるぞ」
 アインはたじろぎながらも、ある意味では安堵していた――自分の暗い過去を知ったドールが、こんなにも踏み込んできてくれることに。
「ねえ、なんかやらしい顔、してない?」
「や、やらしくはないだろう」
 アインは自分の頬をぐりぐり揉んだ。

 やがて男女らは、食べるべきものを買い、人のいない場所へ向かっていく。
 そして今、ソル・ラティアスサース・エイソーアもまた、川べりに腰を下ろし、ユカタ姿で、特別メニューを手に、星を鑑賞していた。
「はい、ソルさん。お星様を映しこんだ特別なドリンク‥‥おまじない付きだから、きっと良い事、たくさんあるよ‥‥」
「‥‥こいつぁ驚いた この間は月だったもんで、今回は星でも映して飲もうかと思ってたんですがね‥‥まさか同じ考えとは」
 ソルが乾杯しながら言うと、サースは想いがシンクロした嬉しさに頬を赤らめた。
「遅くなったけれど、お誕生日おめでとう‥‥一緒にお祝い出来て良かった‥‥」
「誕生日? は‥‥いや本当オタクも物好きだ、それに意外と強いときた」
「‥‥」
「あーいや嬉しいですぜ、そりゃすごく、此処に在る証だ」
 そして2人はユカタを褒め合い、星のエキスを飲み下してから、より深い夜へと沈んでいく――

◆逢瀬のお祭りにて
 もちろん、『逢瀬』とは関係なく、お祭りを楽しむ者も多くいた。
「ふふ、みな楽しんでいるようであるな」
 オズ・ウェンズデイが言うとおり、飲食や喧噪に盛り上がる者もいれば――
「素敵な出会いがあると良いがね」
 ギュンター・ニコラシカの言うように、やはり出会いを探す者もいた。
「ホラ、こんな素敵な曲が流れてるんだ。ロマンスくらい見つけてやるさ」
 ギュンターの視線の先、人だかりの奥では、ドミニク・レノーがハープを奏でており。
「せっかくのお祭りだ、より良い思い出になるようお手伝いできれば良いのだけれど」
 ドキドキするようなメロディが、あちらへ、こちらへ、喧噪を越えて街へ広がる。

「これは、ムードを高める音色だ」
 レオン・ウィリアムズはしばらくそれに耳を傾けていたが、やがて別のほうからも、ハープも調べが流れてきた。
「こっちは楽しくなるような音だが‥‥このメロディは、アレッタか?」
 そんな気がして、人だかりに向かってみた。

 楽しくハープを演奏していたアレッタ・レヴナントは、ふいに、別のハープの音が参加してきたので、演奏したまま音のほうへ目をやると。
「やっぱりレオンかい」
「すぐわかったのか? あんたが前にやったマネをしてやったんだがな」
「お互い様、レオンもすぐにわかったろ?」
「ああ‥‥なあ、このセッションを終えたら、一緒に祭りを楽しまないか?」
「いいとも。パートを分け合ったあとは、肉と酒を分かち合おうじゃないか」
 ハープのリズムは、おなかをすかせた子犬のように広場を跳ね回った。

「いい曲が流れてるな。これが逢瀬の日か」
 シルト・グレンツェンがこう言っても、
「美味しそうなお料理がたくさん! どれにしよう!?」
 セース・エイソーアは出店に釘付けで、聴こえちゃいなかった。
「二人とも、人が多いからはぐれないように気をつけてくださいね」
 フィザル・モニカはそう言ってセースのユカタの裾を引っ張ると。
「‥‥それにしても、このユカタ姿はとても可愛いと思いますよ。普段とは違う姿もいいですね」
「本当に可愛らしいな。私も来年はユカタにするか」
 シルトにもこう言われ、セースはえへへとポーズを決める。
 そしてシルト、フィザル、セースは骨付き肉のお店で。
「うまそうな料理が色々あるな‥‥全部食ってやるか」
「ちょっと、買いすぎですよ。食べきれるんですか?」
「私も手伝うから大丈夫! さ、お星さま見ながら食べよう!」
 わいわいと、ルナ池のほうへ。
 と、そのお店の軒先には、シェール・エクレールユミル・エクレールもいた。
「逢瀬のパイ、逢瀬のシチュー、逢瀬の骨付き肉、どれも美味しそうです」
「おいシェール、さすがに買い過ぎじゃないか?」
「こ、これは‥‥この間手伝ってもらったケイ姉さんへのお土産ですよ」
「本当か‥‥?」
「なので、骨付き肉は、もう2セットください」
「多いだろ!?」
 ユミルはひたいを押さえる――やはり、シェールを野放しにするとロクな事にならない。
「しかし、逢瀬の日に女二人で回るというのもなんだよな。残念ながら一緒に回る相手はいない訳なんだがね」
 ユミルがぼんやり言うと、シェールは肉を受け取りながら、言った。
「せっかくの特別メニューを味わえる日なのに、男に邪魔されたらもったいないですよ」

「ここはやはり、特別な限定商品を‥‥おや?」
 アレックス・パーリィの視線の先――彼が見たものは、ラファロが酔っ払いのよろめきを受けて、すてんと転んでしまう姿だった。
「だ、大丈夫?」
 アレックスは腕を掴んで起こしてやる。
「だ、だいじょうぶですわ。おまつりだからしかたないのです‥‥あれっ、おかねが!」
 ラファロは手にしていた銅貨が消えているのに気づく。転んだ際に手放してしまったのだ。
「ほら、拾ってあげたで」
 手を差し出したのは、フレグス・カヴィン。ラファロは礼を言って受け取ったが、その銅貨が、ほのかに光っているのに気づき、首をかしげる。
「それは幸運のコインじゃ。それで買い物すれば、きっとこのお祭り、幸せが広がっていくけえの」
 フレグスは、自分がアルケミーを施した銅貨とすり替えて渡したのだ。むろん、光っているだけで、ニセ貨幣というわけではない。
「ありがとうですわ、つかってみますの!」
 ラファロは気にせず、辛口串肉を買い、店主も気にせず受け取り、幸せそうな顔をした。
「わふ‥‥今夜はなにかいいこと、ありそうですね」
 アレックスも同じものを買うことにし、味見してみて、「これはからすぎる」と評価し、おみやげ候補から除外した。

 クロエ・オベールはすでに必要な買い物を終え、ルナ池のほとりに腰を落ち着けたところだった。
「なんかあちこちに、カップルがいるみたいだけど‥‥」
 クロエはワインと骨付き肉をそれぞれの手に持ち、交互に眺めると。
「こういうイベントで一緒に過ごしたい人はいないし、一人が良いかな。こういう恋愛が絡むイベントにはブリックルが出てきそうなものだけど」
 そうつぶやいた直後、背後の茂みから、ドサドサァと激しい物音が。
「‥‥ブリックル?」
「ち、違くて‥‥」
 それはスエワ・スイースソだった。飲食物を買い込みすぎ、フラフラしてたら転んでしまったらしい。
「それ‥‥一人で食べるの?」
 クロエの問いに、スエワはえへへと恥ずかしそうにし。
「ちょ、ちょっと食べきれないかな‥‥! 一緒にどう?」

 いっぽうこちらは、テーム河のほとり。食事を広げているのは、アンリ・ブランシェレティチェラ・サルトリオ
「パンと干し肉とワインと‥‥果物もあれば良かったかな」
 アンリはそう言うが、
「逢瀬のパイに逢瀬のシチューもあるんや。きっとこの中に‥‥」
 レティチェラは、買ってきたパイをかじってみせて。
「‥‥ほら、チェリーが入ってたわ」
 中から赤黒い果実をつまみあげると。
「このチェリーの深い赤色‥‥こんなうっとりする色の刺繍もよさそうやなあ」
 と、述べるのだが――アンリ的には、レティチェラの着る透けるようなユカタ、その中に見え隠れする、グリーヴァ的な紋様に、思わず見入っていた。
 それは、レティチェラが透かして見せることを見越して手縫いした刺繍であったが、アンリにとっては、ほんのりと隠れていた魅惑の果実のようにも見えた。パイの中のチェリーのように。

◆男と女の、逢瀬の日
 テーム河のほとりは、喧噪とはやや離れていた。しかし「喧噪を逃れたカップル」が、奇妙に間隔を開けて、そこかしこに見受けられた。
 コニーは暗い流れを見ながら、ビールジョッキを傾ける。
「ここなら落ち着いて、星を眺められますね‥‥おひっ?」
 コニーが驚いたのは、ナインが腕をからめてきたからだ。
「ええ、ここなら聖職の私が大っぴらにいちゃつけますね」
「いちゃつけ、って‥‥」
「大丈夫、皆さん堂々とラブラブしてます」
「ら、らぶらぶ‥‥?」
「しっぽり楽しみましょうってことです」
「しっぽ‥‥! いやいやまずいべやまだ人目もあんだし」
 コニーが慌てふためくと、ナインはしばし考え込んで。
「では‥‥少し早いですが、お愉しみへと向かいましょう」
「ど、どこへ‥‥ってかオタノシミ‥‥?」
「おうちへしけこむんですよ」
「シケッ!?」

 いっぽう、ルナ池のほとりは、もう少し、穴場だった。
「ちょっと買い過ぎちゃったかな? 食べ切れなかったらちょうだいね」
 エクスは腰を落ち着けてそう言ったが、シースは赤面してうつむいてばかりだったので。その顔の先に人差し指を、そしてそれを徐々に、上のほうへ持ち上げ、視線を空へと誘導してあげた。
「すごい‥‥綺麗‥‥!」
「本当に、今夜の星々はいつもより輝いて見えるね」
 エクスは、深い意味もなくそう言ったが、シースにはその言動がちょいちょい、意味深に思えてしまう。
(な、なんでそんなにニコニコできるのよ! こっちは初のデートで落ち着かないのに‥‥)
 シースは腕を組んだり、ほどいたり――自分ばかりが動揺していて。
 このままじゃいけない。なにか言わないと‥‥シースが思考を巡らせていると、先に、エクスが口を開いた。
「楽しい夜だねえ、うん」
「‥‥うん」
「また一緒に来ようね」
「‥‥もう!」
「あれ、また怒った?」
 シースはプイと顔をそむけた――それ、私が言おうと思ってたのに!

「‥‥ハナ、星を見てるのか?」
 ソレイユは食べる手を止め、聞いた。
「うん。星空を二人で独占しているようだよね」
「そうだな‥‥独占、か」
「ねえ、ソラは大樹に木札、飾った?」
 ハナがふいにそう言ったので、ソレイユは食べかけのパイを、そっと置いた。
「私はね‥‥そうだな‥‥木札にはアルケミーの上達を祈ったけど、今するなら、ソラとこれからも一緒にいれるように、かな」
「いい願いだな‥‥この星空の二人占めだけでも、十分楽しいしな。なんでなのかはわかんないけど」
「うん‥‥」
「この赤いバンダナだって、ハナからもらったお気に入りだし。ハナは俺より物知りだから色々と新しい事を教えてくれるし。あとはアクセとか服とかのセンスもいいし」
「‥‥」
「やっぱ、ずっと一緒にいることを、あの星に願っておかなきゃな」
 そう言われると、ハナは自分の頭を、ソレイユの肩にもたれかけた。自然とそうできたのは、今日はまじまじと見つめる方向が、自分ではなく星のほうだったから、かもしれない。

「そうだ、逢瀬の日だからリズにプレゼントを用意したんだ」
 ルークがリーズに取り出して見せたのは、逢瀬の日にちなんだ、金の指輪。
「逢瀬の指輪だからきっとリズの願い事を叶えてくれるよ」
「これは魔法の指輪ですよね? それなら、手を握ってくれませんか?」
 二人は指をからめた。すると、花や星の幻影が、二人を包むように生まれ、漂った。
「すごく綺麗ですね‥‥」
「ほんとだ、すごいな‥‥気に入った?」
「ふふ、とってもびっくりしましたけど、すごく嬉しいです。大事に身に付けていますね。ありがとうございます‥‥今日は素敵な逢瀬の日ですね!」
 リーズが喜びをあらわにすると、ルークは、その目をまっすぐに見て。
「逢瀬の日は素敵だけど、もうすぐ終わる‥‥けど、終わったあとも、俺は君の隣で、見守らせてくれないかな」
「‥‥ええ、ずっとおそばに」
 リーズは指輪をなでた。それはずっと、そばで見守っていてくれるはずだった。

「まったく、指輪に愛に、ショウの全て‥‥これほど嬉しい誕生日は初めてだぞ」
 ベルはショウの腕の中にいた。月が照らす二人の影はひとつ。
「こんな私だが、末永く頼む」
「こちらこそ‥‥ベル」
「私は自分の美を手段として使う。偽りの愛を他の男に囁くこともあろうが、真実の愛はお前だけの物だ」
「そこは気にしないで。そうやって武と美をかざして飛び回るベルが好きだから。どこまでも自由に羽ばたいて、いつでも俺のところに帰ってきてね」
「ショウ‥‥」
「愛してる。俺の全部はベルのものだよ」
「愛してるぞ、ショウの全てを」
 二人の影が、さらに縮んで、密度を増した。

星屑浮かべて願いを一つ
ゆうらり揺れる杯の底
喉をするり零れ音一つ
天に贈る祈り歌

「‥‥どこかから、歌が聞こえる」
 ベルはそう言った。だがショウには、彼女の鼓動しか聞こえていなかった。

 その歌は、涼しげで優しい音色は、大樹の下にいたソルが奏でるものだった。
「‥‥このアイスリュートの初披露、どうでやしょう?」
「すごい‥‥素敵で‥‥こんなお返しをもらえて、嬉しくて‥‥」
 サースは、ソルの手にするリュートと、そうっとなでた。
「で、願い札はかけやした?」
 ソルはサースの書いた願いを読んでみた。
「皆に素敵な事が沢山ありますように‥‥なるほどねぇ」
「私にはもう、たくさんあったから‥‥ソルさんは、何をお願いするの‥‥?」
「いや、俺の分は、サース嬢のこの札に一緒に乗せときまさぁ」
 ソルは札を優しくはじくと。
「願いは自分で叶えるもんとも思いやすが、言葉にして初めて形になるもんもある‥‥ああ良い祭りさね」
「うん、素敵な‥‥逢瀬の日‥‥」
 サースは、今度こそソルの手に触れようとして――やはり果たせず、自分とソルの願いがこめられた札をなでた。

 しばらくして。かすかに揺れる木札を見つけたカップルがいた。アインとドールである。
「皆に素敵な事が沢山ありますように、か。お前さんは願い事したんだったか?」
「ええ。でもせっかくだから、もう一つ書こうかしら。アインは?」
「俺は‥‥目標みたいになるというか、あまり浮かばなくてなぁ。皆の‥‥ドールの願いが叶うようにとは思ってるぞ」
 アインがそう言うと、ドールはすらすらと願いを書いた――アインが幸せでありますように、と。
「これなら責任もって、叶えてくれるわよね」
「ああ‥‥俺にはこいつがあるからな」
 アインはノルンズダガーを掲げた。ドールからもらった、彼にとっては、なにより加護高き物。
「‥‥やっぱり言っておくわね。この前の話、聞かせてくれてありがとう。いつか私のことも聞いて。今はまだ言えないけど」
「なんだ、せっかくの夜なのに。わかった、話す気になったらいつでも言ってくれ。今夜はもう遅い、送っていくよ」
「‥‥ねえ」
「どうした?」
「あなたからキスしてくれたら、言うかもしれない」
 ドールがそう言った直後、アインは電光の疾さで唇を奪った。そして言った。
「これでよし、と。繰り返すが、話す気になったらいつでも言ってくれ」

 その大樹の頂上あたりに腰かけるのは、ヴィルヘルムとアリアドネ。魔法の箒でここまで飛んできて、願い札をかけ、そのまま星や街を眺めていたのだ。
「一番上にかけたから、ぜってー願いが叶うですよ。叶わなかったら切り倒します」
 アリアドネの言に、ヴィルヘルムは吹き出しながらも。
「で、なにをお願いしたの?」
「いつものですよ。もっとお友達増えますように、って」
「その願い、絶対叶うよ」
「ほんとーです? 嘘だったらはっ倒しますよ」
「はは、大丈夫だって」
 ヴィルヘルムは気休めではなくそう言った。なにせ自分の秘密の願いは、アリアドネにたくさん友達ができますように、だったから。
「そういえば‥‥夜空から見ると、地上に居る時より星がなんとなく近くに見えるような気がして、なんだか不思議です。足元には地上のお祭の灯で、こっちも星みたいにキラキラしてて‥‥とても綺麗で‥‥」
 アリアドネはふいに、遠い目で言う。
「この景色をそのまま絵に描ければいいのに‥‥」
「‥‥だったら、もっと目に焼き付けないと。さ、これに乗って」
 ヴィルヘルムはタンデムできる箒を掲げ、後ろに乗るよう手招きした。
「え、ええ~!? それはちょっとあの」
「箒を操作しなくてすむぶん、集中して見られるんじゃない?」
「いやでも、別の理由で集中力がそがれ‥‥ああぁ‥‥」
 高い枝の上なので、あんまり抵抗もできず。今度は文字通り一緒に、空中散歩を楽しんだ(たぶん)。

◆お祭りは延々と
 街に漂う愛の気配を、クロエはたしかに感じ取っていた。
「今夜はそういう人が増えるのかな、恋人とか。そうなったら素敵だね」
 そうして、リディオから貰ったクッキーを食べる。
「おいしい‥‥けど、まだこんなにあるんだよな」
 スエワが押し付けるようにくれた大量のパイを眺め、クロエは静かにほほえんだ。

 ルナ池は、カップルだけのものではない。
「水辺で星を見ると自分の上下に星が見えるので、星の中にいるような気がして好きなんです。そう思うのって私だけですかね?」
 フィザルが言うと、セースは「本当、すごく綺麗‥‥!」と感動し、シルトもそうだなとうなずく。
「願い事はしましたか? 私は『これからも皆でいられるように』と願ってきました」
 フィザルの想い――一緒にいられなかった時間より一緒にいられる時間の方が長くなりますように、と。
「私は『皆に良い事が沢山ありますように』って。私にはもうあったよ、こうしてまたフィザルおにいちゃんとシルトおねえちゃんと会えたから!」
 セースは2人の手にしがみつく。
「私はしなかったな。そういうのは願うより自分の力で叶えるものだと思う。だが願うのなら大切な相手を護れるようになりたい‥‥いや、『なってみせる』だからやはり願い事とは少し違うか」
 シルトがそう答えると、フィザルとセースは顔を見合わせ、くすくすと笑った。

「我輩も誰か声を掛けてみようか。こんな夜に女性に声を掛けては不審がられるかな? しかし男性に声を掛けるのも妙な誤解を受けそうであるな?」
 オズはぶつぶつ言いながら、ふいに、ハープを抱えたローブの者に目をつける。
「やあ、きみ。ひとりかね。よければ聞かせてくれ、今夜の星の色を」
「星か‥‥残念ながら、今宵はまだ、俺だけの星を見つけてはいないのさ」
 振り返ったのは、ドミニクだった。
「おや、きみは‥‥」
「よう、お星ちゃんたち。俺だけの星にならないか?」
 いきなりギュンターが割って入り、オズとドミニクの肩に手を回してきた。
「まさかの2人同時口説き‥‥なんと鮮烈な‥‥」
 オズが面食らっていると、
「すごい、これがナンパですのね!」
 興味深げに見上げるラファロの姿、あり。
「あたしはまだまだみじゅくですもの。いまはおうえんしたり、おはなしきいたりしたいですわ!」
「私も聞きたい聞きたい! あ、良かったら一緒にパン食べない?」
 さらにはスエワまでやってきた。
「ははは、素敵な星々がこんなに集まったよ。さて、どんなロマンスを過ごそうか?」
 ドミニクが冗談めかして言うと、
「ようし、おじさんが大人のレンアイってのを語ってやろう」
 ギュンターもニヤリと言い、
「ふむ、それは興味深い議題であるな」
 オズも真面目に乗っかった。

「なんかそこでブローチ売ってた。あんたにはこういう可愛いの似合いそうだからやるよ」
 レオンはアレッタに、リムランド風女勇者のブローチをプレゼントした。
「おや、ありがとう。どう、似合う?」
 胸に輝く青白い光。それは彼女の瞳に似ている、とレオンは思った。
「じゃ、お返ししなきゃね。ホラ」
「ま、まあ‥‥ありがとな」
 レオンが貰ったのは、男勇者のブローチ。
「これでお揃いさね」
「あ、あ、ああ‥‥」
「あれれ、顔が赤いよ」
「いや、その! ‥‥人が多くてな」
「ああ、苦手なんだっけねえ。じゃあ、背中に隠れてな。これからあちこちでセッションするから」
 で、これが不思議というか当然というか、アレッタがリードしレオンが支えるそのハープの旋律は、喧噪に負けない厚みを醸すのだった。

「そういや逢瀬の日はレティチェラはいつもはどうしてるんだ。願い事とか」
 アンリに問われても、レティチェラはこの行事をよく知らない。だから、しばし考えてから。
「せやなあ。カップルさんおめかしとかするんやったら、服を作りたいなぁ」
「‥‥なるほど、らしいな」
「それやったら、服はええと‥‥刺繍は、ううん、あの星とか、あの月とか‥‥」
 とたんに、レティチェラの創作意欲に火がついた。それを見たアンリは、黙って見守りながら、ふいに、つぶやいた。
「ああ、星が今日は綺麗だな。月が隠れてしまいそうだ」

「骨付き肉は雄雌で違うみたいですから、それぞれ半分こしませんか‥‥って」
 シェールはユミルを見て、顔色を変えた。すっかり出来上がっている感。
「そもそも逢瀬のカクテルってなんだ。こんなもん一人で飲めるだろう‥‥ごっごっごっ」
「ユー姉さん、飲み過ぎです。 何やっているですか!」
「うるさい! おまいらみんな飲みが浅いぞ、もっと飲め!」
 で、ドドンと体当たりしたのがアレックスで。
「わふっ!? わっふっふ‥‥あぶない、にいちゃんととうちゃんへの差し入れ、セーフ‥‥」
「すみませんうちのユー姉さんが‥‥」
 シェールはぺこぺこしながら(と同時にユミルのすねを蹴り蹴りしながら)謝ると。
「いえいえ、こんなお祭りでは多少飲み過ぎるものですよね。あ、お金落としてましたよ」
 アレックスが拾い上げた銅貨は、ユミルがいつしか受け取っていたおつりなのだが、それはほのかに光っていた――それを見ると、ユミルもシェールもぼんやりと、気持ちを落ち着けてきて。
「‥‥帰りましょうか、姉さん」
「そうだな‥‥ありがとう、紳士のカーシーさん」
 ユミルがふらふら去って行くと、アレックスはにこりとしておみやげを抱き締め、そしてそれを見ていたフレグスは、しめしめと口を歪めると。
「まるで満天の星空みたいな街じゃのう、ローレックは。みんなしてピカピカ輝いてうるさいくらいだで」



 10

参加者

c.さてさて、どっから行ってどの辺に落ち着きやしょうかねぇ?
ソル・ラティアス(da0018)
♂ 28歳 人間 パドマ 月
c.ああ、なんだか贅沢な気分だな。ん、魚も可愛いが…そういう服も似合うな。
アイン・クロービス(da0025)
♂ 33歳 人間 ヴォルセルク 陽
c.今日はせっかくだからのんびり過ごそうか
ヴィルヘルム・レオンハート(da0050)
♂ 25歳 ライトエルフ パドマ 火
c.星が綺麗ですね
リーズ・ブランシェ(da0166)
♀ 25歳 ライトエルフ パドマ 月
c.のんびりでもご飯ははずせないですよ(もぐぅ
アリアドネ・ウィステリア(da0387)
♀ 22歳 ライトエルフ パドマ 地
a.わふぅ、美味しそうなものがいっぱいですね。
アレックス・パーリィ(da0506)
♂ 28歳 カーシー(大型) ヴォルセルク 地
c.ふふ、賑やかでいいね。何か飲む? またいっぱい買って食べちゃおうか。
ショウ・ジョーカー(da0595)
♂ 20歳 人間 カムイ 月
b.ま、こんな夜なら盛り上げないのも損、ってねぇ。
アレッタ・レヴナント(da0637)
♀ 25歳 人間 パドマ 月
c.いやはや、ロマンチックな星空だなや
コニー・バイン(da0737)
♂ 23歳 人間 マイスター 月
c.この星空と時間を二人占めといこうか。ハナ。
ソレイユ・ソルディアス(da0740)
♂ 21歳 人間 ヴォルセルク 陽
c.…素敵な逢瀬の日になると良いね…。
サース・エイソーア(da0923)
♀ 20歳 ライトエルフ カムイ 月
c.わーい、お料理楽しみー!
セース・エイソーア(da0925)
♀ 20歳 ライトエルフ カムイ 陽
c.…う、うん、楽しんじゃうんだから!
シース・エイソーア(da0926)
♀ 20歳 ダークエルフ マイスター 月
c.いい月夜だな
ルーク・ガルティエ(da1006)
♂ 26歳 ライトエルフ カムイ 風
c.この前は月が綺麗だったけど、今夜は星が綺麗ね。ユカタの魚も可愛いでしょ
ドール・ジョーカー(da1041)
♀ 25歳 人間 パドマ 陽
c.そうだな。何か買って食べるか。 ショウは食べたい物あるか?
ベル・キシニア(da1364)
♀ 28歳 人間 ヴォルセルク 風
c.シースちゃん、今日はよろしくね
エクス・カイザー(da1679)
♂ 30歳 人間 ヴォルセルク 火
c.ふふ、そうだね…楽しみだよ
ハナ・サルタバルタ(da1701)
♀ 23歳 人間 マイスター 地
c.今日がいい日になるように、愛の歌を添えよう。カップルは応援したいのさ。
ドミニク・レノー(da1716)
♀ 25歳 ライトエルフ パドマ 水
a.伝承については詳細がわからぬが……星を詠むというのも面白そうであるな。
オズ・ウェンズデイ(da1769)
♂ 25歳 ライトエルフ マイスター 月
c.テーム河で星空観測ですわね
ナイン・ルーラ(da1856)
♀ 29歳 人間 ヴォルセルク 水
c.適当に呑んでるよ、お邪魔はしないさ。
ギュンター・ニコラシカ(da1868)
♂ 42歳 人間 パドマ 地
c.よろしくお願いします。
フィザル・モニカ(da1872)
♂ 22歳 ライトエルフ マイスター 水
a.逢瀬の日かぁ…
クロエ・オベール(da1896)
♀ 23歳 人間 ヴォルセルク 月
a.何を食べようかなー!
スエワ・スイースソ(da1898)
♀ 22歳 ダークエルフ マイスター 陽
a.美味しい物食べ歩きですね。
シェール・エクレール(da1900)
♀ 19歳 人間 カムイ 風
b.美味い物を飲み食いするよ。
ユミル・エクレール(da1912)
♀ 24歳 人間 ヴォルセルク 陽
b.ひとがいっぱいのおまつりは、たのしいもいっぱいですわね!
ラファロ(da1940)
♀ ?歳 キティドラゴン ヴォルセルク 火
c.よろしくお願いします。
シルト・グレンツェン(da1944)
♀ 23歳 カーシー(中型) ヴォルセルク 火
a.今日は賑やかやねぇ……
レティチェラ・サルトリオ(da1954)
♀ 19歳 ライトエルフ マイスター 陽
a.よろしくお願いします。
アンリ・ブランシェ(da1971)
♂ 22歳 ライトエルフ パドマ 火
b.ん…このメロディは(合わせて楽器を弾き始めて)
レオン・ウィリアムズ(da1974)
♂ 26歳 人間 カムイ 風
a.おぉ〜上手いのか酷なんか分からへんけど味はえいな!他なんあるんやろ〜♪
フレグス・カヴィン(da1977)
♂ 25歳 人間 マイスター 陽
 大人のハウンドに、俺はなる!
マレマロ(dz0040)
♂ ?歳 キティドラゴン ヴォルセルク 水


逢瀬の日、人々の反応は

なんかすごい‥‥浮かれてるってかんじだな! 俺も食べまくって、それから‥‥えーっと、そのー‥‥(なんか恥ずかしげ)