オープニング
◆千の顔を──
港町のウラート、そこにハウンドたちは訪れていた。
ちょっとした海鮮物を味わおうという趣向だ。
趣向通り、海産物を味わった、シフールのガーベラは、奥まったところにいる──多分、女性と思える影に目をやった。
流行っている娼館『黒水晶亭』の前にいる彼女──フードをすっぽりかぶり、手のみを出したローブ姿の影だ──小さな卓の前に座り、目前の水晶球に手をかざしている。
占い師だろうか?
ガーベラが行くと、声を低めた女性と思える声が響く。
「そこの羽根妖精──私の話を聞けば、金運が巡りますよ?」
「なんや? うらないきいたら、かねとるりょうけんやろ」
ガーベラにしては知性に溢れた意見だ。聞いていたハウンドたちも視線をやる。
「後払いでけっこうですよ? 今日中に儲けが出なければ──タダです」
「うちのすきなことばは『もらう』『やすい』『ただ』や!」
「それでは──」
占い師はハウンドたちの金運に関する情報を渡した。
占い師の名は千の顔のレティス。
ウラートの暮明への案内者だ──ただ、ガーベラは気づいていないが。
◆銀の十字を持つ男
「だから、キャプテン──ダーナ崩れとはいえ、魔法を使える人間がいればラクだろう? あんたの用心棒に私がなってやるよ」
曲刀を腰に差した中年男が頬に描かれたXの刺青をさして、目の前の若い男に持ちかける。
「うーむむ」
占い師が指名したのは、今日の正午に『酔いどれイルカ亭』という裏通りの酒場で、海賊船船長のホエール・ワッチと、ダーナ崩れの剣士シルバー・クロスが話し合うということだった。
占いは当たっていた。いえ、ただの情報を占いと称して教えたのかもしれないが、このごったがえす店に席を取れたのは幸いだった。
ホエールは海賊であり、少額とはいえ懸賞金がかかっている。
シルバーはダーナ上がりでいまだ魔法を使う身だ。
なんでも火属性のヴォルセルクという。
彼は変幻自在の体術に魔法と素手戦闘を組み合わせたもの。特に蹴りは『銀の右足』と言われたほどだ。
「なかまとごうりゅうしてから、たたいたほうがいいんとちゃう?」
ガーベラがそこまで言ったところで、シルバーと視線を合わせてしまった。
汗を垂らすガーベラ。
全てを悟ったシルバーは気合とともに、テーブルをひっくり返す。
食べ物や飲物、そして皿と食器がぶちまけられ、激しい合唱をする。
「逃げろ!」
シルバーがホエールに促す。
鴨がネギを背負ったような状況は次にいつ来るかは分からない。
だから──ハウンドの戦いが始まる!
選択肢
マスターより
成瀬です。今回『も』ウラートです。謎のおねーちゃんが出てきていますが、情報は正しいようです。
今回は魔法を使う人間が相手です。皆さんと同じように思考できます。
つまり、準備に時間を取られると、向こうもパワーアップするということです。
なお、持続時間が十分以下の魔法を準備していることは出来ません、あくまで未確定情報です。
どうしても魔法を準備したいというなら、予備に数回分魔法を使ったということで余計にMPを減らします。
相手も警戒レベルが上がりますので、魔法を準備するかもしれません。
互いにMPも減りますので、その辺は皆さん次第。
さあ、戦いの幕は上がったぞ!
登場キャラ
◆必殺の0.1秒
「カウンタースペル」
淡々としてる様にすら思える、
パルティ・フォルトゥナの魔法が成就した。
この間、実に0.1秒。
シルバーは成就しようとしていた、ルミナパワーを打ち消され、魔力を無駄に消耗する。
素手戦闘では、ルミナパワーの有無は大きな要素となるのだ。
(店ごと吹っ飛ばしたい気分ではあるケドね!)
魔法の杖──ストームドラゴンの角から削りだされた──を振るうのは、
アルマリア・アリアンロッドだ。
逃げ出そうとする海賊リーダー、ホエールの背中に向けて精神を集中する。
(ごめんなさい、アザリー──私が付与できる魔力はないの、自分だけなのよ)
アルマリアのレジストアース、ファイアワールドの魔法による地への抵抗、火への抵抗は自身にしか付与できない。
愛しい、
アザリー・アリアンロッドを守ってやることは出来ないのだ。
(ガーベラのツキに賭けるわ。外さないでね)
カスミブレードを抜刀して、アザリーが肉迫する。
占い師の占いはここまで当たっていた。
極め技に持ち込みたいところだが、ぶちまけられたテーブルの上のもので、床の足場は良くない。お互いにマウントを取られかねない不確定さだ。
「よし! 先手必勝、勝負だ」
相手が素手で戦うのなら、同等の立場で戦うのがハウンドの、そして勇者の矜持──。
エクス・カイザーはそう考えて、シルバー目がけて、一気に突き進む。
「お前が白銀の脚ならば、私は黄金の手!」
「面白い! ケイコつけてやる、若造が!」
「吼えるなロートル」
両手のナックルにものを言わせんとする、エクスに対し、上段蹴りから、膝の柔軟性を活かした見事な体捌きで対応するシルバー。
「なるほど、戦技魔法に頼らずとも──戦技を使いこなすのだな」
そこにアザリーが突っ込む!
「悪党に手を貸すなんて、戦士としての誇りを忘れてしまったようね」
「誇りでメシが食えるか! ハンターは獲物を狩ってナンボだ」
カスミブレードを見切った瞬間──焦るアザリー。
思ったより手練れかもしれない。先ほどのエクスの会話ではないが、伊達に年はとっていないということだ。
「がんばるんやで、アザリーはん」
応援するのは、
ガーベラだ、まあ友情はプライスレス。
「刹那の見切り──甘い! 受けよ風車」
エクスが一瞬、そして一点の好機を逃さず、投げ技に入る。
手ごたえはあった──しかし、投げられたシルバーは、投げられるだけではなく、放られた先の壁を蹴る、三角跳びに似た形で乱戦から抜けた。
「さて──何をして遊ぶのかな?」
シルバーは不敵な笑みを浮かべた。
「ちょっとーオヤジィー食べ物を粗末にするなって叩き込まれてこなかったの? えっ僕? 有事の時は仕方ないよね!」
水筒の水を使ってローレライを成就した、
リザ・アレクサンデル。
心に棚を持つ若者である。
その手にあるのは水の剣、ブレードofローレライだ。
「やれやれ、地力が無いとこういう時に困りますね──そういえば以前、テーブルをひっくり返したのはリザでしたね‥‥?」
ホエールの方に向かうのは、
ベドウィール・ブランウェンだ。
べドウィールは、アルマリアの意図を汲む。
彼女に魔法を撃ちこませる。そして、自分の攻撃で魔力を削り取り、気絶させる腹。
本来は速攻で仕留めるつもりだったが、今はミタマギリの魔法を成就に専念。魔力を刈り取れば、気絶は免れない便利な魔法だ。
次の瞬間、アルマリアの魔法の杖から、雷が迸る。ホエールを捕捉し、周囲の石壁で力が消滅するところまで計算通り。
「やったの!」
アルマリアが(精神的に)手ごたえを感じたが、苦痛に身もだえしつつ、ホエールは走ろうとする。
◆永遠の三秒
「当たれ!」
リザがブレードofローレライを振ると、水流が伸び、シルバーを襲撃。
しかし、彼の耳飾りを打ち砕くにとどまった。これでも精霊の加護があるのだろう。
一方パルティはシルバーが魔法を準備する様子がないのを確認する。
どうやら、シルバーはカウンタースペル勝負を挑む様子はないらしい。
もっとも、これが団体戦ならカウンタースペルを誘うことを考えて、敢えて魔法を行うかもしれない。
しかし、自分ひとりだとそうはいかないようだ。
なので、パルティはシノビクロスの準備に入った。
次にべドウィールがホエールに向かい、ミタマギリの魔法を付与したグリーヴァライモンを投てきする。
死角からの一撃はホエールは回避しきれない。魔力は削れなかったようだ。
ホエールの魔力が大きいのではなく、単純に悪運だろう。
これも精霊の加護と言えば加護かもしれない。
一方、シルバーの方は、距離を詰めたアザリー、そしてエクスと競り合っている。
アザリーの剣撃を恐れぬ豪胆さと、エクスの『必殺風車』をいなす体捌きで少しずつ、距離を詰めていく。
「セメるオトコは嫌いじゃないわ。でもね、賊はおぞましくってよ?」
アザリーが一気に飛び込む! 敢えての誘いとエクスは見抜く。
(俺も勇者だ。ヒロインの気概には応えよう!)
決意のエクス。それを信じた、アザリーが優雅ともいえるほどの足さばきでシルバーの足技、必殺の間合いに侵入する。
アザリーの側頭部を刈り取る蹴りが放たれる。その一撃を受けることも計算の内!
軸足に手を伸ばし、絡めとり動きを封じる。
カウンター勝負は相打ち──ならば勝利を決するのは?
(自信をもってやり切ること、それがアザリーの犠牲を無駄にしないことだ)
エクスは手を伸ばす。
「獲った‥‥風車改──真空風車」
シルバーの動きを封じたところに、エクスの投げ技が決まった!
天井に向かい放り投げる。
「──チェックメイト」
シルバーはそのまま落ちてきた。今度は精霊の加護はなかったようである。
◆終わりなき平和
「だいじょうぶ? あざりーはん」
ガーベラがバッグから回復薬を取り出し、アザリーに飲ませようとする。
「──‥‥」
アザリーが何かガーベラに告げた。
その間に、ブレードofローレライが弧を描いて、ホエールにヒット。ダメージの蓄積でホエールは気絶した。
「お仕事完了ね──アザリー大丈夫なの?」
アルマリアはガーベラから回復薬を受け取ると、彼女ははアザリーに口移しで回復薬を飲ませる。
さすがに騒ぎになり、遅めではあるが、ウラートの衛兵もやってくる。
ハウンドの証明である木札を示し、一同はホエールの身柄と引き換えに、そこそこの臨時収入を得た。
手近な料理屋に入る。
「どうやら、シフールのツキは金運じゃなくて健康運だったようね?」
アルマリアが銀髪を包帯でおおっているアザリーをからかう。
「お姉さまに占ってもらえばよかったわ」
「しかし、アザリー、キミが亡くならなくて良かった」
エクスが心配そうに語る。
「大丈夫、大丈夫。みんな生きてるんだし」
リザがそう言って屈託のない笑みを浮かべる。
「ええ、結果論ですよ」
べドウィールがリザに注意を促す。
パルティが思ったのは──。
(ルミナパワーとか使われていたら、アザリー死んでたじゃねぇか)
結果として勝利したからいいのだ。
パルティは戦うのが嫌いとまではいかないが、勝利する事の方が大事である。
そこにリザの注文で、コップが渡された。
女給曰く。
「あちらのお客様から」
見るとリザもコップをかかげている、パルティもコップをかかげた。
そんなこんななウラートの日々は終わりを告げる。
──しかし、ハウンドの戦いは‥‥つづく!
7
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参加者
| | a.ガーベラのツキに賭けるわ。外さないでね。
| | アザリー・アリアンロッド(da0594) ♀ 29歳 人間 ヴォルセルク 月 | | |
| | b.逃しはしないわ
| | アルマリア・アリアンロッド(da0672) ♀ 35歳 人間 パドマ 火 | | |
| | a.役割的にはこっちかな?ローレライ成就できそうなら後衛になるかも
| | リザ・アレクサンデル(da0911) ♂ 23歳 人間 ヴォルセルク 水 | | |
| | c.ひとまずは逃げられないよう、ホエールをマークしてみましょうか。
| | ベドウィール・ブランウェン(da1124) ♂ 27歳 人間 ヴォルセルク 月 | | |
| | a.よし、先手必勝だ!!(脳筋ともいう)
| | エクス・カイザー(da1679) ♂ 30歳 人間 ヴォルセルク 火 | | |
| | c.魔法?唱えられたらいいけどねぇ。(ニヤリ)
| | パルティ・フォルトゥナ(da1820) ♀ 42歳 人間 パドマ 水 | | |
酔いどれイルカ亭で乱戦が!?
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もう、迷惑です。昼間のかき入れ時ですのに、よそでやってください。え!? 海賊と無頼漢の商談ですって──よそでやれー!(店の主人談)
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