オープニング
◆クリスマスに向けて
──揺れていた。
「ほらよ、シフールとパラ、メシだ食え」
シフールのガーベラと、隣にいる少年の前に、皿が出される。
中はカリカリに焼いたベーコンと、チーズたっぷりのパンだった。
「く、ひとをゆーかいしといて‥‥く、くえるかー!」
平衡感覚におかしさを感じながらも、叫ぶガーベラ。
「美味しいよ。これ」
パンを頬張る少年、かすかにとがった耳はパラのもの。
パラは放浪しており、俗に小人族と呼ばれるエルフィン(妖精族)だ。
小柄かつ童顔で、10代はじめに見えるが、内面も──10代初めらしい。
「食べないなら、全部食べちゃうよ?」
パラはそう言って、残りを平らげようとする。
「ま、またんか! ふりっく、うちもくうで」
ガーベラは屈した。ふりっくはパラの名だ。
(落ちたな)
皿を出した覆面の男はにやりと笑った。
(クリスマスが楽しみだ。友たちに最高のプレゼントになりそうだ)
「おかわりも──あるぞ」
しかし、ガーベラは、ここ──おそらく船の中から──逃げられないか、一応考えている。
窓はなく、部屋の壁はかなり厚いらしい、そして、扉は表から鍵を閉められている。
◆ガーベラを待ちながら
「はあ、シフールの迷子ですか」
港町ウラートにある、宿屋のダンナはそう言った。
ガーベラを探しているハウンドたちにうなずきかえす。
そもそも、迷子扱いされるガーベラは、この宿屋でハウンドたちと合流して、海賊退治におもむく予定だった。
しかし、待ち合わせは昨日──しかも、この宿屋は貸し切られている。
「お互い大変ですね、うちのロクデナシも行方不明なんですよ」
後ろに少女がいた、目ざといハウンドはパラだと見抜く。
「あ、失礼。わたし旅の歌い手リィナです。パラなのです」
結婚できる年齢では外見上ではないが、パラだという前提があれば、成人していると察することもできる。
「うちのダンナ──フリックもいい年して、シフールと頭の中は変わらないので、意気投合して、どっかに行ったかもしれませんね」
リィナの夫に関する評価もひどい。しかし、ガーベラに関しては全面同意するハウンドたち。
「このへんで『子供』遊べそうな場所ありますか?」
問うリィナに、ダンナは子供には、と断言。
「じゃあ、ここには?」
とある貴族が貸し切りにしている、とダンナは返す。
言うそばから、港の方から、四頭立ての馬車がやってくる、
降りてくるのは、ケバケバしい衣装に身を包んだ肥満した男。
彼は用心棒というか、ゴロツキを幾人か従えていた。
「おかえりなさいませ、ピエールさま」
ピエールと呼ばれた男からは、タールなどの船特有の匂いがした。
ウィンクして囁くリィナ。
「ちょっと船と宿屋を、のぞきに行きませんか?」
彼女は笑みを浮かべた。
確かに宿屋を貸し切っているのに、船に行くのは相応の用事があるのだろう。
しかし──短絡しすぎな気がする。
ダンナは聞かないフリ。
「貴族様の用心棒が何人かいるからな。怒られるなよ」
そう忠告はしてくれた。
──ハウンドののぞきが始まる。
選択肢
a.君の名を呼ぶ | b.用心棒に聞く |
c.宿/船を覗く | z.その他・未選択 |
マスターより
成瀬です。ガーベラ、とパラのフリックさんが消息不明です。
なお海賊退治は、皆さんがここにいるかの背景です(実際に戦闘するわけではありません)。
さて、覆面男は何を欲しているのか‥‥きっと、重度のショタコンなのでしょう──ガーベラも?
ともあれ、みなさんの活躍がないと、大変なことが起きるでしょう。
選択肢は大雑把に補足します。
君の名を呼ぶ
思いっきり大きな声で行方不明者の名を呼びましょう。
用心棒に聞く
宿にいる貴族の用心棒なら何か知っているかもしれません。貴族さまは会ってくれないでしょう。
宿/船を覗き
犯罪ですよ‥‥多分。見つかったら怒られます。
では、皆さまのアプローチを期待して、参加をお待ちしています。
登場キャラ
◆プロ意識って──おいしい?
「だよね~!」
極悪趣味貴族であるピエールの周りにいる、用心棒──もとい、山賊に聞き込みをした、
リザ・アレクサンデルは、納得せざるを得なかった。
「これこれこーんな感じのシフール見かけなかった? みんな知らないって言ってて困っててさ」
シフールか?
チロッとリザの方を見る、用心棒。
脈あり、と見たリザは用心棒が、動くのを期待して、話を続けた。
「‥‥大事な手紙を受け取る予定だったのに、困ったなあ‥‥どこ行っちゃったんだろ?」
本当に大切な手紙をシフールには託さないだろう、と言われてしまう。
「うんうん。僕もそう思うよ‥‥ひとりしかいないみたいだけど、不用心じゃない?」
「お楽しみなんだ。俺はカードで負けているから‥‥」
用心棒は言って、近くの路地裏の方に視線をやる。
そこからは嬌声と、肉と肉が打ち付けあう音がした。
アルマリア・アリアンロッドと、
アザリー・アリアンロッドのふたりが、4人相手にイイコトをしている。
ちなみにアザリーの色々なところをみて、アルマリアは『若いっていいわね』と言ったとか言わないとか‥‥。
リザが誘導した、見張りはひとり、という発言を聞いて、
アシュラス・オボロと木の人形型のガーゴイルが忍び込む。
(我の知っているピエールであれば)
アシュラスが知った名前のピエールならば、コモンを食うシュミがあるウーディア領主だ。
宿を貸し切りにしたのは、その特殊なシュミゆえ。
それは、
ガーベラが、食事に供される可能性を意味した。
(急がねばならないのである、待ってろよ)
◆幕間──時間との戦い
一方、港の方の
アリー・アリンガムに焦点を合わせよう──。
彼女はパーストの魔法で、過去を見ようとしていたが、時刻を厳密に指定できないと意味がない。
その為、フリックを最後に見たところから遡って、過去を見る。
しかし、肝心なところにたどり着く前に、買い食いをしているフリックの姿を見ただけにとどまった。
パーストは早送りは出来ない、必要以上の時間を使ってしまう。
「徒労ですわね‥‥」
やはり、絞り込みの条件をもう少し、多くするべきだったか‥‥。
ともあれ、船への潜入の成果を、アシュラスにテレパシーで伝える。
(成功しました。ガーベラさんもフリックさんも無事です)。
◆海へいこうぜ──あるいは、おかずユンタ
(宿は逃げませんが、船はいつでも逃げられます──こちらから調査を始めますか、アシュラスさんの言いたいことも分かりますが‥‥)
思考する一方、
ベドウィール・ブランウェンは、夜陰に乗じ、見張りのひとりを気絶させる。素手にミタマギリの魔法を付与したのだ。
このミタマギリは音もたてず、相手を昏倒させうるので、かなりラクだ。
周囲をチェックすると、こちらは見張りは少ないらしい。
船乗りのふりをしながら、べドウィールは入り込み、手当たり次第に部屋の扉をひらく。やがて、表に南京錠のかかっている扉を発見した。
「──フリックさんいますか? ガーベラというシフールはいますか」
押し殺した声で質問する。
「ふたりともいるよー」
これはフリックの声。
「あ、べどはん、おるでー」
ガーベラだ、間違いない。
「無事なようで、何より。みんな心配していますよ。静かに。今開けます」
しばし、安堵したべドウィールは、言って、針金を取り出すと、器用に南京錠を開ける。
「無事なようですね。逃げましょう、フリックさん泳げますか?」
「まあ、本気を出せば泳げると思うよ。うん、なんとかね」
フリックははっきりしない返事だが、泳げないと見たべドウィールは、プランを切り替える。
「さあ、船乗りのふりをしましょう」
言って、べドウィールは、飲みかけのビールのジョッキの中身を服にかける。
「酔っぱらいの相手は誰もしませんからね」
納得したフリックは、同じことをした。
「ああ、いっちょうらがよごれるで」
ガーベラは形だけおこなった。
◆風のゆくえ──だから、ぼくらは
(我が輩はピエールの書きかけの書簡を手に入れた。証拠として持ち帰るので、宿で落ち合おう)
アシュラスはアリーに自分の首尾を伝える。
そして宿で一同は合流する。パラの夫妻も無事を喜びあう。何だかんだで、関係はいいらしい。
たぶん、おそらく、May Be‥‥?
「しばらく、あの用心棒どもは足腰立たないわ」
アルマリアが宣言した。肌がつやつやしているように見えるのは、気のせいだろう。
「あと半日は無理ね」
アザリーは神秘的な笑みを浮かべて、その言葉の信頼性を補強する。
「こちらかの報告は、ピエールの関係者のリストを持ち出せたので、ハウンドギルドではなく、我と助けた夫妻の名で詰め所に出しておくのである」
アシュラスがやったことは、合法ではないので、ハウンドギルドの名を使って出せる筋合いではない。
しかし、港の役人から話が回れば、ピエールの関係者も捕まる──と、気軽に思いたいところ。
遠い道のりだが、アシュラスの美意識がなければ、ピエールを殺害しておしまいにしたかもしれない。
それでも、アシュラス自身の矜持がそれをさせないのだ。
「船内はひと通り見ましたが、他の捕まっている人はいないようです」
自身の成果をべドウィールは報告した。
「やっぱり、こういうことをさせたら、ウィールの右に出る人はそうそういないよね♪」
ちゃかす様なリザの言葉にべドウィールは目を細める。
「リザ、人聞きが悪いです。素直にほめたほうが、傷は小さいですよ」
「ウィールの方も、否定はしないんだ?」
いたずらっぽくリザは言う。
「剣が得意だから、人殺しは得意だと、お褒めの言葉を頂戴している心境です」
そのベドウィールの言葉に、とどめとばかりにリザは。
「やっぱり、否定‥‥しないんだねウィール?」
「くどい」
べドウィールは断言した。
◆明日に向かって、セーリングフライ!
「それにしても、くわれるところとは、おもわんかったわ。めしはえろう、うまかったさかい」
ノンビリしたガーベラの意見に目を背けるアシュラス。
(生きていればこそ言える意見であるな)
「まあ、こういう事もあるのだから、もう少し自分の身は自分で守るのである」
言うアシュラスの方も、聞くガーベラに、この言葉が届くのは生きていればこそ、と考えてしまう。
「せやな。うっかりたいへんなとことになるんやったな」
「アリーさんはお疲れ様でした」
べドウィールはアリーにフォローを入れる。
「そう言っていただけると嬉しいですわ。パーストだけに頼るのは‥‥まぁテレパシーもありますけど」
「お互い月属性は大変です」
「せやな。つきぞくせいは大変やな」
と、ガーベラ。
「ああ、たいへんやった。はよう、ろーれっくのまちに、かえらんとな」
「オチを言ってあげようか? 忘れてるみたいだけど、これから海賊退治があるんだからね?」
リザのその言葉に、ガーベラは心底げんなりした表情を作るのだった。
「そうね、海賊は10人くらいローストにしたいところね」
アルマリアが言うと、アザリーもうなずく。
「きっと、たのしいわ、姉様」
本当に嬉しそうな、表情である。まるで──恋に恋する乙女のような。
──ゆえに、ハウンドの戦いは‥‥つづく!
9
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参加者
| | b.お供するわね。
| | アザリー・アリアンロッド(da0594) ♀ 29歳 人間 ヴォルセルク 月 | | |
| | b.用心棒と遊んでくるわ。
| | アルマリア・アリアンロッド(da0672) ♀ 35歳 人間 パドマ 火 | | |
| | b.おじさn…おにーさん、ちょっとちょっとー
| | リザ・アレクサンデル(da0911) ♂ 23歳 人間 ヴォルセルク 水 | | |
| | c.ちろっと過去を覗き見しましょう♪
| | アリー・アリンガム(da1016) ♀ 29歳 人間 パドマ 月 | | |
| | c.船の方を。…隠密行動はそこそこ得意ですが、覗きとは?(解せぬ顔)
| | ベドウィール・ブランウェン(da1124) ♂ 27歳 人間 ヴォルセルク 月 | | |
| | c.のぞき…もとい潜入作戦ならまかせろ。
| | アシュラス・オボロ(da1803) ♂ 43歳 ダークエルフ マイスター 風 | | |
ガーベラ消息不明!?
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ウラートで、ハウンドのガーベラが、待ち合わせに来ない。どこかで迷っているのか、それともウラのある事か? 謎は深まるばかり。あと、パラが行方不明。なお、近くの宿で某国の貴族の貸し切りだそうだ。
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