【HH02】ピョンなパニック

担当K次郎
出発2020/01/25
種類グランド 冒険(討伐)
結果大成功
MVPヴェスパー・ベント(da1605)
MVSエア・カイザー(da1849)

オープニング

◆ウーディアよりの知らせ
 Xmas普及に合わせ、各地を行脚し、様々なダークサイドを研究してきたハウンドギルド。まだ、明確にディスミゼルの方法が見えてきたダークサイド種はいないが、どこかにターゲットを絞り、研究し、ディスミゼルの実績を重ねたいところだ
 そんな矢先、緊急依頼が飛び込んでくる。
 その知らせはギルド職員の耳に入ると、すぐさまギルドマスターであるジークフリート・マクールへと報告が為された。
 つまり、それだけデカい案件だ、ということだ。
「動けるハウンドに召集を掛けろ。向かう先はウーディア東部。魔物に農村が襲われている。目的はその救助と‥‥原因の排除だ」

登場キャラ

リプレイ

◆出撃、ダギト討伐隊
 地上を支配するのは俺たちだ、と言わんばかりに展開するカエルども。そこへ突撃するは、もちろん我らがハウンドだ!
 あ、いや、なんか出撃に手間取ってる?
「で、どうするんだい?」
 セイ・ローガンエクス・カイザーに問い掛ける。
「あのダギトを倒さねば、罪も無い村々が危ない! だが、ここは堅実に地上を進もう。そのために‥‥馬車だ」
 勇者たるものあの怪物は見過ごせないが、急いてはことを仕損じる。
「そりゃわかるけど、肝心の馬車は?」
 更に問うセイに対しエクスは周りをキョロキョロした後、何かを見つけて、手を挙げる。
「こういうときは、ええと、なんと言えばいいんだ? へーい、彼女! 乗せてかない?」
 などと声を掛ければ、馬車は止まってくれた。
「早く乗ってください。奴さんにハウンドの恐ろしさを見せてあげましょう」
 快く応じてくれた馬車を御するのはマリカ・ピエリーニであった。
 ありがたく乗り込むエクスたち。
「はぁー、なんか快適だねぇ」
 シートに座れば何やら超快適。およそ戦闘向きではない大型馬車である。乗り心地抜群の豪華ソファーに身を委ねセイの意識がちょっとフワフワしかけた。
「カエルが集まってきたわ!」
「!」
 だが、マリカの声はセイを直ぐに戦闘モードの意識を引き戻す。
 蹴散らすか?
 それとも、強引に突破するか?
「ここは私と下僕が突破口を切り開くのです」
 いや、ハウンドには頼もしい仲間がいるのだ。
 友の声がする、セイは馬車から顔を出すと、アンカ・ダエジフのその雄姿を瞳に映した。
「―――ヴィンドスヴァル!」
 アンカが巻き起こした吹雪がカエルどもを包み込む。
「ダークサイドといえどもカエルはカエル。冷気に弱いのは明白なのです。これも全てダークエルフたるこのアンカちゃんの明晰な頭脳による完全な推理‥‥って、あれ?」
 特に冷気に弱いわけでは無さそうで、カエルは動きを鈍らせつつも襲い掛かってくる。
「うぉー! 俺はやるぜ!」
 だが、そこに割って入るのはシーザー・ハスキーヌ。とにかくやる男だ。アンカの下僕というのは彼のことらしい。
「それじゃ、アンカ。進路の整備は頼むよ」
「任されたのです!」
 アンカに発破を掛けるセイ。それに応えるようにアンカのヴィンドスヴァルが再び唸る。
「さあ、行きましょう」
 道は拓けた。
 マリカは手綱を握る手に力を込めると、馬車は前進を始めるのだった。
 ハウンド、いざ出陣!

 一方その頃。
(ね、ねぇ、ロズ。もうすぐなの?)
 やや不安気なリーリエ・アルベールの声がロザリー・アルベールにムーンカムを通して伝わってくる。
 彼女らは騎兵団『白キ翼』。故に今はグリフォンを駆りて飛ぶ。ダギトに向かい一直線。空には遮るカエルなどいない。
 ただ、速い。とにかく速い。風の抵抗はやはり凄い。リーリエはしっかりと目を開けられず視界がイマイチだった。
 ならばもう少しスピードを落とせば、とも思うが、襲われている村を守る仲間がいる、そのために一刻も早く決着をつけねばならないのだ。
 それに‥‥彼女らはしっかりとダギトに向かって飛んでいた。
(そろそろだよ、リリィ‥‥カウント‥5‥4‥3‥)
 カウントダウンを始めるリーリエ。それは何を示すのか。
(2‥1‥接敵! 行くよ!)
 ロザリーには目をつぶっていてもわかっているのだ。ダギトの方向と、距離が。
「ドンピシャ!」
 それが、ルミナリィの力。ダギトは、すぐ目の前。
「散開!」
 二頭が身を翻し避けるのは、そのあまりにも巨大な口から飛び出て来た‥‥舌だ。
 そう、空からの移動は速い。既にダギトとの戦端は開かれたのである。

「あ、始まった」
 ダギトとの戦いの様子を眺める者たちがいる。
「よく見えますね」
 セヴラン・ランベールリコ・ポートマンの目の良さに感心する。
 彼らはダギトを観察し、そのディスミゼルの方法を探る役目を負っているのだ。
「まず、普通のジャイアントトードとダークジャイアントトードの違いですが‥‥ダークは舌が3つあります。そこが大きな違いでしょうか」
 とセヴラン。
 なるほど、その辺を徘徊している中で舌が3つあるやつはダークということなのだ。
「あのデカいのも舌が3つあるな」
 リーリエたちのグリフォンが舌の攻撃を回避するのを見てリコが呟く。
「ディスミゼルについては‥‥そうですね、その種族の特徴、大事なことが鍵となるでしょうか。舌の数もそうですし、そのいたぶるように攻撃する性格‥‥他の種族だと、犬の場合は腹を撫でる、でしたか? 何かカエルに関係することもあるかもしれませんね」
 推測の域を出ないが、様々な考えを巡らすセヴラン。色々と試せるが、逆に時間も掛かるだろうか。
「ふむ、舌に変化がある、ということは呪いは口や食欲関係では? あの巨体だし、食べる量も凄そうだ。もしくは‥‥あ、いやこれはどうかなぁ?」
「これ、とは?」
 何やら言い淀むリコ。
「呪いでカエルになった者をキスで元に戻す、なんて伝承も聞いたことがある」
「‥‥アレに、ですか」
「ま、まあ、試すチャンスがあれば、だが」
 今はまず戦ってアレを止める必要があるだろう。
「出来ればもう少し近づいて観察したいですね」
 ここからでは十分な観察は出来ない。どうにかならないかと周囲を見回したセヴランが見つけたのは‥‥一人、カエルを避けながら進まんとするソレイユ・フォリーの姿だった。

 ダギトに向かって進む地上部隊は多くのカエルに阻まれていた。
「―――ファイアボム!」
 いや、あっという間に焼きガエル。
「ふふっ、派手にぶっ放せる機会だもの‥‥私を愉しませてよね」
 瞳を妖しく輝かせながらアルマリア・アリアンロッドが髪をかき上げ、自らが放ったファイアボムの熱気を払う。
「一気にイくわよ、姉様」
 吹き飛んだカエルの間隙を縫ってアザリー・アリアンロッドが操る馬車が駆け抜けるのだ。
「ええ、どこまでイきましょう」
 妹の御者としての技量を信じ、アルマリアは馬車の上から敵の排除に集中する。
「でも、少し道が悪いわね」
 ここは街道ではない、道なき道を進むが如し。
 馬車で行ける限界があることもアザリーは覚悟していた。
「固まってきてくれないのね」
 今度は四方から迫ってくるカエルにアルマリアは形の良い眉を顰めた。ファイアボムでは効率が悪いか。馬車にはアザリーが据え付けた特殊な巨大壺があって、ちょっと複雑な手順を踏んで魔力の供給を可能にしてはいるものの、無駄撃ちは避けたいところだ。
「ここは任せてもらおう」
 しかし、そこに吶喊してくる重装備の戦士。
「はぁぁぁっ!」
 起伏がある足場をものともせず駆け付けたアリシア・コリンのロングスピアがカエルを貫いた。
 身体を回転させ、貫いたカエルを強引に投げ飛ばすと次のターゲットに向け、身体ごと浴びせるように飛び込んでいく。わが身を顧みぬ強引な攻めだ。
 するとそこへ、カエルどもが次々と襲い掛かってくるではないか。
 カエルはアリシアに向き、道が出来る。馬車は駆け抜けるのみ。
「どうやら今日の私はカエルにモテるようだな」
 ふっ、と微笑むアリシアに襲い掛かる無数の舌、舌、舌。そんな攻撃を受けたらタダでは済むまい。
「大丈夫かしら?」
「姉様、今は進むのよ」
 しかし、アリアンロッド姉妹は振り返らない。ダギトへ向かう露払いをする者たちの奮闘を無駄にしないためにも。

「例のモノはまだかい?」
 ヴェスパー・ベントの馬車の出発は遅れていた。何かを待っているようだが‥‥。
「っ!」
 モタモタしているとカエルが集まってきてしまう。
「掃除をいたしましょう!」
 ぐしゃ、という言葉がしっくりくるほどの一撃をヒュージクレイモアで繰り出したのはエウロ・シェーアだ。
 ヴェスパーの馬車に近づく敵を粉砕する。
「どうやら準備が出来たようですわね。わたくしが援護いたしますので、参りましょう」
 近づくカエルの攻撃をかわさず、いやかわせずに、しかしその鉄壁の守りを通さずに受け止めるエウロ。これは頼もしい護衛といえる。
「よーし、出発だよ!」
 動き出す馬車。そのスピードはそんなに速くない。
「まだいたのですね、さっさといくのです。キッチリ援護するので」
 出撃場所で皆の進撃を支援していたアンカだ。
「では、こちらの持ち場はお譲りしますので」
 アンカに後を託すと、エウロも馬車に飛び乗った。
「俺はやるぜ! やるぜやるぜぇ!」
 アンカを守るように立つシーザー。敵が群がってくれば、ハルバートをぶん回しこれ以上は近づけさせない。
 その脇から魔法の杖が伸びた。
「―――ヴィンドスヴァル」
 本日何度目かの吹雪がカエルたちから活発な動きを奪う。
「行ったようなのですね」
 チラリと馬車が走り去るのを見届けると、アンカは小さく頷いた。これでダギト討伐隊のハウンドが皆、ターゲットに向かって進軍していった。あとは、無事に辿り着いて、そして勝利してくれればいいのだが‥‥。
「‥‥もうひと仕事頼むのですよ」
 いや、アンカたちもその後を追う。
「途中で足止めを食っている仲間がいるかもしれないのです」
 果たして、ハウンドギルドの精鋭たちはダギトに辿り着き、そして勝利をつかむことが出来るのか!?

◆ハーラ村危機一髪
 カエルの襲撃を受けたハーラ村を救うべく、現場へ急行するハウンド。
 真っ先にフライで現場を眼下にしたサレナ・フランセットは声を失った。
「‥‥」
 そこはカエル天国。だが、人々にとっては地獄。
 村や畑を荒らすだけならまだしも、家を壊し、村人や家畜をいたぶるように攻め立てる。
(これはー‥‥どうしましょー)
 先ずはどこから手を付けるべきか、迷うサレナ。医療の心得はあるが、恐らくそれは今すぐ使うべき状況ではない。
 どうする? 自分だけでは‥‥。
「びゅーん!」
 そこへ追いかけて来た小さな飛行体。
 鳥か? いや、シフールのフラールだ。
「うわっ! 大変だね、カエルさんたくさん!! ちょっとだけ待って」
 と、フラールは何やら魔法の詠唱に入ると‥‥。
「テレパシーでこれからくる人たちにつないだよ‥‥うん、わかった。まずは村の人をひなんさせよー!」
 もうすぐ仲間が来るはずだ。まずは自分が出来る範囲で動くしかない。二人は空中から村の様子をぱっと見て人が多い場所へと向かう。
「助けに来たからー、大丈夫よー」
 真っ先に転んで泣いていた子供とそれをあやす母を見つけ降りていくサレナ。
「痛いのとんでけーですよ、今はこれが手一杯、もう少し我慢してくださいねー」
 怪我をしている。布で止血をし、母に託す。
 本格的な治療はこの場では無理だ。だが、あとで、必ず!

 そして、地上を移動してきた者たちも辿り着く。
「ダメだよ!」
 馬の足音、そして、危機感を発する叫び。
 レナ・ゴールドマンは戦闘馬を駆ると、村人にのしかかっていたぶっていたカエルに魔法金属で作られたハンマーを振り抜いた。
 馬上からのバランスの悪い武器での攻撃だが、レナは両足だけで馬体を挟み自重を支えると、バランスを崩さず武器も馬も操ってみせる。
 これがライドマスターの本領発揮。
「立てる? 味方が来るまで、そこの家の陰に隠れてて!」
 村人もどうにか動けるようでレナの言葉に従い、物陰に這っていく。
 ほどなくして徒歩の仲間たちも到着だ。
「わふぅ!!! ‥‥うぅぅぅわん!!」
 駆け付けたアレックス・パーリィは村の様子を目にし、普段は大人しい彼も怒りを込めて吠えた。
 直ぐに、直ぐにみんなを守らないと!
 目の前にいた手近なカエルに向かって駆け出そうとする。
「落ち着きなさい」
 だが、そんな彼を義兄であるセシリオ・レヴナントが窘める。
「わふぅ」
 義兄の落ち着いた声にアレックスも冷静さを取り戻す。
「まずは襲われている村人の救援を。人を襲っていないカエルはひとまず後回しです」
「わかったよ」
 ならば、と周囲を見回せば、逃げ遅れたらしき老婆と、近づくカエルが。
「おばあさん! 今行きます!」
 今度こそ、と走るアレックスの横を矢が流れるように抜けていく。
「援護するよ」
「お願いします」
 それはパライソ・レヴナントが放った矢だ。
 アレックスはそちらを向かず背中で応え進む。後方からの援護があるならば自分は盾になるまでだ。
「とりゃー!」
 が、中には援護射撃ではなく敵陣に飛び込んで弓を使う者もいるわけで。
「シューーーート!」
 プロキシマの戦技を使ったアステ・カイザーの放つ矢は、格闘戦の間合いであっても敵の肉を確実に穿つ。長さ2.2mほどの弓を操り接近戦を行うのだ、簡単なことではない。
「!」
 アステの横合いからカエルが仕掛けてくる。
(間に合わない!)
 剣なら振り向きざまに斬れるが、弓では矢をつがえるロスが発生してしまう。
「はっ!」
 だが、閃く刃がアステに代わりカエルを斬り捨てる。
「アステちゃん、突出しすぎないで」
「は、はい!」
 アステの隙はエア・カイザーフォローしてくれるので安心だ。
「じゃあ、このままカエルを引き付けます」
「了解」
 一人で飛び込むのは危険だが、仲間のフォローがあれば十分に戦える。
「おっと、こっちは大丈夫そうだな」
 と向けた矢を一旦下ろすアキ・フィッセル。アステを援護しようとしたが、助けが入ったのならば大丈夫のようだ。
 ならば、と今度は別のカエルに向けて‥‥迷いなく矢を放つ。
「ビンゴ」
 命中したそれはカエルにサクッと突き刺さり、誰がやった、と言いたげにこちらを向いてきた。
「さぁこいよ」
 言葉は解さないだろうが、挑発はしてみる。こういうのは気分の問題だ。
「よし、今のうちに行こう」
「はい、走るのです」
 カエルの注意がアキに向いた隙を縫って走るのはゴンスケ・アステールイッヌ・アステールのアステールブラザーズ。
「動けるかい?」
 そう言って倒れる村人に近づいたゴンスケは何故か手にしたメイスで怪我人を小突く。
「ううっ」
 それは僅かに怪我人の傷を塞いだ。癒しの力を持つメイスなのだ。
「結構な怪我みたいなのです。―――キュアティブ」
 メイスでは足りなそうだ、と判断するとイッヌはすぐさま魔法を使う。すると、村人の怪我は癒されていく。
「よし、これでいいのです。走れるのですか?」
「あ、ああ、それより‥‥オラの、オラの羊たちを‥‥」
 と村人が指差した先にはカエルの襲撃に右往左往する羊たちがいるではないか。
「よっし、ここは僕の出番だな」
 ここはゴンスケお得意のエンパシーでアニマルズと素敵なスキンシップ。
 などとやっている暇はないので。
「よーし、よしよしよし」
 羊を宥める。
「ん、村のこっちの方ってのは‥‥あああの尖った山が見える方へ逃げろって、わかったよフラール君」
 どうやらフラールからのテレパシーのようだ。比較的カエルがいない場所を見つけたらしい。目印は尖った山の方へ向かえ、と。
 さあ、別の村人を助けに行こう!

 村の中でハウンドとカエル軍団の激しいおしくらまんじゅう。果たして、押し出されるのはどちらか?
「ここは通しません!」
 堅牢な盾がカエルの進撃を阻む。
 アレックスは魔法と鎧でカエルの舌による攻撃を受け止めると、グリーヴァソウリュウを脳天に振り下ろす。
「わふぅ!」
 倒した!
 いや、まだ動く。
「これで、とどめです」
 脇から繰り出される真銀の槍。セシリオの一撃でカエルは動かなくなった。
「妙ですね‥‥」
「え、何が?」
 変だ。セシリオは気付く。
「何匹か倒しましたが‥‥そんなに数が変わっていないような‥‥」
 減らしている筈だ。だが‥‥。
「大変ですー」
 空から聞こえる声。
 それはサレナのものだ。
「村の周りにー、ケロケロさん増えてますー」
 なんと、襲撃の第二波が来たようだ。
「えーい、こないでくださいー!」
 サレナの杖の先から稲妻が迸り、地上の何かを撃っているようだ。
 崩れた家などで見えないが、あのあたりにカエルが増えつつあるのだろう。アレックスたちの周りに来ているのもその一部だと思われる。
「え、増えたのですか?」
 その報は、フラールのテレパシーと声かけによってハウンドたちに拡散される。
「急がないとなのです。ええと、そこの人は、この人に肩を貸してあげて欲しいのです。あ、そっちの人は一人で動けるです‥‥?」
 急がないといけない、普段はマイペースのイッヌだが、ここは怪我人たちの状態を見ながらその尻を叩く。全ての村人をハウンドだけでなんとかすることは出来ない。彼ら自身に生き残ってもらわねばならないのだ。その手助けは出来る。
「僕もキュアティブが使えればよかったんだけど」
 とはパライソの弁。
「いえいえ、応急手当だけでも助かるのです」
 アンチドートならば使えるが、幸いなことにこのカエルどもは危険な毒や厄介な能力を有していないようである。
「っと、これでよし。歩ける?」
「うん」
 足を挫いたらしき少年の患部に添え木をし、布で縛るとどうにか歩けるようだ。
「よかった。じゃあ、みんなとあっちへ行って」
 とパライソが示す先には何かが浮いている。
「あ、シフールだぁ」
 手招きするフラールを見つけて足の痛いのも忘れ駆け出す少年。どうやら手当てが上手くいったようだ。
「ふぅーーーっ、ペースをあげなきゃなのです」
 救助活動は比較的上手くいっている。だが、まだまだ敵が増えるとするならば、予断を許さない状況だ。イッヌは大きく息を吐き、次の要救助者の元へ向かうのだった。

◆守れオーキ村
 オーキ村に辿り着いたハウンドたちは、村人の歓声に迎え入れられていた。
「ああっ、ハウンドの方々、どうか村をお救い下さい!」
「あれがハウンド? すげーや!」
「ああっ、救世主っっ!!」
 などなど。
「これは中々、重い期待ですね‥‥僕はただの農耕士なのに‥‥」
 あまりの期待感の高さに、コニー・バインは思わず武者震い。
「これもXmas普及活動でハウンドの噂が広まったからでもあるのだろう。仕方がない、か」
 と、ディオン・ガヴラスは肩を竦める。
 その期待とは裏腹にちょっと不安な面もあるわけで‥‥。
「カエルどこかなぁ? 明日の晩御飯はカエルのお肉だよね! がんばってたくさん獲ってにいちゃんに褒めてもらうんだー!」
 などとのたまうエルネスト・アステール。まったくもって彼らしいといれば彼らしいのだが。そう、ジャイアントトードのお肉はかなり美味しいらしいのだ。ハーラ村に向かった兄が別れる前にそう言っていた。そして、ダークサイドとなってもそれは美味しいらしい。これは期待せざるを得ない。
「まだぁ、カエルさんは来てないみたいですけどぉ?」
 キョロキョロ、と見回している割にのんびりとしゃべるリコ・マウリオラ。一見何だか頼りなさげにも見える。
「大丈夫だろうか?」
「いや、でも、ハウンドさんたちだし‥‥」
 と、彼らの様子に不安気な村人たちもチラホラと。
 そんな村人たちの前にふわふわと躍り出たのはリリィである。
「だいじょうぶよ! このノワールはすごいつよいんだから!」
 ノワール・トゥーナインを指して太鼓判。
「ん、いや‥‥そうだな。おぬしらは必ず守り抜く。そのために我らは来たのである」
 ここは村人を安心させるために乗っておくべきか。ノワールは任せておけ、と自らの腕をポン、と叩いた。
「そうだよ、これはまさに事件。そう、カエル集団襲撃事件! それを解決するのは僕らハウンド。この事件はしっかり記録に残すし‥‥絶対に悲劇で残しはしないよ!」
 シフールにしては弁の立つシルヴァーナが語り部らしくハウンドの到来を喧伝して回る。村を守って、戦場の記録も残し自分の役目も果たせる。まさに一石二鳥。
「さて、さっそく作戦会議に入った方がいいですね。時間も無いことですし」
 そうだ、村人との挨拶もそこそこに、防衛の準備を始めなければならない。シャルル・ムーフォウは話が進まず苛立ってしまう前に事態を進めることを選んだ。正しい判断である。

 そして始まる作戦会議。
「女子供、それに家畜も逃がすならどこかへ集まってもらえばいいですね」
「確かに、その方が後ろを気にせずに戦えるのであるな」
 シャルルの意見にノワールが頷く。守りに気を取られるものは可能な限り少ない方がいい。戦いに集中するためにも。
「いざとなれば逃がすことも想定して‥‥」
 と言い掛けシャルルは首を振る。そうならないために自分たちが来たのだ。
 そして、そのための作戦会議。
「えっとぉ~」
 さっと手を挙げているリコ。
「高い柵とかぁ‥‥落とし穴とかぁ」
 間は長いが言いたいことはわかる。
「作れませんかぁ?」
 残された時間で罠を設置したい、というわけだ。
「罠とか作れるの? 凄いなぁ、僕はそういうのは苦手だよ。罠には掛かる方なんだー」
 なぜそんなことを自信満々にいうのか、エルネスト。多分料理は食べる専門、と同じ感覚で言ってる。
「ん~」
 首を振るリコ。
「リコはぁ、やり方よくわからなのでぇ‥‥やる人のお手伝いしたいですぅ☆」
 ということらしい。
「罠なら、ライトニングトラップを設置しよう」
 とディオンが軽く手を挙げる。
「じゃあ、こっちはオクトパストラップを」
 ならば、とコニーも名乗り出る。
「トラップピットを」
 と控えめにシャルルが。
 どうやら罠的なものは魔法でなんとかなりそうだ。この辺りはハウンドの面目躍如、といったところだろう。
「じゃあ、作るなら柵だね! 僕もそういうのは得意じゃないけど、防衛戦に柵はつきものだし」
 シルヴァーナも手伝う気は満々だ。
 というわけで、防衛のための工作のはじまりはじまり。

「じゃあ、ここにオクトパストラップ、でいいかな? 畑を荒らすようで申し訳ないけど、背に腹は代えられない」
 設置地点の畑の土を手に取り、コニーが呟く。
 いい土だ。耕してきた村人たちの苦労が伝わってくる。
 故に、絶対に守らねばならない。
「そうなると、こっちはこの辺だな。範囲的にはどんなものだろう」
 歩測しながらディオンもトラップの場所を決める。
「カエルが来るならそこを越えてくるかもな。トラップピットはその辺にしたらどうだ?」
「そう‥‥ですね」
 土地の地形を確認しながらディオンはシャルルにも意見を述べる。
 同種族からの話となるとかなり警戒してしまうシャルルだが、的確な意見には賛同せざるを得ない。
「では、こちらからも。その辺りでライトニングトラップにかかれば、あそこの高台から弓などで狙いやすいですよ」
 とシャルルも狩猟経験からの提案を返す。
「設置場所にも何か目印があった方がいいな。うっかり味方がかかってしまったら元も子もない」
 そうディオンが言い掛けた時だ。
「な、なんなのー! リリィはたべてもおいしくなんてないのよー!」
 声が聞こえる。明らかにリリィ。
「ああ、あっちの壺ですね」
 コニーが設置したオクトパストラップの方だ。
「何をしてるのであるか、リリィ?」
 とノワールが手を伸ばし壺の中からリリィを引っ張り出した。
「このつぼとってもいごごこちがいいのよ! でもクマがいて‥‥」
 中を見れば、野生の熊が心地よさそうにゴロゴロしているではないか。
「いやー、ダークジャイアントトードとか詳しくないので。絞って誘えればいいんですが」
 と頭を掻くコニー。
 こうやってウッカリ別のモノが掛ってしまう可能性もあるが、そこは目を瞑るしかないようだ。
「誘えれば‥‥ですか。なるほど」
 その言葉に、シャルルは何か思いついたようである。

 そして、村の方では。
「よいしょぉ☆」
 運んできた木材やら家具などを重ねていく村人たち、リコもそれを手伝っていた。
 本格的な柵を作る技術も無いため、こういう応急的なもので対応するしかない。
「ちょっとそっちの方が低いんじゃないかな? そこの椅子をこっちにもってきた方が‥‥」
 空から進捗状況を確認し伝えるシルヴァーナ。力仕事は苦手なシフールでもこういったことくらいはやれるのだ。
「うんしょ‥‥うんしょ‥‥」
 リコもよく働く。
「いやー、嬢ちゃん、小さいのに大したもんだなぁ。ハウンドってのはこんなちっこい子でもなれるのかい? 嬢ちゃんまで戦うのかい?」
 と村人に言われてしまう。
「リコはぁ‥‥大人ですぅ☆」
 髭を剃った異端オブ異端のドワーフなだけで、小さい女の子に見えてしまうのだろう。正直、戦闘になったら大丈夫なのか、と村人が心配になるのも頷ける。
 ここはやはり村人を鼓舞する者も必要な気がするが‥‥。
「篝火、用意できた? ありがとー」
 と、エルネストは村人に協力を仰いで、篝火を用意してもらっている。
 カエルどもが押し寄せるのは昼間の内ではあるが、夜まで戦いが長引けば灯りは必要になるだろう。
「大丈夫だよー、獣は火に弱い! これ基本」
 どーんとふくよかなお腹を、いや、胸を叩くエルネスト。
 ジャイアントトードには別にそういった特性は無く、根拠など無いのだが、とにかく自信満々に言われると信じてしまう村人たちであった。
 そう、ハウンドの存在は少なからず村人たちにも勇気を与えているのである。

 出来る範囲で防衛の準備は進む。
 後は‥‥奴らを迎撃するまでだ!

◆ダギト撃滅戦
「お、やってんな!」
 箒に乗って駆け付けたハヤト・アステールの眼前では、先行していた白キ翼の二人とベンディッカ・ブラステリーの駆るグリフォンが縦横無尽に動き回っていた。
「ん、なんだありゃ」
 ベンディッカが大きく迂回しダギトの背後を取ろうとするのが見える。しかし、その動きを追うようにダギトの眼球がぐるんと回った。
「ああ、カエルの眼ってあんな風に動くよな。デカくてもカエルはカエルか」
 などとハヤトが感心していると、ダギトの巨体がびょーんと跳ねるではないか。
「ぬぅっ!」
 後ろから仕掛けようとしたベンディッカが慌てて軌道を変更。
 巨体は、ずしーん、と音と土煙を立てて着地する。
「おい、どんな感じだ?」
「あの巨体ならば、と思ったでござるが、どうしてなかなか動きが俊敏でござる」
 ハヤトの問いに態勢と息を整え直しベンディッカが応える。
 だが、的は大きい分、攻撃は当たることは当たるのだ。
「効いている手ごたえがほとんどないんです」
 とリーリエは手にした矢を上から投げ落として見せるが、刺さることは刺さる。だが、痛みを感じている様子などはない。
「ちょっと当たってみた結論としては‥‥魔法の武器じゃないとダメだ、とかじゃなくて、単純に皮と脂肪が厚いだけ、ってところかな」
 ロザリーがそう補足する。真っ先に辿り着いて交戦してみた収穫はあった。
 正直、彼らだけでは厳しい。
「とにかく、今のジャンプみたいなので移動されたら厄介だぞ。地上の奴らが来るまで、ここに足止めするぜ!」
 やるしかない。ハヤトは箒では不利だ、と放り投げると、そのまま空中にふわり、と立った。スカイランニングの力だ。
 とにかく、やるっきゃないと!

 その頃、地上組は悪路とカエルの群れに難儀していた。
「限界ね‥‥馬車は放棄するわ」
 これ以上は馬車では厳しい。その判断にアザリーは苦渋の決断を下す。
 問題はもう少しの距離を徒歩で移動しなければならない、ということだ。まだ、道中のカエルはいる。それになるべく戦力は温存したいところだが‥‥。
「なーに、乗せてもらった分は返すぜ。お前らは温存しときな」
 馬車から勢いよく跳躍し、手近なカエルに槍を突き立てヴィゾン・ザガートが見栄を切る。
「だったら僕も」
「いいや、レナも下がってろ。手出しはさせねェよ」
 自分も、と前へ出ようとするレナード・スフィアを片手で制し、ニヤリと笑う。
「なにせ、レナに手を出していいのは、俺だけなンでね‥‥っと!」
 ビシッと決めているところへカエルの舌が伸びてくる。
「効かねェよ!」
 だが、魔法と防具で固めた守りは貫けない。反撃に槍を繰り出しその臓腑を抉る。
(とはいったものの、結構数が多いな‥‥)
 女の前ではったり半分で啖呵は切ったものの、状況を鑑みるに突破は無理では無いものの、少々骨が折れそうだ。ヴィゾンは内心肩を竦めた。
「GYAAAAAAAAA!!!」
「!?」
 だが、そこへ何か別の生き物の咆哮が空気を裂くように響き渡る。
 そうだ、それは生あるものの王者ともいうべき‥‥竜の咆哮。畏怖すら覚えさせるその叫び。
「大丈夫ッスか?」
 姿を現したのはのっしのっしと歩くフィールドドラゴンと、それに跨るフェルス・ディアマントであった。
 咆哮を上げたのはその竜だろう。ビビったカエルどもは動きが鈍っている。
「今だ、ッス!」
 そして、フェルスはバッ、と手を挙げると周囲に煙がもくもくと。煙幕だ。
「駆け抜けるッスよ!」
 このチャンスを逃すわけにはいかない。ハウンドたちはその場を一気に駆け抜けるのだった。

 一方、ヴェスパーの馬車では‥‥。
「むっ!」
 突如、エルマー・メスロンが声を上げた。
「ん、どうしたんだい?」
「この道筋はまずいのである。直ぐに方向を改められよ」
「フォーノリッジってやつかい?」
 エルマーの言葉を直ぐに理解したヴェスパー。どうやらこのまま進むとかなり危険、ということらしい。まぁ、ダギトに向かうのは危険なのだが、辿り着けなければ意味はない。
「しかし、どうしたものかねぇ」
 だが、どう動くか、までは浮かばないのが現状だ。
 考えているところへ、別の馬車が駆ける音がする。
「ついて来れる? こっちのルートよ!」
 その馬車の御者を務めるマリカの声だ。
「そっちで大丈夫なのかい?」
「ええ、見えたわ、突破口が」
 何やら自信ありげなマリカ。ならば、信じて付いて行くしかない。
 だが、ここにもやはりカエルの群れが‥‥。
「ならば、突破口を開くのはやはり私の役目だな!」
 そう叫んで駆け付けたのはアリシア。
「では、わたくしもここまでですわね」
 と、エウロも馬車から飛び出す。
「ちょっと、無理なんじゃないかぃ?」
「まだ、切り札を切っておりませんわ」
 エウロはここまで馬車を守るために奮戦してきており、かなりダメージを負っている筈だ。
 だが、心配するヴェスパーを制し、彼女が切った切り札は‥‥。
「―――スサノオ―」
 最後の力を振り絞る。
 そして、すぐさま振り抜いた大剣がカエルの顔面を思いっきり潰す。飛び散る体液。それを浴びながら仁王立ちするエウロ。
「ここを抜ければいけるのだろう? ならば、止まるな。道は私たちが何とかする!!」
 そう叫ぶアリシアも疲労の色が濃い。その圧倒的装甲で大きな傷は負っていないが、連戦の疲れは隠せないようだ。どうにか立っている、といったところではないか。
「‥‥ご無事で。さあ、私の馬車に付いてきて」
 食い止める仲間を背に、マリカは馬車を走らせ先導する。この道が、間違いなくダギトへ近づけるルートだと、信じて。

 そして再びダギト。
「いっけぇー!」
 巨大な舌の三連撃を全て避けきり、ハヤトが叫ぶ。
「これで‥‥どうでござるかぁー!」
 ズドン。そんな衝撃をもってベンディッカが槍でのチャージングを叩き込む。
 流石にその衝撃にはダギトも唸り声を上げ身をゆする。
 だが、それだけだ。
「ぬう、まだまだ浅いと見ゆる!」
 渾身の一撃もこの巨体にはかすり傷程度、だということか!?
 人数が集まってそれなりの攻撃を叩き込み続ければ倒すことが、出来るかもしれない。
 地上組はまだか‥‥と、視線を向けたリーリエは人影が集まりだしているのを発見する。
「でも、まだ‥‥」
 しかし、ダギトの周囲にもカエルどもがいる。暴れるダギトに踏みつぶされないように防衛線を張っているようにも見えなくはない。戦術的、というよりは本能的に動いている程度の布陣だが。
「これで‥‥下の皆さん、避けてくださいーい! ええーい!」
 そこでリーリエは何かを地上に投げ落とす。
 ドドーン―――、と轟音と共に吹き飛ぶカエルども。とっておきの武器を使ったのだ。
 その名は『群蜂雷』。爆発をするグリーヴァの新兵器‥‥らしい。
「おっとぉ!」
 その時、地上にいたアイン・クロービスは眼前で発生した爆発に驚きつつも飛んで来る破片を避けながら跳躍。そう、ホルスにより一気にダギトへの間合いを詰める。ヤバいところはこれでやり過ごしてきたのだ。
 そう、遂に地上組もダギトに辿り着いたのだ。これは、反撃開始の狼煙か!?
「リリィ、避けて!」
 だが、上では‥‥下に気を取られていたリーリエに巨大な舌が襲い来る。
 ああっ、ロザリーの声かけも間に合わないか。
「あっ‥」
「っおらぁ!」
 直撃を覚悟したリーリエの前にハヤトが割り込んでくる。
「おおっ」
 叩きつけられた舌、なんとそのままハヤトに絡みつくではない。
「なんじゃこりゃあーーーーーーーー‥‥」
 そんな叫びと共に‥‥しゅるるるるるる、と舌がダギトの口に戻っていく。
 そう、ハヤトを絡ませたまま。
 飲み込まれてしまったのである。えらいこっちゃ。
「流石にデカいな。ハヤトのヤツ、飲み込まれたぞ」
 下で見上げながらアインが半ば感心しつつ呟いた。それだけあっという間の出来事だったのだ。
「仕方ない、吐き出させてやるか」
 とは、続いて追いついたレナードの弁だ。
「内臓をぶちまけろ‥‥ルミナエクスプロージョン!!」
 ナックルで渾身の一撃を叩きむレナード。
 その一撃の前には皮膚の硬さなど無意味だ。
「うわっ‥‥」
 ぶよん、とめり込む拳。確かにダメージは与えたかもしれないが‥‥この巨体にはかすり傷ていどなのだろうか。正直効いた様子などない。
「なら、これならどうかしら―――ファイアボム」
 続けて放たれたのはアルマリアが最大火力。敵はデカいためそうそう仲間を巻き込むことはない。
 火球が直撃しダギトの皮膚が大きく歪み、そして弾ける。
「それなりには効いてる‥‥と思いたいわね。何発も撃てるわけではないもの」
「おっと、来るぜ!」
 ヴィゾンが注意を飛ばす。
 ダギトは鬱陶しくおもったのか、レナードやアルマリアに向けて舌を伸ばしてきたのだ。
「姉様」
「下がれ、レナ」
 アザリーとヴィゾンがそれぞれ舌を弾き返す。
「っ」
 だが、残り一本はアルマリアに命中し絡み取り、その身を宙へと引き上げる。今度は彼女をその口の中へと‥‥。
「そらっ!」
 いや、掛け声と共に何かが突然飛来する。
 それは回転しながらアルマリアを捉えた舌を切り裂くと、放たれたと思しき場所へ戻っていった。
「ふぅ‥」
 舌の力が緩み解放されたアルマリアは何とか着地。
「間に合ったねぇ」
 セイの放ったブーメランアックスが舌を攻撃したのだ。
「よし、勇者の出番はここだな」
 馬車からエクスらも降り立ってくる。どうやらマリカの馬車も最前線に到着したようだ。
 今度こそ、今度こそ反撃開始‥‥か?

 また別の一団がダギトの近くまで辿り着いていた。
「こっち、カエルに、気付かれない、ように、静かに」
 ソレイユの先導にリコとセヴランのディスミゼル解析組もダギトとの戦いが良く見える位置へ。
「ソレイユ君のお陰で無駄な戦闘無くここまでこれたね。ありがとう」
「礼は、必要、無いです。もし、解呪、出来るなら、無為な、殺戮は、控える、べきと、思います」
 リコの礼にソレイユはそう言って首を振る。
 確かに今繰り広げられている戦闘はかなり大変そうだ。やらなくて済む戦いならそれには越したことはないし、無駄にカエルたちを倒す必要もないだろう。
「ですが、戦闘を見たところ、正直解呪に繋がるようなヒントは中々ありませんね」
 と肩を竦めるセヴラン。
「最初に話していた中で何か試せることはないかなぁ」
「水をかける、とか」
 とセヴランが言ったところで、ダギトにブレードofローレライでの一撃が叩き込まれる。ナイン・ルーラの攻撃のようだ。
「‥‥アレで水をかけたことになるかはわかりませんが。あまり意味がないかもしれませんね。それが条件ならばそもそも雨でも降ればすぐに解呪されるでしょうし」
 自分の仮説に首を振るセヴラン。
「あと、今試せるのは‥‥やっぱりさっき話した‥‥キス、とか?」
「アレ、ですか‥‥可能性が無いとは言えませんが‥‥ううむ、そもそも誰が試すんですか?」
「僕らはここで観察が必要だし‥‥」
 カエルの呪いを解くにはキス‥‥というプランだが実行者が必要であり、戦闘しているハウンドたちにやってもらうか、それとも‥‥。
「ない、です」
 二人の視線がソレイユに集まる、が、それを感じた瞬間に彼女は全力で首を左右に振る。
 どうにもこうにも戦闘の観察で得られる所見は無さそうだ。
「やはり、容赦なく、叩き、潰す、しかない、ですか」
 こうなったら倒すしかない。ソレイユも二人を残しダギトの元へ駆け出すのであった。

◆オーキ村防衛戦
 迫りくるカエル軍団。
 果たして、オーキ村に集いしハウンドは村を守ることが出来るのか!?
「来たよ! 1、2、3‥‥ええと、とにかくいっぱい!」
 空から偵察し、状況を伝えるシルヴァーナだったが、数えるのを止めた。数が多いのだ、一匹二匹違ったところで何が変わるわけでもない。全て倒してどうにかしのぎ切るしかないのである。
「よし! 入った!」
 グッ、と拳を握るディオン。
 敵が数匹、ライトニングトラップにかかったのだ。カエルがその身を痺れさせ、その場で硬直したように動かない。
 ならば次にやることは一つ。
「たっぷりと矢をお見舞いしてやるからな」
 矢をつがえたヒゴユミの弦をかき鳴らせば、矢は弧を描き、カエルに突き刺さる。
 当然、それだけでは倒せないが。
「これで‥‥どうだ」
 コニーの放った矢が続いて命中。
 しかしまだ倒せない。
 中々に厄介だ。
「これで‥‥とどめです」
 だが、近づいて繰り出されたシャルルの槍に貫かれ、最初の一匹を討ち取った。
 これを続けていけば、どうにかなる‥‥か?
「あっちからも来たよ!」
 そういってフェアリーボウからシルヴァーナが放つのは火矢だ。
 命中。そして‥‥ほのかに炙られるカエル肉のにおい。
「ぐぅー」
 エルネストのお腹が鳴った。戦闘中に鳴らすとは大物である。
 それはさておき、別の咆哮からカエルが来るのも想定済みだ。
「そこもライトニングトラップだ」
 ディオンがニヤリと笑う。
 またもバチン、とカエルがビリビリストッピング。
 だが、別の個体は感電せずそこを抜けてくる。
「ですが‥‥壺の誘惑には抗えない」
 そこだ、とコニーの拳にも力が入る。抜けてきた個体は興味深そうに壺の中へと入っていった。そういうカエルは放置しておいても問題はないだろう。
 だが、少しずつ押し寄せるカエルの数が増えていることも確かだ。
 そうなると、感電に耐える個体もいるし、オクトパストラップもその内満員御礼になってしまうだろう。
 そこで、何かがカエルたちの前に飛び出した。
「よーし、いい子です」
 それはシャルルが繰り出したガーゴイルである。
 石像のようなそれは、カエルたちの前でわちゃわちゃ動いて挑発すると‥‥一目散に逃げだした。
 それをぴょんぴょんと追いかけるカエル。
 ドスン―――。
 突如、カエルの姿が消えた。いや違う。穴に落ちたのだ。シャルルの仕掛けたトラップピットが、そこにはあった。
「さぁ次です」
 シャルルの期待通り、次の相手を求めガーゴイルはカエルの前へ。囮になって落とし穴へ誘導するのがそいつの役目なのだ。万が一穴に落ちたら「戻れ!」と命令し手元に戻すことが出来るので無茶は効く。
 とはいえ、穴の場合は這い出てくる可能性も高い。可能な限り出来る足止め、と考えた方がいいだろう。足止めしたものは仕留めねばならない。
「ぬん!」
 ノワールの振り下ろす大太刀がカエルを切り裂いた。
 このオーキ村に駆け付けたハウンドの中でヴォルセルクは彼とリコの二人だ。それだけ、接近戦での負担は集中してしまう。
「厄介であるな」
「だいじょうぶよ、ノワールがけがしないように、いっぱいいっぱいいのってあるんだから!」
 彼の頭上でリリィが勇ましく小さなフェアリーボウを構えていた。
「いや、リリィよ無茶するものではない。皆と後方から援護するのがよいであろう」
「ううん、ノワールのちかくのほうがあんぜんよ!」
 と言って聞かない。
「またきたわ! えーい!」
 魔法の罠の間を突破してきたカエルに向かい、小さな体を目いっぱい使って放たれた矢は意外としっかり突き刺さる。
 そこへノワールの斬撃が降ってくるのだから相手はたまらない。
「罠のお陰で相手をするのが少なくて済むのであるな」
 今のところ戦線は効果的に機能していた。

 だが、中には村の近くまで辿り着くカエルもいるわけで‥‥。
「カエルさんはぁ。通せんぼですよぉ~☆」
 村の前には急ごしらえの柵。そして、その前に立ちはだかるのがリコだ。
 間延びした喋りとは対照的に俊敏なフットワークで接近。舌の三連撃を回避するとカエルの顔面にナックルを叩き込んでみせる。
「パァ~ンチですぅ☆」
 そう言った時には既に殴り終えていた。
 更に解放されるエクスプロージョン。
「あ~れ~?」
 だが、カエルは倒れない。
 リコの攻撃では少々パワー不足か?
「そーい!」
 そこへエルネストが放った矢が突き刺さり、とどめを刺した。
「大丈夫?」
 問い掛けるエルネスト。
 だが、なんか間が空き‥‥。
「あぁ~、大丈夫ですよぉ~☆」
 ポンと手を叩き、合点がいった様子のリコ。
 なんか、ずれてる。大丈夫かホントに?

 そんな戦いが続き‥‥続き、続き。
「えいえいえーい!」
「どうしたのであるか?」
 突然石を拾って投げつけだすリリィ。
「ヤがなくなったの。でもいしでえんごするわ!」
 訪れる消耗。
 特に矢は無くなっていく。拾い集めている余裕など、まだ無いのだ。
「もうガーゴイルは出せないですね。まぁ、どちらにせよあの有様ですが」
 もはやつぎ込む魔力も無くなり、動かぬガガを手にするシャルルは、頼みのトラップピットによる落とし穴のほとんどが発動してしまい、中でカエルがもがいているか、中のカエルを踏み台に脱出する個体もいたり、とほぼ機能しなくなっている。
「時間稼ぎにはなってるんじゃないですかねぇ」
 それはコニーのオクトパストラップも同じこと、壺はほとんど満員御礼である。
「畑を荒らすな! っとー!」
 畑の上でぴょんぴょんしだしたカエルをロングロッドでぶっ叩いて弾き飛ばそうとするコニー。
「そっちはダメだ!」
 そこへディオンの叫び。
「!」
 咄嗟に反応したコニーはそこで踏みとどまる。どうにか身体が動いてくれた。
 バチバチっとカエルが痺れライトニングトラップの餌食となる。
「矢が無いとあそこまで行って攻撃は出来ませんね。まぁ、痺れ続けてくれるのならばいいのですが」
 とシャルル。
 可能ならば痺れ続けていて欲しい。心底そう思う。
 長い戦い。ハウンドたちの被害はかなり少ないが確実に疲弊している。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
 そして、エルネストのお腹も限界だ。
「お肉だぁ‥‥」
 カエルたちがお肉に見える。
「ダメですよぉ~」
 カエルにダッシュしかねないエルネストを止めるリコ。こういう時は結構素早い。
「これは歴史に残る消耗戦だね‥‥僕もこのダーツの出番かな」
 戦場の記録を残すどころではない。シルヴァーナも矢を使い切り、小さなダーツでどこまでやれるだろうか。

 そして‥‥。
「柵がぁ、破られちゃいました~!」
 あまり悲壮感の無い声でリコが叫ぶ。
 急ごしらえの柵が遂に破られてしまったのだ。このままではまずい。
「無念であるが、女子供だけでも逃がすであるか‥‥リリィ、伝令を頼めるか」
 その状況に、最悪の事態を想定するノワール。
 だが、リリィは首を振る。
「ううん、むらのひとたちもがんばっているわ!」
 いや、まだだ。
「みんな、篝火は持ったね!」
 村人から食料の補給を受けたエルネストが先頭に立って鼓舞する。
 立ち上がる村人たち。ハウンドの奮闘は彼らに勇気を与えたのだ。
「おらたちの村を守るんだ!」
「そうだ、ハウンドさんたちだけに良い格好はさせねぇよ。行ってくるぜ、かあちゃん!」
「あいよ、しっかりやるんだよ。終わったらカエル料理さね」
 敵がそうであるように、味方もそうなのだ‥‥数は力である。
 農具などを手に、カエルどもを追い払いだす村人たち。
 その姿にハウンドも負けてはいられない。全ての力を振り絞る‥‥そして戦いの結末は!?

◆ハーラ村に光あれ
 戦って、戦って、戦って。
「はぁ‥はぁ‥」
 動き回りつつカエルを引き付け矢を放つアステ。やることが多く、息が切れる。
「ま、まだ‥‥」
 だが、止まることは許されない。
「っ!」
 しかし、手が止まる。矢筒に伸びた手が。
 矢が、足りない。
 突っ込んでくるカエルを回避し‥‥反撃をどうする!?
「アステちゃん、はい!」
 エアが矢をトス。
「!」
 キャッチし、すかさずつがえる。
 まだだ、まだ戦える。そして、戦わなければいけない。
「こっちも矢が怪しいなぁ」
 ぼやくアキ。
 だが、だからこそ、その一矢で確実に成果を挙げねばならぬ。
「ん」
 その時、崩れた家の隙間から怪我人をフォローするイッヌの姿が見えた。
 そして、わずかに見えるカエルの姿も‥‥。
「まずいな」
 多分、カエルに気付いていない。
 声を掛けるか? いや‥‥それよりも。
 いつの間にかアキは素早く矢をつがえていた。
 そして狙うはカエルが見える僅かな隙間。
 ヒュッ―――と放たれた矢は、がれきの隙間を抜けて見事命中。
「今の内だ!」
 そして、今叫ぶ。
「よし、肩を貸そう!」
 と羊の誘導を終えたゴンスケも戻ってきて避難を手伝う。
「あっちだ」
 連れて行く先には目印のように程よい高さで浮遊するフラールが待っていた。常に飛んでいられるというのはこういう時に誘導役として便利である。
「こっちだよー、ついてきてー」
 何故かフラールの後をついていくと殆どカエルに遭遇しない。なんでだろうか? きっと、めちゃくちゃ運がいいのだ。シフールだし。

 そう、多くの村人を避難させ集まっている場所が村の一角に出来つつあった。
 そこへ辿り着いたパライソは状況を確認すると素早く次の行動へ。
「よし、火を起こさなくっちゃ。寒い時期だしね」
 オーディア島よりは温暖なウーディアだが、まだ季節は冬真っ只中。屋外に長時間いれば寒いだろう。村人たちの状態を鑑みて、彼らの為に必要な策を講じる。
「大丈夫なのかのう?」
「おい、お隣さん、無事だったかい?」
「かーちゃん、お腹空いたぁ」
 とりあえずカエルから逃げ、やや落ち着いたものの村人たちの不安は大きい。
 そこへもたらされるのは‥‥あまりよくない報告だ。
「ケロケロさんー、接近してますー」
 サレナの声だ。
 どうやらこの避難場所まで近づいているらしい。
 その報を聞いたセシリオは、アレックスにアイコンタクト。尻尾をピンと伸ばし、静かに頷くアレックス。
「ここは私たちが引き受けます。ですから‥‥」
 とカエルとレナの間に割って入る二人。
「わかった。ここは任せるよ!」
 馬に乗っているレナが行った方が早いだろう。
 ならば、とレナはその場を二人に任せ避難場所へと向かう。
「邪魔だよ!」
 いちいち倒していられない、ハンマーで邪魔なカエルをぶっ叩いて弾き飛ばすと、スピードを上げた。がれきが散乱する村の中を巧みな手綱捌きで駆け抜ける。
 そして、いち早く避難場所へ。
 そこでは‥‥。
「とおせんぼだよー!」
 小さな体を目いっぱい開いてカエルを通せんぼしようとするフラール。
「任せて下がってなー! いけ、アディ!」
 フラールを手で制すとゴンスケは鷲のアディにカエルを突かせる。
 小さな普通のカエルなら餌にすることもあるだろうが、このサイズは食べられない。だがアディは勇敢に自分の何倍もある巨体へ突っ込んで行くのだ。
「こっちからも来たのですよ」
 別の方向からも来る。
 ずっと癒し効果のあるメイスと魔法用のCROSSを手に治療に回っていたイッヌも弓矢に持ち替えて戦闘に回らざるを得ない。
 手が、足りない。
「やらせるかよ!」
 走って来たアキが体当たりでカエルを強引に吹っ飛ばす。
「痛っ‥‥正直こんなことはしたくないけどな」
 どうやら矢が切れているようだ。獲物を前に自分の身体を張って挑まなければならないなんて狩人にあるまじきこと。
「だけど、今はそんなこと言ってられない」
 前衛が足りていない。ならば癒し手よりも自分が前に出なければ。
 総力戦なのだ。人とカエルの。
「ヤバっ‥‥」
 だが、カエル二匹に挟まれる。一体どこまで持たせられるか!?
「お待たせ!」
 そこへ蹄の音が聞こえる。
「はいよー!」
 レナは走り込みざまにハンマーでなく馬でカエルを踏み潰すと、仲間や村人を守るように立ち塞がった。
 彼女の加勢でどうにか避難場所に近づいたカエルを片づける。
 そして、村内の状況も落ち着いたのか、ハウンドたちも一旦合流だ。
「よっし、みんないるな。一回ずつ小突いておくかぃ」
 仲間の無事を確認しゴンスケは安堵して、彼らに向けメイスを構える。回復のために。
 これでどうにかなった‥‥のだろうか?
「うーん、なんだか嫌な予感がするわね‥‥」
 とアクスがこぼす。
 その時、フライで偵察をしていたサレナが声を上げた。また、だ。
「ケロケロさんー、第三波、きますー」
 来る、カエルが三度。
「くそっ、無事な矢を集めておくか‥‥」
 このままではジリ貧だ。アキはすぐさま使えそうな矢を拾いに走る。
 今出来ることを為すしかないのだ。
 そして、アクスにはもう一つ嫌な予感が、あった。
「うう‥‥うちの家系、カエルと相性が悪いのよね‥‥」
 浮かぶは、兄の顔だった。

◆巨獣戦線
 ダギトとの戦いはどうなってしまうのか?
「今です、エクスさん」
「おおっ!」
 ナインが繰り出した水の刃の斬撃に続き、エクスが太刀を全力で振り下ろす。
 あった、手ごたえが。それでも間髪入れずサンダーマンモスの牙を突き立て感電を狙うが‥‥これは効かない。
 と、その時だ。
「のーっ!」
 ダギト怒りの舌攻撃。それはしっかりとエクスを捕らえ‥‥。
「嫌な予感がしてたんだぁーーーっ!」
 ごっくん。
 ‥‥‥‥‥‥。
 だが、戦いは続く。
 今日何発目だろうか、爆発はダギトの身体を傷つけるが‥‥やはり倒れない。
「タフな殿方は好ましいけれど‥‥こういうのはどうにもそそられないわ‥‥撃ち止めね」
 どうやらアルマリアのファイアボムも最後らしい。
 足りないのだ、圧倒的に、火力が。このままではジリ貧になりかねない。
「!」
 そこへ、矢が飛来する。
 それはダギトの身体に深々と突き刺さり、巨獣を身悶えさせる。
「待たせたねぇ」
 矢を放ったのは、ヴェスパーの馬車。そこに搭載されたバリスタだ。そして、その矢こそドラゴンなどの大型モンスターを倒すために使われる大型の矢『ドラゴンアロー』である。槍としても使えてしまうような代物だ。
「てぇー!」
 それだけではない、更にその後方から何か塊が飛んで来る。そう、石だ、それも人の手で抱えなければ持てないようなサイズの石である。それが勢いよく飛んできてダギトに直撃する。
 こちらも攻城戦などに使われるカタパルトだ。
 規格外の相手だからこそこういった武器が生きるのである。
 だが、運ぶのも大変だ。マリカの先導がなければここまで運ぶことは出来なかっただろう。そして、それだけの戦果がある。
「見るッス、嫌がっているッスよ!」
 フェルスが叫んだ。
 どうやらダギトもこの攻撃は堪えるようで、避けるように跳躍した。
「逃がすな、脚を狙うんだ!」
 ここはなんとしても畳みかけたいハウンド側。
 アインは攻め時だ、と仲間に声を掛け、自ら真っ先にダギトの着地点へホルスで跳ぶ。
「そこはいただく!」
 そして、グリーヴァブレードの鋭さを以って、ダギトの後ろ脚の腱を素早くかすめ斬る。
「畳みかけるわね」
 更に、馬車から外して連れて来た馬を駆り、アザリーがランスを突き立ててる。
 もう一度飛び跳ねようとしたダギトが脚を引きずるようなするではないか。
 間違いなく攻め時だ。
「「せーの!!」」
 ここぞとばかりに叩き込まれるマリカとレナードのエクスプロージョンを伴った拳。
 それが、引きずられたダギトの脚の骨を軋ませ。
「これで‥‥砕けろぉぉぉ!」
 降ってきたのはフェルスの振るう鉄槌、インパルスハンマー。その衝撃たるや、大地すら揺るがすか。
 ゴッ―――。
 何かが砕ける音。
 そう、ダギトの脚の骨が砕けたのだ。この巨体を支える脚が。
 故に‥‥その身はぐらつく。
 一気呵成に攻める時!
「こっちにも‥‥竜殺矢はあるんです」
 今度は空だ。
 ずっと温存していたドラゴンボウを展開させるリーリエ。
 狙うは‥‥ダギトの眼!
「っ!」
 だが、ダギトとて簡単にはやらせない。開いた口から舌がリーリエに襲い掛かる。
「そこぉ!」
 セイが放ったブーメランアックスが舌の一本を撃墜。
 だが、残りの舌や矢を構え無防備はリーリエに迫る‥‥避けられない!!

 そんな時‥‥。
「な、なんだかよくわからないが‥‥」
「お、おう、とりあえずこの辺をぶっ刺してやれ」
 暗い闇の中でもがく二つの影。
「こんのやろー!」
「正義の刃を受けろ!」
 ダギトの腹の中、直接刃を突き立てるのはハヤトとエクス。
 その攻撃が効果をもたらしたのか、リーリエに向かった舌は途中でへにょんと力なく垂れ落ちる。
「やぁー!」
 放たれたドラゴンアローが見事ダギトの眼に突き刺さる。
「ゲゴォォ!」
 呻くダギト。
「ナイス、リリィ!」
「続くでござる、シャフト!」
 とロザリーとベンディッカが同時にグリフォンを駆り、ダギトへとチャージング。
「ゲガァァァァァァ!!!」
 天に咆哮するかのようにダギトの口が大きく開かれた。
「待ってたよぉ、この時をぉ」
 時は来た。
 カタパルトに対し合図を出すヴェスパー。
 そして、放たれたのは石ではなく。
「え、おい、なんか入ってきたぞ」
「火がついてない?」
 ダギトの口から這い出ようとするハヤトとエクス。
 だが、口から別の物体が入ってきて‥‥。
 ドゴーーーン―――。
「「ぎゃあああ!」」
 爆音。震天雷の名を持つ爆弾。
 そして、ダギトの口から盛大に爆発と‥‥誰かの悲鳴が漏れる。
「やった‥‥か!?」
 スローモーションのようにひっくり返って倒れるダギト。
 遂に倒した‥‥のか?
「レナ! 油断するな!」
 否、苦し紛れに振るわれる巨大な前足。
 咄嗟にレナードを守ろうと立ったヴィゾンが軽々と宙へ吹き飛ばされる。
「まだ、舌も動いてる!」
 手近な者を襲わんと蠢く舌。
「最後、仕留めます」
 だが、伸びた舌は跳躍してかソレイユがサイズを一閃させると根元から切り裂かれ、その勢いを失うのだった。
 遂に、ダギトはその動きを止める。
 ハウンドが勝利したのだ!

「でも、犠牲は大きかったッス‥‥」
 フェルスが首を振る。
「ああ、アレじゃあもう‥‥」
 爆弾を口にねじ込んだ張本人であるヴェスパーも反省し、悲しみに暮れていた。
 勝つには勝った。だが、失われたものも大きく‥‥。
「か、勝手に、こ、殺すな‥‥」
「せ、正義の‥‥ちからぁ‥‥」
 ボロボロの男たちがダギトの口から見事生還してみせたのである。
 そう、後は‥‥呪いをどうするか、だ。

◆そして平和へ
 ダギトを倒したことにより、その影響は確実に出ていた。
 オーキ村では。
「そして、遂に、カエル軍団の襲撃は途絶えた。きっと、仲間たちがやってくれたのだ‥‥っと」
 シルヴァーナの記録にはそう残されている。
 突如としてカエルたちの侵攻が途絶えたのだ。
 それは、ダギトが倒されたタイミングと同時のことであった。
 これにより村は守られたのだ。一人の犠牲者も出さず。
「おっと、勝利に喜んで走り回るのはよしてくれ。ライトニングトラップを全部解除するまではな」
 ディオンは喜びに沸く村人たちにストップをかけるのだった。
 そして、平和が帰ってくる!

 ハーラ村でも‥‥。
「ケロケロさんがー、散り散りになっていきますー」
 と、サレナから報告が入る。
「ふー」
 地面に降り立ち小さな大の字になるフラール。その役目を十分に果たしただろう。
 だが、まだまだやることは多い。
「おまたせーですよ」
 と最初に助けた子供から怪我の手当てを始めるサレナ。
 回復手段や、医療知識のある者はこれからもフル稼働だ。
「みなさん、これはお借りします」
 とセシリオが持ってきたのは、壊れた村の倉庫にあった薬草の類だった。それを調合して薬を作るつもりなのだ。
「すいませんが、湯を沸かしてください」
「わかった」
「あいよ、手伝うよ!」
 安全になれば恐怖で竦んでいた元気な村人たちもテキパキと動く。ハウンドの負担も減るだろう。
「カエル肉、茹でるのもいいのです」
 その様子を見ていたイッヌの脳裏にそんな考えと、お腹を空かせていそうな兄弟たちの姿がよぎる。
 だが、直ぐに現実に立ち戻り治療を再開。
 今は村人の治療が最優先だ。そういうのは後回し。村の被害は甚大だが、幸いなことに犠牲者はいなかったのだ。
 そう、ハーラ村の平和を確保したのだ、楽しいことは、この後、ゆっくりとやればいい!

 さて、問題はディスミゼル。
「色々観察はしましたがこれといった答えはでていませんね」
 とセヴランが首を振る。
 だが、観察しながらリコと色々と話はしていたようで。
「やっぱり口が関係ありそうな気はするんだよね。なのでまずキスで呪いを解くパターンを‥‥」
「それは、やらない、です」
 半ば戯言のように言っていたことを再び口にするが、それはソレイユがノータイムで拒否する。
「いや、解呪のためなら、と試してみたけどダメだったみたい」
 リコが首を振る。
 どうやら倒れているダギトにやってみたらしい。
「ベタに美味しく食べてみるか、または蛇とかに食べさせてみるか‥‥共食いなんて手もありそうだけど」
 とリコは続ける。
「カエルの肉はなかなか美味らしいんだよぉ。鶏肉に似てねぇ」
 そういいながらヴェスパーがバリスタで撃ち込んだ竜殺矢をダギトから引き抜きながら言う。
「あ、このまま焼けそうだね」
 と矢を抜き難い部分を切り取れば、矢の先に肉が残り、このまま火にかけれそうである。
「どっちにしろ食べるつもりだったし、焼いて食べよう。それで解呪されたら他の実験とか無駄なことしなくていいだろうし」
 そういって火の準備を始めるレナード。
 傭兵らしく合理的な考え方ともいえる。
「だったら、せめて美味しく料理しましょう。姉様、精がつく料理にするから待っていて」
 とアザリーがテキパキと料理の準備を始める。
 丸焼きにするのも合理的だが、やっぱりもっと美味しくなった方がいい。

 そして、ハウンドたちはダークギガントトードの解体に取り掛かる。
 それは、クジラの解体よりも難儀な、大変な苦労を伴うものであった。
 厚い、重い、だるい、疲れた――不平不満の声はわんさと出る。しかし、実際にはその声のほとんどは、どこか浮かれたものであった。勝利の余韻と、ごちそうへの期待。これは当然の通過儀礼なのだ。
 やがて解体は完了。さて、そのお肉の美味しいこと美味しいこと――皆が、腹いっぱい食べ、もちろん村人にもふるまわれ。
 塩漬けにもされたし、干し肉にもされた。誰もが浮かれた気分で、その喜びを分かち合った。
 まるで世界は白い幸せに包まれていたかのようだった‥‥いや、事実、そうであったのかもしれない。
 なぜならその後、ダークジャイアントトードはこの地上から、全て消え去ってしまっていたからだ。全てが食べつくされてしまったかのように‥‥。
 でも、ダークでないジャイアントトードは、当然、各地に残っている。彼らもしばしば脅威になるだろうが、しかし、彼らもまた、その肉を欲するコモンからの脅威にさらされることだろう、こんなオイシイ伝説が流布されてしまっては‥‥。



 23

参加者

d.…デカイな…。
アイン・クロービス(da0025)
♂ 33歳 人間 ヴォルセルク 陽
a.うう…うちの家系は蛙との相性が悪いらしいけど…兄さん大丈夫かな?
アステ・カイザー(da0211)
♀ 27歳 人間 カムイ 水
サポート
c.上等だ!上から踏み潰してやんぜ!!空中への攻撃を挑発して引き受けるな!
ハヤト・アステール(da0375)
♂ 23歳 カーシー(中型) ヴォルセルク 風
b.じゅるり
エルネスト・アステール(da0381)
♂ 21歳 カーシー(大型) カムイ 火
a.よろしくなのです。
イッヌ・アステール(da0440)
♂ 23歳 カーシー(小型) カムイ 陽
a.げこげこ!
ゴンスケ・アステール(da0465)
♂ 25歳 カーシー(小型) カムイ 水
a.わふぅ!村人たちを守りましょう!
アレックス・パーリィ(da0506)
♂ 28歳 カーシー(大型) ヴォルセルク 地
a.此方へ向かいます。簡易であれば、手当もできますので。
セシリオ・レヴナント(da0545)
♂ 28歳 ダークエルフ ヴォルセルク 水
a.大変! 助けないと……! 誘導はまかせてねー!
フラール(da0547)
♂ ?歳 シフール パドマ 水
d.馬車を出すわね……。近づきがたい光景だけど、覚悟を決めるわ。
アザリー・アリアンロッド(da0594)
♀ 29歳 人間 ヴォルセルク 月
d.ダギト討伐に向かうッス、…何人前のお肉になるッスかね?アレ
フェルス・ディアマント(da0629)
♂ 22歳 カーシー(大型) ヴォルセルク 地
d.アザリーとなら、どこまでもイけるから。
アルマリア・アリアンロッド(da0672)
♀ 35歳 人間 パドマ 火
c.グリフォンを駆って、空から仕掛けていくよ。
ロザリー・アルベール(da0704)
♀ 21歳 人間 ヴォルセルク 陽
b.広範囲にライトニングトラップを仕掛けるつもりだ。
ディオン・ガヴラス(da0724)
♂ 25歳 ダークエルフ マイスター 風
b.時間稼ぎにしかならないでしょうが、オクトパストラップを仕掛けてみます
コニー・バイン(da0737)
♂ 23歳 人間 マイスター 月
c.ロ、ロズと一緒に、空から親玉……元凶?を狙ってみます……!
リーリエ・アルベール(da0816)
♀ 21歳 人間 カムイ 風
f.ふむ、突貫して道を作ればいいのか…
アリシア・コリン(da0927)
♀ 29歳 人間 ヴォルセルク 地
b.オーキ村防衛戦…きっちり物語にするためにみんなで生き残るよ!
シルヴァーナ(da1215)
♀ ?歳 シフール カムイ 月
d.さて、やるか。
レナード・スフィア(da1217)
♀ 26歳 ダークエルフ ヴォルセルク 火
d.こちらも馬車を用意したわ。良かったら使ってね。
マリカ・ピエリーニ(da1228)
♀ 29歳 人間 ヴォルセルク 火
d.やッたろうじゃねェか。
ヴィゾン・ザガート(da1240)
♂ 34歳 人間 ヴォルセルク 地
g.解呪の方法を調べるが…どこから手を付けるか。リムカするだけではきっと―
リコ・ポートマン(da1336)
♀ 23歳 カーシー(中型) カムイ 月
a.一番危険が迫っているここから護るよ。
レナ・ゴールドマン(da1337)
♀ 23歳 カーシー(大型) ヴォルセルク 陽
g.解呪方法は気になりますね。見つけられると良いのですが。
セヴラン・ランベール(da1424)
♂ 26歳 ライトエルフ マイスター 風
f.邪魔する輩は全て排除して見せましょう。
エウロ・シェーア(da1568)
♀ 38歳 カーシー(大型) ヴォルセルク 火
a.必ず助けるぞ。援護、救助が必要ならば駆け付ける。
アキ・フィッセル(da1584)
♂ 24歳 人間 カムイ 水
b.無いよりはマシでしょう。罠と、手当などの準備くらいはします。
シャルル・ムーフォウ(da1600)
♂ 30歳 ダークエルフ マイスター 地
d.あそこまでデカけりゃもう攻城兵器持ち出してもいいくらいだねぇ。
ヴェスパー・ベント(da1605)
♂ 36歳 カーシー(小型) カムイ 風
サポート
d.よし、堅実に地上を進もう! と言う訳で、馬車に乗せて下さいw
エクス・カイザー(da1679)
♂ 30歳 人間 ヴォルセルク 火
サポート
f.ではでは、私と下僕が道を切り開くので、蛙の屍を越えて逝けなのです。
アンカ・ダエジフ(da1743)
♀ 26歳 ダークエルフ パドマ 水
サポート
b.えんごとかしてみるわ!
リリィ(da1748)
♀ ?歳 シフール カムイ 陽
b.必ず死守する!して見せるのである!
ノワール・トゥーナイン(da1749)
♂ 29歳 カーシー(大型) ヴォルセルク 風
a.わたしはわたしの出来る事をーですねー
サレナ・フランセット(da1754)
♀ 21歳 ライトエルフ パドマ 風
a.僕はここで普通の治療かなぁ。キュアティブ覚えてたら良かったんだけど…
パライソ・レヴナント(da1777)
♂ 53歳 カーシー(小型) カムイ 火
c.グリフォンライダーの名に恥じぬ戦いを致したき所存。
ベンディッカ・ブラステリー(da1791)
♂ 40歳 ダークエルフ ヴォルセルク 陽
d.なるべく、戦わずに、すむ、様に
ソレイユ・フォリー(da1795)
♀ 22歳 カーシー(小型) ヴォルセルク 陽
b.えっとぉ?…カエルさんはぁ、通せんぼですよぉ~☆
リコ・マウリオラ(da1831)
♀ 19歳 ドワーフ ヴォルセルク 火
d.さて、ハウンドとカエル、どっちのド根性が勝るかね!!
セイ・ローガン(da1834)
♀ 41歳 ドワーフ ヴォルセルク 火
 よーし、お前らさっさと駆けつけて救ってこい!
ジークフリート・マクール(dz0002)
♂ 33歳 人間 ヴォルセルク 風


なんか、ヤバいのが出て来たぞ。

場所はウーディア東部。現れたのは‥‥なんだ、アレ? とにかく、ヤバい、黒い、デカい。明らかにボスだよなぁ‥‥。