そして、海沿いの漁村が襲われた、という報告がもたらされる。
　現地では巨大な何かが這ったような痕跡が見られたという。更に、目撃者の情報では突然海から現れたドでかい何かが村の者を喰らった、と。忘却オーラがある中で絞り出された恐怖の記憶。
　更に漁師たちからの情報によると、巨大な何かが海を移動している、と。クジラとかそういった類のものなのか、それとも‥‥。
　そんな折、襲われた村から海岸を東に向かった先にある村が襲われる。そして、更にその東の村も。間違いない、何かが海岸沿いに、移動しているのだ。
　ここ最近目撃されるスモールドラゴン。この巨大生物の正体もそうなのではないだろうか、という仮説が上がる。
　海となればウォータードラゴンだろうか。だが、漁師たちの間ではウォータードラゴンは海の守護者として恐れられてはいるももの、むやみに人を襲うような存在ではない。
　ならば‥‥やはりダークウォータードラゴンか！
　これ以上の被害の拡大は食い止めなければならない！

◆竜殺隊
　ここはウーディアの某所に置かれたハウンドギルド臨時竜殺隊出張所。
「まったく、マクールのやつめ、この老いぼれを引っ張り出すとは。対策に苦慮しているようだな」
　そう語るのは白髪の老人だ。名をセフト。
「ふむ‥‥では作戦を伝えるぞ」
　セフト老はギルドマスター・マクールの依頼によりハウンドギルド特別作戦顧問として送り込まれてきたのだ。
「先ず、ダークムーンドラゴンと思しき方じゃが‥‥荒らしまわっている範囲からするに、近々襲撃が予想されるのはここと、ここ、あとはこの辺りか。今地図に石を置いた村を警戒するしかあるまい」
　作戦といっても時間が足りないし、相手は飛び回る竜。大まかな対策を取るしかないか。
「このギルドで用意したバリスタを各村に設置しておくのだ。多くは無いがドラゴンアローも用意されておる」
　どうやらダークサイドのドラゴンとの戦いを想定してセフト老が用意させたらしい。空を舞う竜に対しては有用な装備となるだろう。
「次にダークウォータードラゴンらしき存在。これは海岸を東に向かって移動している可能性が高いな。ならば‥‥ここだ」
　とセフト老が石を置いたのはちょっとした入り江。
「ここにそこそこの規模の漁村があるようだ。ここが襲われる可能性はあろう。が、肝は漁村ではない。なんだとおもう？」
　何やら勿体つけてから。
「ここの入り江は潮が引くと完全に陸地になってしまうのだ。相手が水中での行動が得意ならば地上へ引きずり出してやればよい」
　なるべくハウンドが有利になる土俵て戦おうということだ。
「そのためには敵がこの入り江に入って来る時間を調整せねばなるまい。早すぎては中々潮が引かず海に逃げられる」
　どうすればいいのか？
「地元の漁師たちに話はつけてある。彼らと協力し敵の大まかな居場所を探り、入り江まで来る時間を調整するように時間稼ぎをするのだ」
　とても危険な任務だ。だが、それが上手くいけば水中の敵を相手にするよりもかなり楽に討伐できる筈だ。
「敵は強力だ。先ずは何としても撃退することだ。ディスミゼル出来ればそれに越したことはないが、厳しいであろう。この戦いで何か手掛かりだけでも掴めればのう」
　そして、セフト老はハウンドたちに向けてそうぼやいた。

◆月光の下で
　空を監視するハウンドたちの捜査網にダークムーンドラゴンは掛かる。
　そして予想されていた村の一つに向かおうとしてた。
　もともとそこに待機していたハウンドたちと他の村や近隣に待機していたハウンドたちが集結する。悪しき竜を討つために。
　だが、問題もあった。
「お、おい、二匹いないか？」
「ああ、確かに。一匹でも厄介なのに‥‥」
　夜が来る。
　そして、闇が‥‥迫る。

◆暗い海に
　予想通り、ダークウォータードラゴンは海岸沿いに東へと向かっていた。次なる獲物を求めて。
「見つけたぜ」
　船の上、漁師がハウンドたちに合図をする。
「ありがとう。でも漁師さんもこんな危険な仕事、大丈夫なの？」
「最初に言ったろ、俺の村はあいつに襲われたんだ。俺たち漁師が、漁に出ている間にな。そして‥‥俺の息子も‥‥」
　これは復讐でもあり。
「だが、俺たちに化け物を倒す力はねぇ。だから、せめてアンタらに‥‥託す」
　願いでもある。
　やるしかない。先ずは、時間を稼がねば。今のスピードならば狙いよりも早く入り江に入ってしまうだろう。