霧散化という、デュルガーに共通した特殊能力は、初見の相手にきちんとトドメを差すことを難しくする。
「そのデュルガーは、人を蠅に変えちゃう魔法を使っていたんだけど、その蠅にされた人々を戻す事はできなかったんだよ」
　悲しそうに当時を振り返るアーシャ。蠅化の解除は、いろいろ試したものの、効果を発揮したものはなく、蠅に変えた本デュルガーが「死ねば良いのさ。死ねば元の体に戻れる」と話した事だけが、わかっている方法であった。もちろん、試す事はなかったが。
　あれから、その被害にあった村や村人がどうなったのかというと――
「気付いたら治ってたんだって。治る直前の記憶が曖昧だから、詳しいことは村の人達もわからないみたいなんだけど、なんか恐ろしい変態？に治してもらった気がするって」
　鬼みたいなデュルガーも、恐ろしい変態も、その後に行方を追っていたが、見つかることはなかった。
　だが、鬼の方は、とうとうシッポを掴んだ。
「そうそう偶然治してくれる人が来てくれるなんてないと思うから、私達ハウンドが、なんとかしないと、なんだよ！」
　こうして、ハウンド達は、村へ調査に出向くのであった。

◆
　ムーンポータルを通ってグレコニア地方に降り立ち、そこから移動して目的の村に向かったハウンド達。
　月の出てない曇り空の下を急いだものの、村の入り口への到着が夜になってしまった。のだが、それが功を奏してしまった。
「やっと着いたね……あ、誰かいるよ。見張りとか見回りとかしてる村の人かな？　こんばんは！」
　アーシャが元気に挨拶した相手が振り返る。
　その姿は、コウモリのような羽と矢尻のような尻尾を持つ鉛色の肌の精悍な鬼と、季節を先取りした短パン上裸のマッチョメンであった。
　二者は、驚いたように叫んだ。
「なにっ！　ハウンドどもだと！」
「話が違いますぞハーさん！　まだ目立ちたくないですぞ我が輩！」
　ハウンド達があっけに取られたり、粛々と戦闘準備を始めたりする中、鬼とマッチョは慌てふためく。
「くそっ！　もっと戦力を増やしておきたかったが……こうなったら出し惜しみなしだ」
「出し惜しむも何も、一体しか捕まえていな――まさか！　我が輩もカウントしておる！？　我が輩、戦いは勘弁ですぞ！　仕える真の主も見つけぬまま、消されるわけにはいかんですぞ！」
「ええい、いいからまずは奴を出せ！」
「出したらもう隠れますぞ！　――バニッシュ！」
　マッチョが短パンの中から箱――蠅の入った小さな虫かご――を取り出すと、魔法らしきものを成就した。
　すると、蠅が一瞬のうちに巨人へと変化した。
　全身が長く白い毛で覆われた足のサイズがでかい巨人は、周囲を一瞥すると、ファイティングポーズをとる鬼や逃げ出すマッチョに目もくれずに、ドラゴハウンド達へと襲い掛かってきた。