オープニング
◆猫たちの夜明け
ローレックの街の朝は早い。
ハウンドギルドの野外訓練場も、明日の勇者を目指すハウンドたちでごった返していた。
そこに響く声。
「猫だー! 猫だらけだ!!」
「なんだ猫か」
大半のハウンドたちは最初はそう思っていた。
猫たちは後からも続く。
「おい、まだいるのか?」
その数が片手で数え切れなくなったころから、ハウンドは、何事かと慌て出す。
「な、なにがあったんだ?」
猫たちは次々と入ってくる。
動物に詳しいものは、このハウンドたちの訓練場に、集会を開くべく猫が乱入したのだろうと説明をした。
ともあれ、訓練を邪魔されては困るから何とかする必要があるが‥‥。
一種悟りを開いたような目で数えるものもいた。
多分、20匹はいる‥‥だろう。
もはや、言葉で表現するのは難しい。
「猫か、猫はなんとしないといけない‥‥だが、逆に考えてみよう」
何か意味深なことを言い出すものもいた。
「──猫と遊ぼう」
「モフったりして?」
そういう意見もあったが、あくまで猫の嫌がらない範疇で、となる。
こうして、3つの派閥に分かれた。
『鍛錬派』は、猫と戯れることで、猫と遊びながらの訓練を。
『餌づけ派』は、猫たちを餌づけする訓練で。
『なりきり派』は、猫の思考、動きをコピーする訓練だ。
中にはシフールのガーベラのように──。
「ひゃっはー、ウチはかぜになったでー」
飼い猫と思われる猫、その背にまたがり、暴走しているものもいた。
猫との交流に訓練に変更‥‥ともあれ、だ。この場にいるものは、訓練を終え、朝飯には間に合うようにしたい。そう強く願っている‥‥はずだ。
この程度の事、ハウンドには朝飯前のハズ、文字通り。
──ハウンドの朝練が始まる。
選択肢
a.鍛錬派 | b.餌づけ派 |
c.なりきり派 | z.その他・未選択 |
マスターより
成瀬です。ローレックの街近辺が舞台な、ちょっと毛色の変わった特訓です。
『鍛錬派』は、猫と戯れることで、己を高めようという派閥。
『餌づけ派』は、猫にゴハンをあげる派閥です。食材や道具は要持ち込み。
『なりきり派』は猫たちの形態模写に、目覚めてしまった派閥です。
では、ご参加お待ちしています。
登場キャラ
◆第1章:彼と彼女の戦場
「わーん、ねこじゃらし生えてないよー! じゃあ、体当たりでとっくんだ!」
言いながら、シフールの
ジンジャーは猫たちの群れに体当たり。
なお、ネコジャラシ(正確にはエノコログサ)は、オーディア島で見かけるものだ。
とはいえ、実際に実をつけるのは夏以降となるだろう。
「あそんでいるんじゃなくて、たんれんだよ。こみゅにけーしょんって、だいじだよね」
そう、ジンジャーは主張する。
「しょうぶや、じんじゃーはん」
先ほどから変わらず、飼い猫らしい猫にまたがった、
ガーベラ。彼女はジンジャーに突撃をかます。
「あたらなければ、へいきだよ」
ジンジャーは、ひらりとかわし、満面の笑みを浮かべるのだった。一方、ガーベラの相棒にされた猫、そのオス猫に向かいガーベラは今一度、シフール専用スキルの動物語で指示を出す。
「つっこむんや!」
簡単な指示を了承したのか、またもや突っ込む猫。どこか楽しそうな表情を浮かべている‥‥そう、ジンジャーには見える。
「ひゃっはーや!」
意味不明な単語も、猫は──楽しむことに決めたようだ。
◆第2章:それはもっとも危険なワナ
「ちょいまち、とまるんやー!」
ガーベラの絶叫だが、1テンポ遅かったようだ。
目の前に何かがある。
猫の向かう先には3つの壺があった。
その壺に猫たちが群がる。ある個体は猫パンチをし、別の個体は壺の縁に前足をかけて、横倒しにする。
そして、中に入ろうとするのだ!
「あれー、やめてよー! くらいよー、せまいよー、こわいよー!」
猫に襟首をくわえられ、引きずられていくジンジャー。彼は半泣きだ。
「ひゃっはー! とつげきや」
一方、ガーベラのテンションは、今朝は妙に高いのだ──いや、いつもの事だ。
この壺を仕掛けたのは誰だ? それは彼だ!
──
クローネ・コーチャン、その人である。
「くくく、楽しいでしょうねえ。さあ、遊びましょう」
口元こそ笑っているが、朝日の逆光でDGSの奥は見えない。
「さあ‥‥これを」
腰の革袋から、『白い何か』を取り出す。
それはゆでた鶏肉だ。
「さあネコチャンたち、ゴハンです。どうぞ、召しあがれ」
壺と肉とで、猫を釣るのだ。餌づけッ! やらずにはいられないッ!
◆第3章:ヒューマンと猫
「猫がこんなに‥‥ヘヘ。最高だよ!」
もふもふの猫たちを見つめる、
エルノ・ライネ。
「‥‥ふふ」
その隣側には、笑みを浮かべる
アメリア・トラウトの姿もあり。
「でも、こんなに猫がいたら掃除とか大変だよね。でも、いいよ! 実にいいッ!」
エルノのテンションもうなぎ上りだ。
一方、猫と彼を交互に見て、ほほえみ続けるアメリア──。
「可愛いですね。なついてくれると、嬉しいのですが‥‥エルノさんは本当に可愛いのが好きですよね」
そういう彼女の言葉に対し、返ってきたのは。
「うん大好き。アメリアも好きだよね」
エルノの完全肯定の言葉だった。それには、アメリアも賛同する──もちろん、心の底から、だ。
猫サイコー!
◆第4章:集いしものたち
「干し肉なら、ありますが‥‥猫にあげるのはクローネさんの様に鶏肉とかがいいでしょうね‥‥」
アメリアの懸念に対して、大丈夫とエルノは返す。
「多分、刻んで、下ゆでして──で、塩気を抜いて柔らかくすれば‥‥」
エルノの言葉は正論。しかし──。
「それって、あまり大丈夫じゃないのでは?」
苦笑いを浮かべたアメリアが思うのも納得な、エルノのアイディアだった。
「燻製の豚肉あるけど──これも猫には良くないから、アメリアの干し肉と一緒に塩抜きするとして──こっちの山羊乳は手を加えなくても、きっと大丈夫だよ」
エルノの言葉にアメリアは破顔一笑。
「そうです──それなら」
猫は集まっていく。
「楽しみましょう。この壺は‥‥いい壺ですから」
とはクローネの発言だ。
「では、始めましょうか‥‥我らの宴を」
◆第5章:ネコネコカワイイ
そう言って、ふたりの会話に加わるクローネ。
そう、壺の正体はクローネが成就した魔法の産物。その魔法の名はオクトパストラップ!
狭いところが好きな者は引っかかるという。
「カワイイネコチャンを前にすれば、同好の士は歓迎です」
言っているクローネの足に猫が体をすりつけている。一瞬目を細めるが、向き直って発言。
「私は以前学習した通り、餌づけを楽しみましょう。これは──魔法の訓練です」
魔法の訓練ならば仕方がないだろう。
クローネいわく。この訓練場は街のそばで、危険も少ない‥‥はず。
なら魔力を限度まで使う──限界を知るのも訓練になるはず、そう主張した。
アメリアは、何となくだまされたような気持ちになる。しかし、ここはあえて乗る。
‥‥かかったワナは吹っ飛ばすのが、ハウンドの流儀‥‥という人もいるかも。
それに──猫はかわいいのだ。ありとあらゆる論理、百の議論をも上回る。
◆第6章:餌づけ、という本能
「さあ、お食べ──でも、ゆっくりとね」
エルノは訓練場にある水場にて、燻製肉と干し肉を刻み、塩気を抜いてきたものを出す。
一部の猫たちは、肉より差し出した手の方に興味があるらしく、そちらをなめだした。
「くすぐったいなぁ」
何匹かのチャレンジャーな猫が肉をかじる。どうやら、こちらの反応はあまり良くない。
おそらく、噛み切れなかったのが原因のようだ──塩抜きしたが、まだ硬かったのだろう。
「ほらほら、こっち」
一方で、アメリアは指先に山羊乳をつけて、猫たちの上で軽く回す。
伸び上がる猫たち。やはり、動くものには反応する。
「もう、限界ですね」
可愛さにアメリアはノックアウト寸前。なので猫たちの口の届くところに手をおろす。
ざらざら。
「あらあら、おっきい子より、ちっちゃい子にあげますから。がっつかないのですよ」
母性本能全開だ。
「さあ──ゆで汁を飲むのです。ゆっくりと冷ましたのですから‥‥そう、猫舌のみなさんのために」
クローネは言いながら、鶏肉のゆで汁を猫たちに馳走する。
仔猫にも老猫にも優しい。
まさに一番人気だ。
猫たちはクローネの足元で転がり、腹を見せ出す。
「おやおや、撫でてしまいますよ」
ぐりぐりとお腹を刺激するクローネ。その顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。
「ここですか‥‥ここがいいのですか──だらしない子ですね、ならば考えがありますから」
クローネの探求は続く。
◆第7章:いつかどこかの朝練で
その頃、シフールたちは──。
壺にはまった相棒の猫を引っ張り出そうとする、ガーベラとジンジャー。
「でてこんかー! まだまだウチらとあそぶんやでー!」
言って、ガーベラが引っ張る。
「ひっぱるよ、えーい!」
その後ろから、ジンジャーがフォローに入るが、オクトパストラップの持続時間が切れ、壺はなくなる。
「「あいたー!?」」
2人はそろって尻餅をついてしまう。
そのころには猫たちも満足したのか、集まりは終わっていった。
「ばいばーい、またね♪」
お尻をさすりながら、ジンジャーは猫たちに向けて片手を振る。
「何て気持ちのいい猫たちだったのでしょう‥‥」
アメリアは満足げに猫たちを見送る。
「本当にね──でも、ここで朝練してたら、また会える‥‥そんな気がするよ」
悟り、いや確信とともに呟くエルノに対して、クローネは一言。
「待っています」
そう告げるのみだった。
次の集会はいつかはわからない。ハウンドたちは待つことしかできそうにない。
ならば待つしかない。ヒューマンの命は一世紀弱。シフールの寿命はわからない。
しかし、ダークエルフの寿命ならかなりの間、待てるだろう。
とまぁ、寿命うんぬんはさておき──いつの日か会えるであろう、猫たちとの再会を皆は願う。
◆最終章:そして‥‥朝食へ
猫の騒動が終わったのち、何となくではあるが、消化不良な感が一同にはあった。
無論、食事前なので、胃袋ではない、時間の方だ。
「あー、すかっとしたわ、またこんかな」
脳みそ空っぽな発言をするガーベラ。
「こわかったけど、どきどきしたよー」
ジンジャーが嬉しそうに応じる。
「くくく‥‥計画通り」
意味もなく含み笑いをするのはクローネ。加えてDGSのブリッジを指で押し上げ怪しさは自乗だ。
「猫さんたち帰っちゃいましたね」
少し寂しそうなアメリアだが‥‥。
「でも、楽しかったです。また、会えると良いですね‥‥猫の集会はまた、きっとあるでしょうから」
そう続ける、再開への言葉。
「せやな」
ガーベラも同意する。
もちろん、この場にいるものは皆、同意しているのだ。
そして──。
『朝メシどうしようか?』
そう、まだ朝食には微妙な時間だ。
5人の胃袋はそう主張している。
とはいえ、ハウンドの朝練は終わる──しかし、ハウンドの戦いはつづく!
8
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参加者
| | b.聞きましたよ…カワイイネコチャン…フフッ…(壺を撫でる)
| | クローネ・コーチャン(da0001) ♂ 27歳 ダークエルフ マイスター 月 | | |
| | a.わーい!ねこさーん!きたえるぞー!(猫じゃらしブンブン)
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| | b.可愛いですね。なついてくれると嬉しいんですが…
| | アメリア・トラウト(da0819) ♀ 25歳 人間 ヴォルセルク 地 | | |
| | b.猫がこんなに・・・へへ、最高!アメリア、よろしくね!
| | エルノ・ライネ(da1581) ♂ 22歳 人間 マイスター 月 | | |
『猫』
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ねこ!ねこ! ねこ! ウチ、しっているんやで。これはぜったい、たのしいで、もふもふしてんか! みんなねこに、きをつけるんやで!(ガーベラ談)
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