オープニング
◆カップル限定、ドラゴンツアー?
実はギルドには、かねてより不思議な依頼が保留状態となっていた。
依頼者は、貴族街で隠居している、品のいい貴族の老夫婦、エルム夫妻からのものだ。
夫妻はリムランドの名家の出で、若い頃は、秘密の海辺で逢瀬を重ね結ばれたのだとか。
その夜空には、淡く金色に輝く美しく輝くドラゴンが舞っていることがたびたびあった。
それがふたりの大事な想い出なのだそうだ。
ふたりが死ぬ前に叶えたい望みは、そのドラゴンを再び鑑賞することだ。
とはいえ、かつての海辺には、もういないらしい。
その後、それがムーンドラゴンと呼ばれる魔物である可能性が高いことまでは突き止めたが、その目撃場所をなかなか探せないでいた。
そしてハウンドギルドに『ムーンドラゴンを見つけたら、連れていってほしい』という依頼がされていたのだ。
が、ギルドも『もし見つけたら引き受ける』しかないわけで、その『もし』が、なかなか訪れていなかったのだ。
だが、それが訪れた。加入したキティドラゴンのひとりが、そういう場所を聞いたというのだ。
そのキティドラゴンの名前はテレモートという。見つけた場所はウーディアだそうだ。
「うむ、確かに見た記憶があるでござる──確か、あれは湖の近くでござったな」
テレモートの案内で老夫婦を連れ、その絶景ポイントを目指す。
だが、必ず現れるかはわからない。幾晩か過ごす準備を整えて、その瞬間を待ち受けるのだ。
親密な空気を醸造するのには持って来いな日々だ。
◆月に願いを
それはさておき、夫妻は依頼を受けてもらえたことを喜ぶ。
「きっとあのドラゴンは、幸いをもたらすものですよ」
エルム夫妻の夫が言った。彼は今は杖を手放せない。
妻も言う。
「なさぬ仲と言われつつ、家族の反対を押し切って、ふたりの縁が切れなかったのは、あのドラゴンの加護のような気がします」
ロマンティックな話である。だが、夫妻の仲睦まじさを見ていると、本当のこと思えてくる。
そのため、恋人同士で想いを強めたいハウンドたちや、恋人未満で一歩を踏み出したいハウンドが次々と参加を申し込んできた。
ムーンポータルでウーディアに移動する。
エルム夫妻とハウンドたちはテレモートの案内でしばしの旅を楽しむ。
そして、満月──月がこぼれそうな晩、それが物語の始まりだった。
まるで月の雫のような光が湖からこぼれだす。
ハウンドの夜がつづく。
選択肢
a.想いを確認 | b.想いを強める |
c.裏方に徹する | z.その他・未選択 |
マスターより
成瀬です。ゴールデンウィーク(笑)が終わりましたね。ニチジョウ!
ということで、今回は満月‥‥もといムーンドラゴンを探して、的な話になります。
老夫妻の夢はかなうのか、それとも幻の夜と消えるのか?
ムーンドラゴンは想いを叶える力を持っているかは分かりませんが、これが一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。なに、一歩を踏み込んでいますか、二歩でも三歩でも踏み込んでください。
ブラックコーヒーを飲みたくなるくらい、砂糖なリプレイを目指しますので、参加をお待ちしています。
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登場キャラ
◆1
「皆様、甘々でも慎みは守りましょう」
とは女神教会の神職、
ナイン・ルーラの弁だ。
本人がその言葉を実践する気があるかは、当人のみぞしる。
月が舞い降りてきそうな夜空の下で、
オズ・ウェンズデイは決意を固める。
何ともロマンチックな話であるな。この幾夜を詩歌に記そうではないか。
──かつて夜闇に隠れ手を取り合った恋人たちを照らした月の竜は、いま手探りに言葉を紡ぐふたりの前にも現れるだろうか。
そこまで書いて、オズは羽ペンの動きを止める。
「うむ、続きが楽しみであるな。彼らはどんな物語を見せてくれるのであろう」
さて、とキティドラゴンのテレモートに向き直る。
「エルム夫妻の護衛などは我らで頑張ろうか、テレモート君」
「分かったでござる──長い夜になりそうでござるな」
テレモートの言葉に、オズが返しては──。
「夜はそれを必要とする者には、存外に短いものであろう」
言って、エルム夫妻に向き直る。
「ご両人、音楽はお好きかな? ──結構。ソル君、一曲、お願いできるだろうか」
オズの言葉にうなずく
ソル・ラティアス。彼ははエルム夫妻に対し──。
「さて、何かリクエストはありますかね? 心が浮き立つような恋唄から、闇よりも静かな小夜曲まで──お言葉次第でどんな曲でも」
夫妻が選んだのはリムランドの祭り歌だった。
「成程、いいシュミでやすね」
リュートを爪弾くソル。
「キャンプの準備は整ったが、誰か料理の得意な者はおらぬかね? せっかくの食材、腕を奮ってもらえると嬉しいのだが」
「及ばずながら──」
手をあげるのは、
コニー・バイン。
ナインの目が光った。
「手伝おう」
オズは祭の前を思わせる空気の中で、自身の詩心も高揚するのを感じていたる。
◆2
エクス・カイザーは親族会議にかけられていた。罪状、押しの弱さ。
具体的には、
シース・エイソーア、彼女をどう思っているか。
妹の、
アステ・カイザー曰く。
「勇者が朴念仁なのは良いけど、シースちゃんが兄さんを大好きなのは丸わかりなのよ?」
と、明言される。
「答えないのも愛情の内だろう。時には身を引くことも──」
エクスは『一般論』として、異種族婚に関することを社会が受容しないことをあげる。
「そんなハードル飛び越えるのです」
親戚の、
アンカ・ダエジフが言い切った。
「ふたりの叔父であるお義父さんも、私の母に夢中なのです。カイザー家男子はダークエルフの魅力に魅入られるのですね」
「ぐ」
「兄さんは異種族婚を忌避する性格じゃないでしょ? ちゃんと向き合ってあげなさい」
その言葉に押し出されるエクス。
「そういう愛の形もある‥‥か」
エクスと入れ違いに調理の合間を縫い、ナインがやってきてアンカと相談を始める。
「大っぴらには言えませんが、コニー君が好みのドストライクだったもので、下心込みで日頃から生活の面倒を見ていました」
ナインはいわゆる、いわゆる十代後半が好きという傾向。
もはや二十代のナインは、コニーのような若者には相応しくないのではないか、という引け目。
「先日は弱音を吐くコニー君に思わず『私が婿に貰います』と本音を言ったのですが、六歳という年の差と、神職の慎みとで──ひと押しをためらっていたのですが‥‥」
アンカは笑って吹き飛ばす。
「ためらう必要なんてないのです。うちの母と義父なんて、歳の差が一世紀くらいですから、六歳差なんて同い年です。有無を言わさず食っちゃえばいいのですよ」
ナインの想いは、一世紀前後の年の差、という言葉に降伏した。
そして、ナインが退いてしばらくしてから、今度はコニーがやってきた。
「先日、フンドラゴラの遺跡で脱衣衝動に駆られる醜態を晒した時に、思わず『婿に行けない』と溢したら、ナインさんに『私が婿に貰います』なんて返されて以来、ナインさんの事が気になって‥‥ローレックの街みたいな、大都会の神殿に勤務する年上の神職と、その田舎くさい自分では釣り合わんと思うけど‥‥」
と、アステに持ちかける。
「大丈夫。ナインさんもコニー君の事を気にしてるから」
アステが真摯に返答するが、ネガティブなコニー。
「そりゃあ、こんな田舎者、気になるべ──もう『田舎者はそころの草でも食わせとけ』とか思われそうな‥‥」
「ふ、話は聞かせてもらったのです」
──アンカ参上。
「アンカちゃんは先ほど、遠縁の親戚から、年の差カップルの相談を受けたのです。行けるのです──この夜を逃したら、チャンスはないのです。新しい恋を探せるほど、あなたは器用ではなさそうなので、今の恋を思う存分燃え上がらせるのです」
コニーにアンカは、人差し指を突きつける。
「駄目もとでやってみるべ‥‥いや、やってみせる」
コニーの目に力がみなぎる。
「頑張るのです、男のコ! 惚れた相手には、自決か特攻の二者択一です」
コニーが去った後、アステとアンカはどのカップルから、のぞ‥‥監視するかの話し合いを始めた。そしてふたりは同時に胸中で漏らすのだった。
──彼氏が欲しい、と。
◆3
「‥‥まぁアレだ最初はなんでか分かりやせんでしたが、よくよくご贔屓頂きやして? まあ、サース嬢といるとあきませんぜ」
とは、月を見上げるソルの弁。
サース・エイソーアは笑みを浮かべる。
「そうなの? でも、‥‥本当に綺麗なお月様‥‥きっと願い事も叶いそうだね」
ふたりは月を見上げる、
「そう言えば、ソルさんが音楽を好きになったというか、はじめたきっかけって? ‥‥あ、言いたくなかったら言わなくても良いよ」
「いやはや改めると柄じゃないやら」
サースの言葉をさらりと受け流すソル。しかし、思い直す。
「いえですね、子供のころに色々あったんでさァ。ただ、いい師には巡りあえましたぜ」
ソルの言葉に、言い難いことを聞いてしまったのだと、サースは考える。
「‥‥そうなんだね。そんな師、お師匠さんがいたからソルさんの音楽は素敵だし、どんな内容でもそれが今のソルさんを形作っているのなら大事だよ‥‥」
「そう言われると照れますぜ──サース嬢は何で占いを?」
ソルは逆に聞き返す。
「ま、俺ぁ占いは信じないほうだが、そういう願掛けみたいなのはありだと思いやすぜ」
「私が占いをはじめたきっかけ‥‥」
サースは夢見るように言葉を紡ぐ。
「‥‥ずっと闇の中にいて、本当に偶に見る太陽が星や月や空が綺麗で‥‥それが私の光だった」
その言葉を黙って聞くソル。ただ、いいイメージだと、想いを刺激される。
「‥‥その時は占いの知識もなかったけれど、きっと良い事があるって信じていた」
彼女が見たものは昨日の夢、明日の希望。
「それがはじまり、かな‥‥その時の空にソルさんはよく似ているんだ‥‥」
ソルは自然と笑みを浮かべる。
「あ、あと、音楽をはじめた理由。ソルさんの音楽を聴いて、その音があの時の星の声に聴こえて、強く惹かれたんだ」
「俺にとって師や音楽てのは、おたくの言う仄かな光だったのかも‥‥は、口が滑りやした──まぁ俺ぁそんな大層なもんじゃありやせんし、爺さん、師もおたくも純粋すぎて心配になるぐらいでさぁ──けどそれが存外、嫌いじゃなかったようで‥‥歌いやしょうかね」
「ソルさん、いつもありがとう‥‥沢山のものを教えてくれて」
ソルはリュートを爪弾きながら、心の中で自身を整理する。
(そうやって自分で手を伸ばして光見つけて進んでく‥‥だから今此処にいる)
ふたりの会話が終わるのを待って、
セース・エイソーアが、入り込む。
「綺麗なお月様と曲! これならドラゴンさんもきっと来てくれるね!」
セースはシンプルに、綺麗なお月様を見て喜ぶ。
「それにしても本当に綺麗な空‥‥あっ!」
横切る影。それは翼を持っていた。優美な体が天空に舞う。
「あれ? もしかしてドラゴンさん? サースもソルさんも見てよ」
「ほんとでさぁ」
ソルは詩的とも言える、その姿に見ほれる。
「皆に素敵なことが沢山ありますように!」
セースの祈り。
「みんなに良い未来がありますように」
サースは願った。
「お嬢たちの願いを叶えてくだせぇ」
ソルの祈り。
そして、影は消えた。何処かへ飛び去ったのだ。
「こんな素敵な夜を忘れないよ」
セースは満面の笑みを浮かべた。
「‥‥本当に綺麗なお月様‥‥きっと願い事も叶いそうだね」
サースの心からの言葉だった。
◆4
「ドラゴン──」
赤い瞳で空を見上げるナイン。調理を終えて、それぞれが夜を過ごすときだ。
彼女はコニーから話があると言われていた。
(来るべき時が来た)
と、ナイン。
(ここでやらなきゃ男じゃない)
コニーは拳を強く握りしめる。
頭上には満月がきらめく。そして、それを横切るムーンドラゴンの影。
ふたりは正面から向き合い無言。ただ、心臓のみがビートを刻む。
「好きだ。一緒にいてくれ」
コニーのド直球な言葉がふたりの緊張を打ち砕いた。
ナインの白磁とも見える顔に一気に血が上り、手足を交えてのオーバーアクションが始まる。いや! そう見せて一気にナインはコニーとの距離を詰めた。
(やっぱりダメだべか‥‥)
しかし、コニーの首に手が回され、一気にナインはどアップに。
そして、唇と唇が互いに柔らかい感触を伝達した。
「!」
「お婿にもらうって言ったのです。責任は取ります」
ナインの瞳は捕食獣のそれであった。
ドラゴンは去り、ふたりを満月が照らすのみ。
「なんとも甘酸っぱい空間だべ」
まるでドラゴンが魔法をかけたように、とコニーは思った。
◆5
(綺麗なお月様! さあ、楽しむんだから!)
エクスはシースを伴って木の下に来た。
「シースちゃん、今晩はよろしくね」
明るいエクスの言葉だが、何かの想いを秘めたようだ。
たしかに呼ぶときも話がある、と言っていた。
「お月様が綺麗‥‥きっとドラゴンさんも来てくれるはずなんだから!」
シースがそういった時、満月をかすめるように、ムーンドラゴンの影が見えた。
「ドラゴンか」
「ドラゴンだよ」
ふたりの言葉は大して変わらない。
それからふたりはムーンドラゴンが見えなくなるまで、半ば放心したように視線で追っていた。
ややあって、シースが問う。
「そう言えば、お話って何?」
「人とダークエルフは生きる時間が違う、だが」
おおざっぱにダークエルフは人の三倍生きる。そのことを改めて、大事なヒトから言われたシース。
頬に熱いものが伝う。
シースは、当たり前すぎて気付いていなかった事と、聞かされた言葉に涙が出てしまう。
しかし、シースは、涙をぬぐう。
「‥‥そんな事を気にしていたの? 私は別に気にしていないんだから! 短くても長くても変わらない! どう生きるか、どう生きたかが大事なんだから! ‥‥──だが?」
シースはエクスの言った『だが』という言葉に思いとどまった。
エクスは照れくさそうに──しかし、真摯に、そして少年のように。
「私の方が先に老い、君を残して逝く事実は変えられない。それでも私が生きている束の間だけは、私の傍にいてくれないか? 私がいる限り、私が君を守り続けよう」
エクス自身はまるでプロポーズのようだ、と自分ツッコミを入れてしまう。
「当たり前だよ! もうキャンセルは出来ないからね! 嫌だって言ったってずっと、最後まで一緒にいるからね!」
カイザー家の血はネタに走らせる。これもネタか? いや──覚悟だ。
エクスはそんなことを思っていた。
「守られているばかりの私じゃないんだから、覚悟してよね!」
シースは、強気な目で大事なヒトを見る。
一緒にいる時間が当たり前で大切になるように。
(私は泣かない。短くても大事な時間を過ごすんだから)
シースの決意はエクスにも伝わった。
でも、触れあわない。想いは言葉と視線で十分に伝わるのだから。
「よろしく頼む」
エクスは照れくさそうに言った。
それが同じ時を生きる方法。
それだけが同じ時を生きる方法。
それぞれの愛の形を確認した男女。
エルム夫妻は満足して、オーディアに帰った。
ミッションコンプリート。
しかし──ハウンドの冒険は‥‥つづく!
7
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参加者
| | a.自分で掴んだモンだとは思いやすが、ま、それもいいんじゃねぇですかぃ?
| | ソル・ラティアス(da0018) ♂ 28歳 人間 パドマ 月 | | |
| | c.見守り隊、出動! ハァ、私も彼氏欲しい…(本音)
| | アステ・カイザー(da0211) ♀ 27歳 人間 カムイ 水 | | |
| | a.ハァ、なんとも甘酸っぱい空間だべ(思わず訛る)
| | コニー・バイン(da0737) ♂ 23歳 人間 マイスター 月 | | |
| | a.どんな内容でも、それが今の貴方を形作っているのなら大事なものだよ…。
| | サース・エイソーア(da0923) ♀ 20歳 ライトエルフ カムイ 月 | | |
| | c.綺麗なお月様!
| | セース・エイソーア(da0925) ♀ 20歳 ライトエルフ カムイ 陽 | | |
| | b.綺麗なお月様!さあ、楽しむんだから!
| | シース・エイソーア(da0926) ♀ 20歳 ダークエルフ マイスター 月 | | |
| | b.シースちゃん、今日はよろしくね
| | エクス・カイザー(da1679) ♂ 30歳 人間 ヴォルセルク 火 | | |
| | c.見守り隊という裏方で、覗きを楽しむのですよ
| | アンカ・ダエジフ(da1743) ♀ 26歳 ダークエルフ パドマ 水 | | |
| | c.何ともロマンチックな話であるな。この幾夜を詩歌に記そうではないか。
| | オズ・ウェンズデイ(da1769) ♂ 25歳 ライトエルフ マイスター 月 | | |
| | b.皆様、甘々でも慎みは守りましょう(守る気なし)
| | ナイン・ルーラ(da1856) ♀ 29歳 人間 ヴォルセルク 水 | | |
カップル限定?
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月のドラゴンは不思議な力を秘めている──という。想いを伝えるものかもしれない。それとも一歩踏み出す勇気か?
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