【HH03】魔物のグルメ

担当午睡丸
出発2020/05/28
種類ショート 冒険(討伐)
結果成功
MVPアリアドネ・ウィステリア(da0387)
準MVPレネット(da0035)
テル(da1965)

オープニング

◆腹もペコちゃんだし
「おなか……すいたね……」
 新人ハウンドであるキティドラゴンのヴィントシュトスは、波打ち際に寝転がったままポツリと呟いた。

 オーディア島、常夏の浜。
 最近ここでは、とある魔物が出没しては逗留している客を襲撃するという事件が起こっていた。

登場キャラ

リプレイ

◆この組み合わせは初めてだな
「待ってたですよ、ご飯!!」
「にく! にくでござるよ!」
 ようやく出現した魔物にアリアドネ・ウィステリアの目は『クワッ!』と見開かれ、テルは完全に食材として捉えていた。
「こんな状況になってやがるのもあのペンギンもどき? のせいです……ゆるさねー……ゆるさねーから……」
「あー、気持ちは分かるが相手はダークサイドかもしれんし、冷静にな?」
 血走った目でブツブツと呟くアリアドネをアイン・クロービスが宥める。
「でももうお腹のペコちゃんも限界ですよ! こんな場所じゃ店を探したくても無いし……気合を入れて狩りましょう!」
 完全に目的が変わっているのはシェール・エクレールだ。
「ペコちゃん……? ま、まぁ確かに食えてるだけいい状況とはいえ食事の良し悪しは士気に関わるからな。やる気になっているなら越したことはないが……」
 士気が下がった所為で実力を発揮できない、といった事態は往々にしてある。過去に痛い目をみた経験のあるアインとしては、この場の勢いを削がないほうが得策だと判断したのだった。

「それにしても予期せぬ闖入者とは。これは鳥獣大決戦の様相を呈してきましたね?」
「……ウィール、面白がってるよね?」
 ベドウィール・ブランウェンが状況をそう例えるとリザ・アレクサンデルが素早く見抜いた。とはいえ他人の目には普段の彼と区別がつかない。
「ところで……あの水鳥さんって、美味しいんですの?」
 そこでレネットが素朴な疑問を口にする。
「どうだろ? ペンギンは美味しいらしいけど……もう片方はたぶんチャムズ、かな? そっちはわかんないんだよね」
「あ、そうそうチャムズ! アタシもよくは知らないんだけどねー、なんかいっぱい獲られてたから、きっと美味しいんじゃない?」
 リザの曖昧な記憶を受けてヴィッシュがさらに曖昧な知識を捻り出した。いずれにせよ、干していない肉をしばらく口にしていないハウンドたちにとっては思わぬごちそうになりそうだ。
「なら私は美味しい方を相手しますわっ。ちゃんとしたご飯の為なら頑張っちゃいますの!」
「ならば我もチャムズとやらを蹴散らすとしようかの。ペンギンとの様子を見るにどうやら共闘することは無さそうじゃが、食材は多い方がヴィッシュも嬉しいじゃろう?」
「やったー! じゃあアタシもそっちをお手伝いするね!」
 エイル・グラシアの言葉で、ともにチャムズのいる辺りへと向かうヴィッシュ。脅威としては未知数だが、それを調べる意味からも放置はできないだろう。
「では、私たちは当初の予定通りにペンギンを討伐ですね」
「だね! よーし、ウィールが美味しく調理してくれるの期待してがんばろっと!」
「食事の楽しみの為にもまずは仕事だ! くるぞ!」

 アインが警告の声をあげる。
 ペンギンたちは総身に殺意を漲(みなぎ)らせつつ、ペタペタと砂浜を迫ってきていた。

◆凄いことになっちゃったぞ
「……いいですよ、リザ」
「ありがと、ウィール!」
 ベドウィールは阿吽の呼吸でリザの水の剣にミタマギリを付与し、周囲を確認する。さすがに砂浜に身を隠す遮蔽物は存在しないが、ペンギンの様子からしても死角を突くのは難しくないだろう。
「あの殺る気に満ち溢れた様子……やはりダークサイドですかね?」
 シェールはグリーヴァヒゴユミに矢をつがえながらペンギンを観察する。ときおりあがる威嚇の声は見た目の印象より野太いものだった。
「グァーッ! グァーッ!」
「あの牙、まともに受けると厄介だぞ……よし」
 嘴(くちばし)から垣間見えるサメのような牙を警戒したアインは、接近される前にとフェイスガードの能力を込めた咆哮で牽制した。
 半数ほどのペンギンの動きが目に見えて悪くなる。
「そこです!」
「はっ!」
 それをシェールの矢とリザの水の剣とが狙い撃った。矢を受け、斬撃に怒りの鳴き声をあげるペンギンだが怯むことはしない。
「上等ですよ! 私はいまとても気が立ってるです! 手加減なんかしねーですよ!」
 対抗するようにアリアドネが嬉々として魔法の杖を構え、呪文を詠唱する。
「……ガイア! 死ねええええ!」
 放たれた重力波はペンギンを貫いて進んだ。運悪くその直線上にいた個体は全てが転倒し、さらに運の悪かった個体はこれだけで瀕死の体を晒した。
「そのまま大人しく晩ごはんになりやがれですよ!(人を襲うなんて許せねーですよ!)」
 本音と建前を間違って叫ぶ、自分に正直なアリアドネ。
「すごいですね……!」
「おっと、これは負けていられないな!」
 シェールとアインが至近距離まで迫ったペンギンを迎撃する。これだけの被害を出しつつもペンギンたちは逃げ出さず、むしろ殺意を高まらせて襲いかかってきたのだ。
 そして、こうも接近されると同士討ちの危険性がある魔法は有効ではない。
「アァー! アァー!」
 鋭利な牙がアインの防具を貫いて肉を穿った。すかさずグリーヴァブレードで斬りつけるアイン。
「ぐっ! この殺意……見た目よりはるかに危険だぞ」
 その姿にはどこか薄ら寒いような迫力があった。もしもこれが守りを固めていないコモンなら、たやすくその餌食ともなるだろう。
「でもアリアドネのおかげで残りも少ないし、一気に押し切ろう!」
「了解です!」
「ごはんー!!」
 押し寄せる殺意に対して食欲で対抗するハウンドたちであった。

◆それ以上いけない
 一方、チャムズの方は。
「……ソル!」
「……ゼウス!」
 レネットとエイルの放った魔法がチャムズたちを撃った。ソルの標的となった個体の羽毛が燃え、さらにゼウスの直線上にいたこともあって感電し、動きを止める。
「おおー! やったね!」
「食材ゲットでござるな!」
 そこをすかさず確保するヴィッシュとテル。すでに六羽ほどいたチャムズの半数が捕獲されていた。
「なんじゃ、抵抗どころか逃げもせんのか……?」
 あまりのあっけなさにエイルが呆れる。チャムズたちは仲間が捕まえられているにも関わらず『のほほん』とした様子で魚を探していた。
 どうやらコモンの脅威とはなり得ない魔物のようだ。
「あちらも大丈夫そうだし、我が輩は調理場の戦闘準備をしておくでござるよ!」
 ペンギン討伐の方も優勢が揺るぎないと見るや、テルはそう言ってシー・ハウスへと向かっていった。火熾しなど、時間の掛かる用意は済ませておきたいのだろう。
「そうしてくれ。さて、こっちはどうするかの? 狩るのは簡単じゃが、これ以上は食べ切れる量でもなし……」
「そうですわねっ。ならマジカルショックで『べちーん』ってやって追っ払いますのっ!」
 そう言ってレネットは一羽の顔先に飛んでいった。改めて近付くとなかなかに大きいのがよく分かる。
 相変わらず逃げようともしないが、目の前をチラチラと飛び回るレネットを視線だけが追う。
「ほらほら、ここにいたらペンギンさん退治の邪魔になりますのよっ! あっちに……え?」
 次の瞬間、レネットの視界が真っ黒になった。

 チャムズに飲み込まれてしまったのだ。

「ちょっ! レネットー!」
「いかん! 吐き出させんと!」
 慌てて駆け寄るヴィッシュとエイルだが……二人が助け出そうとするよりも早く『んべっ』と胃液ごと吐き出されて事なきを得た。
「い、いま何が起こったのですの……?」
 突然のことに目を白黒とさせるレネット。
 結局、追い立てたところでチャムズたちが動じることはなく、(レネット以外に)実害はないということで放置することになったのだった。

 さて、ペンギン討伐も大詰めを迎えていた。
「はあっ!」
「ふっ!」
 ペンギンをアインの湾刀が切り捨て、瀕死となったそれにシェールの矢が突き立った。
「ウィール、トドメよろしく!」
「了解です」
 一方ではリザの斬撃によって気絶した個体をベドウィールが片付けていく。
 そして気が付けば、動いているペンギンはいなくなっていた。
 如何に獰猛なダークサイドといえども――いや、その獰猛さゆえに直情的な行動しかしないペンギンだからこそハウンドたちの敵ではなかったのである。
 だが、それでも無傷とはいかないのが恐ろしいところか。特に盾役として奮戦したアインはもっとも手傷を受けており、シェールがキュアティブによる回復を申し出た。
「アインさん、お怪我を魔法で回復しますよ」
「ああ、助かる。確かに獰猛な魔物だったが、最初のガイア……あれが効いたな」
「あれで半分くらいやっつけたよね! あ、でも食べるのは大丈夫かな……?」
「大丈夫、ですよ……食べられるぐらいの肉は残ってる、はずですから……多分……」
 リザの疑問に答えつつ、力なく砂浜に寝転がるアリアドネ。そろそろ空腹の限界らしい。
「おっと、こっち方が強敵みたいだな? ベドウィール、お前さんなら美味しく料理できるんじゃないか? これ」
「そうですね、みなさんの我慢もそろそろ限界のようですし……試しに、何か作ってみましょうか」
 ベドウィールは目の前のペンギンと期待に満ちたリザの顔を交互に眺めて――静かにそう結んだのだった。

◆絶対大盛りで食おう
 しばらくして。
 シー・ハウスではハラヘリハウンドたちが夕食をいまや遅しと待ちわびていた。

「はら……へり……しぬ……」
「おなか……すいた……」
 すでに限界を超えたアリアドネとヴィッシュが生ける屍のように横たわっていた。台所から漂ってくる匂いが鼻孔をくすぐるのがまた堪える。
「料理の心得のある者がおったのは何よりじゃが……空きっ腹にこんな美味そうな匂いとは酷じゃな。残酷じゃ」
 同じく耐えかねたようなエイル。
「でもきっと、こうして待ったご飯は格別ですのー♪」
「そうそう、最高だよね!」
 レネットとリザはまだ余裕があるらしく、来たるべき瞬間を待ち構えているようだ。
「血抜きや解体も手伝いましたからね! きっと美味しい料理になっているハズです!」
 獲物の処理は味を左右する重要な工程だ。狩りの心得のあるシェールはこれらを率先して手伝っていた。
「だね! あ、でも結構多いけど全部食べ切れるかな?」
「大丈夫です! お手伝いしますから!」
「……さすがに全部は食べないよな?」
 リザとシェールは当然のように今日の獲物を食べ尽くす気でいるらしく、思わず呆れるアインだった。
「皆、お待たせでござるよー!」
「食事にしましょうか」
 テルとベドウィールが次々と料理を運んでくると、ようやくに夕食の時間となった。
 ある者は飛び起き、そしてある者は満面の笑みでテーブルに付く。

「「「いただきまーす!!!」」」

 嵐のような勢いで食べ始めるハウンドたち。
「うおォン! にく! とりにくでござる!」
 テルは自作の串焼きを両手に持ってご満悦だ。チャムズの内臓を塩で味付けしただけのシンプルなものだが、それゆえに舌に旨味が響き渡る。
「……美味しい! チャムズって、どこか鹿肉みたいな味なんですね!」
「うん! これならいっぱい獲られてるのも分かるね!」
「(モグモグ)一応は魔物の肉ゆえ、念入りに火を通してみたでござるよ(モグモグ)」
 シェールとヴィッシュが食べているのは乾燥した香草と合わせて焼き上げたものだ。鹿肉に似た野趣溢れる味わいと後味に残る磯のような香りがなんとも旨い。
「これだよこれ、ですのっ! お仕事した後のご飯は美味しいですのー♪」
 まるで槍のようなサイズの串焼きと格闘するレネット。
「まさか逆に食べられそうになるとは思わなかったですの……でも、すぐに吐き出してくれてよかったですのっ」
「大変でしたね、大事にならなくて幸いでした。ペンギンの方もご賞味ください」
 ベドウィールが振る舞うのはワインビネガーを効かせたペンギンの煮込みである。足りない具材は浜で採った貝類などで補う。
「うまぁい……うまぁい……この為に、私はこの為に生きてるです……!」
 感動を通り越し、感涙にむせび泣きながら黙々と食べるアリアドネ。
「ふわぁー……美味しいなぁ……ってウィール? 今回は現地調達はしないんじゃなかったっけ?」
「もうバカンス客に扮する必要はありませんからね。ならば自然も魔物も等しく頂くのが正しい現地調達の姿ですよ」
「それって世間一般と比べてどうなの……?」
 不穏なセリフに戦慄しつつも食べ続けるリザ。
「とはいえ……ペンギンとチャムズで鳥肉がダブってしまいましたね」
「まぁいいじゃないか。それにどっちも脂が乗っていて旨いぞ。こりゃあいい肉だ」
 アインはそう言って両方の肉を口にした。
「何でこの浜へやって来たのかは知らんが、ダークサイドを放置もできんからな。それにベドウィールの言う通り、狩ったからにはこうして食べてやるのも命に対する礼儀の一つかもしれん」
「そうじゃな。それにこんな色気のないバカンスじゃ、せめて食い気は満たしたいところじゃからのう?」
 エイルの言葉に皆が笑った。退避させた客が戻ってくるまではハウンドのバカンスの時間だ。
「まだ滞在日数もありますし、ペンギンは酢漬けにしておいて明日はシチューにしましょうか」
「我が輩はチャムズの骨で出汁をとってスープにいたす! 明日もはりきって料理するでござるよ!」
 二人が請け負ったことで、明日もまた新たな味覚との出会いが待っているだろう。

 こうして常夏の浜の日々は過ぎていく。
 ハウンドたちは得体の知れない奇妙な満足感を味わっていた。



 10

参加者

a.まぁまずは仕事…こっちも食えるんじゃないか?
アイン・クロービス(da0025)
♂ 33歳 人間 ヴォルセルク 陽
b.私はこっちにしますわねっ。ソルやマジカルショックで頑張りますの!
レネット(da0035)
♀ ?歳 シフール パドマ 陽
a.ご飯!!!!(くわっ
アリアドネ・ウィステリア(da0387)
♀ 22歳 ライトエルフ パドマ 地
a.ウィール!食料の現地調達もバカンスのうちって言ったよね、違うじゃん?!
リザ・アレクサンデル(da0911)
♂ 23歳 人間 ヴォルセルク 水
c.隠れる物陰はなさそうですね…?
ベドウィール・ブランウェン(da1124)
♂ 27歳 人間 ヴォルセルク 月
b.ペンギン?と水鳥?の共闘はなさそうじゃな。我は水鳥でも散らすとしよう
エイル・グラシア(da1892)
♀ 34歳 人間 パドマ 風
a.空腹に我を忘れる所でしたが、しっかりとお仕事しなくては。
シェール・エクレール(da1900)
♀ 19歳 人間 カムイ 風
c.にく!にくでござるよ!
テル(da1965)
♂ ?歳 キティドラゴン パドマ 陽


腹が減った……よし、魔物を探そう

焦るんじゃない。アタシは腹が減っているだけなんだ。腹が減って死にそうなんだ。