オープニング
◆朝露の言い伝え
夏至の頃の朝露は特別なものだ。
夜の闇に昼の熱を鎮められ、再び生まれ来る日の光を浴びた朝露には様々な効能が宿るといわれている。
傷や病を癒す力。魔法に通ずる力。その他にも様々な言い伝えがあるのだとか。
「俺が好きな言い伝えは、そんな効能が宿るのはシフールの祝福だって噂かな。あまり耳にしたことがないから眉唾かもしれないけどね」
男はそこまで語ると、それで、とようやくハウンド達に本題を切り出す。
「今言ったとおり、朝露には病を癒す効能もあると言われているんだ。そこでとある開拓村でハーブ園を営んでいるダンさんという方が、体調が思わしくない奥さんのために朝露を摘もうとしたんだけど……彼は足が悪くてね。代わりに摘んでくれないかと頼まれたんだ。夏の朝露だから……うんと早起きをしなければいけないけどね。でも人助けにもなるし、少し興味も惹かれないかな?」
どうだろうと男はハウンド達を見回す。男の話によると、前日はハーブ園の近くに宿を取り、そこから早朝に出発するらしい。
「ああ、それと採取した朝露は俺たちも貰っていいそうだよ。そしたらそれを……うん。ハーブティーにでも混ぜようか。テーブルを借りて木陰で飲むのも、きっと良いものだよ」
ハーブ園で朝露を摘むのであれば、確かにその過程でハーブティーの材料も手に入りやすいだろう。干した果実など乾燥したものは分けて貰えるとのことだから、より好みの味のハーブティーが作れるかもしれない。
最後に、噂話にやたら饒舌な男はこう付け加えた。
「興味がある人は、少しだけハーブやハーブの花を摘んで帰るといいよ。夜寝る時にハーブの花を枕の下に入れて寝ると、予知夢を得るというからね。とりわけ、未来の伴侶を見ることが多いらしい。もし何か見たら少し教えてくれると嬉しいな。楽しみにしているよ」
◆補足
今回描写する場面は、朝露摘みからお茶会をし解散するまでとなります。
場面は大まかに以下の3場面があります。いくつか選んでも大丈夫ですが、描写は分散されますので良いように選択して頂ければと思います。なお、特に注釈がなければ全ての工程に参加していた扱いで描写します。
・朝露摘み
小さな小瓶を借りることができるので、そこに朝露を溜めることができます。花や葉に降りた朝露を集めてください。
また、好きな花や葉を選んで摘む場面の描写もこちらで行います。
・お茶会の準備
ハーブティー作りと、お菓子などを作る方がいれば、朝摘みからお茶会の間は時間が空くため、開拓村の台所などを借りて簡単なものを用意することもできます。あるいは持ち込むことも可能です。ハーブは一般的にヨーロッパのこの時代にあるものでしたら用意できます。(カモミール、ローズヒップ、ブルーマロウなど)その他干した木苺など干した果実が用意されています。
ポットは一人一つ以上あるため、各々でハーブティーを作ることもできます。また、色は中に入れた素材によります。特に中身を指定せずおまかせや、赤っぽいもの、青っぽいものと抽象的な指定でも、一般的なものであれば大丈夫ですが、状況により中身をこちらで置き換える場合もあります。
・お茶会
木陰に置いたテーブルと椅子でのお茶会。ただの布ですが、テーブルクロスのようにテーブルに布が敷かれています。
テーブルは数人がけのテーブルがいくつか用意されています。
音楽を添えたり、何かを披露することは自由です。
・解散
花を持ち帰る場面はこちらで描写します。
選択肢
a.朝露摘み | b.準備をする |
c.お茶会を楽しむ | z.その他・未選択 |
マスターより
お久しぶりです。
今回は朝露摘みとお茶会の話となります。
場面が偏っても大丈夫ですので、好きな場面を好きな形で選択頂ければと思います。例えばシーンをお茶会だけに絞り、そこで既に作ったハーブティーを登場させるようなことも可能です。
どうぞよろしくお願いいたします。
※【SubEpisode05】初夏、新たなお祭り 関連シナリオ
登場キャラ
◆朝ぼらけ
「ウィール? ……って」
まだ夜の色を強く残した部屋を見て、
リザ・アレクサンデルはため息を零した。
この部屋の一晩の主は、本来であればもう起きていなければいけないのに未だベッドの中にいる。両の瞳を伏せ安らかに寝息を立てる
ベドウィール・ブランウェンの傍に腰かけると、リザはその体をゆざゆさと揺らした。
「ウィール、起きて」
「……」
「起きろって!」
「……、大丈夫起きてますよ……」
「もー…こうなるってわかってるから早めに寝たのに!」
リザはぺちぺちと頬をはたき、仕上げに布団を剥いでなんとか彼を起こすと、身支度を手早くさせ部屋を出る。
「ふあ……こんなに早く行くんですか……?」
「もちろん。だって僕達は朝露を摘みに行くんだからね!」
「空はちょっと白けてきたけど、逆に足元は暗くて危ねえからな。気をつけてついてきてくれよ」
朝ぼらけの道にランタンが揺れる。先頭を歩く
ゴンスケ・アステールが振り返りながらいうと、足元を気にしつつ
サース・エイソーアがコクリと頷いた。
「お空は明るいのに、道は夜の影みたいで……なんだか不思議」
「だからこそ、陽月に様々な伝承が生まれるのかもな。始まりと終わり、死と再生……ああ、ドール」
道や皆に気を配っていた
アイン・クロービスが咄嗟に手を差し伸べる。
ドール・ジョーカーはその手に掴まると、足元の水溜りを軽やかに越えて微笑んだ。
「ありがとう。朝露摘みは詳しくないから、こうやってみんなと一緒に行けて良かったわ」
「そっか、初めてなんだな」
「ゴンスケさんは今までにも朝露摘みを?」
「ああ、昔よく兄妹たちと取りにいったねェ。こうやって早起きしてさ」
朝の影に、ゴンスケはまだ幼かった頃の兄妹達の姿を思い浮かべる。
ここはあの時とはまったく別の場所なのに、朝の匂いは不思議と同じような気がした。
「お。丁度いい時間に着いたみたいだねェ」
一段と強くなったハーブの香りを感じながら、ゴンスケはランタンの火を落とす。
刻々と明るくなる空の下、指差した先のハーブ園には今まさに、最初の光が差し込まれようとしていた。
◆朝露摘み
準備を終えると、小瓶を手にハウンド達は早速ハーブ園へと出る。入ってすぐ目に飛び込んできた光景に、ドールは思わず声を零した。
「とっても綺麗ね。葉に朝露が降りて……まるで小さな星を散りばめたみたい」
夏を謳歌するように空へと伸びる木々や草花。その葉一枚一枚に浮かぶ朝露が朝の光を受け、綺羅々と輝いている。まるで星が降り注いだような光景を目で少し楽しんでから、ゴンスケはふんふんと鼻を鳴らした。
「いろんな匂いがするな。おすすめとかあるか? 爽やかなニオイのやつがイイけど」
「でしたら、ミントやレモンバームがいいと思いますよ」
「ウィール、目は覚めた?」
「ええ。歩いているうちに」
「じゃあウィールもやってみる? 僕が小瓶を持つからさ」
リザが小瓶を葉に近づけると、ベドウィールが朝露を転がすように葉を動かしてみる。
「そうそう、ゆっくり……」
「なかなか難しいですね」
「俺たちも回復を祈って摘もうか」
「ええ、ダンさんの奥様が早く良くなるように」
アインは周囲を見回すと、朝日を一心に浴びた花に足を向ける。
「この辺りが良さそうだな」
「あ、……お花にも露が降りるのね。これも綺麗」
ドールは花弁に指を添えると、そっと朝露を摘んだ。
「……綺麗な朝露……少しだけ分けてね」
サースも、朝日にきらきらと輝く朝露を摘む。
「早く良くなりますように……」
きっと、大切な人が病のうちにあるのは悲しいことだから。
出来るだけ朝露を集めてあげたいと小瓶に懸命に朝露を溜めていく。
病の回復を願って溜めた一瓶。そしてもう一つ。朝露が消えてしまう前にとサースは小瓶を取り出す。
辺りを見回すと、まだ多くの花葉に朝露が残っていた。その中からサースは青い花に降りた朝露を見つけると、それを少しずつ集めていく。
(まるで、明るくて優しい、夜空のような色……)
夜空の上を、まあるい粒が滑り落ちていく。音なんて聞こえるはずがないのに、あのひとが空に放った音が聞こえた気がして。
サースは思わず微笑むと、朝露を朝日に浴びせおまじないをし、一輪を優しく手折った。
「……ふふ、渡したらどんな顔するかな。喜んでくれると良いな……」
花を手に、サースは皆の元へ向かう。朝日の思い出を話すことを、また二人で歌を作ることを、心のうちに浮かべながら。
◆準備
歩き、葉の中から良いものを選び出し、採取する。
平生であればこの作業を黙々と行っていただろうが――
シャルル・ムーフォウの言葉数が普段より多いのはきっと、友といるからだろう。
「……これは」
「何か珍しいものでも見つけましたか?」
足を止めたシャルルに
セヴラン・ランベールが問う。こうして時折ハーブについてシャルルに教えて貰いながら、セヴランは自身の知識を刷新していく。
「なるほど、ハーブも種類によって随分効能が違うのですね、とても興味深いです。これがどのようなお茶になるのかも」
「実物をみた方が早いかもしれません」
シャルル達は摘み取ったハーブを丁寧に洗うと、園内に設けられた作業台に置く。
「細かくした葉に湯を注ぐということは想像がつきますが、他にも工程があるのでしょうか」
「セヴランさんらしいですね」
友の勘の良さに頷くと、シャルルは葉の一つを取り指で丁寧に揉み解す。指を動かす度、一層強くなった香りがあたりに広がりセヴランの元へと届いた。
「このように揉む方が、刻むよりも香りが強くでます」
「本来の香りを更に引き出すことができると。ブレンドすることでも変化が出たりしそうですね」
ハーブに纏わる談義をしながら、二人はいくつものポットに香りを与えていく。その香りにリザは思わず目を閉じてから、ベドウィールを見た。
「いい匂いがするね」
「そうですね。こちらも始めましょうか」
「色々種類があるけど、どうやって作っていくの?」
「まずは味と香り、何を優先するかを考え、メインを決めます。そしてメインに寄り添う、或いは活かす味や香りを組み合わせるんです」
「味は思いつかないけど……匂いはこれがいいかな?」
いくつかの花や葉の中から、自分に合うものをリザの手が選ぶ。
「リザはこういうの得意でしたっけ?」
「匂いは、かな。ほら、香水や香油に似てるし。あれもあれこれ混ぜすぎると使い所が難しかったりするからさ」
リザはうーんと悩みながらも、花の一つをウィールに寄せてみる。
「ウィールに合いそうなのはこれかなあ」
「そういうのも面白いですね」
「ウィールはやっぱり味とか?」
「ええ。調味料の一滴が味を変えてしまいますからね」
「あ、そうだ。これから焼き菓子も作るんだよね。僕も手伝おうか?」
「リザは休んでいて構いませんよ?」
「大丈夫、まだ元気だしさ」
「いえ、そういうことじゃなく……」
リザの介入を防ぐ方向で誘導しながら、ベドウィールは焼き菓子の準備を始める。
やがてこんがりと美味しそうな匂いが辺りに広がる頃。ハーブ園の隣に設けられた小さな家をゴンスケは訪れた。
軽くノックをすると、引きずる足音と共に壮年の男が扉を開ける。
「はい。……ああ、ハウンドの」
「たくさん摘めたから、早いとこ渡しとこうと思ってな。ほら」
「ありがとうございます、大変だったでしょうに」
「僕は慣れてるからさ、それと、こいつも渡しに来たんだよ」
あえて別に渡されたものにダンは首を傾げる。それは最初に渡されたのと同じく、朝露の入った瓶だった。
「これは……?」
「朝露には病を治す力があるんだよな? 病に効くなら足にも効くさね、きっと」
思わずはっとしたダンに、ゴンスケがニッと笑ってみせる。すると男も泣きそうな目のまま、ありがとうと笑った。
◆お茶会
「こんな素敵なテーブルクロス、あったでしょうか?」
ポットを手にやってきた
リーズ・ブランシェは、思わず頬をローズヒップのように染めた。
元は無地だったテーブルクロスには、
レティチェラ・サルトリオの手によってハーブの花や実が刺繍され始めていた。とろりとした瞳に映る指が淀みなく針を動かしては、模様を描いていく。
「レティチェラ、凄くお上手ですね」
「……」
「レティチェラ……?」
「……あれ? ……ああ、またや」
いつの間にか刺繍に没頭していたことに気づくと、レティチェラはふわりとリーズを見上げた。
「集中してるとつい時間が飛んでまうわぁ」
「ふふ、そんなに集中するくらい、レティチェラは刺繍が好きなんですね」
「そやなぁ。つい気持ちが傾いて……この服の刺繍も綺麗やなぁ」
「これですか? これは……」
「わ、これはすごいです」
二人が振り向くと、垣根の向こうからティーセットを持った
アレックス・パーリィと
ヴィルヘルム・レオンハートがやってくるところだった。刺繍を見たいという気持ちを抑えてアレックスは慎重にトレイを置く。
「これはレティチェラが一人で?」
ヴィルヘルムにの問いに、ええ。とリーズが言葉を返す。
「本当に凄いですよね。私もお裁縫はしますけど、凄くお上手で」
「リーズは貴族と聞いたけど、家事もやるのか?」
「家事は一通り母様から教わったのでできますが、やはり専門とまではいきませんね」
「でも、……って、アレク、何やってるの!?」
「あら?」
ヴィルヘルムの視線をリーズが追うと、アレックスがレティチェラの体を尻尾でテシテシとしているところだった。
「わふぅ、刺繍もいいけどお茶会もいいですよ?」
「ふわふわやなぁ」
「アレク!」
「あ、私はアレックスといいます」
ふわふわと答えるアレックスに、主人は仕方ないなと少し苦笑する。
「でも、アレクのいうことにも一理あるか。美味しそうなお茶もお菓子も入ったし、せっかくならみんなで話さないか?」
すっかり高くなった日の光が木漏れ日となって降り注ぐ。
レティチェラによって刺繍を施されたテーブルを囲みながら、リーズはポットからゆっくりとハーブティーを注いだ。
「いくつか淹れてみましたけど、レティチェラはどんなハーブティーがお好みですか?」
「色は見てたけど、味のことはあまり考えてなかったわぁ」
「でしたら、木苺を入れたものはいかかでしょう? 飲みやすくておいしいんですよ」
「わふ、リーズ様はどんなお茶が好きですか?」
「私はローズヒップが好きですね。アレックスは?」
「わたしも、ちょっと酸っぱいですが好きですよ」
「ふふ、同じですね。ヴィルヘルムはどうですか?」
「俺はレモンバームが好きかな。今朝は早かったし、飲んだらすっきりできそうだね」
「そうですね。みんなで朝露を摘んで……朝露のお話も興味深かったですね」
「そうやなぁ」
レティチェラが白い糸で、縫われた葉に丸い粒を乗せる。それを見ながらヴィルヘルムは呟いた。
「病を治す、か」
「きっと義父と兄なら興味を示しそうです」
「アレックスのご家族は、そういったことに詳しいんですか?」
「はい。二人とも薬を扱っていて扱っていているんです。わたしも興味がありますね。……両親が流行病で亡くなったので、本当にそういうものがあればーー」
少しだけもしもの未来を目蓋の裏に見てから、アレックスは驚いたように目をぱちぱちとさせた。気づけば皆の視線が自分に注がれている。そのことにアレックスは尻尾をゆさゆさと揺らすと、照れたようにわふっと小さく鳴いた。
「……えっと、尻尾触りますか?」
「触ってもいいんですか?」
「さっきも思うたけど……ふわふわやわぁ」
リーズとレティチェラは束の間、アレックスの尻尾の感触を楽しむ。そしてヴィルヘルムはアレックスの隣にそっと、カモマイルのハーブティーを置いた。
皆でさくりとお菓子をつまみながら、まるで花のように色とりどりのハーブティーをカップに注ぐ。それらを楽しむ時間は暖かな日のように心地よい。だからだろうか。レティチェラの指はまた、糸を躍らせるように刺繍を施し始めていた。
「手際がいいな」
「慣れてるからやろか」
「ふむ。例えば刺繍のオーダーとかもできるのか?」
ヴィルヘルムの問いにレティチェラは少し考える。
「知ってるものならできます。けど、知らないものやと難しいかもやわぁ。何か使いたいものでもあるんです?」
「俺が使うっていうよりもプレゼントにしたいなって思って。いや、逆に習って俺が刺繍できるようになったほうがいいのか……?」
「でしたら、私もぜひ習いたいですね」
「わたしにも、何か作れますか?」
「なら……」
そうして始まった刺繍教室。その和気藹々とした空気を背に、セヴランはカップに注がれたハーブティーを眺める。
「朝露の言い伝えは興味深いものでしたね。朝露を採るための早起きが、規則正しい生活に繋がり、病を治すという言い伝えになったりしたのでしょうか」
「かもしれません。……効能はさておき、快癒を願う思いはわからないでもないですね」
「ええ。……」
セヴランはハーブティーを一口飲むと、カップを見る。すると、それまで口少なにお茶を嗜んでいたシャルルが僅かに目を細めた。
「口にあいませんでしたか」
「いえ。むしろすっきりしていて飲みやすいと思いまして。これはどんなハーブを?」
「……、ローズマリーとミントです。ローズマリーは、記憶力を高めるとも言われているので。セヴランさんに良いかなと。単体よりはと思いましたが……」
そうであれと思った味を友がそのまま感じてくれていたことをシャルルは知る。そしてセヴランもまた、友が自身に合うものを選んでくれたことを知った。
シャルルとセヴランは、穏やかな従容の時を過ごす。
いくつも用意したハーブティーが、その時に彩を加えていた。
爽やかな風と、木漏れ日の下で過ごす時間。
その心地よさについドールが瞳を閉じかけた瞬間、ティーセットを手にアインが戻ってきた。
「待たせたな。久しぶりにやってみたらつい時間がかかってしまった」
「気にしなくていいわ。私は持っていただけだもの……あら」
ポットをの中を覗いてドールは笑みを零す。そこにはまるで、柘榴石のように紅いハーブティーで満たされていた。
「いい香りね。これはローズヒップかしら」
「ああ。古い友人がよく淹れてくれた。一度真似して淹れるのに失敗して以来、甘えてばかりだったが」
漂ってきた香りにアインは少し目を伏せる。
この香りを嗅ぐとき、ポットを持っているのは友人だった。けれどそれは今、自分の手の中にある。
そんな過去と今を織り交ぜた懐かしい香りと共に、アインはゆっくりと二人分をカップに注いだ。
「朝露入りなら良い効果もありそうだが……いや、ちょっと待ってくれ」
「どうしたの?」
アインは先にカップに口をつけると、すぐに眉を顰めた。
「また濃くなりすぎたな。すまない。これは俺が責任持って……」
「私はこれがいいわ」
ドールもカップを手に取ると、そっと口つける。
「一仕事終えて少し眠くなっていたの。だから、これくらいの方が今の私には丁度いいわ」
ドールの言葉に、アインもふっと笑みを漏らす。
「なら良かった。また一緒に飲めるなら……次はもっと上手く淹れられるよう、練習してもいいかもな」
目が覚めるような酸っぱいローズヒップティーを飲みながら、二人は木漏れ日を浴びて過ごす。
今日はこのポットを空にしよう。いつかまた、そこに新しい色が注がれるから。
◆もたらすもの
最後に元通りに片付けると、ハウンド達はダンに挨拶をしてハーブ園を後にしようとする。
「そういえば、ハーブには夢に纏わるものもあったな……せっかくなら皆で持って帰ってみてもいいかもな。物は試しってやつでさ」
悪戯っぽくヴィルヘルムが笑えば、アレックスもそうですねと傍らの花を摘む。
「いったい、どんな夢が見れるんでしょう」
「もし私がみるなら、遠い遠い場所に行ける夢を見てみたい。それが予知夢なら、夢が叶うということですからね」
今はまだ想像でしかないその場所を、リーズは心に描く。
「レティチェラもどうですか?」
「染料に少しあるとええね。後は……」
レティチェラは色の濃い花と、淡い花を少しずつカゴへと収めた。
「……ふふ、みんなの花、綺麗だね」
サースは微笑むと自身の手の中の花にも目を向ける。リザも気になった一輪を摘むと、隣で葉を採取するベドウィールを覗き込んだ。
「その葉っぱ、どこかで見たことあるかも?」
「これはミントですよ。料理にも取り入れられますからね」
「ハーブの効能、ですか」
「セヴランさんも持ち帰りますか?」
シャルルの問いにセヴランは、ええ、と頷く。
「予知夢にはさして興味はありませんが、香りが睡眠にも良い影響を与えてくれるのではないかと」
「そういうことでしたら……」
シャルルはハーブ園を少し歩き、ある一角で数本の花を手折る。
「紫の花弁が綺麗な花ですね」
「この花の香りは、心を落ち着かせるといいますから」
その眠りに良き介添えができるようにと。渡された花を、セヴランの手が感謝を込めて受けとった。
「私もハーブのお花をいただいて帰ろうかしら、アインもどう?」
「なら、思い出に一つ持ち帰るかな。……」
「……」
どこかぎこちないような、探るような間がアインとドールの間に流れる。先にカードを取るように口火を切ったのは、ドールだった。
「私はおまじないはしないけど……アインは夢に見たい誰か、いる?」
「あ、……いや。どんなことでも夢に見るより自分の目で見られるよう、叶える努力をするさ」
そう、と微笑むドールを見て、アインもつられて笑みを浮かべる。その時、ダンに呼び止められていたゴンスケが皆の元に戻ってきた。
「待たせちまったな」
「わふっ、いい匂いがしますね」
アレックスの言葉通り、いつの間にかゴンスケが持っている袋から花やハーブの香りがしている。
少しずつ摘まれた花はゴンスケから兄弟達へのもの。そして小さなハーブの袋は、ダンからゴンスケへの感謝の気持ちだった。
「さ、帰るとするかねェ」
昼下がりの道をハウンド達はゆっくりと歩く。通り過ぎる花葉に朝露の姿はもうない。代わりに短い夏を謳歌するような風が、ハーブの香りと共に吹き抜けていった。
11
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参加者
| | a.花によって効能や味が違う…なんてこともあるのかね?ん、お茶も楽しみだ。
| | アイン・クロービス(da0025) ♂ 32歳 人間 ヴォルセルク 陽 | | |
| | c.さて、お茶を入れたし一息しようか
| | ヴィルヘルム・レオンハート(da0050) ♂ 25歳 ライトエルフ パドマ 火 | | |
| | c.どんなお茶が好きなんですか?
| | リーズ・ブランシェ(da0166) ♀ 25歳 ライトエルフ パドマ 月 | | |
| | a.ふんふん、朝露ねェ…
| | ゴンスケ・アステール(da0465) ♂ 25歳 カーシー(小型) カムイ 水 | | |
| | c.尻尾触りますか?(わふぅ)
| | アレックス・パーリィ(da0506) ♂ 28歳 カーシー(大型) ヴォルセルク 地 | | |
| | a.なんかロマンチックだよね。ほらウィール起きて(ゆさゆさゆさ)
| | リザ・アレクサンデル(da0911) ♂ 23歳 人間 ヴォルセルク 水 | | |
| | a.…綺麗な朝露…。
| | サース・エイソーア(da0923) ♀ 20歳 ライトエルフ カムイ 月 | | |
| | a.たくさん取れるといいわね。そんなにたくさんは無理かしら?
| | ドール・ジョーカー(da1041) ♀ 24歳 人間 パドマ 陽 | | |
| | b.大丈夫起きてますよ…(むにゃむにゃ)
| | ベドウィール・ブランウェン(da1124) ♂ 27歳 人間 ヴォルセルク 月 | | |
| | b.ハーブについて学ぶ機会ですね。
| | セヴラン・ランベール(da1424) ♂ 26歳 ライトエルフ マイスター 風 | | |
| | b.こちらで準備を手伝います。
| | シャルル・ムーフォウ(da1600) ♂ 30歳 ダークエルフ マイスター 地 | | |
| | c.ふえっ‥あ、もうお茶会の時間やったん?
| | レティチェラ・サルトリオ(da1954) ♀ 19歳 ライトエルフ マイスター 陽 | | |
朝露を摘みに
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朝露に纏わるこんな話は聞いたことがあるかな?
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